シナリオ詳細
<YcarnationS>そして、砂嵐は晴れるだろう
オープニング
●冷たい牢獄の中
オラクルが倒された。
奴隷商人オハイオは、その一報を苦々しく聞いていた。
もともとディルクを見限り、オラクルについていた商人だ。そのオラクルも倒されたとなっては。自身の立場は風前の灯火である。
追い詰められていた。
ここは、<砂の都>へと通じる道。今は放棄された、かつてのラサの傭兵たちの砦。
奴隷商人オハイオは、自らが雇った傭兵と共にこの場所に立てこもっていた。
「こうなってはしかたがない。手持ちの奴隷をいくつか囮にして、そいつらに気をとられてるうちにこのまま<砂の都>へ向かうのはどうだ……」
「流石は旦那、考えることがえげつねぇなあ」
傭兵は下品な笑みを浮かべた。
「ふーむ。グリムルートは使ってしまった。リーフィングはあまり役に立たなかったな。見せしめがあったほうがいいか?」
「外は砂嵐だ。方向を失って、逃げられることは絶対にない。魔物のえさになるばかり。ここは、今後のことを相談しましょうや、旦那」
「地獄の沙汰も、金次第……全く。仕方がない」
自分のためならば金を惜しまない。
オハイオはそういう商人だった。でっぷりと肥やした身体を椅子に沈める。
●救い
「だい、じょうぶ?」
捕らえられた幻想種たちは、牢で小さく縮こまっていた。商品として扱われているため、ケガをさせられることはなかったが、それでも無理な旅程だった。
ラサの気候は、故郷とは違う。
一人が熱を出していた。
薬を求めたが、商人には取り合ってもらえなかった。
「おうちに、帰りたいよ」
一人がぽつりと言った。
「だめだよ。そんなこと聞かれたら、怒られちゃう」
そういう少女もまた泣いていた。
「お姉ちゃんに会いたい」
「おそとは、どうなってるんだろう……ね」
不意に、見張りが崩れ落ちた。
奴隷たちはびくりと身を震わせる。
「どうしたの?」
「寝てるみたい?」
不意に、ツタが現れた。絡みつくツタが、石造りの牢屋の壁にしがみつく。そして、砕け散るとあっという間に穴をあけた。
あっと驚いている間に、道があった。
花が。
ふわりと、花が点々と浮かび上がっていた。
「どうしよう……」
優しかった。
故郷に近いような風が、誘う。
「ねえ、きっと、ここで死ぬよりはいいよ」
「あっちに行ってみようよ」
仲間に肩を貸した。
これは、好機だ。
かすかな道。
砂嵐が晴れている。
緑の道が、続いている。
きっと、これは故郷に続くはずだ。
手を取り合って、彼らは歩き出した。
●隠れ里の長
「さて」
アルフレート・エーベルヴァインは花を払った。
蜃気楼で作られた花だ。術がとかれ、まるで夢のように散って消えてゆく。
アルフレートは、はラサの砂漠のどこかにある幻想種の隠れ里の長であるという。
蜃気楼を現実にするという力。
この力によって、一瞬にして、砂漠に、”道”ができていた。
「今は故郷を遠く離れ、この地に住まう身なれど。異郷の地で道に迷う同胞達の姿に、私は、心を痛めているのである。
道は示した。夢を現に。私の領分はここまでと心得ている。……どうかここから先は、貴方たちにお任せしたく思う」
- <YcarnationS>そして、砂嵐は晴れるだろう完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月03日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●道標
「すっげー、砂漠に道が出来てる!」
『パッション・ビート』シラス(p3p004421)は目を見張った。
何処までも続く緑色。これが一瞬にして砂漠に現れたのだというのだから驚きだ。
「どんな魔法を使ったんだろう」
