PandoraPartyProject

シナリオ詳細

砂城の逃亡者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 熱気を帯びた乾ききった風が、ざぁと吹きつける。
 青い空がうっすらと照りだしている。
 時刻は昼時。もっとも人が多い時間帯だった。
 その日、市場に一人の男が現れた。
 目深にかぶったフードとローブで人相は分からない。
「……始めるぞ」
 男は呟くとコインを天に向けて立て続けに3つ跳ね上げる。
 陽射しがコインに反射してきらりと輝いた。
 男はそのコインが地面に落ちるよりも前に歩き出す。
 静かに、確実に、どこにでもいる通行人の一人と言わんばかりの緩やかな動き。
「……すまないが、それを売ってくれないか」
 店の一つ、宝石商に辿り着いた男は、ちらりと露店の内側を見た後、商人に問いかけた。
「はいはい、こちらですね? お客さんもお目が高い。こいつは――――」
「値段は、0でどうだ」
「――は……?」
 商人が顔を上げる――その瞬間、男が伸ばしていた手から、一瞬だけ光と、微かな音が鳴り、商人が崩れ落ちた。
 倒れる寸前、店の奥から出てきた女がそっと商人を抱えて寝かせた。
「直ぐに高めのものだけせしめるぞ」
「ええ。分かってるわ」
 すぐに店を閉めると、そのまま金目の宝石を奪い取ると、あっという間に裏口から外へ出て、そこに用意されていた荷車へと放り込むと、女に顎で指示を出すとその場で別れて再び歩き出す。
 その時、市場の大通りからどよめきが聞こえてきた。
(くっくっくっ、まぁいつも通り余裕だなぁ)
 にやつく頬を目深にかぶったフードで隠しながら歩いていたその時だった。
 トンっと、衝撃を感じて視線あげる途中、視線が合わさった。
「ごきげんよう、前を向いて歩いた方がいいんじゃないかしら?」
 はかなげな雰囲気を見せる双眸がじっとこちらを見つめていた。
「悪いな嬢ちゃん」
「いいえ。ふふふ、あなたが今やったことよりは、大したことじゃないわよ」
 その瞬間、弧を描くように浮かんだ笑みに、男は背筋が凍るような感覚を覚えて踵を返して逃げ出した。
 儚げな雰囲気の少女――のような女性、『氷結』Erstine・Winstein (p3p007325)は走り出した男を少しばかり見つめた後、跳ぶように走り出した。

 ラサに訪れていた『ハッピーエンドを紡ぐ女』ウィズィ ニャ ラァムが何となく裏通りに入った時だった。
 視界を、見覚えのある少女が疾走する。
「……あれは」
 視線を向けると、少女――Erstineはローブに身を包んだ誰かを追いかけているようだった。


――ほぼ同時刻、市場の大通り

 マルク・シリング(p3p001309)は魔術書の収集のため、この町に訪れていた。
(うーん、中々いいものがないね。今日は)
 複数の露店を眺めてみたものの、いい感じの品物は見当たらなかった。
 マルクは露天商に礼を示しつつ、立ち上がり、そっと踵を返す。
(明日はアルティオ=エルムに向かってみようか)
 そんなことを思案する。
 その時、不意に馬蹄の音を聞いた。それも、数がかなり多い。次いでに聞こえるのは、車輪の音。
(馬車……あれ、でも、馬蹄の数が……)
 顔を上げる。向こうから砂塵が向かってくる。
「あれは……」
 そっと懐を探り、魔術書を確かめる。
「いや、まずは……」
 マルクは身を翻して、声を上げようとした。

