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シナリオ詳細

【I.L.E】窓辺の貴婦人と『悩み事』

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●それは窓辺で囁かれる
 朝露混じりの霧がかった森に少女の啜り泣きが木霊する。
 その姿を探そうとしても中々見つからないだろう。少女がいるのは迷宮森林の深部の領域、生半な事では小柄な体躯の其姿を捉える事は難しいに違いない。
 ただ……少女が今居る場所を見つける事は恐ろしく容易い。
「私そんなつもりじゃなかったのに、お母さんもファルカウの人もみんなして私が悪者みたいに責めて……
 あ! 色々聞かれたけど、『ここの事』は誰にも言わなかったよ!」
「――まあ。そんな事があったのね。
 ごめんなさいニウル、きっと私のせいね……貴女に頼みごとをしてしまったから」
「あ、ううん! そんな事ないよ! だってレスキターダさんのおかげで、遠い村の女の子が助けられたんだって聞いたんだもの! 英雄じゃん!」
 涙を拭いながら窓辺に縋りついて擁護の言葉募る少女。
 そう、彼女が寄り掛かっているのは白い――深緑に覆われし迷宮の中において余りにも不釣り合いな程に純白のアーチが印象的な、窓だ。

 少女ニウルが最初に見つけてから暫く。
 一時は樹木の内に在った窓辺だったが、今ではあからさまに景色の中で宙に浮いて異質さを醸し出している。
 それも、日が経つにつれて窓枠以外の壁が浮かび上がって来ている。
 ニウルがそれについて訊ねた際に窓辺の貴婦人――ニウルには "レスキターダ" と名乗った――が言うには、先日の落雷によって魔法が解けてしまっているのだと答えていたが。
「英雄……少しだけそれはくすぐったいわ。私は女ですもの、ね」
「あ、そうだね。ごめんなさい……」
「いいのよニウル、そんなに謝ってばかりではせっかく淹れた紅茶が美味しくなくなってしまうわ。
 ――ねえニウル。
 実は私、悩み事があるの。貴女には手紙の事で沢山迷惑をかけてしまったけれど……これは私一人では難しいの」
 窓硝子の向こうに微かに映る女性、レスキターダは困ったように声を潜めて。
「先日、貴女は『外』の誰かが集落に来たと言っていたでしょう。
 とても頼りになる優しい人達だったと聞いたわ。ラサの……荒っぽい人達よりも、きっと頼むならそういう人達の方が良いと思うの。
 嫌な想いをさせたばかりだけれど、もし貴女が良ければその人達に任せられないかしら」
 ニウルはまるで自分の出番だとばかりに。未熟故の幼さからくる無責任な使命感に胸を弾ませ「任せて! 何でも言ってよ!」と窓を見上げた。
 窓の向こうからくすり、と小さく笑い声が漏れる。
 その時。
「……数日後。私の『屋敷』に凶暴な魔獣が入って来てしまうみたいなの、それを防ぐ為に少し――ね?」
「……!」
 白い衣装。白い肌。
 肩口から流した金の髪に黒曜石の装飾を飾りつけ、幻想種特有の長い耳を持つ優し気な女性。
 穏やかな声音の持ち主に相応しい。それがニウルが目にした、窓の向こうに住む貴婦人の姿だった。

●森の魔獣討伐
 『迷走屋』ミリタリア・シュトラーセ(p3n000037)は何とも訝し気な表情を浮かべながら卓に集まった面々の前に置いた杯に水を注ぎ入れる。
 指を鳴らす。特に意味はないのが肝だ、というわけで彼女は後ろ手に取ったトレイに並んだ熱々の石焼のステーキを全員の前に並べて席に着いた。
 とりあえずいわねばなるまい。
「なんで??」
「日頃の労いです。そして私がこちらのお店にしばしば興味がありましたので」
 ミリタリアはキリリとナプキンを敷いて上品な手つきで食器に手をつける。
「それでですね、今回の依頼ですが。
 また深緑の方から依頼が来ているんですよ、それも今回は私が別件で担当した事件の一因となっていた少女本人から……あつっ、
 はふ……ん。甘いですねこのお肉、ソースにワインを使っているのでしょうか?」

 舌鼓を打っているミリタリアに唆されてイレギュラーズも手を付けながら。
 依頼は深緑のとある集落に住むニウルという少女からの物らしい。
 どうにも彼女の慕う女性が住む家に近々、迷宮森林に棲む厄介な魔獣がやって来るらしい。
 調べに寄れば。その言の信憑性はともかくとして、魔獣の生態からして有り得ない話では無い様なのだ。
「魔獣の名はラビリンスエッグ――深緑では主に深部で生息する中型の魔物ですが、
 取り巻きを常に連れているのと、厄介な触手による被害が嫌われているようです。一応弱点が二種類あるので討伐難度は低いのですが」
 ミリタリアが卓の中央に置かれた資料を指差す。
 醜悪な肉塊のような怪物から多量の触手が蠢いている写真が数枚載っていた。
「弱点と言うと?」
「この魔物がデリケートな性質を持っている為でしょう。弱点は『燃焼』と『再生を促す治癒効果』……この二点です」
 熱されたプレートに肉を押し付けた時、その場にジュウと音が鳴った。

