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シナリオ詳細

<Sandman>奴隷市への強襲戦

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ディルクの策略
 『ザントマン』なる存在が、幻想種を拉致し奴隷として売買する事件が頻発していた。
 この事件の対応に当たったイレギュラーズによって多くの幻想種達が救われたことは記憶に新しい。
 そしてその戦いの中で、イレギュラーズ達は『ザントマン』と名乗る人物の特定に成功する。
 『ザントマン』――ラサの古参商人であるオラクル・ベルベーグルスその人だ。
 そして恐らくは、オラクル・ベルベーグルスという人物は魔種であろうことも知ることとなる。
 これらの情報から、ラサでは国主であるディルクの手によって、主犯であるオラクルを追い詰めるための一計が案じられていた。
 ラサの有力者が集まる場での糾弾。大荒れする会議の場はしかし、ディルクの目論見通りオラクル一派のあぶり出しに成功した。
 しかしオラクル一派も黙っているわけではなかった。此処に来て反撃の一手を打ち出した。
 深緑との緩やかな同盟関係の破棄。そして大々的な侵略を提案したのだ。
 見返りは当然、傭兵や商人にもたらされる莫大な金の流れである。
 議会は紛糾し、何一つ纏まることはない。オラクル一派はその状況利用し一方的な退場を見せた。
「これで敵と味方が判別出来たってワケだ」
 ディルクにとって見れば計画通りにことが運んだと言える。
 オラクル一派のあぶり出し、そして魔種ザントマンとそれに与する一党を夢の都ネフェレストから一網打尽に叩きのめすこと。その前段階は整ったと言えた。
 そして魔種が相手となれば――頼られるのは勿論、ローレットのイレギュラーズであった。


「以上がこれまでの状況になるわ。そしてここからが依頼の本題」
 『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が依頼書を見せながら話を進める。
「ラサからの依頼は、夢の都ネフェレスト周辺で確認されたオラクル一派の奴隷市を潰して欲しいというものよ。
 多くの幻想種が今なお奴隷として扱われているの。それを救い出すと言うことになるわ」
 リリィは新たな資料を見せる。そこには顔色の悪い気味の悪い小男が映っていた。
「ダジー・コルドン。ある奴隷商グループの総締めと目される人物よ。
 目的のためには手段を選ばない、危険な男のようね」
 さらに追加された資料にはダジーが関与していると思われる拉致や奴隷販売の履歴があった。数多くの幻想種を捕まえているのが読み取れる。
「直近の話になると、奴隷商から幻想種を買い取り保護していた幻想貴族サワージ・ヤーコンが、奴隷商の情報を情報屋に流していたのがダジーに知られたようね。報復によってサワージが屋敷で死体になってるのが見つかったわ。
 そう、保護していた幻想種のメイド達も何人か拉致されたようなの」
 イレギュラーズとも関わりある貴族の殺害だ。ダジーも恐らくローレットに眼を付けられていることに気づいて居るだろう。
「これから開かれるネフェレスト近郊の奴隷市にダジーが足を運ぶという情報を得ているわ。多くの人物が集まる場所への強襲戦となるでしょう。
 できることならダジーを捕獲したいところだけれど……どうにも用心深い男のようだから、注意が必要かもしれないわ」
 こちらの動きに勘づいている以上、対策を練ってくることは必至だろう。また奴隷達が人質となる可能性も高い。
「派手に強襲するか、隠密に潜んだところから襲撃するか、その辺りはお任せになるわ。
 オーダーは人質の救出と、奴隷市を潰すこと。ダジーは自体は二の次になるけれど、できれば捕獲したいところよ。
 大変な現場になるとは思うけれど、頑張ってきてちょうだいね」
 説明を終えたリリィがそうしてまとめた依頼書を手渡してくる。
 幻想種を救うために、そして魔種の陰謀を止める為に、今一度奴隷商達との戦いが始まるのだった。

GMコメント

 こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
 幻想種を攫う魔種が動き出しました。
 陰謀を止める為、奴隷市を襲撃しましょう。

