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シナリオ詳細

海霧に包まれて

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●海霧に忍び寄る影
 ある日。洋上を一隻の商船が航海していた。空には雲一つ無く、順風満帆、予定していた以上の速さで船は海の上を滑っていた。吹き付ける潮風が心地よく、商船の長は船首に立ち、満面の笑みで大海を見渡していた。
「ふふ。思い切って最新式の船に買い替えただけの価値はあったな」
 思わず呟きも零れる。早く海を渡れるという事は、それだけ商取引のサイクルも早まるという事だ。何か事故が起こるのでもない限り、取引の回数を増やせば増やすほど金は増える。少ない食糧や水分でより遠くの土地まで足を伸ばせる。いいことづくめだ。
 そう、何か事故が起こるのでもない限り。
「船長! 水平線の向こうに何だか霧みたいなものが見えやす!」
 そんな折、急に見張り役が望遠鏡を片手に声を張り上げた。見れば、確かに一点だけが鼠色に曇っている。空は真っ青だというのに、面妖な光景である。彼は溜め息をついた。そういう不可思議な状況には、常に海の魔獣の類が潜んでいる。海賊対策に多少の武装はしているが、魔獣が相手となると心もとない。彼は溜め息をついた。
「避けるぞ。少し到着が遅くなるが、まあ仕方ない。この船は新品なんだ。傷つけられてたまるか」
「アイ」
 見張りは頷き、片目に望遠鏡を押し当てぐるりと周囲を見渡す。船長は船首を降り、周囲の船員に叫んだ。
「取舵だ! 正面に不思議な霧が迫ってる! さっさと避けて行くぞ!」
「アイアイ!」
 かくして、船は霧を避けるように舵を取る。

 もしこの時、180度転回して元の港へ引き返す覚悟があれば、彼らは助かっていたのだが。

「霧が近づいてきます!」
 見張りが叫ぶ。霧は轟々と渦巻く風となり、商船を呑み込むように襲い掛かってきた。全速力で逃げる船だが、とても逃げ切れない。あっという間に呑み込まれてしまった。身構えた船員だが、霧の中は異様なほどに凪ぎ、風を失った船はピタリと止まってしまった。
「何だ?」
 鼠色の霧の中を見渡す彼ら。やがて、霧の向こう側から黒塗りの船がのろのろと近づいてきた。凪の中でもその帆を大きく膨らませ、波音も立てず近寄ってくる。
「幽霊船……!」
 女神が有るべき船首に括りつけられた、数多の骸骨。商船に横付けした黒い船は、そのまま橋を渡してばたばたと船員が押し寄せてくる。海賊然とした格好の骸骨から、海兵然とした格好の骸骨まで様々な面子が刃物や銃を構えて押し寄せてくる。
 最早抵抗はままならなかった。今日も犠牲者が海の藻屑に消えたのである。

●幽霊を討て!
「最近海に怪しい霧が出現しているのです。話によれば、霧に呑み込まれた船は二度とは帰ってこなかった……とか」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、両手に開いた海図を君達に見せつける。点々と赤いバツ印が刻まれている。船が消えたという曰くつきの場所だ。
「皆さんにはこの原因の調査と、可能ならその原因の排除をお願いしたいのです。おそらくこれを引き起こしているのは何らかの魔獣の類。それを討伐すればこの騒ぎも収まる筈なのですよ。もう依頼主の商人団の方たちが、船員とガレオン船を手配してくれているはずです。航海についてはその方達にお任せしていれば間違いないので、皆さんは障害の排除に集中してください」
 
「このままでは海洋の商人さん達が安心して航海できないのです。出来る限り早く原因を究明して、障害の排除をお願いしたいのです!」



 そんなわけで、君達はガレオン船に乗り込み、一路霧を目指して突き進んでいた。鼠色の怪しい霧は、今も君達の目の前でぼんやりと漂っている。いかにも怪しい雰囲気だ。そして君達はまだ知らない。その中に潜む幽霊船の存在を。

GMコメント

●目標
 海霧の排除

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 昼。海上および船上で戦闘を行う事になるでしょう。
 船のタイプはガレオン船。斬った張ったにはばっちりのサイズです。
 海に落ちた場合にはなるべく早期の復帰をお勧めします。
 霧が濃く、遠距離攻撃の時には少々心もとないかもしれません。

