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シナリオ詳細

鋼の大蛇と鉄の森

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●冒険者の酒場『ホワイトピース』にて
 暖炉に燃える薪。ぶつかる金属ジョッキには黒ビールがなみなみと注がれ、男たちは腕を組みあって踊っている。
 ハンドネオンによる陽気な演奏に乗って酒に酔えば、誰とて踊りたくなるものである。
 ここは鉄帝北部の雪深い山々に囲まれた土地レイナス。寒さに負けない冒険者たちは今日も酒場に集まってはクエストボードから仕事を、酒と音楽から喜びを、そして共にいる仲間たちから人生を得ていた。
 そんな酒場にふらりとやってくる、ショウ(p3n000005)。
 音楽が終わると同時に開いた扉に、男の一人がジョッキを手渡して肩を叩いた。
「よう、よく来たなローレットの情報屋。依頼を探しに来たんだろう?
 見ていけよ、ちょうどあんたらに譲ろうと思ってた仕事があるんだ」

●ザッハーク級古代自律兵器『ヴェドロゴア』
 レイナスの山岳地帯。それも人が滅多に立ち入ることのない危険区域には無数のモンスターが生息している。
 ゴブリンから巨人。空飛ぶ鯨や氷の怪鳥。暴走古代兵器や悪霊やいたずら妖精やら、とにかくなんでもござれだ。
 そういった混沌とした存在群がひとつの生態系を作り、奇妙ではあるがしかし安定したバランスを保っているという。
「――けれど、たまにそのバランスが乱れることがある。
 田舎なんかでもあるよね。山でドングリが大してとれない時に熊が人里に下りるような話さ」
 ホワイトピース酒場に並ぶ石のテーブルにて、ショウはジョッキを掲げてギルドボード前の男に挨拶した。
 そしてイレギュラーズの……あなたの方をむいて話を続ける。
「2~3年に一度の割合で、山から大蛇のような怪物が下りてくることがあるんだ。翌年に備えて鉄分を蓄えられなかった時かな。もっと具体的に言うと、山に生息してるアイアンスコーピオンや金属生命体や自律ポットを食べられなかった時さ。
 こういうとき、あの怪物は町にある建物や鉱物倉庫を襲って鉄を捕食しようとするんだ。
 今回、そのうちの数匹が山から下りてきたのが観測されてね。
 足止めを行なってるけど町に到達するのも時間の問題みたいだ。
 これから現場に行って、その怪物を退治しなくちゃあいけない。
 どうかな? この仕事、受けてくれるかな」

 怪物の名は『ヴェドロゴア』。
 常人の二倍の大きさを持つ蛇型の古代自律兵器である。
 勝手に増え勝手に生息し勝手に特定の国家を攻撃するという役目を持った金属製の大蛇であるが、国とやらがとっくに滅んで土と雪の下に消えたことではれてただの大蛇となった。
 しかし多く生物の例に漏れず必死に生きようとするため、今回のような事件もおきるのだ。
 やがて、近くで酒を飲んでいた男がやってくる。
「ヴェドロゴアを狩るんだろう?
 奴は黒い鋼の蛇だ。俺たちより倍もデカくてそして硬い。
 顎自慢のガブリナが噛みついて歯が欠けたって話はするか? ガハハ!」
 男は新しいビールを注文すると、得意げに話し続ける。
「奴について注意すべきは、やっぱり歯と顎だな。ダイヤモンドカッターみたいに回転する歯が並んでて、触れたもんをすぐにばりばり破壊しちまう。
 当然さ、奴の主食はデカい鉄の塊だからな。
 でもって油圧カッターみたいに顎で潰して噛み砕いちまうんだ。とにかく噛みつき攻撃には注意だな。
 それさえなんとかできればあとはデカい蛇そのものさ。
 素早い動きと体当たりとハドロンビームに注意すれば戦えるだろ。ガハハ!」
 後半おかしな単語が出たな、とショウのほうを見ると、ショウは『そういうのが当たり前なんだよここは』という顔でジョッキを翳してきた。

GMコメント

■オーダー:ヴェドロゴアの退治

雪深い山岳地帯から今まさに町へ向けて下りてきている古代自律兵器ヴェドロゴア×10体を撃退します。

■ヴェドロゴア
黒い金属でできた巨大な蛇です。
鉄を主食にしており、肉食獣みたいに似たような自律兵器ロボットを喰います。
すごく余談になりますがこういう生き物(?)が山にはうじゃうじゃしていて毎年になると子供を産むらしく独自の生態系を何百年と保っているそうです。さっきの酒飲み男の話なのでそこがホントかどうかは知りません。

