PandoraPartyProject

シナリオ詳細

時よ、儚き世を刻め

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●流転する刻
 鈴の音が大気を揺らす。聞く者を魅了するその音は、遥か遠くにわたって響き、あらゆる存在を魅了する。
 揺れる影は、それだけで美の結晶を思わせる優雅なもの。近づかずにはいられまい。
 だが、それは他者時間を奪う死出の呼び声。鈴の音が声であり、声の出処が見るもおぞましい『モノ』である事実は見る者の正気を疑うものだ。
 杖が振るわれる。ヒトの女、その末期の顔を模した飾りが声を上げ、涼やかな音として耳朶を揺らす。
 『それ』の行方は滅びを呼ぶ。一歩踏み出せば花は散り、二歩踏み出せば石は崩れ消え、三歩踏み出せば生物は老いさらばえて骨と化す。崩れ、盛り上がり、また崩れる肉片はそれそのものが周囲の時間を加速させ、切り崩す終末の担い手。
 崩れかけの肉と毀れかけの骨を晒すヒトガタの奇形は、不器用に笑う。そしてまた、杖が鈴の音を――否、そう聞こえるだけの悲鳴を漏らす。
 それは他者の時間を喰らい、『老い先短い』己の人生をつなぐだけの化身である。神の写し名を与えたのは、何の冗談であったのか。

●時貪る色黒天
 緊急性の高い依頼である、とローレットに情報が持ち込まれたのはつい先程である。
 情報を確認したギルド構成員は、速やかに資料を用意し、その場の一同に向けて告げる。
「危険性の高い存在が確認された。進行は二足歩行としては遅いくらいだが、進路にある物体や生物を朽ち果てさせる非常に厄介な相手だ。」
 強く言い含められたイレギュラーズは、背筋に冷たいものを感じつつ資料に目を通す。
「最低限は説明する。あとは資料を参照してもらいたい。識別名『色黒天(しゃっこくてん)』、加速した時間の中で生きるバケモノで、他者の時間を『食う』ことで命を繋いでいる。遠間から弓や術を射掛ければ自分と周囲の時間差を利用して回避、接近すれば加速した時間に冗談じみた腕力を乗せて殴りかかってくる。ヒットアンドアウェイの戦法をとった奴は、距離感を掴む前に組み伏せられて時間を吸われ、死んだ。そういう手合いだ」
 時間を食む悪意。村を襲えば家ごと人々を朽ち果てさせ、山に入れば遠くの木々すら折れて周囲をなぎ倒し、大岩は粉と化して人々の喉を、肺を冒すであろう。
 用意された資料の外見をみれば、なるほど恐るべき姿をしている。
「以上だ。速やかにこれを撃破してほしい。……健闘を祈る」

GMコメント

 ゆく河の流れは絶えずしてなんとかかんとか。三白累です。
 今回の敵は厄介ですが、皆さんなら何とか出来ると信じています。

●成功条件
 『色黒天』の撃破

●色黒天
・本戦闘(色黒天影響圏内を指す)では副行動で位置移動をした時、その距離に応じて固定ダメージを受ける。
・遠距離及び超遠距離攻撃に対して回避性能が上がる。
・色黒天の能力により近接攻撃を行った時、互いにEXA値が上昇する。(上昇率は異なる)
 又、色黒天は至近距離に戦闘可能な相手がいる場合、再生・充填能力を持つ。

スキル
・鈴鳴りの杖(超遠神域・万能・恍惚/不吉 中ダメージ)
・肉の泥濘(近物単・泥沼/毒 大ダメージ)
・時空障壁(近神ラ・Mアタック中・飛)

 全てをひっくり返す一撃なんて特化した芸はありませんが、芸達者なバケモノです。
 皆様の奮戦に期待致します。

  • 時よ、儚き世を刻めLv:3以上完了
  • GM名三白累
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年03月15日 21時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)
強襲型メイド
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
セララ(p3p000273)
魔法騎士
主人=公(p3p000578)
ハム子
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
オロディエン・フォレレ(p3p000811)
盗賊のように抜け目ない
シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)
死を齎す黒刃
アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)
幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る
九鬼 我那覇(p3p001256)
三面六臂
シラス(p3p004421)
超える者