●敵(PL情報)
☆幽霊船×1
 霧を操り海を走る幽霊船。霧はどうやらこの船を中心に発生しているようです。タダの船ではないのかもしれません。
・能力
→結界
 黒塗りの船体には何らかの力が宿っており、外部からの艦砲射撃などを遮断してしまいます。
→凪の疾風
 霧の中は凪いでいるにも関わらず、高速で疾走してきます。霧に入ったが最後、逃れるのは困難でしょう。

☆幽霊船員
 様々な格好をした船員。持っている武器も様々で、襲った船の船員を中に取り込もうとしてきます。
・攻撃方法(いずれかからランダムに1つ)
→剣攻撃
 剣で攻撃してきます。それだけです。
→銃攻撃
 銃で攻撃してきます。短銃なので照準は定まりませんが、威力は高いです。
→鈍器攻撃
 その辺にあった槌やらなにやらで攻撃してきます。

●TIPS
 船に渡した二本の橋から幽霊船員は渡ってきます。上手く利用すれば少人数でも効率的に船の防衛を行えるでしょう。

  • 海霧に包まれて完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月25日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
弓削 鶫(p3p002685)
Tender Hound
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
アルム・シュタール(p3p004375)
鋼鉄冥土
ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)
本当はこわいおとぎ話
レイリー=シュタイン(p3p007270)
騎兵隊一番槍
ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)
軍医

