シナリオ詳細
<Sandman_extra>運命に導かれなかった勇者たち
オープニング
●運命に導かれなかった勇者たち
「暇……!」
直立状態の『反応狂』アルプス・ローダー (p3p000034)が、ヘッドライトをぺっかぺっかさせながら叫んだ。
ソファに座っている交流アバターに至っては暇を画に描いたかのようにスマホをぽちぽちしている始末である。
「外は大忙しだっていうのにね……」
その横で本を読む『目隠れ巨乳の血統』アルメリア・イーグルトン (p3p006810)。
「仕方ないだろ。依頼は基本早いモン勝ちだ」
同じく本を本で時間を潰そうとする『首痛い系男子』赤羽・大地 (p3p004151)。
よく依頼に落ちる受かるが実際はどういう状況なのかと話題に上ることがあるが一応説め――。
「ゴッドが説明しよう!」
『みんなのゴッド』御堂・D・豪斗 (p3p001181)が椅子の上に立ち上がりスマホを掲げた。
「オーダーに応じなかったヒーローアンドエンジェルは偶然にもその場に居なかったか応じようとしたがたまたま別件がブッキングしたかネバーなアクシデントにエンカウントしたというのが定説だが今回の件は全員――!」
パシャーと撮影しはじめるゴッド。
「『はい8組つくってー』と言われうっかり一人余った者たちである!」
「遠足にあぶれたみたいな言い方やめてもらっていいですか」
『帰ってきた紅茶マイスター』ラァト フランセーズ デュテ (p3p002308)が、トレーに人数分のカップを乗せてやってきた。
テーブルにポットとカップを置き、カップを温め始めるラァト。
ここはラサの首都フェレストにあるローレット拠点。ローレットが世界各国の依頼へ迅速に対応するためのイレギュラーズ専用ゲートが設置された施設である。ここを通じ幻想の空中庭園経由であちこちに移動するのだ。
今回の<Sandman>騒動に迅速に対応できたのも、かつて天義でおきた大事件に三百人近い戦力を一斉投入出来たのも、ひとえにこのゲートのおかげと言っていいだろう。
そんなゲートのある部屋を振り返り、いれてもらった紅茶に口をつける回言 世界 (p3p007315)。
「しかしこの施設……重要っちゃあ重要だが、俺たち以外使えないんじゃよそには価値がないからな。ここがピンポイントで襲われるなんてことはないだろ」
「本当に襲ってきたとしても、数百人のイレギュラーズ相手に何か出来るとは思えないけどねぇ」
『性癖直列つなぎ』ニエル・ラピュリゼル (p3p002443)が紅茶のカップをふーふーしながら……ぴたりと動きを止めた。
「何か来る」
「――ッ」
『○○の極み』亘理 義弘 (p3p000398)が自分の分の紅茶カップを持ったままテーブルを蹴り倒した。
急にお行儀が悪くなったわけではない。
窓から手榴弾が放り投げられ更にマシンガンによる掃射が行なわれたがためである。
テーブルを盾にしてニエルやラァトたちを引き寄せる義弘。
「襲われたな。ピンポイントで」
「数百人のイレギュラーズはどうした?」
そこへするっと滑り込んできた世界が、壁に背をつけて身を守るアルプスローダーやアルメリアたちを見た。
「手が離せないそうですよ。イルカがどうとか」
「三十件近い依頼が一度に舞い込めば大忙しにもなるわよ」
200~300人キャパの大仕事である。中には2~3件の仕事を掛け持っている者もいるらしいが、そうなれば尚のこと手は出せまい。
「え、ちょっとまて、じゃあ何か?」
大地はほんとに痛めたらしい首をさすりながら、伏せた姿勢のまま仲間に振り返った。
「今ここに居る八人だけで――」
「そう! このレイダーたちを撃退するのだ! 立ち上がれヒーローアンドエンジェ――」
コロンビアポーズで立ち上がるゴッド。
打ち抜かれるスマホ。
あがる悲鳴。
ラァトとニエルは同時にハァとため息をつき、すぐそばにあった自分の装備を手に取った。
- <Sandman_extra>運命に導かれなかった勇者たち完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年10月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●別の運命に導かれし勇者たち
窓から飛来した手榴弾をその辺のトレーで強引に跳ね返す『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)。
カキーンと音をたてて飛んでいった手榴弾が外で爆発し、一時的に射撃の音がやんだ。
「まさか拠点を直接攻めてくる奴が居るとはな」
すぐさま再会された銃声に警戒して窓際の壁に身を隠しつつ、外をちらりとのぞき見た。