 ――不意に10頭引きの馬車が市場のど真ん中向けて走りこんできた。
 そこから飛び降りた数人の人間たちは、一様に目深にかぶったフードとローブで身を包んでいた。
 彼らはそのまま町の露天商へと襲い掛かった。
「まぁ……これも人間というものだろうな」
 久し振りのラサに訪れていた『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は、そんな光景を見ながらふむ、と考えていた。
「いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないよ、直ぐ助けよう」
 『おにいちゃん』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)は愛無の静かな頷きにそう突っ込みを入れつつ剣を抜いた。
「そうですね、拙は人情とは良く分かりませんが、流石に捨て置くことはできないでしょう」
 愛刀をゆるりと抜いたのは『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)だ。
「それもそうだ……あまり食欲はそそられないが」
 愛無は二人の言葉に頷くと共に、構えを取りる。
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は強盗を始めた集団に対して怒りを向けた。
「――上等じゃねえか! このラサで下らねえコソ泥の真似事か!」
「まぁまぁ、流石に俺と二人でってのは厳しいんじゃねえか? 幸い、他にも仲間が良そうだ」
 苛立ちを露わに叫ぶルカを、『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)は宥めると、少しばかり考えて。
「……あぁ」
 世界の言葉に動き出すすんでのところで頷くと、ルカは世界と共に走り出した。

 対応せんと動きましたイレギュラーズを見てとめたのか、一人の賊のフードがこちらを向く。
「想定より速いわね……退くわ!」
「おいおい、全然まだ奪えてねぇぞ!」
 一人が叫び、それに呼応したもう一人が吠える。先に声を上げた方は女、後の方は男のようだった。
「捕まったらどうしょーもないでしょ!
 そんなに嫌ならここで死ね!」
 言いながら、女は10頭曳きの馬車に飛び乗る。
「ちっ!」
 舌打ちした男も続いて飛び乗ると、奪い取れた商品をそこそこに、散らばっていた者達が続々と馬車に乗って走り出す。


 疾走する馬車に追いすがるイレギュラーズが辿り着いたのは、町の1つにある広場だった。
 強烈な速度で走っていた馬車が、いつのまにか回り込んでいたイレギュラーズを見つけて動きを止める。
「ええい! 邪魔だ!」
 馬車の御者が叫ぶ。
 横合いからたどり着いたイレギュラーズは、馬車の向こう側に2頭曳きの馬車とその後ろを走る男を見た。
 そしてその後ろからは、2人、少女らしき者達を見えた。
「おい!何してる!」
 馬車向こうに現れたらしきフードが男が叫びーー周囲を見てフードを脱ぎ捨てた。
「……囲まれてんじゃねぇか、あんたら傭兵……なだけじゃねぇな?」
 ぎろりと視線を巡らせる男の顔は複数の傷が見て取れた。

GMコメント

リクエストいただきまことにありがとうございました。
スケジュール上の理由により、大変お待たせしました。

それでは、詳細を早速、参ります。

●達成条件
強盗団の討伐。

●戦場
ラサのとある町のとある広場。
皆様は強盗団に遭遇、追走して包囲したばかりです。

中央を10頭曳きの馬車と、そこにいた8人の強盗がいます。
西側には2頭曳きの馬車とその乗り手の女盗賊、顔に複数の傷跡がある男がいます。
北側は町の出口となります。

リプレイ開始時の皆様の布陣位置はお任せします。

●敵
<ゲラルト>
顔に複数の傷がある男です。盗賊団のリーダー格と思われます。
皆様より少しばかり格上の実力を有します。
銃による近距離から中距離の物理戦闘を得意とします。

<ゲルデ>
2頭曳きの馬車の女です。皆様と同等程度の実力です。
近距離から遠距離の魔術を操る魔導師です。

<ギーゼラ>
10頭曳きの馬車の女です。
皆様と同等程度の実力です。
サポータータイプ。命中、物攻、神攻などの強化をもたらす踊りと魔術を用いつつ、ヒールもこなします。

<雑兵盗賊>
8人の盗賊です。
雑魚です。
ただし、ギーゼラを倒すのには邪魔になりそうです。

●その他
今の所、逃亡の危険はありませんが、包囲を突破されるとその可能性も出てきます。

  • 砂城の逃亡者完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年10月07日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌

リプレイ


 顔に複数の傷跡が顔中に傷のある男が舌打ちする。
「おうおう、ローレットの腕っこきに囲まれるなんざ運がねえなテメェら
 ラサに手を出した時からこうなることは決まってたようなもんだけどな?
 泣いて謝るなら今のうちだぜ」
 意気軒昂に苛立つ『黒狼』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)の啖呵に、男がそちらを向いた。
「はっ、取り囲まれたぐらいで肝冷やす癖してで盗賊やってられるかよ」
「そうかい。でもま、念仏唱えるぐれぇの間は待ってやるよ」
 大戦斧を構えたルカは視線を別の方へ。
「ラサで盗賊とは……中々、豪胆な輩もいるものですね。
 いえ、自信の理由は、その立派な馬車でしょうか?
 逃げ切ってしまえば、勝利ですものね」
 10頭曳きともなればそれは相当なものであろう。『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)はルカにそう返した男を見ながら静かに。
「えぇ。拙らから、逃げ切ることが出来れば、ですが」
 真っすぐに、群をなす賊の方を向き、徐々に霊気を昂らせていく。
「ラサの街で騒ぎを起こそうなんて私が許さないわ……!」
 静かに怒りを覗かせるのは『氷結』Erstine・Winstein(p3p007325)。
 憧れの『赤犬』が事実上のトップを務めるラサにちょっかいをかけることへの怒りは相当のもののようだ。
「エルスさん!…な、なんですかこの状況!?
 詳しい説明は……受けている暇はなさそうですね!」
 エルスティーネを追いかけてきたウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はいつの間にか出来上がっていた包囲網の一人に自分が換算されることに気づいた。
「手助けが必要ですか?」
「えぇ……お願いできるかしら」
 エルスティーネへ問いかければ、短く返ってきた言葉。
「──‬OK、それだけで十分です!」
 けれど、それだけで十分だ。くるりと取り出したるはハーロヴィット。
「久しぶりにラサでお世話になっていたクリフォードナイツの面々に
 会いに行くところだったんだけどね。
 これじゃあもう、待ち合わせの時間に間に合わないようだ」
 既に剣を抜き、『六枚羽の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)は呟きながら、その柔和な表情をすぅっと騎士らしい凛としたものに変える。
「でも、無視してきたなんて言ったら、クリフォードナイツの団長に顔なんて合わせられないよな。
 正義の為だ、ひとつどんぱちやるとするか!」
 やや口調が変わったようにも見えるのは、本気だからか。
「こんな所で戦闘になるとは……つくづく俺も運が悪いな。
 にしても、白昼堂々強盗とはずいぶん豪胆な奴等だ。
 それだけ自信があるのか……それとも綿密な計画でも立ててたのか。
 いずれにしても俺達が居合わせたのが奴等の不幸だ」
 『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)は敵の様子を確かめ、北門の方から敵の動きを確かめていた。
「そうだね。でも包囲したとはいえ、油断はできないよ。
 必死に突破を狙ってくるだろうからね」
 マルク・シリング(p3p001309)は世界の方を向きながら、魔術書を開いた。
「あぁ、一気に片付けてしまおう」
 世界もまた、ストラディバリウスを構えて仲間達の支援の準備を始める。


