PandoraPartyProject

シナリオ詳細

かの男に終焉を
かの男に終焉を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●邪知暴虐男爵に迫る最期と執着した者の狂気
 幻想国内のとある村。
 のどかで小さなこの村を治めるモンタン・シャンバ男爵に、死の足音がひたひたと迫っている。
 シャンバ男爵は、眉間に深く刻まれた皺、世の中全てを睨めつけているかのような鋭い眼光、灰色の髭から見え隠れする薄い唇……と、のどかな村の光景には到底似つかわしくない容貌の持ち主だった。
 悪評はその容姿にとどまらない。
 自分の意に沿わない使用人にはその感情の赴くままに折檻を加え、一方的に暇を出す。
 彼の機嫌を取り損ねた空気の読めない商人は村での商売を禁じられ、つまみ出された。
 この村における彼の振る舞いは、まさに「邪知暴虐」そのものだった。

 ただ、村の者たちにとって恐怖の象徴たるシャンバ男爵は、同時に「普遍の象徴」でもあった。
 誰でも、普通の暮らしを普通に維持していくには普通に生きていけるだけの金が要る。
 商売勘とでも言うべきか、男爵は金を稼ぐ事に関してはそこそこ頭が働くようで、彼の手腕が村に適度な豊かさをもたらしていた事もまた事実だった。

 しかし、人の命は儚い。
 ここのところ、男爵は床に伏せるようになった。
 眉間の皺は苦悶で深まり、眼光はすっかり曇り、髭は伸び放題、唇の血色も悪い。
 男爵は、己の死期が近い事を悟る。

 ある日、男爵は息子・シャルルを寝室に呼んだ。
 シャルルは死別した先妻との子で、男爵にとって正統なる後継者だ。
 勤勉で眉目秀麗、寄宿制の学校で勉学に勤しんでいた彼は人当たりも良く皆に好かれるまさに好青年。
 学校を卒業してからは、男爵の右腕として村政を支えてきた。

 だが、そんなシャルルを、男爵は一度殺そうとした事がある。
 あれはまだシャルルが学校に通っていた頃の話だ。
 当時、男爵は後妻との間に生まれた出来の悪い娘・マチルダと商人のノーマンを結婚させ、家督を譲ろうと考えていた。
 そこで、ノーマンと結託してシャルルを謀殺しようとしたのだが、これを知った使用人がローレットに駆け込んだ結果イレギュラーズたちに阻止された。
 それからというもの、まるで全てを知った上で何食わぬ顔で暮らしているかのように見えるシャルルに、男爵は底知れぬ恐怖と後ろめたさを感じてきた。
 そして、それがようやく男爵の目を覚まさせたのだ……もうじき死ぬという、この期に及び。

「父さん、シャルルです。ご用は何ですか?」
 シャルルは男爵の枕元に椅子を寄せ、腰掛ける。
 男爵は瞼を持ち上げ、曇った瞳に愛息の姿を映しながら口を開いた。
「シャルルよ、儂はもう持たん。シャンバ家の地位も財産も、お前に全てやる。村を、頼んだぞ……」
「父さん……」
「許せ、シャルル。魔が差したとはいえ、儂はお前を……」
 心から懺悔しようとしている父に、シャルルは寂しそうに微笑む。
「その事はもう良いのです。僕はこうして生きていますから。これは、天が父さんを咎人にすまいとして手心を加えて下さった証です。父さんの僕に対する徳と愛が天に届いたのですよ」
 許しを乞う瀕死の病人相手に「決して許さない」と吐き捨てる程シャルルは狭量ではない。
 シャルルの言葉は、死ぬ時くらいは穏やかな気持ちで逝かせてやろうという彼なりの気遣いだった。
「本当に、儂には過ぎた息子だ……」
 男爵は目尻の皺に涙を伝わらせる。
 そして、その涙が枕に滲んだ時……彼は静かに息を引き取った。

