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シナリオ詳細

<八界巡り>珠緒の世界
<八界巡り>珠緒の世界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●異世界シミュレーター『イデアの棺』
 練達階層都市の一角に、そのビルはあった。
 広い人工公園がすぐ隣に見える窓から、イレギュラーズのひとり桜咲 珠緒 (p3p004426)が外をぼうっと眺めている。
 ふと部屋の中に視線を戻すと、白く清潔な……悪く言えば椅子以外なにもない部屋に、八人のイレギュラーズが集められている。
「あの公園いったことあるぜー! この辺の子供が遊んでるんだ。友達もいてさー」
 どこにいっても友達ができる少年、清水 洸汰 (p3p000845)。
「ここ、換気扇ないの? すこし煙たいな……」
 異世界からやってきた学級委員長、藤野 蛍 (p3p003861)。
「ソウ? 全然気にならな……アッ、マスクのせいか」
 顔からマスクがはがれなくなった少女、ジェック (p3p004755)。
「このスイッチかな。あ、換気扇ついた。……ついたの? どこにも通気口ないけど」
 元『ふつうの男子高校生』、上谷・零 (p3p000277)。
「今、気づいたんだが……このメンバーは狙ってのことなのか?」
 邪神のすむ世界からやってきた、リュグナー (p3p000614)。
「ほう? 我も気になっていたところだ。この部屋にいる八人、我が見たところ全員……」
 出身世界からして全てが謎の男、マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)。
「そうだな……」
 片腕を世界の向こう側に置いてきた男、ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788)。
 ランドウェラは左手でそっと刀の柄をなぞると、その場にいる全員の顔をひとりずつ確認して頷いた。
「全員が、『旅人(ウォーカー)』だ」
「説明しましょう」
 シュウンという音と共に部屋に入ってきた男。
 眼鏡をかけた男性である――という以外の特徴がまったく頭に残らない、なのになぜか存在感の強い、奇妙な男であった。
「皆さんには、その肉体から異世界の情報を抽出させて頂きます」

●白亜工業
 イレギュラーズ……もといウォーカーたちを『名指し』の依頼書で集めたのはこの男だ。正確に述べるなら、彼が所属しているであろう『白亜工業』という少数ウォーカー団体によるものである。
「我々はここ、探求都市国家アデプトの基本方針と同じく世界のルールの突破、そして元世界への帰還を目的としています。
 勿論そのために世界が滅んで貰っては困りますので、パンドラ収集という皆さんの目的とは部分的に一致する……いわば好意的利害関係にあると思って頂きたいですね」
 妙に持って回った言い方をする眼鏡の男。
 彼が眼鏡に触れると、部屋の中に八つの棺が現われた。
 全体的に白く、上蓋が半透明になった筒状の棺。酸素カプセルと言われればまあ納得しそうなそれが、中央に現われた柱を介して太いケーブルでつながっている。
「これは『イデアの棺』。特定一名の肉体から世界のかけらを抽出し、中央の柱で演算、補完します。
 そうしてできあがった仮装世界を、接続した八名に共有して追体験させる装置です。
 我々はこの装置を通して皆さんの世界情報を獲得し、世界ルールの突破や異世界研究に活用しようとしています」
 いいですね? と確認するように言うと、それぞれの棺が開いた。
 男は棺に入るように促し、イレギュラーズたちも反応こそまちまちだったが、みな要求に応じていく。
「仮想世界の演算を開始します。
 今回対象とするのは――桜咲 珠緒 (p3p004426)様の世界です」

 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――桜咲 珠緒 (p3p004426) 、検出完了。
 ――上谷・零 (p3p000277) 、検出完了。
 ――リュグナー (p3p000614) 、検出完了。
 ――ランドウェラ=ロード=ロウス (p3p000788) 、検出完了。
 ――清水 洸汰 (p3p000845) 、検出完了。
 ――マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007) 、検出完了。
 ――藤野 蛍 (p3p003861) 、検出完了。
 ――ジェック (p3p004755) 、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 ようこそ。今よりここはあなたの世界です。

 棺の蓋が閉じてすぐ、彼らは眠りにつき、そしてきわめて現実的な感覚と共に、彼らはある場所で意識を覚醒させた。
 洸汰や蛍たちからみて、江戸時代のような建物が並び、時代劇の中にあるような衣服を着た人々が歩く。
 ここは? と誰かが尋ねた。
 八人の中で一人だけ、珠緒だけがそれに回答できた。
「神威都市――『邪摩都(やまと)』です」
 あなたは、この世界で……。

