シナリオ詳細
奇跡の塔1F:永遠の命
オープニング
●奇跡の塔
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)を先頭に、8人のイレギュラーズは天義の領地に設けられたとある物見塔を訪れる。最上階に辿り着いた彼らは、とある白髪の老人に出迎えられた。彼の名前はハルトヴィン・ケントニス。さる界隈では著名な『幻想道具図鑑』を今年に至るまで毎年発刊し続けている大人物である。
「やあ、来てくれたか、ユーリエ君」
「尊敬する先生の頼みでしたら、たとえアルティオ・エルムの森の彼方からでも駆け付けますよ!」
「それは心強い。実のところ私もね、君ならばきっと要請に応じてくれるんじゃないかと思っていたんだ」
恋人とその先生が挨拶を交わしている間に、エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)はぱたぱたと物見塔の窓辺へ駆け寄る。地平線の彼方まで広がる草原のど真ん中に、荘厳な雰囲気の白い巨塔が屹立していた。
「ふむ……あれが噂の『奇跡の塔』なのですか?」
「いかにも“聖なる”って感じがして、逆にアヤシイ気がするけどね」
窓枠の上に立ち、サイズ(p3p000319)は訝しげに眉を寄せる。その背後から塔を見つめて考え込んでいたミラーカ・マギノ(p3p005124)はいきなりその手を打った。
「なるほど。そういう事ね。あの塔はいわゆる魔種の罠みたいなものよ。表向きばかりを荘厳に見せる事で人々に崇めさせ、そのまま取り込んで眷属にしようとしているのよ、きっと」
「そうです! そうに違いありません! いけませんわ! あんな塔、直ぐに打ち壊してしまわないと!」
シエラ・バレスティ(p3p000604)は早速尻尾を振って頷く。ミラーカの言葉は絶対である。白が黒だといわれても頷かんばかりの勢いだ。しかし老人も否定はしない。
「そうだ。まさにその点が不安視されて、この度私にあの塔に関する調査の依頼が舞い込んできたのだよ」
彼は革表紙の本を開く。中身は全て白紙である。彼は塔を見据えて嘆息した。
「昔なら迷わず私自ら調査へ乗り出すところなのだけれど……悲しいかな、私はもう見ての通りの老人だ。この物見塔のように中身がすっからかんだったとしても、頂上まで登り切る事は出来ないよ」
自嘲気味に笑みを浮かべると、彼はユーリエに開いたままの本を差し出す。
「だから、私は実地調査を君達に託す事にした。中で見たものをここに書き留め、そして何かあの正体を解き明かす手がかりになるようなものを見つけたら、こちらに持ち帰ってきて欲しい。そうしたら、私の人生の全てに賭けて、かの塔の謎を解き明かしてみせよう」
ユーリエは本を受け取り、それから彼の顔を見つめる。やがて彼女は力強く頷いた。
「はい! 必ずやり遂げてみせます!」
●塔の囚人のお出迎え
「はーい! というわけで! 私達はいきなり天義の領地をぶち抜いてタケノコみたいに生えてきた白い巨塔に脚を踏み入れたんだぜ! あ、ちなみに私には足が無いんだぜ! でも大丈夫! 何故なら私はクイックシルバー! ふわりと浮いて動き回れる!」
大口を開けていた塔の中に入るなり、その身の回りに鬼火をふわふわ浮かべてハッピー・クラッカー(p3p006706)は怒涛のように実況を始める。
「ケド……おかしいね、何にもないね。階段もエレベーターも、何もかも! どうやって上に登るっていうんだい!?」
彼女はきょろきょろ辺りを見渡す。確かに、彼らの視線の先には広い床が広がるばかり、上に登れそうな設備は何もない。
「これほどの建物がただの張りぼてという事は無いはずだよ。あれを見て」
リゲル=アークライト(p3p000442)は床の中央を指差す。外周から中央に向かって深い溝がいくつも幾何学模様を描いて走り、その中心には石板が一つ埋め込まれていた。
「ふむ……何だろうね、あれは」
