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シナリオ詳細

<YcarnationS> 白砂に踊る狂人形

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは、遠く昔のお話。
 昔々、あるところに小さな小さなおなごがおりました。
 首に、腕に、足に。
 括られた輪はじゃらりと音を立て、いつもその時を待つしかありませんでした。

 そして今日もまた、その時は訪れます。
 少女は自分にかぶさるそれを見て、いつものようにぼうと時を待ちました。
 外から聞こえる、扉の向こうから聞こえる、そんな全ての声は、少女には何も関係がなく――そして、狂おしいほど妬ましいものでした。

 ――妬ましい。私よりも、綺麗な人が自由に笑うのが。
 ――妬ましい。私と同じように捕らえられ、けれどただ働くだけのあいつらが。
 ――妬ましい。私に覆いかぶさり腰を振る、この醜き雄の方が、自分より常であるとされるこの今が。
 ――妬ましい、妬ましい、ねたましい!!
 ――なぜ私なの。なぜ、今、笑いながら通り過ぎた誰かは外を歩けるのに!!
 ――私は、何もしていない。何もできない。
 ――何もできない。こんなのじゃ。
 
 力の入るのは指先だけ。
 その顔を見て喜ぶこの男が本当に――妬ましい。

 ――――ボロボロな自分が、思考さえ放棄した自分が。
 ――――嫉ましい。
 ――――それなのに、どこからともなく流れる涙が、妬ましい。
 ――――自分と同じ目に合ってない全てが妬ましい。

 ――そんな時でした。
 その日、砂の城が沈んだのです。
 ――妬ましい。なんで、私にはそれが出来ないのだと。
 ――妬ましい。こいつに、ただのうのうと生きてきたこいつらに、罰を与えられない自分が。
 ――――妬ましい。このただ死ぬだけの自分が――――
 これまで以上に思った時、初めて少女は、反ったのです。

●妬み、嫉み、恨み、そして――――羨むのだろうと。
「くすくす、綺麗な目をしてるのね、あなた」
 ――だから、その目が潰れるその時を待っていて。
 弧を描いて笑い、魔種マリナはそっと幻想種の少女に触れた。
「本当に、妬ましいわ。
 くすくす。大丈夫よ。
 たくさんの同胞を連れてきてあげる」
 くるくるくるくる回りながらやがてゆっくりと立ち止まり、静かに振り返る。
「あなたは……声がいいの。出来れば、鳴いて頂戴な。
 ええ、幻想種の鳴く声は好き。わたしはそれさえ出来なかったもの」
 別の幻想種の喉元に手を添える。
 少女が声を聞かせぬことを理解して、マリナは興味を失ったのか、静かに立ち上がり、外に出た。
 マリナはただ酷薄に、あらゆる感情を削ぎ落したような無表情で周りを見渡した。
「――何も変わらない、あの時のまま……」
 舌打ちを最後に、マリナは再び中に入って行った。

●砂の都へ
 『ザントマン』オラクル・ベルベーグルスとその派閥への掃討作戦は概ね成功した。
 オラクル派への打撃を与えることに成功したイレギュラーズだったが、突如として姿を現した新手――謎の幻想種により、戦況は混迷し始めていた。
 『カノン』というらしきその幻想種はオラクルの用いた『グリムルート』の力を上書きし、オラクルよりもはるかに強大かつ深い狂気を振りまき、幻想種を連れ去って行った。
 生き残ったオラクル派は商品たる幻想種を奪われたことに激怒、幻想種を追い始めた。
 当然、ディルク派もまた、幻想種を追い、やがてとある砂漠地帯に辿り着く。
『砂の都』――失われたおとぎ話の後ろ半分、奴隷売買により栄え、砂へと消えたと伝わる伝説の都である。
 連れていかれた幻想種達がその後何をするのか。巻き込みの死か、あるいは全てが魔種の狂気に完全に飲み込まれてしまうか。
いずれにせよ、放置できるはずもなく、ラサより君たちへ引き続いての要請がもたらされた。
 ローレットとしても、『砂の都』に魔種が大量に生まれてしまえば、滅びのアークが増幅する可能性も高いと判断し、引き続いての共同戦線に専念する。
『ザントマン』事件は、ここに佳境を迎えようとしていた。
「さて、これに関しては、私が紹介するのがよろしいと思いますので、
 この仕事ばかりは私から説明させていただきますね」
 『オラクル派』追討のためにローレットにて依頼を探す君達の下に、ふわりと礼をして『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が現れた。
「先だっての作戦で皆様が遭遇した魔種の姿が『砂の都』にて確認されたと、
 先だっての作戦で皆様と協力した傭兵の方々からお話がありました」
「彼女の名前はマリナ……森の外に迷い出てしまった哀れな幻想種であったとのこと。
 そして今回は、その傭兵さんと――マリナの母君からのご依頼です。
 ――あの子を、眠らせてあげてくださいと」
 うつむき気味にそう言って、テレーゼは君達の方を向いた。
「傭兵さん達の情報を幾つか伝えてくれました」
 そう言うと、テレーゼが資料を提示していく。
「……彼女の周囲に複数の砂の魔物と2人の幻想種、
 それに元オラクル派の傭兵が確認されました。
 幻想種たちの首にグリムルートはないようです。
 ただ――逃げることなどはできないようです」
 広げられた資料に描かれていた地図によれば、戦場は『砂の都』の郊外、開けた丘のようになっている場所だった。
 散乱する壁であっただろう場所などから推察するに、嘗ては屋敷の類であったのだろう。
「彼女の性質は狡猾で酷薄であると聞きました。
 何卒、お気をつけて」
 そう言い残して、テレーゼは君達に礼をした。

