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シナリオ詳細

<DyadiC>暁の防衛線

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●薄明を目前に
 ザッ、ザッ――
 かすかに響く、草を踏む軍靴の音。夜明け前の薄闇を密やかに進む、ごく少数の憤怒の兵士たち。
「道中に目立った障害は無さそうです。このまま行けば特に問題なく、血の古城まで辿り着けるでしょう」
「ふむ」
 少し先を行っていた斥候役が、中心の老兵に状況を告げる。
 顔に深く刻まれた傷跡は彼にとっての名誉と誇りで、年齢と共に戦いを積み重ねてきた証。
「ならば往こう、往くしかあるまい」
 一刻も早く馳せ参じるのだ、と、配下たちに短く告げる。
 老齢で一線を引いた身なれど、長年忠誠を誓ってきたイオニアスの再起がかかっているとあらば、武器をとらずに居られようか。
 身体の奥から湧き上がってくる燃えるような衝動は、老兵に再び力を与える。

「あの雑草共を踏み潰し、イオニアス様のご威光を奴等に、そして再びこの幻想に知らしめるのだ」
 たとえこの身に換えたとしても――老兵の言葉は静かだったが、その静かな熱と思いは、確実に兵士たちにも伝わっていた。

・・・・・・

●夜明け前の黒猫
 幾つかの場所で戦闘が始まり、昼夜問わず届く報告が増えてきた頃。
 とある小さな村の拠点に詰めていたあなた達のもとに、ショウがするりと現れた。
「状況はどう? ちゃんと報告来てる? ……朝早くから悪いんだけど、ちょっと悪いニュースがあってね」
 何が起こるか分からないのが戦場だ。こういった事もあるだろう、と、あなたは耳を傾ける。
「予想よりも早く、こっち側に近づいてた連中が居たんだ。進路的にこのまま真っ直ぐ村を突っ切って、イオニアスと合流するつもりなんだろうね」
 敵の数自体は多くないが、その戦力はやや不明瞭だ。出来ればここで食い止めて、少しでも相手の戦力を削いでおきたい。
 それにこの村は、血の古城へ至る道上にある。故に、この拠点が置かれた。兵士たちにあの林を抜けさせてしまった場合、村への被害も免れないだろう。

「今から真っ直ぐ向かえば、そこそこ余裕を持って連中とぶつかれる。敵は8人……君たちと同じ人数かな? で、そこそこ広い場所だから、うっかりするとすり抜けられるかも知れない。その辺り、充分に気を付けて」
 ショウはそう告げて敵の情報を記したメモをあなた達に託し、すぐさま別の仕事に向かった。

GMコメント

春野GMの企画に乗っからせていただきました、白夜です。
とにかく倒す! でも、スキルや小道具、プレイングの工夫でも、
あなたのPCさんらしく戦って、防衛ラインを守ってください。

●目標
老兵士長たち全員の撃退、かつ、一人も防衛ラインを突破させないこと
(ギリギリ、後ろの村に到達しなければセーフとします)

●ロケーションなど
とある小さな村近くの林の中、時間は夜明け直後。
皆さんはショウから話を聞いた後、村近くの林まで防衛ラインの構築に向かった……という状況です。
村と防衛ラインとは、70mほどの距離があります。

予定の防衛ライン付近では、特に何かしなければ8人ぐらいが楽に
横並びできるほど広く、戦闘への支障はありません。

★防衛ラインについて
拠点には量産型の武器・盾や、一応の寝泊まりができる設備や小道具、
簡単な工具などがあり、それらの持ち出しや、お持ち込みいただいたアイテムも
利用可能です。敵軍の到着までに、即席の仕掛けなら作れる程度の余裕はあります。
(スキルの併用も可能です。お持ち込みの場合、装備もお忘れなく!)

