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シナリオ詳細

<DyadiC>良心の呵責は裏切りの楔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●汝、隣人の正気を疑え
 幻想南部、オランジュベネ領。
 イオニアス・フォン・オランジュベネなる魔種による暗躍は、イレギュラーズの度重なる活躍によって頓挫を繰り返していた。
 ……とはいえ、全くの無駄だったかというとそうでもない。大なり小なり、幻想に起こした混乱はイオニアスが望んだレベルに達していなかったとは言えそれなりに効果的であった。
 どう効果的であったか? 単純に民心の混乱、という意味でなら最高にインパクトがあったであろう。幻想南部の混乱は、畢竟、北部に波及する可能性を内包する。
 イオニアスが因縁浅からぬテレーゼ・フォン・ブラウベルクの所領へと侵攻を行うことは多くのイレギュラーズに予測が容易であり。それをきっかけに幻想全体を狙うだろうというのもまた、然り。
「つまりは私達は、最終的にイオニアスの本隊が潜んでいるであろう『血の古城』を攻め落とさなければなりません。ですが、そのためには先に、兵士達の合流をできるだけ阻害し、本隊の守りを極力薄くさせる必要があるのです」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は両所領の位置関係、そして『血の古城』の場所を壁に映し出すと、その映像に更に手を加え、一点の赤点を付け加えた。くだんの古城からはかなり距離がある。
「……あるのですが。今回、皆様に向かっていただくのはオランジュベネ領の小さな町です。今お伝えした通り、イオニアスは幻想の敵対者としてその名を知られました。オランジュベネ領の方々も、領主の翻心に晒されてはとても心穏やかではいられないでしょう。そこで、皆さんに彼らの心を鎮める為に向かっていただきたいのです」
 ああ、こんな話は天義でもあった。そう感じたイレギュラーズは賢い。確かにこんな話があり、イレギュラーズは結果として天義の民草に安堵を与えたことがある。
「いただきたいのですが……少々、困った情報が入ってきているのも事実です。どうやらこの町に、不安を煽ることで疑心暗鬼を生じさせ、互いを責め合い糾弾しあうことで猜疑心を増大させ、もって自分の手勢にしようとする輩が紛れていることが判明しました」
 トロイの木馬は中身を見ることなく燃やされなければならない。たとえ、大海蛇が人々を縊り殺すとわかっていても。
 否、わかっているからこそだ。
「忍び込んでいる者のなかには、あるいは魔物を使って動揺を誘う者も混じっているでしょう。できるだけ早急な対処をお願いします」

●海蛇の尾で踊れ
 イレギュラーズが到着する少し前、オランジュベネ領。
 不安に駆られ、誰に誘われるでもなく人々は外へと姿を見せ、不安そうに空を仰いでいた。
 人々の隙間を、1人の男が通り過ぎる。鮮やかな手際で人々を小突き、蹴り、あるいは杖を足に突き立てた彼は、希薄な存在感のままその場を通り過ぎる。
「おい、お前か俺を殴ったのは!?」
「何言ってんだよ、お前と俺の仲だろ?」
「痛っ……ぁ、ああああああ!」
「おい、俺の妻に誰かなにかしたのか? クソッ、こいつは臨月なのに……!」
 殴られ疑いを押し付け合う男、腹を小突かれ産気づいた妊婦、異常に気付き誰あらぬ『犯人』を探す男。
 そして、それらの混乱など些事だと言わんばかりの混乱の種が――足元にすり寄った猫が大口をあけ、町の人間の頭部を齧り取ったところで最大化する。
「ハハハ、踊れ踊れ衆愚共。お前達は幸せだぞ? イオニアス様の覇道への地ならしを許されたのだからな!」
 混乱の中、再び小さくなった猫を連れて男は消えていく。一瞬のうちに転がった死体、暴れると想ったら消えた魔物の姿に人々の混乱は弥増し、疑いを押し付け合い、狂乱に咽ぶ。
 それは数刻後の地獄絵図を体現しているようでもあり――。

GMコメント

 まあ大海蛇に縊り殺されたのは英y……おっと誰か来たようだ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●注意点
 このシナリオの成否は<DyadiC>の決戦シナリオに影響を及ぼします。失敗の場合、イオニアス軍勢への加勢が入ることになります。