GMコメント

 さて、こんばんは、春野紅葉です。
 それでは、全体シナリオに参加させていただきます。
 それでは詳細をば。

■オーダー
【1】魔種『マリオネット・オーナー』マリナの討伐。
【2】幻想種2人の生存

【1】は絶対にクリアしなくてはならないもの。
【2】はそれ自体は成否に関係しませんが、達成した方が気もち的には良いでしょう。

■戦場
『砂の都』の郊外、嘗ては何かしらの屋敷が存在していたであろう小さな丘のような場所。
この地は嘗て、マリナが囚われていた人物の屋敷だったと思われています。

障害物として屋敷の残骸と思われる壁面らしき部分がありますが、基本的に見晴らしは良いです。

■エネミーデータ
<魔種『マリオネット・オーナー』マリナ>
強いです。自らの周囲に2人の幻想種を侍らせ、皆さんを待ち受けています。
偶然、カノンと同じ場所で、偶然カノンと同じ時期に反転こそしましたが、面識はありません。
少なくともマリナ側の認識では『町が沈んで死にかけた』『その時に呼び声に手を出した』程度の認識です。
イレギュラーズとの戦闘から、恐らくは魔力などで構築した見えない糸で攻撃、防御、拘束などをしていると推察されます。

神攻、CT、命中、反応が高く、防技、抵抗、回避、EXA、機動は並、物攻、EXFは低め。
・マリオネット・エピヌ(A):神中扇 威力大【呪縛】【泥沼】
・マリオネット・ガント(A):神近単 威力中【氷結】【崩れ】
・マリオネット・タンペット(A):神自域 威力特大【連】【流血】【麻痺】
・マリオネット・アンフェール(A):神超域 威力大【万能】【凍結】【崩れ】【泥沼】【石化】(戦闘中1度のみ)

・マリオネット・フィルド・フェール(A):神超単 威力中【万能】
この攻撃を受けた対象が抵抗判定、回避判定に失敗した場合、
3ターンの間、強制的に動かします。
判定は毎ターン行ない、最初の判定から3ターン経過、
もしくは判定に成功した時点で解放されます。
マリナへと強制的にかばうを利用して盾として使われる、
攻撃手段として利用されるなどが推察されます。

攻撃を与える対象はイレギュラーズだけではなく、
幻想種であったり下記取り巻きの可能性もあります。

・マリオネット・シザー(P):
神通常攻撃が【弱点】を持つ。

・原罪の呼び声
『嫉妬』属性の原罪の呼び声を域相当の範囲に発します。

<元オラクル派傭兵>
6人。槍を持つ者2人、銃を持つ者2人、大盾を持つ者2人。
非常に連携のとれた傭兵です。
どうやらマリナの能力の影響下にある様子。
【槍兵】
毒槍突き(A):物中貫 威力中 【猛毒】
毒槍薙ぎ(A):物中列 威力中 【猛毒】

【銃兵】
放射連弾(A):物遠範 威力中 【万能】
精密狙撃(A):物中単 威力中 【足止め】

【大盾兵】
前列防衛(A):物特レ 自分及び自分よりも後ろの味方の防技、回避を強化【副】
押し返し(A):物至単 威力小 【飛】

<砂の魔物>
6体。サンドゴーレムが2体、サンドジャイアントが2体、サンドサーペントが2体です。

【サンドゴーレム】
3mほどのゴーレム風の魔物。防技とHPが高め。
城壁再現(A):自付与 防技とHPを強化。
凝固砂槌(A):物中単 威力中 【乱れ】【崩れ】

【サンドジャイアント】
5mほどの砂で出来た巨人。物攻とHPが高め。
鬨の声(A):自付与 物攻と命中を強化。
砂斧両断(A):物中貫 威力中 【必殺】【致命】

【サンドサーペント】
長さ3m、胴回りの半径1.5mほどの大きな蛇のような魔物です。
砂中潜り(A):
砂の中に潜り込みます。
潜り込んでいる間は攻撃できませんが、
次のターンの攻撃が奇襲攻撃(攻撃対象への回避ペナルティ)になります。
ただし、這い出てくる前に皆さんが引っ張り出した場合、
皆さんはそのターン、この魔物への攻撃がクリティカル判定となります。

超視力、透過などなどを駆使して見つけたり引っ張り出したりをお勧めします。

■味方データ
<ラサ傭兵>
引き続いてラサの傭兵団から10人が味方として参戦します。
より効果的な動きをさせる場合はプレイングでの指定が必要になります。
特に何もなければそれなりに動きます。
何もなければ近接アタッカー3、タンク2、後衛アタッカー2、バフ要員1、ヒーラー2で参戦しますが、指定があればこちらの編成も変更可能です。

