シナリオ詳細
乙女ゲームとねこじゃらし
オープニング
つまんない。つまんない。つまんない。
昨日は友達と遊びに行って、今日はゲームに夢中でこっちを見ない。
前までわたしが一番だって言ってあんなに構ってくれたのに。
ご機嫌取りの甘い言葉もお菓子も飽きちゃった。
だからわたしはわたしを愛してくれる夢を見るの。
寝てるんだから起こさないでよね!
◆箱庭という悪夢を知ってるかい?
その世界には「箱庭」と呼ばれる夢の世界がある。都合の良い理想の夢を見て満足すればすっきりとした気持ちで目が覚めるが、満たされるまでは出られない恐ろしい悪夢だ。
「彼女はそれに囚われてしまった」
舞台は王宮の舞踏会。華やかなドレスに沢山のご馳走、流れる音楽。
本来であれば注目の的になり男性の誘いがひっきりなしのはずなのに、誰も彼女に見向きもしない。
だって彼女は。
「彼女は一般家庭に暮らす少女……の、飼い猫なんだけど、産まれた時から家族として育ったせいか自分を人間だと思ってるみたい」
だから誰も猫の彼女には気づかない。満たされない彼女はこのままでは目を覚まさなくなってしまう。
それはハッピーエンドに繋がらない。
「彼女の名前はエリー。夢の中ではエリザベートと名乗ってる。」
ふわふわの白い毛と空色の瞳を持った愛らしい猫は誰か愛してと鳴いている。
「どうやら舞台は飼い主の少女がはまっている乙女ゲームみたい。だから君たちは攻略対象として彼女を沢山構ってあげてほしい」
猫には人間の性別なんて関係ないから、肩書きはそれっぽければ何でも良いらしい。
満足するまでちやほやしてあげればじきに夢から覚めるから、彼女をどうか救ってあげて。
- 乙女ゲームとねこじゃらし完了
- NM名桃缶
- 種別ライブノベル
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年11月13日 22時45分
- 参加人数4/4人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 4 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(4人)
リプレイ
わたしはエリザベート。この国のお姫さま。
誰からも愛されるはずなのに。
つまんない。つまんない。つまんない。
どうして誰もわたしを見てくれないの?
わたしはただ、ただ、愛されたいだけなのに。
煌びやかに着飾った男女。豪勢な食事に生演奏で流れる音楽。
お城の舞踏会に参加する人間たちはみんな楽しそうに会話を楽しみ、ダンスに興じている。
その足元で鳴く小さな生き物のことなどまるで気づくこともなく。
にゃあと鳴いた白い猫。気づいてほしい、愛してほしいと呼ぶ声はだんだんと小さくなって、ふわふわの毛に覆われた耳も尻尾もしょんもりと垂れ下がっている。
そこに、すっと一つの手が差し出された。
「舞踏会! 貴女のような美しいお方を放っておくとは見る目がない! それとも高嶺の花に触れようという気概のない者ばかりでしょうか!」
片膝を床についてできる限り目線を合わせながら、『孤高装兵』ヨハン=レーム(p3p001117
)はそう憤慨した。
そうして安心させるように微笑みを一つ浮かべて見せる。
「エリザベート! 貴女に会えて僕は嬉しい! 嬉しいのだ! 貴女が沢山の人々に囲まれていたのならば取り入る隙がなく僕はすぐに帰ったでしょう! それが今こうして僕はエリザベートを独占できている! 今日は僕にとっても貴女にとっても素敵な一日になる事は間違いない! 僕が保証します!」
熱烈に、けれど優しく。ぱちぱちと瞬きを繰り返していたエリーはやっと、自分に気づいてくれる存在と出会ったのだ。
それはまるで運命の出会い。王道の展開。
「にゃあん」
エリーと同じ水色の瞳に同色の髪。頭で揺れる機械の耳と背後に除くコンセント状の尻尾がどこか安心感を与えてくれる。
エリーは思わずその手に擦り寄ってゴロゴロと喉を鳴らした。
そうよ、そうよ! これだわ!素敵な人との出会い!熱い愛の言葉!
