PandoraPartyProject

シナリオ詳細

コズミックトラベラーズ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●練達大殺界
 ダエバ、という町がある。
 練達階層都市の下層域に位置し、21世紀地球のイケブクロという町にどこか雰囲気が似ていた。
 そんな町の一角。ブランク研究所という表札のついた、テナントビル二階の一室へ……イレギュラーズたちは訪れていた。
 狭苦しい階段の先に古びたスチールドア。中へ入るとパーティションパネルによって仕切られた小部屋があった。
 向かい合わせの黒い合成革のソファと、ガラステーブル。そして壁際に置かれた棚。
 部屋にはコーヒー豆を煎ったような香りがただよい、静かに古いロックミュージックのレコード音声が流れている。
 研究所というより、私立探偵事務所といった趣の部屋であった。
「よく来てくれた。遠かったろう?」
 部屋の奥。つまりはパーティションの裏から、白衣をきた男と、車いすにのった女が現われた。
 女はまるで喪に服したような黒尽くめで、顔をベールに隠している。彼女の車いすを押す形で、白衣の男はイレギュラーズたちに問いかけた。
 こちらはなんというか、ひどく印象の薄い男だった。どこにでもいるような、どこかで会ったような、しかし知らないような顔をしている。
「座ってくれ。コーヒーは飲むほうか?」

●ネジレモノ
「依頼書にかいたと思うが、君たちに解決して貰いたいのは危険なクリーチャーの発見と破壊だ。探索と殲滅と表現しても構わない」
 人数分のコーヒーを配り、腰を据えて話し始めた彼は『ブランク』と名乗った。この研究所(?)の主ということだろう。
「彼らは『ネジレモノ』といって、この町で発見されたクリーチャーだ。
 人間に紛れて生活し、時折人間を殺害しては入れ替わろうとする。
 蒐囚壁財団という組織と協力して全個体を拘束しその仕組みを研究すべく施設に送った……筈だったが、途中で脱走してしまった。
 ある慈善団体が『クリーチャーにも人権を』と主張して攻撃してきたためなんだが……迷惑な話だ。財団側は攻撃への防御と撃退に手を焼いているし、私はここから動けない。実際、ネジレモノについて詳しいわけでもないのでね。
 そこで、君たちに奴らの居場所を探り出し、そして殲滅して貰いたい」
 一度拘束したものを殲滅するという方針の切り替えには、やはり事情があるらしく、かいつまんで説明してくれた。
 本筋から離れすぎるため割愛するが、研究している余裕が無くなったとか、保持しているだけで例の慈善団体が攻撃してくるだとかだ。
「放っておけば大事件に発展しかねないクリーチャーだ。できれば2~3日のうちに解決してもらいたい。
 簡単な聞き込みが出来そうなアテは紹介できるし、インターネットを使いたいなら私のタブレットPCを貸そう。
 資金的なところは……そうだな、必要であれば都合できるが、やり過ぎないでくれ。以上だ。後は頼む」

GMコメント

■成功条件:ネジレモノを発見、殲滅すること
 練達の下層街ダエバにて拘束していた危険な存在『ネジレモノ』が逃走、潜伏しています。
 街は封鎖され出入りの出来ない状態になっているため、外には出ていないはず。対象を見つけ出し、そして戦闘による確実な殲滅を行ないましょう。

 ネジレモノを認識している間はランダムな認識障害が発生し、相手の言葉が理解できなかったり、相手の顔を理解できなかったりすることがありますが、そういった人間自体が珍しいため情報を沢山効率的に集めれば居場所を見つけることができるでしょう。

■探索パート
 ネジレモノを見つけるため、イレギュラーズたちは練達のある町を舞台に2~3日間の探索を行ないます。
 探索判定はポイント制で行ない、8人全員で『15ポイント』以上を獲得すれば探索成功となり、対象を発見できます。

