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シナリオ詳細

<YcarnationS>怠惰なる狙撃の軌跡

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●砂の魔女
 ラサ、そして深緑で発生していた『ザントマン』事件。
 その首謀者であるラサの商人オラクルへと打撃を与えるための掃討作戦は、概ね成功に終わった。
 しかし、作戦の最中、ラサに突如出現した『謎の幻想種』により事態は混迷へと至る。

 出現した幻想種の名は『カノン』――砂の魔女と呼ばれ、オラクルによって制御されていた『グリムルート』の力を、なんと上書きし残存する今だ囚われの幻想種を全支配。
 オラクルを遥かに超える深さの狂気を振りまきながら、幻想種達を連れ去った。
 それはまるで『もう一人のザントマン』であるかの様で……。


「そうした背景から、残存のオラクル派は終結し、幻想種達を追いかけていったわ。
 ディルク派もまた幻想種を追跡したのだけれど、そこで彼等はとある砂漠地帯へと辿り着いたわ」
 そこはかつて奴隷売買で栄えしかし遥か過去、砂に沈んだという伝説の地――『砂の都』だと、『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)は言った。
「『楽園の東側の邪教徒も終結しつつようね。死を切望する彼等の言う『始祖の楽園』という話もあるわ。
 連れていかれた幻想種達がその後何をするのかは不明だけれど、巻き込みの死か、あるいは全てが魔種の狂気に完全に飲み込まれてしまうか。いずれにせよ放置出来る状況にはないわね」
 ディルクもまたオラクル派の完全な殲滅も視野に、『砂の都』へと向かうことを決定したようだ。
 ローレットとしても『砂の都』に大量の魔種が生まれてしまえば滅びのアークが増大する見込みが高いと判断した。引き続きラサと共同して事態の解決に当たることとなったのだ。

「そんな中で確認出来たのは、グリムルートによって操られている幻想種達を次々に殺害している存在よ。
 周辺に姿は見えない、けれどその銃声には聞き覚えがあるはず」
 それは、掃討戦で地下施設から幻想種を救い出した時に出会った、怠惰の魔種コイル・コークス・コードナーの存在を意味する。
「幻想種達はまだ救える可能性は残っているけれど、このまま放置しておけばいずれ全てを殺害されてしまうでしょう。
 それは少し……可哀相な気もするわ。みんなグリムルートに操られてその場にいるだけだもの」
 救出するにはどうするか。
 周辺にコイルの姿が見えないとなれば、それは狙撃による襲撃を意味している。
「狙撃を躱しながら、コイルを見つけて倒す。或いは幻想種達を操っているグリムルートを破壊して、幻想種達の安全を確保する。
 前者はともかく、後者は恐らくコイル自身が前にでてくるでしょうね。決戦は避けられないでしょう」
 避けられない魔種との戦いを、イレギュラーズは予感する。
 リリィより依頼書を手渡され、どのように戦うか、すぐに考え始めた。
 その様子を見て、リリィは「がんばってね」と肩を叩くのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 ザントマンを中心とした事件は佳境を迎えました。
 怠惰なる狙撃の軌跡が、敵対するもの全てを貫きます。

●依頼達成条件
 魔種コイル・コークス・コードナーの撃破

●情報確度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報に不明な点もあり、想定外の出来事も起きるかも知れません。

●敵勢力について
 ■魔種コイル
 コイル・コークス・コードナーを名乗る黒いスーツを身に纏ったカオスシードの魔種。
 『怠惰』に連なるためか、とにかく面倒事は嫌いで、通常時の行動は鈍い。
 ただし戦闘となるとその正確無比な射撃で戦場を蹂躙する。
 現在わかっているのは、『肉体を銃に変える』、『戦闘中常軌を逸した反応速度』、『三回以上の連続攻撃』。
 すでに戦闘状態に入っており、イレギュラーズが砂の都についてから三ターン後に初撃の狙撃が放たれます。
 狙撃場所は不明。弾道から見つけ出す以外ないでしょう。
 また奥の手を隠していると思われます。

