シナリオ詳細
Liberation Medical Force
オープニング
●強襲移動教会ホエールチャペル
教会の鐘が鳴る。
砂鯨めいた生物の背に聳え立つ教会が、強く鐘を打ち鳴らす。
ステンドグラスが大きく開き、赤いカーペットを走るヒールブーツのウサギ獣種。シスターめいた服装の彼女はコートの裾と長いロップイヤーを靡かせて、教会の開いた窓から飛び立った。
翼のように広がる聖なるジェットパックがエネルギー噴射をおこし、うさぎ獣種――『キャスリング』メランは宙返りをかけた。
「皆殺しにしてやんぜ! ですわァ!」
眼下に広がるは軍事キャンプ。
奴隷市から集められた子供たちが強制的に軍事訓練をうけ、使い捨ての兵士として戦場へ投入される。そんな地獄の掃きだめにも似たキャンプである。
子供たちの脱走を監視していた武装兵が頭を上げ、メランめがけてアサルトライフルによる射撃を開始。
対するメランはブーツに仕込んだヒールガンを跳び蹴り姿勢のように突き出し、聖別された弾頭を大量に打ち出していく。
聖なる小爆発が次々と巻き起こり、砂煙をあげていく。
かりそめの翼を畳んで着地したメランは、兵士を蹴り倒し、至近距離からの蹴りと射撃で周辺の兵士を制圧。
「A地点制圧完了ですわ。ここの兵士はぬるいですわね」
その様子を……教会の頂上からファミリアーと超視力によって観察していた三毛猫獣種――『イリーガル・ムーブ』アリコはハイテレパス通信を送った。
『メランに比べれば、ね。B及びCから兵士が向かってる。到着まで20秒』
「戦闘力の割に行動が早いですわね」
『……計測完了。もういいよ、退いて』
「いいんですの?」
『今回は警備体制を見るのが目的だもん。本格的な襲撃は戦力が整ってから、ね』
メランは手持ちのグレネードを投げると、煙と光に紛れながら撤退した。
●Liberation Medical Force(医師による自由のための解放戦線)
「またの名を、『子供が当たり前に生きていくための学校』……だよ」
教会とその団体について完結にまとめた資料を食堂の大きなテーブルに置いて、アリコは目の前のイレギュラーズたちへと滑らせた。
トレーにカップ、そしてポットを持ったメランが一人一人にコーヒーをいれてまわる。
テーブルについているのはローレットから派遣されたイレギュラーズチームである。
中央には、異様なガスマスクの二人がいた。
「アー、彼はアベル。ヤベーやつ」
「彼女はジェックです。別に兄弟とかじゃないのでお気になさらす」
「そ、そう……」
曲者揃いで有名なローレットとはいえ、早速ガスマスクの二人組が現われたことでアリコは面食らっていたらしい。
コホンと咳払いして、彼女たちは話を続けた。
「あなたたちのことは聞いてるよ。大魔種とも渡り合うって」
「いやいや、あれは大勢の人員と国の抜本的協力があったおかげでして――」
「こいつアベル。世界の破壊を60分間止められる男」
「なんですかその紹介の仕方」
仲のよさそうなやりとりに、アリコはくすくすと笑った。
「私たちのこともちゃんと紹介しておかないとだよね。
我々はLMF。全ての子供たちに自由と教育を、全ての子供たちが銃をとらずに生きていける世界を。そのために必要なお金と時間を、子供たちと一緒に稼ぐ集団だよ」
「平たく言うと傭兵集団ですわね」
振り返ると、窓の外にはラサのオアシス街が遠く見えている。砂鯨の背に津建てられた『移動する教会』が、彼女たちの拠点である。
「私たちが今追ってるのは、『金の首輪』を流してる奴隷商人なの。『Bの奴隷商人』が怪しいと踏んでるんだけど……きみたちは確か、この首輪に覚えがあるんだよね?」
「フーム……」
資料を手に取る。
ジェックたちが直接対応したわけではないが、確かについ最近、幻想・ラサ・深緑にわたる依頼の中でこういった金色の首輪を扱う奴隷商人の事件に関わったばかりだ。
「私たちの目的は一致してると思うの。どうかな、依頼を受けるって形で、協力してみない?」
アリコたちが手始めにと依頼してきたのは、ある軍事訓練キャンプの制圧作戦であった。
「このキャンプは買い取った奴隷に軍事訓練を行なうことで前線の使い捨て兵力にして販売するっていう目的で動いてるの。