攻撃方法は主に三つ
・必殺噛みつき:大ダメージ【必殺】【溜1】
・牽制攻撃:【痺れ】
・巻き付き:【麻痺】

■フィールド:雪降るでこぼこエリア
 うっすらと雪の積もる場所で、なんだかあちこちに1~1.5m程度程度のよくわからない物体が転がっています。
 自動車スクラップ工場みたいなものをなんとなく想像してください。
 地元では『鉄の森』と呼ばれていますが、どうやらヴェドロゴアはこのへんの鉄は食べないようです。なんでだろう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • 鋼の大蛇と鉄の森完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月17日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
主人=公(p3p000578)
ハム子
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
鞍馬 征斗(p3p006903)
天京の志士
カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)
帰ってきたベテラン
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐

リプレイ

●トンネルを抜けたら
「ザッハーク級古代自律兵器『ヴェドロゴア』……ですか」
 『白綾の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は資料に書かれた僅かな情報を幾度も念入りに読み返していた。
 等級分けが成されていることからも分かるとおり、山には同様の自律兵器が今でもうようよとしていて、それぞれが独自の生態系を築いている……という論文が、どうやら鉄帝の自律兵器生物学者というエッジのききすぎた職業の人から出ていたらしい。見つけるのに一苦労であった。
 そこに描かれたヴェドロゴアの、ややグロテスクなイラストをそっと撫でる。
「あまり可愛らしいとは思えぬ生物ですが、興味は惹かれる生態系です。
 今回依頼とは直接関係のないアイアンスコーピオンや金属生命体や自律ポットも含め、金属の物体のようで、生きているような彼らは、私たちとはきっと大きな違いのある存在でしょうから……」
 恐らくその学者というのも、Lumiliaと同じような興味や感情であの山を調査しているのだろうか。
 夢想はやまぬ。
 さておき。
「今回、仲良くなれそうに無いのが惜しいですね」
「突然なんだけど……これって、歯とか持ち帰ったら高く売れるかしら?」
 『帰ってきたベテラン』カナデ・ノイエステラ・キサラギ(p3p006915)が資料に記載された歯形の写真を指ではじいた。
 金属製品をもりもり噛み砕くダイヤモンドカッターめいた歯である。
 確かに持って帰ったら楽しそうな気がするアイテムである。
「鉄帝に限らず、かわった生物は沢山いるよね」
 『ハム子』主人=公(p3p000578)もまた資料を読みながら苦笑していた。
「万能防寒着の元になる熊とか、装甲馬車に使われる亀とか、価値が出そうなモンスターパーツって市場にだいぶ出回ってるみたいだよ」
「出回ってるのかあ……ザンネン」
 釣り人が魚を売るがごとき、とはあんまりなりたくないものである。
「ま、いいわ。今の依頼報酬って昔に比べてだいぶ高いし」
「それだけ結構な仕事をしてるってことかな……おや?」
 馬車の窓布を上げる。
 と、長いトンネルが終わり、外の景色が白く輝きだした。
 いや輝きではない。
 白く乱反射した薄雪が一面に広がる、『鉄の森』である。

「噂には聞いてたけど、だいぶ寒いところだね」
 そう言いながらもシャツのボタンを三つほど外す『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)。
 戦いが近くなることで興奮しはじめているのだろうか。
 それとも、この名前も分からないスクラップだらけの森が珍しくてたのしいのだろうか?
「ヴェロドゴアの討滅……だけ言うと楽な仕事に思えるけど。
 面倒そうな相手……。何事もなければいいけどね……出来る事をしよう」
 膝に手を置いてゆっくりと呼吸を整える『天京の志士』鞍馬 征斗(p3p006903)。
 馬車はとまり、征斗やヴォルペたちは野外へと出て行った。
 たとえば自動車や冷蔵庫をめちゃくちゃに破壊して押しつぶして、キューブ状に固めて積み重ねていった……ような物体が、あちこちにあった。
 よく観察してみるとどうやら地面から生え、樹木のように連結して空に伸びているらしく、さらによーく観察すると小指の先程のちっちゃい自律兵器生物らしきものがちょこちょこ動いて金属を削ったり平らにしたりを繰り返しているのがわかる。
 噂に聞くとおり、ここは確かに『森』なのだろう。
 ここはここで、独自の生態系が働いているのだ。
「この辺りは随分と変わった生態系をしているのですね。流石は混沌と言った所でしょうか」
 『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)は少しだけ興味を示したが、すぐに感情を封印して上質な長剣を引き抜いた。
 後ろの馬車が到着し、扉が開く。
 『楽しく殴り合い』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が耳をぴこぴことさせながら下りてきた。
「あ、見て! ヴェドロゴアってあれのことじゃない?」
 指さす先を見てみると、巨大な蛇のような金属集合体が円錐型の先端部をばっくりと開いていた。内側に並んだカッターがぎゃりぎゃりと音を立てて動き、どうやらこちらを威嚇しているらしい……ことがわかる。
「メカメカしいのがギチョギチョ動いてるのカッコいいよね。
 この世には変なものがいっぱいだし、見て回るのがますます楽しみになっちゃうよ。ね、美咲さん!」
「確かに、現代に生き続ける古代技術って考えるとロマンよねえ。私も結構好きだわ」
 『魔眼の前に敵はなし』美咲・マクスウェル(p3p005192)は前髪を軽くかき上げ、目の奥を光らせた。
「今にも戦いたそうだけど……こっちも準備があるしね。ここは一旦退きましょ」