「僕は恋屍。通りすがりの「元」傭兵。今はフリーの地球外生命体だ」
「あら、紳士的ね。私はゲルデ。地球外? というのは良く知らないけれど、
 私になにかしら?」
「今はラサ全体の危機ゆえに。おとなしく投降し、その力、
 愛と平和のために活かすつもりは無いだろうか?」
 『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)が問いかける。
「――だからこそ稼ぎ時ではなくて?
 潰れれば終わり、潰れなければ揺らいでいるうちにお暇したもの」
「そうか……見逃すわけにはゆかず。戦うならば、手加減は苦手ゆえに。
 相応の覚悟をしてもらうことになるが、しかたないな」
 至近した女への問いかけは、すげなく返された。
 直後、愛無は自らの粘膜を蛇のごとく変化させ――
「戦うならば。是非もなし」
 ――ゲルデへと蛇を放った。
 蛇の頭に対して、ゲルデが魔法陣を浮かべて防ごうとするが、頭は魔法陣をするりとかわして腕に食らいつく。
 それを慈悲というのかどうかは微妙なラインだが、大いなる捕食者はゲルデの生命力を僅かに喰らう。
「どうやら君の相手は俺のようだ。カイト・C・ロストレイン。悪はすべからく断罪する」
 傷痕の残る男をマークしたカイトは天義騎士の誇りを胸に真っ向から男の前に立ち塞がる。
 喪失と歪曲の魔剣を握ったカイトは、ほんの一瞬、その気配をその場から喪失させた。
 まるで魔剣の能力の如きその妙技が、敵の目を驚愕させ、がら空きとなった胴部を綺麗に切り裂いた。
 馬車の車輪をずたずたに切り裂いたエルスティーネは、カイトと戦う男の前に躍り込んだ。
「あなた、名前は? 突き出すにしても、名前が分からないと不便だもの」
「へっ、嬢ちゃんに教える筋合いはねえって言いたいところだが、そうだなぁ。
 殺す相手は知っておいていいだろうな! 俺の名はゲラルト、覚えておきな」
 せせら笑った男が、銃口をエルスティーネに向ける。
 エルスティーネは向けられた銃口を躱すように身を翻すと、巨大な鎌をするりと振るう。
 切り裂き、引っかけ、薙ぎ払う多段攻撃は、あくまで牽制のもの。
「さあ‪──‬Step on it!! 私のハーロヴィットが通りますよ!」
 ウィズィは両手持ちの槍か長刀のような大きさをしたナイフを投槍のように構えると、助走と共にそれを思いっきり中央の馬車にいる盗賊目掛けてぶんなげた。
 まさかの初手に驚いた盗賊達がその場から飛びのいていく。
「おいでませおいでませ。鬼を倒さねば、此処を通ることまかりならぬ」
 ウィズィの一撃に飛び退いた者たちの前に躍り出た雪之丞は 霊気を高めて己が掌を硬質化させ拍手を打ち鳴らす。
 鈴の音のような独特に音色が盗賊たちの意識を雪之丞に集中させる。
「行きはよいよい。帰りは怖い。無事に帰れるとは、思わぬことです」
 静穏とした声で告げると、静かに影狼を抜いた。
 殺到してくる複数の盗賊達。
 短剣、曲刀、魔力の媒介と思しき腕輪やメイスと多種だが、その中でも気になるのは魔術書を携える女であろうか。
 ルカはそんな様子を見ながら、雪之丞の横を通り過ぎるようにして前へ躍り出る。
「散れよ雑魚がぁ!」
 大戦斧『暴君暴風』を振るい、複数の盗賊達を巻き込んで暴れ回る。
 跳ねあげられ、叩き潰され、千切られる複数の盗賊達の苦悶の声が響く。
 さらにルカの暴威を避けるようにして走ったのはウィズィだ。
「そっちの馬鹿女は任せるぜウィズィ!」
「ええ、少なくとも顔はそこそこいいおん――」
 人前だと思い出してハッと我に返って至近する。
「私と遊びましょう! ぜひに!」
「そっちの女の子が気になるんだけど?
 あっ、でも。貴女の目も綺麗――宝石みたいで抉りたくなるわね
 私はギーゼラ、貴女は?」
 そう言うと、ギーゼラが魔導書に魔力を込め、球体の魔弾をウィズィに投げつけてきた。
 ウィズィはそれを受け止めると、ぐっと前に出る。
「ウィズィニャラァム……大抵はウィズィと」
「まぁ、素敵な名前ね」
 微笑するギーゼラが、視線をどこかへ向けていた。
 そのがら空きとなった後ろ――馬車の方など、誰も見てはいない。
 世界の判断通り、立ち位置をある程度限定している状況ではあまり補佐的な魔術を奏でることが難しかった。
 旋律の音色に導かれて、どこからともなく出現するは黒き犬。
 世界が呼び寄せたその妖精、死の前触れたる黒き犬は、戦陣を見渡し、その燃えるような赤き瞳を、ルカの猛攻を離れて走る一人に見据え、疾走する。
 文字通りの影の如き黒は、盗賊へと飛びかかると、その牙で食らいついた。
 盗賊が反撃とばかりにでたらめに振るう剣は犬には当たることなく、霧散していく。
 その様子で我に返った数人の盗賊が振り返るその最中。
 マルクは魔術書より高めた魔力を放置されたようになっている馬たちの方へ向けた。
 限界にまで高ぶった魔力は、次の瞬間には神聖な光へ変質していた。
 光は静かに馬たちの方へと降り注ぎ、パタパタと倒れていく。
 死んではない。死なないように手加減をしたから。
 倒れた馬が蹲るような動きを見せる。
 その音に気づいたのか、馬車の方を盗賊達が振り返った。
「金の重みが、命の重みだ。金貨袋より重いといいな?」
 自らの拳に魔力を集中させたゲルデが放った突きを、愛無は身体の粘液を利用してからめとり、するりと受け流す。
 そのままの体勢で、ゲルデの腕辺りにまとわりついている自らの粘液を蛇の頭部へ変え、がぶりと噛みついた。