兵力とその動きかたは調べてあるよ。
今回はここにいるメランと一緒に合同で制圧作戦を行なってもらうね」
流れはシンプルだ。
この『強襲移動教会ホエールチャペル』で直接施設に接近し、ジェットパック等による降下。キャンプを守る兵士たちを倒し制圧していく。
「兵士たちの数は入れ替えも考慮して20~30人ってところかな。
かなり訓練されてて統率がとれてる。個人ごとの戦闘能力や武装はたいしたことないけど、囲まれたら厄介だから、効率的な制圧を目指してね。
彼らの逃走防止と制圧後に非戦闘員の拘束と奴隷の解放をするために私たちの部隊を施設を包囲するかたちで展開しておくから、その辺の心配はしなくて大丈夫」
一通りの説明を終えると、アリコはちょいちょいと指でサインを送った。
「こんなところかな。これから一緒にやっていくわけだし……アップルパイでもどう?」
そう言うと、奥からメランがワゴンにパイと紅茶のポットを乗せてやってきた。
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/18040/152c97a9bb6f2ababc2c73a46cfef7a3.png)
- Liberation Medical Force完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年08月23日 22時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●ホエールチャペルにて
流れる雲と青。
アップルパイの甘い香りと紅茶を注ぐ静かな音が、長く大きなテーブルに座る『メイドロボ騎士』メートヒェン・メヒャーニク(p3p000917)をくるむように流れた。
メートヒェンは椅子に座り、畳んだナプキンを膝に広げていく。
その様子を、向かいに座った少女がじっと観察していた。
はにかむように、小さく笑うメートヒェン。
「それ、私がつくりました」
「そう……ありがたくいただくよ」
もてなされるばかりというのもくすぐったいが、今日は甘えてみることにしたメートヒェンであった。
「…………」
同じく、『蒐集氷精』アルク・テンペリオン(p3p007030)も慣れない環境にどこかもじもじとしていた。
学校。傭兵団。動く教会。色々な意味で新鮮だったらしい。
もっというと雪山生まれにとって砂漠地帯はかなり新鮮なので、軽く別世界の気分である。
「お茶、おいしい……」
アルクはカップに注がれた紅茶に口をつけ、ほっと息をついた。
一方こちらは『未来偏差』アベル(p3p003719)。
被っていたガスマスクを外してみせると、柔らかく子供たちに笑いかけた。
「美味しい紅茶です。どうもありがとう」
人見知りをしていた子供たちもいくらかいたが、中でも歳の大きい子供がアベルのそばにきてかいがいしく接客をしてくれていた。
普通傭兵として訓練されたなら接客や礼儀作法といったものをすっとばすものだが、ちょっとした学校を出るよりもよっぽどよく教え込まれているようで、その徹底ぶりにアベルは目を細めた。
一生銃を持たせるつもりではない、という教育者の意図の現われだからだ。
「あなたのガスマスクは、外せるのですか?」
「外せないガスマスクのほうが異常なのですよ」
そこのガールと違ってね、と肩をすくめてみせるアベル。
首だけギギギッと振り返った『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)が恨めしそうに彼を見た。
「そうそう、ワルいね。コレが取れないからアップル……パイ? が食えないンダ。ソッチのガスマスクボーイとチガってね」
対抗するように肩をすくめてみせてから、ライフルの手入れを続ける。
パーツごとに分解してテーブルに並べ、油をさしたり汚れをとったりといった些細な手入れだ。しかしこれが、コンマのズレを直し極めて高い命中精度を実現する……と、言われている。
「コーヒーなら飲めるんじゃないですか? ほら、彼女にコーヒーをお出しして」
アベルが小声で『ブラックでね』と付け加えると、子供のひとりがストックしたアイスコーヒーを持ってきた。