●達成条件
・『オーガナイザー』及び『頭食み』全討伐、及び民衆の精神の安定化。

●オーガナイザー
 イオニアス麾下の兵士長に当たる男。人間。
 狂気の呼び声のキャリアーであり、彼の狂気が人々の混乱を増幅させている。
 人間のためさほどの戦闘力は持たないが、純種は呼び声の影響を受ける可能性がある。また、狂気に侵されている為怒り無効。
・狂気の呼び声(弱):パッシブ・特レ(自分中心にレンジ3)、不吉
 槍になる仕込み杖を持ち、物近貫の各種攻撃を主体とする。特だったBSはないが、クリティカルと威力高め。

●頭食み×3
 小型の猫だが、頭部だけが異常に伸縮性のある魔物。サイズが小さいため回避に優れ、クリティカルの非常に高い頭狙いの攻撃を仕掛けてくる。
 というか、攻撃に出ない限りまんま普通の猫なので判別が非常に困難。攻撃の瞬間に叩き落とすなりしない限り猫か民衆の虐殺劇と化す。おっかねえ。
 なお、こいつに関しては足止系、出血系のBS付与に優れたスキルをお出ししてくる厄介者である。爪もたまに使う。
 首がぐいんと伸びるので、中射程まで対応できる。おっかねえ。

●民衆
 めっちゃ沢山。避難誘導と巻き込まない工夫が必要。
 イレギュラーズが駆けつけた時には混乱しており、お互い疑い合うような素振りを見せる中に「頭食み」が割り込んでいく恐ろしい状況。まず引き剥がすところから始まる。
 オーガナイザーはさほど遠くにはいない。イレギュラーズが近付けば臨戦態勢になるためわかりやすくはあるか。

 以上です。
 よろしければ、どうぞ。

  • <DyadiC>良心の呵責は裏切りの楔完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月03日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
我が為に
黒星 一晃(p3p004679)
黒一閃
雪村 沙月(p3p007273)
月下美人
ドロシー・エメラルド(p3p007375)
正義を愛する騎士

