PandoraPartyProject

シナリオ詳細

柔らかな夜の輪郭
柔らかな夜の輪郭

完了

参加者 : 10 人

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オープニング

●柔らかな夜の輪郭
 昔話をしよう。豊かな緑に覆われたさいわいの街があった。
 其処に住まうは美しく優しい姉と、穏やかで可愛らしい妹であった。
 美しく優しい姉は誰もの羨望の的であり、穏やかで可愛らしい妹は叡智に優れた。
 けれど、『夜』は何時だって訪れる。
 ■■■は■■して■■■■と呼ばれるようになる。

 人間とは他者より優れているという傲慢なる思いの上で、自己を保つ生物である。何故ならば、人間は誰もが承認欲求を抱え強欲にも自身と他者を分別するからだ。
 慈愛に溢れる■■■でさえそうであったのだから、正義に狂う者が自己を否定されたならば、嫉妬に身を焦がし憤怒に焼かれる事など分かり切っていた。――けれど、寛容に全てを受け入れてみれば、生という忍耐を経て愛情と勇気を知り、色欲と暴食に負けず、いずれは怠惰とされる生の営みより脱却して楽園へと向かうのだ。
 楽園へ向かわねばならなかった。まほろばに消える思いならば砂に化した方がましだとさえ■■■は感じていたのだから。

  ――え? 何の話かって。
 いやだな、『―――』。良く伝え聞く昔話じゃないか。

●砂の都
 ラサはオアシス。砂漠地帯の中に存在するその場所を人々は夢の都『ネフェルスト』と呼んだ。
 大商人たるファレン・アル・パレストの応接室で明るい笑みで特異運命座標達を出迎えたのはその妹――フィオナ・イル・パレストであった。
「つー訳で、テメー等に、とびきり御機嫌な依頼っす」
 何がとは言わずその美貌を思わず『残念にしてしまいそうな』態度の悪さでフィオナは言った。
 そのあっけらかんとした態度からはあまり感じ取れないが、彼女自身は『深緑で多数発生する幻想種誘拐事件の犯人とされるラサの大商人』の一人だ。その影響力は大きく商人たちの元締め的立場にも立つ兄妹は現在の所、肩身が狭い思いをしているとのことだ。
「フィオナちゃんが簡単なあらすじを説明してやるから3分で理解しな!」
 ――言いたかっただけ、のようではあるが、チラと背後を振り返り兄の気配を感じたフィオナがぎこちない笑みを特異運命座標へと返す。
「簡単に言えば状況は芳しくないっす。私達が無罪を主張したところで幻想種の誘拐は止まらない。
 そもそも『主犯が別に居ようとも』手を出してるのはラサの商人に違いはないんすから、完全にシロだとは言えねー訳で」
 幻想種という永き時を生きる彼女たちは命のリミットが限りなく短い他の種からすれば永劫の美を宿した存在という認識も強いのだろう。一枚岩ではないのは何処の国でもそうである。奴隷や愛玩用にと売買が発生することは何ら可笑しなことではなく、幻想種がその標的になることだってあった――あったのだが、今回ばかりは規模が大きすぎてディルクやリュミエの間でも問題視されているのだろう。
「幻想種は幻想種でも妙齢の女だとか、子供だとか、果ては大魔導――リュミエ様まで欲しいっつーんですから人間ってのはどうしてこうも」
 クズばっかなんすかね、と言葉を飲み込んだフィオナが視線を明後日に逸らした。
 それが本題ではないのだろう。胎の奥底に燻っていた苛立ちを吐き出しただろう彼女はその美貌を歪め、指折り数える。
「この事件の主犯とされているのは『ザントマン』と呼ばれる男だそーですが、ハウザーが嗅ぎ分けた結果、ラサに所属する深緑出身――幻想種だろうことが判明したですよ」
 だからこそ深緑の内部に詳しく、そして商人たちを煽ることができたのだろうと苦虫を噛み潰したようにフィオナは言う。
「そっちはディルクに任せて置くですが、気になることがあるんですよ」
 フィオナは机の上に一冊の本を置いた。それはラサの闇市でもしきりに流れる『■■■■』と呼ばれる異界より訪れたとされる本だ。
「『■■■■』――これに聞き覚えは?」
 特異運命座標の中でも数人には聞き覚えがあるものもいただろう。
「ザントマンとは別口にこの本で幻想種を先導してる奴がいるみたいなんすよね。
 まあ、正直な事を言うと――『奴隷売買』がアイツらの目的じゃないみたいですけど」
 今まで、大規模な誘拐と奴隷売買に視点がいき、それこそが目的だと思われいたがその本の登場により状況が変化したのだそうだ。
「『楽園の東側』と呼ばれる宗教団体があるですよ。そこに所属するラサの商人――クリドマスの動きが活発になった事が判明したです」
 フィオナの表情が曇る。彼女自身もラサの商人であり、兄もその中心に位置する存在だ。
 だからこそ、此度の事は見過せないのだろう――『楽園の東側』の象徴たる少女『エリー』がラサに訪れたその日、商人たちの中で一つの噂が流れたという事を。