●世界を壊すか、それとも守るか
 蓋が閉じる前、あなたは眼鏡の男にこのように説明された。
「今から追体験する世界に、決定的な干渉を行なってください。
 具体的には『世界を壊す』か『世界を守る』か……どちらかを行なう必要があります。
 もしどっちつかずで終わってしまった場合や、その決定自体ができなかった場合、情報抽出は失敗するでしょう。
 八人で話し合い、選択して下さい。
 壊すか、守るかを」
 薄れ行く意識のなか。
 男は最後に、こう言った。
「あなたには、簡単なことでしょう?」

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
 当シナリオは、旅人8名の出身世界を個別にめぐる非連続シリーズ<八界巡り>企画の第一弾でございます。
 そうなることはそうそうないとは思いますが、全ての世界(8世界)を巡ることが必ずしも出来るとは限らないことを、あらかじめご了承ください。

 では、シナリオの解説に参ります。

■この世界でできること
 世界をシミュレートしている状態ですが。基本的には混沌のルールが適用されています。
 つまり銃も魔法も邪神もありです。逆に、邪摩都世界にしか存在しない技術を習得ないし持ち帰ることはできません。
(※桜咲珠緒の能力は混沌世界のものに準拠します)
 また、皆さんの能力値は仮想邪摩都世界基準からするととても高いため、国でトップクラスに強い武将くらいの戦力があると思ってもらって構いません。

■成功条件
 『世界を壊す』か『世界を守る』のどちらかを達成すること。
 この世界は機械によって演算された仮想世界です。皆さんにとっては夢のようなものであり、世界自体も抽出元のそれとはだいぶ異なる部分があります。
 この世界に対し、致命的な破壊を行なうか、それを防ぐか。どちらかを皆さんで相談し、選択し、そして実行してください。

 世界の内容は『<八界巡り>設定プレビュー』にある内容にある程度までは準拠するものとします。
 https://rev1.reversion.jp/guild/852/thread/8470

●世界を壊す場合:巫女の殺害
 この世界には『御柱(みはしら)』という管理機構が存在し、同名の神木と祭壇を用いて国を統治しています。
 彼らは『カミ』に情報を送り、その判定結果をもとに国家方針を決定しています。大きな所は法律や裁判、小さなところでは成人の就職先に至るまでです。
 正しく御柱を運用すれば『カミ』が犯罪や災害の兆候も予測することができるといいます。
 こうして管理された世界に権力者はおらず、きわめて平等できわめて平和な、最大限にきれいな社会が実現しました。
 『邪摩都(やまと)』はその最大限の社会と言えるでしょう。

 ただしその影には『桜咲』という巫女の犠牲がありました。
 桜咲はきわめて高い情報収集能力をもちますが、薬物投与と洗脳によってブーストされ続け、その生命がつきるまでの100年間若いままの姿でベッドに拘束され続けていました。
 桜咲はもはや自分で歩くこともできず、肉体は限界にきています。
 御柱へ襲撃をしかけ、この桜咲を殺害することができれば、都市のシステムは崩壊しこの主観世界は致命的な破壊を受けることになるでしょう。

 当代の桜咲は珠緒と同一人物であり、この世界で当代桜咲を知るごく一部の御柱中枢人物はその違いが分かりません。
 ただし、ごく一般の人間や御柱に所属する大多数の人間たちは桜咲の顔を見たことすらないため、同一人物であると主張しても通らないでしょう。

●世界を守る場合:御柱の防衛
 どんな世界でもあることですが、この世界にも暴力は存在します。
 こちらの選択肢を選んだ場合、他の都市からやってきた部隊が桜咲を奪うべく襲撃をしかけてきます。
 邪摩都に比べ武力の高い襲撃者たちは、元々平和すぎたために防衛という責務の薄かった邪摩都を侵略し、巫女を奪いとってしまいます。
 この場合システムが崩壊し主観世界が崩壊してしまうので、そうならないように防衛する必要がありあります。
 御柱の人間や市民にコンタクトをとることで(やり方によりますが)戦力に加えることができ、大人数を率いての戦闘が可能です。

  • <八界巡り>珠緒の世界完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年09月06日 22時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

