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シナリオ詳細

砂漠の鮫
砂漠の鮫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●月影に呑まれる
 砂漠が人を寄せ付けない死の大地であったのも昔の話だ。人間は天文学や測量技術を磨き、砂漠の中に隠れた道を切り拓いた。ラクダやその他の動物達を用いてその道を進む事で、様々な交易品を様々な土地へ齎すことに成功したのである。
 今も、一人の青年がラクダに乗って砂漠を進んでいた。鞍の横には様々な荷物が吊り下げられている。彼は商人。砂漠を越え、異国で仕入れた選り取り見取りの珍品を都で売り捌くのである。
 空を見上げれば、月が輝いている。灼熱の昼と違って、夜は寒いくらいだ。暑さにも喉の渇きにも悩まされる事は無い。星図を頼りに道を行けば、道に迷う事も無い。砂漠を旅するにはお誂え向きのタイミングである。……ある危機が迫る事を除けば。
「……ふう。あと少しだぞ」
 ラクダの首を撫でながら、青年は呟く。周りに仲間はいない。彼はたった一人の隊商である。つい最近商人としての道を歩み始めたばかり、仲間をかき集めたり護衛を雇うだけの余裕はなかったのである。
 しかしそれが、青年の命取りとなってしまったのである。
「おい、どうしたんだよ?」
 ラクダが唸って足を止める。足から根っこが生えたように、それは梃子でも動こうとしない。青年は怪訝な顔をしてラクダの首筋を叩いたが、いきなりラクダは身体を大きく振るい、青年を砂漠の上に振り落としてしまった。青年が起き上がる間もなく、ラクダはバタバタと走って砂漠の彼方へ消えていく。
「待ってくれよ! どうして――」
 そこで言葉は途切れる。砂漠の上から、青年の姿は影も形もなくなってしまっていた。そこには、湖に水滴を一つ零したような痕だけが残っていた。

●砂漠の怪異を探れ
「最近、砂漠地帯で商人が行方不明となる事件が相次いでいるのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、依頼書をひらりと捲りながら、イレギュラーズに一通り説明していく。行方不明になった者達の人数から、原因と見込まれている魔獣の存在まで。
「おそらく、この事件を引き起こしているのは『デザートダイバー』なのです。実際に被害を受けた事件だけでなく、隊商の護衛が交戦して何とか追い払ったという情報も聞こえているのですよ」
 デザートダイバー。鮫のような頭部をもつ巨大生物である。砂に潜って潜んでは、獲物の陰から襲い掛かるのだ。人間程度は一飲みにしてしまうから、その死体は一欠片も残らない。
「砂漠に原生の魔獣ですから完全に駆除する事は出来ないのですが、それにしても少し数が増えすぎてしまっているのかもしれないのです。なので依頼主の方は、まず皆さんには4匹ほど狩ってもらって、様子を見たい……とのことです」
 依頼書をくるりと丸めると、ユリーカもぺこりと頭を下げた。
「ではよろしくなのです。砂漠に釣り糸を垂らすのも、有効な戦術なのですよ」

GMコメント

●目標
 デザートダイバー4匹の討伐。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 夜。広い砂漠で戦闘を行います。
 月明かりで砂漠が照らされ、案外視界は悪くありません。もう少し明るい照明があってもいいですが。
 戦場は丘のようになっています。足場も悪く、移動はやや大変かもしれません。

●敵
☆デザートダイバー×∞
 砂漠に原生する魔獣です。海のように砂の中を自在に泳ぎ回って攻撃を行います。一旦砂漠に引きずり込まれると、仲間の援護なしで抜け出すのは困難です。注意して戦いましょう。
・攻撃方法
→引きずり込み
 砂から飛び出して噛み付きます。命中した場合、砂に半身を埋められ移動が困難になってしまいます。
→ぶん回し
 尻尾を振り回して攻撃します。自らの周囲に広く影響を及ぼします。
・性質
→鋭い嗅覚
 血の匂いに反応します。標的が生きているかどうかはあまり関係ありません。
→縄張り意識
 デザートダイバーの縄張り意識は強く、2匹よりも多くデザートダイバーが集まる事は滅多にありません。
→警戒心
 同種の血に染まった場所にはあまり近寄りたがりません。