 親子の感動的な最期の対話をドア越しに盗み聞く者がいた――ノーマンだ。
(くそっ、シャルルの暗殺が失敗したかと思えば、今度は男爵が病に倒れ、挙げ句家督をシャルルに譲るだと!? ふざけるな! 誰がこの家と村を富ませるのに一役買ったと思ってるんだ!)
 ノーマンは双眸をぎらつかせながら地下の倉庫に向かう。
「やっと貴族の地位を手に入れられるところまで来たんだ……そう簡単に諦めてたまるか!」
 商人であり、貴族という身分と地位に強い憧れを持つノーマンにとって、マチルダの婿となりシャンバ家を継ぐ事は彼の人生設計から絶対に外せない事だった。

 「貴族」に対する異常なまでの執着心は、ノーマンを狂気の殺戮者へと変貌させる。

 地下室に入ったノーマンは、更にその奥の小さな隠し戸を開けた。
 隠し戸の先は酒樽一つ分程の広さを持つ物置となっており、水平2連銃身の2連射式散弾銃が4丁、立て置かれている。
 ノーマンはそれをごっそりと抱え、地下室を出た。

 その頃、シャンバ男爵家に長らく住み込みで仕える使用人・ロイは、市場から仕入れた物資を地下室に運び込もうとしていた。
 彼の仕事は、日々市場と男爵邸を荷馬車で往復し命じられた物資を仕入れてくる事だ。
 ロイは仕入れた穀物の袋を重そうに抱えながら地下室に向かう。
 そして……彼は遭遇してしまった。
 殺意に狂ったノーマンに。
 ノーマンはロイに気付くや否や問答無用に散弾銃の引き金を引く。
 凄まじい音量の銃声が邸内にこだましたが、ロイは倒れない。
 代わりに、彼が抱えていた麻袋から大量の麦粒が流れ出した。
「ひっ、ひいぃ!」
 ロイは咄嗟に袋をノーマンに投げつけると、脱兎の如く駆け出す。
 目指すはそう……ローレットだ。

「ちっ、逃したか」
 ノーマンは、階段を上り、廊下を歩き、厨房に足を踏み入れ料理番を捕まえると、彼の喉元に散弾銃の銃口を突きつけながら喚いた。
「殺されたくなかったら、この銃でシャルルの頭を吹っ飛ばせ!」
 続いて洗濯係の女を同様に脅して銃を握らせ、最後に彼はマチルダの部屋に押し入る。
「いいかいマチルダ、このままお兄さんがこの家を継いでしまったらどうなるかなぁ? 君みたいな阿呆は僕との婚約を破棄させられて、豚のように醜く太った貴族の中年男の元に嫁がされるのがオチだ。それが嫌なら、これでお兄さんをぶち殺せ!」
 銃口を突きつけられながら散弾銃を押し付けられたマチルダは、混乱して涙と鼻水だらけの顔を晒しながらもノーマンに従い銃を持って部屋を飛び出した。

 一方、階下からの銃声を耳にしたシャルルは男爵の部屋を出る。
 そして、廊下の角を曲がった先の細い壁板を一枚外し、中からノーマンが所持するものと同じ散弾銃と弾丸の入った小箱を取り出した。
「いよいよこれを証拠品として白日の下にさらす時が来たようだが……その前にひと働きしてもらわなくてはね」
 彼が取り出した銃は、かつてノーマンがシャルル暗殺のために雇った賊に与えたもので、イレギュラーズが討伐してくれた際に証拠の品として持ち帰ったものだった。
 現状、シャルルにとってノーマンに対抗しうる武装はこれだけだ。