「一体誰だ。ザントマン派の傭兵にしちゃあ前触れがなさ過ぎる」
「確かに、ねぇ……」
同じく窓際によっていく『性的倒錯快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)。
「ザントマン派に限らずラサにも敵は多いから、襲われること自体はいいけどぉ……世界規模で優秀な情報屋を何人も抱えてるローレットの情報網をくぐり抜けたのはひっかかるわねぇ。やっぱり、『海種問題』かしらぁ……?」
「海種……なんだと?」
「なるほど、諸君と同様ゴッドもレイダー達よりシー&リバーのスメルを感じ取った!」
額にピンと人差し指を立ててみせる『例のゴッド』御堂・D・豪斗(p3p001181)。
「ところでゴッドは最近マッカレル……シメサバなるものにはまっていてな!
特に炙った物が良いのだが……奴の持つフレイムスロワーには見覚えがある!
そう、アブラレッターマン!
炙り炙られ、あぶれたロンリネスな男であったはずだが……どうやらフレンズを見つけたようだ!
それは喜ばしい! が、レイダーの一味となったというのならばそのロード、正さねばなるまい!」
「なんて?」
「『アブラレッターマン』という火炎放射マニアが襲撃者の中にいるのを発見したらしい」
「いや、それだけじゃあないぞ」
『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)が割れたティーカップの持ち手部分だけを手に、窓際までずるずると匍匐してやってきた。
「あれは主に海洋で動いている傭兵の『滅びを齎す深海の覇王・デスブラッドシャーク』だ」
「なんて?」
「滅びを齎す深海の覇王デスブラッドシャークは神殺しを自称してたり、いきなり右腕をつかんで鎮まれと呻き出したり攻撃を繰り出す時に逐一技名を叫んだりするという噂だ。名前を言うだけでも恥ずかしくなるが……どうやらフレンズとやらはそいつらしいな」
「なんと、ジャキガンマインドのホルダーであったか」
やれやれだぜと眼鏡の位置を指でなおす世界。
すると窓の外から『デスレクイエムエクスプロージョン!』という謎の叫びと共に手榴弾が投げ込まれてきた。
「そう何度もくらうかっ」
『彼岸に根差す』赤羽・大地(p3p004151)が分厚い本をスイングして手榴弾を窓の外へと跳ね返した。
「仮に襲撃者がそいつらだとしても、ザントマン派とは考えづらい。首都の中はディルク派の傭兵たちがごろごろしてるからな。それにあいつら、見たところ海種だろ? 海洋から来た傭兵じゃないのか」
言われてみれば、アブラレッターマンとデスブラッドシャーク以外もディープシーだらけのようだ。
そういう傭兵団がラサにないわけでもないが、消去法でいけばよそからの闖入者とみるのがいいだろう。
「待って、一人見覚えがあるわ」
窓から外の様子をうかがっていた『絵本の外の大冒険』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)がぱたぱたとハンドサインを出してきた。
「いつだったかしら……確か、お母さんに頼まれて幻想種奴隷のルートを潰した時に見たはずよ。富豪の護衛の一人だったはず。そういう意味ではザントマン派とも言えるけど……直接的な利害関係は切れてるとみるべきよね」
「てことは、逆恨みか新しい仕事を手に入れたか、だな」
「一応聞いて置くけど、その人たちって紅茶はお好きかな?」
『紅茶卿』ラァト フランセーズ デュテ(p3p002308)が無事だったティーカップで紅茶を飲むと、ほっと安堵の息をついた。
「好きなら振る舞ってあげてもいいけど」
「どうかしら、見てあのマグロディープシーのTシャツ」
ちょいちょいと指さす先には、『コーヒーを飲まぬ者に死を』と古代文字で書かれたTシャツ……を来たマグロディープシーの姿があった。
「残念だ……すごく……」
「気を落とさないでください」
転倒しかけたバイク(というか本体)を支え、『二輪』アルプス・ローダー(p3p000034)が振り返った。
「敵を知り己を知れば百戦危うからず。
先程までの話から敵は複数の個人が利害関係によって結託したチームであり、ローレットにあるゲートの知識を保有している筈。
ここまで情報が出そろえば……もう、おわかりですね?」
キリッとした顔で言うアルプスローダー(のアバター)。
ゴクリと喉を鳴らす大地と世界。顔を険しくする義弘とアルメリア。
ニエルは目を細め、ラァトはもう一口紅茶を飲んだ。
「敵はイルカ怪人です!」
「なんて?」
「なるほどドルフィンクリーチャーであったか!」
ゴッドがぽんと手を打った。なんて?