●敵
 『老兵士長』×1
 きわめて落ち着いた印象を受けますが「呼び声」のキャリアである事は間違いなく、
 その憤怒は確実に指揮下の兵士や、その周辺に伝搬しています。
 憤怒に侵されてなお冷静さを保っていますが、それでもかなりの理性を削られています。
 獲物に大きなハルバードを持ち重い鎧を纏い、「我に続け」と部下たちを鼓舞します。
 理性がかなり弱っており老齢でもありますが、それなりの人物です。

 『貴族兵』×7
 老兵士長の指揮下にある者たちです。老兵士長の影響を強く受けています。
 彼の指示はしっかり聞きますが、理性や自我はきわめて曖昧です。
 剣や槍で武装した中~軽装の前衛型が4名、弓や魔法を扱う後衛型が3名のようです。
 彼らは老兵士長より経験は浅く、憤怒の影響もあり、連携にある程度の乱れがあります。

老兵士長と前衛型4名が前に、後衛型兵士3名が続いてきます。
彼らは全員共通して「憤怒に染められている」為か、かなり攻撃寄りの傾向が見られ、
頭を使った事はあまり出来ないようです。

●情報確度:B
出ている情報自体に間違いはありませんが、敵の能力部分に曖昧な点があります。
彼ら以外の伏兵などは無く、想定外の事態は起こり得ません。

・・・・・・・・

それでは、どうぞよろしくお願いいたします。

  • <DyadiC>暁の防衛線完了
  • GM名白夜ゆう
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年10月02日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オフェリア(p3p000641)
主無き侍従
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
ライハ・ネーゼス(p3p004933)
トルバドール
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)
本当はこわいおとぎ話
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き

リプレイ

●暁闇/小さな太陽が照らす場所
「朝早くからごめんなさーい! 助かります!」
「いやいや、夕ちゃんたっての頼みとあらば!」
「あんな目してお願いされちゃあ、ねえ?」
 この村には『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)の知己が居り、その伝手を頼って数名の村人も迎撃準備、バリケードや罠の作成に参加していた。
「ヘイワ的に現地調達できて、助かったね」
「おお、随分デカいのもあったもんだ」
 大きな資材を片手で担いできた『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)を横目に見つつ、ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は、どうしてくれようかと思案する。
「で、オフェリア。どうするんだ?」
「そうですね。人手も材料も予想以上です。これだけあるなら……」
『主無き侍従』オフェリア(p3p000641)が、揃った材料、人手、所要時間と残り時間、確かな知識を基に多数の要素を計算し、最適解を村人や仲間に指示していく。
「尖った素材を使って、突破力を抑えるのはどうかしら」
「そうだな。後は真ん中の方にひとつ、罠を設置する場所を作ろうか」
『フィルティス家の姫騎士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)、『トルバドール』ライハ・ネーゼス(p3p004933)の二名も持てる知識を活かし、迎撃に適したバリケードを構築していく。
「兵士さん達の忠誠心は見上げたものなのですよ。褒めてあげたいのです……ね、ローちゃん?」
 バリケードがどんどん組みあがっていく中、『御伽噺』ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)は切り株に腰かけ、己の影、正確にはその中の「ローちゃん」と会話をしていた。こう見えてしっかりと集中しており、他のメンバー同様、激しい激突に備えている。
「関係ねぇ村を補給にすんのは、やっぱり気が引けるがな」
「うん。関係ない人まで巻き込まれるのは、やっぱりイヤだよね」
「……七面倒な連中さえ居なければ、だな」
 ルカとライハは手早く仕掛けを構築しつつ、イグナートは腕力を活かして次々に大仕掛けを運び出しながら、何となしに語らう。ライハは二人に同意を示したものの、その内心は物語を望む。理不尽に抗い勝利を掴む、実に王道。良いではないか。王道が故に面白く、人々もまたそういった――英雄譚を望むもの。
「皆さーんっ! そろそろ来ますよーっ」
 林の中を探っていた夕の「小さな友達」が今、敵影を捉えた。報を受けた村人達は「気を付けて」と気遣う言葉を残し、村の方まで避難を始める。
「そろそろですか。しかしお見事です、即席とは思えません」
 オフェリアを始め集まった者の技術が総じて高く、村の方からも資材や人手を調達できた結果、防壁は非常に強固なものとなった。
「村の皆さんはもう大丈夫……と。出来れば、近づかれる前にやっちゃいたいですね」
「そうですね。あとどれ位なのです?」
「うーん……あ、向こうの方! 見えてきました! もう見えます!」
 どこ? と、長射程の攻撃を持つミザリーが防壁越しに夕の指した方向を見やるが、ミザリーの目線は防壁とほぼ同じくらい。無理して背伸びをしていたところ、マルク・シリング(p3p001309)が壁の一部を調整し、ミザリーの視界を確保した。
「視界を遮らないように作ったんだけど、ミザリーさんにはちょっと高かったかな。……あ、余計なお世話だったらごめんね」
「ううん。これでよーく見えます、感謝なのです」
 視線の先には確かに、脇目も振らず迫りくる小隊の姿が見える。
「では、いきますよローちゃん」
 己の影に語りかける。影は暁の薄闇を伝い、遠くの敵影に音もなく忍び寄る。
「あれは相当ね……呼び声の所為とはいえ、看過はできないわ」
 兵士達の行軍は極めて静かだが、感じる憤怒の気配は強い。裡に憤怒の種を持つ者が故か、アルテミアやイグナート、ルカは、迫る狂気をいっそう強く感じた。
「呑まれねぇようにしないとな」
 防壁や周囲に仕掛けた罠に、ルカが最終調整を施していく。調整が終わったタイミングで、先行していたミザリーの影が、前を進む兵士の真横に至った。
「……何だ!?」
 遠くの兵士が驚く声が聞こえ、続いて痛苦の声があがる。
「御伽噺を始めましょう」