「相変わらず凄い魔法だよねーボクは15前に里抜けしたから全然使えなくて今の魔術は自前だけどー」
『受付嬢』クロジンデ・エーベルヴァイン(p3p001736)はしみじみと目の前の光景を眺めた。実の父、アルフレートの大魔術だ。
「まー親父は里に来る前から大魔術師だったらしいけどねー」
「へー、すごいなあ」
依頼の際、アルフレートは何も言わなかったが、確かにクロジンデを一瞬見た。
「ぶぇ~、ついに親父とニアミスとか―家出娘としては依頼と関係ない処で冷や汗ものだよー」
クロジンデは里を出た身だ。父親が話しかけなかったのは、里の長である立場のせいだろう。
「でも、捕まってた子達を助け出したのGJー」
「おっとはしゃいでる場合じゃなかった、幻想種達を助けに行かないと」
「おう、あとは任せとけー、砂漠幻想種の土着っぷりを見せてやるぜー」
「さて、今回の仕事は、拐われた幻想種の救出、それと奴隷商人をとっちめる事だ」
『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)は面々を見渡した。
「僕はこういった人身売買とかは大嫌い。他人をなんだと思ってるんだ」
『赤ん坊の守護者』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は身震いし、憤りに頬を紅潮させる。被害に遭ったもののなかには、年端も行かぬ子供もいるという。
「売るなら自分の身体にして欲しいね」
「まったく、はた迷惑な話だ」
義弘の声は静かだが、怒りを押し殺しているような重みがあった。任侠として生きてきたが、組も”道理”はわきまえていた。
「うちの組じゃ、オンナとクスリは御法度でな。こういう手合いには容赦しねぇ。全力で叩き潰さねぇとな」
「わるい人の、かってな事情に、幻想種の人たちが、巻き込まれていいはずがないよ……!」
『孤兎』コゼット(p3p002755)は静かに怒っていた。
コゼット自身、かつて辛い思いをした。虐げられ、奴隷商人に売られかけ、それでもなんとか逃げ出した。けれど、一番に頭に浮かんだのは復讐心ではなかった。
「まってて、わるい人達、やっつけてくるから」
助けたいと思うのは、やはり変わったからだろうか。
(リーフィングに首輪を付けた男、まだ幻想種を捕えていたか……逃げられると思うなよ……)
『解放する者』レオンハルト(p3p004744)はPledge・Letterを強く握りしめた。オハイオは断罪する。裁かれなくてはならない。
「緑の美しい所に住んでいたのに、こんな砂漠を歩いているだなんてな……早い所保護してやらねば……」
ジェラルド・ジェンキンス・ネフェルタ(p3p007230) は未知の遠くに気遣わしげな視線をやった。いつでも救えるように、救急箱の物資を確かめる。
(思えば自分もそうだった)
ジェラルドはふと養父に思いをはせる。なんとなく、クロジンデの懐かしそうな顔をみて思い出したのだった。
(もう半世紀以上昔の話だが、その時助けてくれたのは戦う医者だった)
知らず力がこもる。
「……今度は俺が、助ける番だ」
「辛い思いをしている人たちを助け、世を乱す悪を討つ! それがオレの務め!」
『帰ってきた牙』新道 風牙(p3p005012)はぶんと大剣を掲げる。
「さあ、人助けして、笑顔を見るぞー!!」
やることは、至ってシンプル。風牙を見ていると、どこか沈んだ空気がさっと消え失せてしまう。
イレギュラーズたちは声を合わせた。
●進む道
「草の上を通ろーそれでも魔物が来るなら仕方ないけどねー」
イレギュラーズたちは道を急ぐ。
「まずは現場へ急行!」
風牙は先陣を切り、道の上を走る。考えなしのことではない。
(早く着けば着くだけ、幻想種たちに治療も施せるし、奴隷商人たちを彼女らの位置から遠くで抑えることができる!)