「これまでさんざん砂や森から出てきたイルカがまさか海から出てくるなんて……!」
「マインドのバックをとられたな!」
「なんて?」
「だが案ずるなヒーローズ&エンジェルズ。ここはパゥワーを合わせ、レイダーを退けようぞ!」
●籠城戦に罠は基本
退けようぞ! の姿勢のまま淡く発光を続けるゴッドをよそに、ニエルは早速バリケード作りを開始した。
「罠を作るにも、まずは動けるようにならないとよねぇ」
その辺の棚やテーブルを動かし、窓から侵入しづらいようあからさまに塞いでいく。
「やろうと思えば無理矢理に出入りが可能……程度に抑えるのがいいでしょう。いざとなれば僕たちが出入りする隙になりますし、なにより重要なのは敵の進入路を限定することですから」
アルプスローダーがダクトテープをぐるぐると巻き付けてバリケードを補強していった。
そしてぺちぺちと叩いて、死ぬ気で突っ込めばやぶれるな……とか呟いていた。不穏である。
「ほら、ウワラバ頑張って」
「ノジャア……」
プルプルしながらソファを押す邪ロリババアことウワラバ。アルメリアは『これって自分一人で押した方が早いんじゃ……』とか思ったがあえて一緒にぐいぐい押して窓際までソファを持って行く。
「力仕事は慣れないわね。けどここを落とされたら世界の危機よ!」
ローレットの世界的価値に気づいている者はいまも内外に増えている。
特に国家間を飛び越えてのゲート移動はイレギュラーズだけに許された特権であり、その力によって幻想や天義といった国家の危機を救ってきた。
イレギュラーズが『特別な存在』であることとはまた別に、このゲートは重要な意味を持っているのだ。
「そいつを理解してる割には戦力が小せえ。カチコミ目的ならもっと揃えてもいいもんだがな……」
義弘は引きずられてきたソファを片手で持ち上げ、窓を塞ぐように押し当てる。
「これだけの戦力しか『揃えられなかった』のか、それとも『揃える必要がなかった』のか……どっちみち倒して吐かせるのが一番だ」
「もし後者だった場合情報を握ってないから、そういう意味でも一番だな」
世界は手持ちのまきびしを外開きドアの前に手早くまくと、なんかどろどろしたものを上から振りかけていく。
素早く罠を仕掛けるというタスクにおいてまきびしほど優れた道具はない。どんなに乱暴に投げても必ず針が上をむき、単純だが必要な効果を発揮してくれる。そこへ粘度の高い液体をまけば状態が安定化し、踏んだ後の復帰を困難にしてくれる。シナジーの高い罠だ。
ラァトはなるほどなるほどと頷いた後、ドア手前からやや横にずれた位置にビー玉を沢山転がし、薄い紙袋にコショウをぱんぱんに詰めたものを配置する。これもまたシナジー効果の高い罠である。
「存在を知っていれば対処がしやすく効果が決定的じゃない。だから逆利用されても安心。罠はやっぱりこうじゃないとね」
「室内全域には仕掛けないわけだな? まあ、俺らが戦いにくくなったら本末転倒か」
大地はラァトの指示をうけながらドア周辺に水を撒き、構造の弱いパルプ素材を散らしていく。『べとべとしたもの』につぐ足をとるための仕掛けだが、仕掛けられる地面が限られているのと短時間しか効果が継続しないことが難点。つまるところ、屋内かつホームかつ秒単位ですぐ使う今こそ輝くトラップなのだ。
「ヒーローズ&エンジェルズ。準備は整ったようだ――」
豪斗はわざわざ用意した木箱の上に立つと、両手と片膝を振り上げた。
「な!!!!!」
説明しよう。
豪斗は常日頃からちょっと光っているが本気を出すと蛍光灯並の光を発するとが可能だってフィギュアの説明書に書いてあったんだけどこれホント? ウソ?
