シナリオ詳細
    <Sandman>彼の地に緑を
  
オープニング
●
「うん、分かってるけど……それは分かってるよ。
 でもそんなことでラサに行くのを取りやめるわけにはいかないんだよ」
 綺麗なブロンドの髪をフルフルと揺らして、エルリアは引き留める助手にそう告げた。
「――いいや、むしろ、ラサがこれからどうなるか分からないからこそ、外に行かなきゃ」
 ラサ傭兵商会連合は、今、ザントマンなる人物の一派と現状維持の体制派的な一派で別れているという。
 幻想種を奴隷として売買していた事件に関することらしく、ラサでの実験を取りやめて帰るように言われている真っ最中だった。
「それでも、今はこの魔術の実験の真っ最中だよ
 途中で成果を無視して立ち去りなんてしたら、それこそどうなるか分からない。
 もう少しだけ待ってほしい」
 申し訳なさそうに助手に礼をすると、少しばかり悩んだ様子を見せた助手はやがて溜息をついた。
「……分かりました。では、今からでも遅くはありません。護衛を連れてまいりましょう」
「護衛……といっても、今はラサでは誰が味方か私達には分からない」
 助手たちがあーでもないこーでもないと話し合っている中で、エルリアは少しだけ考えて、そっと手を挙げた。
「それなら……ローレットに頼むのはどうかな? 私はちょうど、知り合いもいるし」
「魔種の専門家だというあのローレットですか?」
「そういえば、先生は以前、ローレットに希少植物の採取に護衛依頼をお願いしたことがありましたね」
「そうそう、その時の知り合いは今もローレットにいるだろうから、その人にお願いしてみる。それなら、このまま続けてもいいよね?」
 助手たちは少しばかり考えて相談を始め、やがて頷いた。
「分かりました。では、その人達にお願いしましょう。ですが、護衛が来るまでの少しの間は実験は休んでください」
「う、うん……分かったよ」
 助手の言葉にためらいがちに――少しばかり渋々といった印象さえ与えながら頷いて、エルリアは脇に置いておいた本に今日の結果をまとめていく。
●
 ラサにおける幻想種売買事件が動きを見せた。
 イレギュラーズの尽力により、判明したザントマン改め『オラクル・ベルベーグルス』は、ラサ傭兵商会連合における事実上のトップ、赤犬ディルクの計略により、全体会議の場で糾弾を受けた。
 緩やかなりし深緑とラサの同盟を破綻させかねない行為、それに対するオラクルの返答は単純であった。
 ――――同盟なんて捨て、攻めてやればいい。
 戦争を呼ぶ発言に会議は紛糾し、結局なにも決まらぬままに、その一派は退去した。
 そうして勃発したこの戦いの中で、イレギュラーズの下へ1つの依頼が舞い降りた。
 それは、ラサの都、ネフェレストにて滞在中のとある人物の護衛である。
「ラサの緑化研究もしてる樹木医、エルリア・ウィルバーソン博士を知ってるかい?
