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シナリオ詳細

アンドロメダの心臓

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 美しく、気高い。
 彼女はそういう人であったからこそ、戦場でも尚、輝いていたのだ。
 贖罪めいたその行いは赦されざるものではあったが決して否定することはできない。
 彼女は美しく、気高い儘にその刃を獣のように振るったのだ。
 凡そ時間にしたならば80秒程度の事だったのだろう。
 彼女の美しい白磁の指先を赤い色が侵食する。現実離れした女の美しい様を見て、それを止めようという気概は起こらなかった。
 そもそも、魔女裁判において魔女だと断じられた存在は火炙りの刑を受けるしかないではないか。こうして獣のように赤い色に塗れたおんなをみて、誰が彼女が無罪であるというだろうか。
 事実、その様子を至近距離で見ていた私だって彼女が行為に及んだことを認識しているではないか。
「幻滅した?」と彼女は訊いた。
 そのピアノを掻き鳴らしたかのような酷いノイズ交じりの声を聴きながら、私は首を振ったのだ。
「いいえ」


 もしも、世に蔓延った悪というものが淘汰されると言うならば『彼女』は最初に淘汰されるべき一等星のような存在だろう。『サブカルチャー』山田・雪風(p3n000024)は開口一番にそう言った。
「連続殺人鬼。そう聞いたら凶悪犯罪者で罪に処されるべきだ、と万人は応えるだろう?」
 それは間違いではなく。おおよそ倫理観のある人間ならば絶対的に『そうだ』と口をそろえる問答だった。
「俺だってそう思うよ。人を殺す人ってのはどうしようもなく理解しがたい存在だよね」
 命は平等であるべきだと提唱した者がいたとして、その命に差をつけるのは個人の感情であり倫理からは逸脱していると否定的見解を述べるのかと聞かれれば、そう提唱した存在にも『優先順位』は存在している事から大きく波を立てることはないだろうとも考えられた。
 それは『そういう』話なのだそうだ。
「鉄帝のラド・バウに所属してた元・闘士『アンドロメダ』。
 彼女が鉄帝で巷を賑わせる連続殺人。その犯人だっていう調べがついたんだ」
 アンドロメダは美しいおんななのだそうだ。美しく、気高い。細い刃を駆使して駅の喉元に刃をひたりと宛てるその動きさえも流水の如く――おんなであること、細腕であること、そして『技術はあれど圧倒的に競技には向かなかった』ことが災いした。
 女は戦いを楽しめるタイプではなく、寧ろ、戦いを好まぬ性質だったのだそうだ。
 ただ、彼女は生き抜くために闘士を生業とするしかなかったのだという。
 だからこそ向かぬ仕事に彼女は『壊れて』しまったのだろう。
「戦う事が嫌いで、そういう荒事に否定的な美しいおんなのひとだった。
 けど、彼女は『戦いを否定するため』に殺人を働いたらしい」
 命は平等にあるべきで、命に差をつけるべきではないと彼女は提唱した。
 だからこそ、人と人が傷つけあう事はいけないことで、そうしたことを生業にして見世物にするラド・バウに否定的である。
 ――だから、『闘士』が居なくなればラド・バウも閉鎖されるだろうとそう考えたのだそうだ。
 脅威になるランク上位の者は頂点を目指すうちにドロップアウトしていくだろう。しかし、闘士を目指した下級の者はどうか。有象無象のようにわらわらと増え続け、そして減る。その繰り返しだ。
 アンドロメダはその『下位』を狩った。人を傷つける事を新たに望んだ者たちを彼女は平等であるべき命を脅かす存在であると認識したのだ。
「アンドロメダにとって、闘士を目指す人々は厭うべき存在だった。
 だから、新たに闘士を目指したものを減らす為にその窓口になるべき下級ランクの人を殺した。数を減らして、減らして、そのランクがなくなればピラミッドのように裾が広がる其れが減っていくという考えで、減らして、減らして――それで、殺し続けたんだ」
 その数は、少なくとも8人。命は平等であるべきで、命を脅かす力を得ようと減らす為に。
「思想は、分からなくないんだけど、結局その為に暴力で命を刈り取るのは本末転倒だと思う。
 ……でも、それが分からない程に彼女は疲弊して壊れてしまったから」
 説得何て通じない。彼女を彼女の理論で断罪するならば、『殺すしかない』のだ。
 人殺しを頼むときにどうしようもないほどに雪風は苦悩する。
 手を汚してくれと求めることは――仕事であれど、辛い事だから。
「……ごめん、とは言わない方がいいと思って居るから。敢えて、言うなら、『気に病まないで』ほしい。これはさ、俺が情報屋として皆に頼んだ仕事なんだ」