●狂気を止められるか
 泡を吹きながらローレットに駆け込んできたロイを、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)がイレギュラーズたちに引き会わせた。
「聞けば聞く程、何だか大変な事になってしまっているのです……! ですが、事前情報ならボクもある程度持っているのです!」
 ユリーカはシャンバ邸の見取り図をテーブルに広げる。
「見取り図はあるのです! あとはロイさんに説明してもらうのです!」
 ロイは息を整えながら早口に説明を始めた。
 彼の話と見取り図によると、シャンバ男爵邸は
 ・地上3階、地下1階建て
 ・地下階には地下室のみ、倉庫として利用されている
 ・地上階はどの階も基本構造は同じで、中央を伸びる大廊下の左右に部屋が並んでいるという造りになっている
 ・地上1階には主に来客用の部屋とプレイルーム、食堂、そして使用人らの部屋と厨房や洗濯場がある
 ・地上2階には男爵や家族の居室、ダンスホール、浴室がある
 ・最上階は全て来客用の寝室で、現在は全て空室となっている
 ・階段は玄関を入ってすぐ、一箇所のみ
 ・トイレは地上階の各階にある
 ・窓は各階各部屋にある
 そうだ。
「わ、私がノーマン様に撃たれましたのは地下と地上階を繋ぐ階段でして、恐らくノーマン様はそのまま階段を上がって……私にはノーマン様の目的は分からないのですが、また坊っちゃんを狙おうとしているとしたら……ああ、坊っちゃんが危ない! 皆様、お願いです、お願いです!」
 ユリーカも立ち上がり、イレギュラーズたちを促す。
「ロイさんが馬車を用意してくれているのです! 皆さん、頑張って下さいなのです!」

GMコメント

大変ご無沙汰しております、マスターの北織です。
この度はオープニングをご覧になって頂き、ありがとうございます。
以下、シナリオの補足情報ですので、プレイング作成の参考になさって下さい。

●依頼達成条件
 シャルル救出とノーマンの阻止
 ※ノーマン及び散弾銃所持者については生死を問いませんが、シャルルが死んだ場合はたとえノーマンを捕縛もしくは殺害したとしても任務失敗となります。
 ※なお、男爵はオープニング内で他界しましたので保護の必要はございません。遺体を無残に撃ち抜かれたとしても達成条件に影響しませんのでご安心下さい。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は起こりません。

●基本的な状況
〈皆様の脅威となり得る存在〉
 ・ノーマン
 今回の討伐対象であり、当然ながら皆様の「敵」という位置付けです。
 完全に狂気に振り切れておりますので、説得の類は通用しません。
 ・料理番
 筋骨隆々の男性です。
 ノーマンに脅迫されシャルル殺害に駆り出されていますが、元々男爵家への忠誠心は強くありません。
 狩猟の心得が多少あるので、散弾銃の扱いには慣れています。
 ただ、「俺は何でこんな事を……」と疑問を抱く程度の良心は持ち合わせていますので、説得の余地はあります。
 ・洗濯係
 痩せた中年女性です。
 非常に気が小さく、ノーマンに殺されたくない一心です。
 銃はまともに扱えませんが、精神的にかなり追い詰められているので「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」状態となる恐れが十分あります。
 ただし、身の安全が保証されれば大人しくなる可能性はあります。
 ・マチルダ
 洗濯係の女と同様、精神的に追い込まれた状態にあるので躊躇なく引き金を引くと思われます。
 射撃の心得は全くありませんし、運動能力もなかなか破滅的でかなりの運動音痴です。
 お世辞にも賢いとは言えない女性なので、果たして説得したところで退くかどうかはあまり期待しない方が良いでしょう。
 ・ノーマンらの武装
 全員水平2連銃身の2連射式散弾銃が計4丁です。
 所持弾数は全員不明です。
〈屋敷の間取り〉
 オープニングにもございますが、再度明記いたします。
 ・地上3階、地下1階建て
 ・地下階には地下室のみ、倉庫として利用されている
 ・地上階はどの階も基本構造は同じで、中央を伸びる大廊下の左右に部屋が並んでいるという造りになっている
 ・地上1階には主に来客用の休憩室とプレイルーム、食堂、そして使用人らの部屋と厨房や洗濯場がある
 ・地上2階には男爵や家族の居室、ダンスホール、浴室がある
 ・最上階は全て来客用の寝室で、現在は全て空室となっている
 ・階段は玄関を入ってすぐ、一箇所のみ
 ・トイレは地上階の各階にある
 ・窓は各階各部屋にある
〈シャルルの位置〉※こちらはPL情報となります。
 シャルルは現在ノーマンらと同じ散弾銃を携行し、屋敷の2階を見つからないように駆け回っています。
 2階ダンスホールである程度応戦した後、最上階の空き部屋を転々としながら潜伏し、時間を稼ごうと考えているようです。
 なお、シャルルが持っている散弾銃の残弾数は計6発、2連銃身のため3回しか撃てない計算となります。
 彼は決して射撃の名手ではなく、多少銃を手にしたことがある程度で、使い方は知っているものの的に当てられるだけの腕前ではありません。
 そのため、たった3回のチャンスでノーマンらを止めることはまず不可能ですので、皆様の救出が不可欠です。