 ■グリムルートを付けられた幻想種達
 グリムルートによって操られている幻想種達です。数は十五人。
 戦闘に長けてるわけではありませんが、狂気の影響でその力を増しています。
 グリムルートはそれなりに硬く、イレギュラーズの一撃やそこらでは破壊できません。
 安全に外すには意識を奪うのが早いでしょう。
 何もしなければ、三ターンごとに一人ずつコイルに殺害されます。

●戦闘地域について
 砂の都での戦闘になります。時刻は夜。
 砂に埋もれていた都市部で、戦闘行動は自由にできるでしょう。
 建物などの障害物があり、地形を利用することは出来るはずです。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <YcarnationS>怠惰なる狙撃の軌跡Lv:15以上完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年11月04日 22時40分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

グレイシア=オルトバーン(p3p000111)
勇者と生きる魔王
ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)

リプレイ

●凶弾の射線
 砂の都北部中央付近。
 今、この場所でグリムルートを付けられた幻想種達が魔種に狙われていた。
 そんな幻想種を助ける為、或いは魔種コイル・コークス・コードナーとの決着を付けるため、都市部へと侵入したイレギュラーズ達は、月明かりに照らされた静寂の街の中を分かれて移動していた。
 依頼を受けた十人のイレギュラーズは三班に分かれて行動するという。二つは魔種の捜索を、一つは都市部を守護する幻想種達の対処だ。
 魔種が狙撃によって幻想種達を殺して回っているのはわかっていた。で、あればまずはその狙撃場所を把握する必要がある。
 A班に属する、『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)、『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)、そして『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)、『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)の四人は情報を共有しながら、魔種コイルを捜索する。
「暗視によって夜目は利くが、なるほど、都というだけあってそれなりに遮蔽物はある」
「と、なるとやはり高い所からの狙撃かの。周囲には都を囲うように小高い砂丘や、ちょっとした山もあるのじゃ。狙撃には使えそうなポイントばかりなのじゃ」
 グレイシアとデイジーの会話に、Erstineも頷く。
「幻想種達は流動的に巡回しているようだし、どのポイントでも狙えるといえば狙えるわね。ただ山なんかは都から離れすぎているし、さすがにあそこから狙うってことはないでしょう。魔種が規格外だと言っても、ね」
 で、あれば、目星を付けるのは周囲にいくつか点在する砂丘だろうか。目を凝らして見ても、それらしい人影は見受けられはしないが。
「こうも完璧に身を潜められると、やはり初撃を見てからの対処となるでしょうか。後手に回るのは歯がゆいものですが」
 得意の空中歩行で、砂に埋もれた時計塔へと上り周囲を見渡すヘイゼルが歯噛みする。視線の先、巡回する幻想種の影と、B班のメンバーが見えた。デイジーへと合図をだす。
 デイジーはファミリアーとしてヤモリを召喚しB班に預けていたので、それを使って敵の接近を知らせるというものだ。
 合図を受けたB班の『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)と『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)がこれに対処する。
「偶発的な接近もできれば避けたかったが……こればかりは仕方ないか」
 ゴム弾を発射し幻想種を昏倒させるラダ。リンネがすぐに倒れた幻想種を引き摺って、物陰へと退避させる。
「グリムルートを破壊しておきたいところだけど……壊してる最中に狙われたらイヤだねー」
「最悪、アレクシアとマルクに任せてもいいかもしれないな」
 経過時間的にそろそろ第一射が行われてもおかしくはなかった。リンネとラダはひとまず幻想種を物陰に隠しておいて周囲の様子を伺う。
「まずは、ここからコイルさんを見つけないと、だよね」
 二人から少し離れた場所にいた『幸福を知った者』アリア・テリア(p3p007129)が取り出したホイッスルを響き渡らせる。静寂な都に響く音の反響が、アリアのエコーロケーションを通して、周囲の全体像を浮かび上がらせる。
 遮蔽物などの都市構造に、幻想種達の配置、そして都市外縁の砂漠地帯の様子。周辺状況を確認したアリアはしかし、魔種の存在を見つけることは叶わない。
(条件としては幻想種の皆が狙えて、地の利がある恐らく高い所――けれど周辺の高所と思われる場所に違和感はなさそうだけれど……)
 魔種を捉えることは叶わなかったが、十分な情報把握ができたと言えるだろう。これを仲間に共有し、特に幻想種の対応を行うマルク・シリング(p3p001309)と『さいわいの魔法』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)の両名は動きやすくなったと言える。
 そうして情報が集められていく中、特に魔種コイルの情報を得ようと独自の探索をする者もいた。B班に属しつつも、やや離れた位置で精霊操作を行う『賦活』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)だ。
「大事な仲間達を助けるために、手を、君たちの目を貸して。もう、誰にも奪わせないために!」
 現れた砂の精霊が、エストレーリャの呼びかけに応じて、周囲の違和感を調べる。砂に埋もれた都市、その周辺環境にあって、異質な存在。そんな気配を辿っていく。
 そして――
「これは……見つけた!」
 それは北に位置する砂丘。姿形は見えない。けれど確かな違和感がそこにある。
「みんな、北の砂丘です! そこに魔種が――」
 エストレーリャが声をあげ指さしたその時、甲高い炸裂音と共に、砂丘が光を上げる。
「マズルフラッシュ……!」
 ヘイゼルが時計塔より飛び降りA班の面々と合流する。情報の共有はすぐに終わり、次なる段階へと作戦は進行する。
「あぁ……!」
 か細く悲鳴をあげたのはアレクシアだ。
 対峙していた幻想種が、目の前で鮮血を飛び散らせ凶弾に倒れた。救えたかも知れない命を前に、瞳が潤み、悔しさに歯噛みする。
「正確に頭を――こんな終わり方、認められるわけがない……!」
 アレクシアと行動を共にするマルクもまた怒りを覚える。幻想種達は何一つ過ちを犯していない、ただ巻き込まれただけだというのに慈悲も無く殺されていく。そんな運命を許すわけにはいかなかった。
「……これ以上は、ない。させるものかよ。アレクシアさん、立って。僕たちでハーモニアの皆を助けるんだ!」
「……うん……うん! もうこれ以上、ただの一人だってやらせない!」
 二人は凶弾の射線上、その砂丘を睨みながら、砂の都内を駆け出した。

