シナリオ詳細
<果ての迷宮>メイズオブレイズメタル
オープニング
●果てなきその果てへ
『果ての迷宮』。幻想王都メフ・メフィートの中心に鎮座するそれは、幻想建国者『勇者王』が踏破を悲願とした存在である。
その夢は今なお受け継がれ、当代はイレギュラーズと『総隊長』ペリカ・ロジィーアンによって探索が進められている。
当然ながら、『幻想の悲願』に貢献するということはそのまま『幻想での発言権』を強くするということでもある。
大貴族達の思惑が交錯する中、イレギュラーズは『未踏領域』へと足を踏み入れる。
●鉄の棺桶、無限の命
『探索者の鍵』によりその地へ降り立った一行の前に現れたのは、四方が継ぎ接ぎの鉄で構成された回廊だった。中央には3m*2m*1m程度の直方体が3つ、壁には小さな立方体が数多、配置されている。
そして、入り口中央には踏めとばかりに大きく張り出した『START』と書かれたパネル。
以前も、機械仕掛けの敵を制圧して先へ進むフロアは存在した。だが、地球世界からの旅人、或いは科学が発展した世界の住人なら、明らかな文明レベルの違いを体感したであろう。……非現実的ですらある。
「どうやら、一番奥の鉄の棺桶3つのどれか、その後ろに次のフロアへの階段が隠れてるみたいだねぃ」
『総隊長』ペリカ・ロジィーアンは周囲を眺めると何事かメモに書き連ね、情報を整理していく。
彼女の言葉に従うなら、奥の3つも、周囲の立方体も、全て『棺桶』に当たるようだ。
つまり、全てに何かが埋葬されている。もしくは安置されている。なら、これらすべてを破壊すればなんとかなるのか?
「それがそうもいかなさそうなんだよねぃ。棺桶を破壊するにはその『中身』を破壊しなきゃならない。
奥の棺桶のサイズからして、あれがフロアボスなのは間違いないんだわさ。あの棺桶に書いてある数字は『1』。多分にこれがフロアボスの出現回数だわさ。
つまり、その周囲の棺桶は――」
『≒∞』。つまり、ほぼ無尽蔵に出現するということになる。流石に、ノータイムでのリポップはないだろうが……対策なくば、ジリ貧になるということだろう。
「周囲の棺桶も、中身が消えた時に破壊すれば壊せるはずだわさ。雑魚の数は割と目減りさせられると思って問題ないねぃ」
棺桶を壊せば再出現はあり得ない。四方八方に攻撃をばらまく雑魚対策がいれば、大分楽ではある……そういうことか。
「あとはフロアボスだけど……多分、アレは三位一体ってヤツだねぃ。棺桶の数字の横、見えるかい?」
一同はペリカの言葉を聞き、棺桶をじっと確認した。A~Cのアルファベット。可動式らしく、スロットよろしく文字盤が変化すると思われる。コレが意味するのは、ひとつ。
「つまり、あの棺桶から出てくるボスは3つの体を組み替えて色々してくる、ってことだわさ。雑魚に手間取ってるとちょっと面倒かもねぃ」
それを地球出身の旅人辺りが聞いたら、どれだけ目を輝かせただろうか……ともあれ、厄介な敵であることは間違いなさそうだ。
一同は覚悟と準備を決めた上で、『START』のパネルを踏むことになる。
- <果ての迷宮>メイズオブレイズメタルLv:7以上、名声:幻想30以上完了
- GM名ふみの
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年09月14日 23時10分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●無限の可能性
「ここが、果ての迷宮……。これからどんな冒険が始まるんだろう!」
『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は、降り立った迷宮の雰囲気に目を輝かせつつ、あちらこちらに視線を巡らせる。
果ての迷宮への挑戦は初めてだが、恐らく彼女は仲間から幾つかの情報は見聞きしている筈である。そして、過去の情報が全く役に立たないことも。
だからこれは、彼女に限らず探索者全てに対し『新しい冒険』だ。その言葉の意味を知っているがゆえに、彼女の好奇心はいや増しているのである。