風牙の足運びは軽やかだった。
不思議なことに、緑の道の植物が砂を払ってくれている気すらする。
「うーん。誰だか知らないけど、わかりやすい道をありがとう! 会えたらお礼を言いたいな」
風牙は笑顔を見せた。
(行き届いてるよねー)
クロジンデは舌を巻く。里の長は伊達ではない。
「当然の事だが、彼女等はこの道を通ってこちらに向かっているし、奴隷商人共もこちらに来ているはずだ」
義弘は走りながら神経を研ぎ澄ませていた。
足音。呼吸音。砂の震える音。
……サンドワーム。
第三勢力。だが、はるか遠く。まだこちらには気が付いていない。
「あ、あそこだ!」
子どもたちが見えた。
ムスティスラーフはふわふわと浮かせた体を慌てて着地させた。足腰を労る飛行魔法。高度をあげれば高く飛べるが、それだけ負担もかかる。
幸いケガはない。それよりも心配なのは逃げ伸びる子どもたちだ。
よたよたとしている彼らは、怯えるように立ち止まる。
(捕まえられて、怖い思いをしたと思う。今だって不安で堪らないはずだ、僕らが味方かもわからないはず)
ムスティスラーフは商人たちへの怒りを押し込め、拳にぐ、と力を込めた。
「こんにちは!」
ムスティスラーフは笑顔で呼びかける。
まず、この言葉を贈る。そう決めていた。日常を取り戻すための第一歩。
心の砂嵐を払えるように。敵意がないことを示すために。朗らかに笑った。宝石の角がキラキラと輝く。
「やあご同輩、見ない顔だけどどうしたのー?」
同じ幻想種であるクロジンデが、姿を現す。
「砂漠が初めて困ってるのなら砂漠幻想種のボクが砂漠でのご享受するよー」
ひらりひらりと持ってきたのは日よけの布と水筒だ。依頼を受け、ローレットでしっかり用意していたのだ。
「砂漠は湿度が無いから陽射しを遮れば熱くないー」
クロジンデは用意していた水筒を年長のものに渡す。
「水筒の水は急ぐと受け付けないから口が乾かない程度に―砂は暑いから緑の道の上に居てねー」
ムスティラーフの我が見えざる手が、ひらひらと日よけをかぶせていく。
「わぁ」
幻想種たちはくすぐったそうに声を上げた。
砂がざわめく。奴隷商人たちがやってくる。幻想種たちの表情がこわばった。
「んー大丈夫だよー」
クロジンデは表情を崩さない。
「もう大丈夫だぞ、よく頑張ったなお前ら……でも話は後、ついてきて」
一人が安心して、ぐらりと崩れそうになる。シラスはすばやく駆け寄り肩を貸した。
「この砂嵐の中よく頑張った。もう大丈夫だ」
レオンハルトは優しく隣に膝をついた。そっと幻想種の額に手を当てる。銀腕の知。柔らかな暖かい光だ。
「おー《銀腕の知》だねー」
クロジンデが瞬いた。
「マシにしただけだ、ちゃんと治すには医者の言うことをよく聞き休むといい。先に悪人を裁きに行く、また会おう」
レオンハルトは立ち上がり、ジェラルドにバトンタッチする。
「ほら、助けに来たからもう大丈夫。すぐに家に帰してやるからな」
ジェラルドは、子どもたちと共に後ろに下がる。
義弘はその光景を背に、前へと進む。
(……俺のナリだと、間違えられそうだからな。怖がらせる必要もねぇ)
互いに任せたぞ、と、無言のうちで視線のやり取りがあった。
子供たちが無事な様子を見てとった義弘は、わずかに優しい目をしていた。
砂埃が立ち上る。
子どもたちの横を、ふわりと兎が横切っていった。わざと目立つように、姿をさらす。緑の道を堂々とまっすぐに歩いてゆく。
兎の耳が、ぴりぴりとする悪意を察知する。
「貴様は……」
「やーい、でーぶ。捕まってた幻想種の人たちは、あたし達が逃がしたよ……!」
コゼットは声を張り上げる。跳挑発止。一度大きく飛び跳ねた。
「返してほしかったら、力ずくでかかって、きなよ」
「こんにちは悪党! 武器を捨てて降参するなら今のうちだぜ?」
風牙は大きく声を張り上げた。
