シナリオ詳細
<終末放送局>Tiny Evil
オープニング
●注意一瞬命はひとつ
『Hi、良い子悪い子老若男女、今日は幸せに生きてるかい? 今日を精一杯生きてるかい?
漫然と生きてる? そいつはいけない。君達の人生なんて吹けば飛ぶようなウンカみたいなモノなのに! それにしがみつかないなんて不誠実だ!』
唐突に虚空に漏れ出す音は、どこか非現実的なノイズを伴って聞こえてくる。『練達』の進んだ文明下にあれば、それがラジオや放送の類で感じるそれと分かるだろう。……人の人生をウンカ扱いとは、発信者はさぞ重厚な人生を生きてきたのだろうと思うが。
『漫然と生きてきたイイコちゃん達はさぞかし溜まってるんだろう? うん? 何がって話じゃあないサ。
誰かと関わり合うこと、誰かに遠慮すること、ちょっとした行き違いにすれ違い、言い合い押し合い遠慮のし合い。そんなものを抱えて人生楽しいかい? だから――ちょっとだけ、そう、ちょっとだけサ』
今日だけは言いたいことを言ってもいい、思いのまま振る舞っていい。ああ、それに怒りが籠もっているならなおのこと。
声の発信者――声帯部分が機械化した鉄騎種と思しき男の声はそんなふうに響き渡った。ノイズまみれでどことなく意地の悪い、しかしどことなく通りのいい声。
しかし、その声は『その場の誰にも届くことはない』。ここにいない誰か、どこかに伝えたい誰か。そんな相手に向かって、指向性のある声を届けているのだ。
促すのはちょっとだけの我欲の発露、ちょっとだけの自己顕示。溜まった鬱憤を発散したい、身勝手を許して欲しい。そんな、誰もが持ちうる欲求だ。
しかし、その鉄騎種の声にしたがって『ちょっとした身勝手』は、『取り返しのつかない不幸』を呼び込むとしたら?
その声に込められた扇動(アジテイション)に狂気の欠片が混じっていたら?
●我慢は美徳
「皆さんに今回お願いしたいのは、『これから起きる事件の、最小規模での鎮圧』です。なお、今回の依頼に関する一連の話に於いて、魔種の関連が示唆されています」
集められたイレギュラーズに、『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は早口にそう説明する。
だが、依頼内容が特殊といえば特殊だ。起きるはずの事件を察知するなど、未来予知か経験則による情報精査の結果かのどちらかだ。彼女にそのような力が備わっていないのは、イレギュラーズも知っている。
というか、しれっと魔種の存在を口にしたが。どうにも、表現が曖昧だ。
「順を追って説明します。まず、今回依頼で向かって頂くのは練達、島内北西部。
ご存知の通り、あの国は便宜上『国家』として成立しているだけで、統治というほど厳格な線引きはされていません。謂わば目的を同じくした同志の共同体……ですから、文化文明の違う者同士、軋轢は大なり小なり持っています。そうですね……『幻想』の個を重視する貴族主義、『鉄帝』の古代遺跡のような先進技術と強い弱肉強食思想、他の国家群の千差万別の思想が技術格差ごと一緒くたになっている、と言えば、大体おわかりになるでしょう」
思想の違いだけなら、確かに共通の目的という指向性で乗り切れよう。
だが、技術格差――異世界『地球』の言葉を借りれば『中世』と『近未来』では技術のみならず価値観にも隔絶されたものがある。大なり小なり、ズレはあり。軋轢を生む。
「それでも、彼らは上手くやっていました。ところが、最近ちょっとした殺人事件が頻発している……そんな話を受け、我々に調査依頼が舞い込んできました」
ちょっとした殺人事件、という矛盾表現。
ちょっとどころでなく大事なのだが、ここでひとつ不思議な点がある。
殺人事件というのは、基本的に重大事だ。犯人が捕まらない殺人が続けばそれは『連続殺人事件』であり、凶悪犯との戦闘を想定される。
単発であっても複数の相手を殺害したら『大量殺人犯』である。……それが、『ちょっとした』?