<幻想種>
開始時、マリナの両脇にて囚われる幻想種です。
見えない何かで拘束されています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <YcarnationS> 白砂に踊る狂人形完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年11月06日 22時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
銀城 黒羽(p3p000505)
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
無限円舞
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
オジョ・ウ・サン(p3p007227)
戒めを解く者

リプレイ


「こんにちは。あらあら、傭兵さんたちに、イレギュラーズの方々ね?」
 イレギュラーズ達が傭兵達に連れられて目標のいるであろう場所へ訪れると、待ってましたとばかりに少女が笑っていた。
 緩やかな所作はどことなく洗練されてもいるが、どうしてだろうか、どこまでも冷たく、飾り物のように思える。
 そして、そんな彼女への道を阻むように、6人の傭兵と6体の魔物が布陣している。
(幻想種の魔種……彼女も奴隷商人の被害者なのかな……?
 魔種になった以上、助けることはほぼ不可能……眠らせないとな……)
 そんな魔種を見ながら、『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は己を構える。
「……まったく、今回みたいな事件はろくなことがねぇな。必ず誰かが不幸になってる。
 ……本当に……本当に……面倒臭い……。
 ……いいさ、やってやるよ。ゆっくりと、眠らせてやるよ。だから安心しな」
 そんなことを言いながらも『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)は己が闘気を高めていく。黄金を彩る闘気は、攻めではなく守りのためのソレだ。
「過去がどうであろうと、同情も憐憫も、ない。
 魔種となった以上、もはや救いようもないのだし、な。
 お前の母の望みでも、ある。ここで、終われ」
 魔種に静かに告げた『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)の青の双瞳が見た目こそ少女の魔を見据えた。
 それを受けた魔種の表情が、忌々しげに僅かに歪んだのが分かった。
「ザントマンによって起こされ続けてきた悲劇に、終止符を打たなければね」
 魔術書を携えるマルク・シリング(p3p001309)は呟くと、魔種の方へ視線を向ける。
「元を辿れば彼女も犠牲者でしかないけれど、仕方がない……わよね……
 彼女の母親の望みでもあるから、ここで安らかに眠らせてあげましょう」
 二本のノクターナルミザレアを構えながら『Righteous Blade』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は続けるように応じた。
「過去にどのような事情があったかは知りませんが、今は魔種。
 なれば討つより他はないでしょう」
 アルテミアの言葉に続く『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)は魔種よりも視線を魔物達に向ける。
(何か一つ違っていれば、私もマリナのようになったのかもしれない)
 黙する『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は目の前の魔種と己をほんの少しばかり重ねて、直ぐに少しだけ呼吸する。
(同情はするけれど、終わらせないといけない。それが彼女の家族に託された願いだから)
 アンナは水晶剣を静かに構え、周囲に少しばかりの意識を向ける。
 目の前の魔種へと辿り着く道筋をつけるために。
「貴女を何があったか、知りません。それでも、わたくしたちは、幻想種を救うために、
 貴女を眠らせるために、ここに来た。……呼び声になど、応じませんよ!」
 魔種達の方へと視線を向けていた『うさぎのながみみ』ネーヴェ(p3p007199)は叫ぶように告げm靡く髪をそよ風に靡かせる。
「ハァハァ……美味しソウな魔種魔種ニ〜
 ……ウナギ(サーペント)までついてくるナンテ!
 ヒャー! さすが楽園! デスネ!!」
 明らかに他の々と様相の違う『RafflesianaJack』オジョ・ウ・サン(p3p007227)はテンション高めだった。
「まぁ、元気な方々ばかりですね」
「ええ。これにて終幕です。
 物語とは終わらなくてはいけません」
 そう言って笑った魔種に対するように『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)