「ナニコレ。飲み物? にっが! これいつもノンでるの? 罰ゲームじゃなくて?」
アベルと一緒になってくすくすと笑う子供たち。
そんな風景をよそに、『人生葉っぱ隊』加賀・栄龍(p3p007422)はきわめて真剣な顔つきで刀の手入れをしていた。
「…………何か用か」
顎をはり、眉間に緊張を保つ、典型的な『戦場顔』をした栄龍。
アップルパイをトレーにのせた子供が、おひとついかがですかと問いかけてきた。
栄龍は黙って一切れ手づかみし、軍用レーションのごとく一口で頬張って乱暴に飲み込む。
「…………」
「…………」
飲み込んでから、眉間にグッと皺を寄せ、栄龍は動きを止めた。
「もうひとつくれ」
どうやら、気に入ったらしい。
「移動式の教会なんて滅多に体験できるものでもありませんけど……これもこれで、珍しい光景デスねぇ」
紅茶とアップルパイをのんびりとつまみつつ、『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)はLMFの子供たちが働く様子を眺めていた。
「少し、懐かしいですね……」
『Tender Hound』弓削 鶫(p3p002685)はそんな洗練された日常風景を眺めながら、ティーカップに口をつけた。
ちらりと彼女の横顔を見る美弥妃。言葉の意図を問われたのだと察して、鶫は薄く笑った。
「私も、傭兵部隊のなかで育てられたので」
「へえ、ガキの傭兵団ってのは珍しいとおもったが……」
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は紅茶を飲み干し、テーブルにトンと置いた。
アリコがティーポットを持って『おかわりは?』と尋ねてきたが、ルカは手を翳してそれを断わった。代わりに……。
「アンタら、なんでこんな団を作ろうと思ったんだ? 伊達や酔狂で出来るこっちゃねえだろ」
「なんでって……子供たちが二度と銃をとらなくてよくするため、かな。ケーキ屋さんでも経営して事足りるなら、それが一番よかったんだろうけどね」
他に方法を知らなくて、と。アリコは苦笑して言った。
「ふうん……」
ルカは『ドラゴンの話』を思い出していた。
ドラゴンは飛ばねばならぬから翼をもち、吹かねばならぬから火を噴いた。奇跡のような存在はみな、なるべくしてなったのだ……という話である。結構な極論で、例外も沢山あるだろうが、恐らく『彼女たち』は、そのドラゴンなのだろう。
と、その時。教会の鐘が鳴った。もし地球の日本世界から来た者がいたなら、その音階から『学校のチャイム』と誤認したかもしれないが、その場にいる全員が等しく、出撃の合図だと察知した。
「時間だ」
短く言って、鶫はカップの中身を飲み干し、かたわらに置いていた電磁加速式重穿甲砲『金之弓箭』を身体にアーム固定、装着する。
栄龍も残りのアップルパイを一口に頬張り、紅茶で流し込みながら口元のかすを袖でぬぐった。
「いくぜ――『祖国のために』」
伝声管から声がする。
『ハッチ開放。先行部隊出撃』
大きなステンドグラスが開放され、熱い風が舞い込んでくる。アベルやジェックたちはLMF共通支給品のジェットパックを借り、空めがけて走り出す。
メランを先頭に、メートヒェン、栄龍、ルカ、アルク、美弥妃、鶫、アベル、ジェック、アベル(?)が次々に飛び立っていく。
目指すは、奴隷訓練キャンプ。
●自由降下作戦
今回の先行襲撃メンバーに、誰一人として飛べる者などいない。
しかし『落ちる』ことなら誰にでもできて、そして『勇ましく落ちること』は、今回の全員ができた。
彼らの降下に気づいた兵士たちがライフルを高く掲げて射撃をしかけてくる。
栄龍はジェットパックでの跳躍をやめ、自由降下状態に移行。
あえて大の字に身をさらし、彼らをギラリとにらみ付けた。
暴風が抜け、時折銃弾がかすめるが、痛みも恐怖も気合いと信念で振り払う。
「下ァ着いたらぶっ飛ばしてやるから待ってろ!!」
一方で鶫は『金之弓箭』の発射態勢をとり、眼下の兵士たちめがけて発砲を開始。砲撃の勢いで落下速度を調節し、自分を掠めようとしていた銃弾をかわした。
「こう見えて、悪運には恵まれていますから」
などと言いつつも、ちゃっかり自分の砲撃は相手に当てている鶫である。