●その他参考情報
 時間帯は昼間、窓から陽光が差し込んでおりますので屋敷の中は明るく、視界には困らないでしょう。
 屋敷の外は微風ですが、室内であれば無風です。
 気温・室温共に「高くも低くもない快適な温度」です。


それでは、皆様のご参加心よりお待ち申し上げております。

  • かの男に終焉を完了
  • GM名北織 翼
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月23日 22時20分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジェイク・太刀川(p3p001103)
『幻狼』灰色狼
津久見・弥恵(p3p005208)
嫣然の舞姫
アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
流転騎士
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海武闘
メリー・フローラ・アベル(p3p007440)
躾のなってないワガママ娘
ゼファー(p3p007625)
ルミナ(p3p007640)

リプレイ

●序
 けたたましく蹄を鳴らし走らせる荷馬車の上で、『流転騎士』アリーシャ=エルミナール(p3p006281)がロイに確認する。
「シャルルさんらを含め、現在屋敷にいる人について名前や特徴を教えてもらえますか?」
 他のイレギュラーズたちも耳を傾ける中、ロイは馬を繰りながら答えた。
「はっ、はい。坊っちゃんとノーマン様の他に、この時間ですと料理番のボブと洗濯係のハンナ、それから坊っちゃんの妹のマチルダ様がいる筈です。坊っちゃんは痩せ型で背が高く色白、鳶色の髪に緑の目、優面ですがとても頼もしいお方です。ノーマン様も背が高いですが、あのお方はがっしりとした体型で金髪に青い目、無精髭を生やしそれはもう女好きする外見ですが、屋敷の者は皆ノーマン様をあまり良くは思っておりません……冷たくて乱暴な物言いをなさるので。ボブは寡黙で狩猟が得意、大柄で体つきも立派なものです。ハンナは気が小さく背も低く、ひどく痩せております。マチルダ様は、その……」
 ロイは言い淀みながらも断言する。
「ド、ドレスを着た肥えた豚のようなお方ですっ。あのお屋敷にはそのような風体の者はマチルダ様以外におりません!」
 邸内の人間の特徴を聞きながら、『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)は苦々しく独りごちた。
「ノーマンは男爵の後釜を狙っていたようだが、貴族の何が良いのか……」
「きっと、今のノーマン様は何が良いのかさえ見失っているかもしれませんね。こんな無謀な行動を取るなんてとても正気とは思えませんから」
 『嫣然の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)の双眸も憂いを帯びる。
 狂気に支配された殺戮者に渡す引導は、慈悲か死か……激しく揺れる荷馬車で、イレギュラーズたちは綿密に作戦を練りながら屋敷に向かった。

●潜入
 重厚な玄関ドアを前に、『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は邸内に渦巻く人間の感情を慎重に探る。
 恐怖を醸し出しているのは何処か、怒りを噴出させているのは何処かと。
「僕らと同じ高さと上の階に強い恐怖の感情、上の階には他に弱い恐怖と激しい怒りの感情もございます」
 幻は声を潜めて仲間たちに伝えた。
「怒りの感情はノーマン様で間違いないでしょう。他の感情が気になるところではございますが、僕の存じ上げるシャルル様は馬車を銃撃されても冷静さを保ってらっしゃる程の方でしたので、上の階から感じられる弱い恐怖は恐らくシャルル様ではないかと思われます」
 幻の分析を更に確証の高いものにしたのは弥恵と『躾のなってないワガママ娘』メリー・フローラ・アベル(p3p007440)だ。
 弥恵はそっと玄関ドアを開け、邸内に意識を集中させる。
「歩き回る足音と金属の触れ合うような音……1階と頭上にそれぞれ複数聞こえます。銃所持者がうろついているという事でしょうか」
「がっしり体型の脚、これはノーマンね! それから……」
 天井を透過した先に大股で過ぎ去る男の脚を見たメリーはそう声を上げつつ1階の状況を把握しようと目を凝らした。
 しかし、1階は使用人の部屋が多く物品も溢れている。
「部屋と遮蔽物がやたら多くて良く見えないわ。近付いてドア越しに確認した方が良さそうね」
 メリーが邸内に足を踏み入れたタイミングで、イレギュラーズたちは無言で頷き合いそれぞれの配置に散った。