リプレイ

●海に浮かぶ霧
 イレギュラーズを乗せたガレオン船が、海に浮かぶ霧の中へと進み入る。霧の中で帆はしぼみ、船は深蒼の海を茫洋と漂うのみになる。グリムペイン・ダカタール(p3p002877)は、小さく笑みを浮かべた。
「霧ねえ、一体何が出るのやらだ。……ふふ、でも霧の中で一人ひとり消えていくなら、演出としては上々だと思うよ私は」
 彼の呟いた瞬間、霧の彼方で巨木の軋む音が響き渡った。船乗りは船端へ駆け寄り、霧の彼方をじっと見渡す。
「見ろ!」
 一人が叫んだ。霧の帳に船影が浮かんでいる。それどころか、凪の中でも徐々に船速を上げて接近している。レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)とイーリン・ジョーンズ(p3p000854)は並んでその影を見つめる。
「お客さんだな、イーリン」
「そうね。まさか幽霊船が来るとは思わなかったけど」
 雷のような音を響かせながら、幽霊船はガレオン船へと横付けしてきた。その甲板には骸骨の水兵達がずらりと立ち並んでいる。イーリンはそれを深紅の瞳でじろりと見渡す。
「幽霊船……寂しいか。でも貴方には水底がお似合いよ。魚礁になり、自然の営みの中で眠れないなんて救われないわ。その正体、暴きましょう」
 戦旗を担いで、イーリンは高らかに甲板を打つ。
「神がそれを望まれる」
 弓削 鶫(p3p002685)は愛用の巨大電磁砲を展開すると、甲板の群れへ素早く向ける。
「魔獣の類という話でしたが……迫りくるのは幽霊船、と。どうやら、予定を幾許か変更する必要があるようですね?」
 鶫は先手を取って砲弾を甲板へ叩き込む。一体の水兵がバラバラに吹き飛んだ。骸骨達は顎をがたがた鳴らすと、一斉に動き始めた。銃を構えた骸骨が次々に銃弾を船端へ撃ち込む。イレギュラーズが船端に身を隠しているうちに、彼らは甲板から二つの橋を取り出し、ガレオン船へと渡した。骸骨の群れは次々に橋へ飛び乗り、銘々武器を構えて次々に橋を渡ってくる。
「幽霊船か! 酔っぱらいの与太話だと思っていたが、まさか実在するとはな?」
 吸いかけの煙草を海へ捨て、ウィリアム・ウォーラム(p3p007502)はようやく船尾から駆けつけてきた。その身に祝福の祈りを浸して、儀礼剣を抜き放つ。
「ま、こうして遭遇しちまったもんは仕方ねェ。報酬分は気張って戦うとしますかね! 頼むぜ、先輩方!」
 一足飛びで甲板へなだれ込んできた骸骨達。アルム・シュタール(p3p004375)は銀に輝く長剣を抜き放ち、紋章の刻まれた盾を構える。
「船上と言うのはあまり慣れませんガ、そうも言っていられませんわネ。これも経験と言うやつですワ」
 妙な片言を使いながら、アルムは突っ込んできた骸骨の頭に盾の一撃を叩き込む。
「無粋なお客様にはお引き取り願いましょウ。“このアルム・シュタールがお相手致しますワ”」
 魔力を込めた言霊を放つと、盾を突き出し刃を構える。乗り込んできた骸骨達が一斉にアルムへ飛び掛かってきた。彼女は剣を風のように振るい、敵の攻撃を器用に受け流していく。敵が体勢を崩してふらついたところへ、ミザリー・B・ツェールング(p3p007239)の影――ロンリネスが襲い掛かった。大蛇の姿を為した蛇は、敵の身体を容易に噛み砕き、闇の中へ呑み込んでいく。