・聞き込みをしまくる:1~2ポイント
 その辺の人たちにとにかく聞き込みをします。必要スキルはありません。
 彼らは持っている情報がそもそも少ないので、色仕掛けや賄賂その他のスキルを用いてもこれ以上ポイントが増えません

・情報通を見つけ出し、情報を得る:2~5ポイント
 町のおまわりさんや権力者にワタリをつけ、情報を獲得します。
 普通の人よりずっと大きな情報を持っていますが、ふつうは教えてくれません。
 どうしても教えたくなるような手段を行使しましょう。
 偉い人にコネ等を使って話し合いの席を設けさせ、更に適切なスキルを用いて情報を引き出すともっと効果的です。

・デジタル情報収集:2~5ポイント
 対象がいそうな場所を絞り込むために膨大なインターネット空間から情報を引き出します。
 情報検索があれば検索速度が上がり、医療、動物、モンスター知識、科学、化学、薬学の知識も若干のボーナス効果があります。
 戦略眼を持っている場合この分野についている時だけボーナスが入ります。

・推理する:-5~+5ポイント
 そのものズバリ推理します。モロにプレイヤーパワーを使う上、専念した上にあまりに的外れすぎる場合探索ポイントが大幅に減るのであまりお勧めしません。
 この行動だけ特別に、他の行動をとっている『ついで』に使うことができます。
 情報収集の途中でちょこっとだけ推理をする、みたいな使い方が一番リスクが少ないでしょう。

※もしポイントをそこまで獲得できなかった場合、発見が遅れおおごとになった段階で発見することになるでしょう。
 対象は大幅に強化され、戦闘難易度が大幅にアップします。

■戦闘パート
 ネジレモノを見つけ出したその後での行動になります。
 詳しい事情は省きますが、全員集合しており尚且つ戦闘準備万全の状態でバトルが始まります。
 場所は主に屋内。広大ってわけではないが無いがレンジ4スキルもそこそこ使えるくらいの現場です。

・ネジレモノ×10
 ノーマルな人間敵と考えてください。
 武装がどういったものかは分からないので、どんな敵が来てもいいように仲間内での連係プレーや役割分担をきちんとしておくとよいでしょう。

■■■アドリブ度■■■
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。

  • コズミックトラベラーズ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年09月15日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
セルティ・ジーヴェン(p3p007265)
トンファー最強説
遠野・マヤ(p3p007463)
ヲタ活

リプレイ

●ファーストフードショップ『マイクドナルド』にて
 雑踏の向こう側は聞こえない。
 日常の向こう側は見えない。
 どれだけ目をこらし耳を澄まして生きていても、世界には知らないことや知ることの出来ないこと、そして知るべきでないことがあふれていた。
 『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)がハンバーガーをかじりながらめくる資料は、そんな中にぽつんと転がった『知るべきでないこと』に関するものだった。
「へえ……『清浄楽土慈善財団』っていうんですね、ネジレモノの輸送車を襲撃したっていう慈善団体。過激派ですねー」
 資料の一部を開いたまま、トレーごと反転させて向かいの『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)へと突き出す。
 ちまちまとフライドポテトを消費していたメリルナートは、手を止めて資料の一文を見つめた。
 『恵まれない人々のために』。
 世界には賢い者、善良な者、正しい者がそれぞれ存在し、三つは別々の軸にある。
 どうやらその慈善団体とやらは、愚かで善良で間違った存在……であるらしい。
「なんだか不思議な依頼ですことー。依頼者も、中身も」

