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シナリオ詳細

好奇心は猫をも殺す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●淡い冒険心
 オアシスの町パドゥミラにて。
「聞いたか、イレギュラーズ達が魔物討伐に加勢しただって」
 昼間の食堂、青年のブルーブラッド同士がそんな世間話を交わしていた。
 パドゥミラ近郊の鉱山は高価な天然石の産地で、それを求めて人々が集まる。それは商人だけとは限らない。それを襲って益を得ようとする盗賊や魔物。食い扶持を稼ごうとする異国の柄の悪い傭兵。
 そういうわけで隊商の護衛及び魔物や族の討伐に何某(なにがし)が派遣される事自体は、そこまで珍しい事態ではない。
「その人達についてよく知らないけど、強いのかい?」
 比較的若いブルーブラッド達が尋ねた。それを聞いて相手は呆れた顔をする。
「なんだ、知らないのか。盗賊団砂蠍を倒したっつー奴らで……今回のも赤犬のディルク直々だそうだとよ」
 赤犬のディルク。ラサ傭兵国家の事実上のトップ。傭兵を志す者も多いこのラサにとって、ある意味で男児の憧れの的でもある。それだけに、『赤犬から直々に依頼』というのはイレギュラーズの実力を保証するだけも説得力はあった。
「最近、多かった魔物もこれで減るかね」
 住民にとって、周辺に魔物が異常に増えているというのは目先に迫っている不安事だ。何人かのブルーブラッドは肩の荷が下りたとばかりに気さくに笑う。
 その様子を見ていた一番若いブルーブラッドが、何か妙案を思いついた様に呟いた。

「……じゃあ、その人達が頑張ってる間に俺でも石拾いにいけるんじゃね?」

●大山猫、呆れる
 ネクベト討伐に呼び出されたはずのイレギュラーズは、同じくパドゥミラで討伐を担っていた傭兵の一人に呼び出された。
 そこに待っていたのは大柄な猫のブルーブラッド。この人物は確か……
「改めて。俺はジョニー・マルドゥだ。この間は砂蠍の件でそっちにゃ世話になったな」
 快活豪放に笑いながら、イレギュラーズに親しげな挨拶を向けるジョニー。彼はラサで有力な傭兵団『柄久多屋』の長であり、ジョゼというイレギュラーズの父親だ。以前、砂蠍の討伐にてイレギュラーズと共同作戦を組んだ事もあったか。
 挨拶も手短に、ジョニーは呼び出した理由をイレギュラーズに伝え始めた。
「パドゥミラ住民の青年……まぁ、まだガキか。それが一人鉱山に行くと仲間に言い残して行方不明になった」
 ジョニーはそれを語るにつれ、快活に笑っていた表情を曇らせる。
「石取って何がしたかったかは分からんが、この時期に無謀な事をしてくれたもんだ。魔物の討伐はまだ完全に済んでいない。お前らも見ただろ、何体叩っ切っても連日連夜どっからか現れてくんだ」
 無尽蔵といっても過言ではない魔物の出現に、そのブルーブラッドの捜索は難航している。加えて、柄久多屋としても捜索を優先して討伐の方を疎かにするわけにはいかないのだ。
「イレギュラーズ、捜し物や人数集めはそっちの得意分野だ。恥を忍んで頼めるか?」
 そう語るジョニーの表情を窺うと、眉間に皺を寄せたその表情はどうにも他の思惑ある様に思える。問いただす事も兼ねて彼の頼みを了承すると、それに応じて彼は胸の内も語り始める。
「……これは俺の考えなんだがな、何か裏がある気がしてならねぇ。もし余力があれば原因も探って来て欲しい」
 まぁ、そっちはあくまで二の次だがな。人助けが最優先だ。ジョニーは気難しい顔でそう言って、イレギュラーズを見送るのであった。