「混沌に来て初めての海上戦闘なのです! しかも幽霊船とは浪漫の塊なのですよ! 頑張るのです!」
 ミザリーが無邪気に声を張り上げると、彼女の影たるロンリネスも牙を剥き出し咆哮する。可憐さと悍ましさの共存するその姿、生者ならば誰もが震え上がるところだが、骸骨の兵士は構わず突っ込んで来る。レイリ―=シュタイン(p3p007270)はアルムの横に並び、一つの橋から押し寄せてくる骸骨兵士を迎え撃つ。
「実際に何も襲う事が無ければ、海上を気が済むまで彷徨わせてもいいが……被害が出ている以上はな」
 手に取った柄から闘気で作った刃を生み出し、レイリーは仁王立ちで敵に向かい合う。
「さぁ、鎮魂の時だ。かかってこい」
 曲刀を手に突っ込んで来る骸骨兵。彼女は真正面からその鎧で受け止めると、刃を剥き出しの背骨に叩きつけた。鈍い音と共に背骨が罅割れ、兵士は思わず蹲る。そこへ魔力が紅と蒼の螺旋を描き、兵士の身体を捉える。骸骨はふらふらと暴れ、海の中へと飛び込んでしまう。レイリーが振り返ると、イーリンが今まさに煙草へ火をつけたところだった。
「悪いけどフル装備の鉄騎種は引っ張れないわ。落ちないように頼むわよ」
「司書殿……あぁ、気を付ける。落ちたら私は沈んでしまうからな」
 レイリーの言葉にくすりと笑い、イーリンは煙草の煙を見つめる。大海のど真ん中だというのに、一切煙は揺れない。彼女は肩を竦めた。
「風は無し。この海を抜けるなら、この幽霊船を何とかするしか無さそうね」
 イーリンはその虹彩の色を歪め、橋を渡る敵の群れをぐっと睨みつける。彼女の放った魔力は橋を渡る骸骨達の足を止め、その隙に正面へと回り込んだレイヴンは黒い翼を広げて魔力の塊を放つ。橋の上に突っ立っていた骸骨の群れは、腰から上を纏めて吹き飛ばされ、ばらばらと海の中へ零れ落ちていく。
「そうら直撃だ、まずいまずい。生き残れんよそんな事では……って、既に君達は亡霊だったか」
 亡霊。自ら呟いたその言葉に、レイヴンは首を傾げる。
(これは何を目的に船乗りを取り込んでいる? 取り込まれた犠牲者たちはどうなったのか……)
「……いえば、砲撃戦で一緒になるのは初めてね?」
 ふと耳元に響いた声で、レイヴンはハッと我に返る。イーリンが目を見張って彼を覗き込んでいた。レイヴンは肩を竦めて頷く。
「うん。普段は切り込む姿に空から見とれるだけだったからね……」

 船室からは相変わらず骸骨の群れがぞろぞろと飛び出してくる。その数限りなしと思えるほどだ。藁も丸太も吹き飛ばす息で押し寄せる大群を牽制しながら、グリムペインは幽霊船の船体へじっと目を走らせていく。感じるのは、幽霊船全体から湧きあがる一個の貪欲な感情。
「ふむ……この骸骨の群れは、どうやら一つの魔物の操り人形のようだねえ」
 イーリンとレイヴン、ミザリーが放つ火力の嵐をすり抜け、骸骨の群れが船へ乗り込もうとする。グリムペインは爪を高らかに鳴らし、敵の身体に火を灯した。
「季節外れの怪談話も飽き飽きだ。何か面白いお宝でも埋まっていればよいのだがね!」
 彼の言葉に応ずるかの如く、再び幽霊船が船首の牙を剥いて鋭く吼えた。