 実は彼女が今、ネフェレストに滞在中なんだ」
 『黒猫』ショウ(p3n000005)が君達を呼びよせて資料を君達に渡した。
「ちょうど砂漠に関しての緑化研究の一環だったらしいんだけど、彼女は幻想種だ。
 今のラサ――ネフェレストにいるのはとても危険、だから助手達がなんとか深緑へ帰って
くれないかといったんだけど……」
 帰らなかった。
「そこで、君達だ。今回は君達に、博士の護衛を頼みたいってさ。
 博士はローレットに以前、依頼をしてきたことがあったらしくてね、たっての推薦だって」
 ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、資料を整理しつつ、ショウが次の言葉を紡ぐ。
「まぁでも、そう言ってきた助手も幻想種だ。
 そこで、君達へは博士を含むこの一団を護衛するようお願いしたい」
 依頼対象となるであろうエルリアだけ救って助手は……なんてのも目覚めが悪いだろう? と。
●
 その頃、とある傭兵のアジトにて。
 アジトの内部には、複数の傭兵らしき荒くれ者達が思い思いにギャンブルやら酒やらにいそしんでいた。
「お頭ぁ!」
「なんだ騒々しい」
 ババンと扉を開けて入ってきた男に、お頭と呼ばれた男が鬱陶しそうに視線を向ける。
「へへ、いいもんを貰って来やした」
「あぁん?」
「これです、これ」
 男が取り出したのは首輪と小瓶に入った砂だった。
「あぁ、奴隷商の馬鹿が言ってたあれか。で? これが何だってんだ?」
「へへ、こいつをクビにつけちまうとそいつは石に関係なく主人の言うことを聞いちまうんだと。んで、こっちの砂は掛けられると眠っちまうらしい」
「なるほどな、それで砂で眠らせた奴に首輪をつけちまうと」
「そうさ! しかもよぉ、今、ネフェレストにエルリアって博士が来てるんだ」
「……あぁ、あの女か」
「そうさ、あの別嬪さぁ! それでよぉ……ぐひひ」
「汚らしい笑みを浮かべるな。だが、たしかにそいつをとっつ構えて利用するのもいいかもな」
 お頭と呼ばれた男が立ち上がる。
「行くぞ! 早速その女を捕縛する! 立て!!」
「へい!」
 砂と首輪を持った男を始め、傭兵達が俄かに立ち上がって動き出した。
- <Sandman>彼の地に緑を完了
 - GM名春野紅葉
 - 種別通常
 - 難易度NORMAL
 - 冒険終了日時2019年10月12日 22時05分
 - 参加人数8/8人
 - 相談6日
 - 参加費100RC
 
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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 じりじりと照りつける陽光が肌を蝕み、間違えれば滑り落ちそうな砂が足を取る。
 下手に転んで手を付いてしまえば熱を帯びた砂で火傷しかねない。
(学者というのも厄介だな。
 砂漠が広がり助かる人間などそういないから、強く言えないけれど)
 愛用の大口径ライフルを肩で担ぐようにしながら『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は地面に生える葉っぱを見ながらなにやらメモを取る護衛対象を僅かに眺めていたが、直ぐに視線を周囲へと向けた。
(学者さんって研究に熱中すると止まれない人いるもんね、
 うん、それなら思う存分に研究をしてもらって、
 危険が及ばない様にしっかり護衛しないとね!)
 魔術植物らしきものを囲むエルリア博士とその助手らのことを思いながら『堕天使ハ舞イ降リタ』ニーニア・リーカー(p3p002058)は決心する。
「同じ幻想種として、エルリアさんの研究に興味がありますし、
 依頼を受けたからには、きちんとお守りしますね」
 『木漏れ日の妖精』リディア・ヴァイス・フォーマルハウト(p3p003581)は砂漠地帯へ出る前にそう言ってエルリア達を安心させていた。
「こんな時期なのに深緑から出て来てたんだね……
 実験とか凄く頑張ってるのは知ってるけど、
 出来ればもう少し安全そうな場所にいて欲しかったな」
 少しぼやくような言葉になってしまった『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はエルリアのことを心配してこそだ。