上谷・零(p3p000277)
出張パン屋さん
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
清水 洸汰(p3p000845)
雲水不住
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
かくて我、此処に在り
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
桜咲 珠緒(p3p004426)
吐血の方
ジェック(p3p004755)
ガスマスクガール

リプレイ

●平和の裏表
 青い鳥が飛んでいくのが見えた。
 ずっと遠くで子供が笑う声が聞こえた。
 『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)は手にしたバットを杖のように地面について、両手をグリップの上に重ねた。
「なーんか、建物の感じとか、オレも昔似たようなやつ、学校の教科書で見たような気もするけど……それとはなんか、雰囲気が違うっていうか。
 じっくり観光したいけど、どうやらそれどころじゃないっぽいな」
 勿論、ただ観光をするためだけにあんな装置に繋がれたわけじゃあない。
 情報の抽出。そのための行動。そのための、選択が求められていた。
「異世界シミュレーター『イデアの棺』……練達は相変わらず、凄い機械作るよなぁ……いや、これはほんと凄いやつだけどさ」
 翳した手が空気の冷たさに触れ、遠くから魚を焼く香りがする。
「神威都市――邪摩都、だっけ? 電脳世界、っていうにはほんと本物みたいだなぁ」
「成程、興味深い」
 『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は彼らの振るまいを一通り観察したあと、遠い空の向こうに意識をやった。
「二度と訪れぬやも知れぬ世界だ、すぐに離れるのは勿体ない
 故に――この世界の情報を知る為、システムの崩壊は防がねばなるまいな」
 独り言、のようであって、どこか他人問いかけているような言い方だった。
 『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)はどこか気まずそうに咳払いをすると、『まあ』ときりだして応えることにした。
「国を生かすための犠牲なんて、よくある。
 だが、肯定すべき事ではないんだろう?」
「さあ、そこまでは関知するところではあるまい」
「む……」
 自分だけ一線を引いたな、と噛みつこうとして……ランドウェラは会話の中の違和感に気づいた。
 『二度と訪れぬやも知れぬ世界』だなんて、なぜ言った?
 もしこれが作られた舞台なのだとしたら、何度でもやり直しがききそうなものなのに。
 それこそ、もう一度潜って別の選択肢を進むことだって……。
「いや、もしかしたら、これは……」

 邪摩都中枢『御柱』。
 螺旋状の塔にも似た建物の前で、導火線のない火縄銃のような武器を突きつけられていた。
 鎧をまとった門番は槍を構え、こちらをにらみ付けている。
「狂人どもめ、桜咲様に俗人が近づけるなどと思うな! 貴様らになど縁もゆかりも無いぞ!」
 文字通りの門前払い。
 どころか、危険因子として排除されかねない空気であった。
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はライフルを構え、門番や周囲の兵士たちへと威嚇する。
「まぁ落ち着け、怪しいだろうが先ずは話を聞いてもらいたい」
「必要とアラばオドシも辞さないヨ。アタシの銃はただの飾りじゃナイからネ?」
 『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)もまた、油断なく周囲に視線を走らせ、ライフルの狙いをつけていた。
「珠緒さん……」
 『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)は周りをにらみ付けながら、『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)に被害が行かないようにと手を翳して前に出た。
「他の都市から『桜咲』を狙った武装勢力が襲撃を仕掛けてくるのは本当だよ。このままじゃ防衛しきれずに巫女を奪われる」
「『心は消え、魂は消え去り、全ては此処にあり』……かつて、此処は珠緒の全てでした。
 故に、収奪される様を看過は、できないのです」
 真剣な面持ちに門番たちは気圧されそうになったが、首を振って叫んだ。
「どこにそんな証拠がある。信用できぬ! わざと隙を作らせて巫女に手出しする心積もりであろう! 今ここで成敗して――」
 門番の男が槍を強く握り込み、マカライトやジェックたちがトリガーに指をつよくかけた、その時。
「お待ちなさい」
 見るからに高貴な服を纏った50台ほどの男性が、門の奥から現われた。
「その姿……まごうことなき桜咲珠緒。桜咲の資格をもつ巫女です」
「ば、ばかな!? 姿を偽っているのやも! 妖術のたぐいでは!」
「いいえ。私には、彼女の『血』が見えます。おわかりでしょう」
 男が手を翳すと、門番含め全ての兵士が武器を下ろし、そして跪いた。
 男は優しく、まるで父が子を見つめるように珠緒のほうを見た。
「いかなる奇跡かは分かりませんが、確かにあなたは桜咲の巫女。それも、そんなに……」
 そこまで言って、男は言葉を止めるように口を押さえた。
 塔外部の者、ないしはよほど上位の人間でなければ、桜咲を見たことすらないのだろう。彼女たちが……もとい桜咲珠緒がどういう状態であったのかすら、きっと知らないのだろう。
「この者たちが述べたことも真実です。間もなく大部隊がこの都市を襲撃します。我々の戦力ではとても抗えませんが……『カミ』は彼らがその鍵になると判断しています」
「で、では……」
「皆に伝えなさい。今より彼らを支援します。彼らに従うように」