GMコメント

 日下部です。美しい獣というのは時として人を狂わせるのです。

●成功条件
 『アンドロメダ』ネリーの討伐

●『アンドロメダ』ネリー
 その通称はアンドロメダ。美しく気高い美女であったそうです。
 本名はネリーと言い貧しい家に生まれ、殺しの技術を身に着けてラド・バウの闘士として戦い抜いてきましたが戦闘を好まず、命は傷つけるべきでないという思想を抱き続けた結果、戦う日々に疲れ、『闘士を殺して戦いを排除する』という思想に至りました。
 細剣を使用してその間合いに入り込む速度型の闘士です。連続殺人鬼となっています。

●精霊アンドロメダ
 それはネリーの心優しさに呼応していた精霊たちです。彼女が『狂ってしまった』事に反応して力を貸しています。
 精霊は不可視であり、数を確認することはできませんがネリーが死ぬまで支援し続けます。ある意味で、彼女という空っぽな『殺人鬼』を繰る人形師のような悪戯めいた存在なのでしょう。

●現場情報
 鉄帝。ラド・バウの程近い場所です。闘士を待ち伏せするように暗がりに潜んでいます。
 闘士たちが到着する前に先回りすることができます。(闘士到着までに戦闘を終了するには短期決戦をするしかありません)
 闘士たちの足止め等は状況により必要となる為対策をする方が万全かと思われます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 どうぞ、よろしくおねがいします。

  • アンドロメダの心臓完了
  • GM名日下部あやめ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月21日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ


 美しく、気高い。
 彼女はそういう人であったからこそ、戦場でも尚、輝いていたのだ。
 しかし、戦うことを捨て、人を殺める事に執着するようになってからは美しきそのこころさえ霞んだ事であろう。『拳闘者』郷田 貴道(p3p000401)にとっては『アンドロメダ』の思想は理解の外であった。
 存外、生き物とは一つに執着して生きているのだろう。アンドロメダであればその命を繋ぐことに、貴道であれば戦場にその身を置くという身も擦り切れるような闘争に。
「HAHAHA、我闘う故に我有りってな! 戦いの無い人生なんざ死んでるのと変わらねえのさ!」
「ああ。闘争は楽しい! 勝つのは気持ちいい! それが戦いの真理であろう?
 戦わぬ強さもあるが、戦士であるならかくあらねば死ぬだけよ」
 堂々と。滑らかなシルクを思わせる長髪を風に揺らしながら『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は云った。彼女がその身に纏う美貌(つよさ)は一寸たりとも霞むことはない。闘争の中で生きることこそが彼女たちの種を繁栄させるからだろう。
「けれど――彼女はそうは思えなかったのでしょう」
 闘争に身を焦がれるものもいれば、そうでないものもいる。ハンナ・シャロン(p3p007137)は刹那げに目を細める。結上げた金の髪は暗がりの中でも一等輝く月のようにゆるり、ゆるりと弧を描いた。
「途中で降りて別の道へ行く事も出来たでしょうに……悲しい事ですね。
 あの方は、自分が何故この道を歩まれたのか忘れてしまったのでしょうか」
 それは晦冥の道なれど、道しるべとなる星さえあれば彼女は惑わずに済んだのだろうか。
「例え狂っちまってようがアンドロメダとやらが自分で決めてやったことだ……。
 それを俺がどうこう言うつもりはない。…が、こうなったって時点で既にやり過ぎたんだろうな」
 彼女は美しく、気高い。その美貌は夜空彩る星が如く存在するはずだった。
『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315) はやり切れない思いを抱えながら「狂った末路、か」と告げた。
 神話におけるアンドロメダーはその美貌より怪物の生贄とされ、岩に括り付けられたのだという。彼女が、アンドロメダ――ネリーが生まれながらに戦う事を強要された様に。
「彼女にはペルセウスが通りかかることが無かったんだ」
 そう、言葉に乗せれば『満月の緋狐』ヴォルペ(p3p007135)は黒衣を靡かせ笑み描いたかんばせを変えぬ儘、暗がりを往く。
「ペルセウスが居なければ理不尽にケートスに喰われ悪意の塊となったのでしょうか?
 命は平等。美しい理念で御座いますね。美しいからこそ歪なのでございます」
 儚くも奪う闘士のいのちは護るべき尊いものではないというのか。ああ、きっと、『アンドロメダ』はその命が無くなることで平等のいのちが増えると考えているのだろう。
「夢を見ているのです。美しくも悪しき夢を――彼女は、アンドロメダの名には相応しくない」
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)は朗々と語ろうて背で揺れる翅を瞬かす。
 人の命を奪う事は平等ではないと、そう聞いた時に『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)は唇を噛み締めた。
「私だって人を傷付けたくないです。どんな依頼でも、たとえ相手が殺人鬼でも。
 でもそうしないと、傷付く人がもっと増えるって聞いちゃったら――やるしかないんです」
 ふと、その言葉にネーヴェ(p3p007199)は顔を上げて唇を噛んだ。夕の云うそれはアンドロメダそのものだ。闘いを好む物さえこの世界からいなくなれば誰もが傷つかずに済む
「アンドロメダ様……いえ、ネリー様、でしたか。
 壊れてしまった貴女を、助ける術が、わたくしには、わかりません。だから、どうか……せめて、安らかな、死を」