リプレイ

●汝、神にあらず
 遠くから風に乗って響き渡る音は、一般的な美的感覚を持ち合わせていれば、それを魅力的と思う者も多いだろう。……それが見るもおぞましい存在が他者を招き寄せる死の呼び声だと気づかなければ、だが。
「ここからでも聞こえるのか。なんだか悲鳴みたいだ」
 『異世界なう』主人=公(p3p000578)(以下、主人公)ははるか遠くでなぎ倒され、消えていく木々を眺めながら顔をしかめた。物語の主となる立場として、強大な敵に立ち向かうのは性質のようなものなのだが、それにしても巡り合う機会が早かった、とは思う。会ってしまった以上、戦って勝つまでがビジョンとして存在するのだが。
「わたしの知ってる『綺麗な音』に比べればずっと作り物っぽく聞こえて気持ち悪いよ。それに放っておいたら将来の顧客が居なくなっちゃうからね」
 『盗賊のように抜け目ない』オロディエン・フォレレ(p3p000811)にとって、大量の命を奪う敵は顧客を奪われることに等しい、という。
 大それた決意や堅固な正義感があるわけではなく、単純にお金の為。いずれ手に入れる富をその手から奪っていく相手は、誰であれ許されない。鼻先にぶら下がった成功と富を奪うなど、我慢ならない。
 ごうごうと吹きすさぶ風が、時折地面から不意に吹き上がり、女性達の足元から背後へと抜けていく。やや上昇気流気味に吹き上げたそれが幾人かのスカートを揺らしたが、被害者各位は恥じらう暇なく歩み来る脅威に向けて歩を進めていた。
(……思ったより反応が薄かったですね。あれは『違った』のでしょうか)
 『   』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)は今しがた起きた風が場の混乱に寄与しなかったことに首を傾げた。その身に宿すギフトの加護があれば、いきおい男性陣の1人くらいビンタを受けて終わると思ったのだが。
「それはそうと、時を喰らう、とはなかなか面白い相手です」
「……まさに災厄ですね」
 気を取り直したヘルモルトの言葉に、『幻想乙女は因果交流幻燈を夢見る』アイリス・ジギタリス・アストランティア(p3p000892)は宝珠を握りしめながら応じた。
 かの『灰冠のノエル』ほどの存在ではないかもしれないが、人々の脅威となるには十分だ。徐々に強くなる風に抗うように掲げた盾は、目の前の恐怖・危機を訴える本能への抵抗か。
「時間の概念を操るなんてこれまた恐ろしい敵だね」
『私とはまた違うベクトルの能力だな』
 『穢れた翼』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は戦鎌を携え、ぽつりぽつりと語る。彼女に応じる『神様』は慈悲深いのだろう。ティアは神様の言葉に異を唱えるように表情を歪めた。生きるためだけに他者を犠牲にし続けるなど、許されない。その罪を贖わせなければならない。強い意志は、恐怖に抗い彼女の背を押した。
「我輩より強い奴に会いに行くだけである」
「偽物だろうと『神殺し』だぜ。楽しめそうじゃねえか」
 『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)と『通り魔』シュバルツ=リッケンハルト(p3p000837)にとって、強敵とは己を研ぎ澄ます為の砥石のようなものだ。相手が強ければその分、自らを高める糧と出来る。脅威とは思えど、彼等の思考を埋めるのは恐怖や危機感よりも先に挑戦者としての昂りが先に持ち上がる。

 徐々に、両者の距離が狭まっていく。
 時間は何にも増して正直に、何にも増して残酷に、イレギュラーズに運命を告げるべく迫ってくる。『色黒天』の進行方向を予め見定め、待ち受ける態勢を整えられたことは一同にとって幸いであったと言えよう。
「ヒューッ! 評判通りの美人じゃん」
 遠目に見えた影は、敵意と悪意に満ちている。遠目にその姿を確認した『pick-pocket』シラス(p3p004421)が漏らした軽口を、本音と思う者はおるまい。
 醜悪。その一言で言い表される外見に、誰が美を見出すというのか。
 爛れた肌。崩れた胴。表情すら覆い隠す泥濘に凝った顔立ちは、新たな存在を見やり笑みをこぼした。……ように見えた。
「貴方のやっていることは他者の時を奪い、見苦しく命を繋ごうとしているだけです!」
 『没落お嬢様』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)は色黒天にレイピアを向け、高らかに宣言する。互いの声が聞こえているのか、その意味を理解できるのかなど、今更考えるまでもない。目の前の悪意に対し、そうしなければならぬという彼女の挟持がそうさせたのだ。
「愛と正義の魔法騎士として、この世界を守る! 色黒天、覚悟しろ!」
 『魔法騎士』セララ(p3p000273)もまた、聖剣を構え、相手を見据えて叫んだ。今この時、この相手だけは、間違いなく正義を為すべき相手、倒すべき悪なのだ。
 強制されたわけでもなく、自ら志した『正義』のあり方を示すため。
 誰にはばかることなく、各々の目的を果たすため。
 じりじりと詰められる互いの間合いが、交戦距離に至った時。矢も盾もたまらず、互いは互いを制圧するため、弾かれたように動き出していた。