●依頼達成条件
 奴隷市を潰す。
 奴隷とされた幻想種の保護

■オプション
 ダジー・コルドンを捕獲する

●情報確度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報に不確かな部分があります。想定外の出来事も起きるかも知れません。

●奴隷市について
 ネフェレスト近郊で行われる大規模な奴隷市。
 オラクル一派の開催する闇市であり、その商品はすべて幻想種となる。
 主催のダジー・コルドンは当然オラクル一派である。
 多くの来客が見込まれていて警備も厳重のようだ。
 商品を見せるステージの他、奴隷達を待機させるステージ裏と、主催者が待機する控え室が用意されている。

●警備の傭兵達について
 数は十人。
 オラクル一派の悪徳傭兵達。戦闘能力は高めで、イレギュラーズに引けを取りません。
 多くの者がザントマンの『呼び声』によって狂っているようです。
 奴隷市のステージ全方位を固めるように配置されています。 
 
●奴隷にされた幻想種について
 数は八人。
 少女や女性のみで構成されていて、皆一様に首に古めかしい奴隷の首輪を嵌められています。
 多くは深緑より拉致されてきた者ですが、その内二人は殺された幻想貴族サワージの屋敷から連れてこられた者になります。
 サワージ邸より連れてこられた二人の名はレナとミューティ。
 どこか苦しそうに、そして呆然としたように奴隷商の言うことを聞いています。

●戦闘地域について
 屋外での戦闘になります。
 広いステージを伴う屋外で、戦闘行動は自由にできるでしょう。
 客席などの障害物はありますが、防御には使えないでしょう。

 そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。

 皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
 宜しくお願いいたします。

  • <Sandman>奴隷市への強襲戦完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

Lumilia=Sherwood(p3p000381)
渡鈴鳥
巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
イリス・アトラクトス(p3p000883)
光鱗の姫
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター
湖宝 卵丸(p3p006737)
蒼蘭海賊団団長
ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)
一肌脱いだ

リプレイ

●潜入偵察
 囚われた奴隷達を救出し奴隷市を潰すため、イレギュラーズはラサはネフェレスト近郊の開催場所へとやってきた。
 作戦はこうだ。
 客に紛れて侵入し、内部の状況を偵察。後に二手に分かれて行動し奴隷救助と警備兵の無力化を同時に行う。
 主催であるダジー・コルドンの捕獲も行うつもりでいるが、割り当て人数的には二の次になるだろう。
 なんにしても奴隷達を無事に救出することが第一目標となる。
「予想以上に人が多いですね。奴隷と言うものが常態化している有様……許せるものではありませんね」
 会場に入り周囲を見渡せば貴金属を身につけ豪華なローブを着込んだ”客”が多くいる。中には自慢するように奴隷と思われる少女を傍に侍らせるものもいた。それらを観察しながら『白綾の音色』Lumilia=Sherwood(p3p000381)は聞こえぬように呟いた。
「出入口は一箇所。奴隷達はステージ奥だねー。警備兵も奥に行くほど待機しているみたい。
 客も多いし、戦闘開始と同時に撤退は難しそうだねー。混乱で出入り口は詰まっちゃいそうだよ」
 みすぼらしい格好に身を包み、まさに奴隷のように仲間達に連れ添うのは『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)だ。Lumilia同様、周囲を観察しながらこの後の展開を気にしていた。
 リンネの言うように、戦闘を仕掛ければ客達の混乱で一時的に出入り口が封鎖されてしまうだろう。奴隷達を救出するにしても、守りながらの戦闘を行う必要があることは予測できた。
「比較的油断しているのはステージ外縁の警備兵のようですね。あそこを基点に仕掛ければ、上手くいくように思えます」
 『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)が目配せし仲間に知らせる。客を装い周囲に溶け込んで、大凡の周辺状況は確認することができた。
 ステージ正面の警備兵は警備に集中していることもある上に、正面となれば目立ってしまうだろう。オフェリアの言うように手薄であり、油断している警備を突いた上で戦闘を開始するのがベストのようにも思えた。
 三人が会場内の様子を伺っている頃、『男なんだからな!?』湖宝 卵丸(p3p006737)は気配を殺してステージ奥の様子を伺っていた。
 客を装いつつも、忍び足でステージ裏を覗きに行く。予想した通り、そこには捕らえられた幻想種の奴隷が販売を待って待機していた。
(特に牢屋とかに入れられているわけじゃないんだね。これならなんとかなりそう……かな?)
 卵丸は状況の確認を終えると仲間達と合流し、情報を共有した。
 すると、周囲から歓声が沸いた。何かと思い視線を向けるとステージがライトアップされる。
「さあさ、お集まりの皆様、お待たせ致しました! これより、本日のメインイベントでございます!」
 ステージ上で司会が奴隷市の開催を告げる。
 どのような奴隷が登場するのか、期待に満ちた目で、観客達の視線がステージ中央に集められた。
 イレギュラーズは目配せすると行動を開始した。
 奴隷市への強襲作戦の開始だ。