 ――試練が起こる。静けさの森の中、■■■の為に完全なる楽園への入口を開く為――

「簡単に言います。
 ラサの商人たちに何かあればこのままじゃ物流が混乱して、この砂の都は危機に陥るっす」
「それで?
「ラサの商人たちの間で共有される噂にはもう一つ。『深緑を攻め入ればもっと幻想種が手に入れられる』」
 それを口にした時、フィオナは形の良い唇を引き結んで俯いた。
「……いいっすか? 此処で商人たちが深緑に攻め入ればあの国との親交は断絶。
 そして、大きな被害が出ればラサのオアシス――ネフェルストにも大打撃が入るっす」
 商売と傭兵。そのどちらもが無ければこの国は成り立たない。
 ザントマン、そしてクリドマスの思惑はまだ計り知れないが起こりえる危機は防がねばならないのだ。

GMコメント

夏あかねです。同時参加不可がありますのでお気を付けください。

●成功条件
 ラサの商人の深緑への侵攻阻止
 ※商人たちの生死は問いません

●ラサの商人 扇動者『クリドマス』
 ターバンを巻いた男です。鞭を獲物に戦うようです。
 彼は『楽園の東側』と呼ばれる宗教団体に所属し、その教義に従い幻想種達をおびき寄せんとしています。
 また、急激にその信徒を増やしているのも彼の手腕によるものでしょう。
 彼自身は拙作『楽園の輪郭論理』に登場した魔種に外見が酷似しているようですが……。

●ラサの商人×30
 クリドマスに扇動され、深緑に攻め入らんとする商人たちです。
 彼らの様子を見るにフィオナは『正気ではない』と告げています。
 そう、その様子は幻想や天義でも見られた魔種による狂気による影響を受けているかのようです。

●戦場
 ラサと深緑の国境。緑の領域にはまだ遠いですが徒党を組んで彼らは攻め入らんとしているようです。
 また、クリドマスは片翼の飛行種である『楽園の供物』エリーと呼ばれる少女を連れています。
 特異運命座標はフィオナによる連絡で深緑側で準備を整え防衛線に当たれます。
 『隠れられる場所が深緑の木々しかない』状況となります。

●『楽園の供物』エリー
 戦闘はなく、クリドマスに守られています。危機が生じた場合は撤退します。
 また、撤退時には彼女の『愛する人』の介入が生じる可能性があります。
 彼女は『楽園の東側』の教祖の御神体であり、教祖に盲目的で献身的な愛を捧げています。

●『楽園の東側』
 異世界からの漂流物である書物「■■■■」を聖典とする宗教です。
 その教祖は一人の少年であり、彼は現在魔種であるという情報をキャッチしています。
 その教義は「肉体とは枷でしかなく、死こそ魂の解放」。
「死こそ試練であり開放――美しく、完璧な死を行えば魂は開放され、神の元へと向かうことが出来る」

●書物『■■■■』
 それは異界からの漂流物であり、深緑では発禁とされていたようですが、
 ある一人の幻想種がその決まりを破ったとされています。教祖はその幻想種を書物を与え給うた神の一人として名を連ねているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●重要:同時参加不可
 当シナリオは同時参加不可が設定されています
 『砂粒を辿って』『柔らかな夜の輪郭』にはどちらか一つしか参加できません。ご注意ください。

  • 柔らかな夜の輪郭完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月23日 01時35分
  • 参加人数 10/10人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ナーガ(p3p000225)
矛盾一体
ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)
自称未来人
コラバポス 夏子(p3p000808)
一兵卒
フレイ・カミイ(p3p001369)
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
メルナ(p3p002292)
青の十六夜
アベル(p3p003719)
未来偏差
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
チアフルファイター
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
闇討人
御天道・タント(p3p006204)
きらめけ!ぼくらの