が返す。
 その言葉に少しばかり寛治を見つめた魔種は、魔物と傭兵の後ろで戦場全体を見据えるようにして口を開く。
「全員、進みなさい。一人ずつ、丹念に潰していけばよろしい。
 ええ、その人達は一般的な人間よりは強い人が多いですけれど。
 それでも確実にもろい方はいるでしょうから」
 マリナの指図を受けた傭兵達がイレギュラーズを遮るように布陣する。
「彼らの相手をお願いします。必ずしも倒しきる必要はないから、
 出来る限り足止めをしてほしい」
 対応するように傭兵に指示を出したのはマルクだ。マルクの指示を受けた傭兵達が、敵の傭兵達と激しく衝突し始めた。
 一方、イレギュラーズ側で先に動いたのはアンナだった。動きの緩やかな魔物達の横を疾走したアンナは、身を翻してマリナの眼前へと立ち塞がった。
 強敵との戦いを呼び起こして自らを極限の緊張へと追い込んだアンナを見る魔種の瞳が冷やかに見下ろす。
「貴女は醜いわね。容姿でなく心が。ええ、きっと貴女を捕らえた人と何も変わりないわ」
 アンナの言葉に、魔種の視線が酷く細く、鋭く変わり――微かにその指が動いた。
「――――それって多分、挑発なのでしょうけれど。ええ、ええ……乗ってあげる!
 あの存在する価値もない汚らわしきゴミどもと――私が、同じですって?」
 震える言葉には、明確な怒り。魔種の殺意がアンナへと集中する。
「上等よ――お嬢さんの口が開かないようにしてあげる!」
 ほんの微かな風を切る音。少しでも失敗すれば聞き取れないその音に合わせるように、アンナが剣を動かした直後――防御体勢の隙を突いた攻撃が炸裂する。
 イレギュラーズの動きを合わせるように、まず動いた魔物は2匹の蛇のような姿をした魔物――サンドサーペントだ。
 跳ねるようにウェーブを描いた身体が、砂の中へと消えていく。
 それの動きをじっと見据えていた寛治はそのまま視線を地面へと向ける。
 ずるずると、大地の下を走るそれの姿を的確に把握する。
 寛治は愛用の傘から銃弾をぶちまけ、一匹の魔物がいるであろう場所目掛けて叩き込んだ。
 寛治の行動によって、動きを阻害されたサーペントが大口を開けて地表へと這い出た。
 寛治の眼光が蛇と交わりその動きを阻害するのを横目に、自らの運を叩き上げたコーデリアは大地を蹴った。
 蛇の頭部を地面目掛けて叩き落とし、こちらに向かって跳ね上げるような蛇の動きを足場にさらに跳躍。
 二丁の愛銃から、身動きのとれぬ蛇へ向かって強烈な第二撃がぶちまけられていく。
「ギャアァァア!?」
 のたうつその蛇目掛けて、次に動いたのはアルテミアだ。
 歴戦の経験に基づく眼光が、のたうつヘビの動きに視覚を見出した。
 双剣が燃え上がる青い焔の魔力を纏う。夜を抱く洒落な細剣に纏われた焔は輝く星のような彩と闇を鮮やかに描く。
 走り出したアルテミアの魔力の込め上げられた双剣による一撃は、のたうつ蛇に、気付かれることなく、強烈な一撃となって炸裂する。
 ネーヴェは目を閉じていた。
 ずるずると動く大地の奥を這いずる音が聞こえてくる。
 ネーヴェは少しばかり移動すると、魔物が移動するであろう場所にてダンスを繰り広げる。
 大地を踏むその音に、魔物の音がこちらに近づいてくるのを感じた。
 ぴょんと跳びあがった直後、そこの下から、ぱっくりと口を開いた蛇が這いあがってくる。
 エクスマリアはそんなネーヴェへ襲い掛かるサンドサーペントの至近距離にいた。
 それは、エクスマリアの深い深い青の瞳が、仄暗い輝きを持った。
 強かに蛇を蹴ったエクスマリアに気づいた蛇の目が、彼女のそれと交わった時。
 ソレに魅入られたが最後、花は枯れ、鳥は墜ち、風が淀むとされる。
 なれば、たとえ魔物であろうとその例外にはない。
 蛇の身体が揺れ動き、頭を垂れる。
「オジョウサン知ってます! 蒲焼にしタラ美味しいッテ!」
 じゅるりと涎を垂らすオジョウサンは不可視の刃を頭を垂れた蛇目掛けて叩き込む。
 高度な精確性を有するソレに刻まれた蛇が地表でのたうち回る。
 サンドサーペントとの戦闘に集中するイレギュラーズの活躍を支えるように、黒羽は己に神々の加護を与えつつ、サンドジャイアントの前に立ち塞がっていた。
「あっちには行かせねぇ」
 昂ぶる黄金の闘気に身を包んだ男は、2匹のゴーレムの前に立ち塞がり、両手を広げて敵を見上げた。
 サイズは立ち位置を変えて、多くの敵がいる場所に移動していた。
 鮮血の色に変じた鎌を大地へたたきつける。
 血の色で出来た線がサイズを中心に陣を描き、範囲内にいたサンドサーペントとサンド  ジャイアントに業炎を纏った血の鎌に切り刻まれていく。
 それは切り刻まれたジャイアントとサーペントの傷口から血が流れ、業炎に焼かれ、更には不吉を呼び寄せる。
 魔物の雄叫びが轟き、サンドジャイアントが握る砂で出来た斧か何かのような武器が、イレギュラーズ目掛けて振り下ろされる。
 僅かに数人を巻き込む一撃は、数人のイレギュラーズに致命的な傷を与えた。