義弘は立ちふさがる。一歩も、後ろに行かせる気はない。
「捕まえろ! 売り飛ばしてやる」
●解放への戦い
「いきなり殴りかかったら乱暴者みたいだろ? だから一応降伏勧告!」
風牙はにかりと笑う。
もちろん、相手が素直に降参するとは思っていなかった。ならば、心おきなく戦える。
「さて、じゃあ始めるか!」
「いく、よ……」
コゼットは敵を引き付ける。大振りの動き。自身を獲物と見せかけながら、ぎりぎりまで引き付けて姿勢を反転する。傭兵の攻撃は大きく空ぶった。
ぐ、と踏み込み、重心をのせ、風牙は思い切り相手へと至った。クイックアップを用いて、大剣を陽動に。相手も傭兵だ。防御の姿勢をとる。しかし、……当てられさえすればよい。風牙は楔を打ち込んだ。
「ぐあっ、なんだ!?」
対象に己の気を打ち込み、その動きを阻害する技である。
呼吸は乱さない。サンドワームが寄ってきてしまう。それは別の仲間が引き受けている。
「容赦する必要はねぇよな。行くぞ」
義弘は持前の腕力で、傭兵を相手取った。狙うは一気に3体。戦鬼暴風陣。拳の勢いは小さな竜巻を作り出した。
ムスティラーフは大きく息を吸い込み狙いを定める。傭兵たちを無視して、オハイオの方に。思い切り緑の閃光が貫いた。
「ぐええ! なんだこれは!?」
「逃げても逃げなくても、逃がさない」
むっち砲。
演出はコミカルながらに、その威力は恐ろしいものである。それが余計に奴隷商人の怒りを買った。
●もう一つの戦い
戦いの気配に、子供たちは震えている。しかし、そこにはイレギュラーズたちがいた。
「オッケー、ここまでくれば大丈夫ー」
クロジンデは務めて明るく言った。メガ・ヒール。癒しの力だ。
「これはおまけー」
おまじないがわりに、アウェイニングを披露する。クロジンデの様子を見ていると、本当に大丈夫な気がしてくる。
「よく頑張ったな」
ジェラルドは癒しの光を捧げ、ポーションを飲ませる。
何か手伝うことはないかと、一人が起き上がろうとする。ジェラルドは押しとどめ、熱を出した子どもの額に雪うさぎをのせる。
「ほら可愛いだろ? こんな砂漠にいても溶けない不思議なうさぎだ。可愛がってくれよ?」
「ってわけでここで待機してるのがお仕事だよー」
子どもは笑顔を見せた。
うねる大地が、ワームの接近を告げる。
横面からはサンドワームが迫っていた。
「気をつけてね、皆なら楽勝だろうけどさ」
シラスは言い置き、サンドワームのもとへと向かう。
「進路を逸らす。みんなを頼む」
子どもの一人が、レオンハルトの裾をつかんだ。
気を付けて、と言った。レオンハルトは頷いた。
レオンハルトは剣を構え、飛翔斬を繰り出した。飛ぶ斬撃が進路を阻んで注意を引いた。
シラスは素手に炎をまとわせ、相手にぶつける。サンドワームが炎に包まれた。
レオンハルトは不思議な親近感を覚えた。罪人を焼き尽くすような炎。……コントロールされた怒り。
「耐える……耐えるぞ!」
零域。シラスは並外れた集中を維持している。レオンハルトは押さえを任せ、二度の飛翔斬を繰り出した。
風に乗った炎がまっすぐにワームを叩きのめした。
●報い
「バカ者が! 何をしている! 庇わんか!」
ムスティラーフはむっち砲を繰り出し続ける。
攻撃が一斉にムスティラーフに向きそうになったが、コゼットの動きが変化する。
(幻想種の人たちが、無事に逃げれたか、しんぱいだけど、あたしは、あたしの出来ることを、するよ)
白兎演舞。
美しい舞いに乗せて、攻撃は苛烈さを極めていく。きらめく光がゆらゆら揺れる。その隙にムスティラーフは距離を取っていた。
「あの光、なんだろう」
読書灯の明かり。幻想種たちには遠くて何かはわからなかったけれど、心地よいものに思えた。
苛烈な攻撃が、コゼットの体力を削ってゆく。
(だいじょうぶ……)
仲間がいてくれるから。