これこそわたしの求めていた理想の・・・・・・
「にゃあ?」
撫でる手に甘えていたエリーは彼こそは忠義に厚い最高の騎士さまと称そうとしてハッと気づいた。
ヨハンの服装はメイド服。
それは彼の愛らしさを引き立てていてとてもよく似合っているが、騎士さまと呼ぶには少々違う気がする。
こてんと首を傾げて見せたエリーは、ふと同族の鳴き声を耳にした。
こっちにおいでと呼ぶ声をきょろきょろと探しながら、名残惜し気にヨハンの手から離れる。
あなたとのひと時はとても楽しかったわ。けれどわたし、他にもきっと素敵な出会いがあると思うの。
くるりとヨハンに背を向けて呼ぶ声の方へ走り出す。
そっと背後を伺えば、ヨハンは行っておいでと優しく見守っていた。
エリーがやってきたのは外が一望できる大きなテラス。淡いレースのカーテンの向こう側から彼女を呼ぶ声が続いている。
「こんばんわ」
開けた視界の先にいたのは、やはりメイドだった。白と金が混じった不思議な色の髪色に同色の猫耳。
見つめ返す瞳は左右それぞれ濃い桃色と淡い白桃色に染まっている。
「にゃあん」
わたしを呼んだのはあなた?と問うようにエリーは鳴いた。
その声ににこっと笑顔を浮かべて『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)は大きく手を広げて見せる。
「ねこがいてひとがいて、それらが一緒に遊んでいるなら、貴方がねこでもひとでもそれ以外でも、それは些末なことになるのです。さあ、私たちの仲間になりましょう?」
胡散臭いなどと言わないでーと笑いながらクーアは自身のギフトを発動させた。その瞬間エリーを囲むように淡い炎を纏った猫の精霊たちが現れる。
驚くエリーを誘うように精霊たちはみゃーみゃーと鳴き、エリーも沢山の仲間たちの姿にだんだんと心を解したのか一緒になって広いテラスを駆け回り始めた。
あっちへこっちへ追い回し合い、時には揺れるレースのカーテンを引っ張って遊び、毛づくろいでじゃれ合って、最後にはクーアの手で乱れた毛並みを整えてもらう。
「にゃあ……」
たくさん遊んで楽しかったはずなのに、エリーは少しだけ寂しさを覚えた。
何かを、何かを忘れている気がすると。
そんなエリーの様子に気づいて、クーアは眼下に広がる中庭を指さした。
音楽が遠ざかり、広がる庭は色とりどりの花で満ちている。
舞踏会に戻らなければと思いながらも、クーアに示されるままに中庭に出てきてしまったのは、ここでも愛されるという予感を感じたから。
その予感を裏付けるように、赤茶の髪の毛に緑の目の、はかなげで優しそうな少年に扮した『お道化て咲いた薔薇人形』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921) がスケッチブック片手に立っていた。
「あはは、かわいい猫さんだ……こんなところでどうしたんだい?」
おいでおいでと呼ぶ優しい声に導かれながらも、わたしは人間よと不満げに鳴くエリー。
そんな彼女に笑ってヴァイスはその小さな体を抱き上げた。
「あれ、疲れちゃったかな……いっぱい走ってきたもんね。そうだ、君を描いてみてもいいかな」
エリーを抱いたまま近くのベンチに腰掛けてスケッチブックを広げる。彼ほど絵心はないけれどと心の中で思いながらも流れるように軽やかにペン先を白いキャンパスへ躍らせた。
エリーは隣で大人しくその様子を眺めていたが、次第に好奇心に負けてくるくる動くペンへと飛びかかる。
それをヴァイスが笑って宥め、また描きだしては飛びかかっての繰り返し。
そうして漸く完成した絵は愛らしい猫が幸せそうな顔で座っていた。
「気に入ったかい?」
ヴァイスの問いにエリーも満足そうににゃあと鳴く。
お礼と言わんばかりにその手に擦り寄って、何故だか急に思い出す。
そういえば前にもこうやって、わたしを描いてくれる人がいたような。