リゲルの妻――ポテト=アークライト(p3p000294)は透き通った魔法の指揮棒を手に、石板へと歩み寄っていく。その瞬間、溝にぎらりと光が走り、蒼く輝く石板が浮かび上がった。
――我等は永久の命を求めし罪人なり――
文字が輝いた瞬間、急に塔の扉が固く閉ざされ、壁の四方八方にいくつもの魔法陣が浮かび上がった。突然の出来事に、ポテトは目を白黒させて叫ぶ。
「待て! 触ってないぞ? 何にも!」
「わかってる。しかし何だかマズい雰囲気だね……」
「マズいわね。完全に閉じ込められたわ!」
ミラーカが叫んだ瞬間、四方八方の魔法陣から次々に武装した骸骨が飛び出してきた。盾を突き出し剣や槍を振り上げ、それは波のように押し寄せてくる。
「ここは戦うしかないです! 何とか凌ぎましょう!」
ユーリエは武器を抜き放ち、正面に立ちはだかる骸骨へ真っ先に突っ込んだ。
- 奇跡の塔1F:永遠の命完了
- GM名影絵 企鵝
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年10月23日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●ほね、ほね、ほね。
押し寄せる大量の骨。辺りをぐるりと見渡し、シエラ・バレスティ(p3p000604)は慌ててミラーカ・マギノ(p3p005124)を背後へ回す。
「これは危険! ミラ様、私の後ろにー!」
骨はあらゆる関節をカタカタと鳴らしながら、四方八方から押し寄せてくる。既に骨密度は飽和状態だ。大剣を構え、振り下ろされた剣を受け止める。
(……ところでこの密室、中心で名乗り口上しちゃったらどうなっちゃうのカナ?)
どうせこのままでは四方八方から殴られ、どうせ恋人を守り切れない。それならば自らに視線を集めてしまった方が楽だ。何より、このだだっ広い空間、そうすればミラ様からの視線も一身に浴びられる。そう考えた瞬間、既にシエラの身体は動いていた。
「私はシエラ・バレスティ! カルシウム不足の罪人共めー! 根性入れてかかってこんかーい!」
叫んだ瞬間、周囲の骨がぐるりと振り返る。その数は両手両足の指を使っても数えきれない。
「……あ」
マズいと思う暇もなく、一斉に骨の群れが突っ込んできた。四方八方から殴られて、反撃さえままならない。
「ごめんなさいごめんなさい! もう言いませんから許してー! 助けて下さいミラ様―!」
「何してるのよ……」
袋叩きにされかかっているシエラへ向かって、ミラーカはタクトを振り抜く。放たれた雷の閃きが、次々にシエラを取り囲む骸骨を吹き飛ばした。ばらばらに砕けた骨が、魔法陣の刻まれた床に散らばる。シエラは慌ててミラーカの傍へと駆け寄ってきた。
「ありがとうございますミラ様ぁ……!」
「よしよし、シエラったら張り切り過ぎなんだから」
彼女の頭をそっと撫でると、ミラーカはタクトをワルツのリズムで振り抜く。再び放たれた雷は、床を跳ね回りながら壁に刻まれた魔法陣に直撃する。深紅のマントを纏った骸骨が、バラバラになったまま塔の空間へと飛び出してきた。
「骸骨風情が、あたしのシエラに触れようなんて百億万年早いのよ!」
砕けた頭蓋骨に向かって、ミラーカは鋭くタクトを突きつける。シエラは満面の笑みでその腕に絡みついた。
「きゃー♪ ミラ様カッコイイー♪」
シエラとミラーカのカップルが早速敵と一当たりしている間に、ハッピー・クラッカー(p3p006706)もふわふわと敵の群れのど真ん中へと突っ込んでいく。クラッカーのような騒音をパカパカ辺りに撒き散らしてから、ハッピーは高らかに叫ぶ。
「さあさあさあ始まりました奇跡の塔ファーストフロア! 実況は私ハッピー・クラッカーでお送りします!」
言うなり、ハッピーは一歩下がったシエラに変わって、魔法陣から次々湧き出る骨の群れに向かって突っ込んでいく。その数はざっと見渡しても十体は越えている。
「おおっとぉ! ハッピーちゃん初手でアンデッドの群れの中心に飛び込んだー! 狂気かな? 正気だよ!」