 砂の都――北に位置する砂丘。
 その場所はなだらかな砂が存在するだけの静謐を称えた場所だ。
 だが、近づいて、よく眼を凝らせばわかる。
 砂の中から伸びる銃口とレンズに。
「……はぁ……殺戮対象外の連中がいると思ったら……イレギュラーズか? いやだねぇ、どうしてこう、仕事の邪魔に来るんだか……」
 砂が蠢き、その中から黒いスーツに身を包んだ長身細身の男が現れる。身体を満たす砂を払いのけると、深くハットを被り直した。
「……一列になって一直線にこっちへ向かってくる……やる気満々ってところかぁ? あぁいやだ。面倒すぎる……相手なんかしてられるか……さっさと仕事を終わらせて帰りたいが……そっちも手ェ出してる奴等が残ってるなぁ……はぁ……」
 深くため息を吐く。魔種コイル・コークス・コードナーは分かりやすいほどに面倒事が嫌いだった。
「……砂にまみれるのは慣れたし、狙撃は楽できると思ったんだが……こりゃさっさと都市部に行って虐殺したほうが早かったかねぇ……スマートな仕事がモットーの俺としたことが……はぁ……失敗したぜ……」
 迫り来るイレギュラーズを眺めながら、魔種コイルは進退を見極めていた。
「……オラクルの情勢も悪いみてぇだが……仲間裏切るわけにはいかねぇか……高く付くぜぇ、オラクルよぉ……」
 月光を照り返す右手の狙撃銃を構えながら、魔種コイルは静かにため息を吐いた。