「ここ……本当に地下なんですか?別の世界とかにつながってたりしません?」
『こそどろ』エマ(p3p000257)は、周囲を覆う無骨な質感と数えるのも億劫になるほどの棺桶状の物体に、思わず深々とため息を吐いた。彼女とて、かなり迷宮探索に精を出している部類だとは思うが……幻想的とすら言えるフロアが多かったところにこれだ。疑うなというのは無理があろう。
「いやぁ、流石にこれは初めて見る代物だけど……迷宮だからねぃ」
対するペリカは、当たり前のように受け容れている。適応力が高すぎる気もするが、そうでなければ迷宮探索など務まるまい。
驚くほどの鉄(あるいは別の金属)を用いたフロアは、光源が見当たらないのに全体的にほの明るく照らされ、活動には支障がない様子。幾何学的な模様やモチーフが所狭しと並ぶ部屋は、あちらこちらを触ったり調べたりして回りたい気持ちに駆られる……のだが、中央部にでかでかと用意された『START』の幻想古代文字のパネルだけは、触ってはいけないと強く感じさせた。理解させた、と言う方が正しいかもしれない。
「面白そうな部屋だな! ……触りたくなるよな、こういうの!」
『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)は、並べられた棺桶やでかいボタンに対し、芽を輝かせながら仲間達に問いかけた。
彼の気持ちは、仲間達も承知している筈である。『混沌』では練達以外で目にすることもかなわない技術の坩堝。カイトにとっては未知の塊と言える空間。探究心をくすぐられるのは当然だ。
……当然だからこそ、中央のボタン以外も余り手出ししないほうがいいのだが。
「久々のダンジョンだーッ! ……って思ったんだけど謎解きはないのか」
『観光客』アト・サイン(p3p001394)は迷宮に到着するなり、勢いよく叫ぶ。だが、直後にペリカから受けた説明に対し、見る間に顔を曇らせた。純粋に勝利のみが前へ進む道。圧倒的力技の領域。『観光客』の戦い方、その見せ所である。
「あら、ちょっと戦闘に重きを置くだけじゃない。迷宮踏破にはなんの問題もないわ」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p00854)はどこか落胆気味のアトに対し、そう言って肩をすくめてみせた。
「密室、スロットマシン、そして賭け金は時間と命。奇妙な取り合わせね。でも、明確なルールは存在する。それがわかれば十分よ」
「ルールがあるなら好都合だね。隙間を縫うのなら得意だよ」
『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)は万能金属でワイヤーを作りつつ、アトと『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスチキン(p3p002377)の協力のもと、着々と準備を進めていた。
「筋力は自信があるから、力仕事はマカセテ欲しい!」
「それは助かる。罠を張るのは人手が要るからね」
イグナートの言葉に、ラルフは僅かに表情を緩めた。時間的な縛りが無いこの状況は、権謀術数を得意とする彼にはうってつけの舞台でもある。戦闘は力のみで成立するものではない、ということを、彼は承知しているのだ。
「……私も手伝うわ。邪魔しない程度になるけど」
『旋律を知る者』リア・クォーツ(p3p004937)は手持ち無沙汰であったのだろう、調査に心血を注ぐ性質でもなし、とラルフ達の協力に向かう。 功名心、ダンジョンに対する切望、未知への期待、そして迷宮踏破という到達点。リアにとって、それらはさほど重要ではない。
だが、それを求める『彼』、その喜びをこそ彼女は求めているのだ。ロマンの所在はわからないが、それを成し遂げようと気を吐くことは、なんら不思議でもないのである。
「今回は、謎解きではなく、力押し、か」