「いつでもかかってくるが良い!」
と、その瞬間。
まるで豪斗の挑発に応えるかのようにドアが蹴破られ、火炎放射器を抱えたサバ系ディープシーアブラレッターマンが突入してきた。
「ゴッドオオオオオ! テメーもここでオシマアアアアアアアアアアア!?」
滑る床で転倒し、尻からまきびしに落ちていくアブラレッターマン。
反射的に吹き上げた火炎放射が天井をあぶり、手(と砕けたスマホ)を振り上げたゴッドが虹色に輝き、場は秒で地獄と化した。
ティーカップを手に取り、落ち着く香りの紅茶に口をつけるラァト。
「勝ったな」
●戦いは始まる前に七割決まる
「ゴッドのシャインからその視線を逸らす事ができるものなどいない!
このシャインを以ってレイダースを諸君らのトラップにしかとはめて見せようではないか!
見よ! このように見事レイダースのパゥワーを削いだならば!
諸君のバトルをゴッドはサポートする!
如何なるバッドステイタスがユー達を襲おうとゴッドはエヴリタイムウィズユー! 故に恐れるなかれ! ゴッドはノンストップでユー達と共に在ろう!」
「なんて?」
ラァトが紅茶からたった湯気で『?』マークをつくっていると、世界が早速動き出した。
「突入が一人だけな筈が無い。備えろ」
空中に指で描いた幾何学魔方陣が光を放ち、複数の魔術が連鎖展開していく。
「罪深き地獄の深淵より漆黒の断罪をもたらそう! 滅びを齎す深海の覇王・デスブラッドシャーク降りグワアアアアアアアアアア!?」
倒れたアブラレッターマンの横をカニ歩きでささっと通り抜けて屋内へ突入しようとしていたデスブラッドシャークさんがビー玉で転倒。
更に仕込んでおいたコショウ袋が破裂して細かく舞い上がっていく。
「ローレットに喧嘩を売る俺カッコいいとかでも思ってるんだろうが、悪いがさっさとお帰り願おう」
面倒ごとは嫌いなんでな、と呟き指をパチンとならす世界。
するとデスブラッドシャークさんやアブラレッターマンの頭上や側面、足下などに次々と現われた魔方陣がブラックキューブ空間を展開。次々に病魔の針を打ち込んでいく。
「起き攻めを仕掛けられるのはここまでだ。畳みかけろ、ゴッド」
「ノープログレムだヒーローズ&エンジェルズ! おっと、ゴッドのマインドはインビンシブル! 人の子の力でゴッドを惑わせようとは46億年早いわ! 刮目せよ――!」
ゴッドは身体を十字に構えると腹から声を出した。
「ゴッドオーーーーーーーーーーーーーーーーーーラ!!」
ペカーと輝くゴッドの光がなんでかしらないけど十字に発射され起き上がったばかりのアブラレッターマンに直撃した。
「グワーーーーーーー!?」
そして何でか知らないけど爆発四散した後アフロになって野外に吹っ飛んでいくアブラレッターマン。
「安心せよ、峰打ちだ」
「なんの?」
湯気のはてなを増やすラァト。
が、ノリと勢いだけで勝てるのは恐らくここまで。ドア前のトラップを跳躍によって回避したミツクリザメ型ディープシーがグロテスクに突出した額によって回転ヘッドバッドを繰り出してきた。
「下がってろ」
ラァトとゴッドの首根っこを掴んで後方へ投げる義弘。
そしてすかさず拳を繰り出すが、ミツクリザメの額によって義弘の拳はごきりと不安な音をたてた。どころか、手首の関節がおかしな曲がり方をし、骨と血を流出させた。
「…………」
が、そこで顔色一つ変えないのが義弘という男である。
ミツクリザメの顔面をもう一方の手で掴み取ると、壁めがけて強引に投げつけた。
「グッ!」
歯を食いしばりつつも壁に側頭部をぶつけるミツクリザメ。彼の復旧を待たずして、壁めがけて膝蹴りを繰り出す義弘。彼の屈強な膝と壁によるサンドで、ただでさえいびつだったミツクリザメの顔面がおかしな歪み方をした。