●時が貴女を刻むまで
 近付くほどに加速する時間。迫る死の圧力を肌に感じながら、セララは全力で色黒天に肉薄する。おぞましい姿と臭いに顔をしかめつつ、バックラーを突き出して視界を塞ぐ。
「やるね、ボクも負けられないな」
 ほぼ同タイミングで接近した主人公は、色黒天の動きに警戒しつつ、その前進を阻むべくぴたりと至近距離に張り付き、身構える。『布陣を敷き、組み立てる』ことを最優先とし、戦闘行動を起こさない。一同の共通認識はまず、そこからだ。
 我那覇、ヘルモルト、シフォリィ、ティア、そしてシュヴァルツが続き、ほぼ隙なく色黒天を取り囲む。誰かが倒れようと、その進行を別の者が阻むために。
「AAAAArghhhhhh……」
 杖の奏でる音ではなく、色黒天自身の呻き声。誰一人耳にしたことのない悍ましき響きが鳴り響くと同時に、爛れた腕が泥濘を放つ。狙いは、ティアと我那覇。腐った肉が打ち付けられる音が響き、何かが焦げ付くような蒸気が周囲を覆う。
『甘く見ていたつもりはないが、しかし厄介だな』
 ティアの肉体の制御を請け負った『神様』は、急激に失われていく生命力に舌打ちする。肉体の自由も制限され、毒に蝕まれる宿主の姿は不自由極まりない。幸いにして、即座に致命傷になりうる手傷ではない……だが、果たしてそれは色黒天の打撃の『本領』なのか。底の見えない力は、相対する者に純然たる恐怖を植え付けんとする。
 一方で、体力に余裕のある我那覇には動揺の色はなかった。
 体表を滴る腐汁が立てる湿った音を払い落とした彼に、毒を受けた様子もなければ動きが鈍った様子も見られない。接近の直前に施した自己強化が奏功したことは揺るぎない事実。だが、それを抜きにしても負傷は重い。
「本気を出すに相応しい相手であるな」
「言ってる場合かよ!?」
 シラスは、そんな我那覇に突っ込みながらも色黒天の側方、中距離に踏み込んだ。魔力が増幅する感触を確かめながら見た光景は、想定通りの包囲陣形。色黒天の呻きが背筋を凍らせるが、魔力が巡り、その恐怖を跳ね飛ばす。
「穏やかじゃないね。ここから見てても狙いにくいっていうのがよく分かるよ……」
 オロディエンはスリングショットに指をかけ、包囲した仲間から一歩退いて状況を見守る。触れるほど近くに踏み込んだ者達は気付いていないのだろうか、と彼女は戦慄する。歪んで見えるのだ、世界が。色黒天を中心とした空間が、中心から外側へと放射状に歪み、時間がぶれているようだ。投げ込んだスリングストーンはおそらく急激に速度を増し、制御を失ってあらぬ方向へと向かってしまうだろう。
「それでも、ここで諦めたら絶対に勝てません。私達が、あれを止めなければ」
 攻撃射程に踏み込んだアイリスも、その光景を見ていた。アンデッドの『なりそこない』の陰に身を置いてもなお、その現象がもたらす圧力は重く、苦しいものだ。果たして、己の魔力は色黒天に届くのか? という疑念。それでも勝利を引き寄せるという、確固たる信念。
「実体があるんだ、殴れば倒れるさ。最後に立ってる奴が勝者だ! ビビってたまるかよ!」
 シラスが喉の奥から吐き出すように気合いをいれる。でなければ、色黒天の正面に立って攻撃を引き受ける連中に示しがつかない。今は一秒でも長く、敵よりも立っていられるために。何も考えず、増幅させた魔力をさらにさらに高めて練り上げ、渾身の一撃に変えるために。
「魔法騎士であるボクが相手だ! キミをここから一歩も通さない! ボク達が、絶対に勝つ!」
 セララの宣言は、真っ向から色黒天に叩きつけられる。名乗りに合わせて掲げられた聖剣の輝きを、邪なる魂が無視できようものか。敵意を露わにした色黒天を威圧するように主人公がじりと間合いを詰め、逃さぬように守りを固める。
「ボクが逃がすワケないじゃん。それが役割なんだからさ」
 どこか芝居がかった大仰な所作をまじえつつ、主人公は色黒天から視線を切ることはない。志向する『主人公』の姿がどうあれ、今は1人でこのバケモノを止められる器ではない。足りない器を補うのは決意だ。
「体が軽いのである、この状況、遠慮なく活用させてもらうのである!」
 我那覇の高揚した言葉とともに、六本の腕が目にも留まらぬ速度で色黒天に打ち込まれる。指先までも加速するような錯覚は、彼に2度もの攻撃の機会を与えた。次々と振り下ろされる拳のコンビネーションは、しかし返ってくる感触が異常なほどに軽かった。攻撃の軸を外され、痛打を避けている。ほんの一瞬あとに訪れる打撃ですらも、時間軸の差異で避けるというのか?
「何も見えてないフリをしてるけど、お見通し……なのかな?」
『見通しているわけではない。見てから反応しているだけだ』
 ティアの疑念を、神様が否定する。見通すほどの異能であれば、当たることなど無いはずだ。セララの挑発でさえ、柳に風と受け流しただろう。彼女らが放った近距離術式も、狙いは間違っていない。腐った肉を打つ音は、確かな響きをもって鼓膜を響かせた。
「そうです、回避などという上等なものではない、愚かしく悍ましい身悶えに過ぎません! 逃がすつもりはありません!」
 シフォリィのレイピアが勢いよく突き立てられ、確かな手応えを残す。傷をつける目的で放たれた幾多の攻撃のなか、徹った確かな感触。だが、ああ。大岩に裁縫針を突きつけたかのような無力感が心を押しつぶしに来るが、貴き者としての誇りが恐怖を塗りつぶし、もっと深くとレイピアを前へと突き立てる。
「……大丈夫、見えてる。見てるんだ、お前を……3、2、1、今」
「灯れ希望の炎! ガーネット!」
「彼の者に毒の報いを!」
  呼吸を整えたシラスのカウントに合わせ、オロディエンのスリングショットが唸り、アイリスのポーションが投げつけられる。時間が歪み、足並みを揃えた一斉攻撃をも無に帰す、と思われた。
 歪んだ時間の奥で、力なく突き立った魔弾を押し込むように莫大な魔力が叩き込まれる。燃費を度外視したシラスの魔力が、純然な破壊力として色黒天に打ち込まれたのだ。神秘と物理、いずれを問わず彼の火力を凌駕できる者はこの場には居ない。少なくとも、イレギュラーズには。
 アイリスの投げた毒もまた、確実にとまでは行かずとも色黒天の身を傷つける。間違いなく効いている。それがどれほど心もとないものであろうと、当たってはいるのだ。
「再生するまえに叩き潰す。悪ぃが、長々と遊んでやるつもりはねえよ」
「回避の技術、その底が知れれば十分です。ご奉仕の時間ですね」
 シュバルツが奇襲を仕掛け、隙をついてヘルモルトが多段攻撃により牽制を仕掛けていく。グレートソードの猛攻を苦もなく避けきった色黒天は、しかし続く拳、いわく『メイドの魔法』を避けることはかなわない。命中力に難があれども、連携である程度穴を埋められる、という事実を後方の仲間が示した。勢いと決意をもってすれば、まっすぐ突き込めば正しく当たるとシフォリィが身を持って示した。なれば、当たり前の位置に当たり前のように、流れるように力を込めるメイドの技術が駆け引きで遅れを取ることがあろうはずもなし。
 牽制打はその全てが軽やかな音を立てて腐肉を打ち抜き、確かな手応えを返す。確かすぎる感触は、涙がでるほど重く厳しい実力差を伝えてくるが、穿てぬほどではないと理解出来よう。
 腐肉が内側から盛り上がり、生き汚く再生する。
 ――そのプロセスが終わる前に、セララは大きく弾き飛ばされていた。一瞬のうちに遠ざかっていく敵。否、遠ざかったのは自分か。聖剣を突き立てて踏ん張ると、そこはもう後衛と変わらぬ距離まで引き剥がされた事実だけがある。
「それでボクを遠ざけたつもりかい、甘いよ!」
 セララは叫びとともに、今一度食い下がらんと地を駆ける。身を引き裂く時間の流れに抗い、盾にその小さい体を押し込めるようにして吶喊する。
 仲間達の足止めを無駄にせぬためにも、前へ、ただ前へと突き進んだ彼女の眼前で、腐肉の合間から禍々しい口が見えた気がした。