●戦闘開始
 ステージ上に奴隷達が一人ずつ登壇する。
 紹介を受けながら、買い手の好奇の視線を受けるも、奴隷達の視線はどこかぼんやりとして、抵抗のそぶりを見せなかった。
 通常であれば、震え、怯え、涙ながらにその先に待つ不幸な未来を呪っていただろう。しかし、奴隷達は皆一様に虚空を見つめ、まるで操り人形のように命じられるままに動いていた。
 様子がおかしい原因に、イレギュラーズは心当たりがある。
 奴隷達に付けられた首輪――グリムルートと呼ばれるその首輪が奴隷達を操るのだということを知っていた。
 救出する際にも、きっとそれが障害になるだろうと、イレギュラーズは予測し、警戒していた。
「さぁ、次はメイドとして調教済みの二人です!」
 ステージ上では次なる奴隷の紹介が始まっていた。
 このタイミングで、イレギュラーズは動き出す。
「……あの……すみません。ちょっと具合が悪くなってしまって……そこの人気が無い所で休みたいので一緒にきてくださる?」
 ステージ外縁の警備兵に近づいて、胸元を強調するように誘惑するのは『へっちなアイドル目指します!』ジェーン・ドゥ・サーティン(p3p007476)だ。
 へっちな事がお得意なジェーンの誘惑に、警備兵の視線が揺れる。実の所、狂気によって理性を失いつつある警備兵達だったが、根源的欲求というのは狂っていても残るようだ。下卑た笑みを浮かべ、ジェーンの誘われるままに物陰へと向かうと、ジェーンを押し倒した。
「やん、無理矢理なんて大胆♪ いつもなら喜んじゃうところだけど……今日は駄目☆」
 ハニートラップというべきジェーンは、笑みを浮かべながら警備兵の首を切り裂いて、暗殺する。狂気に犯された人間であっても、油断をすれば死は免れないのだ。
 ジェーンからの合図を受けて、仲間達も次々に動き出す。
「ちょっと大人しくしててもらうよ!」
 警備兵の不意を突くように飛び出した『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)のブロッキングバッシュが警備兵の顎を捕らえて昏倒させる。
 幸いにもまだ周りに気づかれる様子はなかった。イリスが『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)に合図を送る。
「さて、隠密はここらが限界か。不意は撃たせて貰うが派手に行かせて貰うぞ」
 汰磨羈が忍び足で近づき、警備兵に掌打を叩き込む。練り込まれた『気』が警備兵の鎧を破砕し、大きく吹き飛ばした。
「な、なんだ!?」
 此処に至り、警備兵達は敵の襲撃に遭ったのだと気づいた。観客達から悲鳴があがり、出口へと殺到しはじめる。
「ルミリア、卵丸! 幻想種のものたちを!」
 警備兵を引きつける汰磨羈が声を上げる。即座にLumiliaと卵丸が動く。
「心得ています」
「こっちは任せて!」
 警備兵達もその動きに対応するように二人を追おうとするが、リンネとオフェリアが遮るように立ちはだかる。
「お前達の相手は私だよー」
「邪魔はさせません」
 リンネを中心に展開することで、そのエスプリ効果を十分に受け、イレギュラーズ達の動きが冴え渡る。
 警備兵達はイレギュラーズを敵と認識すると、捕らえるなどとは考えず殺す勢いで攻撃を開始する。やはり狂気に犯され理性のタガが外れているのだ。
 戦闘が開始され、会場内が混乱に陥っている最中、『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)はギフトで呼び出した蜂との意識共有に集中していた。
(ダジー・コルドンは用心深い人物。ステージ裏や隠れられそうな場所にはいなかったわ……けれど、この場に来ていないということはないはず)
 会場を俯瞰して捉えれば、この場における”不自然”が見つかると、レストは考えていた。
 捜索に集中するため、仲間達の援護ができないが、これも重要な役目なのだ。
 ステージ上で奴隷達を集めて保護しようとするLumiliaと卵丸。それを守るようにリンネ、オフェリア、イリス、汰磨羈、ジェーンが展開する。
「痛いのは嫌いじゃないけれど、死んじゃうのはごめんだから、反撃するね☆」
 警備兵の立ち位置が固まったのを見れば、ジェーンが殺傷の霧を生み出し警備兵達を包み込む。呪いの霧は息を詰まらせ、警備兵達をもがき苦しませる。
「理性を失って動きが悪くなってるようね、そんな動きじゃ私は止められないよ!」
 警備兵の振るう剣閃を受け流しながらイリスが勢いよくチャージをかまし警備兵の敵視を奪う。口上と合わせて多くの警備兵を引きつけるが、イリスの卓越した防御技術はそれを捌ききる自信がある。
「予定通り数を減らしていきましょう。まずは右から――!」
 オフェリアがその容姿雰囲気を裏切る速度で警備兵の懐に潜り込む。不意を突かれた警備兵は為す術無く、オフェリアの格闘術式の直撃をもらう。抵抗態勢を乱された警備兵の動きが止まった。
「もらったよー! 汰磨羈!」
「――承知!」
 その隙を逃さぬようにリンネが精神によって生み出された弾丸を放つ。高威力のそれはさらなる追撃にダメージを上乗せする恍惚的状況を生み出す。
「ハァァ――ッ!!」
 肉薄する汰磨羈の掌打が致命的な一打となって警備兵を吹き飛ばした。完璧なまでのコンビネーションは確実に敵の数を減らし、イレギュラーズ達に優位性を持たせていく。
「なんだ、ここの警備兵はこんなものか?
 この程度で、私達は止まらんぞ。どんどん来い!」
 警備兵達も攻めあぐね、時に幻想種を人質に取ろうと言う動きをするものもいたが、その都度、汰磨羈の挑発がそれを阻止していた。
 状況的な優位性を保ったまま、イレギュラーズ達の戦いは続いていく。