『夢終わらせる者』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は眼前に広がる光景、仲間達が触れる構造物をひとしきり眺め、ぽつりと呟いた。表情にさほどの変化も見られないが、帽子から溢れる金髪は張り詰めたままに捻れてしまっている。彼女に詳しい者なら、それが驚嘆と疑問、2つの意味を持つ仕草だと気付くだろう。 言外に、彼女はシュペルの技術力に対し強い興味を抱いているのだ。
「もっとこう、古代の遺跡みたいなものだと思っていたのですけれど、このように高度な機械仕掛けもあるのですね!」
『血風三つ穿ち』すずな(p3p005307)は耳と尻尾を目一杯動かしながら、目の前の光景を観察していた。密かにSTARTパネルと棺の周辺になんらかの仕掛けがないか、を確認するのも忘れない。元いた世界とまるで違う、だからこそ好奇心をそそられるそれらは、しかし彼女含むイレギュラーズによって打倒されるべきものでもあるのだ。
「結構好き勝手歩き回ってる筈だけど、パネルは全く反応してないわね。……起動条件はやっぱり加圧だけなのかしら」
「じゃあ触らないように飛んで迂回すればいいな! 横を通っても罠がドカーン! と出てきたりしないよな? ……よな?」
パネル周辺に何らかの仕掛けがないか、と警戒するイーリンに、カイトは翼を広げつつ左右を見回してそわそわと仲間に問う。罠への対処手段を持つ面々は、一様にその可能性を否定した。……どうやら、本当に罠の類を置かず、力任せの階層らしい。
「この棺、動かせたら楽なんだけどな……」
「ん。どうやら、戦闘開始前では、びくともしない、か」
ユーリエは銀の鎖で、エクスマリアはその身を以て小型の棺をなんとか動かせないかと試みたが、結果は芳しくないものだった。周囲に接合された後は微塵も感じられない。にも関わらず、全く動かせない。
世界の理屈を超越した力が介在しているということがはっきりと分かる。正攻法でしか壊せない、ということも。
「戦闘が始まらなければ調べ放題とは、羽振りがいいことだ。せいぜい調べさせてもらおうか」
ラルフは罠を張り終えたのだろう、パネルの脇を進み、大型の棺を順繰りに調べていく。眼前に広がるそれらは未知の塊。つまりは解析能力の見せ所ということだ。緋色の瞳が棺を見据え、先に眠る階を見いださんとするが、どうやら(彼が視認した限り)全ての棺の後ろに階段が見出される。それが視覚的な偽装なのか、はたまた別のものなのか……。
「ペリカ、今回も監督を頼むわ。……さあ、カウンティングの開始よ」
「ペリカさん、いつも通りアドバイスお願いしますね。えひひっ!」
イーリンとエマは口々にペリカへと協力を願い出つつ、できるだけ主戦場から離れる様に促した。彼女もそれなり戦えるが、彼女無しで先にすすめるわけがない。
アトは大型棺を護るように鎮座する小型棺、その一つへと身を寄せ、銃と剣とを叩き込む。ビクともしないことに肩を竦めるが、既に『やりとげた』表情である時点でアトの策は始まっている。
カイトは中央の棺の前へと身を晒し、イグナートは小型棺の集積地帯へ身を躍らせた。翻って、そこはラルフの罠の最前線なのだが……彼なりの考えあっての行為だ。
「準備はいいわね? ……じゃ、踏むわよ」
STARTパネルの前後どちらにも回復が届くよう陣取ったリアが一同に確認を取ると、ゆっくりと足を踏み出す。
チーン、という場違いなほどに明るい鐘の音が鳴り響くと、フロア全体が微振動を始め、中央の大型棺と小型棺30個のフタが弾かれたように開かれる。
――次の瞬間に起きた事象は一瞬だ。だが、イレギュラーズ全員が、その状況を仔細に説明できただろう。そういう『説得力』が、それにはあった。
●超迷宮合体コンバインドガーダー(Ⅰ)
「へ、変形と合体してる……!? これは所謂ロボットアニメにあったような奴なのでは……」
すずなはその光景に見覚えがあった。尤も、それはフィクションだが。
大型棺から飛び出した全長150cm程度の戦闘機のようなものが、素早く直列に並び次々に合体していく。一体化したそれから手足が伸び、捻りを加えて地面へと叩きつけられ……る直前で停止し、低空に浮遊した格好となる。グレー・緑・紫のセンスを疑いたくなる外見のロボが出現するまでの時間、1秒未満!