 色黒天が杖を振りかざす。鈴が鳴るがごとき悲鳴が響いたと同時に、『色黒天すらも』その身を引き裂かれる。
『馬鹿な!?』
 その叫びを上げたのはティアの神様。自らすらも的にかけて、近付く者達を一斉に排除しようというのか。先程の猛攻を癒やしきれてない状態で行うなど、正気ではない。
 いや、それどころか。先程までは待ちの一手だった。速度に劣り、後手に回っていたかと思っていた。だがそれはフェイクだ。色黒天は、イレギュラーズの戦略を理解しきれていなかったのだ。故に待ち構えた。セララに対する怒りを正しく発露するために、敢えて遠くへ弾き飛ばしてまで。
 続けざまに放たれた泥濘がティアの胴を強かに打ち据える。杖の悲鳴に対処できぬままに受けた打撃は、彼女の肉体にはあまりに重い。危うく運命の加護にすがりかけた彼女をつないだのは、オロディエンのポーション。絶妙なタイミングで得た救いは、イレギュラーズ達に活力をもたらした。
 まだ敗北の足音は聞こえない。
 色黒天の悪意は未だ自分達を倒すには不十分だ。
「私の前から失せなさい! 儚き命にしがみ付く、神を騙る不届き者よ!」
 シフォリィが声を張り上げ、レイピアを大きく引き絞る。
 死力を尽くして勝利を引き寄せるべく、彼らは色黒天に攻撃を集中させる。
 短期決戦の望みは、未だ潰えず。

