シナリオ詳細
グラオ・クローネって10回言ってみ?
オープニング
●買いすぎたみかんのことをノルマって呼んだりしない?
先日、異世界から来たという男に向こうの料理の話を聞いた。
男は自分の好物だというものを詳細に話してくれたが、大抵はこちらの世界にもあるものばかりで目新しいものはない。
だが、ひとつだけ興味を惹かれるものがあった。
それは男の世界では、1年でも限られた期間しか口にすることが出来ないものだという。
男は調理手段全般に関してそれほど明るいわけではなかったが、それの作り方そのものはそれほど難しくはなさそうだ。
教えてくれた礼にとそれをこさえてみたところ、非常に喜んでくれた。
だからそれは商品になりうると考えたのだ。
だが、そのまま出したのでは異世界のコピー商品に過ぎない。
アレンジを加えねば。
そうだ、そういえばこちらでも季節的なアレがあったじゃないか。
アレにかこつけてしまうのはどうだろう。
さて、オチから言ってしまうが。
基本、熟知していない料理というのはレシピに通り作った方が無難なものだ。
●これを女の子から渡されたチョコレイトだと言い張る勇気
「さあ、これがあなた達のノルマッスよ!!」
ギルド所属の女が、君達の前のテーブルにどさりと大量の包みを置いた。
山と積まれたそれら。ひとつひとつは片手で持てるほどのものだ。
手にとって見ると、どうやら食べ物のようだった。感触からして、サンドイッチの一種だろうか。
で、これはなあに?
「マカロニやチーズをオーブンなどで料理の表面を多少焦がすように調理したものをパン粉で包んで油であげてバンズでサンドイッチしたもの」
えらくややこしいが、何人かは心当たりのあるようで、しばらくものを想像した後で吹き出していた。
赤・白・黄色のピエロが見える、とか。グラオ・クローネってそういう? とか聞こえてくるが、どういう意味だろう。
しかし、嫌な表情はしていない。どうやら美味いもののようだ。
「――に、溶かしたチョコレイトをぶっかけたものッス!!」
その場の全員が凍りついた。
何を言っているんだこいつは。
そんな目線をものともせず、彼女は平然とノルマの意味を語りだす。
言うに、これはとある料理人の失敗作なのだそうだ。
異世界にあるというサンドイッチの製法を入手したその料理人は、グラオ・クローネにかこつけるべく、あろうことかそれに溶かしたチョコレイトをぶっかけるという奇行に出たらしい。
当然、それが売れるはずもなく、日を跨いで店頭に並べられるわずかな普通のチョコレートらと共に、大量の不良在庫が山と積まれるハメになったのだとか。
このままではその料理人が破滅してしまう。
そこで、料理人と繋がりのあったギルドが、在庫の一部を買い取ることになった。とのことだが。
「食べ物を粗末にするのはいけないことッス。だからみんなで食べるッスよ!」
そういう依頼が生えることになったのだ。
- グラオ・クローネって10回言ってみ?完了
- GM名yakigote
- 種別通常
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2018年03月06日 21時20分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●無限の世界を前にして
チョコレートを有しているという事実がアドバンテージになるわけだから、目前に積まれたこの無謀の山も間違いなくアドバンテージである。君は今、人生の勝者にランクアップしたのだ。嬉しい?
チョコレート。
甘くて美味しいチョコレート。
その日、グラオ・クローネで口にするチョコレートは格別だ。
自分はひとりではない、愛されているのだという確信を得、人生の謳歌を噛み締められる。
それは男女の愛であったり、家族の愛であったり。
千差万別だが、それは間違いなく素晴らしいものだ。
でもこれはちがう。
溢れかえるそれらを前にして思う。
この日、ただの甘味に過ぎなかったチョコレートに意味を見出した祭日に拍手喝采を贈りたい脳の片隅で思う。
チョコレートでありゃあいいもんじゃねえな。
それらのゲテモノ、グラコげふんげふん、マカロニやチーズをオーブンなどで料理の表面を多少焦がすように調理したものをパン粉で包んで油であげてバンズでサンドイッチしてチョコレイトをぶっかけたものを前にして彼らは魂を吐くのだった。
「なんで、なんで最後にチョコを付けたんだよ……!」
『フランスパン売りの少年』上谷・零(p3p000277)が憤りを隠せないでいる。
グラオ・クローネとは時期がズレているものの、前の世界では季節の風物詩のひとつとして楽しまれていたはずのそれ。
完成されたジャンクフードであったはずのそれに、どうしてあろうことかチョコレートを悪魔合体させてしまったのか。
「いや仕事だし喰うけどさ、食うけどさ……貴重なカロリーだし!」
「ひゃっほー! グラオ・コローネ……の、犠牲になった可哀想なグラコ、ころ……こ、コロッケパン……なんて無残な姿になってやがるんだ」
『楽花光雲』清水 洸汰(p3p000845)は仇討ちのようなものに燃えている。
「いいな皆! これはオレ達の弔い合戦だ……絶対に『勝つ』ぞ! 揚げ物なだけに!」
カツレツの定義にグラタンコロッケが含まれるかどうかは不明だ。
「我輩である」
『三面六臂』九鬼 我那覇(p3p001256)のそれは一体誰に向けたものであったのか。
「ただ食べるだけの依頼であるか。なんとも楽な依頼であるな」
なんだろう、旗が立ったような錯覚に陥るね?