 マルクは魔術書の補助を受けて己の調和の力を賦活に変えて、アンナに与えた。
 優しき力が、魔種と戦うアンナの傷を癒していく。
「頼むよアンナさん。僕が必ず支えるから」
「ええ、大丈夫よ」
 奇襲となった聖なる輝きを乗せた水晶剣の一撃を叩き込んだアンナは、魔種からの反撃で受けた傷が回復するのを感じながら、魔種をみる。
「…………邪魔」
 ぽつりと呟かれた魔種の言葉。その視線は――――アンナを見ていない。
「下がって!!」
 マリナの指が綺麗に動いた。
 マルクはアンナの言葉に咄嗟に動こうとするも、僅かに失敗した。
 ずきりと、何かが両の手足を貫いて、身体が無理矢理にまるで関係ない方向へと移動する。
「じゃあ、殺すわ」
 まるで笑うように言いながら、魔種の表情は全くの無表情だった。
「妬ましいわ。あなた、誰かに護ってもらいながら、誰かを守れるなんて。
 私には、その誰かすらいなかったもの」
 魔種の動きを見ながら、アンナは剣を構えた。

 寛治、アルテミア、コーデリアの3人による猛攻を受けたサンドサーペントは、既に瀕死に近かった。
 震えるサンドサーペントは、自らに奇襲攻撃を浴びせたアルテミアの方へと突進する。
 アルテミアは青の炎を剣に纏い、サンドサーペントの口に刃を合わせた。
 自前の防御技術で勢いを大きく削ぐも、衝撃に動きを取られ、微かに傷を負う。
 寛治はそんなサンドサーペントの後方から、ステッキ傘を構えていた。
 サンドサーペントの背中部分を無数の弾丸が貫き、鮮血に染めていく。
 アルテミアが大きな口を開けたサンドサーペントを跳ね上げるように押し返せば、その背中越しに影が跳んだ。
 その影――コーデリアは、真っすぐに、二丁の愛銃、その銃口をサンドサーペントに向けていた。
 アルテミアへ追撃を喰らわさんとするサンドサーペント、その大きく開かれた口の中目掛けて、コーデリアは静かに引き金を引いた。
 二丁の銃から放たれた弾丸は、サンドサーペントの中に吸い込まれ――その肉を貫いて出ていった。
 コーデリアの着地に続けるように、蛇の巨体が砂に落ちて砂塵を巻き上げた。

 再度、地面へと潜り込んだもう一匹のサンドサーペントは、エクスマリアのハイセンスと、ネーヴェの超聴覚が確実に場所を捕捉していた。
 エクスマリアは、その場所を推察すると、静かに手をその場所に向ける。
 その掌に握られるは小さな拳銃。しかしてその本質は、魔法の杖。
 魔力によって形成された実体なき砲身が形成され、濃密に高められた魔力を引き金と共にそこへとぶちまけた。
 砂塵を噴き上げ、砂を貫通した一撃は、サンドサーペントを引きずり出す。
 瀕死に至り、動きの鈍ったサンドサーペントをめがけ、ネーヴェは走り抜けると、軽やかに舞うようにして連撃を叩き込む。
 続くようにしてオジョウサンは不可視の刃を走らせた。
 防御技術を無視して対象を切り刻む強烈な一撃は、瀕死の敵に最後の一撃となって吸い込まれていった。
 黒羽は引き続きサンドゴーレムの攻撃を真っ向から受け続けていた。
「うおお!!」
 振る降ろされた槌を両腕で白羽取りのように防ぎ、雄叫びと共に別の方向へ放り投げる。 決して反撃はせず、只管立ち続ける。
 その身が削られてはいるが、高い生命力もあって問題にはならない。
 サイズは妖精の血を活性化させる。描き出された魔方陣はサイズの身体を包み込むと、ぱきぱきと音を立てながら氷の結界となって形成されていく。
 血色の刃を振るい、再度の呪血炎陣を描き出し、今度は二体の巨人とゴーレムを巻き込んでいく。


 それは、二度目の猛威だった。
 マリナが一瞬後退し、くるりと身を翻す。
 その瞬間、マリナを中心に、砂地をえぐり、建物の残滓を切り裂きながら文字通りの嵐が走る。
 強敵との戦いの記憶、そして自らを覆い尽くす茨の鎧のその上から、無数の不可視の刃が、アンナを刻んでくる。
 猛威は必ずしも一度とはならず、その上から更に斬撃となってアンナを刻んでいく。
 元々ある高い精神抵抗力と加護もあって、状態異常こそ通らぬものの、純粋な火力は確かにアンナに通ってしまう。
「並の人なら倒れてくれてるはずなのに……しぶとい人」
 冷たい視線は変わらず。しかし、よく見ればその瞳にどこか苛立ちのような物も感じ取れる。
 アンナは答えず、水晶剣に魔力を込めた。
 漆黒のオーラは、剣そのものが宿す聖なる輝きと入り混じって独特の輝きを放ち始める。舞うように翻弄し、タンと空高く跳躍する。
 漆黒のオーラはまるで黒い羽のごとくふわふわりと軌道上を落ちていく。
 そのまま、マリナの頭上から彼女へと斬り下ろす。確かに感じる、盾のような感触が勢いを殺すも、そのままマリナの身体に傷をつけた。
 敵の強制力を振りほどいたマルクは、アンナの近くへと走り、自らの調和の力を賦活力に変えていく。
 戦いの中で一つだけ気付いたことがある。マリナはこの技を使う前に、敢えて幻想種を遠ざけている。
 理由は分からない。
 だが、恐らくは、倒れられては気絶されては意味がないのだろう。
「遅れてごめん!」
 マルクの言葉に、魔種が小さく首を傾げた。
「先にあなたを倒した方が良さそう?」
 くすりと、嗤う。
アンナは魔種を視線を塞ぐように立ちふさがる。
その姿を見て、魔種はややムッとした様子を見せる。
「……妬ましい。誰かのために立ち続けるなんて、羨ましいわ」
 そう言って魔種がアンナに手をかざす。
 その手がアンナを切り裂く――その寸前に、影がアンナの視界を覆った。 
 無数の鋼鉄の糸を重ね合わせて拳のようにしたものを射出したような、斬撃とも打撃とも伝わる衝撃を、アンナに変わって受けたのはアルテミアだ。
「少し、下がって」
 静かに双剣から青の炎をこぼすアルテミアはアンナに告げながら真っすぐに自らよりも小柄な魔種を見た。
「……お次はお姉さんかしら?」
「ええ。少しの間だけど」
「そう……次から次へと。嫉ましいわ。協力なんて――私にはそんなことをしてくれる人もいなかったのに。
 ふふっ、けど、いいわ。では、遊びましょ?」
 弧を描いて笑う魔種に向けて、自らの洞察力の限りを尽くして視覚を探す。
 動きだそうとする魔種に合わせるようにして、炎を纏った双剣を叩きつける。
 払うような動きを見せる魔種の腕が双剣を弾き――溢れ出した青い炎がその右ほお辺りを焼いた。