●いざ突入
 二つの橋の正面に張り付き、押し寄せる大群を右へ左へ捌いて海の底へと突き落としていく。橋の正面に陣取る二つの“盾”は、銃で撃たれても剣で斬られても、その固い鎧や盾で受け止めビクともしない。
「どうだ、少しく敵の数も減って来たのではないか?」
「ただ今確認します」
 レイリーに尋ねられ、電磁砲に次弾を込めながら、鶫は甲板へ目を凝らす。相変わらず船室から骸骨は飛び出しているが、その数は次第に少なくなっていた。
「敵の継続戦闘能力の減衰を確認しました。好機かもしれません」
「よし。このまま船に引き籠っていても埒が明かないわ。さっさと乗り込んで、船を内側から崩すわよ」
 イーリンは背中に戦旗を背負うと、腰に提げていた本の背表紙から長いワイヤーを抜き出す。ワイヤーの先にフックを括りつけると、力任せに振り回して幽霊船のマストへ投げつけた。ワイヤーが絡みついた瞬間、彼女は素早く駆けて船端を蹴る。幽霊達の放つ銃弾の狭間をすり抜け、彼女は幽霊船の甲板に飛び乗った。周囲から一遍に押し寄せる骸骨の群れ。イーリンは旗を素早く振り回し、目の前の敵から突き崩していく。
「この機を逃すまい! 突撃する!」
 レイリーは闘気の剣を構えると、水平に構えて突撃する。重量のある彼女の突進は、脆い骸骨には抑えきれない。橋の群れを纏めて押し込み、揚々と幽霊船へ乗り込んだ。その背中を追うように、鶫とグリムペインも素早く橋へ乗り込む。間を埋めようと押し寄せてくる敵の群れを、グリムペインは狼の息吹で抑え込み、鶫は雷の矢で貫く。
「さて……これで突入予定の面子は全員乗り込めたかな?」
 最後にレイヴンが黒い翼を広げて飛び込む。向けられた銃口を大量の雹で払い除け、彼は橋へと振り返った。
「そうしたら、これ以上わざわざ二つの橋を残す必要もないね」
「了解です。それではあちらの橋を砕いてしまいましょうか」
 鶫は頷き電磁砲を構える。敵は彼女に押し寄せたが、素早くレイリーが回り込む。鎧の篭手で刃を受け止め、返す刃で肋骨を何本も叩き折った。
「邪魔はさせん! このレイリー=シュタインが相手だ!」
 レイリーが盾となって敵の攻撃を受け止めている隙に、鶫は一撃を橋に叩き込む。レイリーの重量に耐えた橋も、鶫の容赦無い一撃を受けてバラバラに崩れ、海へ沈んでいった。
「さあ、後の事は居残り組に任せるとして、我々は早々に船の探索へ移るとしよう!」
 グリムペインは骸骨を一体撥ね退け船室へと走る。開け放たれていた船室の扉が不意に閉ざされ、内側から鍵が掛けられる。しかし彼はにやりと歯を剥き出す。
「御伽噺の住人に、鍵などあってないようなものだよ」
 彼は言い放つと、そのまま船室のドアノブを握る。その瞬間、扉はするりと開いてしまった。
「……よし。じゃあさっさと乗り込もうかしら」
 イーリンはレイリーと目配せすると、銘々武器を構えて真っ先に船内へ飛び込んでいった。
「司書のお姉ちゃん、頑張るのですよー!」
 ガレオン船の上からミザリーがぶんぶん手を振る。相変わらず純粋無垢な笑みを浮かべている。しかし彼女の足下にある影は、上半身だけでもがき続ける骸骨をぼりぼりと顎で磨り潰していた。
「さあ、後は皆の帰り道を守るだけなのです!」
「敵勢力はいまだ健在でス。こちらは今や三人のみ、気を付けて参りましょうカ」
 アルムは相変わらず不思議なイントネーションでミザリーとウィリアムを励まし、橋の真ん前に立ってぞろぞろ押し寄せる骸骨の群れを押し寄せる。背後からアルムへポーションを振りまきながら、ウィリアムは首を傾げる。
「アルム嬢ちゃん、さっきから気になってんだが……何だってそんな妙な喋り方をしてるんだ?」
「喋り方ですカ?」
 アルムは素早く盾を構え、敵の剣を受け止める。返す刃で骸骨の首を撥ね飛ばし、骸骨の群れに吼えた。
「私を倒さぬ限り、この先へは進めぬと知りなさい!」
 彼女の威圧にも全く応えず、敵は橋を渡ろうとする。その身で敵の行軍を押し留めながら、アルムはウィリアムに尋ねた。
「こちらの方が宜しいですか?」
 アルムの口から放たれる凛とした声色。ウィリアムは慌てて両手を振った。
「あ、いや。そういうわけじゃないんだが……そんなにこてこての片言使う奴なんてこの辺じゃ中々いないもんだから気になったんだ」
「……訳ありなのでス。詮索は無用でス」
 二人が他愛のないやり取りをしている間にも、今度は甲板に纏わりついていたフジツボや海藻の中から次々に骸骨が飛び出し、甲板にばら撒かれた剣や銃を取って襲い掛かってくる。
「そんなところからも出てくるなんて、なのです! でも……」
 ミザリーは既に朽ち果てぼろぼろの骸骨をじっと見据える。ロンリネスはするりと彼女の影の中へ沈みこんだ。アルムは剣を水平に構えて仁王立ち、再び骸骨の群れに向かって叫んだ。
「さあ、我こそはと思わん者はこのワタクシの前に立ちなさイ。纏めて相手になりましょウ」
 飛び出してきた骸骨は、どいつもこいつもまとめて橋の先に立つアルムに押し寄せてくる。アルムは船端を鋭く踏み込み、斬り込んできた敵に強烈な盾の一撃を喰らわせる。先頭の骸骨がよろめき、橋の上で群れが詰まる。その瞬間、ミザリーは鋭く骸骨を指差した。
「さあローちゃん、やっちゃってくださいなのです!」
 不意に彼女の影が膨れ上がり、ロンリネスが飛び出した、大口を開き、怪物は巨大な魔弾を放つ。その一撃は骸骨の足下を薙ぎ払い、次々に海の藻屑へ変えてしまった。
「はあ……これがイレギュラーズの戦いってもんか……」
 甲板に座り込んで呼吸を整えながら、ウィリアムは女二人の戦いを背後で眺めていた。本当は自分も前線に立って戦いたいところだったが、ろくに戦った経験のない彼は後ろで見学に徹していた。
「味方だと頼もしいが、敵に回ったとしたらこれほど怖いものは無いね……」

