PandoraPartyProject

シナリオ詳細

仮面の悪魔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●報酬未払い
「ほんとに全部やったのか? 一人で?」
 でっぷりと太った成金の商人といった如何にもガラの悪そうな大男は、妙なモノを見るかの如く目を凝らした。
 対面に居る奇妙なマスク(ガスマスク)を被った傭兵はその成果がなんでもないとばかりに頷く。
「スラム街の騒ぎの具合から、何人か殺したのは違いないかと……」
 付き人の私兵が商人へ耳打ちをした。成金商人は自分の商売にゆすりをかけてきたゴロツキどもが居なくなったであろう事実に卑しく笑みを浮かべた。
「確か『グレイル』とかいったか。妙な……いや、仮面の悪魔とかいうあだ名は伊達じゃないみたいだな」
 妙な仮面の悪魔。この傭兵はそう呼ばれている。
 善悪問わず仕事を選ばず、そして必ず完遂してきた男。
 そしてその依頼人を別の依頼で殺すような、冷酷で、冷淡な傭兵。
 商人がグレイルを賞賛……している最中、数人の武装した私兵がグレイルの周囲を取り囲んでいた。
 明らかに祝勝の胴上げという穏やかな気配ではない。少し呆れたように商人を見つめるグレイル。成金商人はまた卑しい笑みを浮かべて傭兵に対してこう言い放った。
「悪いがお前に払う金はねぇ」
 取り囲んでいた私兵達が一斉に剣や短剣を鞘から引き抜いた。一応、とばかりに両手をあげる仕草を取るグレイル。
「……俺の評判を聞いた上での考えか?」
 グレイルの問いに、商人はニタニタとした顔で答えた。
「そうさ。スラムの奴らがお前を雇って送り込んでくる……なんて事も有り得るんでな。死にやがれ!!」
「そうか」 
 商人の大声が響いた瞬間、グレイルの外套から何か丸いモノが転げ落ちた。
 ピンが外れた手榴弾――いや、スタングレネードッ!?!!!!
 周囲の私兵達がそれを認識し、咄嗟に目を覆った時には既に遅かった。グレイルは相手が目を覆った瞬間に一人の私兵に飛びかかり、ナイフを奪いながら持ち主の首をかっ切る。
 爆発音と閃光を背にしながら、耳鳴りに怯む間もなく周囲を確認する。
 商人は目を覆いながら何事か喚き散らしている。おそらく「目がぁ~!」や「傭兵を殺せ!」といった辺りであろう
 対して、私兵達の何人かは耳鳴りや眩暈に少し戸惑いつつも、グレイルに対抗すべくすぐに武器を構え直そうとしている。
 ……ある程度の手練れか。そう判断したグレイルは、相手が怯んでいる内に屋敷の立てこもれそうな場所へと走っていく。
「ははは! ちくしょう。傭兵風情めがッ!! 悪魔狩りの時間だ!!」
 外にも聞こえそうな、やけくそ気味の商人の高笑いが響いた。

●不当処罰
 事が起こる数十分前。ローレットギルドにて。
 『若き情報屋』柳田 龍之介(p3n000020)が依頼の書類を取り出して、早々にイレギュラーズに説明を始めた。
「とあるイレギュラーズの……師匠ですかね。ともかく、ウォーカーの一人から依頼が来ました。商人が依頼の報酬を踏み倒してくる“予定”だから救援が欲しいと」
 イレギュラーズの一人が龍之介の言い方に首を傾げた。
「あくまでグレイルという依頼主の傭兵さんの予想です。が、ぶっちゃけ守銭奴の商人っつーのは傭兵に払う金を出し渋るっつー事が往々にして『たまによくある』もんです。依頼金を受け渡すだけなのに私兵を大量招集してたら怪しさ倍増。我々はローレットという後ろ盾があるからンな事ぁほぼ起きないのですが……」
 フリーランス。組織に属さない傭兵。グレイルは誰かと群れる事が嫌いな人物なのだと龍之介は説明する。
 それだけにギルドの庇護は受けられない。フリーランス達はこういった横暴には自分で対処するか、はたまた同業者を雇って報復に行く。傭兵達にとって、報酬の反故はどんな事をされても文句は言えない大罪だ。
「このような踏み倒しは同業者の我々にとっても芳しくありませんし、イレギュラーズ様のお知り合いともあればなおさらです。大義名分はこちらにあります。一つ見せしめとして派手にお願いします」
 龍之介はイレギュラーズに対して頭を下げた後、独り言のように言った。
「……個人的な話、こういった事があるのも含めて彼は手元に置いておきたい人種です。イレギュラーズと同じく、敵側に回ったりしたら目も当てられないですから。勧誘の方も余裕があれば……えへへ」
 そんな風に小さく笑った後。依頼の概要をイレギュラーズに伝え始めた。