●早暁/モノガタリを始めよう
「ウォォォオオォオオオ――!」
「ローちゃん」による初撃は、前衛の兵士一人に致命傷を負わせた。それが兵士達の憤怒に油を注ぎ、怒号を発しながら防壁まで押し寄せる。
 後衛の術士が真っ先にと魔力の矢を射かけてくるが、標的は防壁越しにしか捉えられず、狙いも正確に定まらない。放たれた矢は、敵の進行方向を見定めていたオフェリアに当たる事なく、その手前に落ちた。
「良い効果が出ていますね。……さて。敵は恐らく左側に5人と、右側に3人。後衛はまだ読み切れませんが……兵士長の方は、恐らく右側に来るでしょう」
「了解。じゃあオレは右側だね。兵士長は任せて!」
「ええ。それじゃあ私は、数が多い方を抑えに行くわ」
 イグナートとアルテミアが防壁の両側に展開すれば、強固な壁の完成だ。真っ直ぐに敵を見据えたオフェリアが淡々と口火を切る。

「それでは、ここでお帰り願いましょうか。二度と、剣を構える気すら起こらないほどに」

 本格的な激突が始まる。アルテミアの後ろには夕が続き、先手必勝と言わんばかりに「色々な次元からの友人」を呼び出し、射程に入った前衛の兵士に装甲を無視した一撃を見舞う。無差別な神下ろしは本人の負担も大きいが、一人一人を確実に確実に倒す事が肝要だ。
 一方の防壁付近ではルカとミザリー、オフェリアが全体の様子を伺い、ライハとマルクが後方から支援をすべく布陣する。
「では、僭越ながら。御伽話に続いて私も一節、英雄譚を語ろうか」
 ライハが詠み上げる詩が間近に迫った激突を彩り、周囲の英雄たちを大きく奮い立たせる。英雄と物語は語る者と、求める者があってこそ。
 自分はあくまで語り手。力強い一節を詠み終えた後、ライハは警戒と支援に意識を切り替えた。
「行かせないよ!」
 物語の後押しを受けたイグナートが、老兵士長が突っ込んでくる前にと防壁右翼から飛び出し、その進軍を押し留める。
「貴様……邪魔立てする気か」
「あんたにも事情があるんだろうけどさ。ムカンケイな人間を巻き込んで傷つけようなんてのは、スジが通らないんじゃないかな?」
「ふん、雑草を踏みつけた所でどうだと言うのだ!」
 老兵士長の巨大なハルバードが、イグナートの胴体を両断せんと迫る。その一撃では鋼の肉体を持つイグナートを崩すに至らなかったが、一振りの風圧と衝撃は防壁の向こうにまで及んだ。
「なるほど、タシカに強いな……他が片付くまで、踏ん張らないとね」
 衝撃でふらつきながらも、彼の内心は少し弾む。強敵相手は、望むところだ。
「さあ、おジイさん! ガマン比べといこう!」