早速自分の行動を実況しながら、ピースサインを左目もとに当てる。魔力を込めて眼力を強め、骸骨の群れをまとめてぐるりと見渡した。
「シエラさんが名乗り口上で敵を引き付けるであれば! ハッピーちゃんはこうするのです!」
口やかましく叫びながら、ハッピーは周囲に鈴のような音を響かせる。朽ちた王冠を吹っ飛ばしたり、骸骨の頭を挿げ替えたり、やりたい放題悪戯し始めた。骸骨もこれにはたまらず、標的をハッピーに定めて次々押し寄せてくる。
「ややや! ハッピーちゃんの方に向かってく浮気者がいる? 宜しい! ならばもう一度!」
シエラは素早く飛び出すと、気合を込めて受けた傷を癒し、大剣を構えて骸骨へ叫ぶ。
「シエラ・バレスティ! ここにあり! さっきはよくも調子に乗ってくれたなこの凡骨共めー!」
右に左に、シエラとハッピーが競い合うように骸骨の群れを引き寄せていく。まるで神殿に出来る巡礼者たちの行列だ。
「さあ来い! 必殺の一撃やら、不幸を呼び込む呪詛でもないんなら、私もまとめて巻き込んでくれていいんだぜっ!」
ハッピーは叫ぶと、半ばオープンに想いを寄せる付喪神、サイズ(p3p000319)にぱちりと目配せする。サイズは己の本体である鎌を担ぐと、ハッピーを追いかける骸骨の群れに狙いを定めた。
「そんな目で見られても、俺の鎌はまさに不吉を呼び込んでしまうんだよな……」
鎌を振り回して目の前の骸骨の腰を折り、その穂先を壁の魔法陣へと向ける。刃が血の色に輝いた瞬間、魔法陣を上書きするように新たな魔法陣が現れ、次々飛び出した業火の鎌の幻影が魔法陣から飛び出す骸骨を次々に切り落としていく。
「全く……ハッピーさんに引っ張り出されて何事かと思ったが……天義でダンジョンの攻略か……」
しかも閉じ込められてしまった。こうなっては撤退する事さえままならない。是が非でもこの状況を打破しなくてはならないらしい。彼は溜め息をつくと、指を鳴らして氷の障壁を展開する。骸骨の振り下ろす朽ちた刃が、障壁に阻まれぺキリと折れた。サイズは素早く振り返り、魔力を纏った刃で骸骨を切り裂く。
「少なくとも、こんなにアンデッドが出ている時点で、奇跡の塔という名前は全く合ってないな!」
ハッピーやシエラが敵を掻き集め、他の仲間が面攻撃で骸骨の群れを片付けていく。時には仲間の攻撃にさえ晒される危険な立ち回りだが、それを何とか実現できているのはポテト=アークライト(p3p000294)がいるお陰であった。
「全く、シエラはやり過ぎだしハッピーは巻き込まれる事を前提にしているとは……まあ、そのお陰で私達も自由に立ち回れているのは確かだが……」
ポテトはシエラへ指揮棒の先を向ける。己の魔力を光に変えて放ち、シエラの柔肌に刻まれる生傷を癒していく。今度はその身を翻し、ハッピーへその光を当てた。
「ひたすら体力と気力との戦いになりそうだな……まさか一階からこれだけの敵がうじゃうじゃと湧き出して来るとは。この塔の正体を探るというのは、心惹かれるものはあるが……」
「まさに骨が折れそうな戦いだな。……だが、とにかく骨を折り続けねばこの状況は打開できないか」
妻の言葉をリゲル=アークライト(p3p000442)が引き受ける。剣に銀の煌きを纏わせると、彼は魔法陣から飛び出した骸骨の群れを駆け抜けながら次々に切り裂いていく。首や腕を次々に刎ねられ、骸骨の群れはよたよたと辺りを彷徨い始めた。彼らの纏う毛皮のコートや金糸の編み込まれた肌着を見つめ、リゲルは訝しげに眉を寄せる。
「それにしても……仕立ての良さそうな服を着ているが……これらはもしかして、貴族の成れの果てか?」
「或いはこの塔に挑んで破れた者達かもしれないな」
夫婦がやり取りする間にも、敵は次々に押し寄せる。
「動く躯とは、不死でも求めたのだろうか。……このような形で動く屍になろうとも、悲しいだけだな。せめて安らかに眠らせよう」