●奥の手は隠さない
 姿を見せた魔種コイルへと突撃するイレギュラーズ。一列に連なることで、被害を最小限にするという判断だ。もし魔種コイルがイレギュラーズを優先していたのならば、この隊列は間違い無く最良であり、そうであるからこそ、”たとえコイルがイレギュラーズを狙わなくとも”行う必要はあったと言える。
「僕達を狙ってない……?」
「眼中にはない……いや”仕事”を優先しているのか? なるほど、最小の動きで最大の成果を、ね。仕事熱心なのは見習いたいところだ」
 先頭を走るエストレーリャが防御姿勢を構えたまま彼我の距離を詰めていく。その後ろからラダがレンジを意識しながら大口径のライフルを構える。マルクとアレクシアの仕事の邪魔はさせない心算だ。
 ラダの弾幕代わりの援護射撃が魔種コイルへと放たれる。しかし明らかなダメージにも動揺の色を見せないコイルは狙いを付け静かに引き金を引いた。夜目に眩しいマズルフラッシュの閃光と共に、第二の凶弾が放たれる。
「――!!」
 幻想種と対峙していたアレクシアは、幻想種達を守るように砂丘と幻想種の射線上に立っていた。発砲音と同時に振り向いて、身を盾にして弾丸を受け止め吹き飛ぶ。
 狂気によって操られる幻想種は身を挺して助けてくれた同胞たるアレクシアに対し、チャンスとばかりに斬りかかる。
「やらせないよ……!」
 それをマルクが割って入って止める。幻想種の振るう武器を受け流し、神気閃光によってその魔性を打ち払う。
「アレクシアさん!」
「……っ、大丈夫。直撃は避けれたから問題ないよっ」
 流れる血にも気を止めず、立ち上がるアレクシア。
(そうだ、この程度の痛み、奴隷にされたみんなが受けたほどじゃないでしょう!
 だから、耐えてみせる! 仲間を信じてるから!)
 開かれた魔術書から放たれる光が砂の都を照らす。光がまるで目印のように、気配が近づいてくる。
 幻想種達を守るのは二人の役目なのだ。