「三面六臂の我輩にかかれば、三倍の早さで片付けてやるのである」
ここまで念入りな建築作業だと拾わずにいられないね?
「わたし、考えた」
『妖精騎士』セティア・レイス(p3p002263)が胸中でその完璧な作戦を記している。
「表面のちょこを、はがしてたべる。売れ残りならきっと冷えてるから、サンドイッチは温める。これで無敵だとおもう」
貴重な前フリをありがとうございます。
「これが噂のおうとシリーズ?」
こらこら、それ他社だから。履いてない猫くらい持ってきちゃいけないやつだから。
「パンドラ使用で、重症覚悟でいく」
いくな。
「グラオ・クローネ、グラオ・クローネ、グラオ・クローネ………10回言ったら目の前のコレが無くなる」
『医者見習い』クリストファー・フランム(p3p002949)の願いは虚しい。祈りとは届かないものだ。
「うん、現実は残酷だ……諦めて食べよう」
山積みされたサンドイッチのそれを前にして合掌する。
「ほら、こういうの食べたらおいしいなんてよくある話じゃないか、きっとこれもそう言うものなんだよ、ハハハハハハ……」
「え゛、二十個……?」
普通の食事であったとしてもキツイそのノルマに、『いかさまうさぎ』レイア・クニークルス(p3p003228)が思わず聞き返した。
「全体でなく、個人で……?」
仕方ないよね。食べ物を残したら勿体無いからね。
作ったのも買ったのも自分ではなかったとしても、お仕事とは何時だって残酷で理不尽なものだ。
「HAHAHA、まさかそんなマジですか、そうでございますか……」
「騎士的に出された食べ物は全部食べますし、一度やると言ったことはやりとげます!」
それは思いっきり押し付けられたようなものであったが、クロネ=ホールズウッド(p3p004093)は自分のポリシーとして燃えている。
「いくらなんでも数が多すぎる気はしますし、これだけの量を食べたらお尻とかに余分なお肉がつきそうな気はしますが……私なんだからきっと何も問題はありません!」
自分に言い聞かせているようだ。自己暗示、大事。
「探求都市国家アデプトで色んな話を聞いた結果分かったことがあるんだ。旅人達の中には僕の居た世界の未来から来たであろう人々も相当数いる。そんな人々の話の中にもこんな食べ物があったっけな……」
『迷子の迷子の錬金術師』ミリアム(p3p004121)が直接それを見るのは初めてだが、この食べ物の話は聞いたことがあった。
これは一見洋風だが、好むのはまた別の人種という不思議なものだ。
「……確かチョコレートはかかってなかったはずだけどね」
さて、嘆いていても減るはずもなく。
それではそろそろ、攻略を始めるとしよう。
●一貫性ドリーマーズ
起承転結の区切りは大切だ。さして要らないような気がする時でも形式美というのは肌で感じておくべきなのだ。
「それじゃ、任せたッスよー」
そう言うやいなや、ギルドの女は背を向けて去っていく。
あとには大皿に積まれ天高くそびえるサンドイッチの群。
不可能な目標にも見えるが、千里の道も一歩から。まずはひとつを手に取り、口にする所から始めよう。
それでは皆様、お手を拝借。
掌を合わせまして――いただきます。
●絶望
それは死に至る病だと誰かが言っていた。そいつもこんな気持ちだったんだろうか。
まずはひと口と、零がチョコレートで見事にコーティングされたそれにかぶりついた。
あれ、案外普通……と思うのも束の間、欠片の爽やかさも感じさせない口の中に残る味が、飲み込むことを困難にし、早々には喉を通ってくれそうもない。
「口の中に広がるは甘味だったりチーズだったり色々と混沌としていて――」
不味い(ここで例のCMのSEを逆再生で)。
横を見れば、いくつか手伝ってもらおうと呼びつけていたイヌ型のスライムが、一口目で辟易したような顔を見せている。そうか、種族を超えて不味いか。
「ホント、チョコが無ければ……絶対もっといい筈なのに……!」
それでも、食うのだ。これが依頼だからというのもある。だがそれだけではない。
食事とはエネルギーだ。炭水化物は自分のギフトでなんとでもなるが、それ以外は自分で生み出せはしないのだから。
(いつもの食生活が食生活過ぎて、美味しくなくても食えてしまう自分が、なんか涙出そう……)
「……ところで一人で食うよりも皆が良いよな、こういうのって」