「もう誰も失わせない、この夢を現に」
ムスティラーフは祈りの構えをとる。蒼碧の夢。祈りと共に角から放たれる蒼碧の光。ロスティスラーフ、ヤロスラーフ。去っていった者たちの顔が浮かんだ。
相手は不思議な角度から衝撃を受け、のけぞった。
ファントムチェイサー。……クロジンデの攻撃だ。すると、子どもたちは心配ない距離に至ったらしい。
「おー」
遠くでクロジンデの明かりがひょいひょいと動いていた。コゼットに返事をするように。
「よしっ」
義弘はスーサイド・ブラックを繰り出した。生命力と引き換えに、鋭い毒が傭兵をむしばむ。
「本当に、素手なのか、こいつは?」
「どう思う?」
恐ろしい怪力。磨き抜かれた一つの芸術。鬼が宿るか、龍が宿るか。並みならぬ気迫がこもっていた。
「ここから先は通さない! 幻想種の子たちには、もう一歩も近づけさせない!」
風牙の紫電一閃。砂漠に紫電が立ち上った。
シラスの刃は形状を次々と変えていく。シェイプシフター。
サンドワームの噛みつきが空を切った。
相手に大きな隙ができた。
(よし!)
隙を誘う攻撃こそ、シラスの得意とするところだ。
シラスの煉獄が、サンドワームの1体を焼き尽くした。
もう一体がシラスを餌食にしようと迫る。シラスは低空飛行で一気に上昇し、空中へと逃れた。レオンハルトの一撃で、サンドワームがどうと倒れた。
寄り集まってきた群れが急いで退散しようとしている。
「幻想種の方向に行かないよう、俺が守る。加勢に行ってくれ」
「ああ」
レオンハルトは頷いた。
ふいに、ヴェノムクラウドが傭兵たちを包み込む。
「俺は医者だから救うのが仕事だ」
ジェラルドはまっすぐな怒りをにじませていた。
「仲間が痛めつける程度で許すなら俺もお前達を救ってやらなくもないが……外道は1度、痛い目見なきゃ分からないからな……」
ジェラルドの声は裏返る。
「観念して痛い目見なさい!!」
オハイオの側では、傭兵の一人が崩れ落ちる。イレギュラーズたちの強さは圧倒的だった。
「まぁどの道、みんなが生きて帰すかわからないけどね! アタシも死人は治せないから!」
「投降するなら聞かなくもないぜ?」
風牙が告げる。だが、そうする気配もない。敵の感情の色はどす黒いまま。
サンドワームが退いてゆく。仲間が勝利したのだろう。予感を感じ、コゼットはすっと後ろに引く。
(まきこまれても、しらない。むしろ、食べられちゃえば、いいとおもう)
なおも抵抗しようとした傭兵の一人が、サンドワームの撤退の波に飲まれた。自業自得の末路だろう。
「くそっ」
奴隷商人が逃げようとする。
「逃がさない!」
しめたものだ。ムスティラーフはこれを狙っていたのだ。素早くオハイオに接近した。終極幻想に載せて告死をささやく。
破壊するもの。肉体、魂、儚い命。恐ろしく条理を思い知らせるような一撃。
「逃げても逃げなくても、逃がさない」
傭兵の一人が逃走しかけ、砂に飲まれる。ジェラルドはとっさに手をつかんだ。
「世話が焼けるわね!」
歯を食いしばり、なんとか砂から引き上げる。
「何をしている!」
オハイオは叫ぶ。
「まだ暴れられそうで良かった。リーフィングたちの苦悩はちゃんと精算しないと気が済まんのでな」
レオンハルトが砂煙の中から現れた。戦鬼暴風陣。レオンハルトの起こしたものだった。
「お前の命は、もう金貨では紡げないぞ、オハイオ」
レオンハルトが告げる。仲間たちが頷く。義弘、コゼット。風牙。下がればムスティラーフとクロジンデ。
「短い命が積む悪行が、彼女らの長い人生に影を落とす、これほどの理不尽もない」
「ぐっ」
背後にはサンドワーム。
逃れるすべはなかった。斬り合いとなった。オハイオの斬撃は乱れ、破れ、そしてついに膝をつく。
「応報よここに」
レオンハルトは漆黒の斬首剣を構えた。
落椿。
オハイオの首が落ちる。