●メーカー保証はきっとない
 突然ではあるが、ロバロボットが鉄鍋やバーベルのアイアンウェイトなんかを背中にくくりつけてよったよった歩いているさまをご想像いただけようか。
 その様子を物陰(さっきのスクラップツリー)からじっと観察する美咲たちも、ご想像いただけるだろうか?
「ドングリを食べ損ねた熊みたいに人里に下りてくるんだとしたら……」
 美咲の上のあたりからにゅっと顔を出すLumilia。
「わざわざ移動しなくてもいい場所に餌があれば食いつくはず」
 その上からにゅっと顔を出すヒィロ。
「しかもここの森の金属は食べないってことだから」
 そのまた上からにゅっと顔を出す公。
「その中を美味しそうな鉄の塊が歩いていれば追いかけてでも食べたがるよね」
「「…………」」
 オリーブと征斗が、彼女たちを『なんでこの人たちデバガメスタイルでロバロボットを観察してるんだろう』って顔(?)で眺めていた。
「おっと、ようやくおでましだ。皆隠れて」
 ヴォルペがぱっと手を上げ、スクラップツリーの先を指さした。
 口を開きカッターをギュラギュラ激しく鳴らしたヴェドロゴアが現われ、よたよた歩くロバロボットに食らいついた。
 小動物を大蛇が食らうがごとき光景をあえて描くまでもあるまい。
 ノジャーという電子音がヴェドロゴアの中に消えていくのを確認すると、カナデはスクラップツリーの裏から飛び出しながら魔法の鍵を振りかざした。
「さあて、『帰ってきたベテラン』らしいことしないとね!」
 カナデの姿は突如として赤い光に包まれ。ゴワンという銅鑼の音と共にニューコスチュームで飛び出した。
「『その心、絶望に染めてあげる……』」
 噂によると約八ヶ月ぶりにお目見えした新コスチュームであるらしい。チャイナドレスを限界までドスケベにしたような衣装と共に、開放状態で固定された魔導書と魔力を伝達するための杖を装備。
 自動でページがめくれ、拡散破壊魔術の曼荼羅式魔方陣が発生。
 ロバロボットを狙っていたらしい他のヴェドロゴアたちが集まってきたそのタイミングを狙い、一気に魔術を開放した。
 突然の奇襲に防御を忘れ、慌てるヴェドロゴアたち。
「奇襲の効き目は秒で消費されるもの。ガンガン行きましょ!」
 別方向から飛び出し、顔半分を覆うように手を翳す美咲。
 開いた指の間から目を光らせると、ヴェドロゴア周辺の空間に無数のマジックポインタを発生させた。
 それぞれのポインタを繋ぐように黒いエネルギーラインが流れ、それぞれのラインを繋ぐようにエネルギーシェルが発生する。
 全てのシェルの間に生まれた苦痛のエネルギーが、領域内部に残っていたヴェドロゴアたちへと襲いかかった。
「今よ、繋いで」
「雪華よ舞え……万象等しく凍てつき切り裂け……!」
 魔術触媒にした刀――『細刀【血英-曼殊沙華-】』を抜き、水平に空を凪ぐように振り込む征斗。
 天空に生まれた巨大な陰陽陣から氷の華が無数に発生し、暴風雨のように降り注ぎヴェドロゴアたちへと突き刺さっていく。
 攻撃を受けたことで自分たちの危機を察したヴェドロゴア。
 征斗たちに食らいつこうと襲いかかってきた。
「出番――だね!」
 地面を力強く踏みつけるヒィロ。