「あら、やりますわね」
負けてられませんわ! と牽制のヒールガンをばらまき始めるメラン。
ルカも負けじとSADボマーを投げ込み始めた。
「歓迎のくす玉がねえのは寂しいからな!自前で花火をぶちまけてやるぜ!」
砲撃や爆撃を受け、兵士たちは顔をしかめて腕を翳した。
「ひるむな。相手は空の上から自由落下だぞ。当てられるわけがない!」
「じゃあさっきの砲撃はなんだ」
「マグレに決まってるだろ! 見ろ、あのガスマスクどもだって――」
ニヤリと笑って狙い撃ちにしようとした兵士……の頭が、一瞬で吹き飛んだ。
「フウ……」
アベルは自由落下中というきわめて射撃に適していない状態でありながら、的確にヘッドショットをきめていた。
「棒立ちして引き金をひくだけの兵士なんて、なんて当てやすい的でしょうねえ」
ライフルに特殊弾を装填。呼吸を止めて一瞬。スローになった世界の中で、的確なポイントめがけて発砲する。
弾(シェル)は空中で分離し、無数の銀色の球体となってばらまかれていく。
大量の兵士が弾を浴び、壊れた操り人形のように倒れていくのがわかった。
「さあ、ごいっしょに?」
おどけて見せるアベルに、ジェックがフコーとため息をついた。
「ソンな曲芸できるワケ……」
ジェックはライフルをフルオートモードにして、敵兵をなぞるように連射。
兵士たちが端から順番にはじけ飛び、血と鉛が大地に散らばった。
「アッ、できたジャン」
「そうやるのか……なるほど……」
アルクはうんうんと頷いてから、自分の頭上に巨大な氷の鳥籠を形成。
それをバラバラに分解すると、格子の一本一本を大地めがけて連射していく。
兵士を貫き、大地に突き刺さっていく大量の氷の槍。
彼らの降下射撃は、航空爆撃のそれをはるかに超えていた。
それなりの人数がいたはずの兵士たちは残りわずか二名。それも満身創痍の二名である。
「着地体勢に入るよ。各自ジェットパックでの減速を開始」
と言いつつ、メートヒェンは自らの膝と拳を大地に打ち付けるように思い切り着地――しつつ、兵士の一人を踏みつけにした。
人体をクッションにし、頑丈な手足から衝撃を逃がし、きわめて軽微なダメージにとどめたメートヒェンである。
「これがいわゆる、スーパーヒーロー着地というやつかな」
「ちょっと違う気がしますねえ」
ジェット噴射をかけながらゆっくり着地するアベル。その後ろで悲鳴をあげながらグシャリと潰れる分身アベル。
「いやぁ、一時はどうなることかと思いマ……あ、あれ?」
美弥妃はジェットパックを起動したが、最初のごくわずかな噴射をしただけで急停止し、いくらスイッチを押しても噴射がおこらなくなった。
スン、と真顔になる美弥妃。
「そんな気はしてましたよぉ――アッ!?」
更に飛んできたツバメに激突して回転。落下地点が盛大にずれ、逃げて味方と合流しようとしていた兵士の後頭部に思い切り激突した。
「ああああああああああああ!!」
兵士がどうなったのかは、もはや言うまでもあるまい。
●制圧作戦
着地する前、ないしは着地と同時に全ての兵士をかたづけてしまった先行襲撃部隊。
まさかの活躍にメランが『案外暇ですわねえ』とロップイヤーをいじり始めた頃、やっと彼女たちを迎撃するための兵士たちが到着した。
「動くな! 蜂の巣になりたくなかった両手を頭の――」
「我突撃ス!! 栄光は祖国にあり!!」
ライフルを突きつけた兵士の腕と首が、一瞬にして分離した。
猛烈な突撃と共に抜刀した栄龍の刀が、彼らを容赦なく切り裂いていく。
懐に入られたのを察知して咄嗟に射撃を仕掛けようとした兵士。その腕を掴み、別の兵士へと無理矢理射撃させる栄龍。
「フォローは任せる!」
「お任せを」
鶫の砲撃が敵兵の頭を抜けていく。
更にどこかへとアクセスすると、霊子圧縮器と長砲身霊子砲を二門召喚。ぐっと足を砂地に踏ん張り、伸びた発射レバーを押し込むと、青白いビームがかけつけた兵士たちを容赦なく貫いていった。
「兵数も上で、地形も熟知。且つ統率が取れているのなら。まずは、セオリー通りに来る筈」
そのついでとばかりに駆けつけたツバメ(さっき美弥妃に当たったやつ)が鶫の指にとまり、スイングの勢いをつけて戦場へと再上昇。