GMコメント

 稗田ケロ子です。二回目の関係者依頼。もふもふ

●この依頼は『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)様の関係者依頼となります。

●環境情報
 オアシスの街パドゥミラ~パドゥミラ近郊の鉱山。シナリオ開始時刻は夕方。
 鉱山地帯は捜索範囲という意味では広大であり、しかも一帯には魔物が生息しています。
 何かしらの補足情報や捜索関連のスキル無しでやろうとすると成功は絶望的でしょう。
 オアシスの街については簡易的な必要物資や何かしら望む情報が手に入れられるかもしれません。要求する種別によって消費時間や要する行動は違います。

●NPC一覧
ジョニー・マルドゥ:
 『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)のお父ちゃん。
 旨い酒や飯、ロマンを愛し友人を大事にする明朗快活な人物。しかし今回の無謀な探索には呆れている様子。
 彼率いる傭兵団は魔物の討伐に集中しているので捜索には参加しませんが、町周辺などで合流すれば万全に治療してくれるでしょう。回復地点。
『行方不明者』C・ケット:
 行方不明者にして救出対象。パドゥミラ住民の一人。若者ブルーブラッド同士でつるんでるメンバーの最年少。
 あまり頭の回る人物ではないが、決して金に目が眩む様な奴でもないとの噂だが……詳しくは他のメンバーが知っているかもしれない。
 行方不明からある程度時間が経っている為、多少衰弱しているだろう。そしてそれは時間が経つ事にそれは必然的に酷くなる。
 発見時に回復スキルや何か類する提案があれば症状は緩和されるかもしれない。

●エネミー
ネクベト(砂娘)×??
 パドゥミラ周辺に生息する魔物。大した戦闘力が無いのは赤犬から受けたクエスト通りだが、いかんせん数が多い。
 捜索が本来の目的というのもあり、遭遇回数を増やして消耗戦となると時間的にもHP・AP的にも非常に辛い。何か建設的な作戦や捜索方法があれば遭遇回数を減らせるかもしれない。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 原因が何かはともかく、本来の目的について不測の事態や嘘の情報は混じってないでしょう。

  • 好奇心は猫をも殺す完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月31日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)
ノベルギャザラー
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
花に願いを
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
回言 世界(p3p007315)
狂言回し

リプレイ

●人情風俗
「えぇ、売ってないんですか……?」
 黄昏時の市場にて、商人と問答を繰り広げている少女が居た。『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312) 、『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)である。
 二人は今回の行方不明者捜索において事前準備の物資調達を担っているのだが、どうにもそれが手こずっている様子だ。
「へへぇ、魔物対策の品が最近飛ぶように売れましてね。まったく、ネクベト様々ですよ」
 そういって下品な笑いを浮かべる商人。魔物への知識がある仲間が多く集まった事もあって、すぐに『魔物、特にネクベトに対して効果的な物品』を思い至るまではよかった。
 だがしかし、それらの物品は時期的に需要が高まっていたのか、よくて売り切れ。それどころか足下を見て来る輩さえいる始末だ。
「どうにか出来ませんか?」
 夕は儚げな上目遣いで相手の顔を伺ってみる。商人はそれを見ていくばくか考えてから、なおさら下品な顔尽きで、「お茶の一つでも付き合ってくれれば考えてやらない事も……」と言い出して夕の白い腕を無理矢理引っ張ろうとする。
 そういったところで、仲間の一人が商人の手を振り払った。
「悪いね、彼女と一緒にこれから行くところがあるんだ」
 気さくな口調で軽くあしらうイレギュラーズ、『付与の魔術師』回言 世界(p3p007315)。商人は男連れと判断し、それ以上しつこく言い寄って来なかった。
 その場から離れて、イレギュラーズ達は残念そうにため息をつく。
「煙玉や閃光弾の類も売り切れとはね。ホント、がめつい奴らだ」
「必需品まで足下を見られなかっただけ、よしとすべきでしょう」
 イレギュラーズの誰かに悪辣な商人とやり合える口先の上手さか、それらしい人脈があればどうにかなったかもしれないが。過ぎた事だ。最低限の物資すら集まらない可能性もあっただけに、雪之丞の言う通りかもしれない。
 三人は救出対象が何処に居るか目星を付ける為、どうにか手に入れた周辺地帯の地図を開いた。
「思い立ったが吉日。というものでしょうか。行動力は称賛しますが……」
「さぁて、ここからが大変だ」
 鉱石が取れる場所といっても、地図を見るだけで複数箇所点在していると見受けられる。中間地点も考慮すると捜索範囲は広大だ。範囲を絞る為には、この地図と他の仲間が集めて来るであろう情報を複合して考えるしかない。