リプレイ


 深き夜は全てを覆い隠す。その闇の色こそが深淵であり、覗き込む事は決して許されない。
「■■■■に『リュミエ殿』――でござるか」
 口にしてみれば『必殺仕事忍』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は可笑しな心地がした。被害者と称るが相応しい深緑の指導者たる大魔導。その名が異世界より流れ着いたと言われる聖典との繋がりがあるというのだ。細い糸が絡まり合う様にそれは確かな事実として存在しており、然し、霞掛るかの如く真実を見据えることは出来なかった。
「例の書物か。私も一応調べてみるかと思って、偶然闇市で見つけたので持ってきてみたが……
 内容は興味を引かれるが、あくまで学術的な興味だな」
 研究者たる『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)からしてみれば異界よりの漂流物となれば状況が変化するという事だろうか。唇に指先宛て、ぺらりと頁をめくった彼女はそこに記載された一説を口にする。

 ――楽園とは、我らが戻るべき故郷である――

 その言葉を『未来偏差』アベル(p3p003719)は知っていた。『知らない訳』が無かった。
 彼は、楽園の東側と呼ばれた宗教団体と密接に関係し合う。寧ろ、その団体がこの書物を巡りどのようにして立ち上げられたかをその身其の儘に体験した生き証人であるのだから。
「……」
 息を飲む。大丈夫だと口遊む。自身を『アベル』であると確かめるように。その言葉を聞きながら「ヨハナも『ヨハナ』だったんです」と『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ(p3p000638)は常の飄々とした調子で言った。観測される有り得ざる未来を見て来たとでも言う様にヨハナはさも訳知り顔で言う。
「未来って一つじゃないんでヨハナにも分からない事はあったんですけど。
 ヨハナのそっくりさんにもインチキ占い師がいるんですけどこういうの流行りなんですっ?」
「……さあなあ」
 アベルの言葉にヨハナはにい、と唇で三日月を作った。彼女は「あれは酷い出来事でしたっ」と何かを思い返す様に肩を竦める。それが過去に観測された出来事であれば彼女に取っては思い出だ。
「ともあれ、その時助けて頂いたアベルさんの御恩に報いる準備はできてますともっ!
 今のヨハナは工作兵な司令官っ! ヨハナにいい考えがあるっ!」
「いいカンガエ? ナーちゃんわかる。アイする!」
『矛盾一体』ナーガ(p3p000225)はこの場の誰よりも■■■■の考えに同調している存在だろう。彼女は墓地を愛する墓守だ。それ故に『死』はいきものにとっての『真なる生の始発点』であるという認識であった。愛らしくも幼いその口調からは計り知れないほどの憐憫を生物全てに抱き、アイすることで心に溢るる思いを満たすことができるのだろう。
「アイせば、イイんだよ! 『愛する人』って、アイするひと?
 うんうん。ナーちゃんもわかるよ。『依頼討伐対象(アイするひと)』じゃなければナカヨクできたかなあ?」
「どうでしょうね。人の思想というのは難しいとは思うけれど……。
 宗教団体って言うのは個人の思想よりも厄介で、面倒な話になってくるものよ」
 腰まで伸びた長い銀発を揺らして『青の十六夜』メルナ(p3p002292)はそう囁いた。そうは云えど彼女は彼女としての思想を表立っては示さない――『兄』の思想を代弁するように、言うのだ。
「お兄ちゃんならきっと、こう考えるよね……!
 人身売買にしろ、それ以外の思惑にしろ……思い通りにはさせない――って」
 霊樹の大剣を手にした剣乙女は『ここに召喚ばれるはずであった兄』になり切る様にその思考を追い、行動と追い、そして、「幻想種を護らなきゃ」と決意する。
「勿論。商いに事欠いて幻想さんの誘拐とは言語道断。
 平和然とお近づきになってイチャついたり、劇的な出会いの末 熱烈な恋に落ちたり……信頼を獲得して 固い絆で結ばれたり」
 指折り数えるラブロマンスの数々。まるで乙女が望んだ夢物語の様なそれを恥ずかし気もなく口にして『一兵卒』コラバポス 夏子(p3p000808)は常の通りに笑った。誰かが軽薄であると彼を称しようとも彼にとっては『女性』とのロマンスは自身の生きる糧であり、世界平和の礎だ。
「あ~人の尊厳は踏みにじっちゃダメなの! 色々あるけどそうじゃなきゃダメなんだよ!」
「OK。その思想は概ね同意するぜ? 雑魚共を俺の女達の元へ行かせんことが重要だ。
 詰りはこの一言に限るな? 『一人残らずぶっ殺す』だ」
 気高き永劫の美。その体現者たる幻想種(おれのおんな)達。譬え、彼女達がフレイ・カミイ(p3p001369)に対して辛く当たろうとも、篭絡されようとも構いやしないのだ。美人は美人であるだけで価値があり、それ故に多少の事は大目に見て貰える。
「例えばサ、敵の商人が美人だったらどうしたの? 有り得ないけど」
 フィオナの情報を許に、商人たちの突入位置をチェック済みだ。防衛という行動をとる以上、事前準備は怠らぬように。メルナと共に事前準備を整えながら『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)はそう夏子とフレイへと訊いた。
「……そりゃあ」
「敵対していた男女は、それでも恋焦がれ――けれど、相手は魔種。倒さねばならないと苦悩する……?」
 そんなお涙頂戴なラブロマンス。今はあり得ないからいいのだと言う様に夏子は「素晴らしい」と冗談のように笑いフレイも手を叩いた。その声を聴きながらフェイクの長耳を装着したミルヴィは「どう?」とメルナに問いかける。
「うん。いいと思う。立派な幻想種だよね?」
 どうかな、と問い掛けたメルナに輝きを控えめに、自身にも長耳のフェイクを着用していた『きらめけ!ぼくらの』御天道・タント(p3p006204)は「素敵ですわ」と笑みを返す。
「ザントマンの影……まだまだ色濃いといいますのに。それとは別口の侵攻……本当に別口なのですかしら……?」
「タント?」
 アベルがタントの言葉に顔を上げた。ガスマスク越しの視線は何かの予感を感じさせる。
「例えば、全てが一つに繋がっていたとしたら……?
 ええ、ロケーションやキャストが違えど同じ演目でしたら……?」
「それは――」
 咲耶の脳裏に過ったのはリュミエ・フル・フォーレとあの『書物』が関連あるという一つの事実であった。
「いえ、今はまだ考える根拠がございません。目の前のやるべきことを成しますわ」
 ざり、と砂を踏み締める。緑と砂漠の交わるところで、あそこに見ゆるは商人の集団ではなかろうか。