「ごめんね。どうしても戻ることは出来なくて」
 エルリアも少しばかり申し訳なさそうにしながら、でもどこか嬉しそうに笑う。
「Pi! PiPiPi! PiPi!(エルリアちゃんは緑を増やそうとしてるの?)」
 雑草の精霊種『雑草』ミドリ(p3p007237)は屈んで葉っぱの観察をするエルリアへ問いかける。
「うん、人が植物と共に生きられる世界が、私の研究テーマでね」
 魔方陣を何やらいじくっていたエルリアがミドリの方に向いて頷く。
●
 イレギュラーズがエルリアと助手達と護衛している中、不意に 『トラージャーハンター』ソア(p3p007025)はある方向に視線を向けた。
 一見すると虎の獣種の楊にも言える彼女は、正確にはそうではない。
「誰か来る……多いよ」
 視線を投げかけたその方向、見えてくるのは疾走するローブとフードに身を包んだ16の影。
「数はこっちの方が多いんだ。
 全員ぶっ潰してテメェの言う女を貰って帰るぞ!」
 先頭を走る何者かが叫ぶのが聞こえてきた。
 傭兵達はイレギュラーズを取り囲むように展開していく。
「私の後ろにいてください。ただ、離れすぎないように」
 今日の『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)はエルリアへの直衛である。
 滲む汗をぽふぽふとハンカチで拭いながら、寛治はエルリアに釘を刺した。
 そのうえで、ステッキ傘をライフルのように構え、コチラヘと向かってくる敵の中から、一番小太りの男へ向かって銃弾を撃ち込んだ。
 
 微かに動きが鈍ったのが見えるが、タフさもあってこちらへ向かってくるのは変わらない。
 走り抜ける複数の中の一部、その足元に浮かび上がるは魔方陣。
 二―ニアが魔力を注ぎ込むと、それは瞬く間に広域へと広がっていく。
 その直後、日照りの暑い砂漠であるというのに、範囲内にいた傭兵達の一部が凍り付いていく。
 リディアはフォールーン・ロッドを砂地に突き立て、スタンドマイクのようにすると、少しだけ深呼吸した。
 充填されていく魔力を放出するように歌うのは甘く切ないバラード。
 その曲調はイレギュラーズの精神力に静寂をもたらし、抵抗力を強化していく。
「にへへへ! みっけ!」
 そう言って笑うのは、ローブの中でもやや丸みを帯びた形状になっている何者か。
 それは、イレギュラーズの動きを無視して真っすぐにエルリア目掛けて突き進んでいた。
「炎堂 焔、私達ローレットがいる限り、
 手出しなんてさせない!」
 名乗り口上を上げると、小太りのローブや複数のローブが焔の方へと意識を取られた。
「じゃ、じゃじゃ、邪魔なんだよ!」
 小太りのローブが叫んだ。
 傍らに担ぐようにして持っているのは、大砲のようだった。
 その大砲から放たれたのは、イレギュラーズの方へと降り注ぐ、汚泥で出来た弾丸。
 それを躱した焔はそこから視線を外す。
「アブなぁぁ! 傷つけたらどうすんだぁ!」
 自分で打っときながら、小太りのローブはミドリとソアに庇われた護衛対象を見て叫ぶ。
 どうやら頭が宜しくないようだ。
「しかし結局こうなるか。
 手引きした者が分かり、決着がつくまで手控えるかと思えば全く強欲な事だ!」
 ラダは焔の口上に反応しなかった傭兵の一人に視線を向ける。
 大口径のライフルから放たれた弾丸は剣を握るそいつの腹部に炸裂し、同時に太もも、肩を連続で打ち抜いていく。
(深緑から来た個人を狙うなど駄目な方向には目端が利く感じなのが面倒ですね) 
  敵の様子を見ていた『自称・旅人』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)は呟くと共に走る。
 多くの敵が真っすぐにイレギュラーズとその後ろの護衛対象を狙う中で、導き出したそこへの道のりを、真っすぐに走り抜けた。
「なんだぁ、嬢ちゃん」
 気づいた男がヘイゼルを見て笑い、その剣を動かした。
 鞭がしなるように伸びる剣を躱して懐へ。閃かせる『胡蝶の夢』を敵に叩きこむと同時に、ヘイゼルは赤い魔力の糸で結びつけた。
「毒付きの蛇腹剣とはテクニカルな得物を使うものですが
 剣を持つ手の側から肉薄してしまえば自傷を避けるため
 只の剣と変わりありませんのです」
 赤い糸を媒介にヴァルデマールの体力を吸い込めば、男の目が楽し気に笑っていた。
「へぇ、分かってんじゃん!