●一寸光陰
「えっと……君たちも詳しい行き先知らないって事かな……?」
 話しかけていたのは『青混じる白狼』グレイル・テンペスタ(p3p001964) 。彼は救出対象であるC・ケットの友人達に接触し、行方を知らないかどうか相談を行っていた。
 当の友人達は首を左右に振って、渋い表情で答える。
「鉱石採りに行く事くらいしかわかってねぇ」
「……そっか……」
 イレギュラーズ達の内心で、別の部分に疑いはあった。最近跋扈している奴隷商売に関連した事だ。『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624) は、それに探りを入れる為に彼らへまた質問を投げかけた。
「採りに行った石について何かわかってねーか? 青い鉱石だとか、高く売れるだとか」
「いや、俺も詳しい事は聞いてねぇ。でも高値で売れる鉱石っつーなら見当が……」
 年長の者がそこまで言ってから、若いブルーブラッドの一人が何か思った風に口を挟んだ。
「あいつが採りに行ったのはもっと単純なもんだと思う」
 イレギュラーズを含めた周囲は首を傾げる。「何か知っているのか」と問われ、若いブルーブラッドは頬を掻きながら答えた。
「あいつのとーちゃん、もうすぐ誕生日だろ。いつか宝石持って行って見返してやりたい、ってしきりに言ってたし。きっと誕生日に因(ちな)んだ石じゃねーかな」
 そう聞いて、C・ケットの友人達は納得したように頷いた。話に聞いていた通り、良くも悪くも実直な人物らしい。
「……それが、どの宝石か種類は知ってる……?」
「誕生日までは知ってるけど、どれかまでは」
 申し訳なさそうに首を振った。周囲の友人達も同じ知識量のようだ。商売知識に聡い者にでも聞けばいいだろうが、市場に向かうには多少時間は掛かるだろう。
 ジョゼとグレイルは顔を見合わせた。情報収集や物資調達に使うと打ち合わせた時間は30分ほどである。宵闇の時刻は迫り来ている。聞き込みに使える時間の猶予は少ない。
 グレイルは最後に、C・ケットの私物は無いかと友人らに聞いてみた。
「忘れ物のハンカチならある」
 同族である彼らは使い道を察して、すぐそれを取り出した。そのハンカチをグレイルは鼻に当ててから、静かにうなずく。嗅覚で追うにはこれで十分だ。捜索の有力な手段の一つになるだろう。

●孤立無援
 鉱山地帯。『追憶に向き合った者』ウェール=ナイトボート(p3p000561) 。彼は物資を整えて、単身で捜索に向かっていた。道中ネクベトの群に遭遇したが、飛行魔術の類を使っているゆえ、高高度を維持して戦闘は回避出来た。相手が上空への攻撃手段がなかったのか、空中へ居たから気付かれなかったのか。何にせよ幸いである。
「石拾い……一人で危険な所に行くのはこっそりイレギュラーズに相談したい事があるとかかね」
 ウェールとしては青年が蛮行ともいえる行動に及んだ理由が、昨今流行っている奴隷売買に関連した事と思った。経済的に困っているだとか、もっといえば幻想種の知り合いを買い戻す為に奔走しているだとか。
 ともかくとして、ウェールは持ち前の聴力や『人助けセンサー』なるものを駆使しながら、鉱山地帯上空を飛び回った。そうして、予定時間の殆どを使い果たし。
 ――――。
 何者かが助けを呼ぶ声をかすかに聞き取った。鉱山の坑道か、その一つから感じ取れる。状況から考えるに、救出対象のC・ケットであろう。
 入り口へ近づいてみると、そこに流血の痕跡を発見する事が出来る。
「……これはまずい」
 安堵から一転、ウェールは動揺した。間違いなく、誰かが魔物の類に襲われてここに逃げ込んだのであろう。考えるよりも先に坑道へ踏み込もうとする。

 ――単独でやれるか?