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は次々と湧き出す大量の骸骨目掛けて、右手の鎖を放つ。剣を握る腕を絡め取り、力任せに引いて無理矢理腕をもぎ取る。そのまま鎖を上から下へ振り下ろし、骨が握りしめたままの剣を、その頭に叩きつけた。頭を砕かれた骸骨は崩れ落ちるが、新たな敵が次から次へと押し寄せる。
「まだ、私たちはこの塔の事を何も知りません。ですがまずは……このアンデッドを倒さなくては調べられるものも調べられない! えりちゃん、力を貸して……!」
「力を貸してだなんて。そんな事、聞く必要があるのですかね?」
ユーリエの差し出した手を、エリザベート・ヴラド・ウングレアーヌ(p3p000711)は素早く手に取る。彼女の魔力が手と手を通じて流れ込んだ瞬間に、ユーリエは吸血鬼に目覚める。エリザベートと同じ髪色に変化して、腰に小さな羽が一対生えた。
「よし、これで……!」
ユーリエは跳ねるように駆け出す。右手首に巻きついた鎖を、左手で握りしめて一気に引き抜く。鎖が彼女の柔肌を引き裂き、掌から血が霧のように溢れ出す。やがて霧は黒々と染まり、シエラを取り囲もうとする骸骨の群れに纏わりつく。
「アンデッドだろうと何だろうと、この闇で呑み込む……!」
霧を通じてユーリエの魔力が流れ込んだ瞬間、次々に骸骨が砕け散った。骸骨が床に散らばる様をちらりと見遣ると、リゲルは剣を振り上げ叫んだ。
「流石だな! 終わったらショートケーキを進呈しよう!」
彼の激励に、ユーリエはさらに奮起した。さらに一歩踏み込み、投げつけた鎖で骸骨の首を絡め取り、そのまま地面へ叩きつける。
「リゲル兄さんのショートケーキも呑み込む!」
「ケーキは頂きたいけれど……ゆっくりと上品な場所で食べたいものです」
エリザベートはユーリエの隣に立って、ハッピーを取り囲む骸骨の群れへ手を翳す。足元からぼんやりと魔法陣が浮かび上がり、四方から深紅の鎖が次々に飛び出す。剣尻の付いた鎖は、蛇のように暴れ回ってハッピーごと骸骨の群れを縛り上げる。鎌首をもたげて、骨を次々に砕く。
「あまり私の手を煩わせないでもらえるかしら」
喉元に手を当て、エリザベートは高らかにその声を震わせる。そもそも彼女は塔の探検になど興味は無かった。ユーリエがやるからやるというだけである。それだけユーリエを心酔させている『先生』にさえ、妙な警戒心を抱いていた。そんな感情を押し込めた冷たい声色に骨は次々に共振し、粉々に砕けて床にばら撒かれた。
ハッピーもまとめてずたずたにされていたが、すぐさまその身を修復する。
「ふふん! 止めさえ刺されなければ、何度だって蘇ってみせるんだぜ!」
リゲルはその懐へ飛び込むと、次々に骨を斬り倒していく。
「その調子だ、ハッピー! 凄まじい活力だな」
彼はこの戦場に立つ唯一の男。彼もまた勇猛果敢に敵へと突撃し、骨を砕きながら周りの妻や少女達に向かって叫んだ。
「皆大丈夫か? 必ずいつかは増援も途絶える! それまで戦い切るんだ! この戦いに勝利出来たら、俺がみんなに何か奢るぞ! 甘味だけじゃない! 美味い飯屋にでも行こう!」
「飯屋か……たまには他人が作る料理を食べるのも悪くないな」
ポテトは指揮棒を振り上げると、天へ向かって四拍子を振る。壁が震えて天使の歌声が鳴り響き、光が降り注いで仲間達の傷を癒していく。
「皆、意気軒昂で頼もしい限りだ。最後までこの調子で戦い切るぞ」
アークライト夫妻が仲間達を鼓舞するが、まだまだ敵もしぶとい。魔法陣からは変わらず骸骨の群れが飛び出してきた。その魔法陣を一つ炎の魔法陣で封じ込めつつ、サイズは広い戦場を右に左に飛び回る。骸骨は威嚇するように剣を振り上げるが、サイズは気にも留めない。魔力を込めた鎌を頭上から叩きつけ、骸骨の頭を一つ一つかち割っていく。
「やれやれ。段々と気が遠くなってくるな……」
鎌の切っ先を骸骨の顎に引っ掛け、てこの原理で首を引き千切る。舞い上がった首を右手で拾い上げ、じっとその顔を眺める。
「本当に、これだけの死体が溢れているなんて、一体ここには何があるっていうんだ?」