リプレイ

●Organizer
「天義に続き幻想もか……」
「こんな……人々を惑わせ傷つける行いが正義である筈がない! こんなもの、許されない!」
 『優心の恩寵』ポテト=アークライト(p3p000294)がどこか呆れたような口調で呟く傍らで、『正義を愛する騎士』ドロシー・エメラルド(p3p007375)はわなわなと握った拳を震わせ、表情を険しくする。
 天義での一連の事件は、彼女のような若き騎士にも正義と不正義の境目、その所在を曖昧なものにさせた。それを正しく知るべくローレットに赴いた彼女にとって、現状は明確に『相手が悪である』ことは明らかだ。――問題があるとすれば、その相手が雲霞の如く見えぬ現状であるが。
 沸き起こる悲鳴、流れる血の量、惑う人の波。
 これらが悪しと断じる者の行いのみで為されたのであれば、躊躇なく敵を討つことを選択できただろう。
 だが、疑い合う者同士が拳を、手にした物を握って傷つけあい、苦鳴と絶叫が木霊するこの世の地獄の如き状況を呈していた。足元に蟠る血溜まりを辿れば、より悲惨な姿を確認することも出来ただろう。
「ふん、不安を煽られ、まんまと乗せられてしまう方も考え物だが、隠れて扇動して黒幕気分で煽るのは救いようがない」
 『墨染鴉』黒星 一晃(p3p004679)にとって、扇動される人々も愚かに見えたことだろう。それは仕様のない話だ。だが、そんな彼らを操って悦に浸るやり口は輪をかけて愚かだ。
「この惨事の裏にコソコソと隠れて、怒りを冠している割に随分と卑小なやり口だね」
 『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)も一晃の意見に同調し、人波に紛れた『頭食み』なる魔物の存在を探すべく視線を巡らせた。周囲が敵だけならば彼は容赦なく薙ぎ払ったろうが、ただでさえ混乱を深めた人々を不用意に傷つける趣味はない。
 敵意をふるい分けて敵を探そうとするのも重要だが、何より今は被害者を減らすのが先か。彼は冷静に考えた後、人々へとひとところに集まって逃げるよう指摘する。バラバラに逃げれば、それを追って敵が散り、なおのこと補足が面倒になるからだ。
「理想とは、己の身を捧げるもの。何らかの事情があったとしても、罪のない人々を巻き込むこの行い、見逃すわけにはいきませんわっ!」
 『祈る暴走特急』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はラルフ同様、敵意の感知により人混みから明確な敵を炙り出すべく視線を巡らせた。誰かが誰かへ敵意を向ける状況下、自分達を狙うような不届き者、あるいは身の程知らずがいるのなら見つけるのはすぐだったろうが……敵意の錯綜した現状で、確実に見つけ出すのは困難を極める。
「私の為すべき事は、小さな魔物を見つけ出す事。絶対に逃してはあげません」
 雪村 沙月(p3p007273)は五感をフルに活用し、頭食みの存在を追う。血の臭い、色、こびりついたそれが剥がれる音。
 人々の騒乱が入り交じる中、沙月は血の臭いが極端に濃い場所が見え隠れしていることに気付くだろう。明らかに、臭いが移動している。それらを全て把握するより早く、彼女へと敵意が槍の形をとって迫り――『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)が、すんでのところでそれを打ち払った。
「今ここでお前に手こずる訳には行かないんだよ、行くべき所があるからな」
「チッ、道理を解せぬ凡人が余計な真似を!」
 槍を引きつつ悪態をついた男、オーガナイザーは不意打ちを邪魔されたと見るや、驚くほどあっさりと踵を返して距離を取ろうとする。サイズはすかさず『カルマブラッド』を振り下ろし、魔力ごと相手のに叩きつけた。
 唐突に人混みで始まった戦闘は、人々の混乱を弥増し、人の波をさらに混沌としたものへと変えていく。狂気と混乱が入り交じる状態は、ラルフの扇動を塗り替える勢いで拡大するが……それを阻んだのは、強烈な光と甲高い笛の音だった。
「私達はローレットです! この街は今、魔の者の姦計に巻き込まれようとしています。貴方達を安全な場所へとお連れします、落ち着いて此方へ移動してください!」
 声の主は、誰あろう『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)だ。堂々たる立居振舞いと高らかな宣言は、水を打ったように、とまではいかずとも、人々の落ち着きを取り戻させる。尤も、サイズとオーガナイザーの戦闘に巻き込まれた人々はそれどころではないのだが……。
「リゲルの言う通り、私たちはイレギュラーズです、皆さんを守りに来ました。癒し、守りはしますが決して傷つけたりはしません!」
 ポテトも、阿吽の呼吸というべきか、リゲルの声に合わせ言葉を重ね、人々の信用を得るべく動く。ラルフの冷静な声と誘導も効果は高かったが、リゲル達の声は彼の説得が通じない層に殊更に響く。
 恐らく、アークライト夫妻が敵意を察知する術を重視していたならば。オーガナイザーの強烈なそれを肌で感じていたに違いない。
「――掴みましたわ! 広く散って人々に襲いかかろうとしていますわね!」
「君達、逃げるのなら此方へ! 私達が絶対に護る、今は怒りの矛を収めて団結して身を守るんだ!」
 ヴァレーリヤが頭食み達の敵意の流れを掴み取り、声を上げて仲間を誘導する。位置関係を機敏に悟ったドロシーは、特に人が密集している場へと駆け寄り、人々をまとめ上げ避難を促す。
 エネミーサーチは『自身への』敵意を拾い上げる。畢竟、このような場では目立たなければ敵意を誘い出すこと、察知することは難しい。それを可能にしたのが仲間達の立ち回りであり、自身の存在感と名声だったというならば。今までの積み重ねは無駄ではなかったということになろう。
「『私達はここから動かない』、君達は此方を気にせず、避け、広がらずに纏まって動くべきだ! 決して振り返らずに!」
 ラルフもここぞとばかりに声を上げ、敢えて狙え、とばかりに虚実入り交じる言葉を投げかける。動かない? そりゃそうだ。立ち回りはするが逃げも隠れもしないだろう、と内心でほくそ笑みながら。
「貴様らは自らの領主に翻意があることも気づかない程信じ切っていたのに、この程度の混乱で隣人を信ずることすら失うのか。信頼という美徳を安い扇動で失うな、今一度、隣人を信じろ」
 一晃の声は冷静で静かだ。特段、人を統べる技術も説得力も強くはない。だからこそ、一般人の目線で見れば――信用できる。
 イレギュラーズの言葉が人々を誘導する中、当然ながら頭食み達が邪魔せぬ筈がなく。伸び上がった黒い塊に、一晃・沙月・ドロシーが相対する。
 オーガナイザーは人々を盾にし、彼らを貫いてまでサイズを狙おうと槍を構える。生き汚く、そして狂気的な彼をサイズは逃すつもりはない。往来が苛烈な戦場と化すのに、時間は要らなかった。