●TIPS
 釣れます。


影絵企鵝です。
夏ですね! サメはいかがですか? という事でよろしくお願いします。

  • 砂漠の鮫完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月25日 21時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
愛の吸血鬼
ニーニア・リーカー(p3p002058)
堕天使ハ舞イ降リタ
実験体37号(p3p002277)
イギョウノショウジョ
クリストファー・J・バートランド(p3p006801)
荒野の珍味体験者
アルク・テンペリオン(p3p007030)
蒐集氷精
恋屍・愛無(p3p007296)
ラブ&ピース
Erstine・Winstein(p3p007325)
氷結
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海武闘

リプレイ

●砂漠鮫の一本釣り
 砂漠に2本の轍が刻まれる。一頭のラクダが、ニーニア・リーカー(p3p002058)の馬車を引いていた。幅広の車輪に履き替えはしたが、砂が柔らかくて車輪が空回りする。ニーニアは馬車の後ろにつき、何とか馬車を押していた。
「うーん……もしかして馬車で荷物を持ってきたのは、ちょっと失敗だったかな……」
「血の滴るような肉を背負ってくるわけにもいかんだろう。それこそ我々ごと餌にされる可能性もある」
 海洋マフィアの若頭、ジョージ・キングマン(p3p007332)も隣で馬車を押していた。
「しかし、魔獣の増殖か。海路でも陸路でも、通商ルートの問題は似たり寄ったりになるものだな」
 小さな島を縄張りにして用心棒を務めるジョージ。商船の護衛を買って出る事も少なくなかった。月明かりにその青い瞳を輝かせ、Erstine・Winstein(p3p007325)はそんな彼をちらりと見遣った。
「貴方もサメ退治の経験があって?」
「ああ。……まさか、陸でサメ退治に呼ばれるとは、思いもしなかったが」
「そうね。この時期の海にはよく鮫がうようよしているけれど、まさか砂の方にもいるなんて、ねえ」
 エルスティーネは饒舌だ。混沌の世界に来て、人の血が嫌いになって、吸血鬼としては半端者になった彼女だが、それでも夜は相変わらず調子がいい。揚々とアルク・テンペリオン(p3p007030)に振り返った。
「そろそろ現場ではなくって?」
「ふむ、そうだね……」
 アルクはその手に持った氷の鳥籠を軽く振る。足元の砂が僅かに揺れたかと思うと、小さな人型を形作る。
「この辺りに砂漠鮫の群れは居るかい?」
 砂は小さく揺れ、丘陵をするすると下っていく。何の変哲もない砂漠だが、どうやら何かがいるらしい。アルクは精霊を見て小さく頷くと、
「どうやらあの辺りに潜んでいるみたいだ」
「よし! それじゃあ趣味で鍛えた腕を見せちゃうんだから!」
 ニーニアはラクダに合図して馬車を止めると、箱と布で丁寧に包まれた生肉を取り出す。クリストファー・J・バートランド(p3p006801)は早速丈夫なロープを取り出し、血の滲む生臭い肉をロープの先端に巻き付けていく。
「さーて夜釣りだ、サメ釣りだ!」
 と、表向きには明るく振舞っても、その内心はざわついていた。荒野でも平気な顔で泳ぐ魚がいるなら、砂漠で悠々と泳ぐ鮫もいるだろう。厭な事を思い出したクリストファーは溜め息をつく。そんな彼の横で、実験体37号(p3p002277)は仕掛けの作られていく様子を見つめていた。
「それで、釣るの?」
「ああ。普通の釣りとは勝手が違うけど、まあ何とかなるだろ」
 37号はこくりと頷く。何人も行方不明者が出ているのは彼女も解っている。だから口には出さないが、少女は少し楽しみだった。これまで外の世界を知らなかった37号、当然釣りも初めて。内心37号は楽しみだった。
「デザートダイバーさん……絶対に釣り上げる……!」
「頼むぜ。人を丸呑みできるような鮫だからな。並大抵の力じゃこっちが砂に引きずり込まれる」
「うん……力なら、自信ある」
 クリストファーが仕掛けを作っている間に、ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は空に一羽の蝙蝠を呼びつけていた。月が空高く昇り、蝙蝠もユーリエも今まさに絶好調な時間帯である。