●奴隷を縛るもの
「助けに来たよ、もう大丈夫だから」
「私達は貴方達を助けにきました。大丈夫、心配は要りませんよ」
 ステージ裏にいた奴隷達も連れてきて八人の奴隷達を前に卵丸とLumiliaが声を掛ける。
 奴隷達はLumiliaの声が聞こえているようにも思えるが、やはりどこか呆としていた。
「反応が薄い。やはり首輪が……?」
 卵丸の疑問に、Lumiliaは「恐らく」と頷いた。
 二人は、どのように対応すべきか思案する。
 幸いにして仲間達が警備兵を無力化するのは時間の問題だった。状況的に警備兵を無力化するまで幻想種達を守り抜き、その後ゆっくりと首輪を外す。リスクを考えればそれが無難な選択に思えたが、事態はそれを許しはしなかった。
「……あ……、アァ……!」
「なに――ッ?」
 呆然としていた幻想種達が頭を押さえて苦しみだしたかと思うと、Lumiliaと卵丸に向けて襲いかかり始めたのだ。
「やっぱり操られていますね――!」
「武器は所持していないにしても、この数で押さえられたらまずい。仕方ない、無力化するよ――!」
「支援します!」
 Lumiliaがフルートに口づけて、神の剣を授かりし英雄のバラッドを響き上げる。
 演奏によって向上した身体能力を武器に、卵丸が幻想種達を蹴り上げて昏倒させていく。
 状況に気づいた仲間達が声を上げた。
「操られてるの? 大丈夫?」
「無事連れ出すには首輪を破壊するしかないようです。気絶したものから破壊を試みてみます」
「首輪は優しく扱ってあげてね。首に痕が突くなんて可哀相だもの」
 ジェーンの言葉にLumiliaは頷く。
 奴隷であったことの傷が残るなど、屈辱的なことに他ならない。その傷痕を見る度に奴隷であったという記憶を思い出すなど、辛すぎる。
 卵丸によって気絶させられた幻想種の首輪に魔力を込めて衝撃を加える。爆発、なんてことがないようにと願いながら。
 一撃では壊れない。二撃、三撃と衝撃を与えていくとヒビが入って破壊できそうな手応えを感じた。
「いけそうです。時間はかかりますが、私達の力で壊せそう」
「よし、なら続けてくれ。レスト、ダジーはまだいるはずだ、探せそうか?」
 幻想種達が操られているということは、今だ操っている本人はいるはず。そう考えた汰磨羈がレストへと声を掛ける。
 隈無く探索を続けて居たレストは、現場の状況にあって”不自然”なものを見つけていた。
「ええ、こっちは目星をつけたわ。すぐに押さえるわね」
「警備兵もあと少し! 皆、一気にいくよ!」
 イリスが仲間を鼓舞し、突撃していく。
 その様子を、一人の観客が笑みを浮かべて観察していた。