●牙を拳を剣を、正義を
「此方から手を出す前にアプローチしてくるとは、随分と焦っているね? 獲物を横取りされて焦っているのかな」
 ドロシーは悪戯めかした口調で眼前に広がった牙を騎士盾で受け止めると、迷いなく遠距離術式を組み上げた。頭の大きさや遠近感から距離を見誤りそうになるが、あれは間違いなく最大射程から口を開け、食いついてきている。……距離を錯覚させるとは、小賢しい真似をする。ドロシーは怒りを術式に組み込み、更に攻める。
「如何に猫らしく振る舞っても所詮は魔物だ。呼吸音や心音、首を伸ばした時の違和感は隠しきれていない」
 一晃は、頭目掛けて突っ込んできた牙の羅列を血蛭で受け止める。見た所、先手を取ったのは頭食みかのように思われたが……違う。交戦開始時、彼は既に相手の間合いにいたのだ。避難誘導から攻勢に入った彼の姿を、一般人は愚か頭食みすら見ていなかっただろう。さながら彗星の如き一閃は、頭食みの顎を横に割ったのだ。牙は迫ったのではなく、刻まれた成れの果て――その惨状でもなお元の形に戻ろうとする頭食みの姿は、完全に猫の形を逸脱している。
「あなた達の主人は真っ先に私を狙ったのですが、今になって襲いかかってきたということは……甘く見られていましたか?」
 沙月は頭食みの牙を肩で受け止め、流れる血を無視してその頭を掴み、地面へと叩き伏せる。血を流してなお泰然。傷ついてなお優雅。自分を的にかけながら、超感覚で周囲の位置取りを完全に理解してる彼女を、獣ごときがどう攻めきれようか。
 繰り返し襲いかかる牙を巧みに受け流しつつ、彼女は独特の歩法で引きながら受け止めていく。狙いは仲間達との合流――だが、状況はソレを待つ必要性を感じなかったらしい。
「それでいい。あと一歩退いて、次の攻撃を上に流してもらえるかな」
「……、はい!」
 背後からの重厚な声音と「アウトレイジ」の重々しい金属音を聞き取った沙月は、素早く声に従う。頭食みの攻撃軌道はさながら三日月のごとくなめらかに上へ滑り、頭部に血の花を咲かせた。直後、赤い鎖がたどった先にはラルフの姿。尋常ならざる精度の一射は、内側から膨れ上がる怒りを制御する暇をそれに与えはしない。
「大丈夫ですの!? 今すぐ治療しますから、待っていてくださいまし!」
 ヴァレーリヤは避難誘導からすかさず戻ると、沙月の怪我を治療し、戦場に鋭い視線を向けた。
 沙月は大分上手くやったが、出血量による負傷が深かった。傷は塞いだものの、これを他の2人も相手しているとなれば……あまり、単独戦闘をさせたくはない。焦るのは、当然だ。

「そんなものか? そんな力で、イオニアスの手伝いに行こうとしていたのか!」
「貴様に何がわかる! あの方の怒り、無念、それらの何が!」
 サイズはわからないな、と吐き捨てた。だって、本当にわからない。オーガナイザーが撒き散らす狂気は、『反転』を起こさぬながらも多少は精神を蝕みにくる。憤怒を掻き立てるその声は、しかしサイズに対しては響かない。
 オーガナイザーの槍は鋭く彼を狙い、時折逃げ惑う人々ごとその身を貫こうとすら、する。その悪辣さは生き汚さすら感じさせ、サイズの感情に怒りを齎すが、それは『憤怒』ではなく『義憤』だ。一緒に出来るものではない。
「怒りも無念も飲み下せずに、悪戯に人々を駆り立てて、幻想(このくに)を再び争いに巻き込むことのなにが正義だ! 俺の平穏を邪魔するなら当然、悪だ!」
 はっきりと、サイズは己の意思を貫き通した。相手の槍は時折恐ろしい精度で己を貫いた。確かに並ならぬ敵だったのだろう。だからどうした? 彼は受け止めて受け止めて、なお相手を上回る。叩き伏せる。
「よく言った」
 深々と息を吐いたその背を、癒やしの風が通り過ぎる。その発生源が誰かを悟る前に、サイズの背を押す手があった。
「自分が正義だ、なんて俺にはまだ言えないけど、君と同じで俺はこの国を守りたいと思うよ」
 リゲルはそう言い残すと、一気にドロシーの下へと駆けていく。昔の自分のような、彼女へと。