「このあたしには魔力切れなんて無縁よ! 何体かかって来ようと私はフルパワーで行くわ!」
骨が散らばって足の踏み場が無いほどになっても、ミラーカは盾となるシエラを守るために奮戦し続けていた。彼女はタクトをレイピアのように突き出し、雷撃を放って骨の群れをまとめて吹き飛ばす。雷撃は彼方の魔法陣に直撃し、バラバラになった骨が中から飛び出してくる。しつこく出現していた増援も、イレギュラーズに根負けしたのか、遂に途絶えた。
「いよいよ限界のようね!」
壁に刻まれていた魔法陣が消滅し、足元の魔法陣が一際強い輝きを放つ。帝冠を被った骸骨が、イレギュラーズ達を威嚇するように剣を振り上げる。ミラーカはそんな骸骨を不敵な笑みで見上げた。
「歓迎のお礼に、シエラとの主従恋人の連携、魅せてあげるわ」
深々息を吸い込むと、大剣を構えたシエラに向かって拳を突き上げる。
「さあシエラ! 耐えて頑張った分、カッコ良く決めちゃって!」
「承知です! 喰らえー!」
シエラは骸骨の皇帝に向かって素早く飛び込む。部屋中に響き渡る咆哮と共に、空中で回転しながら唐竹割を叩き込んだ。硬い骨が真っ二つに叩き割れ、ばらばらになってその場にぐしゃりと崩れ落ちた。
「どうだー! バレスティ流奥義を前に敵無し!」
大剣を背中に担いで、シエラは得意げに胸を張る。ミラーカもそんな彼女の隣に立って、静かに腕を絡ませる。
「ふふん。流石に大層な歓迎ね。でも質より量だなんて、あたし達相手には役者不足ね!」
「おととい来やがれってね! ……ん?」
その時、シエラは何かが足下に転がっていることに気付いた。それは水晶玉だ。拾い上げてみると、透き通るような液体の銀が、球の中で滑らかに蠢いている。
「これって……なに?」
しばし首を傾げていたが、やがて彼女は顔を上げ、満面の笑みで辺りを見渡す。
「何はともあれ! 私たちの愛の力によって! この階は制圧された! 大勝利!」
不意に背後から光が差し込む。ぴったりと閉ざされていた門が、再び解き放たれていた。
●不死の象徴
床全体を埋め尽くすように散らばっていた白骨が、朽ちてどこへともなく消え去る。すっかり綺麗になった空間を見渡して、アークライト夫妻は静かに頭を垂れる。最後には魔物になってしまったとはいえ、元は命ある人間だったに違いない。
「導きの星の下、どうか彼らが安らかに眠れますように……」
ポテトが祈りを呟き、リゲルはロザリオを握りしめた。
夫婦が祈りを捧げている間に、ユーリエは部屋の中央に浮かぶ青い石板をじっと見つめていた。刻まれている文字は今まで見た事の無い形状だったが、何故か意味は理解出来た。
――故に知己は失われ、死して屍拾うもの無し――
「ふむ……」
ユーリエは首を傾げながら、そっと石板へと手を伸ばす。戦いの間には触れられなかった石板に指先が触れ、石板が不意に輝きを放った。床の魔法陣が再び輝き、地面が激しく揺れ始める。
「こ、これって……」
魔法陣に沿って床が割れ、荒れた海のように波が立つ。最早まともに立っていられず、ユーリエは思わずその場に尻餅をついてしまう。ハッピーは周囲をふわふわと飛び回り、きょろきょろと慌ただしく周囲を見渡す。
「おおっと! 急に床が揺れ始めたぞ! 一体この塔に何が起きようとしてるんだ!? まあ、私とサイズさんは宙に浮いているから地面がどれだけ揺れた所で関係ないのですが! ですが!」
「確かにそうだが、どうして俺も引き合いに出すんだ……?」
やがて部屋の縁がせり上がっていき、天井の隅も徐々に開き始める。間もなく、上階へと続く螺旋階段が彼らの目の前に現れた。見上げたユーリエは思わず息を呑む。
「階段……という事は、まだまだこの塔には先がある……というわけですか」
「これ、もしかして次回も探索必須なのか……?」
サイズは階段の奥に広がる空間を見つめて、ぽつりと溜め息をつく。
「そうなのでしょうねえ。まあ、ユーリエの気が済むまで、私は付き合うつもりですけど……」
エリザベートはぱたぱた羽根を動かす。相変わらず、何が起きても彼女は無関心を貫いていた。床に跪いたミラーカは、床に刻まれた魔法陣を指でなぞる。