「予想通りだね。恐らく、これを登ったり壊したり、隙の大きい行動はして来ない。……正気でないとはいえ、それなりの人物が指揮しているなら」
 オフェリアの計算とマルクの読み通り、完全にとはいかないまでも、防壁を使っての敵の分断に成功した。怒り狂った兵士の一人が強引な突破を試みたが、足元の注意を怠って転倒しかけ、その際に鳴った大きな音が、敵全体の注意をほんの一瞬だけ逸らした。
 その様子を見た兵士長は「何かある」と考えたのか、無闇に進もうとする配下たちを片手で制する。
「確かにそれなり、のジジイではあったんだろうな。まあ、今回はその優秀さがちょっと裏目に出たようだが」
 先ほどのロープはルカが主に仕掛けたもので、物自体は非常に単純だが、戦場ではほんの僅かな隙が大きな影響を及ぼす。突破を図ろうとした貴族兵の左翼前衛に、冷静に守りを固めたアルテミアが素早く迫り、行かせまいと食い止める。
「私が相手よ!」
「ふん、女一人で何とする!」
 彼女の前には貴族兵が二人。片方は力任せに槍で突っ込み、もう片方は痺れを伴う剣撃を見舞うが、彼女はその両方を受け止めた。特別の大柄や重装備でないにも関わらず、武装した兵士二人がかりでも、彼女一人の突破が出来ない。
 それは可憐にして、高く聳え立つ不可侵の壁。対峙した兵士の心中に焦りが浮かび、それは瞬時に憤怒に変わる。
「……狂気の影響が強いけど、基本的な動機は忠誠心、ってわけだね」
 真っ先に接敵したアルテミア、イグナートの両者が初撃で受けた傷は決して浅くない。各所の仕掛けや防壁を無視して突っ込んでは来なかった辺り、兵士長を始めとして配下の練度もそれなりか。
 後方から冷静に状況を見ていたマルクは、遠距離攻撃や不意打ちに警戒しながらも調和の力を以って、傷の深い者を確実に癒していく。
「でもね。主君が誤った道を進もうとしているときにそれを糺す事が、本当の忠誠心なのではないかな」
「何だとっ!?」
 優しい口調ながらも強く言い切ったマルクの言葉が、少し離れた敵陣にまで響く。その言葉に激昂した兵士長と兵士が後方のマルク目掛けて突撃を試みるも、イグナートやアルテミア、棘を施した防壁に阻まれる。
(よし、今なら――)
 マルクが確固たる意志をもって手を翳すと、神聖の光が激しく瞬き、固まっていた兵士のみに等しく降り注ぐ。その一撃で、ミザリーの初撃で重傷を負った者が一人倒れた。