 ひゅう、と間の抜けた呼吸とともに、ドロシーは雷撃を放つ。頭食みの体力は相当削れているように見え、所々にほころびがはっきりと見える。だが、正面から相対して単独で足止めするには荷が勝つ事も知っている。ヴァレーリヤの治療があってこそ立っていられる。抑えていられる。殆どの人々は逃げたが、まだ少しだけ逃げ遅れがある。己の正義を全うするために盾を構え、歩を刻む。
 遠くで聞こえた正義の概念が彼女の足踏みを固く強く、支える。伸び上がる牙をすんでで避け、いきおい、膝をつきかけたその身を庇うように飛び越えていった影があった。
「俺の仲間を倒させはしない! 父上の分まで正義を貫くと誓ったんだ! ここは押し通る!」
 リゲルが、銀の剣と不知火の2本を突き出し、頭食みを弾き飛ばしたのだ。軽々と吹っ飛び、態勢を整えようとした頭食みに更に食い下がると、彼は素早い斬撃で伸び上がる顎を凌いでいく。
「大丈夫か? 少し下がっていてもいいんだぞ?」
 ポテトが全体を見渡し、ドロシーに声をかける。治療を絶やさず、しかしながら攻めいる隙を見逃さぬ目は、歴戦のそれであった。

「一晃様、頭を下げてくださいまし!」
「何をする気だ――」
 ヴァレーリヤの声に思わず頭を下げた一晃は、不安定な姿勢のまま頭食みの足を切り払う。態勢を崩したそれに、赫灼と燃え上がるメイスが真一文字に叩き込まれた。跳躍から振り下ろされた位置エネルギーと鉄腕の重み、全身くまなく使った力の連動。そして神秘の破壊力。終始有利に立っていた一晃にとっても、その幕引きは……余りに不思議なものだった。
「見たかい、あのざまを。君達は所詮、惨めに倒されるだけの獣でしかない。知らなかったか?」
 ラルフは残された頭食みに挑発的に笑みを向けると、くいと赤い鎖を引いて挑発する。
 相手が挑発の概念を知っていたかは不明だが、一直線に駆けてきたのだから御しやすいというもの。密かに己の血を練り上げた毒刃は、顎下から頭部を一直線に貫いた。無論、それだけではまだ死なぬ。……結果として、それがひときわ惨めな末路への一方通行であることは否定できないが。
 燃えるように痛み、枯れるように死ね。静かに背を向けたラルフの表情が如何様なものだったのか、見た者はおるまい。

「もう大丈夫。皆さんを傷つけ、疑い合わせた者は倒しました。どうか家族を、友を、同じ地に暮らす仲間を信じて、また穏やかな生活を送ってください」
 ポテトが集まった市民たちへと告げると、人々は安堵の息を漏らす。彼女らがイレギュラーズであることは、人々にも十分理解できただろう。それだけの名声も、彼らは持ち合わせており。
 翻り、次の戦場へと向かう彼らの姿は、オランジュベネ領の未来を照らすようでもあった。

成否

成功

MVP

雪村 沙月(p3p007273)
月下美人

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 敵探索の手段が複数あったのは非常にベネです。オランジュベネだけにってなうるせえわ。
 冗談はさておき、混乱状態だったので説得とか難しいかなって思ったらそれ以上のスキルとかプレイングをお出しされて白い目を剥きました。本当に皆さんすごいな……ほんとな……。

 MVPは探索速度に僅かばかり長じていた貴女に。戦闘も見栄えある感じでした。ベ’(略)。

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