 緑の領域を望めば商人たちにとってはそこは宝の山であった。金のなる木と生者を称することに抵抗があったものでさえも、今、この時では『幻想種を売り払う事で金銭を得られる』という目先の欲求に忠実であっただろう。
 フィオナ・イル・パレストが『正気ではない』と称した商人たちは30名ほど。普段と装いは余りに変わらず多少の武装ととても戦闘用に使用しているとは思えない荷台を引くパカダクラの姿が見える。
「ふむふむっ。あれだけ見れば行商ですねっ?」
「そうね……。今から市を開くと言われたら納得できちゃう。
 それ程に彼らは正気じゃないし、それ程に幻想種が搾取される側であるという認識だという事よね」
 ヨハナの言葉にメルナは神妙な表情で告げた。緑の木々に立ち入られればあの人数を10名で――しかも扇動者たる男とアベルが嫌な予感を感じさせる片翼の少女がいるのだから――この場所にお止めるのは難しい。
「普通にぶん殴って止めればいいワケだよね? 幻想とか天義の時と一緒。『狂気』にやられちゃってるだけなんだからサ」
 ミルヴィはそう呟き、幻想種を模した自身の耳を撫でる。ミルヴィ、タント、メルナはこれから囮として躍り出る事になる。非力な幻想種達ではなく運命に愛され、可能性をその身に宿した特異運命座標の方が囮に向いているという判断は間違いではないだろう。
 ヨハナがまずはと準備したのは進退に使用するであろう通路にロープで編んだ網の罠、そしてわき道を封鎖するために柵が立ちあがるという罠だ。闘争を一歩でも遅らせ挟撃の対処を意識させるために設置した其れは数が多い商人たちに一縷でも商機を抱かせるためであった。
「簡単に言うとヨハナちゃんあったまいいっですねっ」
「なーるほどな。な、これ熟したらイイコトあるとおもう?」
 敵の一団を誘い込むために罠の作成をしながら夏子はちら、と迫りくる商人たちを眺める。
「いいこと?」と首を傾いだナーガに、夏子は頷いてフレイを見遣った。
「僕ぁ幻想の女性と親密になりてーんだよ! 志近しい仲間居て良かったよ!」
 志が近しいどころか意見がぶつかるほどに『同意見』である彼ら。
 杭とロープを大量に持ち込み、足に引っ掛かる高さに張り続けるゼフィラは鳴子をそれにセットした。広範囲に索敵用の罠としてカバーするように設置されたそれの内側には更にはワイヤーが設置してある。ロープをまたいだと思えばワイヤーに陽書かk流という調子だ。
「あのパカダクラが引っ張ってる荷台も燃やせば混乱を誘えそうだね」
「パカダクラが燃えちゃいそうでござるな」
 感情探知を行いながら咲耶は張り巡らせた罠と、近寄る商人たちの存在に気を配らせた。
 もう少しで『第一の罠』――囮の地点に辿り着くだろう。ゼフィラは静かに息を飲む。彼女達であれば抵抗も出来るだろうが数の利があるのはあちらでありリスクもある。
(いや……幻想種はか弱いという先入観があるか……)
 ふと、アベルは小さく息を吐いた。深緑、この地には縁の深い彼にとっては思いだしたくない小本沢山ある――のだが……。
「良い思い出のない故郷ですがね、守りますよそりゃ」
 吐き捨てる様に言って、カインと唇が名を遊ばせた。
 全身を迷彩のペイントで固めたナーガをちら、と見遣って夏子は「それって草木に紛れるワザ?」と冗談めかす。
「ナーちゃん、かくれてるから」
 ナーガは巨体を丸めて静かに息を潜める。もう直ぐアイしあえるのだとでも唇で言う様に。