●説得
 屋敷1階。
 メリーと共に進むのは弥恵、アリーシャ、ゼファー(p3p007625)そしてルミナ(p3p007640)だ。
 アリーシャは剣をしまいプレイルームへ進入、弥恵は音の反響を探り隠し部屋などがないかを確認する。
「構造は見取り図通りのようですね」
 ルミナは端の部屋から順に、ゼファーはメリーや弥恵からの情報を頼りつつ周囲に耳を欹て、血や火薬の臭いがしないか警戒しながら進んだ。
 プレイルームを探索し終えたアリーシャは食堂に入り、それから厨房に脚を踏み入れる。
 ――と、その時。
「ズドン!」
 いきなりの銃声がアリーシャの鼓膜を震わせた。
 咄嗟に調理台に身を隠しながら、アリーシャは声を上げる。
「私はローレットから来た者です」
「……ローレットだと?」
 野太い男性の声が返ってきた。
(確か、ノーマンは2階にいる筈。となれば、この男性の声はボブさんという事になりますね。話が通じれば良いのですが……)
「この通り、武器は所持していません」
 両手を挙げながら、アリーシヤは恐る恐る調理台から身を出した。

 一方、メリーは洗濯場の前で足を止める。
(今の銃声も気になるけれどこっちにも人がいるわ。聞いた特徴からしてハンナだろうけど……気を付けて、こっちに銃を構えてる)
 メリーは視認出来る位置にいたゼファーとルミナに念話した。
「ローレットから来た者です。私たちには敵意はありません。そちらが撃たない限り、こちらも危害は加えません」
 ドア越しのルミナの言葉でハンナの表情が変わった事をメリーが確認する。
(いいわ、あとひと押しね)
 今度はゼファーが口を開いた。
「ノーマンなら『狂気に駆られて次期当主を殺めた使用人、それに断罪の鉄槌を下したのは男爵の娘の婚約者でした』なんて、事を丸く収めるのに都合の良い筋書きを用意してるかもしれないわよ? さて……そうなったとして割を食うのは……誰かしら?」
「でも……ノーマン様は坊っちゃんを撃たなければ私を殺すと……」
 ゼファーの話が心に響いたのか、蚊の鳴くような声が洗濯場から返ってきた。
「万一襲われても、私たちが可能な限り貴方を守ると約束します。どうか落ち着いて下さい……開けますよ?」
 銃撃を警戒しながらドアを開けると、ルミナに身の安全を約束されたハンナが巨大な桶から顔を覗かせる。
「ぼ、坊っちゃんはお怒りなのでは……命が助かっても、私はきっと官憲に突き出されます……」
 声を震わせるハンナに、ゼファーは優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。何せ嘗ての事件を乗り越えて尚お優しいシャルル様ですもの、許してくれるわよ」
 ハンナは銃を床に置き、そろりそろりと桶の陰から出る。