 隣のテーブルでは、ネジレモノに関する僅かな資料を『戦神』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がぱらぱらとめくっていた。口にくわえたストローからコーラ飲料を吸い上げつつ、読み終えた資料をぽんと放り出す。
「他の人に成り代わるって、なんか昔そんなエイリアンと戦った気がするわ。
 そういうのは、戦うのめんどくさいのよねー。疑わしきはバッサリはダメかしら」
「町ごと燃やしていいんなら、それも一つの手かもなァ」
 椅子の背もたれによりかかり、腕組みをして窓の外をながめていた『雨夜の惨劇』カイト(p3p007128)。
 冗談めいた笑顔を作ると、サングラスの内側だけで黒い光をみせた。
「簡単に入れ替わって『本物』になろうとするだなんて、羨ましくて『殺りたく』なっちまうじゃねェの」
 あまりに小さな声で呟いたがために、ハンバーガーショップの日常的喧噪にかき消えていく。
 自分の中に存在する人格になにか伝えるべくトントンとこめかみを叩くカイト。窓の外を馬車と電気自動車がすれ違っていく。

 二人がけの小さなテーブルに、アップルパイが二つ。
 背もたれの無いカウンターチェアに腰掛けて、二人の女性が向かい合っていた。
 白いスーツとカスタムパーツで身体の殆どを覆ったアンドロイド、『禁機兵』セルティ・ジーヴェン(p3p007265)。
 黒いジャケットとベルトで斜めがけした刀を装備した少女、『特異運命座標』遠野・マヤ(p3p007463)。
 黙ってアップルパイの表面をじっと見つめ続けるセルティにどう声をかけるべきか。困った末にスマホを取り出しなんとなくツイートアプリを立ち上げてしまう。
 しまった、ところで。
「マヤ、といいましたね」
「えっ!? あっ、う、うん? ――そうね」
 ひとしきり慌ててスマホをお手玉した後、何事も無かったかのように前髪を整えてキリッとしてみせた。
「お互いこれがローレットで受ける初めての依頼になりますが、頑張っていきましょう」
「そうね。頑張りましょう」
 きり、と言い切ってから。
 その後の会話が一切続かないことに気づいて、マヤは頬に汗を流した。
 スマホをそっと、手に取る。

 そんな彼女たちの様子をのんびりと眺めていた『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)。
 空になったコーヒーのマグカップを店員に翳しおかわりの合図を出した。
 やがてポットをもった店員がやってきて、リュグナー……と、その向かいでじっと硬く腕組みをしていた『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)のカップにコーヒーを注いで去って行った。
「人捜し、か。最近何でも屋として活動していなかったからな。ここらでこういう仕事を受けるのも悪くない」
「ハハハ。『人に成り代わる人』を探すとは、おもしろい仕事もあったものだ。
 それに仕事を受けたのが情報屋と何でも屋ときている。
 三文小説のような未来が期待できるな?」
 肩をちいさくすくめ、おどけてみせるリュグナー。
 ハロルドはやっとコーヒーカップを手に取り、『そんな面倒な未来があってたまるか』と言って口をつけた。
 どうやらまだだいぶ熱かったらしいが、気合いで飲み干した。
 空のカップをトレーに置き、席を立つハロルド。
「もう始めるのか」
「ああ。早い方がいい」
 7インチタブレットPCを懐から取り出し、翳してみせる。
「何かあったら連絡しろ。この町の中ならつながるらしい」
「便利なのだか、不便なのだか」
 リュグナーは同じようにタブレットを翳し、そして同じように席を立った。