「あら、珍しい格好の方々がいらっしゃいますわ!」
 無垢なる幻想種の少女を思わせる様に儚くもきらりと輝いて見せたタント。狂気を纏った男たちはタントと、そしてその背後に立つメルナとミルヴィの姿に小さく息を吐いた。
「あれは上玉だ」「高く売れる」という言葉が口々に聞こえてくる。端から少しずつ『抓む様に』罠に誘う事を目的としたミルヴィとメルナは「こっちこっち」と村に誘う様に彼らを引き寄せた。
 からんからん、と鳴子がなる。商人たちの侵入が開始したことに真っ先に気付いたゼフィラは顔を上げる。ナーガの瞳が喜色に満ち溢れ、まさに猟に成功したという表情を浮かべている。
「言っても良いか?」
「ドーゾ?」
「爆釣れ」
 フレイの言葉に夏子がふは、と息を吐き出し笑った。囮である『偽・幻想種』に多く連れたのだろう。タントの「お客様が沢山ですわー! 皆様に伝えないとー!」という元気いっぱいの声とメルナの「お友達はこっちに沢山いるのよ!」という気合の入った演技が聞こえる。一方で、その色香と美貌で惑わす様に罠へと商人を引き摺り込んでいるメルヴィの姿も見えた。
(さあ、皆様! 一網打尽に向いている罠へ誘い込みますわ!)
 タントのその意気や良し。特異運命座標達の目的は『商人たちのできる限りの捕縛・不殺』と『さっさとお帰り頂く事』だ。これ以上の侵入は作戦の失敗は元より深緑への被害へと繋がってしまう。
 罠にかかったと認識したが早いかアインシュタイン=ローゼン鍵をくるりと回して隠蔽工作より姿を現したヨハナが「ヨハーナメイクアップー☆」と『名乗り口上』を上げる。
 タントの周りにその姿を見せ、一気呵成、攻め立てるナーガを指先で誘い込む。
 ヨハナの声に商人たちの視線が向いたが早いか、その姿は全て『薙ぎ倒された』
「ラクエンにいきたいってきいたよ? それって『アイする』ってことだよね!」
 前線に躍り出てナーガの視線はエリーを庇う様に立ったクリドマスに向いていた。
『楽園の東側』――死こそ楽園への入り口であるという考えはナーガの思想と合致している。だからこそ、
「でもねでもね、キミたちがその『アイ』をこれからタンノウできるんだから、これほどシアワセなことはないよね!」
 偏愛の円匙を担ぎ上げナーガが周辺の商人たちを鮮血に染めながらクリドマスを目指した。肉壁の如く。
 紅牙戦装・鴉守を手にした咲耶も「こちらでござる!」と声上げる。樹上よりその姿を見せた咲耶が放つ紅牙流暗殺術。喉元にナイフをひたりと添えてその視線を奪う様に唇に笑みを浮かべる、
「人攫いも安易ではないでござるな?」
 ミルヴィはくるりと振り返る。その絶対的な美貌は揺らぐ事無く只、美しく――舞手のように指先が掻き鳴らす。六方昌の眼差しは涼やかに商人たちの視線を奪った。
「大半の商人はアタシのお客さんだったかも知れないから……サ」
 色香に惑わす様にして星辰の腕輪がしゃらりと鳴った。信念の鎧をその身に纏わせたミルヴィの中では『なるべく不殺』という認識が確かに存在していた。それはメルナも同じだった。『兄』ならば無用な殺生は否定するだろう。
 少なくとも、メルナは『楽園の東側』とは対極の考えをその胸に抱き続けている。
「死こそが解放、なんて……死を高尚な事の様に語る馬鹿馬鹿しい人達に、好き勝手なんてされたくないから」
 そう。死は高尚ではないとすればそれは明確な意識の『ズレ』だ。邪教と認識していると言っても過言ではない。長耳を思わせたその姿は『兄』ではない別の仮面をかぶったままだ。