 でもよ、どっちにしろ、この剣に塗られた毒は消えねえぜ」
 笑いながら、振り下ろされた剣の長さは、元々でも通常よりもやや長く思える。
 その振り下ろしを何とか避けようとしたが、微かに肩口にかすり傷を負った。
「PiPi! PiPiPi! PiPiPi! (まずは悪い人達を撃退しなきゃだよね)」
 ミドリはヘイゼルへ向けて自らの魔力を注ぐ。
 森林浴でもしているかのような、心地よい魔力の光が彼女を蝕む毒性を浄化していく。
 ソアは虎の爪を大地に叩きつけた。
 走り抜けた雷撃が、真っすぐに前衛の傭兵に叩きつけられる。
 強大な火力を帯び、防御技術を無視した激しい力が、傭兵の肉体を焼いていく。
 イレギュラーズの猛威を浴びた傭兵達は、動きを止めるどころか、どこからともなく雄叫びを上げて、やる気を見せて突撃してきた。
 魔法が、銃弾が、矢が、お返しとばかりに降り注ぎ、それを潜り抜けるようにして、近接タイプの兵士達が近づいてくる。
「まあ、傭兵の連合となりますと暴れたいだけの輩も出ますよね」
 楽し気に剣を振るう男を引き連れ、ヘイゼルは仲間から離れるように移動する。
 そこから至近距離へと近づき、『胡蝶の夢』を再び閃かせた。
 しかし今度は剣の腹で抑えられてしまう。
 蹴り飛ばされそうになるのをそっと躱しながら、間合いを調節しつつ、絶えず戦況自体は確認していた。
 ラダは自分の弾丸による攻撃を受けながらも、只管前に進んでくる一人の兵士へと視線を向けた。徐々に狭まる敵による包囲網だが、そのおかげで巻き込む範囲は多い。
 立ち上がり、射線を調節しては夏は鋼の驟雨。
 何故か味方を無視してぶちまけられる弾丸は、数人の傭兵達へと落ちていく。
 傷を多く受ける2人ほどが大地へと伏した。
 徐々に接近してくる敵へと二―ニアは複数の小型無人機をけしかける。
 本来、練達において配達用に作られたそれは、二―ニアと練達の科学者の悪ノリで戦闘用に組み替えられた代物。
 ドローンたちは複数人の傭兵達にとりつくと、バリバリと音を立てて電流を放つ。
 痺れた兵士達が動きを止めていく。
 カグツチ天火の穂先が、静かに燃え盛る。
 焔の魔力に応じるように猛るソレを、焔は自分へと向かってこない敵の方に向けて横薙ぎに振るった。
 燃え盛る業火が斬撃となって走り抜けて、そちらからくる前衛たちを焼き払っていく。
 ソアは走り抜ける。
 狙うは、敵の後ろ、そこで杖を持って立つ魔術師だ。
 昂ぶる怒りと闘争心を胸に、疾走した雷の精霊は、射程へと収めたその瞬間に魔術師へと雷電を振り下ろす。
 防御行動を起こそうとした魔術師の魔方陣を貫通して放たれる強烈な一撃が、その魔術師を一撃で焼き払った。
「PiPiPi! PiPiPi! (あっち行けー!)」
 ミドリは魔力を込み上げる。
 若草のような綺麗な碧の魔力がミドリの小さい身体に充満していき――やがて、砲撃となって敵陣を薙ぎ払っていく。
 戦いが激しくなりつつあるのに比例して、護衛対象たちの動揺は明らかだった。
 その中でも、一番に動揺しているように見えるのは、エルリア本人だった。
 イレギュラーズの後ろにいて安全地帯だとは言え、少しばかり身体がこわばっているのが分かる。
「失礼。ですがご安心を。私が着いておりますので」
 執拗にこちらに視線を向けてくる小太りの男に視線を釘付けになっている彼女の肩を抱いて、銃撃をぶちまける。
「あなたには私たちがついていますから、護ってみせますから」
 少しずつ彼女を落ち着かせるように、そう語り聞かせたリディアは近づいてくるヤン、その腰に括り付けられた青い小瓶に視線を向ける。魔力を込めて、放つ。
 堕天の杖より離れた青い衝撃波が、ヤンの身体を後方目掛けてすっ飛ばした。