「チッ、殺しちまったか。できれば生かして起きたかったんだがな」
ぎろりと振り返る義弘。彼の目の光りにはカタギにない覚悟の輝きがった。
「余裕じゃねえか。死ぬのはテメェだってのによ」
ノコギリザメ型ディープシーが両腕に装備したチェーンソーを起動。拳の延長上に突き出た刃が回転しながら義弘へと迫る。
――が、しかし。
接触までのコンマ一秒。距離にして15センチ。
素早く腕に巻き付いたセラミックワイヤーがディープシーのチェーンソーを腕ごと停止させた。
「なっ――」
驚きは一瞬。
ニエルが義足のリミッターを外し高熱の蒸気を発しながら跳躍したのも一瞬。
常人の足とは比べものにならない重さがそのままディープシーの顔面に叩き込まれ、まるでハンマーで打ち出されたかのように吹き飛んでいった。
「て、てめえ……ニエル・ラピュリゼル! こんなところにいやがった!」
「あらぁ……」
ズンと重々しく着地し、唇を指でなぞるニエル。
「私を知ってるなんて意外。幻想界隈の人間かしら? それとも天義? そうで無ければ……」
「どこだって構うか。死にやがれ!」
ワイヤーと打撃によって破壊された右腕をかばいつつ、左腕のチェーンソーで切りかかるディープシー。
ニエルは義足の蹴りで刃を受け止めると、回転運動をかけて相手の腕になにかを叩き込んだ。
逆手持ちで握られたメスである。
突き刺さった刃は肉を正確に切って進むが、本当に切断したのは腕の筋。一発食らっただけだというのにディープシーの腕が突如として動かなくなり、どころか肉体のバランスを崩して派手に転倒してしまった。
「塗った麻酔が効きすぎたかしら。悪いわねぇ、こっちも殺しちゃったみたい」
「う、うわぁ……」
椅子の後ろに隠れて応援していたラァトが、最初の二人との空気的ギャップに軽く震えていた。
「そうだったなあ、ローレットってこういう混沌とした組織だった……変わらないなあ」
と、そこへ。
「コーヒーを飲まぬものに死を!」
黒マグロ系ディープシーが突入してきた。Tシャツをまくり上げると、腹にびっしり巻き付けられた爆弾が露わになる。
「あっこれヤバい方の奴だ」
見た目で侮ると死ぬ奴だ。
ラァトが暖めた紅茶ポットを開くと、通常の数倍の速度で茶葉の香りが広がっていった。
精神と肉体を向上させるという混沌産の茶葉である。
よくポーションに使われるやつだね。
「ここは任せた!」
「仕方ない。任されたわ!」
アルメリアは手を翳してラァトの前へと出た。
エメラルドグリーンの光が葉っぱの筋のような模様を描き、大きなカイトシールドとなる。
「イーグルトンの娘ェ……貴様さえいなければ!」
剣を抜き、突入をしかける男。見覚えのある傷と顔。確かにアルメリアが倒したかの護衛である。あの事件をキカッケに主人が干されているだろうことを考えると、失業の逆恨みだろう。
が、一時的に能力を向上させたアルメリアに隙は無い。剣をシールドで防ぐと、珈琲過激派マグロが爆弾に手を伸ばすより早く次の魔術を完成させた。
「部屋ごと吹き飛びなさい!」
部屋中に突如はえるタンポポの花。綿毛が一斉に宙を舞い、その全ての綿毛の間に激しい電流が走った。
味方だけを器用によけてはしった電流に、護衛の男とマグロが膝を突く。
発光する建物。
外で突入の機会をうかがっていたイルカ怪人コンビはどこかへ連絡をとるべく機械を取り出した。
「チイッ、奴らしくじりやがったな。ローレットを生かしておくのがどれだけ危険か分かってねえらしい」
「地下帝国の奴らもアテにならぬ。撤収す――」
「逃がしません!」