「上に飛んで、何か見えたらキィって鳴いてね!」
「キィ」
 鳴いて答えた蝙蝠は、パタパタと空へ飛び上がる。高空から見下ろす目を用意して、戦いの準備は既に完了である。彼女はニーニアへ手を振った。
「準備出来たよ!」
「ありがとう。こっちも今出来たとこだよ」
 ニーニアは肉を結び付けたロープを右手の先に吊るし、丘陵のふもとへ狙いを定める。恋屍・愛無(p3p007296)はそっと彼女に歩み寄り、彼女のぶら下げた肉にそっと手を振れた。少年の身体を象る粘体を一部切り離し、こっそり肉へと埋め込む。
「なるべく遠くまで投げてくれ。近くに落とすと僕達も危ない」
「よーし……」
 彼女は小さく頷くと、肉を振り回して遠心力を付け、投網の要領で肉を砂漠の中へと投げ込んだ。37号も片手で肉の塊を摘まみ上げると、力任せにぶん投げた。二つの肉塊は、どさりどさりと砂漠に落ち、その衝撃で中に溜まった血を溢れさせる。ニーニアはエルスティーネと共に鋼製の長い釣竿を持ち、37号はロープを直接握って、獲物が掛かる瞬間をじりじりと待ち構えた。愛無とジョージは馬車を囲うように位置取って砂海の様子を見守る。愛無は耳を澄まして音の揺れを探り、ジョージは翼を広げて飛び上がり、上空から様子を窺った。
 やがて、愛無の耳は僅かに砂の崩れる音を捉え、ユーリエの飛ばした蝙蝠もキィキィと甲高い声で鳴き始めた。彼方の砂が僅かに崩れ、砂がまるで押し寄せる波のようにうねり始める。クリストファーは37号の後ろでロープを握りしめた。
「砂に起こる波……どうやら来たみたいだな……!」
 砂面が突然弾け、巨大な口が二つ飛び出す。肉が一気に呑み込まれ、口は再び砂海の中へと潜り込もうとする。
「来た……!」
「これが当たりというもの……なのね!」
 ニーニアとエルスティーネは慌てて釣竿を引く。一等品の竿が激しくしなった。それどころか2人までもが丘陵の下へと引っ張り込まれる勢いだ。クリストファーは慌てて竿に飛びつき、どうにか竿を引き揚げようとする。しかし砂の上では踏ん張れない。3人揃ってずるずると坂道を引きずられていく。
「マズい! 何とかできないか?」
「と言っても……力も強いし、足場も悪くて……!」
「ごめんなさい。2人でもう少し頑張ってくれる?」
 エルスティーネは釣竿を手放すと、咄嗟に飛び出した。ロープを引いて暴れる何かが、砂をばたばたと撥ね退けている。深くまで潜ってはいないらしい。彼女は右手に鉄の爪を纏わせると、力強く飛び上がった。
「さあ、まずは先陣を切らせてもらうわね!」
 その白い肌を月光に照らして、砂の波へと突っ込んだ。振り下ろした爪が、ぶよぶよしたものに突き刺さる。頭上からの強襲を受け、いきなりそれは砂の中から飛び出した。釣竿を手放し、ニーニアは目を丸くする。
「これがデザートダイバー……大物だ……」
 胸鰭の代わりに屈強な水かき付きの前脚を生やした砂漠の鮫。褐色の斑模様を持つそれは、何処からともなく咆哮を発した。
「あれが、デザートダイバーさん……」
 37号の手にあるロープも引き始めていた。巨大な両腕でロープを握りしめると、少女は力任せにロープを引っ張った。多少の抵抗など、37号はものともしない。無理矢理砂の中からもう一匹の砂漠鮫を引きずり出してしまった。
 並び立った2体の鮫。頭を振ってイレギュラーズの姿を認めた鮫は、その鋭い牙を見せつけ威嚇した。37号と愛無は一斉に飛び出すと、諸手を構えて鮫の正面に対峙する。
「37号だよ。……デザートダイバーさん、って、美味しい?」
「砂漠の生態系の頂点か。尤も、この恋屍愛無がいる以上、今日までの事だがな」
 鮫は前脚を掻き回し、尻尾で砂を払いながら、2人へ襲い掛かる。片方は既に愛無の味を知っていた。いい獲物とばかりに襲い掛かる。愛無は手甲を構えると、噛み付こうとした鮫の鼻面を殴りつけ、衝突を相殺した。
 隣では37号へ鮫が飛び掛かったところだった。37号は両腕で砂を掴んで脇へと躱し、そのまま両手で鮫をどついた。鮫は一瞬怯んだが、そのまま尻尾を大振りに振るって砂場を薙ぎ払った。打たれた37号は宙へと舞い上げられる。そこへユーリエが素早く飛び出し、37号へと小瓶を投げた。癒しの効果があるらしい薬が詰まっている。
「受け取って!」