 イレギュラーズ8人はそれぞれ別々に、別々の場所へ、それぞれのやり方で情報を集め始めた。

●ピースを拾い集めて
 アスファルト舗装された駐車場の端に、車座に集まる集団があった。
 身なりの悪さからそれがホームレスの集団であることが分かるが、まるで最初からそのコミュニティの一員であったかのごとく秋奈も加わっていた。
「人が変わったようになった奴だって?」
「そうなのよ。知らない?」
 ホームレスたちはお互いの顔を見合わせ、小さく頷きあった。
「俺らはこういう身分だからよ、お互いの過去には触らねえのがルールだが、顔や人柄はよーく知り合ってるんだよ。やべえ時には助け合えるようにな。けど最近、『パラボナ』が顔を見せなくなっちまった。新しい仕事や家を見つけたって思ってたんだが……」
 おっと、とホームレスが口に手を当て黙った。
 それ以上はおいそれと話せないことであるらしい。
 やがてやってきたカイトが、手に提げたビニール袋を翳してみせる。
「どーしたジーサン、酒が切れて忘れちまったかァ?」
「お、そうそう」
 カイトが袋から取り出した缶ビールをホームレスに手渡すと、秋奈に目で合図を送った。
「その『パラボナ』ってのは、ここにいたホームレスなんだよな?」
「まあな。けど、前に見たんだよ。クリーニングされたスーツなんか着てよ」
「へえ……そいつぁまた……」
 『メモれ』の合図を送るカイト。秋奈はタブレットPCを取り出し、画面の前で手を振ったり声をかけたりしたあと地面に向けてブンと叩き付けた。
 当然砕け散った。
「…………え、何してんだ?」
「トランスファーってこうやって開かない?」
「トラ……何……?」
「もう! ディメンションコネクトを電話ってよぶ世代のツールなんかわかんないわよ! やって、かわりに!」
「俺はアンタが何言ってんのかわかんねェ」
 仕方ねえなと言って自分のタブレットを取り出してメモをとりはじめるカイト。
「しかし、ホームレスねぇ……そいつを見たって場所、わかるか?」

 八番通り。急に身なりが整ったというホームレスを見かけた場所である。
 メリルナートは小ぶりな旅行鞄をさげ、通りかかるタクシーに手を上げた。
 黄色い地球80年代タイプの自動車が目の前に停車し、ドアが開く。
 メリルナートは後部座席――には座らず、車両を回り込んで助手席のドアをあけ、運転手の隣に座った。
「……お客さん?」
「近くを適当に流して貰えますかしらー」
 この町で流通しているローカル貨幣をそれなりの額だけ差し出すと、メリルナートはシートベルトをひいた。
 貨幣を受け取り、ポケットにしまう運転手。
 走り出す車の中で、メリルナートの膝や豊かな胸元を横目にみた。
「別に、ナンパをしようってわけじゃあないんでしょう」
「ええ、実はー……」
 …………。
 それから、暫く後。
 タクシーが止まり、メリルナートが車を降りる。
 走り去る車に手を振って見送り、背後の酒場へと振り返った。
 その名も――。

 クラブ『エクステンド』。
 いわゆる歓楽街の一角にあり、過剰に高い酒を飲む代わりに『たまたま』隣で美女が一緒に酒を飲んでくれるというギリギリなお店であった。
 この町に風営法があるかどうかはさておいて、一定のモラルやルールがあるからこそ存在する欲望の境界が、このクラブで満たされていた。
 夕は大胆な赤いドレスを纏い、男の隣で静かに水割りを作っている。
「ごめんなさいね。この子お酒ダメなのよ」
 そんな風に誘導してくれているのは、夕がこのクラブで働くにあたってワタリをつけてくれたホステスだった。精霊種の女性で素性はよくわからないが、この際素性はなんだっていい。
 今夕と二人で挟み込んでいるグレースーツに山高帽の男性から、必要な情報を引き出せるならば。
「株式会社におつとめなのよ」
「えー! すごいですー!」
 ポンポン褒めて酒を飲ませ、甘やかしたり甘えたりを上手に使い分ける夕。要領のいい後輩気質ゆえか、夕に誘導されるまま男は話し始めた。
 男の所属は『L&S株式会社』。
 異常存在(科学や魔法やギフトでは説明のつかない特別異常なもの)を貴族に販売する会社らしい。
 彼らは『ネジレモノ』についても知っており、それらを『商品』にすべく追っていた。
 その情報を……。