「えっ……」
「おっ……」
カイトとアト、揃って声を失う。イグナートはきょとんと首を傾げ、ラルフは僅かに眉根を寄せた。明らかに興奮しているリアクションのそれであるが、残念ながらそれらは全部敵だ。
彼らの動揺をよそに、円筒形の胴体にロボットアームを装着しただけでなんで飛んでいるかわからないような小型個体――ミニマムガーダー――が多数出現しているのだが、多分前述のボスほどのインパクトはない。絶対ない。
「それじゃあダンスを始めましょうか、えひひっ!」
エマは口にするが早いか、手にした刃に恥じぬ速度で駆け抜け、相手の足元へと斬撃を放つ。基本形態の相手はエマの速度に到底ついていけず、呆気なく先手を献上する。動きが乱れたガーダーのアイレンズが彼女を追うが、全く捉えきれなかった。
「お前、かっこいいけどバカだな? 楽しめそうだ!」
直後、背後から聞こえた挑発に首を巡らせたガーダーは、翼を殊更に広げてアピールするカイトを視界に収めた。あからさますぎる姿はしかし、彼の姿と色の鮮やかさからくるインパクトにより、視線をそむけることがかなわない。
『敵対戦力、潜入者ト認識。排除開始』
ガーダーは無機質な声で告げると、カイトへ向かってガトリング状の光を叩き込む。バラバラと撒き散らされる飽和火力はしかし、回避に血道をあげたカイトを捉えることはままならない。
そうでなくとも、大型棺の『背後に』回り込んだ彼を狙う以上、他のイレギュラーズを巻き込むことは不可能なのだ。
「そちらに見惚れている間に、夢心地に至ってもらいましょう」
すずなは先程までの声から一段低い声とともに、不知火と胡蝶の夢、二刀でもってガーダーへと踏み込んだ。太刀(断ち)風の名は伊達酔狂の類でなし、するりとガーダーの胴部に苛烈な傷跡を残した。
「ミンナの戦いをジャマさせるわけにはいかないよ! オレがアイテだ!」
余りに俊敏、そして苛烈な戦闘に割って入る間もなかったミニマム達は、イグナートの声に弾かれるように向かっていく。それらがそもそも、ラルフの仕掛けた罠の内側で動きを邪魔されていた、というのも彼へ攻撃を集中させる要因たらしめたのだが。
「テキ、テキ……」
「かかったな、バカめ……!」
小型棺から姿を現したミニマムは、アト目掛けてミサイルを打ち放つ。敢えて無駄を承知で棺に攻撃し、そこから離れなかったのは全て、そこから現れたミニマムを倒すため。全てはアトの術中にあったのだ。
ピースメーカーから次々に放たれる銃弾はアトの身を灼くが、それ以上にミニマムに弾痕を生み、砕いていく。パラパラと破片が地に落ちるより早く、それが生み出された棺は続く魔弾によって粉々に打ち砕かれた。まずひとつ。
「必要な時、必要な結果を、確実に。マリアも、他の者もそれが出来る。だから、此処に居る」
エクスマリアはガーダーの至近距離から魔力による砲塔を生み出し、繰り返し『力』を叩きつける。純然たる破壊と暴力は確実にガーダーの上半身に突き刺さり、手傷を増やしていく。避け得ない精度と慮外の威力は、並の敵であれば一瞬にして葬ることすら可能なそれだ。仲間の火力、さらに彼女のそれを受け止めて未だ健在なその頑健さにこそ、恐ろしいものがある。
「威力の減衰しない遠近両用レーザーなんて卑怯な代物、撃たせるわけにはいきません! 止めてみせます!」
ユーリエは意思を込めた鎖を巻きつけ、ガーダーの動きを完全に止めんと挑みかかる。鍛え上げられた精度のもとに巻き付いた鎖をガーダーが避けることはかなわない。鎖はその力を誇示するように青白い光を放ち、そこから逃すまいと締め上げる。ガーダーの口にあたる部分のレーザー射出口、そして肩部から覗いていたガトリングの銃口が次々に閉じられ、アイレンズの光の勢いが僅かに減衰したように感じられた。
『エラー、行動パターンA、殲滅効率、低、カ――』
明滅するアイレンズの様子から、動揺を強く感じさせるガーダーの姿を視認し、ラルフはイグナートの側へと向き直る。集中攻撃をやり過ごした彼から興味を失ったようなミニマム達は、マジックアームで罠となった金属を引き上げ、リアを背後から襲おうとしている、様に見えた。