 冷静に状況を鑑みる。この洞穴の中にもいくらか魔物の気配が感じ取れた。そうでなくとも、入り口に戻った際にネクベトの群と鉢合わせでもしたら最悪だ。
 じわり、じわり。延命契約の蓄積のせいか、ジクジクと体が痛んだ。
 …………ウェールはグッと奥歯を噛み締め、当初の予定通り仲間との合流を優先する事にした。
「待っていろよ、すぐに戻ってくるからな」

●虚心坦懐
「っと、危ない!!」
 隠れ潜んでいたネクベトが傭兵の一人に不意打ちを仕掛けようとしていたところで、イレギュラーズの一人が大盾で殴りつけて、それを咄嗟に防いだ。
「やるじゃねぇか、イレギュラーズの!」
 ふらついたネクベトの胴体を一閃する柄久多屋頭領のジョニー。『正なる騎士を目指して』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)は、ひとまず捜索ルートの警備を並行しながら傭兵との情報共有を行っていた。
「……やっぱり、この数はおかしいです」
 肩を揺らして息をするシャルティエ。この短時間で複数体遭遇するとは。ジョニーもまったく同じ考えらしい。
「こいつは変わったもん持ってるか。ロアン」
「……いいえー」
 ネクベトの死体を厳重に調べ上げる柄久多屋の傭兵達。しかし怪しい物品などは見当たらず、短いため息をついて残念がった。シャルティエも調べるが、めぼしい物は見つけられない。
「まいったな。怪しいもんさえ掴めれば後はジョゼの得意分野なんだが……」
 ジョニーがそう思い悩んでいた頃合い。同行していたイレギュラーズの一人、『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)は考え込むような仕草で口に手を当てた。
「襲わせてる人間がいるのではないだろうか」
 愛無の顔を一斉にみやる傭兵達。彼(女?)の意見を疑ったのではない。彼らにとってもこの件は強い関心があるのだ。
「俺達ラサの人間を襲わせて何の得がある」
 ジョニーは強い語調で愛無に問いかけた。愛無はそれに物怖じせず、ジョニーに答えを返す。
「奴隷商人達の陽動か。あるいは、この地に何かあるのか」
 あくまで最近の事情を鑑みた上での推測に過ぎない。しかし、愛無はジョニーの鋭い視線に目を合わせて、憮然と言ってみせた。
「自分の為なら平気で人を害する。それが人間というものだろう」
 ジョニーは以前の共同作戦の事を思い返したのか、顔を顰める。
「……何にせよ。僕は、この地に仇なす者を許さないゆえに」
「僕も、ラサの皆さんに力添えします」
 はっきりとした物言いの愛無。礼儀正しい振る舞いで言ってみせるシャルティエ。
 ジョニーは二人の顔を見比べて、気難しい表情で傭兵の一人に命令をくだした。
「ロアン、治療の用意をしておけ。迷子を迎え入れる準備が必要だ」
 そういって、合流したイレギュラーズの出立を見送った。

●多事多難
 ……参ったな、血が止まらないや。
 鮮血のしたたる片足を抱えて、坑道の岩陰に隠れ潜んでいるC・ケット。
 入り口近くで誰かが通りかかった気配がしたが、自分で助けを乞う体力も既に残っていなかった。乾燥した熱砂を走って逃げてきたせいか、喉が渇く。
 水、どっかに落っことしたのがまずかったかな。自嘲気味に笑う。しかし魔物が近くで蠢く音を耳にして、声を押し殺しながらすすり泣く。やがて失血により意識を失った。