 そのまま彼女は拳を握りしめると、右手に巻いた銀色の鎖を赤黒く染め上げる。
「ヴァンパイア・ブラッディ・チェーン!」
 振り返った鮫の腕に、鎖が鋭く巻きつく。ユーリエは力任せに鮫の身体を引き寄せ、その動きを封じ込めた。鮫は全身を振り回し、ユーリエを振り払おうとする。
「今のうちです! 何とか……!」
 砂煙の陰に潜んでいたクリストファーが、不意に飛び出す。足音無く走り抜けた彼は、両手に嵌めた拳を構えて襲い掛かった。
「これでも喰らいやがれ!」
 背後から頭を打たれた鮫は一瞬ぐらついたが、それでも首を激しく振ってクリストファーを弾き飛ばす。鋭い牙は右手で受け流した彼だったが、鮫は片腕を伸ばして強引にクリストファーの脚を掴み、そのまま半身を潜り込ませた。巨獣の怪力からは逃れられず、そのまま彼は腰から下を砂の中に埋められる。
「やべえ、こいつは……!」
「クリストファー、掴まれ!」
 アルクは籠から取り出した縄を投げつける。その輪を掴んだクリストファーを、彼は力任せに引っ張り上げる。砂漠の夜は寒い。氷の精霊にとってはお誂え向きのコンディションだ。楽々とクリストファーを引きずり寄せ、その顔を覗き込む。
「大丈夫かい?」
「ああ、何とかなったぜ」
 クリストファーが頷いたのを見ると、アルクは砂漠に振り返る。鮫は砂からヒレだけ出して、砂をざらざらと掻き分けてアルクへと迫っていた。彼は目の前の砂に手を翳すと、その身に宿る魔力を手元に縒り合わせていく。
「砂漠の鮫とはいえ、釣れる魚は新鮮なうちに冷凍保存しないと!」
 放たれた冷気は、砂漠の僅かな水気を掻き集めて砂を霜付かせ、砂から突き出した背びれまで凍り付かせていく。これは堪えたのか、鮫は素早くUターンしてアルクから離れていく。立ち上がって砂を払い、クリストファーはちらりとアルクを見遣る。
「……食うのか?」
「いや……確かに、食えそうな見た目じゃないけどさ……」
 背中に翼を生やして、ニーニアとジョージの2人が夜の砂漠を飛び回る。1頭はその頭をもたげて彼女達を追い、尻尾で跳ねてその爪で彼らを絡め取ろうとする。ニーニアは膝を抱えて宙返り、ひらりとその一撃を躱してしまった。彼女はそのまま肩掛け鞄を手に取ると、中から大量のハガキを手に取る。
「これは呪いのお葉書です。後3匹に配らないと1分後大変な事になります……なんて」
 ニーニアは呟きながら、ハガキを一枚鮫に向かって投げつける。手裏剣のようにハガキは鋭く回転し、鮫肌に鋭く突き刺さる。その瞬間に得体の知れない力場が働き、鮫の斑模様が毒々しい色へ変わっていく。ニーニアが手を翳すと、葉書はニーニアの手元へと返ってきた。今度はジョージが入れ替わるように急降下していく。
「この一撃は銛にも勝るぞ」
 彼は言い放つと、鮫の鼻先に鋭く拳を叩き込んだ。カツオドリが水中へ飛び込むが如くの一撃。鼻先を抉られた鮫は思わず鼻を覆って仰け反った。再び宙へ舞い上がり、ジョージは手元の生臭さを感じて溜め息をつく。
「本当は銛を使いたいところなんだが……」
 拳法に長じたのは懐にいつも隙間風が吹いてるお陰。しかしファミリーを食わせるためにも、削れるところは削るしかないのだ。隣で葉書を擲ち雷をばら撒くニーニアを見遣り、ジョージは小さく肩を落とした。
 肉に釣られて全身を引きずり出され、そのまま陸空から翻弄される砂漠の鮫2頭。ユーリエとエルスティーネは並んで鮫をじっと見下ろす。
「もしかしてだけれど、貴方は吸血鬼なのかしら?」
「はい。私は半分……ですが。貴方も?」
 ユーリエが首を傾げると、エルスティーネはこくりと頷く。
「ええ。こちらの世界には来たばかりで、戦い慣れていないけれどね」
「なるほど。せっかくですし、ここは共闘といきませんか? 吸血鬼同士で」
「そうね。貴方の力も借りつつ……好きに暴れさせてもらうわ!」
 2人は目配せすると、ユーリエは早速鎖を長く編み始めた。矢も楯もたまらず地中へ逃れようとする鮫の尻尾に、深紅の鎖を鋭く巻きつけてしまう。
「今です!」
「任せなさいな」
 エルスティーネは右腕を振り抜く。爪先から沁み出した血飛沫が、鋭い深紅の刃へ変わる。砂の坂を駆け下りだ彼女は、砂から覗いた鮫の眼を目掛けてその刃を突き立てた。脳を穿たれた鮫はびくりと飛び跳ねその亡骸を砂海に晒す。小さくその手を曲げ伸ばし、彼女は溜め息をついた。
「力だけは、そのままなのね」