 サンドサーペントを討伐したイレギュラーズが次に狙いを定めたのは砂の巨人だった。
 咆哮を上げる砂の巨人を見上げながら、寛治はステッキ傘から銃弾を放つ。
 非常に高度な精密狙撃は、ジャイアントの動きを釘付けにする。
 それに続けるようにして動いたのはコーデリアだ。
 至近距離まで走り抜け、寛治へ気を取られてがら空きの巨人の側面めがけ、怒涛の連射を叩き込む。
 猛烈な火力となった一撃に雄叫びを上げた魔物は、その衝撃ゆえにぐらりと揺れ、大きな隙を生み出す。
 それを見逃すコーデリアではない。そのまま至近すると、バランスの崩した巨人を背中から蹴り飛ばし、続けざまに銃弾を叩き込んだ。
『ォォォオ!!!!』
 咆哮を上げるジャイアントは静かに大斧を振り降ろした。長大な斧が射程内にいたネーヴェ目掛けて振り下ろされる。
 対して、ネーヴェはそれを持ち前の軽やかさでくるりと躱して、斧の上に立つ。
「兎は、容易に倒れないもの、です」
 そのうえ、ふわりと身を躍らせて、その腕を強かに蹴り飛ばして跳躍、砂地へと帰還する。
 オジョウサンはサーペントに夢中だった。
 涎を垂らしながら疑似餌に摘まんできてもらおうとした時だった。
 バッサァっと砂塵が舞い上がり、視界を覆う。
「ハッ! ジャイアントデスネ!」
 運よく射程から逃れていて、ただ砂をぶっかけられただけだったが、我に返って視線を巨人に向ける。
 その直後、捕虫袋するすると伸びたのは赤い管だ。
 するするとジャイアントの足元へと纏わりついたそれは、先端でぷすりとその身体に吸いついて巨人の気力を吸い取り、捕食される動物のごとく、巨人の動きを緩慢とさせていく。
 エクスマリアは立ち位置を遥かな後方にまで下げていた。
 手に握る小さな拳銃は、不可視の銃身を細く長く延長させている。
 それを静かに構え、集中。そのまま、静かに引き金を引いた。
 特別な力を籠めてはいない、けれども静かな魔力の弾丸は、動きの緩慢となった魔物へと吸い込まれていく。
 サイズは呪いの陣を形成しながらも、その視線を絶えず、魔種――その近くにいる幻想種に向けていた。
 隙さえあれば――そう想ってはいたが、そう簡単に隙を見せてくれるほど甘くはないようだった。
 魔物の数が減ったことで、巻き込みの可能性は逆に増えつつあった。
 サイズは今の自分の立ち位置ではどうしても巻き込むことを悟ると、真っすぐに視線をジャイアントの一匹に合わせて走り出した。
 鮮やかに血の色に変質する己を構えて跳躍、巨人の首筋目掛けて引いた。
 魔力を帯びた斬撃が、巨人の首筋に大きな傷を与え、苦しむように雄叫びが上がる。

 黒羽は仲間達の戦況が良くなっているのを確かめながら、落ちてきた槌を受け流す。
 不屈の闘志は絶えず、必殺の術を持たないゴーレムが相手であれば、黒羽の沈まなさは揺るがない。
 けれど、確かに身に刻まれる傷の数は増えつつあった。
 ゴーレムたちは目の前の自分よりも小柄な巨大な壁の如き男に、畏怖を抱きつつあるようでさえある。

 ゴーレムの射程から大きく外れるように後退した寛治は、ジャイアントの足元目掛けて銃弾を打ち込んでいく。
 銃弾は砂地を貫き、足元の狂った巨人は、イレギュラーズの猛攻による疲弊もあって膝を屈した。
 続けるように放たれたコーデリアの銃弾は、膝を屈したジャイアントの心臓に風穴を開ける。
 巨人が大地へ落ち、砂塵が舞い上がった。
 不可視の銃弾が、再び砂の巨人を撃ち抜いた。
 雄叫びを上げた巨人は、身体を震わせながら、オジョウサンの方へと動き始める。
 オジョウサンはそれに対して静かに赤い管を伸ばして、巨人の首筋にぴたりと吸いつかせた。
 続くようにネーヴェが演舞とともに巨人の胸辺りを蹴り飛ばし、巨人の身体がぐらりと身体がゆれた。
 それに合わせるように、サイズは疾走し、再び巨人の首めがけて鎌を走らせる。
 文字通りに死を呼ぶ鎌となった一撃が、巨人の首を断ち切った。
「こいつらの事は俺に任せろ。マリナは頼む」
 黒羽の言葉に頷いて、イレギュラーズ達は戦場の奥で嗤う人形師へと向かって走り出した。
 仲間達が走っていくのを見た黒羽は、自らの拳を強く合わせて気合を入れる。
「行かせるかよ」
『ゴゴゴゴ』
 ゴーレムの声を聞きながら、黒羽は真っすぐに向かい合った。