 厨房でボブと対峙するアリーシャは、すぐに調理台に隠れられる位置を保ちつつ説得を続ける。
「このままノーマンの言いなりになっても、最終的に全ての罪を押し付けられて官憲に突き出され処刑されるのが目に見えています。最悪の場合、官憲に突き出されもせず死ぬまで地下牢に押し込められる可能性だってありますよ?」
「……」
 ボブは銃口を棚の端からアリーシャに向けたままだが、一向にその引き金は引かれない。
 それはアリーシャの言葉をボブが真摯に受け取っている何よりの証だった。
「あなたとやり合う気はないので今は武器を手にしていませんが、このまま戦うと仰るのであれば相手になりますよ。どのみち死ぬのですから、今ここで私が介錯して差し上げます」
 言動からアリーシャの本気を感じたのだろうか、ボブはちらりと顔を覗かせる。
 そこにハンナの説得を終えたメリーらも支援に駆けつけた。
 メリーは顔を覗かせたボブに念話で訴える。
(そのままでいいから聞いて。ノーマンがまともじゃないのは分かるでしょ? 協力しても結局あなたを殺すかもしれないわ。それとも、あなたたちに罪をなすりつけるかもしれないし、それが上手くいかなければ自暴自棄になってあなたたちを道連れに死のうとするかもしれない。でも、確実に助かる方法があるわ。その銃でノーマンを撃つか、ここで投降するかよ。今のノーマンを殺したって罪に問われる可能性は低いし、投降するなら更に手を汚さずに済むわ。あなたたちの事は守るから、ね?)
 メリーがそこまで伝えると、ボブは一度棚に隠れた。
 そして、散弾銃から弾を抜き、銃身を床に投げ捨てる。
「……これが俺の答えだ」

●銃撃戦
 1階で仲間たちが使用人の説得を始めた頃。
 幻は玄関から一気に3階まで階段を駆け上がっていた。
 そこに、
「I Can Fly!」
 という猛々しい声と派手に硝子の割れる音が響く。
 『『幻狼』灰色狼』ジェイク・太刀川(p3p001103)が、外から飛んできたのだ。
 ジェイクの割った窓ガラスから、ジョージも飛行して進入する。
 階段前で二人と合流した幻はシャルルらの感情を探った。
 すると、玄関では頭上に感じた怒りと恐怖が、今は足元に感じる。
 幻は突入してきたジェイクとジョージに急を告げた。
「ここには怒りの感情も恐怖の感情もございません、シャルル様たちは恐らく2――」
「ズドン!」
 幻の言葉は突如響いた銃声に遮られた。
「今の銃声は……下か!」
「急ぎましょう!」
 幻たちは階段を駆け下りる。

「この銃声、2階のダンスホール辺りですね」
 1階の弥恵は音の反響具合からダンスホールで発砲があったと断定し、仲間と共に2階に向かった。
「怒り、恐怖……双方ともダンスホールから感じます!」
 階段前で合流したイレギュラーズたちは、弥恵と幻の先導でダンスホールに疾走する。
 突入するや否や、
「嫌ぁーっ、来ないでぇーっ!」
 という甲高い絶叫と同時に銃声が轟いた。
 反射的に身を屈めたイレギュラーズたちだったが、弾丸は全く飛んでこない。
 散弾の一部が足元の床にめり込みはしたが。
 声のした方向を見ると、そこにはドレスに不釣り合いな散弾銃を構え泣き喚く豚、もとい娘の姿があった――マチルダだ。
 マチルダは銃に弾を込めつつ完全に常軌を逸した眼光でイレギュラーズたちを見ると、
「何よあんたたち!」
 と叫んで再び引き金を引く。
 射撃の心得など全くない愚鈍な女でありながらも、弾丸を入れる術くらいは知っていたようだ。
「何でこんな事になったのよ……豚の嫁なんて絶対嫌!」
 マチルダは見境なく発砲する。
 その間に素早くホールの別の出入り口から人影が駆け出していった。
(あれは、シャルル様!)
 弱い恐怖を抱きながらホールを出ていくその人影をシャルルと見た幻は素早く彼を追いかけ、ジェイクは駆け出した幻を追う。