 一方、日が落ちかけている砂漠の中を行軍するイレギュラーズ。ウェールは救出対象の現状が容易に想像付いて、誰よりも険しい顔をしていた。
「ウェールさんは合流してからずっとあぁだね。俺も、面倒や失敗は嫌いだけど……」
 世界はウェールの顔を見て、そう呟いた。目安となるものが少ない砂漠環境だが、地図があるおかげでなんとか道には迷わない。ネクベトの奇襲を警戒しながら、所持品を確認する。
 それを受けて「吸収しやすい糧食を選んで来ました!」と、自信満々の夕である。そういう話をしている最中、ウェールが何か手仕草をした。進軍ルートに敵が居るらしい。
 敵の数を確認してから、倒した方が早いとイレギュラーズ達は判断する。敵が戦闘範囲に入った。雪之丞はいち早く影狼を抜刀し、ネクベトを殴りつけるように斬り付ける。昏迷するように体を揺れ動かすネクベトであるが、その一撃だけでは倒れない。仲間がトドメを刺す前に雪之丞は手痛い反撃をもらってしまう。
「……大丈夫……?」
 グレイルはヒールオーダーを使い、雪之丞を治療した。治療や迎撃の手段に充実しているが、こういう避け辛い遭遇戦はどうしても難儀する。
 残りのネクベトが冷ややかに様子を窺っている。誰から攻撃しようかと選んでいるようにも思えてイヤな感じがした。こういう手合いは一気に手数で押されると、非常に厄介である。
 ……ここで誰一人倒れるわけにはいかない。シャルティエは後衛の仲間達を庇いながら、その場で大盾を構えて威嚇するように声を発した。
「我が名はシャルティエ・F・クラリウス! 何人たりともここは通しません!!」

●危急存亡
 立て続けに遭遇するネクベトを掃討し終え、武器を収めるイレギュラーズ達。
「いたた……倒し終えましたかね」
 一挙に敵を引き受け続けたせいか、かなりの傷を負ったシャルティエ。
「一旦、休憩しますか?」
 夕が傷の具合を伺いながら治療を行い、心配そうに提案する。
「……いいえッ、すぐに進軍を再開しましょう!」
 しかしシャルティエ本人にとって、味方の被害を軽減出来ただけ上等だ。「万が一の場合は私が敵をひきつけます」と、雪之丞。仲間達は顔を見合わせ一瞬考えてから、それらを受け入れた。
「着いた。ここだ」
 ウェールは坑道の一つを指し示し、魔物の気配が感じられる事を仲間達に告げる。
「…………」
 予め貰ったハンカチと、流血の痕跡から似た匂いがする。ここにいるに違いない。グレイルは静かに確信した。
 しかし日も落ちている上に、月明かりも届かない真っ暗闇の洞穴の中だ。暗視のスキルや装置を万全に用意出来たわけでもないゆえ、ここは準備してきたカンテラを使わざるを得ないだろう。
「まぁ、なるようになるさ」
 世界はそう言いながらカンテラにバッと火を灯す。入り口近くにいたネクベトが、それにすぐに気がついた。敵の存在を予期していたイレギュラーズは相手よりも先手を取る。
「悪いな、姫さん」
「……スコル……!」
 忍び寄っていたジョゼが短剣で水平に切り裂き、グレイルが後に続いて白狼を呼び出す。ネクベトは苦しげに身悶えしつつも、反撃に転じようとする。
「よーし、私もばりばりやっちゃうぞー! アタックオーダーⅡー!」
 しかしイレギュラーズの攻撃はそれで終わらなかった。夕もグレイルに続いて召喚術を使い、そのままネクベトを軽々と轢殺してしまう。
「毎回こういう感じならいいんだが、まだいるみたいだぜ」
「然りだな」
 エネミーサーチとギフトで坑道内の気配を感じ取る世界と愛無。どうやら戦闘の騒ぎに勘付かれたようだ。……イヤ、救出対象より自分達に意識が向いたのはむしろ好都合か。
「いっそのこと、我々でひきつけてしまいましょう」
 再拝二拍手一拝。雪之丞は攻撃を引き受ける事も兼ねて己の手のひらに霊気を込めて打ち鳴らし、坑道内に自分の存在を知らしめ始める。