五感共有によって俯瞰視点を得た鶫は、的確な射撃地点を求めて走り出す。
「支援の準備ができました。メートヒェンさん、どうぞ」
「ん、ありがとう」
メートヒェンは兵士の一人に飛びかかり、片膝を相手の首にひっかけて強制的にバランスを崩させると、もう一方の足との間に挟んで首関節をキめた。
その姿勢のまま周囲の兵士に手招きする。
「こんなに人数がいるのにか弱いメイド1人倒せないなんて、もう少し真面目にやったらどうだい?」
ムキになってナイフを抜いた兵士たちを、足技ひとつでいなしていくメートヒェン。
「交代デスよぉ!」
呼びかけながら駆け込んだ美弥妃。ムーンサルトジャンプによって飛び退くメートヒェンと入れ替わり、美弥妃は敵兵たちの真ん中で立ち止まった。
一斉に突きつけられる銃口。
一斉に引かれるトリガー。
一斉にジャムるライフル。
まるでそういう仕掛けのオモチャであるかのように、一様にライフルと美弥妃を交互に見た兵士――の手元で銃が謎の爆発をおこし、一斉に吹き飛んでいった。
「今日は調子いいデスねぇ」
「それは、なにより」
更に増える敵兵を振り払うように、飛び込んできたアルクが手を翳して精霊力を行使。圧縮された冷気が一度に開放され、爆発的な衝撃となって兵士を吹き飛ばしていたく。
その様子を見た兵士たちが距離をとり、アルクたちへと射撃を仕掛けてきた。
アルクは顔をしかめ、周囲に漂う熱砂の精霊を行使。兵士たちを巻き上げていく。
「おもしろいほどよく当たる。なんでだろう」
「兵士の訓練不足ですわね」
敵を蹴り倒しながら語るメラン。
「本来、範囲攻撃を警戒して未知の敵は扇状に展開して集中砲火を浴びせるべき、と教わるものですわ。けれど恐怖心や緊張から本能的に固まってしまい、まんまと範囲攻撃の餌食になる。子供を脅すだけが目的の兵士なんて、所詮こんなものですわね」
「自分より強いものが現われた途端に腰が抜けるとは、なんとも」
アベルは鞄から手榴弾を取り出すと、兵士の二人組の間へと投擲。素早く抜いた拳銃で爆発させ、驚いた兵士が本能的に自分を狙うように誘導した。
普通なら狙ってできるようなことではないが、アベルはそれをまるで手品のようにこなしてみせた。
「頼みますよジェック」
「エ、頼まれたの? イイけど」
アベルめがけて走る兵士。わざと背を向けて後退するアベル。
そんな彼らの横から、ジェックがライフルで空を薙ぐように連射した。
見えない巨大な手になぎ倒されたかの如く、兵士たちが倒れていく。
なんとか起き上がろうとした兵士に、猛烈な突撃を仕掛けるルカ。
「寝てろ、死ぬまでな!」
兵士の頭を踏みつけてトドメをさすと、慌てて起き上がった別の兵士めがけて至近距離から光線銃を発射。心臓部を打ち抜かれた兵士は水風船のように破裂した。
それを最後に、銃声もけたたましい足音もしなくなった。
戦闘の終わりを察し、胸ポケットから紙巻き煙草の缶を取り出すルカ。
親指で蓋をはじき開けた。
「状況終了、と」
●子供のいくさき
貧しい地域では、子供を沢山つくっては捨てるという習慣が蔓延している。
労働力として確保して、養えなくなったら成人する前に手放してしまうというものだ。
見捨てられた子供は生きるための知識すらなく、それをエサにする大人たちに喰われていく。
消費の方法は様々で、そのひとつがこの奴隷訓練キャンプであった。
銃の撃ち方と従属の精神だけを教え込まれ、使い捨ての兵士として出荷される。
「これも、『Bの奴隷商人』がもっていた流通経路のひとつ。やっと潰すことができた……」
ハイテレパス通信で、アリコはそんな風に語っていた。
「奴隷商売は傭兵連合の中でも悪事扱いされてるけど、禁止まではされてないの。そういう抜け穴をつかって荒稼ぎしてるんだ」
「胸くそ悪い話だぜ……」
煙草に火をつけ、胸一杯に煙を吸い込むルカ。
メートヒェンや暑さでばてぎみのアルクは日陰で休み、てきぱきと動くLMFの子供たちを観察していた。
この訓練キャンプの子供たちが『死ぬために訓練された兵士』なら、LMFは『生きるために訓練された兵士』だった。
動きや目から、それが分かる。
「俺の国のガキどもはまだ遊んでる歳だ。生まれた場所が違うだけで、不思議なもんだな」