「酒に酔ってうっかり漏らした、と」
 テキストデータを読み込みながら、ハロルドは深く息をついた。
 酒と女は恐いな、と思う一方、大事な商品情報を漏らしてしまう社員を抱えてかわいそうにな、とも思った。勿論、同情で手がぬるくなることなどない。
 秋奈やカイトの聞き込み情報からエリアを絞り込み、メリルナートや夕の話術や魅力によってピンポイントな情報を追う人間を見つけ出した。
「『ネジレモノ』の居場所を見つけ出すことについては好都合だが、ライバルが別に居るというのは歓迎できない状況だな。ここからはまさに早い者勝ちということになる」
 場所はブランク研究所応接室……と言う名の、あまり広くないスペース。
 ハロルドはガラステーブルにタブレットPCを立てると、膝に置いた無線キーボードを叩き始めた。
 粉砕されたタブレットPCを見てうなだれる依頼人のブランクの姿があったが、あえてスルーした。
 コラテラルダメージとまではいわないが、必要経費だと思ってほしい。
「混沌にもインターネットはあるらしいが、特に普及が進んでいるのがここ練達だ。
 まあ、IRCだかなんだか、別の通信手段がメインの連中もいるらしいが……少なくともこの町では一般的に使われてる。
 ――セルティ、あれを出してくれ」
「はい」
 セルティは耳の端末から直接PCを無線操作すると、黒画面にテキストが大量に並ぶウィンドウを表示させた。
「町の住人が日常的な『つぶやき』を行なうツールですが、フォロー規模が小さいと他者に関する情報を述べてしまうケースが多いようです。
 勿論一つ一つは小さな情報ですが、これらを集め高度な解析にかけた場合……」
 新たに開くウィンドウ。ハロルドは深く頷いた。
「『チェンジリング』は対象が年をとっているほど発覚しやすい。
 その違和感は周囲の人間に蓄積し、発散するためにこういった場所にはき出す。
 『ネジレモノ』がこの町に潜伏しているとするなら、そうした情報の中心地にいるはずだ。マヤ、例の解析は済んだか」
「んー、まって、今レスしてるとこだから」
 マヤはスマホを手に、高速フリック入力でなにやら他人と会話しているようだった。
 不思議そうに見る仲間に、スマホの画面を翳してみせる。
「不用意な発言にも限度があるでしょ。
 けど鍵アカならもっとクリティカルな情報が集まりやすいし、なにより練達はホームなの。フォロワーも割と多いしオカクラグループとか廃クラスタとかにも知り……ンッン!」
 早口になりかけていたマヤは強く咳払いし、いつの間にかかかり始めたなんだか珍妙なBGMを手を振ってかき消した。
「これまでの情報と照らし合わせて、ネジレモノのアジトはおそらくここ。
 だけど……立ち入りの許可をとらないと難しいかも」
 表示されたテキストには、こうあった。
 『旧エピメテウスラボ跡地』。

 革張りのソファに腰掛ける、リュグナー。
 向かいには、金色の杖をつく男が二人のボディーガードに守られるようにして座っている。
「楽にしてくれたまえ。ただし、『例の眼』を一瞬でも用いたら君をこの場で殺す」
「……クク」
 リュグナーは両手を挙げ、小さく首を振ってみせた。
 相手は彼の隠し球を知っている。それは、それだけ情報の信頼性が高いということでもあるのだ。
 なにより、リュグナーは『隠し球ごとき』に頼って戦術を組み立てるような愚かさでここに座ってなどいない。
 チェスの駒を動かすように、彼はここまで『仲間たちが集めてくれた情報』を交渉材料にし、必要な駒――『旧エピメテウスラボ跡地』の所在と立ち入りに関する黙認を勝ち取るため、動き出した。