「落ち着いて下さい。私たちはローレットの者です。私たちがこのお屋敷の非常事態に介入した以上、もうノーマン様に従う必要はないのですよ。安心してその銃を下ろして下さい」
 暗器を隠しながらも丸腰を装いマチルダを落ち着かせようとしたが、弥恵はいつでも走り出せるよう秘かに身構えていた。
(あれ程の錯乱状態では、まともに説得に応じてくれるとは思えませんからね……)
 ジョージも同様の危惧を抱きながらも
「こちらは使用人ロイの要請でシャルル救出に来た。ノーマン以外には用はない。武器を捨てろ。敵意を向けないなら何もしない。冷静に考えてみろ、後継を殺す男が関係者の口封じをしないと思うか?」
 と語りかける。
 案の定、マチルダは
「知らないわよ、分からないわよ!」
 と叫び銃を撃った。
 今度は散弾がイレギュラーズたちの体を掠める。
 手当たり次第に撃っている分余計にタチが悪い。
「仕方ありませんね」
 弥恵はマチルダに駆け出す。
 マチルダは馬鹿の一つ覚えですぐに弾を込め撃とうとするが、
「やれやれ……お前さんは悪い男に引っ掛かったな。次はもう少しお前を見てくれる相手と縁を結ぶべきだな」
 とジョージが銃を吹き飛ばした。
 衝撃にのけぞるマチルダの水月に、いよいよ弥恵の蹴りが入る。
「ふぎゃっ!」
 情けない呻き声を上げながら、マチルダは卒倒した。

 マチルダを仲間に任せ、幻は人影を追う。
 人影に続き廊下の角を曲がると、出迎えたのは散弾銃の銃口だ。
 シャルルが幻を追っ手と勘違いし反射的に銃を構えたのだ。
 だが、幻を一目見てシャルルは瞠目し即座に銃を下ろす。
「君は、あの時の……」
 シャルルは命の恩人の一人である幻を忘れてはいなかった。
「僕を覚えていらっしゃったのですね」
 幻は感慨深さを覚えながらシャルルに告げる。
「またロイ様にお願いされて助けに参りました。シャルル様……ご立派になられましたね」
 ここまで孤軍奮闘状態だったシャルルは、気が緩んだのか力無い笑みを浮かべる。
「助かるよ……正直なところ、駄目かもしれないと思い始めていたから」
 そんなシャルルを見て幻が決意を新たにしたその時、怒りを超越した殺意の感情が幻に突き刺さる。
(これは、ノーマン様!)
 その感情の方向を振り向く前に、禍々しい銃声が幻の耳を劈いた。
 幻は被弾を覚悟したが、頬を掠める灰髪にはっと目を見開く。
 持ち前の嗅覚で危険を察知したジェイクが庇ったのだ。
「後は俺たちに任せ……がはっ!」
 喉をせり上がる鮮血にむせながらジェイクは頽れた。
 血相を変える幻とその背後で絶句するシャルルに、ジェイクは
「幻が助けた命だ……ここで死なせるわけにはいかねえ……助けてやるよ……俺たち『幻狼』の名に、おい、て……」
 と言い残し瞼を閉じかけるが、
「……だからこんなところでくたばってられねえよ」
 とパンドラの力を借りて再び立ち上がる。
「何故死なない!?」
 立ち上がったジェイクに動揺したノーマンの感情が、初めて怒りから恐怖にシフトする。
 ノーマンはジェイクが何者なのかを確認せずにはいられなくなり、部屋のドアの陰から顔を覗かせた。
 否応にもノーマンの居場所は特定されもそこにアリーシャとゼファーが飛び込む。
 その間にルミナもジェイクらの前に陣取った。
 アリーシャとゼファーの接近に気付いたノーマンは即座に引き金を引く。
「くっ!」
 銃弾に鎧ごと肩を吹き飛ばされながらも、アリーシャはノーマンの腕目がけ剣を振るった。
「うぎゃあああっ!」
 ノーマンは両腕に深い傷を負い絶叫する。
 更に、ゼファーの重い一撃がノーマンに入った。
 それでもノーマンは
「ここまで来たんだ、ここまで……」
 と、目を白黒させつつ散弾銃を拾い、シャルルに銃口を向ける。
 その光景はもはや狂気の沙汰である。
「もう、終わりにしましょう……」
 幻がノーマンに奇術で夢を見せると、彼の視線は遠くに飛んだ。
 その隙に、
「そうだな、これで終わりだ!」
 とジェイクが駄目押しとばかりに予想外の方向から鋼の驟雨をノーマンに降らせる。
 ジェイクの攻撃は確実に入っていたが、それでも「執念」がノーマンをその場に立たせた。
「生かして捕らえるか? ここで禍根を断ってしまってもいいが」
 ジョージに問われたシャルルは、憂いに満ちた目でノーマンを見据える。
「今殺さなくても彼には然るべき罰が下されるとは思うけれど……」
 シャルルがそう言いかけた時だ。
 立っているだけで精一杯に見えたノーマンが奇声を上げた。
「どうせ死ぬなら道連れだ! シャルルーッ!」
 最期の気力で散弾銃を持ち上げたノーマンにシャルルが毅然と言い放つ。
「これが君の本性か。ならば容赦はしない……ローレットの諸君、やってくれ」
 シャルルの言葉を受け、
「月の舞姫ここにあり!」
 と名乗りを上げた弥恵が怒濤のステップから攻撃を繰り出し、ふらついたノーマンの首筋にルミナが
「人を殺そうとするなら、殺される覚悟もあって然るべきですからね」
 と渾身の一打を叩き込んだ。