「……チッ、照準がコンマぶれたか? 相変わらずイレギュラーズってのは、頑丈だねぇ……たく、一撃で死なないとかギャグか? ギャグ漫画の不死身生命体か?」
 ぼやきながらコイルが空いてる左手でボルトハンドルを引く。排莢された薬莢が地面に落ちた。
「狙いを変えるか……? つってもあの光に集まっていくようだしなぁ――っと!」
「それ以上はやらせないよ!」
 コイルをレンジに収めた直後、アリアが隊列から飛び出して、ノーモーションの衝術を放つ。これによってスナイプポイントを奪われたコイルが、心底悔しそうに肩を落とした。
 その瞬間を狙って上空より回り込んだステルス状態のヘイゼルが、背後から赤い魔力糸を伸ばしてコイルと自身を結び上げた。
「……なんだこりゃ、糸? 赤い糸だなんて、えらく情熱的だね、こりゃ」
「運命の赤い糸……切れるときはどちらかの運命が尽きているかもしれませんね」
「……いやだねぇ、女なんて。大概面倒すぎるぜ……出会ったばかりの二人に運命を説くだなんて。これから起こる出来事を想像するだに恐ろしい……ああ、イヤだイヤだ」
 生命力を奪われていながら、まるで気にした様子を見せないコイル。至近でコイルを抑えるヘイゼルを中心に、イレギュラーズが散開して魔種コイルを取り囲んだ。
「……ひぃ、ふぅ、みぃ……八人か。魔種の相手をするんだ、最低限ってところかぁ……それに――」
 話ながら瞬間的にリボルバーへと形を変えた左手でヘイゼルを狙い撃つコイル。だが、ヘイゼルの卓越した回避力は十分な余裕を持ってその弾丸を回避する。
「どんだけ鍛えたら人の身でそんな動きができるのかねぇ……少なくとも”人だった”頃の俺にはできない動きだぜ?」
「……でしょうね。貴方は経験値稼ぐのとか苦手そうですから」
「まったくもってその通り。……俺はね、面倒なことは大嫌いだし、仕事は速やかに終わらせたいの。……こんな風に邪魔されるとそれだけでイライラしちまうんだよ」
 盛大にため息をつくコイルに、デイジーが呆れながら言った。
「なら、さっさと諦めて妾達に倒されるのじゃ。死ねば面倒事からは解放なのじゃ」
「……あのね、タコのお嬢さん。はい、そうですかって魔種が言うわけないでしょ。人をぶち転がすのが俺の仕事なわけ。立場が逆なの、理解出来る? オーケー?」
「そう言われても、私達イレギュラーズも仕事だしねー。魔種は放置できないわけよー」
 リンネの言葉に、コイルは「いやだ、いやだ」と首を振りめんどくさそうに言葉を吐いた。
「なんでお前らみたいな邪魔者が存在してるかねぇ……あぁ、いやだ。まともに仕事も出来やしねぇ」
 そこまで戯けるような態度だったコイルが、深くハットを被り直すと、爆発的に狂気が広がって行く。
「めんどうだから一度だけ言うぞ。この件から手を引けイレギュラーズ。俺の仕事の邪魔をしないなら見逃してやる」
 溢れ出る殺気に、思わず了解してしまいそうになるが、それはできない。
 ハイルールだけではない、事実今も身を挺して幻想種を救うために動いている仲間がいるからだ。
「返答はノーよ。あなたが反転し魔種と言う破滅の道を選んだのなら、私もそれ相応の対応でいかせて頂くわ……!」
 Erstineの言葉に、今一度心底ガッカリした様子で、コイルがため息をついた。
「……めんどくせめんどくせぇ……! 面倒事はごめんだぜ! 覚悟しなイレギュラーズ、俺は奥の手を隠すような面倒な真似はしねぇ……!」
 コイルの両の手が銃へと変わっていく。異変に気づいたヘイゼルが声をあげた。
「みんな、何か使ってくるようです、下がってください!」
「逃げられるものなら逃げて見ろ……! 全天周全てが射程圏内だ……!」
 コイルの腕が、足が、身体が――すべて無数の銃口へと変わり、狙いを付ける。
 言葉通りの一斉射撃が始まった。

●魔種との激戦
 夜の砂漠に眩い明かりが上がった。
「なんだ……!?」
 砂の都の中で幻想種と戦うマルクが気づき声をあげる。
「照明弾か……? 何て強い光……それに――」
 光の下で、無数の赤色が嵐のように飛び交っていた。銃弾の嵐だ。
「……あっ! 光に誘われるみたいに――!」
 より強い力を感じるのか、幻想種達がコイルの方へ向かい歩き出していく。
「まずいぞ、向こうへ行かれたらどれだけ巻き添えをくらうかわからない」
「マルク君、急いで追おう! こっちにハーモニアの子達を引きつけるんだ!」
 アレクシアとマルクは、光に誘われる幻想種達を追い走り出した。