「あちらは順調そうで結構……イグナート君、右に30cm」
「ワカッタよ、ラルフ――」
さん、と言葉を続けようとしたイグナートは、言葉を全部吐き出す前にひゅっ、と乾いた息を飲み込んだ。ヂッと彼の前髪一本切り飛ばしていった火線は、消えた後もミニマム達に空いた大穴、という形でその爪痕をありありと残す。敵をまとめて倒すという意思と、仲間を守らんとする意思の結実。容赦を捨てた探求者は、時にどこまでも非情に徹することができるのだ。
「イグナートさん、大丈夫? あなた1人にまかせてしまったみたいで……」
リアの言葉にダイジョウブ、と返すイグナートであったが、ざっと見、言うほど大丈夫ではないように思われた。30ものミニマムの群れの大半を彼が受け止めたことを考えれば、その傷は相当に深くなるはずだ。
だが、彼女の治療ひとつで癒え切る程度に抑えられたのは、偏にイグナートの守りが秀でていたことの証左足り得る。
「棺の配置からすると、次はこちらの戦いに割り込んできそうね。本当に厄介だわ」
「ワイヤーの外側あたりにある棺は壊せそうだねぃ」
イーリンは四周の警戒に注力しつつ、イレギュラーズの体力から現状の有利不利を試算する。片手間に狙いを定めた魔眼、その視界に紛れ込んだミニマム達は弱っていたのだろう。たちまちのうちに崩れ落ち、ガラクタへとなり床へ消えていく。
イグナートが引き受けたミニマム達を生んだ棺は、彼の直ぐ側に集中していた。残っている棺の総数はさておき、配置としては中央から大型棺までにバランス良く配置されている。邪魔になるだろう、間違いなく。
ペリカが『再生中の棺』の見当を付けてくれたお陰で、それらを優先的に破壊すればいいことが理解できる。
――間違いなくこの戦いは長引くだろう。優秀なイレギュラーズが狙いを集中させてなお攻めあぐねる敵、入れ替わり立ち替わり、無尽蔵に現れる雑魚の群れ。
「英雄みたいなロボットが群れの前になすすべもなく倒れた筋書きとか、どこかで見ましたね……少なくとも『彼』は最後まで諦めませんでしたが!」
すずなの脳裏に浮かんだ『英雄』の姿は痛々しく、最後の一瞬まで救いから切り離された存在だった。だが、彼らはそうではない。
「圧倒的な数と脅威の力ですが……その力、封じ込めて見せる!」
「皆さんが元気いっぱいな限り負ける気がしませんよ、えひひっ!」
ユーリエの決意とエマの不敵さが反響し、戦場の緊張感を和らげる。カイトが相手の視界を塞いでいることも間違いなく大きいが、ガーダーは小刻みに動き、未だ敗北を認めぬとばかりの反応だ。
イーリンからの合図はない。ガーダーは初期フォームのまま、彼らと対峙する。
●超迷宮合体コンバインドガーダー(Ⅱ)
『脅威度更新、エラー復旧マデNsec、プレッシャーモードヘ移行……』
ガーダーの目が点滅状態から点灯状態へと移行し、グレーの腕をヒッティングスタイルに構え直す。粗雑に弾丸をばら撒くでなく、拳の力で制圧する、そんな意思の顕れだ。
「殴り合いか! オレはそっちのほうが好きだぜ!」
カイトもそれに応じるように構え、挑発的に相手を見据えた。その所作自体が明らかな挑発行為で、自分が上手く誘導されているだなどとさしものガーダーも思うまい。突き出された拳をひょいと躱した彼は、しかし自らに迫るミサイルをも避ける必要性に駆られた。カイトの所作にひきつけられたのは、近くに現れたミニマム達とて同じこと。大型棺のから現れた個体が、彼へと狙いを定めたのだ。こればかりは運というものだ。
「数で押し切られる前に、一番の厄介どころを倒せば私達の勝ちですからね!」
エマは速度に乗った一撃を、先程の場所へ寸分違わず叩き込む。敵のパターンが変われば兎も角、変化がないならやることに変わりはない。
二度に渡って斬りつけられたその位置は、明確に切り傷が生まれている……のだが、なお内部構造の露出には至っていない。
「そこの小さいのに邪魔されるのは我慢ならないね。露払いは私がやろう」
「マリアは、この玩具を、確実に止める……」
ラルフはカイトへと群がるミニマムごとガーダー本体を焼き払い、エクスマリアは間近に貼り付き『力』による制圧を試みる。