「いてぇよ、なんでだよぉ! 邪魔すんなぁ!」
 叫んだ小太りが再びイレギュラーズ目掛けて大砲を放つ。
「しつこい男はお呼びじゃないんだよ」
 それに応じるように、ラダは静かに言葉を結ぶ。
 放たれた弾丸は、真っすぐに走り抜けて、その身体に致命的な傷を刻み込んだ。
「邪魔なのは、そっちだよ!!」
 業火が燃え上がる。練り上げた炎を、槍を振るう。
 高めた魔力を、思いっきり小太りの男を含む方向へと叩き込む。
 紅蓮の焔は文字通りの燕がごとき姿を描きながら走り、男を焼き払う。
 絶叫が悲鳴に変わり、やがて終わっていく。
 それでも戦いは続いていた。少しばかりのパンドラが輝きつつも、戦況はイレギュラーズへと傾いていた。
 依頼人を守るようにしながら着実にヤンを削った寛治はもちろん、二―ニアやラダといった範囲攻撃が多数の敵に対して優位を持つように動かしたのは言うまでもあるまい。
 もちろん、彼らが各々の役割を果たすにあたって焔が引き寄せるのは必要であった。
 敵の動きをコントロールできなければ、多数を相手にするのは難しく、入り乱れた戦場で特定の敵だけ倒すのはなおの事だ。
 ソアが動き、ヒーラーを早期に討てたのも大きかっただろう。
 ヒーラーがいては数の差がじり貧を呼び寄せたやも知れない。
 ミドリとリディアというふたりの回復手が堅実に仲間達を癒していったのもある。
 そして、何よりも、ヘイゼルがヴァルデマールを抑え続けられたのは大きかった。
 いかに厄介な能力があろうが、そもそも攻撃を受けなければ意味がない。
 たしかに、多少の傷は受けたが、それでも防衛を崩すに至るほどではなかった。
「未だ続けるのです?
 これ以上拘泥致しましても後の戦争に差し支えるだけですよ?」
 敵の剣を跳ね上げて躱したヘイゼルは一歩下がってから、問いかけた。
「あぁん? ……おいおい、まじかよ」
 男が蛇腹剣をするすると纏めながら舌打ちする。
 ラダは銃口をヴァルデマールへとおさめながら、様子を見る。
「もう半分くらいになっちゃったけど、まだやるの?
 これ以上仲間が倒れるとそっちも困るんじゃないかな?」
 焔の問いかけに、ヴァルデマールは視線を巡らせる。
「ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ……しゃあねえな。
 たしかにこれ以上やっても無駄か。数の有利があって半数とられちゃやってられねえ」
「どうしてそんなに楽しそうに戦うの。
 幻想種達があなたに何かをしたっていうの。
 ねえ、答えてよ」
「俺は別に幻想種自体にはどうでもいいが……
 まぁ、そうだなぁ。アンタ、趣味はあるかい?」
 問いただすソアに返すように、ヴァルデマールが笑う。
「アンタは、自分の趣味に理由を求めるか?
 俺達にとって、戦いは趣味さ。娯楽さ」
 どうしようもない男が、静かに狂気に満ちた笑みを浮かべて、視線をイレギュラーズから外す。
「てめぇら! 帰るぞ!! どいつもこいつも間抜けどもが
 生きて帰ったやつから鍛え直しだ!! こんなんじゃあ祭り(せんそう)にだって出れやしねえぞ!」
 そう言うや、ヴァルデマールはくるりと踵を返して走り出した。
●
 傭兵達が撤退していくのを、イレギュラーズは後追いするのを避けていた。
「PiPiPi! (ぼくもたくさん仲間が増えるの嬉しいな!)」
 ミドリはエルリアの言葉に頷いていた。
「所でエルリア様、もし後日良かったらお茶でもいかがですか?
 研究のお話、興味深く思いまして」
 寛治はエルリアの方へと振り返ると、そう誘いつつ、名刺を差し出す。
「そうそう、今回はどんな植物を作ったの?