「そこです。実は、その殺人事件の被害者と加害者は程度の差こそあれ小競り合いを繰り返していた人達なんです。喧嘩の絶えぬ恋人や夫婦、異なる文明価値間でいがみ合う人達。彼らは皆、根は善人で他者に害意を振りかざすような人では無かったはずなんです。ささいな食い違いはあっても、亀裂が大きくなることはなかった。一般論として、何らかのストレスを加えられようと、物体は今の形、今の状態を維持しようとするのです。バランスが取れている限りは」
「……つまり、バランスを崩す何かがあったと?」
長ったらしい説明に対し、簡潔に応じたイレギュラーズに、三弦は「その通りです」と首肯する。
「実は、数日前から奇妙な姿……あまりに不釣り合いな道化の格好をした鉄騎種『らしき』男の目撃情報が寄せられています。何事か口にしていた様子ですが、かなり大きく口を開けていたにも関わらず周囲に全く声が聞こえていなかったという話もあります。それと」
――犯人たちは死ぬ直前に聞いたという言葉を反芻し、拘束直前に自殺しているのだ、と。彼女はそう言い、その言葉を反芻してみせた。
「つまりアレか、その男の声には指向性があって、事件の加害者と被害者にしか聞こえない。声を聞いた奴がギリギリで保ってた関係に亀裂を入れて殺人事件にまで発展させた。人心掌握術の類か、……呼び声でも不思議じゃないってワケか」
イレギュラーズも、一通り話を聞いて得心がいったようであった。自制心を取り払うかのような口調、自由をうそぶきながらちょっとした悪意で人同士の均衡を破る行為。
『指向性のある声』というのが正体不明だが、理屈として最も現実的なのはギフトか、テレパスの類、練達なら限定的な通信技術も有り得るか。それに『呼び声』を乗せる……類例の有無は不明ながらも、魔種ならやりかねない。
「今までの事件で犯人が自害前に口にした内容に、『次のターゲット』の情報が含まれていることが分かっています。北西部の自治組織の定例集会、といえば優しい表現で、実際は異なる文化の持ち主同士が卓を囲んでいがみ合いを繰り返しつつ、妥協点を探る有様だと聞いています」
もとより相性は最悪だが、代表者を送り込むだけあって理性的な対応で留まっているとのこと。だが、その均衡が崩れれば――。
「幸い、皆さんが集会の場に同席することは許可が取れています。ただ、今までがそうであるように、殺意を露わにするタイミングが不明です。その場に集まる誰が狂気を孕み、暴走するか。……もしかしたら、その場に狂気に導く『なにか』が紛れ込んでいても不思議ではありません」
問題の鉄騎種(?)の動向が不明な以上、何が起きるかなどわかったものではない。最悪、その場の全員を相手取る程度の覚悟もいるだろう。
- <終末放送局>Tiny Evil完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年11月05日 23時00分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●心ある人々
「何故、我々の議場に余所者が入り込んでいるのか――その辺りの理由はご説明頂きたいですな」
「こんにちは! わたし達はローレットから来ました! お話の邪魔はしないからよろしくね!」
多世界評議会、その評議員の1人が怪訝な視線を向けた先で、『クソ犬』ロク(p3p005176)は溌剌と会議への不干渉を宣言する。当然といえば当然で、今回のローレットの立場はこの会議内で起きる混乱の鎮圧要因であり、会議がどの方向へ踊ろうが関係ないのである。
「俺はただの警備兵だ。重要な会議と聞いた。守秘義務はちゃんと守るぞ?」
「吾輩達は同じ『混沌』の住人として貴殿等の無事を望むばかりである。安心して欲しいのである」
『彼方の銀狼』天狼 カナタ(p3p007224)と当たり前の善意を』ローガン・ジョージ・アリス(p3p005181)もロクの言葉に応じるように無害と不干渉をアピールし、抗議の声を上げた評議員は渋々席についた。外見を見るに、人間種、幻想に近い価値観の世界の人間であることは確かなようだ。なら、不平も致し方なしか。
(誰しも、ちょっとした事でムッとなったり、腹に一物抱えてる事くらいあるだろうけど……)
「かのローレットが護衛か。成程成程、心配され懸念され、我々も随分と信用がない」
『彼岸に根差す』赤羽・大地(p3p004151)が心配する中、肩を竦めた評議員は鉄騎種……よりもずっと機械化の激しい姿の評議員だ。控えている護衛なんかは、もはや単なる自動機械にしか見えないくらい。
(問題なのハ、それを煽っテ、大事にまで炎上させるヤツだナ。殺し合いを見てるのが好きなわけじゃねェからナ、俺モ)
評議員の言葉に交じる嫌味を思えば、招かれざる客への嫌悪が浮き彫りとなる。周囲への牽制が殺意に変容したら。それを考えると、緊張感はいや増す。
「我らが粗相を『した』ならローレットに適切な形で抗議するがいい。そうでない限りは、依頼を受けた我々が排斥される謂れはない。依頼を受けた身の上なのでな」
「拙は、万が一とあらば十二分に働いてみせましょう。……万が一が起きぬ限りは、互いの間で問題解決を進めて頂くのが先でしょう」
『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)の、正論ながら挑発めかした言葉に対し、『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は被せるように静かに、自分達の立ち位置と評議員達の必要性を説く。真に気を回すべきは自分達ではなく、評議員同士での話し合いではないかと。
「そこの御仁の言う通りだ。彼らの所在を検める前に、互いに持ち寄った問題を先に進めるのが次善と思われる」
厳かな声を上げた議長席の人物――恐らくは依頼人なのだろう――が場の人々に自制を求めると、各々が互いに牽制するような視線を交わしつつ、しかしぽつぽつと湧いて出た不平の声は収まっていく。
(敵の姿も定かじゃねえ、この人数に非協力的なオマケ付きときたか……簡単に言ってくれるぜ)
(……ええ、ええ。これは正真正銘のロクでもないお話しだわ!)