 暗がりに息を潜めれば、その呼吸の音は煩わしい雑音であった。獣が獲物を狙う時に気配を消すのは効率を重視するからなのだろうと幻は考える。だからこそ、己の気配を消し、より強い感情を探すのだ。今宵の獲物を探し牙を唾液で湿らせたけだものを探す為に。
 ラド・バウより市街地に向けてこっそりと使われる近道の路地。隘路なるその場所に闘士が辿り着かぬようにと世界は穴を掘った。幾許か星が瞬く時間を稼ぐ様に足を奪うそれは幾つもに点在する。
 その穴よりさらに手前に足止め用にとコネクションを使用した夕はハンナと共に立て看板を設置した。『少し事情がある』と言えば闘争に身を焦がれる国家の人間は追及することなく容易に用品を貸してくれた。そう、単純に『この路地裏』で私闘をしたいと申し出れば邪魔する者もいないのだろう。
 百合子はメカ子ロリババアに足止めの指示をして、貴道に向かって剛毅な笑みを浮かべて見せる。美貌のほどは彼女の強さを反映するのだろうが愛らしい少女のなりをした百合子がファイターたる貴道に戦いを挑む事は鉄帝でも面白いファイトとして見受けられたのだろう。
「今度はラド・バウで戦っておくれよ」と声かける者たちにヴォルペが「きっとね」と笑みを返す。
「本日は僅かな人数でと伺っております。闘士同士の拳の語らいを邪魔するのは無粋な事でしょう?」
 奇術師は美しくも謎めいた笑みを浮かべて街の人々を遠ざけ、ネリーを探した。息を潜めればけだものの気持ちになれるだろう。
「いやぁ人と殴り合うのがこの様に楽しいと知れるとは! ラド・バウ様様であるな!」
 ほうら、そうやって『言えば』一つの気配が近づいてくる。百合子のその言葉に拳を打ち合わせながら貴道が大きく笑う。その高らかな笑い声は路地に響き、『アンドロメダ』と呼ばれた女を否定するかのようだ。
「HAHAHA、我闘う故に我有りってな! 戦いの無い人生なんざ死んでるのと変わらねえのさ!」
 彼のスタンスは分かりやすいネリーと言うおんなを全否定し、同情する欠片もない。譬え彼女が美しく一輪の白百合が如き淑女であれど、誰もがその存在を肯定する聖人であれど『誰かを殺した異常事態』に色眼鏡をかけることはない。そう、あくまで貴道とネリーは悪人とそれを追う者の関係になるのだ。
「そこのお二方。どうやら、戦うのがお好きな様子……わたくしも、混ぜていただけないでしょうか?」
 穏やかに告げたネーヴェに貴道は百合子を見遣った後、腹を抱えて笑った。
「HAHAHA、胸が高鳴るじゃねえか。これからオーディエンスの前でファッキンシットどもを殴り飛ばせるんだ、楽しくないわけがねえ、そうだろ?」
 ――近づいてくる。幻が顔を上げる。闘いを助長する、進んで他人を傷つける、これから人を傷つけに行く、それは彼女の標的たり得る存在である事を教えているのだから。
 夜闇を割く様に美しく澄んだ刃が貴道の『居た』場所を裂いた。ひゅ、と音を立てた風切音を聞きながら世界は己が生命力を犠牲にしながら仲間達を大きく強化する。
「彼女が――」
 そして、彼女と『共に或る』のが、アンドロメダか。