 砂丘の上では、身体中から硝煙を立ち上らせているコイルと、無数の銃痕を身体に刻みつけられながらも立ち上がるイレギュラーズが対峙していた。
「……つくづく、イレギュラーズってのは頑丈で困るぜ……。一人、二人は殺ったかと思ったが、全員ぴんぴんしてらぁ……」
 呆れたようにコイルが言うが、笑えるほど余裕のある状態ではなかった。
「……そこの銀髪のお前……何かしたなぁ……? あれで狙いが定まらなかった……といっても躱せるような弾幕じゃねぇけどな」
 コイルが指さす先にいるのはエストレーリャだ。
 エストレーリャはコイルの異変を察知すると同時、砂の精霊を呼び出し、その視界を砂で覆った。目くらまし程度のものだが、精密な射撃を武器とするコイルに対しては、十分な効果があったように思えた。
 天使の歌を響かせ、傷付いた仲間達を回復するエストレーリャ。
「もう誰も奪わせない。傷つけさせない!」
 強い意思の下、回復に全力を注いでいた。
「zawbieat aljalid……! 照明弾まで打ち上げて、応援でも呼ぶつもりかしら?」
 態勢を立て直したErstineが氷の旋風を一振りする。砂漠に広がる氷の扇がコイルを凍てつかせ足を止めさせる。
「応援……なんてものを期待できるほど、仲の良い友人はいないんでね……ただ仕事をスマートに終わらせたいだけさ。
 お前達はあくまでおまけさ。本命は主君を違えた奴隷達なんでね」
「彼女達は、貴方達に忠誠を誓ったわけじゃない……! 元より違える主君なんていないわ!」
 銃痕より飛び散る血飛沫を血刀へと変えて、Erstineがコイルに斬りかかる。生命力を奪う一撃を受けながら、コイルが腕を回転させ二つの銃口がある銃へと形を変える。
「商品として。奴隷として身を窶したその時に、自らの主人が誰であるのか、きっちりと教え込むべきだったか……恐怖と痛みで躾ければ、グリムルートなんてものに頼る必要もなかったのになぁ……!」
「外道ね……やっぱり魔種とは相容れないわ!」
 放たれる弾丸は散弾だ。確実な回避は不可能。Erstineは即座にダメージの軽減へと思考を切り替え、被害を最小限へと抑える。
 入れ替わるようにグレイシアが接近する。
「一つ確認させてもらおうか」
 特殊な格闘術式を駆使しながら、コイルの体勢を乱れさせていくグレイシアが、問いかけた。
「なぜ自害させるでなく、狙撃にて殺害を? なにか理由があったのかね?」
「答えは単純なものさぁ、趣味の合うスーツのおじさまよ……。グリムルートの制御はオラクルが握っていた。そうであるなら、手駒として使えるがね、それを奪われたんだ。こちらに利することがなくなった道具を放置しておく馬鹿はいないさ」
 両の手をアサルトライフルへと変貌させて、崩れかけた姿勢から乱射するコイル。その弾幕を受け流しながら距離を取ったグレイシアが確認する。
「無用となったから殺すか。合理的ではないな。実に短絡的で感情的な発想だ」
「……かもしれないな。なにせ数少ないお友達を助けるために、めんどくせぇ手助けを始めちまったんだ。そう言われても否定はしねぇよ」
「ふむ。しかし狙撃はないんじゃぁないかね? 非効率的だろう?」
 言葉にしながらグレイシアが死霊弓を放つ。呪詛孕む呪いの矢が一直線にコイルへと向かう。
「……そいつは俺の勝手だ。砂まみれの街を一匹ずつ殺しながら練り歩くなんて、そんな面倒なことはゴメンだったんでなぁ……今となっちゃそうするべきだと後悔しているが……!」
 死霊弓を受けながら、片手をグレネードランチャーへと変貌させて、弾丸を放つ。足下に転がったグレネード見るやグレイシアが飛び退る。鮮烈な爆裂音を響かせながら、砂が噴き上がる。飛び散った破片にその身を切り裂かれながらも直撃を避けることに成功した。
「まったく、次から次にいろいろでてくるねー」
「そういうアンタはさっきからイヤな位置にばっかり居やがる……面倒だぜ、手を出さないで味方を強化し続けるアンタみたいな役回りはよぉ……」
 サポート役に徹しているリンネを、邪魔そうに睨むコイル。優先順位は高くないが、早めに倒さなくてはどんどんと不利になることは明白だった。
 先に片付けるか、とリンネへと狙いを絞ろうとしたとき、背後よりヘイゼルの赤い糸が伸びる。
「チッ……しつこいぜ、お嬢さん……!」
「余所見はご遠慮願いましょうか。貴方の運命と繋がっているのは私なのですから」
 コイルの右手がリボルバーに変化すると同時に、発砲音が五回響く。曲芸並の連射はしかし、正確無比な弾道を描き回避に専念するヘイゼルを一発が撃ち貫いた。回避に自信を持つヘイゼルにしてみれば、手痛い一打ではあるが、コイルにしてみれば全弾命中させるつもりで放っただけに、一発しか命中しなかったことに驚愕すると同時、焦りにも似た感情をおぼえるのだった。
 このままではガンマンとしての矜持も、魔種としての尊厳も無くなる。なんとしてもヘイゼルを打ち落としたい心算であったが、狙いを付ければ付けるほどに、その動きは乱れていく。
(付けいる隙が生まれたな――)
 そんな状況を冷静に観測し、超距離より狙撃を行うラダ。
 多くを語る必要は無いスコープ越しに見合い、弾丸を撃ち合えば互いの意思は疎通出来るのだという。
 放たれたラダの弾丸が、ヘイゼルを狙おうとしたコイルの腕を穿つ。
「チィ……ッ! そっちにも腕の良い狙撃手がいるな……! それに――」
 と、コイルは周囲を見る。目に映るのはアリアとデイジーの姿だ。
(厄介な連中が揃ってるが、この二人の組み合わせが問題か……!)
 ヘイゼルだけならばいずれ倒せる自信はあった。ヘイゼルが倒れれば、他のイレギュラーズを倒すことも時間の問題と言えた。
 だが、アリアとデイジーが繰り返す行動阻害とそれを昇華させた呪殺による生命力の減少が致命的だった。
「デイジーさん! 一緒に!」
「うむ、呪い付けにして削り殺してくれるのじゃー!」
 アリアの生み出した黒いキューブがコイルを包み込み魔種である身体に苦痛を覚えさせていく。同時、空に浮かぶ月が昏く赤く染まり、コイルの運命を蝕んでいく。
「手応えありなのじゃ。どんどんいくのじゃ!」
 デイジーが嗾ける神の呪いによって、行動阻害は重度となって、さらに顕現した邪悪な怨霊が深き苦痛を与えてくる。
「チィ……ッ! タコ娘がぁ……!」
 追い詰められて行くことで、コイルは焦りと後悔に歯噛みする。
 もっと早く本気をだしていれば――いや、怠惰に寝転がりながら狙撃などという悠長なことをしていなければ――自らの大罪をこれほど呪った日はなかった。
「めんどくせぇ、めんどくせぇ、めんどくせぇ! 全員仲良くブチ転がりなぁ!!」
 今一度、全砲門を開き、イレギュラーズを蹂躙する。
 静謐称えた夜の砂丘に無限とも思える発砲音が響き渡った。