そびえ立つサンドイッチ(ちょこ)を前にして、洸汰が不穏当なことをいい出した。
そして、ひょいひょいといくつかを抱えると、適当にそこらにいる顔も知らない子供たちに配り始めたのである。
「そんな訳で、皆でグラオ・コローネ!! しようぜ!!!」
悪魔か貴様。
しかし、サンドイッチとチョコレートが嫌いな子供がいるわけもなく。
彼らは興味津々の顔でその包みを開き、大口を開けてかぶりつくと――――黙ってそれを洸汰に差し返した。
そしてそのままそそくさと退散していく。その顔にはありありと「あれはないわ」と浮かんでいた。
「あっ、ちょっと! 帰らないでー! 待ってー!!」
残されたのはひと口齧られただけのサンドイッチ。やったね、食べるのに精神ダメージも追加されたよ。
「まだだっ! この生命の紅茶で口の中をリフレッシュするんだ!」
もう一回味わえるドン?
「……まずいであるな」
我那覇が立てたばかりの旗を早速回収する。。
「三倍の早さで気持ち悪くなってきたである」
そりゃ三倍の物量で食べてるしね。
薬を三倍摂取したからといって身体に良いわけではないが、毒を三倍摂取したら人体には劇物だろう。
「この気持ち悪さは、キュアイービルで回復せぬのであるか?」
あ、残念ながら味覚ダメージは対象外です。
腹を下していればワンチャンス、効果があったやもしれないが、残念ながら(有り難いことに?)グラタンコロッケとチョコレートでHPは削れないのである。
仕方ないね、メシマズも大事な個性だからね。
それでも、手を止める訳にはいかない。
履いたツバは飲み込めないように、一度受けた仕事を放棄することも許されはしない。
皆食べている。だから、舌がどれだけ拒否しようと口に運ばねばならぬのだ。
「……1番辛い戦いだったやもしれぬであるな」
さもありなん。
チョコを剥がそうと、セティアが表面をぺりっとやってみたところ、コロッケの衣ごと剥がれてしまった。
思ったよりひっついていたなと思いつつ、コロッケの中を覗き込み――――そのままそっと元に戻した。
中の具が茶色かったからである。
目眩を感じて、頭を抱えた。
何処に行ったの浸透圧。
まさかの中までチョコまみれ。剥がして食う前に濾過がいる。
「チョコだけなら、私はこれを愛せる。チョコがなければ、私はこれを愛せる。美味しいものと美味しいものを合わせれば最強だって思ってた。今日までは」
それでも食べる、だってまだ二十個とか程遠いので。
「まじでぱねくがちめにエモい」
正気度チェックに失敗したようです。
「教えて。世界の罪と罰。これが原罪の呼び声? 赤白黄色のピエロのせい? 風評被害はマスタリング? これ以上いけない。でもこれ滅殺8ついてる。受けたら終わり。滅殺は何のことか。これ以上!」
嗚呼、我は我は。
「……駄目だ」
クリストファーがテーブルに突っ伏した。
「食べてみたけど致命的にチョコとこの揚げ物サンドが、合わない……」
まあ、少しでもマッチしてればこんなにも売れ残ったりはしなかろう。
「なんだよこれ、グラタンのような塩味の効いたクリーミーなチーズ味の揚げ物と甘い甘いチョコレート……単品だと絶対に美味しいのだろうけど絶妙なまでに合わない」
何故これを合わせてしまったのか。思いついてしまったのだから仕方がない。
「どうせなら単品で食べたかったぁぁぁぁぁぁぁ――って身悶えて嘆いてる場合じゃなかった。夕暮れまでに最低二十個食べなきゃ……」
しかし重い。ひたすら胃に重い。
「ああ…食べても食べても終わらない……明らかに地獄絵図だよねこれ、みんな目が死んでる。辛いけど心を無にして……辛い……」
口の中に残る、しつこく残る毛色の違う甘さ。
「女の子にはこの高カロリーは辛いし嫌だよね……辛いけど、ちょっとは肩代わりして食べようかな」
チョコと、パン粉と、チーズと。極めつけは大量生産のために使用された質の悪いラード。
これがダイエット食品だというのなら、その不味さも許せよう。美容とは何らかの苦を飲み込むものだ。
だが、このサンドイッチを構成するひとつひとつの要素全てが、ウルトラハイカロリーを声高に主張している。
「これを二十個は苦行ですね……いえ、頼まれた以上もそもそといただきはしますが――あ、そうだ!」
そこで、何を思いついたのか。
ハイライトを失っていたレイアの目が輝きを取り戻した。