大火力の乱打を受け続けるガーダーに傷が増えていくが、しかし一定の線を越えていないことがそら恐ろしい。完全無欠でない限りは、いつか隙が生まれよう。それを衝くために、先ずはリズムを崩してはいけない。崩されてはいけないのだ。
「皆が傷付く前に、確実に仕留める……!」
鎖を引き戻したユーリエは、それに内なる怒気と敵意を這わせて打撃を通しに行く。命を賭し、放たれた一撃の精度がヌルいそれの筈がない。装甲の継ぎ目にするりとねじ込まれたそれは、確実に相手を締め上げる……が、その胴の隙を完全に晒し切るまえに鎖はガチン、と抵抗を示した。ダメージは受けよう。しかし、弱みを晒さない――そんな意思を感じさせる抵抗感。
続けざまに放たれたすずなの斬撃も、流麗さを失わぬままに放たれつつ、明確な抵抗の手応えを感じ取っていた。
「まったく、幾つ棺桶を壊せばいいのやら……壊すけどね、当然」
「コッチはオレが纏めて壊すからダイジョウブ!」
アトは手近で再生に移った棺桶を破壊し、反撃を企図して現れたミニマム達を破壊していく。イグナートは罠からほど近い場所にある棺桶へと喝を放ち、次々と破壊する。彼の右手ならその程度問題にならないだろうが、それでは時間がかかりすぎる。破壊するなら、一気にやるべきなのだ。
「あのボスに旋律があるのなら、聴き分けられる筈だけど……それよりも先にやることが沢山、だわ」
はあ、と深く息を吐いたリアの指はしかし、身につけた剣と共に流麗な調べを奏でていた。英雄幻奏第八楽章、『友愛のアダージョ』。平等と友愛を糧に人々を癒やす音色は、戦場を支える者達を等しく癒やす。
彼女の耳へと滑り込む旋律は、数多の敵味方が入り乱れる戦場ではあまりに自身への負荷が大きく、現実的な技能ではなかった。少なくとも、彼女の負担と敵の行動判別の損得でイーブンにするのは難しい。
最初から自らの負荷を度外視している彼女にとって、やれ成功率だやれ慎重さだなどと語るのも愚かしいのだろうが。
『殲滅効率、期待不可、期待不可――モードチェンジ打診……承認』
「エマ! マリア! あれは『今変わる』わ!」
両腕をまっすぐに下ろし、膝をつくようにして動きを止めたガーダーの姿は、なにかを諦めたように見えた。だが、それは幸せな幻覚でしかない。イーリンはガーダーがシステムメッセージを吐くより早く、仲間達へと警戒を促したのだ。……ユーリエやすずなの攻撃を凌いだのもそのためだろうか?
(包囲状態からの突破を目指すのなら、イーリン君の推測通り速度タイプを経由するだろうが……あの知能はそこまで『型通り』か? それに傷の位置と深度、あれは――)
ラルフはイーリンの警句を聞くなり、素早く思考を組み上げる。当初の想定なら、包囲からの飽和攻撃で突破力のあるフォームへと切り替えさせ、毒や行動阻害を重ねて有利に立つつもりだった。
だが、ここまで一方的な状況が続けばどうだ。それは『ガーダー(防衛者)』であって逃走者ではない、つまり。
「「相手は重装甲タイプに変化する! 警戒を!」」
ラルフとイーリンはほぼ同時にその結論を弾き出し、異口同音に叫んでいた。
どの敵が現れようと無難に対処出来る彼らにとって、一縷の鬼門。
戦略上ほぼ唯一、最悪の手合い。
『行動パターンC、損傷率過半、全力破壊モードヘ移行……参ル』
●超迷宮合体コンバインドガーダー(Ⅲ)
「ったく……この棺作った奴誰だよ! 責任者出てこい!」
「この数はヤリスギだと思う! 壊すケドさ!」
アトとイグナートは、目につくそばから次々と復帰中の棺を破壊し、或いは自らの射程に入ってきたミニマムの敵意をひきつけて各個撃破を勧めていた。
イグナートがいかに頑健な守りを有し、盾として耐えられるとはいえ数が数だ。一体や二体は彼の守りを縫って浅からぬ傷を与えてくる。イーリンとリア、2人の癒し手があればこそなんとか持たせている状態だが……。
「ユーリエ! 狙いが貴女に移ったわよ!」
「わ、私……っ?!」
イーリンの警句に合わせ、ユーリエが赤黒の鎖を放つ。守りを貫く破壊、そして次へとつなぐ隙の露出は、守りを固めたパターンCにとっても強敵だった。故に、狙う。