 入り口から何か、鈴のような音を聞いてハッと意識を取り戻すC・ケット。とても恐ろしい気配がする。坑道内で争うような喧噪が続いている。片足の流血は未だに止まっていない。彼は朦朧とする思考でいよいよ覚悟を決める。
「何を取りにきたか知りませんが、お迎えの時間です」
 カンテラの明かりが見えて来て、それに灯されているのは頭に角が生えたウォーカー。雪之丞。
 どうにも恐ろしい気配は彼女だったようで、C・ケットは怯えて不慣れなナイフに手を伸ばしかけた。
 後ろにいたウェールがそれを制止する。
「安心しろ。彼女は地獄からのお迎えじゃない」
 宥めるようにC・ケットの腕に自分の手を重ねてやって、着ていた外套をゆっくり相手に被せる。C・ケットはようやく、彼女達が街からの捜索隊である事と、その恐れていた彼女が身体にいくらか傷を負っている事に気付いた。坑道内の魔物を引きつけていた結果だ。
 C・ケットは言葉が出ずに、泣き出しそうな顔でイレギュラーズを見つめていた。
「……帰りを待つ人がいますので、行きましょうか。冒険は、ここまでです」
 雪之丞は彼を責め立てるような事は言わずに、治療の手段がある仲間達に処置を任せる事にした。
 
●以心伝心?
「っつー事は、ホントにプレゼント集めに来ただけなんだな?」
 ジョゼは動機を聞いて呆れかえった。彼が集めていた鉱石は話に聞いていた通り特に怪しいものでもない。
「ごめんよ、俺……」
 浅はかと断じるべきか。怪しい事に足を突っ込んでいない事を喜ぶべきか。
「今回みたいな危ない事は俺達イレギュラーズを頼れ」
 どちらにしても、今は無事に街へ帰る事を優先すべきだろう。ウェールはそれ以上何も言わず、C・ケットの頭を撫でた。

 そうしてどうにか、街周辺で警備を行っていた柄久多屋の元まで辿り着く事が出来た。治療物資や戦力は豊富。ここまで来れば、もう安全だろう。
「おぉ、連れ帰って来てくれたみたいだな。……それで、なんで洞窟探検なんか行ってたんだ?」
 大袈裟な笑顔でイレギュラーズとC・ケットを迎え入れる柄久多屋頭領。それは同族の無事を喜んでいるのだろう。だが何故だ。笑顔が怖い。
 ジョゼとグレイルは互いの顔を見て、本当の事を言うべきか悩んだ。C・ケットも先程のように怯えた表情をする。そんなところで治療をしていた傭兵の一人が口を挟んだ。
「そういえばー、リーダーったら市場で宝石眺めてウンウン悩んでたんだよー。ふふふ」
 ジョニーの笑顔が大きく歪む。なんとなしにお互い触れない方がいいと察して、話題を変えた。
「魔物の活性化についてお前らはどう思う?」
 魔物の知識がある者同士、顔を見合わせた。すぐ分かる特別な異常が見受けられたというわけではないが……。
「可能性があるのは、魔術的な洗脳か。あるいは調教された魔物の類ではないか」
 愛無が最終的な見解を示す。ジョニーはそれを聞いて、喉を鳴らすように唸った。
「まぁ、人為的な要因ならそういうトコだろうな」
 イレギュラーズの見解を否定する要素もない。とはいえ、ラサの住民に対して心配事が増えた事は柄久多屋頭領にも穏やかではないだろう。愛無は、それを知ってか知らずか、また憮然とした態度で言ってみせる。
「度を過ぎた悪は叩き直すとも」
 気難しい表情をしていたジョニーはそれを聞いてイレギュラーズ達、そして救出されたC・ケットの様子を見てからフッと笑う。
「そりゃ烱眼(けいがん)だな。ディルクの方にはこっちから報告しておく。何かあったらまた頼らせてもらうぜ。ローレットの」
 そう語る彼の表情は、どことなしに柔らかく感じられた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)[重傷]
花に願いを

あとがき

 依頼、お疲れ様でした。偶然とは不思議なもので、父(子)に何かしらの因縁がある集まったシナリオでした。あともふもふ。
 しかし持久戦の手数による攻撃とは怖いもので、誰かがこれを引き受けなければ被害はもっと大きかったとは思います。


恋屍・愛無(p3p007296)⇒称号:『烱眼の』
ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)⇒後日、ジョゼには柄久多屋名義で何か届いたらしい。……送り方を間違えたのか着払い。

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