『ド根性ヒューマン』銀城 黒羽(p3p000505)とゼファー(p3p007625)の2人は、この状況がいかに碌でもないものであるのかを十分に理解していた。そして、それを小声であっても口外する愚を理解しているからこそ、内心で文句のひとつふたつ述べてもいいだろう、とすら考えていた。
彼らの内心がそうであるように、評議員達の腹の中は(原則的に)詳らかにされることはない。如何に評議員同士が机の下で互いの足を蹴り合おうとも、代表の立場に於いて何を弁えるかを理解しているのであれば彼らは評議員として正しい振る舞いを行っている、ということになる。
黒羽のレーダーは、恐らく今以て恐ろしい頻度で多数の能力が飛び交う様を完治していることだろう。イレギュラーズの探知能力しかり、評議員達の牽制しかり。それでも、議長の鶴の一声で始まった議論は概ね滞りなく進められ、評議員達も護衛各位も、このまま無事に帰路に就けるものと安堵の息を吐く。
だが、イレギュラーズは油断しない。躊躇しない。意識を集中させた状況下で、最初に『異変』に気付いたのは感覚を研ぎ澄ませたカナタと、膨大な非戦神秘の発動を察知した黒羽だった。
「壁抜け?! しかもこの量……!」
「虫だ、この音は……多足類の足音だ!」
2人は同時に天を仰いだ。閉鎖空間に空はない。ただ、天井から滲み出るように小さな……ゴルフボール程度の大きさの楕円に多足を加えたゲジのようななにかが円卓目掛けて降ってくる。
『オイオイ、純種まで揃えてお客様は神様かい? 誘う相手が違っちゃいねェかい、ンン?』
即ちそれは、短いようで酷く長い混乱の嚆矢であった。
●終わりを始める
「こっちに来イ! まともな奴同士で固まレ!」
「出口へ向かって逃げろッ!」
『赤羽』が幻影を生み出すことで出口への誘導を簡略化し、ゼファーが有無を言わさぬ声音で簡潔に誘導する。
避難誘導は時間との戦いだ。一秒でも遅れれば狂気に飲まれる可能性が爆発的に上がっていく。無為に戦うことだけに注力するのは勇気とは呼ばぬ。現状を打開することこそ、勇気の一端だ。
「落ち着け! 無理矢理通らんとする者は敵の仲間とみなし、少々痛い目にあってもらうぞ?」
「で、でで、でも――」
「くどい! 貴様も護衛ならば主人を護るなり止めるなり……ええい邪魔だ、疾く出ていけ!」
リュグナーは怯えるあまり転がるように駆けてきた護衛の男(だと思われる。猫人だ)の尻を蹴り飛ばして入口に向き直ると、内部の様子に盛大に舌打ちする。初動は文句なし、避難誘導が早かった為に3割ほどの人間を送り出すことに成功はしていた。だが、それらの多くが護衛だ。評議員は未だ1人しか追い出せていない。
「皆様、落ち着いて下さい。昨今の事件の正体が、この惨状です」
雪之丞は巧みな動きとともに手を叩き、虫の群れとともに発狂した評議員を招き寄せる。彼女の言葉は正気を保つ人々へ向けて。この状況を見れば、如何に鈍感でもその言葉の意味は理解できよう。
「わたし達は大丈夫だから、無事ならみんな早く外に出て! ホントに早く!」
ロクもまた、雪之丞に敵が群がらぬよう声を張り上げ、敵の群れを引きつけんとする。彼女の場合、現れた虫達から聞こえるノイズ混じりの声を聞き続ければ狂気に呑まれ、最悪の展開すら覚悟せねばならぬ立場だが……鍛え上げた強固な精神は、そんな些事を気にはしなかった。
「ここは俺が止めておくから、逃げられる奴からとっとと逃げろ! 狂ったら取り返しがつかねえだろ!」
黒羽は議長に群がろうとした虫の群れを正面から受け止め、全身に集ってくるそれを微動だにせず抑え続けていた。とはいえ、その精神を蝕む狂気の影を抑えることは、彼にとって容易ではない。
彼は確かに鋼の精神力で『誰かを』攻撃することはなかったが……反射的に自らを殴りつけていた。そうする以外に、絶え間なく群がる凶状を抑える術などなかったのだ。
「あああああああ! アーッ! あああーっっ!」
「落ち着くのである! 落ち着……ええい、少しおとなしくするのである!!」