「ギャンブルしませんか、ギャンブル! コレをチップ代わりに簡単にポーカーでもしましょう? ディーラーは私が勤めますので! ね? ね!?」
その提案に、誰もが首を振る。チップを失う為のギャンブルに胴元は必要ないからだ。
やるのならばサシで、それもどちらかが身を滅ぼすオールイン。
「なにはともあれ頑張りましょうか。駆逐してやります……一食残らず!」
味覚を捧げよ。
山も、残りいくつとなったろうか。
ひとり二十個などというノルマ。
聞かされたときにはクロネも呆然としたものだが、人間やってみればなんとかなるものだ。
これだけ胃に納めて、体重という言葉が脳内で警報をガンガンに鳴らしてくれているが、無視だ。
そういう瑣末事にかかずらわっていてはこの山は崩せない。
「食べ物としては美味しくない部類に入るのかもしれませんが、訓練生時代食べる羽目になった冷めきってぐちゃぐちゃになった味のない麦粥の事を考えれば味があるだけマシというものです!」
そう、少なくともこれは無味ではない。
最低限の栄養しか考えられていない食事というのは、不味いのではなく、喉を通らないのだ。
これは食う人を考えているだけ幾分かマシである。ベクトルが違う気もするが。
(今回は私達が処理してますが、こんな物を大量に生産してしまう料理人であるならその内別の要因で破滅しそうな気が……)
気にしてはいけない。
「こう見えても僕は100歳代に足を掛けているからみんなより色んなものは食べてきたつもりでいるよ。つまり、言葉通り人生の酸いも甘いも噛み分けてきたつもり本当に不味いなこれは」
ミリアムは平然とした顔でサンドイッチをパクつき、なんとも嫌そうな顔をした。
なんというか、もっちゃりしている。
とにかく、甘さがいけないのではと手近なタバスコ等を振りかけてみるが、余計に後悔した。
甘いと辛いは対義語ではないのだと理解する。
それはなんというか、虐げられた味の反逆のようなものだ。
舌が麻痺するのではと思うほどの辛さの奥で、チョコレートとチーズの甘さがそれでもなおしっかりと主張している。
胃に落とし込んだはいいが、今度は鉛のような感触が何時までたっても腹から消えやしない。
胃が震えている。腸が活動を拒んでいる。
襲ってくる。襲ってくる。
味覚を麻痺させようが、感覚の消失を狙おうが、サンドイッチ(ちょこ)は容易く突き抜けてくるのだ。
●オンザ体重時計
寝る前に食うから太る。だったら寝なきゃいいと言い出したやつは天才だ。太る前に死ねば美しいままでいられるというわけだ。え、違う?
戦いの後というのは何時だって虚しいものだ。
それはテーブルの上から消え失せたサンドイッチの山にしても同じである。
気持ち悪い。動けない。もうしばらくチョコなんて見たくない。明日の体重計が怖い。
そんな、勝者の感慨とはまるで遠い後悔の念だけが渦巻いて、なんとも言えないどうにもできないぐっだぐだの空気を作り出していた。
それでも、勝利である。
嗚呼、強きかなイレギュラーズ。
彼らは今回もその難解な依頼を達成してみせたのだ。
「え、おかわりいるッス?」
それは勘弁してください。
了。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
誰か実際にやってみて。
GMコメント
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
テーブルの上に山と積まれたグラコげふんげふん、マカロニやチーズをオーブンなどで料理の表面を多少焦がすように調理したものをパン粉で包んで油であげてバンズでサンドイッチしてチョコレイトをぶっかけたもの、を完食して下さい。
日暮れまでに。ひとり20個ぐらい。余裕があればいくらでも。明日の体重計に恐れおののきながら。
泣きながら、あるいは笑いながら、一心不乱に。
クソ不味いけど。
【用語集】
●マカロニやチーズをオーブンなどで料理の表面を多少焦がすように調理したものをパン粉で包んで油であげてバンズでサンドイッチしてチョコレイトをぶっかけたもの
・とある料理人がトチ狂って作ったら売れ残ったゲテモノ。
・砂糖と油がこれでもかと使われており、中にはチーズがたっぷり。
・デブ活御用達。ウルトラハイカロリー。
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