●荒野の決戦
 雑草すら長くは伸びない、恐ろしく広い荒野があった。
 あちこちには何かの建造物の名残であろう瓦礫や、朽ちた道具が転がっている。
 ここで何があったのかなど、もはや誰も語りはしない。
 そういう、『ただの荒野』があった。
 邪摩都の軍はおよそ300人。人間同士の争いなどほとんど起こらなかった都市にしては、むしろ多いくらいの人数である。
 対して、敵軍の数はざっと見渡すだけでも……。
「2000はくだらない、かな。大筒櫓や像を使った原始戦車まである。戦力差がありすぎる……」
 もどってきた青い鳥を指にとめ、蛍は深く呼吸を整えた。
 最前線に出る以上戦闘に集中せざるをえない。ファミリアーによる五感の拡張はかえって集中力をそぐと考えたようだ。
「え、え? ねえ、これ本当に俺たちがやるの? 8人で1700人分覆せるわけなくねぇか?」
 慌てる零の横で、ランドウェラはずっと不思議そうに自分の右腕をさすっていた。
 リュグナーはといえばゆるく腕を組み、なぜだから余裕そうにしている。
「やるしかない、のではないか?」
「そ、そうだよな……やるっきゃねえ! 世界が壊れちゃ縁起も悪い! いくぜ――《Bread Call》」
 零が天に両手を翳した、その時である。
 天空に巨大な光の幕がかかり、その向こうから馬ほどの大きさがあるフランスパンめいた物体が何百個と現われた。
「えっ」
 その全てが、敵軍めがけて豪速で突っ込んでいく。
 まるで大砲をくらったかのようにはじけ飛ぶ土と石。そして敵軍の兵士たち。
 あがる悲鳴と驚く味方の声に、零が一番驚いていた。
「規模! 規模がおかしい! 混沌肯定どうなってんだ!?」
「いや……これでいい。これでいいんだ」
 ランドウェラは『右腕』を翳し、ぎゅっと握りしめた。
「これはあくまで異世界のシミュレーター。混沌肯定(システム・ケイオス)はそもそも関係ないんんだ。混沌世界人としてのルールは適用されるが、その出力は大きく調整されているんだろう」
 そうと分かれば、とランドウェラは両手を突き出し、『呻け、弾けろ』という詠唱によって呪いの力を解放した。
 ランドウェラを中心に黒い稲妻が荒れ狂い、敵兵百人ほどを一度に引っかき回してしまった。
「もっとも、だからといって『かつての力』がそのまま振るえるわけではないようだがな……」
 リュグナーは目元を覆っていた包帯をとき、鎌を肩に担いだまま悠々と敵兵の群れへと歩いて行く。
 集中する殺意。飛来する無数の弾丸と矢。
「戦いに不慣れな国を狙うのは、何処の世界も同じか。――だが、此度は運が悪かったようだな。今ここには、我々が居るのだ」
 リュグナーがカッと目を見開いたその瞬間、地獄の大総裁オセの狂気がそのまま戦場を駆け抜けた。
 兵士たちが発狂したように泣き出したり武器をめちゃくちゃに振り回したり、同士討ちや逃走を頻発させた。
「…………」
 一連の動きを観察していたジェックは、担いで走ろうとしていたライフルを一旦おろし、オプションパーツのスコープを望遠スコープに変更。がれきの隙間から敵前衛――よりもずっとずっと先にある敵将の額にサイトをあわせた。
 風をよみ、時をよみ、星の一秒先を狙って、トリガーをひく。
 と、わずかな間をはさんで敵将の頭がスイカ割りの如くはじけ飛んだ。
 突然の出来事に慌てふためく敵兵たち。どこから撃った、届くはずがない、といったことを叫んでいるのが口の動きから分かった。
「……フフ」
 ジェックはケースから次の弾を取り出すと、リロードを開始した。