 交渉を例えるなら、カードゲームが近い。
 設定された勝利条件に対し、こちらがどれだけコストを支払うか。
 各コストカードは時間や状況に応じて増減し、手持ちのカードも限られている。
 支払い方を誤れば、勝利条件をまるで満たせないままコストだけを吸い上げられるなんてこともザラだ。
 そのきわめて高次元なゲームに。
「ありがとう。これは約束の『情報料』だ」
 データの入ったメモリーチップをテーブルに置き、リュグナーは立ち上がった。
 ポケットからスマートホンを取り出す。
「我だ。指定した場所に今すぐ集合をかけるのだ。『ネジレモノ』を潰す」

●『旧エピメテウスラボ跡地』
 表面をハンバーガーショップに偽装した、それは地下施設であった。
 従業員入り口を特殊な方法で開くことで使用が可能になる地下エレベーター。
 その先に、広大な部屋があった。
 真っ白な壁は照明の少なさゆえに薄暗く、古さ故に黒ずみ、さながら乾ききった下水道のようだったが……。
「――■■■■■■、■■■!?」
 顔にピクセル単位のカラーモザイクがかかったような異常な集団が、こちらを振り返った。
「戦神が一騎、茶屋ヶ坂アキナ! 有象無象が赦しても、私の緋剣は赦しはしないわ!」
 速攻、である。
 相手が懐から銃を出すより早く、秋奈は距離を詰め『ネジレモノ』の首を刀ではねた。
 更に。
「どんだけ俺が『本物』になりたくてもなれなかったのに、簡単になられちゃ『困る』ンだよ」
 カイトが両手のひらを翳すような姿勢から拡散レーザーを発射。
 『ネジレモノ』が壁にかけた武器をとろうとした瞬間、武器と対象の手だけを正確に破壊した。
「片づけるぞ、一気にだ」
「その方がよさそうですわー」
 リュグナーとメリルナートは同時に術を発動。
 開放したリュグナーの眼が、メリルナートの唱えた呪歌が、逃げだそうと走るネジレモノたちを爆撃した。
 剣を抜き、目を見開いて叫ぶハロルド。
「はははっ! おら、死にたい奴からかかってこいよ!」
 聖剣に秘められた力を解放し、『ネジレモノ』へと斬りかかる。
 ぶつかり合う集団。
 だがそんな中、部屋を回り込むことでエレベーターへと逃げ込もうとした二人組がいた。
「逃がすわけないでしょ」
 抜刀し、肩にかけていた鞘を放り投げるマヤ。
 ネジレモノはむき出しの日本刀を振りかざし、マヤめがけて襲いかかる。
(一意専心――!)
 鳴り響く三味線と和太鼓の音楽。
 間合いギリギリ。
 相手の斬撃が繰り出されるその途中で、マヤは超高速で刀を振り抜き、相手の首から胸にかけてを切り裂いた。
「■■■■……!!」
 もうひとりの『ネジレモノ』が拳銃を構えるが、セルティが間に割り込んで両腕をクロス。
 腕部に装着されたビームトンファーが展開し、飛来した弾丸をはじき、流れるような動きで急速接近。
 豪快なスピンキックにより相手を壁際まで蹴り飛ばした。
「二人とも、伏せてください!」
 叫ぶ夕。
 反射的に伏せたマヤとセルティの頭上を、夕の放った精霊の光がぐるりと切り裂いていった。
 つい先程まで戦っていた『ネジレモノ』たちが、真っ二つになって崩れ落ちる。
「ふう……なんとか」

 後日談、というよりは補足になるだろうか。
 戦いは終わり、撤収しようとしていた頃。
 夕は床に落ちていたプレートを拾い上げた。
 『恵まれない人々のために』と書かれたプレートには、『清浄楽土慈善財団』のロゴが刻まれている。
「エピメテウスラボという団体はずっと前に解散しましたが、才能ある人々はあちこちの団体に別々に吸収されていました。L&S株式会社、アンチオカルト連合、蒐囚壁財団、能亜財団……そして清浄楽土慈善財団。
 この施設は、そうして転用された場所だったんです。
 彼らは『ネジレモノ』を保護したつもりが、成り代わる土台にされてしまったんですね……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!

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