窓を突き破り飛び出してくるアルプスローダー。
「ほぐあ!?」
直撃をうけたイルカ怪人が通信機ごと吹き飛び、そのへんの電柱に激突してちょっとありえない拉げ方をした。勿論通信機も粉砕した。
アルプスローダーにしがみついていた大地がぜーぜー言いながら下り、二度見するイルカ怪人二号へ向き直る。
「あー、こういう時ハ、なんだっケ? 爪とか剥がすのが定番ねェ?」
「ひい!」
大地は牡丹一華の術を発動。
アネモネの幻影を発生させるとイルカ怪人を包み込んだ。
悲鳴がラサの待ちにこだまし……そして、不気味なほど静かになった。
かくして防衛されたイレギュラーズ拠点。
しかし一体だれがこんな刺客を送り込んできたのだろうか。
ローレットをピンポイントで消そうとする存在とは。
その謎は……いずれ、明らかとなるだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
現在敵のバックを探っています……。
GMコメント
ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
今回はちょっと特例というか、普通はできないスペシャルなシナリオ構成となっております。
うっかりこのシナリオに失敗するとラサへのゲートがぶっ壊されて戦力供給が途絶えたりよそへの依頼が急に困難になったりするので気合いを入れてプレイング山盛りでいきましょう。
ハリーアップ、レディーゴー!
■成功条件:レイダーの撃退
撃退手順は【守りを固める】【迎撃する】の2パート構成になっています。
が、そのまえに【敵を知る】パートがちょっぴり含まれています。
ここがこのシナリオのミソでもあるので是非お楽しみください。
■【敵を知る】
襲撃者(レイダー)たちが何者であるか、現段階で分かっていません。
ですので『1PCにつき1人まで』敵が何者であるかプレイングでメタに指定することができます。
条件は自分が仮にタイマン張っても勝てる相手。最悪引き分けまで、としてください。
急に固有名が出てきてもいいですし、以前の依頼で取り逃がした山賊だったり恨みを持ってる奴隷商人だったり紅茶派を敵視するコーヒー派しても構いません。
よほどダメそうなものや世界設定的にありえない人物でない限りは大体よしとします。もしダメだったら知らない山賊が急に混じっていることになります。
皆さんは外の様子をなんとか確認し、敵がソイツであることを知ります。
■【守りを固める】
襲撃されている立場とはいえここはホーム。
テーブルをひっくり返すのみならず、侵入者相手にできることはそれなりにあります。
罠を仕掛けたりいい場所に自らを配置したり、してみましょう。
罠設置が得意なメンバーが世界さんとラァトさん(?)くらいしかいないので、ここはあえてスキルに頼らない自分らしい工夫をしてみると良いでしょう。
■【迎撃する】
突入を仕掛けてきた敵に対して迎撃を行ないましょう。
狭い場所で戦うのがイヤならわざと外に出て誘い出したり敵を分断してみるのもいいでしょう。
今回のメンバーは(集めたコンセプトから考えると)意外にポジションバランスがとれていますが、屋内戦闘が得意そうなメンバーと野外に飛び出した方が生き生きしそうなメンバーがそれぞれ異なるので、自分がイキイキできそうなフィールドを設定してみてください。
■■■アドリブ度(やや高め)■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
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