 少しばかり時間が経った。
 イレギュラーズの連携と、何よりも強化、回復を用いる敵を早期に足止めできたことはかなり大きい。

「まだまだァ!援護になど!行かせませんよ!!」
 押し出すように、ナイフをギーゼラに突き出していく。
 小手先の防御技術を無視して、相手に毒性をもたらすハーヴィットの攻撃は、幾度となくギーゼラに刻まれていた。
「はあ、はあ」
 決して防御技術の高いわけではないウィズィもダメージを受けている。しかしながら。
「はぁ、はぁ……ぐぅ」
 斬られたところへ自らのもつ治癒魔術を施すギーゼラの方が傷は深い。
 回復の速度よりも、持ち前の反射神経と手数で複数の攻撃を放つウィズィが与えるダメージの方が大きい。
「援護には、行かせませんよ!」
 そう言うと、ウィズィはギーゼラ目掛けて飛び込んだ。
 足を搦めて掬い、組み伏せるようにして首を絞めて落とす。
 ついでに縛り上げた所で、少しばかり息を吐いて強敵のいるであろう方を向いた。
 マルクは魔術書を紐解いた。
 もしもマルクの援護が無ければ、ウィズィの傷は今よりも深かっただろう。
 マルクは詠唱によって高めた調和の力を賦活の力へ変換して、ウィズィへ注ぎこんでいく。
 穏やかな光に包まれたウィズィの傷は、その多くが言えていく。
 雪之丞は静かに影狼を構える。
 自然体な動きで、盗賊が振り上げた剣を、鮮やかに受け取め、そのまま滑らせるようにして一歩前へ。
 盗賊の手の内を読み切ったその一撃は、真っすぐにその肩を撃つ。
 蹲った盗賊の顎を、石突き部分で揺らせば、その男は静かに地面に落ちていった。
「喰い殺されねば解らぬならば。それもいい」
 幾度目であろうか。愛無の放った蛇の頭が、ゲルデの生命力を吸いつくしていく。
 持ち前のタフネスさに加えた生命力の九州もあり、ゲルデとの戦いは終始、愛無有利のままに進んでいた。
「さぁ、次は誰が餌になる?」
 静かに愛無は圧迫感を与えていく。
 世界は盗賊達の数が大きく削減された時点で、立ち位置を移動させていた。響き奏でるは御子の饗宴。
 神聖なりしその鮮やかな詩編は、自らの生命力を損耗する一方で、味方を大きく強化する歌。
 それは、最後の一人となったその男へと立ち向かう仲間達へ向けられていた。