伸び上がった長い腕は距離をとった彼女を絡め取り、引きつける形で弾き飛ばす。近づきたいのか遠ざけたいのかはっきりしないが、一つだけ確かなのは『強烈な破壊力』であることだけ。落着の瞬間に身を丸めてダメージを軽減したものの、ユーリエの立ち上がりは決して早くない。
「こうも戦いが長引くのは正直、勘弁願いたいところでしたが。私はそれでも負けません! 諦めは悪い方ですので!」
すずなは不屈の精神で刀を握り、じりと距離を詰めていく。不撓不屈、その精神の在り方を技倆に昇華させたそれは、自らの精神力を補い、戦い続けるための技術。ユーリエの生んだ隙に叩き込んだ時の効果など、考えるまでもなく絶大だろう。だが、今振るわれる破壊は彼女のものではない。
「ラルフさん、お願いします!」
「ああ、期待には応えようとも。ここまで手札を切るつもりはなかったが、それはそれで楽しいものだ」
すずなの声に応じたラルフは、不敵な笑みをたたえたまま巨大な戦斧を生み出し、腰だめの姿勢から逆袈裟に振り上げる。それに反応したパターンCの対応力は流石と称賛されるべきだろうが、如何せん単純な威力ならエクスマリアの破壊に匹敵する一撃だ。受け止めようと伸ばされたマシンアームは半壊し、余波で下半身へ変化していたBパーツのダメージがさらに増す。
「ところで、機械から『血』って盗めるんでしょうか? 非常に興味がありますねぇっ!」
ひきつった笑いが尾を引いて、エマの一撃が四度、Cパーツに付けられた傷へと叩き込まれる。ソニックエッジ3連からの『血盗鴉』――命を盗み取る盗賊の技倆。それが奪うのは純然たる生命力。命なきものをして奪う技能。
「マリアは、目も耳も鼻も、利く。だから弱っている所も、ちゃんと分かってる、ぞ。玩具と戯れるのも、飽きてきたところだ」
エクスマリアは、エマの斬撃が掠めた位置へと『業』が積み上げられた一撃を叩き込む。敢えて距離を取ったのは、僅かに上を狙うため。届かぬ場所に手を届かせるなら、工夫のひとつも要るだろう。
何度も何度も泥臭く叩き込んだ『力』だけではなく。己の真骨頂は『業』も含めた二種一対の『神殺し』。
「まだまだ戦えるわよね? いいえ、返事は要らないの」
だって皆の音色は決意で澄み切っているのだから。リアは声に出すことなく、強い信頼と信念を以て仲間達を癒やしていく。戦場を俯瞰する技倆はない。仲間達のような情熱もないだろう。
だが、この中で唯一無二の知覚技能(クオリア)と――『あの方』への強い奉仕の心がある。戦場で勝敗を分けるのは、つまりは全て投げ出して最後に抱くものの差だ。彼女はそれを心得ていたからこそ、癒し手として欠くことなく立ち続けている。
「ミンナが倒れなければ勝てる! ゼシュテルの壁マインドを見せやるよ!」
残り僅かのミニマム達が、最後っ屁とばかりにリアに迫ったのをイグナートは見逃さなかった。守りにかけて居並ぶ仲間の追随を許さぬ堅固さは、彼女を守った上で反撃を試みるに十分すぎた。
「――アト、しくじらないでよね」
「いやあ、なかなか面白いものが見れたのは確かだけど……残しておくほど綺麗なモンじゃない。だからここで潰しておくさ」
イーリンが2人の様子を横目で見つつ、アトの方を一顧だにせず声をかけた。それも、かなり小さく。
だが、それでも勝手知ったる両者の仲か。アトはイグナートを襲おうとした個体に自滅的な一手を叩き込み、自らを狙った個体を炎に包む。2手の連撃はいずれも自らの命をベットする類だが、彼の再生力の前では些末な傷だ。
「敗北条件未達。勝利条件――」
「諦めが悪いぜ! 楽しませて貰ったし、もうそろそろ終わろうぜ!」
全身から火花を散らしながら、アイレンズのシャッターを上げ下ろしして視界を切り替えたパターンC。その眼光には機械にあるまじき決意の色が揺らめいたが、イレギュラーズの運命の炎に比べてなんと浅薄、弱々しいことか。
翼を広げたカイトは速力全てをその一撃に賭け、相手との間に流れる風を読む。熟練の勘が見抜いた唯一無二のルート目掛け、蹴立てた爪は風を切り。僅かに回避を想定したパターンCの動きは、背後から伸び上がった『銀の鎖が』許さない。
「私達の勝ち! ……で、いいよね?」