GMコメント

 稗田 ケロ子です。関係者依頼ですってよ奥様。どんどん開放していくのだわさ。
●この依頼はジェック(p3p004755)様の関係者依頼となります。

●目標
 本目標:グレイルの生存、及び成金商人の殺害。
 副目標:グレイルの勧誘
 本目標のどちらか未達成で失敗。副目標は達成せずとも依頼成功となります。
 
●環境情報
 夕方頃。成金商人の屋敷。内装はいかにもゴテゴテとした趣味の悪い金ピカなものが多く、金にモノを言わせて私兵を雇い入れています。
 住所と簡易見取り図的なものはグレイルからもらっているので迷う事はないでしょう。遮蔽物多し。
 時系列は【オープニング(『不当処罰』)⇒オープニング(『報酬未払い』)⇒リプレイ開始】になります。
 イレギュラーズが到着する頃合いは大体騒ぎが起こる直前となります。
 今回は物資調達する時間がかなりシビア。必要な物資はプレイヤーキャラクター側が装備しているなどがあれば、調達時間は省略出来るかも。

●エネミー情報
私兵:屋外の見張りの練度は低く、屋内の者はそれなりに腕が立ちます。
 攻撃手段は剣やナイフなどの至・近の攻撃が主。バッドステータス出血には注意。
『成金商人』ゴールドマン:戦闘能力は限りなく低いが、HPだけやたら高い。私兵がいる内は逃げ回る。しかし油断していると自慢の銃で撃ってくる。

●NPC
『妙な仮面の悪魔』グレイル:
 ジェックと同郷の傭兵。いつ召喚されたのかは定かではないが、ジェックよりも前に混沌にいたようだ。
 銃とナイフの扱いは随一だが、それ以上に経験からくる先読みや情を切り捨てた思考が彼を一流の傭兵にしている。
 先読みできない相手や自身の情のなさが弱点になりうることも理解しており、それを逆手に利用することもある。
 
 開始時点で所持しているのは敵から奪った切れ味の悪いナイフ一つ+弾丸を没収されたスナイパーライフル。
 面会の際に武器を殆ど没収され、隠れ潜むか立て籠もっている。この状況からイレギュラーズが加勢せねば多勢に無勢に成り得ます。 
 得意武器は短剣・ナイフ類か銃器。システム的なスキル所持もその辺と考えてもらってよろしいです。

副目標について:
 グレイルをローレットギルドに勧誘するかどうか、フレーバーに近い目標です。
 具体的にはローレットに所属すれば敵対する事はまず無いでしょうが、そうでない場合は今後は敵対する可能性があるかもしれません。どちらかお好きな方を。
 勧誘する場合は彼の依頼を上手く遂行したり被害が少なかったり、良い印象を与えた上で勧誘を提案すれば受け入れてもらえる可能性があります。

  • 仮面の悪魔完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月03日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海