ままならぬ狂乱にまかせて襲い来る評議員に対し、ローガンはしたたかに殴りつけることを回答とした。普通であれば命の危機すらあり得る打撃は、しかしショーファイトを行う誇りによって意識を刈り取るに留める。当然、放置しておけば危険なので避難誘導に回った面々へ放り投げる事も忘れない。
「おっと、ここから先は正気の者か、正気に戻った者の逃げ道だ。一度眠りに就くまでお引取り願おうか」
リュグナーはローガンが放り投げた評議員をキャッチして扉の外へ追いやると、振り向きざまに狂化した護衛を張り倒す。傷を与えず、しかし動きを大幅に阻害する技術は、続けざまに別の狂人に対し動きを阻害する呪術を放つ。地獄の大公爵アガレスの名を借りたその技能は、成程、その尊大な名に恥じぬ抑止効果を遺憾なく発揮していた。
「『お』さない!
『は』しらない!
『し』ゃべらない!
『も』どらない!
『ち』かづかない!
これは本番と言う名の避難訓練だ! 評議会を背負って立つ者達ならまず落ち着いて行動しろ!」
カナタは未だ鋼の精神で正気を保つ人々を一喝し、次々と出口へ誘導していく。襲いかかってくる狂人があれば殺さぬよう咆哮で追い払い、虫が人々を追おうとすればそれらを抑えるために暴風が如き破壊を放つ。観察を徹底できれば何よりだが、取り逃した虫が評議員を襲ったのでは意味がない。そうでなくとも、十分すぎる情報を彼は得ていた。
「こいつら、殴って倒せるのよね? 大丈夫ね? よし、じゃあ――ブッ壊すわ!」
ゼファーは周囲の状況から虫を『倒せる』と判断するや否や、Remembranceを振り上げて全力で打ち払う。虫はあっけなく四散し、次の虫が、さらに次の虫が――と群がってくる。
評議員達が何とかなったとして、次はこいつらが厄介だ。
●それは、ただのちっぽけな
「ハッ、はぁ……!」
黒羽は、息も荒く立ち尽くす。背後の評議員は狂わぬままに脱出に成功した。目の前の虫達は未だ倒し切るに至らず、攻めに転じることを徹底して禁じた彼のスタンスは兎角自らを追い詰める。倒れそうな状況にあってしかし、倒れることすら許されない。なんとまあ緩やかで穏やかでない拷問であろうか。
「黒羽さん! もう大丈夫だよ! 評議員の人たちは全員出ていったから! あとはわたしに任せて!」
「拙は奈落の鬼。呼び声が狂気を呼ぶとて、奈落に比べればそよ風のようなもの。拙のような者が抑えずしてなんとします」
ロクと雪之丞は疲弊した黒羽を庇うと、そのまま各々の技能を以て次々と虫達を蹴散らしていく。かたや備えた装甲ごと飛びかかって虫を押しつぶす動き。かたや刀と鞘とで一対の戦闘技能とし、次々と蹴散らしていく速度と破壊の権化。
何れも狂気を前にして『完全に無事』とは言うまいが、それでも敵意を上回る決意で敵の猛攻を耐え、蹴散らしていく。
「そういうことダ、ここは俺達に免じて休んで欲しい」
大地は『赤羽』ととも黒羽にそう告げると、淡々と癒やしの波長を送り込む。黒羽は倒れぬだろうが、さりとて傷が傷まぬわけではない。
癒やし、庇い、十分な判断力があるうちに彼の戦いを全うさせる。それもまた、大地なりの戦いなのである。
「先程から気付いてはいたが……この虫、すべて機械か」
『ヘッヘッッヘ、遅ェよ、遅ェ! 評議員サマを追い散らして悦に浸ったお前らにゃ悪ィけど、あいつらが捕まらないならお前らが狂っちまえばいい、そう思わねえか? なア!』
カナタは順当に1体ずつ虫を壊し、慎重にそれらの特徴を分析していた。数にあかせた暴力を前に、拾い上げる暇はない。
だが、僅かなヒント……たとえば感触や駆動音は容易にそれらが機械人形のたぐいであることを理解させ、時折流れる不愉快な声はスピーカーノイズの乗ったそれだ。
魔種らしき存在が作ったのか、もともとそういうものなのかは定かでないにせよ、明らかに悪意を以て送り込まれたことだけは確か。
「見えない相手が見えるようになっても、数ばかり多くて正直難儀だわ……壊せるなら! 遠慮なく! 壊すけれども!」
ゼファーは息を荒げながら、それでも次々と視界に入る虫達を破壊していく。