 煌めく光をその刃に宿らせて商人たちへと叩きつける。しかし、『不服』であれども商人たちは扇動されて狂気に乗せられてるだけなのだ。殺さずを徹底するならば蹴撃を持って応酬するしかないだろう。
 巨大な光刃をその目で追いかけてゼフィラは威嚇術を用いた。仲間達の攻撃した商人たちの明確なる捕縛と、無力化を狙う為だ。
 こんなこともあろうかと様々な小道具を用意した甲斐もあるというものだ。
「ふむ。どうやら君達は『宗教』には染まらず別の楽園――概ね、予想するに金の楽園だろうか?――を求めている様だね」
 ゼフィラは小さく笑みを溢した。それは否定はしない、人間とは欲に目を晦ませる生き物だ。罪のようにその身体には七つ刻み込まれているのだから。
「いや、何。■■■■。実に興味深かったよ。
 私の体は機械の継ぎ接ぎだし、これを枷と言われても納得しか無いが、愛着があるのでね。
 死んだあとで楽園とやらを探すのも良いかもしれないが、しばらくはこの体で生きてみるさ」
 その楽園に行きたがる『俺の幻想種(おんな)』が居る事に気付いた様にフレイは不服そうに小さく呟く。
「有象無象で詰めかけて、こんなことで察知されないとでも思ったか?
 盲目な莫迦じゃなければ、こんなところで警戒されて撃退されるのも当たり前だろう」
 呟き乍らも飛び上がり商人たちへと奇襲する。なまくらよりも切れるその刃を振り翳せば、それに続き夏子も笑う。
「狩る方だと思ってた? 残念獲物の方!」
 保護結界を張り巡らせて自身を砦の如く強化する。夏子の唇は嘯く様に笑みを作り、「生きてりゃ償うチャンスもある!」と商人たちを励ましその意識を刈り取った。
 30。狂気に駆られれば普通の人間ならば逃げ出すタイミングでも尚『死をも恐れず』に襲い掛かってくる。愚策で有れど、そうするようにと脳が認識しているのかとフレイはそう毒吐いた。
 全力丁寧横薙ぎ払い。 それは夏子にとってのギフトを利用した嫌がらせだ。大きな音でドカンと一発驚くだけのプレゼント。脳天にチカチカとヒヨコさんでも飛ばして見せろよと言う様に光が弾け飛ぶ。
「いやはや、流石は特異運命座標。これなら……教祖サマも喜びそうだ!」
 その背後、クリドマスと呼ばれた男が手を叩く。彼の声音に誘われた様に商人たちが動きを変えて『まるで駆り立てられたかのように動き出す』。
「その動き、魔種って言わずに何というのかしらね」
 メルナのそれを聞き、ナーガはクリドマスへ向かって一撃を放った。
「ナーちゃんはむずかしいことはわからないケド、アイすればいいんだよ?」
 アイするようにその拳を振るう。その絶対的なアイ情を受け止めて、クリドマスは「おおっと」と笑みを深くした。
(魔種かもしれない相手と徹底抗戦するならば、腹を括らねばなりませんわね。
 持久戦ならば……わたくしの出番ですわよ! 盾となり癒し手となり、皆様を無事に帰しますわ!)
 タントはそうクリドマスとエリーを見遣った。数の減った商人たちに溜息を交らせてエリーに撤退を進言する男の姿。それこそ特異運命座標達が望んだものだ。
 クリドマスを狙う様に商人を退け一直線で拳を固めるナーガを癒し支えるタントはその向こうに『一つの影』を見つけて息を飲んだ。
「アベル様――!?」
 振り返る。そのガスマスクを付けた少年が片翼の天使を穿てない理由など知らないままだ。
 咲耶は感情を探知する。エリーとクリドマスの許へ『何者か』が近づいてきてるのだ。
「敵襲でござる!」
 その声音は、その空間に響く。商人たちは狂気に駆られた儘に襲い来るだけだ。