リプレイ

●大タチ回り
 屋敷の騒ぎに気付いた屋外の警備達はどよめいていた。
「な、なんだ?」
「例の傭兵がやったんだろ。仮面の悪魔」
 此処で突っ立っているだけで良いと思っていたのに。警備達は顔を顰める。
「なぁに、屋敷に居る奴は腕が立つ。俺達が戦わなくてもやってくれるは――」
 発砲音で言葉が遮られた。雇い主が撃ちやがったか? 警備達はそう思ったが、直後にその一人が足を抱えるようにして、どっと倒れた。
「……まズは一人」
 スコープ越しに対象が倒れるのを確認し、次の獲物に狙いを定める『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)。
「――ッ!」
 狙撃手! 攻撃を察知した警備の者らは遮蔽物に隠れようとしたがその射撃の直後、傭兵――イレギュラーズが飛びかかって来た。
 武器を構える前に重厚な山刀で殴りつけるように斬り付けられ、警備の一人はそのまま絶命する。斬りかかってきたのは油っぽく汚れた白髪白髭。浅黒い肌を持つ、賊といった様相の中年男……。
「盗ぞ――いや『山賊』のグドルフだ! ヤツが襲いに来たぞ!!」
「ほぉ、おれの事知ってんのか。まったく、幻想じゃ有名になったもんだな」
 襲撃と騒ぎ立てる相手にニヤリとする『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。その声と発砲音によって別の箇所で警備にあたっていた警備達があれよあれよと武器を構えて集まってきたが、救出対象のグレイルに寄ってたかって向かわないのはこのイレギュラーズ達にとって好都合である。
 警備の一人が「仮面の悪魔と奴を討ち取れば俺らの名も上がるぞ!」とグドルフに後ろから攻撃を仕掛ける。首尾よく短剣でその巨躯の背中に一太刀を入れるが、それで山賊が倒れるといった様子はまったくない。
「なんだぁ? おいおい、おれを討ち取って息巻いといてこの程度かよ」
 グドルフがけだるげに振り返る。警備は慌てて二の太刀を入れようと腕を振り上げた。しかしその前に仲間のイレギュラーズ、盲目の剣士がその腕を斬り捨てる。
「あ、あっ。あっ……」
 切断された腕から大量の血液が流れ落ちて、その警備はそれでばたりと死に絶えてしまう。『盲の剣士』白薊 小夜(p3p006668)は凜とした表情のまま他の警備達に警告を発した。
「邪魔立てをするならば手足の一本や二本で済まなくなりますよ」
 警備達は一瞬で複数人もやられた事にたじろぎ、怯えて逃げ出す者さえもいた。しかし及び腰でも戦おうと刃を向ける者もいる。それらはイレギュラーズ達を屋敷に入れまいと武器を手に立ちはだかった。
「……致し方ありませんね」
 
「こ、こんな命がけの揉め事が『予定』で『たまによくある』ことで……!? ど、どうなってるのよ、この世界……!」
 阿鼻叫喚の喧噪を目前にして動揺する『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)。
 仲間のファミリアと共に救出対象のグレイルが何処にいるか把握しようとしているが、透視を併用していたのが災いして閃光でファミリアの視界が眩み、グレイルを見失いかけていた。

●舷舷相摩す
「探し出せッ! 今すぐだ! 殺すんだ!」
 屋敷の中にゴールドマンのつんざくような怒号が響く。彼は複数の傭兵を先頭に立たせ、屋敷を練り歩いている。
 正直、傭兵達にとっては部屋で鍵をかけて籠もっていて欲しいところなのだが……雇い主はこの手でトドメを刺すと息巻いている。
「居たぞ!」
 傭兵の一人が窓の前で立ち止まっているグレイルを見つけ、傭兵達は追い詰めようとした。グレイルは逃げ出す素振りで走り出したが角を曲がった直後、振り向きザマにナイフを投擲し、それが先頭にいた傭兵の胸を貫いた。
「ぐっ……」
 左胸に重傷を負った傭兵であるが、膝をつく寸前に反撃として刃物をグレイルに投げた。羽織っていた外套ごとグレイルの腰をざっくりと切り裂いて、その傷からだらだらと流血が滴る。
「ははっ、いいぞぉ! 狩りというのはこうでなくてはな!」
 着実に追い詰めていると見たゴールドマンは、手を打って喜んだ。
 そしてグレイルは傭兵達に取り囲まれ、外へ繋がる扉を背にじりじりと後退りをする。
「外にはまだまだ傭兵がいるぞ? お前ご自慢の読みも狂ったようだな!」
 グレイルの頭部に向けて銃を構えるゴールドマン。されどグレイルはいたって冷静な様子で、ゴールドマンの挑発に軽く受け答えた。
「……いや、“予定通り”だ」
 そう言った瞬間、グレイルはバッと横に飛び退いた。直後に扉が爆発によって打ち破られた。
「な、ななな。なんだぁ!?」
 扉が爆破された事に、思わず尻餅をつくゴールドマン。破壊された扉の残骸を長髪の女性が踏み越えてくる。
「はい、こんばんは。御邪魔致しますね」
 イレギュラーズ『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685) である。その後ろから慌てて入ってきて、グレイルの無事を確認する藤野。
「あぁ、よかった。見失っちゃうかと思ったわ……!」
 どうやら、ハイテレパスの恩恵もあって弓削と藤野のファミリア作戦は上手く功をなしたようだ。
 闖入者のやり取りを見てグレイルが雇った救援と判断した傭兵達は、即座に「雇い主を逃がせ!」と声をあげてグレイル達に斬りかろうとする。
「いいんですか! 貴方達もグレイルさんみたいに踏み倒されますよ!!」
 傭兵達に対して藤野はそういう形で論じようとした。しかしその言い草が癪に触ったのか、はたまた標的の中で目立ったのか。傭兵達は全く矛を収める様子もなく一挙に襲いかかってくる。一つ、二つ、次々来る刃を藤野は避けきれずいくらか衣服や肌を切り裂かれてしまった。
「あ、あわわわ……!」
 傭兵達の刃に出血毒か何か塗られているのか。過剰な出血を強いられている藤野、そしてグレイル。
 傭兵は続けざまに、よろめいた藤野へ追撃を加えようとする。イレギュラーズがその間に割って入るように至近へ飛び込み、その傭兵を壁に向けて弾き飛ばした。
「ぐっ!!?」
 衝術ッ! 傭兵達は新たな闖入者に警戒を強める。
「これが初めての襲撃でも、踏み倒しでもないんだろう?」
 乱れた髪をかき上げる『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)。彼は威圧するように傭兵達に問いかけた。相変わらず傭兵達の答えはない。しかしその厳しい表情からそうであろう事は把握出来る。
「悪人ならば、殺されそうならば、殺してよいのか。きれいごとと切り捨てるのは簡単……でもないのですけど」
 物思いにそう呟いたのち、負傷しているグレイルと藤野を歌声の魔術で治療する『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)。「あ、あんまり激しい揉め事は……」とたどたどしく受け答えしている藤野と、無言のグレイル。契約反故の挙げ句、二人が本気で殺しにかかられたのは事実だ。そうするのが彼らの務めとはいえ……。
 キングマンは少しやるせなさそうにため息をつく。
「……なら、次は貴様らの番だ。覚悟は出来てるだろうな」
 彼の言葉に応えるように、傭兵達はまた無言で構えを取ったのである。