●ダジー・コルドンという男
 その小男は、奴隷市が始まった頃から、客席中央に座っていた。
 イレギュラーズ達の襲撃が始まると、客席は混乱に陥った。
 全ての客が出入り口に殺到し、この場から逃げようとするのに対して、男は微動だにしないまま、その状況を観察していた。
 単純に逃げ遅れた男のようにも思えたが、その貌に張り付いた表情がそれを否定する。
 全ての客が居なくなることでようやく気づくことのできる違和感、不自然。レストはそれを捉えた。
 男の前に歩み寄ってレストが確認する。
「あなたがダジー・コルドンね?」
 ニンマリと笑った男は大仰に頷いた。
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。ひっひっひ、なんて言っても無駄なようだね?」
「……ええ、そうよ。あなたは間違いなくダジー・コルドン。頭の中、悪い事柄でいっぱいだもの~」
 ダジーは大げさに肩を竦め首を振るう。しかし表情は笑ったままで、まるでこの状況を楽しんでいた。
「頭の中を覗き見るなんて、ひっひっひ、嫌だねぇ、悪事が全部バレてしまうじゃないか」
 レストはすぐに気づく、まるで時間稼ぎをしているようだと。お喋りの誘いに乗れば相手の思う壺だと思った。
「ここであなたを捕まえるわ。これ以上、悲しい思いをする子を増やさない為にね~」
「知っていると思うがわたしゃそう簡単に捕まらないよ。悪知恵は働くんでね。完璧に逃げおおせて見せるさぁ」
 言うが否や、ダジーが客席のイスを支えにバク転する。高い敏捷性と反応だ。レストが「逃がさない」と一歩踏み込むと、ダジーは懐から小瓶を取り出し、内容物をバラ撒いた。
「眠りの砂ね……! でも無駄よ~」
 砂が眠りへと誘おうとレストの身体に絡みつく。本来ならば、これでダジーの逃走は決定的と言えたが、イレギュラーズが一枚上手だった。
「ひっひっひっ……!?」
 笑みを零しながら逃げようとするダジーの腕をレストが掴む。
 眠りの砂の効果を自身の比類無き抵抗値で耐えきって、力尽くで突破する。
「こりゃ驚いた! この砂を撒かれて眠らない奴がいるなんて!」
「眠り姫になるには、おばさんちょっと歳を取り過ぎているもの~。相手を間違えてしまったわね~」
 引き寄せられる腕に逆らわずダジーが後方にジャンプする。腕をねじ曲げて拘束から逃れようとしているのだ。おっとりとしているレストにはこの素早い動きに対応するのは難しいように思えた。けれど、そこはイレギュラーズだ。逃げようとするダジーの着地点に向けて破邪の術式を行使する。聖なる光がダジーを包み込み痛みに動きが止まったところを、レスト投げるロープが足を絡め取った。
「ひっひっひっ、こりゃまいった。大誤算だ」
 言葉とは裏腹に捕縛されたダジーの貌は邪悪な笑みがこびり付いている。不可解に思うレストだったが、その思考はノイズまみれで読み取ることはできなかった。