「――貴方達は忠臣ではないよ。主君に諫言する勇気の無かった、臆病者の集団だ」

 これは不殺の光。自らを臆病者と語る彼は、果たして知っているだろうか。真の強さとは、優しさであるという事を。

●彼は誰時/熱風は砂漠より来たる
 戦場を飛び交う攻撃の応酬と憤怒に、敵の連携がやや乱れ始める。一方のイレギュラーズ側は、アルテミアとイグナートが前衛で防御に徹し、その後ろからミザリーが超射程の影を放って取り巻きを叩き、マルクの回復がそれを支え、微塵も崩れる様子は無い。加えてバリケードもまだ健在だ。
 後方の射手や魔術師がしびれを切らし、後ろで号令を飛ばすライハや癒し手のマルクを狙おうと進み出たその瞬間、オフェリアが歌う絶望の蒼い歌が響き渡り動きを阻む。
「では夕さん、お願いします」
「よーし、やっちゃいましょう!」
 オフェリアが指した後衛射手に向け、夕が有象無象を呼び出し放つ。憤怒と蒼に囚われた射手に、あらゆるモノが迫り圧し潰す。射手の軽装でこの質量に耐える事は難しい。
「この世ならざるモノ達……ふむ、なかなかに興味深いね」
 ライハも後方から冷静に状況を見る。一人で二人を相手取るアルテミアと、強敵を抑えるイグナートが受ける傷や体制不利は多かったが、両者とも、可能性を燃やしても立ち上がる構えだ。
「理不尽に立ち向かう――実に良きかな!」
 的確な分析から放つ号令は最前線にまで届き、不利な状況を幾度も打ち払う。体勢を崩していたオフェリアが立ち上がり、この機にとすり抜けを試みようとした兵士の一人を身を挺して阻んだ。
 敵のすり抜けを警戒していたルカが、オフェリアと入れ替わりにマークに入る。
「ここは任せな。オフェリアは引き続き、前の方を頼むぜ」
「……はい。ルカさん、あとは頼みます」
防壁付近のオフェリア、後方のマルクやミザリーらの注意もあって、混戦にあっても敵を見逃す事は無い。
「さてミザリー、こういう時ぁなんて言やいい?」
「通行止めなのですよ! 通らせはしないのです! ……で、いいと思うのです!」
「なるほどな……よし」
 狙いを定めた兵士に向けて、暴君の大戦斧、憎悪の爪牙を見舞い破壊する。けれども憎悪に呑まてはならぬ、憎悪はあくまでこの腕に篭め、己の力とするものだ。呑まれた兵士と呑まれなかったルカの、決定的な違いは其処にある。
「悪ぃが幻想はお得意さんでな。ここは一歩も通さねえぜ」
「そうなのですよ! 通さないのです! ……さあローちゃん、ご飯の時間ですよ!」
 ミザリーの影が静かに蠢き、ルカと対した兵士に迫る。そして次の瞬間、影は粘液のようにぬらりと伸び。無数の赤い目と鋭い牙を持つ怪物として顕現し、深手を負った兵士を頭から喰らい――喰われた兵士は再びの朝日を拝む事なく影の中に消え、ワインレッドだけが辺りに広がる。
 極めて特殊な旅人の存在は知れていても、目の前に現れた怪異はあまりにも予想外かつ残忍で、目にした兵士が若干怯む。
「そういうこってな。クソジジイにくれてやるにゃ、ちと惜しいんだ」

●引き明け/牙城はいまだ崩れず
 数名を倒して数の不利は無くなったが、オフェリアを始めとして誰もが警戒を怠らず、突破したところで影の怪物や赤い暴風、英雄の語り手らが一部の隙もなく阻み、叩き潰し、その牙城は少したりとも崩れる様子を見せない。
 中でも二人を同時に食い止めたアルテミアの功績は大きかったが、損耗も相応だ。可能性を燃やし立ち上がる。
 彼女の背には、守るべき民。此処が正念場だ。瞬時に能力を引き上げ、イグナート側からすり抜けを試みようとした兵士に向け、高らかに言い放つ。
「ここを通す訳にはいかないわ!」
 彼女とて三人以上を相手取るのは厳しいが、後方からのフォローは万全。再び防壁に徹すれば、思った通り。後方に温かな光を感じる。夕が輝く翼を羽ばたかせ、ふわりと舞い散る羽根が前衛を癒し。続いて生じた光刃が、目前の敵を激しく切りつけた。
「大丈夫ですか!」
「……少し参っていたからね。助かったわ」
 まだやれる。高貴なる壁とそれを支える天使は、傷ついてもいまだ倒れず。
 後方からは更に、ライハの魔弾が兵士の一人を狙い穿つ。
「その通りだ。ここは通さんよッ……!」
 かの時を思わせる強烈な一撃。受けた兵士は耐え切れずに倒れる。状況分析を主に行っていたライハだが、ここで押し切らんと判断し、攻撃に切り替える。全てはそう、最良の結末の為に。
 数の利をも得たイレギュラーズは、兵士長と残った敵の後衛を落とすべく、互いの射程に注意を払いながら前へ打って出る。真っ先に進み出たのはマルク。
「行かせないよ」
 敵陣に激しく瞬くネメシスは、出来る限り死者を出さんとする彼の祈りだ。激しい光に、兵士長を含めた憤怒の兵士たちが動きを鈍らせる。
「村の人達の平穏を、偽物の忠臣に乱させるわけにはいかないから」
「き……さまぁ!」
 兵士長の怒声が響くも、マルクは動じない。
 絶望の歌や影の襲撃、魂の魔弾がそれに続き、次々と残りの兵士を沈めていく。そろそろ頃合いかと、ルカも前へと進み出た。大戦斧をもって、イグナートに仕掛けようとした最後の一人に激しく打ち付け、一撃で沈める。
「一人で長い事、お疲れさんだ。こっからは俺らもやるぜ」
「アリガトウ。皆が頑張ってくれたから、そこまで痛くはなかったよ」
 とは言うものの、憤怒に狂う兵士長の攻撃は極めて苛烈で、頑健なイグナートも既に一度可能性を燃やしていた。
「ふむ、あまり時間はかけられぬな。……では、一気に行くとしようか」
 残るは兵士長ただ一人。英雄譚の最後の仕上げにと、ライハは再び在りし日の力を引き出し構えた。