●徒爾
 ……しかし覚悟が出来ていない者が一人。
「ひ、ひぃ!!」
 傭兵の一人に護衛されながら、慌てふためくように立ち上がってその場から逃げるゴールドマン。
 イレギュラーズ達は分散して勝てる相手か。ゴールドマン側に逃げ道はあるか考えた上で、この場にいる傭兵と決着をつける事を先決とした。
 傭兵側は負傷の度合いが高いグレイルか藤野から始末をつけようとするが、黙ってそのままやられるイレギュラーズではない。
「こういうヤカラが居ると傭兵稼業全体に関わるからねェ。ここいらで引導を渡してやるとするか!」
 グドルフそう叫びながら腕を大きく振り回し、藤野やグレイルを取り囲もうとする傭兵達をラリアットの要領で吹き飛ばした。一人二人とマトモに吹き飛び、グレイルとの戦闘で重傷を負っていたのであろう傭兵はそこで意識が飛ぶ。
「格闘戦の使い手が一人とは限らないぞ」
 グドルフの攻撃を回避した傭兵に対してもキングマンはその隙を狙い、相手にとって最悪のタイミングで肉薄戦に持ち込んだ。大外刈の形で硬い床に投げつけて、後頭部を強打させる。
「お、おだいじにー……」
 目の前で色々とぶっ飛んでいく傭兵に対して同情する藤野。ナゼか自分がやたら狙われているので気が気でないのだが。

 前衛が時間を稼いでいる間、遠距離攻撃主体の者は遮蔽物に身を隠す。
「弟子に助けられるシショウなんてザマァないネ。救けにキてあげたよ」
 ジェックは隣で戦況を窺っているグレイルに少し皮肉気味な言い方で呼びかけた。そして彼女は所持していたライフルの残弾を、いくらかグレイルに投げ渡す。
「アタシと同じ型のヤツならツカえるデショ?」
 それを受け取ったグレイルは無言のまま、自分の銃に弾を込めてから吹き飛ばされて体勢を崩している傭兵に向けて発砲した。
「!!」
 銃撃を頭部に受けて力なく倒れる傭兵。一応、撃てるようだ。
「アイかわらずあいそー悪いネ。……ま、イイんだけどさ」
 ……とはいえ分け合った手前、お互い弾丸に余裕があるわけではない。その上、久々の再会でもあるというのに何の言葉もない事に若干の不満を抱くジェック。