 普通に土に埋まってるみたいだけど」
 焔もエルリアに聞いてみた。
 彼女が作る植物はなんというか、変なのばかりだった。
 最近ので記憶にあるのは歩き回るサボテンだったか。
「あっ! あんまり触らないようにして! 危ないよ」
「えっ?」
「……マンドレイクって知ってる?
 どこでも自生できそうな植物だったら大丈夫かと思って……やったんだけど
 ……砂漠で育てたら、過酷な環境に適応しちゃったらしくて」
 少しばかり視線を外す。どうにもえげつない進化をしたっぽい。
「そ、その代わり薬効とかは良さそうだし、
 普通に育って出てくる分には大丈夫みたいだから」
「やはりまだ実験するのか?」
 ラダは続けるようにしてエルリアへ問いかけた。
「ううん。今回の実験はこれで終わりにして一旦深緑に帰るよ。
 育ってくれたら何の問題もないし、この子達は、次はないみたいだから。
 次の事を考えるよ」
 慈しむように、どこか悲しそうにエルリアは砂の嵩む葉っぱをそっと撫でていた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。イレギュラーズ。
エルリアさんは無事にいちど、深緑へと帰られる様子。
はてさて、これからどうなることか。
GMコメント
シナリオ詳細
そんなわけで、ザントマンな案件でございます。
こちら、関係者依頼になります。それではさっそく、下記に詳細をば。
●オーダー
エルリア・ウィルバーソンおよびその助手一行を守り抜く。
●味方NPC
<エルリア・ウィルバーソン>
自らの研究テーマである『人と植物の共栄共存』の一環としてラサの緑化研究に訪れていました。
深緑へ帰還するよう助手に言われましたが、ちょうどこう、いい感じに真っ只中だったので帰るわけにはいかず、今回は皆様に護衛を願い出た形です。
本人には当時の記憶はありませんが、どうやら幼少期に奴隷商人に捕まり国外へ売り飛ばされたことがあるとかなんとか。
彼女が捕縛されてしまった場合、もしくは窮地に陥った場合、そのことがフラッシュバックするかもしれず、要注意が必要です。
<ウィルバーソン博士の助手>
3人ほどいます。みな、博士の研究テーマに感銘を受けた女性の幻想種です。
●戦場
ちょうどフィールドワークに出ているところから始まります。
砂漠地帯にて魔術を用いて作った植物の様子を調査しています。
見通し抜群なので奇襲される心配はありません。
逆に遮蔽物もないので注意が必要です。
●敵性戦力
『戦争屋』と呼ばれる実質盗賊と何ら変わらない傭兵団です。
全員が戦争大好きの戦闘狂です。
ザントマンの商売ではあまり利は得られませんでしたが、彼が会議にて掲げた『深緑への本格侵攻』に興味を持ったようです。
全体的に連携のとれた動きをしてきます。
<『戦争屋』ヴァルデマール>
傭兵団のお頭です。
獰猛で狡猾、非情な男です。エルリア自身というよりも、彼女を捕縛することで深緑との関係悪化を目論んでいるようです。
非常に強く、また引き際を心得ています。
【飛】【毒】【防無】のBSが付与できる蛇腹剣を用いて至~中距離戦闘に長けた人物です。
<『小太りの』ヤン>
変態です。エルリアさんを執拗に狙ってきます。
エルリアさんの美貌を好き勝手したいがためだけにザントマンの『眠りの砂』と『グルムルート』を手に入れました。
反応は低いものの高いHPと回避が高く、【麻痺】や【泥沼】などの行動阻害系のBSを用います。
範囲を問わない軽量化された大砲による戦闘が主です。
<戦争屋達>
上記2人以外の14人の傭兵です。
剣や刀、爪などの近距離タイプが5人、銃や弓などの遠距離タイプが5人、魔術師が4人。
魔術師のうち2人がサポートタイプ、2人がヒーラータイプです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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