●薄明/高く登る日、沈みゆく日
 ルカが放つ憎悪の爪が、兵士長に深く食い込んだ。見るからに痛打だが、老兵は湧き上がる憤怒を礎になお立ち上がる。
「泥仕合か、だが――!」
 ルカの方も、もう大技を放つ余裕は無い。ならばと繰り出すは組手、傭兵段仕込みの喧嘩殺法。猟犬のように喰らいつき、可能性が砕けても決して離れない。
「過去に何があったのかシラナイけれどね。単純な話だよ」
 始終彼と相対し続けたイグナートが淡々と老兵に告げながら、防御の構えを少し崩し、静かに攻撃の体勢を取る。いよいよ反撃だ。
 鉄の国は弱きに厳しく、冬を超えられなかった子供達が何人も居た。彼一人でも突破させてしまえば、後ろの村にもそんな冬が来るだろう。あんな光景はもうたくさんだ。
「今をケンメイに生きている人を踏みつけにしていい理由なんてものは、どこにもあったりは……しないんだよ!」
 左腕にありったけの力を込めて放つ。その拳はあらゆる装甲を貫通し、老兵の鳩尾を捉え。彼の方もとうに限界だったのだろう、膝をついたまま動かなくなる。
 もはや老兵の裡に憤怒は沸いて来ず、立ち上がる事も出来ない。しかし、事切れるまでには至っていない。
「貴様……なぜ」
 傲慢な左に怒気は込めたが、終始自分を支えていた強い青年の祈りを思い、殺意までは込めなかった。
「うーん、殺しが好きってワケでもないしね。反省してるんだったら、それでいいよ」
「……」
「マルクさんも言っていましたが、本当の忠誠とはどういうものか……少し頭を冷やして、お考え頂ければと」
 あくまで仕事、といった風に主無き侍従が告げる。仕える、という辺りに何か思う事があるのだろうか。
 老兵は「ああ……」と力なく応え、力なく空を仰いだ。気が付けば、周辺はかなり明るい。東の空、山の向こうには太陽が覗いていた。

 夜明けの英雄譚と影の御伽噺は、ひとまず此処でひと区切り。
 次に彼らを待ち受けるのは、いかなる物語か。

成否

成功

MVP

オフェリア(p3p000641)
主無き侍従

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)[重傷]
黒撃

あとがき

罠の殺意高くて震えました。そして連携もお見事、文句なしの成功です。
MVPは迷ったのですが、その中でも終始、全体への細やかな気配りが冴えていて
キャラクターや台詞もこの戦場に映えていた、クールな貴女にお贈りします。

ご参加、ありがとうございました!
重傷の方は、お大事にしてくださいませ。

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