「これも師弟のやり取り……なのでしょうか」
 横目でジェックとグレイルのやり取りを見守る『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)。
 大切な人の危機と、弟子による救出劇。彼女はそれに大いなる浪漫(ロマン)を感じていたのだが、実際は師弟の間に何処かピリピリした空気を感じ取った。
 それに……外に転がる傭兵や頭を撃ち抜かれた死体の数々を見たのも併せて、ヴァレーリヤは大変苦い顔をする。
 ヴァレーリヤは傭兵の命を奪う事については、内心消極的であった。他のイレギュラーズ達もいくらかそう思う部分ある。
「おらぁ!!」
 ……あるいはグドルフのように「同じ穴の狢(むじな)」と割り切っている者もいるが。また切り刻まれた死体が増えた。
「彼らとてお勤めゆえ。覚悟はしていた事でしょう」
 仲間の苦心を、そう宥める桜咲。そういうやり取りを経た後、「銃兵を狙え!」という号令を耳にした。妨害を受けていない傭兵は遠距離役に狙いを定めるようだ。
 ヴァレーリヤは難しい顔で考えて、ぐっと唇を噛んだ。
 斬られる。敵の行動を見て、ジェックや弓削は向かってくる傭兵を狙いを付けた。
「この砲は暴れ馬ですよ!」
 ジェックが撃ち抜いた傭兵に向けて召喚兵装を撃ち出す弓削。接近しようとする傭兵の一人を仕留める。しかし複数人同時には厳しいか。その一人を囮に銃撃と前衛の合間をすり抜けた傭兵がジェック達に斬りかかってきた。
「取ったぞ!」
「チぃ!!」
 二人は咄嗟に銃口を向けようとするが、至近戦。間合いが悪く狙いが定まらない。
「主よ、慈悲深き天の王よ!」
 至近に入った傭兵に、聖句を唱えながらメイスを向けるヴァレーリヤ。近距離対応の魔術とみて咄嗟に武器で防御しようとする傭兵であるが、ヴァレーリヤの魔術は易々と受け止められるものではない。メイスの先から衝撃波が生じ、武器ごと吹き飛ばす形でその傭兵の意識を刈り取った。
 
 その場の戦いに決着がついて、戦闘不能だが息がある傭兵に対して、グレイルはナイフを手に取りトドメを刺そうとする。しかしヴァレーリヤがそれを制止した。
「彼らは家畜でも消耗品でもありませんわ。この人だって家族がいるでしょう」
 何故かジェックを見つめながら、そう言うヴァレーリヤ。
「…………」
 ガスマスクを被ったグレイル(とジェック)がどう思ったのか表情からは窺えず。ともかくその制止通り、彼は無言で武器を収めた。
 グドルフは彼女達のやり取りを見て何か思いついたようにあくどい顔をして、まだ息のある傭兵の一人にドスを利かせた声色で話しかけた。
「おい、命が惜しかったらコイツから取り上げた武器が何処にあるか教えやがれ。あと聞きたい事は――」

●地獄の沙汰はどうにもならぬ
「お、おい。終わったか。奴らは全員殺したか」
 部屋に逃げ込んだゴールドマンは、入り口に張り付いて廊下の様子を窺う傭兵にそういった呼びかけを何度も繰り返していた。傭兵は呼びかけに応じない。最初からそうだ。手練れの傭兵は決まって無駄口を利かない。
 まったく、あの仮面の悪魔といいこいつらといい無愛想な……。そう内心で愚痴を吐いていると、扉から様子を窺っていた傭兵が糸が切れたようにどっと倒れた。
「なっ……!!!!」
 何事かあったのかすぐ理解出来た。眉間を撃ち抜かれている。それを見たゴールドマンは、此処が屋敷の三階であるにも関わらず大慌てで窓から逃げだそうとした。
 しかしそういった最中に何者かが部屋に踏み入って大声をあげた。
「見つけた!」
  ズカズカ踏み入ってくる眼鏡の少女。もとい藤野 蛍。大変立腹している様子で、逃げようとしているゴールドマンを責め立てた。
「アンタのせいよ! アンタが金渋って契約反故なんてしなかったらグレイルさんだって大怪我しなかったし、傭兵さん達だって死ぬ事はなかったッ!! ボクだってこんな風にお気に入りの服をめちゃくちゃにされる事は――」
 ぎゃあぎゃあと声を荒げる少女に対して、ワナワナと震えながら銃を手にかけるゴールドマン。
「お前みたいなガキに言われる筋合いはないッ!!!!」
「きゃあ!?」
 急に放たれた弾丸に尻餅をつく。フー、フーと息をつくゴールドマンは次弾を少女のドテっ腹に叩き込むべく、狙いを定めた。
「……筋合いはなくとも、貴方は“ツケ”を払うべきです」
 その隙に、少女の近くに潜んでいた剣士がズッと這い出るようにして間合いを詰め。仕込み刀で地面へ縫い付ける様にゴールドマンを突き刺した。
「ぐあぁ!? き、キサマ……!!!!!」
 立ち上がろうとするゴールドマンだが、体が上手く動かない。影縫いの類いか。
 完全に決着がついたとみたイレギュラーズは、一気に部屋へ踏み入ってゴールドマンへ武器を向けた。
「報酬の踏み倒しは、殺されてもいい。そう受け取っていいんだな?」
 最後通牒とばかりに、そうキングマンは冷ややかな声で言い放った。刀や銃を一斉に突きつけられたゴールドマンは、へらへらとこわばった笑みを浮かべてイレギュラーズとグレイルにこう提案する。
「……あ、あはは。なぁ。こうしよう。契約金は約束通り払うし、違約金だって払う。なんだったらお前らだってウチで雇ってやったっていい。今よりずっとずっと良い値を払う。だから……」
「だってよぉ。どうする?」
 ゴールドマンの首筋に斧をひたひたと当てながら、わざとらしく仲間へ問いかけるグドルフ。
 ジェックは凄まじく不愉快そうな目をゴールドマンに向けながら、そのまま何のためらいもなくライフルの引き金を引いた。部屋中に短く響く発砲音と情けない断末魔。
「……地獄の悪魔には聞き入れてもらエルとイイネ」