●怠惰なる男の最期
「……ハァ……ハァ……」
 砂丘の上でコイルが荒い息を繰り返す。
「この全弾発射はなぁ……自分の生命力を弾に変えて行うんだ……つまり、使えば使うほど自分の首を絞めることになる……」
「なるほど……それでこの威力、この範囲ですか……」
 苦痛に呻きながら、しかしエストレーリャは立ち上がる。天使の歌声を響かせて、倒れた者達を死の淵から救い出す。
「わかったんなら立つんじゃねぇよ……もうめんどいのはこれで終わりにしてくれよ……」
 コイルが右腕を銃に変えてエストレーリャを狙い撃つ。弾丸はしかし、エストレーリャを掠めて砂漠を穿った。
「まだです……まだ終わりにはしません」
「面倒な女は嫌われるぜぇ……お嬢さん」
 コイルの右腕に結ばれた赤い糸が、ヘイゼルの意思を強く伝えていた。
 互いに限界を迎えている。生命力を簒奪しながら一撃も食らわないように極限の集中を見せるヘイゼル。その隙に戦う力を残す者達が立ち上がった。
「まだやれる……勝負所を見誤るな――」
 自らに言い聞かせるようにラダがコイルの死角を取る。狙うべき一打は、最大火力のそれに繋がらなければならない。
 仲間の様子、敵の動き。それらを計算しながら、その瞬間を待ち続ける。
「ならばその隙生み出そうか――」
 グレイシアが距離を詰め特殊な格闘術式でコイルの体勢を崩す。
「邪魔するんじゃねぇ……!」
 バランスを崩しながら左手の指を全て銃口に変えたコイルがフィンガーバレットをグレイシアに叩き込む。
「もう一手よ――!」
 倒れるグレイシアの影からErstine現れる。振るう氷旋が今一度コイルの足を縫い止めた。
「面倒事を増やすなぁぁ――!!」
 Erstineを蹴り飛ばしたコイルが、狙撃銃を作り上げ、Erstineを狙う。
(くっ……こんなところで死ぬわけにはいかないの……!!)
 「やらせない!!」
 Erstineが体勢を乱れさせながら回避行動を取ると同時、エストレーリャが砂の精霊を操り、目くらましを仕掛ける。轟音鳴り響く狙撃銃の弾道がErstineの腕を穿つ。
「今だ……!」
 狙撃銃を撃ち終えた反動で硬直するコイルへ、アリアがこの日幾度目かになる行動阻害をバラ撒いた。呪縛によって完全にコイルの動きが止まる。
(――!!)
 狙いを付け続けて居たラダが引き金を引く。
 大嵐のような銃声が、響いた。
 弾丸は真っ直ぐにコイルの胴体へと到達し、穿つと共に、完全なる隙を作り出した。
「もらったのじゃー!!」
 デイジーが叫び、邪悪な怨霊がコイルへと襲いかかる。
「ゴフッ――」
 吐血するコイルが膝を付く。深めに被っていた帽子がゆっくりと砂漠に落ちた。
「あぁ……めんどくせぇ……こんなことになるなんてなぁ……」
 呻くように呟くコイルがニヤリと笑う。
 接近していたヘイゼルが異変に気づき声を上げた。
「みんな逃げて――!!」
 言い終わる前に、コイルを中心として爆発が起こった。
 それはまるで、自らの身体を弾丸そのものにし、激発したかのようで――
 銃と同化していた男には、似合いの最期だったかもしれない。