 狂気と執念に支配された男・ノーマンはこうして遂に息絶えた。

●終
「また、助けられたね。本当にありがとう」
 シャルルはイレギュラーズたちに順番に手を差し出し、握手しながら礼を述べた。
「この村がどうなるかは、後はお前次第だ」
 村の未来とシャルルの将来が安穏なものである事を願いながら、ジェイクはシャルルの肩をぽんと叩く。
「そうだね。幸いにもこうして使用人たちは残ってくれた。彼らを大切にしながら、村を守っていこうと思う」
「坊っちゃん……」
 ひたすら頭を下げるハンナと俯いたまま微動だにしないボブの横で、ロイは心からの安堵を浮かべ微笑んでいた。
「それと……」
 シャルルはジョージの前に歩み出る。
「妹の事を気遣ってくれてありがとう。彼女には、正しく導いてくれる人を身分を問わず探してやろうと思う。そういう人の元に嫁いだ方が、きっと幸せになれるだろうからね」
「そうか……」
 ジョージはただ小さく頷いた。
「謙虚にやってりゃそれなりに上手くいく人世だったでしょうに、欲をかくってやーね」
 ゼファーは屋敷を見上げながらノーマンの死に様を嘆く。
「そうだな……欲をかかなければ商家として大成する道もあっただろうに。全く、人の業とは呆れるものだ」
 マチルダとノーマン、それぞれが迎えた結末を思うと、ジョージも溜め息を禁じ得なかった。
「さて、まずは屋敷の後始末と父さんの葬儀の段取りをしないと。ロイ、これから忙しくなるよ。ハンナとボブも、力を貸してくれ」
 先代とは真逆の誠実さを持って使用人たちに接する新たなシャンバ男爵を見届け、イレギュラーズたちは踵を返す。
 シャンバ家に二度と血生臭い紛争が起きない事を願いながら。

成否

成功

MVP

アリーシャ=エルミナール(p3p006281)
流転騎士

状態異常

アリーシャ=エルミナール(p3p006281) [重傷]
流転騎士

あとがき

皆様、この度はシナリオ「かの男に終焉を」にご参加下さり、ありがとうございました。
そして、大変お疲れ様でした。
お陰様で、シャルル生存は勿論、ノーマンという悪の元凶を消し去る事が出来たばかりか、無用な犠牲者を出す事なく終える事が出来ました。
毎度の事ながら、プレイングでご用意頂いたスキルや戦術で描写されていない部分がある事に物足りなさを感じられている方もいらっしゃるかもしれませんが、決してプレイングの不備ではなく、純粋にその行動を取らずに済んだ、上手い具合に事が運んだというものでございますので、どうかご了承下さい。
なお、今回のシナリオでは、敵に回られるとこちらがだいぶ不利になっていたであろう料理番・ボブを援護が来るまで危険を顧みず引き止めて下さったあなたをMVPに選ばせて頂きました。
そして、命懸けでシャルル(と恋人)を銃撃から庇ったナイスガイさんに称号をプレゼントさせて頂きます。
シナリオを成功に導いて下さった皆様に、心より御礼申し上げます。
ご縁がございましたら、またのシナリオでお会い出来ます事を心よりお祈り申し上げます。

PAGETOP