兎にも角にも数と狂気。そして呪いのように耳を揺さぶる誘い声。全く不愉快極まりない。
「吾輩、正直狂気も呼び声も怖くて仕方ないのである。だが、怯えで誰かを救えぬことのほうが怖いのである! 何より同じ鉄騎種として、不届き者を許すわけにはいかぬのである!」
ローガンの主張、というか心境は一貫して狂気をばら撒く鉄騎種への怒りに満ちていた。同じ種として、魔に堕ちたそれにいかな背景があったのかなど考えない。ただ、誰にだってある心の澱を濾し取って喉に詰め込むような悪意、許されるはずがない。
「いずれにせよ、だ」
リュグナーは地獄の存在から借り受けた狂気をして虫達を纏めて蹴散らしていく。無表情に、しかし心底不快感を露わにした声音は、彼がこの状況をちっとも楽しめていないことに起因しようか。
「貴様のような下らぬ遊びに付き合うのは飽いた。いい加減帰るがいい」
「『それ』を通じて、こちらを見ているか知りませんが、その程度では、身じろぎすらしません」
雪之丞が最後の一匹を貫くと、議場は漸く静けさを取り戻す。……いや。
『あーあ、面白くねえ。面白くねえから、次はもっと盛大に――』
声の意味はわからない。
声の理由とその影響を一同が理解するのは、もう少しだけあとの話だ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
なにがちっぽけな悪意だよ! 最悪だわ!
そんな内容でした。評議員は被害ゼロだよ。すごいよ。
GMコメント
物凄く得体のしれない話とか始まったり始まらなかったりする感じあります。
OPがしっちゃかめっちゃかしてますが、オーダーは下記の通り単純です。情報量が多いですけどね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●成功条件
『多世界評議会』の参加者の半数以上の生存
●念の為の注釈
『旅人』の反転は原則ない(報告されていない)ですが、「狂気の影響を受けることはあります」。
●多世界評議会
『練達』北西部の区画内にわちゃわちゃしている、価値観の大きく違う世界同士の旅人達の意見を集約している組織。
あくまで区域の自治が主であり、国家全体に影響することはない。ぶっちゃけてしまうと町内会か市議会レベルである。
「中世・貴族世界」「近未来・国境なき世界」「現代風・倫理性の退廃した世界」等、複数の時代・価値観で構成される。共通点は強い理性と混沌肯定による制限を受け容れていること。
参加集団は8、各人3人ずつの護衛をつけている。代表と護衛だけで32人がいる計算となる。
これは確定事項だが、『協議開始時点で狂気に侵されている者はいない』ので、先走った行動は厳禁。
戦闘になった場合、護衛は共通で至~近の近接武器戦闘、代表は簡易な携行火器(中~超)を用いる。BS等の付与は不明ながら、そこまで凶悪なものは使用できない。
(練達内での支給品の為、セキュリティレベルで強すぎるものは存在しない扱いである)
●???×不明(多数)
評議会の会場内に現れる(と思われる)謎の存在。サイズ形状特性すべて不明だが、「現れる」ことと「狂気の伝播に関連している」ことは確定している。
戦闘力は低いものの、至近範囲で『原罪の呼び声(無・狂気)』をパッシブで吐きまくる。極悪。
●鉄騎種の魔種(推定)
リプレイ内(というか評議会の会場)に姿を見せることはない。一連の殺人事件の裏で糸を引いていると思われる人物。
生存者でその声を聞いた者は殆どいないが、非常にノイズの激しい、軽薄な声音をしているという。
指向性が高く伝達距離も非常に長い、声を届かせるギフト(便宜名「黄昏レディオ」)を使用して人々の仲に亀裂を入れ続けている模様。
●協議場
円卓が中心にある、一般的な大会議場程度のサイズ。評議員達はそれぞれ十分に距離が離れている。出入り口は左右前後に4箇所。
避難誘導要員を置いた方が確実と思われる。
何が起こるかわかりませんが、最悪シンプルになんとかなります。……多分。
Tweet