そんな風に呟く栄龍の所へ、現場監督をしていたメランが近づいてきた。
「ここの子供たちは一旦うちで預かりますわ。安全な孤児院を見つけて送りたいのですが……」
「なんだよ、『安全じゃ無い孤児院』があるみてえな言い方だな」
「あら、知りませんでしたの? 『それ』を持っているから、てっきり」
メランは栄龍の所持していた『■■■■』という儀典を指さした。
「…………」
何かを察し、振り返るアベル。が、それ以上触れずに子供たちへと視線を移した。
「いい先生に恵まれたんでしょうね、これは」
「何度こういう仕事をコナしてきたんだロウね」
会話になんとなく加わって、ジェックは拾い上げたライフルを投げ捨てた。
「いい銃あるかと思ったらクズばっかり。残念」
二人の横を、子供たちの手伝いをしていた美弥妃と鶫が通り過ぎる。
「ここの子供たちが、もっとマシな場所に行けたらいいデスねぇ」
「ええ、全く……」
古い記憶を振り返るように、鶫は空を見上げた。
「幸せに、なれればいいですね」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お帰りなさいませ、イレギュラーズの皆様。
皆様の戦力が加わったおかげでLMFは奴隷訓練キャンプを制圧し、出荷されそうになっていた子供たちを保護、ならびに流通ルートをあばいて根元をたつための調査を進めています。
これらの情報はローレットの情報屋にも共有される予定のようです。
GMコメント
■依頼内容
軍事訓練キャンプの制圧
このとき戦闘する相手はキャンプを守っている兵士のみです。
訓練を受けさせられている奴隷たちは(戦う理由と技術がないので)戦闘に参加しません。
パートの分け方としては
・戦闘前、教会内で過ごす時間。
・キャンプに飛び込んでいく。
・兵士たちと戦いまくる
の三段階となります。段階ごとに解説していきましょう。
■戦闘前のパート
現地到着まで教会で過ごします。
ここには沢山の孤児が暮らしており、彼らは自分たちの食い扶持を稼ぐため傭兵業をビジネスにしています。
子供を戦わせると言う割には皆満足そうで、メランとアリコを先生と呼んで慕っています。
子供たちと交流してもいいですし、アップルパイやコーヒーをもらってくつろいでいても構いません。武器の手入れをしておくのもいいでしょう。
■飛び込んでいくパート
教会は砂鯨の上に立っており、輸送ヘリハッチのほうに開放されたステンドグラスから飛び立っていくことになります。
『飛行』スキルがあるならそれを使用してください。
飛行能力がなければジェットパックや媒体飛行を『出撃の瞬間』と『着地寸前』に使用します。簡易飛行しながらの戦闘はできないので、基本的に落ちながら戦うことになるでしょう。
位置的にも回避と防御にペナルティがかかるため、身を固めながら突っ込むことになります。
※ジェットパックはレンタルできます。
※メランはこういう状況でも積極的に攻撃していくブッコミスタイルで行くようです。
■本格制圧パート
着地後、即座に敵兵との戦闘になります。
統率のとられた兵士たちはがんがん集まってどんどん取り囲んでくるので、効率的に倒していけなければすぐに圧迫されてしまうでしょう。
敵兵の装備はアサルトライフルとコンバットナイフです。
個体戦闘力は低いので、こちらの個人ごとの強みをガンガン活かしていきましょう。
※メランはブーツと一体になったヒールガンによる射撃と格闘術によって積極的に戦っていきます。
また、メランの周囲にはバフ効果が発生するので積極的に近くで戦うとお得です。
■後始末
このパートでは特にすべきことはありません。
バリバリに訓練された子供たちがキャンプを効率よく制圧し、やるべきことは全部素早く済ませます。
その光景を見守るのもいいですし、一足先に教会に帰投するのもいいでしょう。
※このときメランは現場監督を務め、アリコは教会頂上から部隊に精密なオペレーション行なっています。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
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