 レストがダジーを捕らえたころ、警備員達もイレギュラーズによって無力化され、一行は幻想種達の首輪を破壊する作業に移っていた。
「いい! 奴隷さんとしては気持ちよくご主人様に仕えたいのであって、こんな無理矢理に言う事聞かせて喜ぶのは極一部の子しかしないんだよ! そこの所、ご主人様として配慮してあげないといけないとジェーンちゃん思うな!」
「……ありがとう。助けてくれて……」
 幻想種の首を優しく撫で上げてジェーンが言うと、一人の幻想種がお礼を言った。レナというメイドをしていた幻想種だ。
「手当はしましたが、身体の具合はどうですか?」
 Lumiliaが尋ねると、レナは頭を押さえて辛そうに言う。
「まだちょっと頭がガンガンする……ひどい偏頭痛みたいな……」
「しばらくはゆっくり休んだ方が良いかもしれないね。首輪(グリムルート)にどんな副作用があるのかわからないし」
 卵丸の言葉にオフェリアが頷く。
「ダジー・コルドンがその辺りのことを詳しく知っていればよいのですが……」
 レストへと視線を向けるとレストは力なく首を横に振った。
「あんまり詳しく知らなそうね~。リーディングもバレちゃって深く読み取れないし、現状じゃちょっと手が出せないかも~」
「そうですか。しかしダジーを捕らえられたのは好材料です。オラクル派の目的に繋がるかもしれません」
「そうだ、なにか知ってるなら今のうちに喋っておくんだねー。投獄された後はもっときつい取り調べがあるかもよー」
 リンネがそう脅すが、ダジーは不気味に笑い続ける。
「ひっひっひっ……わたしを捕まえても何の意味もありゃしませんよ。わたしゃ小物の中の小物なんでね……ひっひっひっ」
「どうにもきな臭い奴よね。まるで余裕そうだし。まだ何か考えていそう」
 イリスが訝しげにダジーを睨む。しかしその表情から読み取れることはなかった。
「なんにしても撤収しよう。敵の援軍が来られたらたまったものじゃないからな」
 汰磨羈の言葉に頷いて、一行はイリスの用意したパカダクラを使い奴隷市から離れて行く。
 その過程で、レストは悲しそうに目を伏せるレナと一緒に囚われたメイド、ミューティに語る。
「悲しいのは、サワージちゃんの事を本当に大切に思っていたから感じられる気持ち……。
 その気持ちを、どうか忘れないで居てあげて、ね?」
「レストおばさん……うん」
「二人はこれからどうするの……?」
「……深緑も危なそうだし、しばらく幻想で仕事を探すつもりよ。メイド仕事だけが私にできることだもの」
 奴隷から救い出されたとしても、その先は今だ暗く不透明だ。
 一連の幻想種絡みの事件が終わるまで、彼女達は不安に怯えて暮らすことになるだろう。
 一刻も早く、事態を収拾したいと、イレギュラーズは思うのだった。
 捕縛されたダジーは、静かに、不気味に笑い続けていた。

成否

成功

MVP

レスト・リゾート(p3p003959)
にゃんこツアーコンダクター

状態異常

なし

あとがき

 依頼お疲れ様でした。

 MVPはレストさんに送ります。おめでとうございます。

 その後どうなるか、次なる展開をお待ち下さい。
 ご参加ありがとうございました。

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