息も絶え絶えなユーリエの声は、続く衝突音にかき消された。
●絶対不変の冒険心
「……随分と凝った偽装交錯だねぃ」
戦闘終了後。
大型棺をまとめて破壊したイレギュラーズは、当初ラルフが感じた違和感……『全ての棺の後ろに階段がある』、その真実と向き合っていた。
ペリカが呆れるのも無理はない。Cの棺が正解だったのだが、それ以外の2つに見え隠れしたのは投影された影だったのだ。つまりは、棺そのものが破壊される前に真実を見せぬための隠蔽が為されていた、ということになる。
「シュペルとやらは、大した技術者、だが……マリアのセンスとは相容れない、な」
エクスマリアが小さく呟くと、一同は大仰に頷いた。そりゃまあ、そうだ。そこまで意地汚く隠す程のものかというと……。
「――ああ、そうか。次は」
……イレギュラーズの探索から始まって、十の階層だ。
アトがぽつりと零したそれに、ペリカも警戒の色を強めたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
大変×10お待たせしました、果ての迷宮は成功です。
……出番のなかったBCAタイプは最推しでしたが忘れろください。
兎にも角にも踏破完了、全体的に安定していましたね!
それでは頑張って次、いってみましょう!
GMコメント
ふみのです。
……え、私? マジで私? 嘘じゃなくて私なんだね?
そんな感じで趣味と得意分野をゴリゴリに詰め込みました。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●成功条件
『コンバインドガーダー』3体を撃破し、『巨大棺』×3を破壊する。
●<果ての迷宮>独自ルール
※セーブについて
幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。
※名代について
フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。
●戦場説明
横幅20m、奥行き60m、高さ5mほどの、四方を鉄の構造物に囲まれた部屋。最奥部の壁に沿うように『巨大棺』が3つ並んでおり、入り口前方に『START』パネルが埋め込まれている。
周囲には『小型棺』が無数に存在する。
『START』パネルを押すことで、ターンロスなしで即座に『コンバインドガーダー』及び『ミニマムガーダー』各種が出現する。
●コンバインドガーダー
奥の『巨大棺』から出現する3体1セットの大型機械系フロアボス。体高は統一で4m。3ターンに1度程度の割合でボディを組み替え、異なる戦闘方法に変わる。共通で充填再生(中)持ち。
便宜上、3体をA~Cで説明する。
・ABCタイプ:初期出現時のタイプ。バランス重視で、遠近対応可能。機動4、超射程万能、火炎・流血持ちの『貫通レーザー』、近距離扇・必殺・高CTの『ガトリングレイ』等を使用。
・BCAタイプ:スピード型。機動6、高反応(常識的範囲)、高EXA、高回避。攻撃力と防御は低め。攻撃は至射程がメインだが、カ超万能の『電磁ネット』(乱れ・虚無5)を使用。
・CABタイプ:低回避、低反応、機動2、代わりに防技、抵抗、攻撃力が高い。物超単移『雪崩狩り』(苦鳴・必殺)などを使用。その他の攻撃も『移』『飛』等の属性を持つものが多く、機動力の低さをカバーしている。
●ミニマムガーダー×沢山(最大出現数30程度)
『小型棺』からほぼ無限湧きする個体。破壊後、リポップには1ターンを要す。リポップ待ちのターンで『小型棺』を破壊すれば再出現しない。常時低空飛行。
物中単・不吉・必殺の『キディングミサイル』を使用。耐久はさほど高くない。
●同行NPC
ペリカ・ロジィーアン
タフな物理系トータルファイターです。
基本的には、皆様の指示に従いますが、本音は調査に専念したいようです。
戦闘に参加させた場合、戦闘面では楽になりますが、調査面で多少の不利が発生するかもしれません。
以上です。
皆様のご参加をお待ちしております。
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