●淡
「がはは! 笑いが止まらねぇぜ!!」
 生き残った傭兵から金の在処を聞いていたグドルフ。ゴールドマンの懐から鍵を奪い取って、それらを手に入れる事に成功したらしい。持てるだけ持って行く機械人形、もといすずきさん。
「い、いいのかしら。窃盗ってヤツじゃないの?」
「葬儀代と……治療代という事でいかがでしょうか」
 瀕死の傭兵へ止血を行っているヴァレーリヤを見て、手伝った方がいいか迷う桜咲。

 ともかく、イレギュラーズとしての問題は他にあった。
「…………」
「…………」
 依頼人のグレイルと、その関係者のジェックの事である。グレイルの所属はフリーなだけに、此度の事が済んだら撃ち合う関係になるかもしれない。
 当の二人がそれをよしとするかどうかは、その表情からはうかがい知れない。……いやガスマスクで隠れてマジで見えない。
「ベツに、アタシはもう一人デモ戦えるし、同じ組織でなくたって構わないケド……」
 どことなく寂しそうな声色で彼女は言った。グレイルは、何も言わず自分の武器を回収している。
「オイオイオイ坊主? こんだけのオンナの誘いに乗らねえとか、おめえ本当に男かあ?」
 仲間のしおらしい態度とグレイルの対応を見かねて、おもわず金を漁るのをやめて声をあげるグドルフ。それが呼び水となる形で、仲間の者達も各々の価値観から意見を挟んだ。
「貴方のような手合いには実利を示した方がいいかしら? そうね、世界最大規模のギルドと敵対する可能性がなくなるわ」
「利害の一致した後ろ盾は便利だぞ。なにせ、対立するまでは背を気にしなくていい」
いかにも傭兵視点の意見を述べる白薊とキングマン。
「世界最大規模の獲物でもある」
 冷淡に言うグレイル。その依頼が舞い込んで来なければそんな気はないだろうに、意地悪な答え方である。二人は肩を竦めてからジェックを見た。
 ぐしゃぐしゃと気まずそうに髪を掻くジェック。そうしてから、彼女は本心を漏らした。
「……でも、まだ全部盗んでナイ。ソッチだって教えたりないんジャないの。……また、肩を並べて戦おうよ」

 無言。グレイルはそのまま撤収しようと武器を収めている。 
 ……ダメか。とジェックが肩を落とす。グレイルは彼女の仕草を見ないようにしながら、静かにこう言った。
「ローレットの雇用主は何処にいる? 案内してくれ」

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護

状態異常

藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護

あとがき

・『妙な仮面の悪魔』グレイルがローレットに加入しました。

 依頼、お疲れ様でした。イレギュラーズ達は滞りなく依頼を達成したようです。
 今回は【怒】のヘイトコントロールによる影響が凄かったです。パンドラも消費して大怪我をしましたが、場を制した委員長へMVPを。

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