●幽霊船の正体見たり
 一方、船内に飛び込んだ五人は、幽霊船の正体を求めてひたすら走り回っていた。壁や床にはびっしりと海藻が張り付き、足が取られそうになる。おまけにその中から骸骨の水兵達が飛び出してくる始末だ。
「一旦退避してください」
 言い放つと、鶫は魔法陣を描き、肩に巨大な砲身を担ぐ。両腕のトリガーを握って構え、よろめく骸骨に狙いを定めた。
「狭い廊下を複数人で渡ってくる……絶好の標的ですね」
 引き金を引き、眩い光線を放つ。骸骨の群れはあっという間に吹き飛んだ。レイリーは散らばった骨を蹴って脇へ押しやりながら、その眼を光らせ船室を覗き込む。元はそれなりに上等な人間を乗せていたのか、船室にはご丁寧に個人用のベッドが用意されていた。しかし幽霊船を動かすような何かは見えない。彼女はレイヴンに振り返った。
「レイヴン殿、何か不穏な感覚はあるだろうか?」
「ん? ……ふむ、さてどうかな……」
 レイヴンは鼻と耳に集中する。磯臭さと黴臭さで鼻は当てにならない。しかし耳には、どこかで骨を砕くような、ぱりぱりという音が確かに響いていた。
「ワタシとしては、船底の方に何かがいる気がするな。君はどう思う、“司書”君」
「ふむ……」
 イーリンは首を傾げる。水兵がいるなら船長もいるだろうと、船の要諦や操縦に関わりそうな場所を優先して見て回ったが、結局船壁から飛び出してきた骸骨に不意打ちを喰らっただけだった。
(犠牲者を増やす理由は? 何故霧の中から出ない? 船員しか戦わないのは何故……?)
 旗を担ぎ、ヒールを打ち鳴らして反響音を探りながら彼女は廊下を歩く。その反響音を聞き、海藻に塗れた骸骨を見つめているうちに、彼女の『ギフト』が一つの答えを導き出した。
「なるほど。何となく……この船の正体がわかったかもしれないわ。急いで船底に行くわよ」
 五人は一斉に駆け、途中に出てきた骸骨を蹴散らしながら船底へ向かう。グリムペインはくつくつ笑った。
「さてさて、何が待っている……やら!」
 そこは倉庫だった。腐ったライムを満載にした樽やら、何年物かもわからない瓶詰のピクルスやらが転がっている。その饐えた臭いに顔を顰めながら、鶫は辺りを見渡す。
「ここに、一体何があるのでしょうか?」
「あれを見て」
 イーリンは倉庫の奥を指差す。密生する海藻の奥がうすぼんやりと輝いていた。グリムペインは指を鳴らし、海藻に炎を灯した。海藻は燻ぶりながら、まるで生きているように蠢く。やがて、中から一匹の巨大なヤドカリが出てきた。その甲殻には一つの水晶が突き刺さり、殻から生えた海藻が激しく波打っている。レイヴンは訝しげに眉を寄せた。
「あれは……魔石かな?」
「どうやらそのようだ。どこかで見つけて取り込み、こうして魔物になったわけか」
 レイリーは剣を構える。ヤドカリが鋏を振り上げた瞬間、船底からそれの手足と化した海藻が飛び出してくる。鶫はヤドカリを睨みつけ、その魔力で無理矢理委縮させる。
「つまり、これにとっての宿がこの幽霊船で、行方不明になった船員はこのヤドカリの餌であり、骨になった後は新たな餌を得るための尖兵にしていた……というわけですか」
「ふむ……幽霊船の正体がヤドカリの宿というのは些か拍子抜けであるな。……話は早いがね」
 ヤドカリは再び鋏を振り上げたが、五人は構わず思い思いの一撃を叩き込んだ。グリムペインが狼の息吹を吹きかけ、レイヴンと鶫が魔力の塊を叩き込んで、イーリンとレイリーがその得物で貫いた。ヤドカリは矢も楯もたまらず叩き潰され、その亡骸を晒す。その甲殻から魔石が離れて落ちると、船を取り巻いていた海藻が一気に朽ち果て、船に縛り付けられていた骸骨がばらばらと辺りに散らばる。次の瞬間、船底からじわじわと海水が染み出してきた。
「いかん、浸水が始まっているぞ」
「このペースなら十分に間に合う。急いで撤退しよう」
 レイヴンの号令に合わせて、彼らは一斉に甲板まで駆け登った。

 甲板では、ウィリアム達が今にも落ちそうになっている朽ちた橋を支えるのに必死になっていた。
「骸骨との戦いよりも厄介でス」
「つってもこれが落ちたらみんな戻ってこれねえぞ」
 言っている間に仲間達が甲板に飛び出してきた。レイヴンは飛び、イーリンはワイヤーを投げて次々に戻ってくる。それを横目に、ミザリーは橋を指差し叫んだ。
「ローちゃん、もう少し頑張ってくださいなのです!」
 ロンリネスはミザリーの影を伝い、橋の下に飛び出して支える。グリムペインが渡り、鶫が渡り、レイリーも何とか渡り終える。振り返ったレイリーは、朽ちた船を見つめて溜め息をつく。
「……幽霊船騒ぎも、これで終わるか」

 船は真っ二つに裂け、水底へと沈んでいく。分厚い霧も、吹き寄せる潮風に紛れ、徐々に消え失せようとしていた。



 おわり

成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

影絵です。まずはご参加ありがとうございました。

橋で敵の攻撃を押さえる、船に乗り込んでその正体を探る、どちらも正解でした。皆さんにしてみたら少し簡単すぎたでしょうか。

また機会がありましたら、よろしくお願いします。

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