 傷を癒すため、一時的に後退したアンナに代わって前に出たアルテミアへと襲い掛かったのは、アンナがうけたものと同じ、嵐の如き不可視の魔力糸の蹂躙だった。
「さっきの人もそうだったけど……直ぐ倒れてくれた方が楽なのに。
 妬ましいわ。その、綺麗な体。その、どこへなりとも生きていけそうな身体!」
 アルテミアはそれを受け流しながら、呼吸を整えた。絶えず剣に纏う青炎を、より一層と駆り立てる。
 静かに、そして猛烈に盛る青い炎を双剣に纏わせ、一歩踏み込み、放つのは鮮烈なりし刺突の剣舞。
 硬い刃物のような感触を突き抜けて、青い双剣が魔種の腕に深い傷を刻みつけていく。
 微かな、けれど確かな一撃を受けて、魔種の目に驚愕の色が灯る。
「――――」
 マリナが僅かに指を動かした。その直後、彼女の後方にいた幻想種が、不自然な動きで立ち上がり、アルテミアとマリナの間へと割り込んでくる。
 縋りつくようにしてアルテミアに抱き着くような幻想種達の目は怯えているように見えた。
 その向こうで、マリナが視線をアルテミアの後へ投げている。
 別の幻想種が、アルテミアの横を走り抜けて、後ろにいたアンナの前に立ちふさがる。
 怯える様子を見せる二人の幻想種に対して、動いたのはマルクだった。
「必ず助ける、そう決めた!」
 そう言って、魔導書を媒介に魔力を練り上げたマルクが放つのは聖なる閃光。
 不正義を許さぬネメシスの輝きが、幻想種達に不殺の一撃を加えていく。
「なるほど、あなたのその糸は、絶えず自らと結びついていなくてはならないのですね」
 マリナにエネミースキャンを試みた寛治は、彼女から流れる微かな魔力の流れを見てそう告げる。
「……なら、斬ればいいのね」
 アルテミアは縋りつくような幻想種に身動きを封じられつつそう呟く。
 先に動けたのは、アルテミアではなく、アンナだった。
 アンナは自らにまとわりつく幻想種の少女へと刃を向け、関節とここに来るときに、変に浮いていた部分へ刃を走らせる。僅かに硬い物が、ぷつんと切れていく。
 その直後、ぐったりと少女が倒れた。
「大丈夫、ゆっくり休んで」
 アンナの言葉に、幻想種が力なくうなずいた。
 続くようにアルテミアが剣を躍らせ、もう一人も解放し、その瞬間を待っていたサイズが回収して後ろへ下げた。
「……本当に、嫉ましい人たち。
 幻想種は返すし、見逃してくれないかしら」
「此処で終わらせるわ。それが貴女のご家族に託された願いだから」
「もう、嫉妬の炎で焼かれ続ける必要は無いわ……」
「……そう。傭兵さんたちもいつの間にか負けたみたいだし。
 本当に妬ましくて羨ましくて恨めしいわ。
 なんでそんなにも他人の命に積極的になれるのかしら?
 どうして私の時h――――」
 アンナとアルテミアの言葉に指を躍らせながら、マリナが自らを討つべく布陣するイレギュラーズを見渡した。
 言葉を噤んで、静かに嫉妬の魔種は全霊を期そうとしていた。
 寛治はそんなマリナの側面に移動すると、ステッキ傘で打撃を打ち込み、そのままの勢いでマリナを引っかけ、思いっきり投げを叩き込んだ。
 砂塵が舞い、受け身を取ったマリナの目が寛治を見る。
 マリナの背後を取ったエクスマリアは、自らの双眸に籠められた力を解放する。
 軽い打撃を喰らわせこちらを向かせた直後、マリナの視線とエクスマリアのそれが交わった。
 自らの身体を傷つける強力な魔眼にマリナの動きはがら空きとなった。
 そこへと吸い込まれるように放たれたのは、驚異的な運が合わさり、絶対的な一撃となったコーデリアの弾丸だった。
 複数の弾丸が魔種の身体を撃ち抜き、血で染め上げる。
 続くように奔りこんだのはネーヴェ。
 脚甲による演舞が連撃を受けるマリナに叩き込まれていく。
 オジョウサンは赤い管を伸ばして魔種の傷口に吸い付き、その精神力を喰らい尽くしていく。