 到底、人など殺める事が出来なく思えるそのおんなの体は酷く華奢であった。
「あなた」と形の良い唇が形作った事を貴道は至近距離で確認する。そうか、彼女はこちらをターゲットと認識したのか。傀儡の如く刃を振るい上げた彼女の背後には揺らめく光が見えると世界は云った。
「わたくし、ネーヴェと申します。貴女も手合わせの相手に、なって下さる?」
 まるで旧友に挨拶をするかの如く、乙女はステップを踏んだ。ひらりと身に纏う衣が揺れ動き、ネーヴェはネリーと距離詰める。敏捷性をその身に宿した彼女は真直ぐに傀儡の乙女を見据えた。
 奇襲を仕掛けるが如く、ハンナはFORを振り上げた。剣にも魔にも愛される事なき自身の身。宿る悠久のいのちと不屈の魂を刮目せよと仰ぎたてる。
(きっと、この道に進んだ理由を彼女は分かっておられるのでしょう――けれど、)
 ハンナの結上げた髪がゆるりと揺れる。振り仰いだネリーの傍より星々が煌めけばそれがアンドロメダが放つものだと理解できた。
「……分かっていて、止まれないのでしょうか。ならば、止めてさしあげましょう。
 お優しいネリ―様。これ以上貴女の手を血で染めさせはいたしません!」
 ネリーの瞳の僅かな光が揺らぐ。嗚呼、それを見ればと幻は唇を噛み締める。
 貴女を殺したくはない、だなんて。ラブ・ロマンスで幾度でも見た事があると幻は自嘲した。けれど、優しくも気高い乙女のいのちの終がこんな場所であると認める事が出来るだろうか。
「闘士の命は平等ではないのですか?
 貴女は只、闘士も、闘士という自分も嫌いだったから、殺そうとしたのではないですか?」
 ぴたり、と細剣が止まる。彼女の赤であろうか、ぼたりと落ちたそれを呆然と見下ろしたネリーは「ええ」と掠れた声を出した。
「八つ当たりだわ」
「そう。そうでしょう。貴女の意見を鉄帝で通すならば、下級闘士ではなく、ガジェルド様のような最高級のプレイヤーを倒すべきだったのではないですか。貴女は今、蟻を潰す巨象と同じです」
 ネリーは唇を噛んで「無様に巨象に踏まれて死ぬことになるのはこちらよ」と幻に囁いた。
 この国家は闘争に満ちている。より強き力を身につけ上り詰めた物こそが統治者の椅子に座れるのだから――『嗤ってしまう』のだ。
「ふふ――」
「ネリー様……?」
 傀儡の様な乙女が跳ね上がる。周囲よりアンドロメダの放つ星々が彼女の刃の如く降り注いだ。
「さあて、今日も守ろうかお姫さま」
 その言葉は軽口が如く。ヴォルペは『今から人など殺す事を露も知らぬかのように』気安くもネリーへと刃を振るう。美しき月の輪郭を振り下ろせば、惧れの如く速度の乗せた刃が応酬される。
 その一撃を受け止めてヒュウ、と貴道の唇から声が漏れた。嗚呼、こうして闘争の中に身を置く事の何たるか。この血潮滾る素晴らしさは彼女には理解しがたいものなのだろう。
 百合子と貴道が焦がれる衝動をぶつける様にしてネリーの体が強かに路地にぶつかり軋む。
「あ、」と漏れた声は確かにか弱い乙女のものだが、その身体は意思に反するように傀儡のようにまたも動いた。
 0.0001%解放の解放はたった一つ、貴道の肉体を前へ前へと進ませる一打だ。ネリーの体がその衝撃に吹き飛ばされて口端から赤が滴る其れを見てはいられないとでも言う様に幻が唇を噛み締める。
「心が壊れるほど葛藤した優しいレディ。
 君のその美しさは誇れるが、脱け殻を好きにさせるのは頂けない」
 ヴォルペは細腕より繰り出された剣戟の重さに、これがラド・バウで命を削った闘士かと認識した。そして、そんな情報は必要もないと言う様にかなぐり捨ててネリーを見遣る。
「もう十分だろう? 君が望むのならば、深く静かな眠りを捧げよう」
 そうだ、彼女は闘士になりきれなかった屑の星なのだ。煌めく事さえ許されなかった、一つの星。
「私、精霊たちに伝えなければいけない事があると思うのです!
 今ネリーさんのやっている事は、本来のネリーさんの本当の気持ちに反してるって!
 だからもう止めてって、言わなくちゃ!」
 唇を震わせる。世界が干渉しようとその間口を広げる様にじわりじわりと操作した精霊たちの意識。夕は声を張り上げる。こんな『悲しい事』をきっとアンドロメダと呼ばれたおんなは臨んでいなかった。
 傀儡となって迄人を殺す事など、心優しき彼女が望んでいる訳もなかったと夕は言葉を続ける。
「けれど」
 そう、ネリーは口を開いた。幻に笑みを溢し、一等美しく微笑んだ屑の星。
「遅いの」
 繰り返し叩きつけられた攻撃は死を目前にした乙女のやわな身体を包み込む。百合子はその様子を美しき闘士アンドロメダと呼ぶには相応しくないと感じ取った。
「狂ったら何しても同情されるなんて大間違いなのさ。
 事情はどうあれ、行き着いた先がシリアルキラーなら世話ないぜ」
「ええ」
 だから、ここに立って。だから、ここで殺すのだ。
 アンドロメダがヴォルペへ一撃叩きつけろとネリーの体を付き動かした。その導線を遮るように動いたネーヴェが行けないと首を振る。
 真直ぐ。その直線状に立ちながらハンナは刃を振り翳し、唇を噛んだ。嗚呼、止まらない。
「吾の拳は時限の拳であるが、勝つための拳である――故に壊れぬ、貴女には負けぬ」
 勝利を活動するように百合子は静かに言った。その凍て付く眼差しには確かな意思が乗せられる。
 乙女の身が前へ、前へと進んだ。セーラー服が緩やかに軌跡を描き、その拳を届かせる。
「皆、貴女を美しいと賛美するばかりだったのであろうな。
 退廃は何れ崩れ醜く朽ちる――食い止めるものがいなければ、な。吾ですら居たというのに、貴女には居なかったのか」
 後ろ髪を引くものは沢山あった。
 そこに立ったよるのゆめ。美しき幻想の言葉。
 護りたいと願った幼き笑顔。共に戦おうと笑ったひとびと。
 それから――それから。
「美しくなければ星は輝けないの」
「然し、美しさなどまほろばよ。何れは朽ちて霞みゆく事さえ気づけぬならば」
 その手を握る誰かが居ればよかったのに、と。百合子は地に崩れる女の腕を引き留める様に握りしめた。