「どんどんいくぜー!」
 野球のバットを振りかざした洸汰が突撃していく。
 対するは槍を構えた歩兵二百人。
 一斉に群がり、飛びかかり、巨大な団子状にした……直後に、洸汰のフルスイングが全ての兵士を吹き飛ばしてしまった。
「どーした! オレはまだ元気いっぱいだぞ!」
「将軍、これは一体……」
「わからん。何が起きている? 邪摩都に奇跡でも起きたというのか?」
 うろたえる将軍たちに突撃し、撥ね飛ばしていく洸汰。
「投影された世界だからって、偽物だからって。仲間を手にかける、ようなことはしたくない。
 ……それが幸せなのかどうか、オレにはわかんねーけど」
 宙を回転し、どさどさと落ちていく将軍たちを背に、洸汰はグッと頬に流れる汗をぬぐった。
 そこへ、銃声。
 マカライトのライフルが敵兵を次々と打ち倒していく。
「そうか……人は銃で撃たれれば死ぬんだったな。簡単なことだったが、忘れていた。混沌になじみすぎたか……」
 マカライトはそんな風に言いながら、『ストライクチェーン」を放った。
 長く長く伸びた鎖が何十人もの兵士を貫き、まるで大蛇が暴れるかのようにまとめて振り払っていく。
「珠緒さん、いくよ!」
「ええ……」
 荒れた戦場を走る蛍と珠緒。
 二人は手を繋ぐと大きく跳躍した。
 兵たちが見上げるほどの高さから、二人はそれぞれ手を翳す。
 伸縮性の教鞭を握り、銀の光を宿す蛍。
 手にまみれた血が幾何学模様を描き、赤く光りを放つ珠緒。
 二人は鳥のように飛行すると、敵将のひとりにそれぞれの攻撃を叩き込んだ。
 一瞬遅れ、肉体が内側から爆発四散する敵将。
 兵士たちが二人を取り囲み、銃弾や式神による集中砲火を仕掛けるが……。
「防ぎます」
「うんっ」
 蛍を守るように血の壁を作り出した珠緒。
 全ての銃弾や攻撃を引き受けるように周りをジグザグに飛び回るが、そんな彼女に対して蛍は強く感謝を捧げた。
 珠緒の頬が赤く、血色がよくなっていく。
(世界を壊すか、守るか、か……。
 召喚前の過去や生き様を、憎むか、受容するか、とも聞こえるわね。
 皆にとってこの世界がどう映るかはわからないけど、珠緒さんがどう見てるのかは、分かってるつもりだよ。
 体に刻まれたあの傷痕さえ否定せず、前を向く珠緒さんを見てきたボクには……)