 全身を覆う深紅の鎧に青白い光のラインが走り、ぽぽぽと円盤状の狐火が空中に生み出される。
 ヒィロは俊敏にヴェドロゴアの前を横切ると、注意を引きつけながらスクラップツリーへと駆け上っていく。
 頂上へとたどり着いた所で、ヒィロは再びくいくいとヴェドロゴアを手招きした。
 彼女の華麗な動きに目を奪われ、つい追いかけてしまうヴェドロゴアたち。
 一方のヒィロは空中に生み出した簡易足場を使ってスクラップツリーをぴょんぴょんと飛び渡っていく。
「おっと……!」
 食らいつこうとするヴェドロゴアをギリギリで回避し、剣でひっかくようにしながら離脱。
 追撃をしかけようとしたヴェドロゴアを、明後日の方向からおきた魔術砲撃が吹き飛ばした。
「人を襲わずに邪魔な鉄を食べてくれるだけならすごく役に立ちそうなのに……残念」
 手を突き出し、さらなる砲撃をチャージする公。
 ヒィロが引きつけきらなかったヴェドロゴアが彼へと集まるが、ここぞとばかりにオリーブが割り込み上質な長剣で攻撃を受け止めた。
(長くは持ちませんが、緊急の危機回避にはなるでしょう)
 かぶとの下で呼吸を整え、ヴェドロゴアと格闘を始めるオリーブ。
「おっと、独り占めはさせない。おにーさんにも分けて貰えるかな?」
 胸元のボタンを外し、涼しい格好になると、ヴォルペがヴェドロゴアを横から大胆に蹴りつけた。
 格闘中のヴェドロゴアがはじき飛ばされ、スクラップツリーへ激突する。
「こっちの数体は任せて。頭からガブッといかれないよう気を付けないとね。
 ――さあ、俺の可愛いお姫さま。今日も護るのがお仕事だよ」
 は再び自らに力を漲らせ、赤いオーラを纏って跳躍。
 彼を締め付けて拘束しようと回り込んだヴェドロゴアを蹴って二段ムーンサルトジャンプをかけると、すたんと砕けたスクラップの上に着地した。
「ヴォルペさん、こちらへ」
 するとLumiliaがスクラップツリーを切り倒し低い櫓上にしたものの内側から呼びかけてきた。
 猛烈な速度で追いかけてくるヴェドロゴアから走って逃げながら、スライディングでスクラップ櫓の中へと入るヴォルペ。ヴェドロゴアは彼の頭を食いちぎろう……としたところで一旦やめ、カーブして櫓の周りを走り始めた。
 その様子を観察しながら語るLumilia。
「金属……特に鉄を養分にするのにこの辺りの金属を食さないのは理由があるはずです。例えば、これとか……」
 スクラップ櫓の表面をちょろちょろと走る小指の先程の小さな機械。金属製のテントウムシにも見えるこの機械が群がるスクラップを、どうやらヴェドロゴアはさけて通っていたことをLumiliaはここまでの観察で見抜いていた。
「ヴェドロゴアにとって毒なのか、もしくは攻撃してはいけない行動規則になっているのか。とにかく、この虫(?)がおおくたかっているスクラップはいい障害物になる筈です。うまく利用していきましょう」
 そこまで語ると、Lumiliaは神の剣の英雄のバラッドを奏で始めた。
「とはいえ、あちらも強硬手段には出られる筈です。つかず離れず……」
 Lumiliaは魔力糸でエストックを編み上げると、スクラップ櫓を飛び越えて振りかざした。
「仕留めましょう」