 祈ることは柄じゃない、けれど、今から死に逝く人がいるならば目を伏せる事だってしてもいいだろう。
 世界は云う。「戻れる道は無かったんだな」と。
 彼女を救うためにはその命を刈り取るしかなかったことをネーヴェは悔やんだ。美しい女の肢体が投げ出され虚空を眺めている。
 頬についた泥を拭いながらハンナは「もう、いいのですよ」と囁いた。そう言ってくれる人が、彼女には居なかった。だからだろうか、きょとりとした後に彼女の美貌は幼さを宿す。
「ネリー様……」
 幻は乙女の陶器の様なつるりとした肌を眺めた。美しい美貌は彼女がアンドロメダであろうとした証か。生きるだけで彼女はきっと『アンドロメダ』になろうとしてしまう。
 唇を噛み締め乍ら夕は戦わなくていいと何度も繰り返した。止めてくれる人がいれば。その手を握り返してくれる人が居れば。もういいんだよ、と声をかけてくれる人がいたなら――
 ――美しく、気高い。
 彼女はそういう人であったからこそ、泥に塗れ地に伏せている自分に納得は出来なかった。
「ふ、ふ」
 唇から漏れた空音は、ゆっくりと夜闇に溶けた。百合子をぎょろりとその瞳が追い掛ける。一等輝くアンドロメダ。その絶世の美貌は脆く瓦礫のように朽ちていくことを知りながらアンドロメダは――ネリーは云った。
「止めて下さるのね」
 白魚の指先が伸ばされて、星を臨む。
 ぱたりと、それが落ちた時に遠い空に一つ、きらりと輝く星があった。
 そうだ、彼女は空に還ったのだ。

成否

成功

MVP

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

状態異常

なし

あとがき

 まずはお疲れさまでした。
 アンドロメダの心臓は、きっと彼女を生かすために狂ってしまったのでしょう。
 MVPは気高くも強い貴女に。貴女が止めてくれるべき相手なのですね。

 また、お会いできますことを楽しみにしております。

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