「よくよく見たら、ものすごく複雑な形してるわね。骸骨達をどこからか転移させて来る術式といい、塔をこんな風に変形させる術式といい……ものすごく手がかかってるというか……ここまでくると人間業とも思えないわね」
「魔法陣の事は、私にはよく分かんないですけど……でもさっき拾ったあの水晶玉の事は気になります! あんな水晶玉、見たことないですから!」
シエラは相変わらずミラーカに纏わりついたまま、ユーリエの方に振り返る。ユーリエは鞄から水晶玉を取り出し、じっと見つめた。
「この中に入っているのは……水銀でしょうか?」
「どうして水晶玉の中に水銀が入ってるんだ? ……この辺は俺の専門外だな……」
サイズは水晶玉を覗き込んで眉を顰める。リゲルはふむと顎を撫でさすった。
「水銀か……かつては不死の霊薬として珍重されたそうだな。むしろ酷い毒になるらしいが……」
「不死の霊薬……いずれにせよ、先生に調べてもらう必要がありそうです。私にはこれが一体何のために存在しているのか、皆目見当もつきません……」
己の知識を総動員しても答えが見当たらない。ユーリエは己の未熟さを感じてがっくりと肩を落とした。ポテトはそんな彼女の肩をポンと叩く。
「そう肩を落とすな。精霊でさえ、この塔の正体は良く知らないと言っている。わからないからこそ調べ甲斐があるんじゃないか?」
ポテトが微笑みかけると、ユーリエもこくりと頷いた。
「そうですね。そうとなったら早速先生のところへ帰りましょう! 今日見たことについて報告しないと!」
水晶玉を鞄へ押し戻すと、ユーリエは足早に塔を飛び出した。
押し寄せる骸骨の群れから、イレギュラーズ達は無事に帰還した。しかし彼女達はまだ、その塔の恐るべき正体を知らずにいたのである。
つづく
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
リプレイ納品させて頂きました。
次回に繋がるような雰囲気があったので、とりあえず続くで〆させていただいています。
今回手に入れたアイテムは某海賊映画で出てきた必要なものを指し示すコンパスみたいな働きを持っているんじゃないかな、というイメージで書かせて頂いています。
では、またご縁がありましたら宜しくお願いします。
GMコメント
●目標
アンデッドの殲滅。
以下の規定数を討伐した時点で終了となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
屋内で戦闘を行います。
およそ半径30mの円形の広場になっており、障害物は一つもありません。中央の石碑も移動攻撃その他を阻害しません。
●敵
☆不死を求めし罪人×400
最早ただの骸骨となってしまった何者か達です。ぼろぼろになった衣服は、どこかしら高貴な印象を窺わせます。無数に押し寄せてくるので、何とか捌き切りましょう。基本的に一発殴ればバラバラになります。
・行動
→剣攻撃…剣で攻撃します。それだけです。寄って集られないように注意しましょう。
→盾防御…盾で防御します。正面から考えなしに突撃するのは意味がないかも。
→増援…常に戦場が40体のアンデッドで埋め尽くされるように魔法陣から増援が押し寄せてきます。
●ITEM(PL情報)
☆水銀の詰まった水晶玉
最後のアンデッドが落とす、決して割れる事の無い中に水銀の詰まった水晶玉です。用法は不明です。
●TIPS
☆範囲攻撃の使いどころは大事です。うっかり息切れする事の無いように。
☆水晶玉は持ち帰れます。
初めましての方は初めまして。影絵企鵝と申します。
実はこんな感じの小説を昔書いた事があったので懐かしい気持ちになりました。今回は入り口という事もあって、特に細かい謎解きもない無双系のテイストに仕上げさせていただきました。どうかよろしくお願いします。
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