「来い、ティンダロス」
 敵兵を蹴散らす勢いで駆けつけた巨大な狼。いや、狼めいた怪物と表現すべきだろうか。マカライトはティンダロスの背に飛び乗ると、ライフルを撃ちまくり周辺の兵士たちを次々と倒していった。
「おのれ邪摩都の犬め、これ以上やらせはせん!」
 象に担がせた妖術大砲を発射してくる敵将。
 マカライトは飛来した砲弾にライフルを三発撃ち込んで軌道を無理矢理そらすと、ウェボロスを生成。象めがけて投げつける。
 動きがおかしくなったところで――。
 ばすん、と象の急所をライフル弾が抜けていった。
 射撃位置を変え、高所から狙いをつけたジェックだった。
 もはや彼女の姿が見えないくらいの距離にいたが、どうやら正確に射撃ができているらしい。
「ダルマさんがコロんだ……ってね。ドミノ倒しのがヨカッタかしら?」
 ジェックがそう呟いたとたん、象が倒れて担いでいた大砲が爆発。
 周囲の兵士たちが一斉に吹き飛ばされていった。
 その一方。
「こいつ……けっこう強いぞ!」
 フランスパンの刀で切りつける零の攻撃を、薙刀によって次々に打ち払う敵将がいた。
「貴様も血威(けつい)使いというわけか……よもやヤマトがここまで多く保有していたとは、我が目にも見抜けなんだ」
「け、けつい? なんだそれ知らねえよ! 俺は最初から最後までフランスパンだ!」
 零は新たに無数のフランスパンを生成、凝縮。鋼のように硬くなったフランスパン弾が発射され、敵将の喉を貫いた。
「ぐ……が……」
 喉を押さえ、仰向けに倒れる敵将。
「なんなんだこいつ」
「考えている暇は、どうやらなさそうだぞ」
 リュグナーが零の前に出て、飛来する無数の弾丸を鎌によって打ち落とした。
 いや、弾丸ではない。角張った釘のような鋼。棒手裏剣だ。
 両手に無数の棒手裏剣を挟み、かけより、跳躍する敵将。
 リュグナーはあえて両手を広げると、相手の攻撃をその身体でうけた。
「ふむ、これが痛み。なんとも現実的だ。興味深い」
 そう言いながら相手の顔面を手で掴み、片目を大きく見開く。
「受け取れ。忘れ物……いや、忘れ者だ」
 衝撃。敵将はきりもみ回転しながら吹き飛び、他の兵士たちをドミノ倒しにしていった。
「塔をよこせ! こいつらを吹き飛ばせ!」
 大砲をそなえた移動櫓がリュグナーたちへ向く……が、ランドウェラが間に割り込むようにして櫓を見上げた。
 それだけで、櫓を操作していた兵士たちが全員まとめて血を吐き、即死した。
「こんなに現実味を帯びていると自分の世界を映し出すのが怖くなるよ……」
 そんな風に言いながら、ランドウェラは赤い目をらんらんと光らせた。
 横に立ち、目を光らせるリュグナー。
 剣を構える零。
 どうやら、決着は近いように思える。

「アンタ達には、何も壊させねーぞー! 桜咲も、今ここにいるオレの仲間も!」
 敵兵を次々にバットで打ち、ノック練習のごとく吹き飛ばし続ける洸汰。
「よっしゃ。次は誰だ!」
 ビッとバットを突きつけた先で、兵士たちがおびえるように後じさりをした。
 戦力差がありすぎるのだ。
 が、そんな彼らをかき分けるように、一人の巨漢が前に出た。
「我こそは柏咲の血威使い、元郎丸である。いざ尋常に勝負!」
 突撃、からのパンチ。
 バットで対抗した洸汰だが、あまりの衝撃に洸汰のほうが吹き飛ばされた。
「うおっと!」
 空中で身をひねり、うまく着地する洸汰。
「こいつ、かなりつえーぞ!」
「問題ありません」
「そう。ボクたちなら勝てるよ。御柱に人々に珠緒さん……必ず全部守るから!」
「『御柱』……? フン、あのような非人道的な治政を認めるなど……! なぜあんなものに味方する! 国の政治ごとき、少女の全てを犠牲にするほどのものか!」
 拳を突き出し叫ぶ男に、洸汰は小さく歯を食いしばった。
 だが一方で、珠緒は半歩前に出る。
「ええ、それほどのもの、でした」
 胸に手を当て、一度だけ目を閉じる。
「鳥は歌い、子供は笑い、空は青く晴れ渡っていました。
 桜咲は……珠緒は……確かに全てを犠牲にしました、けれど。
 けれど、それでも、誇らしく思うのです」
「珠緒さん……」
 蛍に、珠緒は小さく頷いた。
「珠緒はこの世界を守りたい、そう主張いたします」
「そーだぜ! 誰かが命がけで守った世界なんだ、壊されてたまるか!」
 洸汰、珠緒、そして蛍が一斉に男へと飛びかかっていく。
(イデアの棺にとっては単なる仮想世界のデータ取得かもしれない。
 けど、ここで抱いたボク達の記憶は本物だよね。
 珠緒さんが抱いた思いも、きっと)
 三人の拳が、男の顔面へと直撃した。

●世界が世界であるために必要なこと
 敗走していく敵兵。完全な決着がついたことで、邪摩都の兵士たちはかちどきの声をあげていた。
 振り返れば、邪摩都の中心、『御柱』の塔が見える。
 もしかしたら、今もあそこに……。
 そう考えたところで、イレギュラーズたちの意識はブラックアウトした。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 お帰りなさいませ、皆様。
 世界情報の抽出は完了いたしました。
 またここへお越しくださることを、心よりお待ちしております。

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