●幻は消えゆく
砂に沈みゆく罪人を見て、レオンハルトはそっと目を伏せた。
「どうする?」
ムスティスラーフは最後に残った傭兵を振り返る。
「依頼主が死んでたら働く意味も無いだろうしね、被害を広げなくて済むし。それとも手伝ってくれる?」
「じゃ、おとなしく捕まってくれ」
風牙は生き残った傭兵に縄をなう。
「きっちりオトシマエつけるんだな」
義弘は言った。
「せいぜい、教訓にすることね」
ジェラルドは、傭兵に軽い手当をしてやった。緑の道はゆっくりと枯れ、砂漠に埋もれてゆく。まるで一夜の幻のように。
「良い戦いだったぜ」
シラスは義弘と軽く拳を合わせた。同じ拳闘する者同士。言葉を交わさずとも、相手の言わんことが分かった。
「おまたせー」
幻燈を掲げたクロジンデが戻ってくる。距離をあけて連行していく。
「こっちの治療はうけもつよー」
「移動できるかな?」
コゼットは要塞からいくつかの物資を持ってきていた。それと、いくつかのラクダを引いてきていた。子どもたちを乗せる。
「お姉ちゃん、ありがとう」
コゼットは頷いた。
「よっし、じゃあ戻ろっかー」
「お兄ちゃんたちは?」
「ああ、後から追ってくるよ。後始末をしたらさ」
シラスは警戒を緩めず撤退の誘導へと移る。
「あんなふうに、強くなりたいなあ……」
幻想種の一人が言った。
砂漠の日は沈みかけており、乳白色の空にはうっすらと星が瞬いていた。
「助けたぜー親父ー」
クロジンデはそっとつぶやいた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
こうして彼らは帰路へとつき、無事にそれぞれの家族と再会することができたのでした。
幻想種たちの救出、奴隷商人らの討伐、お疲れ様でした!
目的を達したのみならず、イレギュラーズたちのこまやかな気遣いは、とらわれていた幻想種たちの心の支えとなったようです。
砂漠での冒険、お疲れ様でした。
機会があったらまた一緒に冒険いたしましょう。
GMコメント
●
幻想種大好き布川です(ほんとだよ)。
今回の依頼は幻想種の救出&討伐依頼です。
●目標
幻想種(奴隷)の全員の保護、奴隷商人オハイオの討伐。
魔物は討伐してもしなくても成否にかかわりありませんが、幻想種は保護する必要があります。
●状況
ラサの砂漠のとある城塞。
使われなくなった砦。
目立つランドマークがなく、迷いやすいことから、本来は道を知るもの以外は接近が難しい場所。今は、アルフレート・エーベルヴァインの協力により緑の道ができている。
緑の道に導かれるように、奴隷たちが逃げ出してきている。奴隷商人たちも、それに気が付けば追ってくるだろう。
また、魔物も数体姿を現している。
●敵
奴隷商人『オハイオ』
商人。戦闘能力はそれほど高くはなく、遠距離から魔術を使う。
傭兵×3
オハイオの味方をする、ラサの傭兵。金さえ積めば何でもやる連中。とはいえそれが稼業であるので、寝返りは難しいだろう。
魔物『サンドワーム』×1
10mはあろうかという巨大なワーム。砂中を這い、引き込んで噛みつく。
振動と熱により獲物を感知する。敵味方の区別がない。
体力が少なくなると逃走する。
この魔物は、倒さなくても失敗にはならない。もちろん倒しても良い。
●奴隷(救出対象)
幻想種の奴隷×4
これで全員。10代前半から後半のものたち。緑の道を頼りにイレギュラーズたちの方へと向かっている。
一番幼いものが熱を出しており、ふらついている。
開始地点しばらく安全だが、時間をかけると危ない。
とくにひっかけなどはありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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