 ゲラルドには近距離から中距離まで、鬱陶しい戦いをされたものの、エルスティーネを執拗に狙う彼を上手く御せたカイトの活躍は大きい。
「ごきげん麗しゅうゲラルド、その体の傷…悪事だけでついた傷には思えない。
 どうして盗賊なんかになってしまったんだ?
 この世界には魔種や魔物のような脅威が既にあるんだ、君達のように同じ人間同士で奪い合い、争う場合ではないだろう!?」
「はっ、騎士様は今日の晩飯を何にするか考えるとき、道理を気にするのかい?」
 剣を合わせるカイトへとゲラルトは静かに返答する。
「……そうか、では聖なる加護を受け、ゲラルド、君を倒す。
 さあ、終わりの時間だーーー君という悪を今、断罪す!」
 それは戦乙女の加護。
 それは、再起を赦さぬ、凄絶なる一撃。
 自らに美しき光の魔力を纏ったカイトは、剣へと収束させた魔力を一閃する。
「ぐぬっ!?」
 受け止めようとした剣が、パキンと砕け、ゲラルドの肉体を一閃した。
「腕っこき相手によく耐えたなぁ。んじゃ、サヨナラだ」
 続くのはルカだ。
 大戦斧に宿るは憎悪の刃。
「覚えとけ! このルカ・ガンビーノの目の黒いうちは、
 ラサで好き勝手はさせねえ――ってなぁ!!」
 大上段より振り下ろされた、破壊の刃が、追撃とばかりに大きく斬り下ろし――
「さぁ、それで決めてあげるわ!」
 それは最後の一撃。
 愛用する鎌のごとく、するりと伸びたエルスティーネの足が、傷のついたゲラルドの腹部にめり込んだ。
 崩れ落ちたゲラルドは、しかしてそのまま意識を失った。


 盗賊達を倒したイレギュラーズは、彼らを縛り上げていた。
 なんと最早、今回、イレギュラーズ達は彼らを殺さなかった。
「悪人は生きたまま裁かれないと意味が無いでしょ?
 生きて罪を償いなさいな」
 エルスティーネは跪いているゲラルトに視線を向ける。
「はっ、手厳しい。殺される方が一瞬、確かにその通――」
「盗賊ですから、盗品を溜めているやもしれませんしね」
「まだ余罪はあるんだろ? 盗んだものを売ったり隠したりした所を教えてもらおうか」
 もっとも、それは優しさや慈悲などではなく、単純に、彼らが盗賊であることを理解したうえでの、当然の判断であった。
 カイトと雪之丞。二人の魔眼が盗賊達の視線と交わる。
「店主の中には死んじまった奴もいるだろうが、遺族はいんだろうからな。
 ちゃんと返してやりてぇんだ」
 カイトと雪之丞が魔眼により情報を聞き出す一方、ルカも馬車の方へ訪れていた。
「幸い、壊れた物はあまりなさそうだな」
 残念ながら、陶器の類は馬車が横倒しになったり急停止したりした時に割れてしまったものもあるが、それ以外は無事のようだった。
「暴れまわったんだ。市場とかあちこち壊れただろうし、直すのは手伝った方がいいな」
 世界も盗品の調査をしながらぽつりと呟く。
「ふう……で、何があったんです、コレ?」
 警察機構に相当する傭兵団らしき所に敵を引き渡したところで、ウィズィはそんなことを言う。
「偶然見かけた盗賊を追って捕まえた、ってところかしら」
「まんまですねぇ……そうとしか言えませんけど」

 ――ややあって、片づけを終え、盗賊のアジトから盗品を取り戻してきたイレギュラーズは再び町に訪れて、盗品を持ち主の下に配っていた。
 それもまた、ひと段落した頃だ。
「町の方にも迷惑をかけてしまったわね……
 子供とか怖がってないかしら」
「エルスさんって、良い人なんですねぇ」
「……どうかしら、ただ自分の定義のままに動くと決めただけよ」
「ところで、お互い初めてのメンバー、いるよね?
 片づけが終わったら、皆で、食事とかどうかな?」
 マルクがそう言うと、ちょうどその時だった。
 どこからともなく、空腹を知らせる音が鳴ったのは。
 誰かとは敢えてかくまい。ちょうど、始まりは昼時だった。
 ――――そういえば、お昼を食べていない。もうそろそろ、夕陽も差すだろうしと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

リクエストありがとうございました。

楽しんでいただければ、幸いです。

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