●うなれ鋼
 巻き付いてくるヴェドロゴアから離脱し、転がるように走りながら距離を取る征斗。
 刀に纏わせた魔力を振り込み、斜めに切り上げることで遠く離れたヴェドロゴアに遠隔斬撃を叩き込む。
 斬撃によってぐらりとゆらいだヴェドロゴアに、オリーブが猛烈な攻撃を仕掛けていった。
 傷ついたヴェドロゴアを剣によって叩ききる。
 巨大な鉄の蛇がオリーブの攻撃によって打ち砕かれ、口を開いたままの頭がバウンドしながらスクラップツリーにぶつかっていく。
 そんなオリーブへと集中するヴェドロゴア。オリーブは戦鬼暴風陣の構えを、征斗は再び『陰陽術【凍華旋風】』の構えをとった。

 一方。
「ふう、だいぶ大技を連発しちゃったからなあ」
 公は手をぱたぱたと振って、ポケットからゲーム機を取り出した。
 表示されたアバター選択画面を操作し、性別をチェンジ。
 画面選択と同じように自身も男性フォームへと変わると、ぐっとパワフルな構えをとった。
 説明しよう!
 現バージョンの主人=公は序盤をアーリーデイズと魔砲による超火力砲手モードで戦う美少女フォームで戦い、終盤を『主人公力』をはじめとする加速系累積強化値と底力によって高バランス前衛ファイターとなるのだ。頭ターンに1倍。それぞれ5ターンごとに累積しマックスで4倍になるというこの加速系能力は戦闘開始から暫く経った頃には命中、回避、EXA、特殊抵抗にそれぞれ驚異的な強化が施されているのだ。
 といっても魔砲の連発によってAPがつきるのはほぼ10ターン程度なので序盤もちょこちょこ節約しながらそのターンまで持って行く必要があるが、そこは状況次第である。
 今回のように数が多くやや固めの敵を相手にする際にはもってこいのスタイルだと言えるだろう。
「さ、どんどん片付けちゃおう。援護ヨロシク!」
 猛烈な突進と蹴りによってヴェドロゴアをへこます公。
 と、同時にヴォルペの蹴りが炸裂。
 派手に蹴り飛ばされたヴェドロゴアはスクラップツリーをへし折って倒し、唸りながらも起き上がった。
 口を開き、襲いかかるヴェドロゴア。
 対するヴォルペは不敵に笑って跳躍。あえて自らヴェドロゴアの口の中へと飛び込んだ。
 両手両足に紅蓮のオーラを纏わせ、回転のこぎりのような歯を受け止める。
 ぎゃりぎゃりと激しく火花を散らす歯を押し返しながら、ヴォルペは頬に血を流した。
「そうそう、このくらい刺激が無くっちゃあ……ね!」
「ヴォルペさんが押さえている今がチャンスです」
 Lumiliaは短く呪歌を唱えると、剣に意志の力を束ねていった。
 巨大な紅蓮のオーラが剣から燃え上がり、斬撃によってヴェドロゴアの肉体を激しく切り裂いていく。
 内部で暴れ回った肉体構成パーツがまた自らを傷付け始める。
 痛みに暴れ、ヴォルペをはき出すヴェドロゴア。
「夢の一軒家!! 庭付き!! ……を、手に入れるのよ!!」
 杖を大地に突き立てるカナデ。
 地脈のようにうねうねと伸びた魔力のラインがヴェドロゴアの足下まで至り、巨大な曼荼羅を形成。飛び出した岩の蛇がヴェドロゴアを食らい、そのまま地の底へと引きずり込んでいく。
「ふう……あっ、引きずり込んだらだめじゃない。歯! 歯は残していきなさい!」

 決着が付こうとしている。
 残り一体となったヴェドロゴアが乱立するスクラップツリーの間を文字通り蛇行しながら走り抜けていくのを、ヒィロと美咲は連携して走りながら徐々に追い詰めていた。
 目を閉じ、パッと開く美咲。虹色に移ろい続けていた目の色が、美しくプリズムに輝いた。
「ヒィロ、あれで行きましょ!」
「おっけー!」
 宙返りをかけて着地するヒィロ。
 左目からぶわりと炎のようなオーラを燃え上がらせると、ヴェドロゴアめがけて猛烈な狐火を発射した。
 ヴェドロゴアを包み込む炎。
 その側面に回り込んだ美咲は片手で片目を覆うようにしつつ、指の間からぎらりとプリズムの光を放射した。
 虹の放射がヴェドロゴアの装甲を無理矢理突破し、貫いていく。
 これだけの火力とシナジー。ヴェドロゴアが爆発四散し、焼け焦げた装甲板しか残らなかったとて不思議はあるまい。
 最後の一体を倒したことで、ばらばらに戦っていた仲間たちも集まってくる。
「お疲れ様ー! それじゃこの蛇持って帰って、鍋とか色々貰った御礼にしよっか!」
「鉄が主食の蛇だなんて、いい素材になりそうよね」

 こうして、イレギュラーズたちは無事にヴェドロゴアの退治を完了し、依頼主である村へと報告に行ったのだった。
 今年の秋も、平和にこすことができそうである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

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