「……大丈夫……?」
 アリアが眼を開くと、傷だらけのアレクシアが顔を覗き込んでいた。
「アレクシアさん、敵は――魔種は、幻想種はどうなりましたか……?」
 アリアの問いかけに微笑んで、アレクシアが答える。
「魔種は自爆したみたいだね。大量の空薬莢と銃の残骸だけが残っていたよ。幻想種は……みんなが魔種を食いとめていてくれたおかげでなんとか」
 そう言って外したグリムルートを見せる。
「他のかた達は……?」
「みんな大けがだよ。特にリンネ君が……」
 アリアが周囲を見渡すと、全身傷だらけのリンネがにひっっと笑った。
「咄嗟に庇えてよかったよー。皆が無事ならこの傷も勲章だねー」
「結構あぶなかったよー。エストレーリャ君が治療し続けてくれたからよかったものの」
「もう誰も失いたくないって思ってたから……無事でよかった……」
 そう言葉を零すエストレーリャに、イレギュラーズ達は微笑んだ。
「さて、幻想種の子達の狂気が消えてればいいけれど……これ以上無駄な争いはしたくないしね」
 アレクシア同様に、多くの傷を受けているマルクが言う。二人が必死になって幻想種を足止めしグリムルートから解放したおかげで、被害は最小限にすんだと言って良かった。

 幻想種を狙う魔種コイル・コークス・コードナーは倒された。
 イレギュラーズ達は傷の手当てをしながら、救い出した幻想種達と共に砂の都を後にする。
 気に掛かるのは砂の都に現れたという魔種カノンの存在だ。
 果たして彼女の求めるものは何なのか。そしてイレギュラーズとの決戦の結果は……。
 顛末を求め、イレギュラーズはローレットへと帰還するのだった。

成否

成功

MVP

デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
共にあれ

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPはデイジーさんに贈ります。おめでとうございます。

 ゆっくり身体を休め次なる依頼に備えてください。

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