 愛無と37号が前から後ろから鮫へと襲い掛かる。刺々しい手甲で、愛無は右へ左へ跳びながら次々鮫の腹にコンビネーションを叩き込んでいく。既に満身創痍の鮫に、37号は止めとばかり巨大な右腕を振り回す。
「全力、あっぱー!」
 下あごも上あごもまとめて砕き、吹き飛ばした鮫は口から血を溢れさせ、小さく痙攣しながら事切れる。すとんと砂に腰を下ろし、37号は首を傾げた。
「一段落、かな?」
「ああ。とりあえず身に付いた血は拭うなり、着替えるなりしよう。こんだけ派手にやったら、きっともうここに鮫は来ない。釣り場を変えないとな」
 クリストファーが言うと、彼らは自分に纏わりついた鮫の体液の処理を始めるのだった。

 一度戦いのコツを掴んでしまえば、後は早い。場所を変えながら入念に準備を済ませたイレギュラーズは1匹ずつ砂漠鮫を釣り上げ、無事に予定の4匹を狩りきってみせたのだった。

●赤い砂
 月が西の彼方へ沈み、東の空が白む頃。しばらく経った砂漠鮫の死骸は既に強烈な刺激臭を発するようになっていた。顔を顰めながらも、ジョージは鮫の脇腹を掻っ切り、その血を瓶に絞り出す。口元を布で覆い隠したアルクは、そんな彼の作業の様子を見守る。
「その血はどうするつもりだい?」
「これを一瓶馬車に積んでおくつもりだ。少し砂に血が散った程度で他の群れが近寄りたがらないなら、こうして馬車に血を積んでおけば、臭いを嫌がってこれ以上鮫が近づいてくる事も無いだろう」
「なるほどね。それなら、ちょっと俺に考えがある」
 アルクは氷の籠から瓶を一つ取り出すと、足下の砂を掬って瓶に入れる。その瓶の中に鮫の血を注ぎ込んでいく。そのままコルクで栓をすると、一気に振って砂と血を混ぜていく。朝日にそっと掲げてみると、血に染まった砂が赤く輝いている。
「……これでどうかな。血はそのうち固まっちゃうからそのまま持ち歩くわけにはいかないけど、こうすれば、御守りみたいにして持ち歩けるんじゃないかな」
「ふむ……」
 ジョージが瓶をしげしげ眺めていると、背後からひょこりと愛無が顔を覗かせた。
「お守り、なるほどお守りか」
 愛無は納得したように頷くと、馬車から解体用の鉈を取り出し、力任せに鮫の身体を切り裂いた。血で自らが汚れるのも構わず、溢れる悪臭さえも気に留めず、愛無は力任せに鮫を解体していく。
「ど、どうしたんだ?」
「鮫は同胞の死臭を敏感に察知して寄ってこなくなるわけだ。つまり、この臓物やヒレを匂い袋にでも押し込んでおけば、鮫除けのお守りとして商品に出来る可能性があるな」
 無表情のまま飄々としているが、どうにも口調が軽い。金儲けの臭いを嗅ぎつけて、愛無なりに気分が盛り上がっているらしい。
 ニーニアとユーリエは馬車の傍に屈みこみ、刷毛を使って車軸に纏わりついた細かい砂を払っていた。砂が車輪に噛むと馬車が動かなくなってしまう。帰る前の手入れは大事だった。