●決意、色褪せず
「まだ、倒れるわけにはいかんのである……!」
 三つの口から血を吐きつつ、我那覇は身構えて拳を打ち込もうとする。だが、泥濘がその身を抉る方が何倍も速い。運命を吐き出してなお、三面六臂の猛攻を賭してなお、その拳が色黒天の体軸を打ち据えることはついぞなかった。……倒れる間際、力なく伸びた一本の手を除いては。
「商売の、交易の、邪魔なのよー!」
 オロディエンの悲痛な叫びに応じるように、ラブラドライトとムーンストーンの二連の魔弾が色黒天へと伸び上がる。一発はするりと脇を抜けていくが、二発目は鋭い軌道を描いて腐肉を削り取った。
 金銭にはひときわ敏感だった彼女が、色黒天の生み出す脅威、その悪意の流れを敏感に感じ取って狙いを修正していったのは冗談としか思えぬが、明白な事実として、彼女の魔弾はそ
 の精度を増していたのだ。
 すでに地を舐めたティアと我那覇の姿を思えば、退くことを考える気にはなれなかった。それは、彼女のみならず。
「攻撃が不規則すぎます……! ここまで自分を顧みないなんて!」
 焦りを孕んだアイリスの声は当然といえよう。包囲を敷いていた相手を大きく弾き飛ばしたかと思えば、僅かに距離を遠ざけた相手に杖の声を重ね、自らが傷つかぬ距離に声の射程を調整するなどの小細工もやってのける。
「全く、最初から、相手にする、には、きつ……」
 主人公の声が徐々に小さくなる。膝を付き、レイピアを杖代わりに立とうとしたが、動きが途中で乱れ、その身を地面に投げ出した。
 接近戦を挑んで、倒れずに追いすがったのはセララとシフォリィ、そしてシュバルツ。遠くに身を置いた面々も浅からぬ傷を負っているが、倒れるまでには至っていない。
 ……だが、彼らは一様に悟っていた。狡猾なこのバケモノを相手に、決意だけでは立ち向かえぬことを。倒れ、今なおその時間を吸い上げられる仲間達を思えば、無謀な突撃よりも巧緻な退却を選ぶべきだと。
 大丈夫、よくやった。十分に戦った。そう彼らを励ます者はいない。彼ら自身が、そうはすまい。
 それでも。
「いつか殺してやる! 絶対に、今度こそ! 何があっても!」
 シラスの血を吐くような慚愧の言葉が、何も残らぬ大地に響く。
 すべてが去ったあと、鈴鳴りの悲鳴は再訪を希うように虚しく、響く。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

主人=公(p3p000578)[重傷]
ハム子
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)[重傷]
穢翼の死神
九鬼 我那覇(p3p001256)[重傷]
三面六臂

あとがき

 皆さんから奪った時間よりも、色黒天が失った時間の方が多いはずです。
 その一点において、皆さんは誇ってもいいと思います。
 お疲れ様でした。まずは傷を癒やし、英気を養ってください。

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