 片翼の乙女の向こう側に、一つの影が見えた。柔らかな金の髪に、澄んだ空色の瞳。
 その姿を見て、アベルはガスマスクを投げ捨て銃弾を撃ち込んだ。強かにそれは直線を描いて飛んでいく。
『アベル』と『カイン』――そして『エリー』
 キャストは盤上に揃ったのだろう。嘗てアベルと呼ばれた少年と、嘗てカインであった少年。
「こんな事までし始めて何をしたいんだよ、お前はさ」
 その言葉に、カインは顔を上げ、意外だと言う様に笑みを浮かべた。
「……それは、聞かなくても知ってるだろう?」
 聞き慣れた声音にアベルは唇を噛んだ。エリーは何かに気付いた様に己の片翼を撫でる。ゼフィラは只、その歪な飛行種の少女を眺めながら静かに問い掛けた。
「時に、その方は『生まれた時から片翼だったわけではない』だろう?」
 タントは訊かずとも感じ取っていた。エリーと呼ばれた少女は本来の名は『エリー』ではなく、カインの望む誰かが『エリー』なのだろうとも。そして、その翼が敢えて切り落とされたものだろうとも。訊く事さえ必要はなかった。
 エリー。母代わりの優しいシスター。アベルは敢えてそれを口にしなかった。カインは「エリーは大切な人なんだ」と片翼の彼女を見る事無くそう言った。
(――本当は愛してなんてないんだろうな。厭になっちまうぜ、それなのにあの女、惚れてるじゃねぇか)
 フレイは只、毒吐き乍らも息を飲んだ。クリドマスが「エリー様、ご撤退を」と彼女の手を引かんとする其れをカインは忌々しいと視線を送る。
「『カイン』」
 アベルはしっかりと通る声でそう言った。
「聞いたろ。何してんだ」
 カインはその少年の顔笑みを張り付けた。その顔は『もうとっくに見飽きたものだというのに』。アベルは唇を噛み締める。
「カイン、アベル、エリー。まるであの日のようだね?」
「……」
「愛するキミを殺しに来たんだ。けど――」
 視線を送ればクリドマスが歯噛みするように「教祖様」と酷く嗄れ声で呼んだ。カインを見据えた儘、動こうとはしないエリーを護る様にと立ったクリドマスは地団駄を踏む。
「『まだ』いいでしょう!」
「君はこの愛するべき再会を『まだ』っていうの?」
 苛立ったようなその声音に「いいえ、いいえ」とエリーが首を振る。盲目的なまでの彼女は己の片翼を差し出す様に「どうぞ」と囁いた。
「望むなら此処で今、私の翼を落としてください。そして、楽園に参りましょう――?」
 エリーのその言葉にカインは頷くが、クリドマスが強く「まだです」と繰り返す。
「……『アベル』」とカインは囁いた。「僕は必ず君を呼ぶよ。だから――『また』ね」
 砂を踏み締める様に、彼は歩き出す。その背を追い縋る様に片翼の乙女は付き従った。
 強き狂気を感じる。ど、ど、と心臓が高鳴る音がした。アベルは、『  』はひゅうと息を吸い込む。酷く、眩暈がする。ぐらりと視界が歪んだ気さえしてそれを受け止めたのはタントだった。
「大丈夫ですの!?」
「……ごめん」
「いいえ。いいえ……その――」
 何を聞けばよいのかなんて分からなかった。二人を護る様に立ち塞がったヨハナはふと、その場に残るクリドマスをじいと見つめる。
「案外素直なんですね!? それに、『まだ』ってどういうことですか?
 あーれれ? ヨハナ、なんだか『思いついちゃいました』よ。クリなんとかさん。もしかして、『楽園の東側』を利用してます?」
「……」
「確かに? 『まだ』なんて 『まだ』って言いましたよね!? おっかしーですよっ。
 教祖サマは今すぐにでも目的達成なんじゃないですかっ? アベルさんと出会った時点でミッションクリアーッ! ……違いますっ?」
 クリドマスは云った。ヨハナの言葉に肩を竦めて、やれやれとでも言う様に。
「どちらも利用してると言えば? 大人というのは狡くてね。求めて已まないものに出会う為に此方は信徒を利用しているだけ。教祖様達はパズルを完成させたいだけ――ただ、塵が混じっていたから今日は引いてくれただけなのさ」
「塵ってなにさ」
 ミルヴィがじ、と確かめるようにクリドマスを見遣る。彼らは盲目的に、猛進的に、アベルを求めているだけではないのか――クリドマスは「ザントマン」と云った。
「私はザントマンと志を同じくしている。私が信じる楽園は彼が求める『場所』に或るのだと信じている。
 教祖様にはこういったさ! 私の彼らにとって『下らない進言』がノイズであっただけだ!
 私が信ずる楽園に至ったのち、貴方の望む然るべきパーツを当てはめましょう、と。
 もしも今日、この場所に『愛するアベル』が来たとしても、決してエリーの片翼を落としてはなりません、と。」
「彼女の片翼が落ちたらどうなりますの?」
 タントは、不安に塗れ乍ら、クリドマスを見上げた。その視線は只、恐怖に濡れるようで。
 その中でもナーガは落ち着いていた。死こそ始まり。その理念は彼女の中では変わりない。
 だからこそ、今から言われる言葉だって愛なら仕方ないと彼女は理解できるのだろう。