「これで……よし。これで街まで何とか押していけそうかな」
 ラクダは鼻息を鳴らした。その足で砂漠の砂を引っ掻いている。どうやら鮫の死臭が気に召さないようだ。ユーリエはそんなラクダを宥めるように首筋を撫で、穏やかな姿を取り戻した砂海を見渡す。
「砂漠に鮫……と聞いた時はちょっと怖いなんて思ったりしたけど、何とかなったね」
「釣りをする人はいっぱいいるけど……鮫を釣った人なんてそうそういないよね。これは自慢できちゃうかも」
 ニーニアはくすりと笑う。郵便屋の仲間に話した時の顔を見るのが楽しみだった。ユーリエもそんな彼女の話を聞いてこくこく頷いていたが、だんだんと頭が重たくなってきた。東から漏れる朝日が彼女を照らしていた。
「あー……夜中たくさん動いたから、何だか眠たくなってきちゃったかも……馬車の中で、寝てもいい?」
「いいよ、お疲れ」
 そんなわけでユーリエが馬車に乗り込むよりも先に、エルスティーネは既に馬車の中で丸くなっていた。
「一般的に鮫は血に寄ってくるイメージだったけれど、ここの鮫は臆病……なのね?」
「まあ、同族の血がばら撒かれてりゃ警戒はするだろ。そこに近づいたら自分まで死ぬ可能性があるって事だろ? 身の危険には近寄らないって事だな。本能的な嫌悪感って奴だろ」
 荷物を整えながらクリストファーが答える。エルスティーネは小さく肩を竦めた。
「そう……確かに、釣りは血の匂いに引かれて飛びついて来たんだものね……」
 この世界に来て血が苦手になった自分に似ている。そんな感傷的な気分に浸りかけたが、どうやらそういうわけではないらしい。
「……同族の血には、本能的な嫌悪感を抱く……ね」
 吸血鬼は人間の血を好む。つまり人間は獲物であって同族たりえない。しかしこの混沌に溢れた世界においては、果たして。彼女は憂いるような顔で溜め息をつくのだった。



 朝日に眠る2人の吸血鬼、愛無達の回収した鮫の血や臓物を乗せて、ラクダの馬車は砂漠に轍を刻む。砂漠鮫が狩られてその血が交易路に沁み込んだ結果、しばらく隊商は平穏な旅路を進む事が出来たという。

 おわり

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
ラブ&ピース

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加ありがとうございました。
かなり振りを入れたとはいえ、まさかここまで全力で釣りに来るとは思いませんでした。砂漠に馬車は危ない所でしたが、積極的に鮫を引き付ける役割の人がいたので無事でした。

砂漠では何やらきな臭い事が起こっているとのこと。また縁がありましたら砂漠でお会いしましょう。

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