 魔種との戦いは、続いていた。パンドラの加護もいくつか開き、時折、マリナに操られてあらぬ方向へ移動させられたり、仲間をブロックする羽目になったりもあったりした。
 厄介なフェルド・フェールも裏を返せば手数を一つ消費させることになる。
 圧倒的な多勢のイレギュラーズは、順調に魔種との戦いを続けていた。
「ふふ、ふふふ……くす……けふっ」
 全身に生々しい傷跡を刻み、顔をゆがめる魔種は、余裕さを誇示するように笑って、すぐに吐血する。
「――――妬ましい、羨ましい。
 そんなにも、仲間がいるなんて……恨めしい人たち」
 鋭さを失った腕を動かして、魔種が指を躍らせる。
「だから――私の前から消えて――――ッ!!!!」
 甲高い声と共にマリナが自らの魔力を爆発させた。
 それまで不可視だった魔力の糸が、濃密な魔力によって可視化していく。
 それを中途半端に終わらせるべく、寛治はステッキ傘で魔種の鳩尾を大きく打ち据えた。
 エクスマリアはその音を聞いた。ハイセンスが、微かな地響きのような物と、さらさらと転がるウような音を捉え、振り返るようにして、視線を向けた場所で、微かに砂が落ちていく。
「くる、ぞ」
 その直後、戦場の一点に穴が開いた。
 アリ地獄のようなぽっかりと開いた穴が、ぐるぐると渦を巻きながら、イレギュラーズの足を取り始める。
 とはいえ、寛治の一撃のおかげもあってか、驚異的とまでの水準にはなっていない。
 マルクは穴の様子を分析して、すぐにイレギュラーズ全体へと号令を発する。
 落ち着いた対処が、広域を囲む穴の被害を最小限に食い止めた。
「はぁ、はぁ、はぁ……私は、私は……けほけほ」
 その時、マリナが頬を引きつらせながら指を見る。
 ぴくぴくと、疲労からか動きが取れないソレを見たマリナの表情がサッと青ざめた。
「あ、あああ、あぁぁぁあ」
「――――静かニシテ」
 発狂しかけたマリナの声を遮ったのはオジョウサンだった。
「今、アナタの美味しい食べ方、思いツキそうなンデス」
 身動きを封じ込められた魔種は、怯えた様子てイレギュラーズを見渡す。
「いや、いや、嘘……だって、私はもう、そうじゃない!」
 封印術式が、その頃を思い出させたのか、その声は、酷く幻想種らしい物だった。
 サイズは魔種の側面から首筋目掛けて血の色の魔力の刃を帯びた鎌を走らせる。
 怯えた様子の魔種がそれをほとんど自暴自棄のような動きで防ぐが、そんな攻撃で殺しきれるはずもなく、痛撃となって傷をつけた。
 ネーヴェはそんな魔種へと再び脚甲による演舞を見舞う。
 ふらつく魔種へ、続きざまに攻撃を仕掛けたのはコーデリアだった。
 幾度目かの猛攻が魔種に大きな隙を作り出す。
「さぁ、貴女の命に安らかな眠りを……」
 アルテミアは自らの魔力を双剣のうちの一本に収束させていく。
 青い炎を纏った剣が、真っすぐに魔種の腹部に刺さり、傀儡師の目が見開かれる。
 聖なる輝の水晶剣に再び魔力を込めていく。やがて黒いオーラとなって聖なる剣に帯びたそれをそのままに、大きく跳躍する。
 くるくると回りながら、黒き羽をちらしての錐揉み師ながらの振り下ろしは、今度はさしたる抵抗もなく魔種を切り裂いた。
「あっ……ぁぁ……どうして……動かないの……」
 魔種の、どこまでも力のない呟きは果たして聞こえたかどうか、分からない。


 イレギュラーズはその後、残っていたゴーレムを倒し、傭兵達を縛り上げていた。

 そんな中、自らのギフトにより、幻想種の苦痛を肩代わりした黒羽は、ほっと安堵の息を漏らして、穏やかに眠っている幻想種から、視線を死にかけの魔種へ移す。
 魔種へと近づき、手を伸ばす。
「魔種だろうと何だろうと、最期くらい救われた気になったってバチは当たらねぇだろう」
 振れている対象の肉体的、精神的な苦痛をすべて肩代わりする、そんなギフトを持つ男は、そう思っててを差し伸べたのだ。
 きっとそれは、どこかでは救いとなるかもしれない、素晴らしいことなのだろう。
 ――しかし、その手は、あまりにも弱々しい、けれど明確な拒絶を持って振り払われる。
「……やめて。これは、私のもの。
 やっと、やっと、やっとーーーー手に入れた、取り戻した、私のモノ。
 たとえ、あなたのそれが善意だろうと。たとえ、これが、無くてもいいものだろうと。
 もう二度と、私のものを誰かに取られて、なるものですか……」
 体を引きずりながら、少しばかり下がった魔種は、息も絶え絶えに呟く。
 見れば、僅かばかりに流れるは涙。
 睨み据える瞳に見えるは、明確なる殺意。
 魔の者は静かに指を動かした。
 最後を警戒し、戦闘態勢をとるイレギュラーズの目の前で、弱々しき最後が少女だったモノの首へと入っていった。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
マルク・シリング(p3p001309)[重傷]
軍師
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)[重傷]
無限円舞
アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女

あとがき

大変お待たせ致しました。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

それを拒んだとしても、そうしようとしたことは、きっと彼女にとっての救いとなるでしょう。

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