突然不安そうな顔をしたエリーを励ますようにヴァイスはその頭をゆっくりと撫でて、そうして今度は城門の方へと指先を向けた。
「ありがとう、楽しかったよ……それじゃあまたね」
城門へと続く道は人気がなくて静かで、開け放たれた城門の先は何もないように見えた。
やっぱり戻ろうと足を止めたエリーの目の前にすっと1輪のコチョウランが差し出される。
「やぁ、君が噂の可愛い子猫ちゃんかい? 僕の名前はシエラ、君の心に住まう妖精さ」
キザな言葉とは裏腹にどこか気遣うようなスマイルを浮かべて、『白い稲妻』シエラ・バレスティ(p3p000604)が現れた。
驚いて目をぱちくりさせるエリーを安心させるように冗談さと言ってから、目線を合わせるように膝をつく。
「本当は君の憂いた横顔が気になってね、他人だからこそ話し易い事もある。お話しを聴かせて貰えないかな?」
栗色の長い髪を後ろで括り、男子制服のような衣装に身を包んだシエラはまるで王子さまのようだとエリーは思った。
けれど胸に過る不安を無視したくてツンとそっぽを向けば、手にしたコチョウランに軽く口づけを落としたシエラがめげずに手を差し伸べる。
「可愛い子を放っておくなんて筋が通らないじゃないか。君はこんなにも美しいのに。僕なら君をおざなりにしたりなんてしないのに……」
だからおいで、と。優しく囁く声に導かれるように、エリーはその腕に抱かれて甘えた。
暖かい腕も与えられる愛も望んでいたもののはずなのに、今はどこか物足りない。
「ふふ、僕が君の悲しみを埋めてあげるからね、ずっと一緒だよ」
ずっと一緒。そう言われた時、エリーはハッとしてシエラの顔を見上げた。
優しい色を灯した新緑の瞳は誰にも似ていないはずなのに、誰かを思い起こさせる。
ああ、ああ、わたし知ってるわ。その瞳もその言葉も、知っているの。
本当は誰に愛されたいか。本当は誰に構われたいか。本当は誰に一緒にいて欲しいのか。
思い出してもあと一歩を踏み出せない。
そんな彼女の背を押すように、抱き上げるシエラの手とは違う手がその小さな頭を優しく撫でた。
「かわいい子。でももう大丈夫だよ」
いつものさらりとした白い髪に赤と灰のオッドアイの姿に戻ったヴァイスが言う。
「またいつでも一緒に遊びましょう」
その背を撫でてクーアも言う。
そしてヨハンが城門の先を示した。
「エリザベート、わかってるとは思うけどここはキミの世界じゃない。キミは元の世界に帰ってキミだけを愛してくれる本当の相手を探すんだ。外に目を向けてみるときっと見つかるはずだよ。」
集まった4人はエリーを可愛がりながらも、言葉や視線でその背を押していく。
たくさん愛されて満たされて、それでもエリーはもう思い出していた。
ありがとう、わたしの王子さまたち。素敵な素敵な人たち。
軽い身のこなしでするりと地面に着地する。
迷いのない瞳に、シエラは持っていたコチョウランを彼女の首にそっと飾った。
コチョウランの花言葉は「幸福が飛んでくる」。
彼らに愛された幸福と、大切な人を思い出した幸福に身を包み、エリーは今度こそ振り返らずに城門の先へと駆けていった。
キラキラと眩しい朝日にエリーは目を覚ます。傍らには深い眠りにつくご主人様の姿。きっと目を覚ませば一番に自分を撫でてくれるであろう手に擦り寄って、エリーは内緒話のように小さく鳴いた。
「とてもいい夢を見たのよ」と。
成否
成功
状態異常
なし
NMコメント
初めまして、桃缶です。
乙女ゲームの世界でひたすら猫を愛でてください。
言葉は通じませんが何となく意思の疎通は出来ます。
男性でも女性でも王子さまや騎士さまとなって彼女を満たしてあげましょう。
特に肩書きがなくても猫が「この人はきっとこういう人!」と判断します。
一緒に遊んだり、おやつを食べたり、とにかく楽しく過ごしてください。
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