「――死ぬのさ。アベルとカイン、そしてエリー。愛おしい三人で、一緒に」

 そんな心中の計画なんて聞きたく何て、なかった。


「仲間の報告書ではこの件、深緑のリュミエ殿との関係が深いとか。
 ■■■■の楽園とは、リュミエ殿の所為とは一体どういう事でござるか?」
 咲耶が告げたその言葉にクリドマスは笑う。何か面白そうに、そして、その言葉を懼れる様に紡ぐ。
「昔話をしよう。豊かな緑に覆われたさいわいの街があった。
 其処に住まうは美しく優しい姉と、穏やかで可愛らしい妹であった。
 美しく優しい姉は誰もの羨望の的であり、穏やかで可愛らしい妹は叡智に優れた。
 けれど、『夜』は何時だって訪れる――ああ、それこそが『リュミエ・フル・フォーレ』の罪だ!」
 声高に告げたその昔話をアベルは訊いたことがあるとぽつりと漏らした。それは彼が居た孤児院で母代わりであり姉代わりでもあったシスターエリーが寝物語に聞かせてくれたものだ。
「……夜は何時だって訪れる。その蜜月は過ぎ去り、愛情という花が芽吹いた時、脆くも関係性という輪郭がくっきりとしたのだ」
「それは――どういう意味だ?」
 アベルの語ったそれにフレイが不思議そうに彼を見た。クリドマスと同じ物語を、まるで『続き」を知ってるかのように彼が語るからだ。
「御伽噺ならば、こうなったでしょう。
 美しく優しい姉と穏やかで叡智に優れた可愛らしい妹。しかし、二人は同じ相手を愛してしまった。
 そして、その最愛の人は姉を選び取ったのだと。手を取り合えるのはたった一人――姉は妹が為にその手をそっと放した。
 けれど、妹は『それを知らぬ儘』――」
 そんな、寓話でよくある話を聞いて誰がリュミエ・フル・フォーレとのつながりを感じるだろうか。
「■■■■はリュミエ・フル・フォーレとその妹が禁書とした異世界からの漂流物!
 しかし、叡智に優れた妹はその書物に関心を示し、理解してしまった!」

 ――まほろばに消える思いならば砂に化した方がましだ――

「私はこの書に関心を示した彼女を始祖であり神が一人であると崇めている!
 ああ、麗しの■■■様! 楽園に立つ彼女と巡り合う為ならば私は『楽園の東側』さえも利用して見せよう!」
 その歓喜に打ち震える姿に「うえ」とフレイが声を漏らした。依然として距離を詰めようとする商人たちを『捕縛』する事で手を割かれてしまえばナーガの絶対的攻撃の中でも『魔種』としての顔を見せた男に止めを刺すにはまだ足りない。
「信じたい情報を信じるのが人っつぅけどよ……
 証明出来ないことを 信じられないんだよなぁ!」
 何が楽園で、何が『神様』で、何が真実で、何が嘘かなんて。証明できなければ全て夢幻の如く。
 夏子が商人たちを振り払うように砂塵の向こうに逃れようとするクリドマスを睨みつける。
 彼が魔種であることははっきりとわかった。そして、彼に此方と戦う意思もなく『扇動するために居た』という事だって。
「このクズヤロウッ! お前らが何をしたいのかは知らんが、まだ俺の女達(幻想種)に手出すなら容赦せんぞ」
 フレイが叫ぶ。商人たちを押し切る様に。しかし、商人たちは命をも惜しくはないとクリドマスを逃がす様にぎゅうぎゅうと特異運命座標へと詰めかけた。深緑を責める障害物を排除するようにと、フレイに掴みかかりながら。
 手を伸ばしたそれにアベルの弾丸が重なった。ひゅ、と掠めた弾丸が男の頬をする。狐のように笑った顔は――『教祖様』と同じ言葉を口にした。

「また」

 もう直ぐ、時は来るよとでも言う様に。
 捕らえた『アイさなかった』商人たちを見下ろしてナーガは「へんなの」と小さく漏らす。
 砂塵の向こう側、もうその男の姿はなかった。
 残された商人たちを捕縛する。ミルヴィは『こちらの様子伺い』であったかと汗を拭った。ぼたぼたと汗が落ちる。涼やかな風が吹くというのに、カインという少年の瞳は誰もの背に冷たい汗を伝わせたのだ。
「また――来るのかな」
 その言葉に「来るだろうね」と夏子は続ける。
「執念深い男は嫌われるもんだけどね、誰にだって」

 そして、事態は紛糾する。
 それはラサ、そのオアシスにある夢の都はネフェルスト――さあ、舞台の幕は上がった!

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでしたイレギュラーズ!
 この度はご参加ありがとうございました。

 またのご参加をお待ちしております!

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