GMコメント

 ちくわ大総統です、よろしくお願いします。
 今回は不思議なあの女のハウスを守ると見せかけて害獣駆除依頼です。

 以下情報。

●情報精度A
 不測の事態は発生しません。

●依頼成功条件
 対象エネミーを三体以上撃破する

●ロケーション
 深緑におけるファルカウから深部寄りの一帯。
 皆様には案内役を買って出た依頼人の少女ニウルが随伴し、同時に簡単な地図を支給されるので道中の心配はほぼありません。
 それよりも戦場として、このロケーション内に限界距離等は無く。森林内で魔獣の生態に照らし合わせた探索位置に応じて発見数が変動します(詳細は以下エネミーにて)
 足場そのものは特別補正が掛かるモノはありません。強いて言えば視界が木々によって悪く、50mから先は見えない物とします。

●エネミー
 『ラビリンスエッグ』(依頼成功討伐数は3体)
 一定の周期で、人が近寄らない様な瘴気や魔力濃度を有する土地に近付いて行く性質を持っています。
 迷宮森林においてこれらの特徴が当てはまる場合。大抵は対象地域に精霊が多く見られたり、植物の異常発達、悪霊等の霊魂が集う等々の現象が発生しています。
 大きさは約5mの肉塊といった風貌で、全体から獲物を麻痺毒で動けなくさせたり恍惚化させる分泌物を纏う触手が生えており
 主に打撃や締め付け、至近~中距離での攻撃に気をつけた方が良いでしょう。
 これら魔獣をなるべく多く撃破して下さい。

 『しろきもの』
 ラビリンスエッグの周囲には人型の細い、白くクネクネした、輪郭がぼやけるほど高速で震えている謎の魔物が二体うろついています。
 生命力が大変弱く、それほど手強い相手ではない雑魚ですが。攻撃を受けると狂気に侵される危険性があります。
 これらはラビリンスエッグの至近距離にいる敵には向かわず、少し離れてる生物を狙う傾向があります。

●依頼人『ニウル』
 幻想種の少女。皆様への信頼が高く、彼女がいれば迷宮森林で迷うことは無いでしょう。
 戦闘時は自ら機動力を上げて安全圏へ離脱するので気にする事はありません。

▼窓辺の貴婦人
 どこかにある、不思議な窓辺の向こうに住む女性。(この辺は皆様に依頼人から話してある体です)
 依頼人が慕う女性のようですが、それ以外に情報は少ないです。

 以上。

 色々な工夫、アドリブ等歓迎。
 皆様のご参加をお待ちしております。

  • 【I.L.E】窓辺の貴婦人と『悩み事』完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月27日 23時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)
絆魂樹精
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
フレイ・カミイ(p3p001369)
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
アルメリア・イーグルトン(p3p006810)
緑雷の魔女
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
高貴な責務
フィール・ティル・レイストーム(p3p007311)
特異運命座標

リプレイ

●安堵の少女
 イレギュラーズと合流した少女は先ず最初に安堵の息を吐いていた。
「よくよく災難に見舞われるね、此処。まだ二度目だけど、二度あることは……っと」
 道すがら。依頼人でもある案内人の少女ニウルの背中を追う『特異運命座標』フィール・ティル・レイストーム(p3p007311)は木の根を飛び越えて言った。
「でも、ま、今度もボク達がなんとかしてあげるよ……期待しててよ?」
「改めてよろしくねニウル君。魔獣退治がんばろー!」
 金髪の赤い瞳。『外』に住む幻想種の男の子。月色の髪にオッドアイ。同じく。
 ニウルは『タブラ・ラーサ』ノアルカイム=ノアルシエラ(p3p000046)達を覚えている。フレイ・カミイ(p3p001369)に集落の地形図を渡した事もそうだが、イレギュラーズの事は己が迷惑を掛けてしまった相手として色濃く記憶に残っていた。
 それは、あの窓辺の貴婦人が推したとはいえ心情として不安もあった事を踏まえれば願っても無い事だった。
「ローレットの皆さんが優しくて頼りになる人ばかりで良かったです……ちょっと怖い魔獣が相手だけど、よろしくお願いします!」
 きちんと挨拶しなきゃと振り返る。
 ニウルの向いた先では丁度、以前と同じく雰囲気に似合わぬ作業を片手にするフレイの姿が先に視界に入った。彼は今、手元の簡易図にニウルの居た集落での情報を基とした詳細な図面を書き起こしているようだった。
 彼の周りには妖精の翅を揺らす『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)や『イカダ漂流チート第二の刺客』エル・ウッドランド(p3p006713)の姿もある。イレギュラーズというのは一様にして戦う以外のスキルに長けているのだろうか、と少女は小首を傾げるのだった。
「敵がいる所には、植物以外にも精霊が多く見られたり、悪霊等の霊魂が集うのか……大変な依頼になりそうだな……」
「そんな魔獣が住んでる場所に近付いて来たら……その……貴婦人さん? も困りますよね、頑張ります!」
「そーそー、人助け大事。そしてだ!! その貴婦人とやらは美人か!?」
(思い出したように何を聞いてるのこの人ーー!?)
 ビクゥ、と耳が跳ねる少女に迫る赤髪と逞しい胸筋。助けを求めるように見れば、外見は幻想種に似ているが実は鉄騎種だというエルと目が合う。
「貴婦人のお名前は何て言うのですか? ……私も、少し気になってて」
「さっき集落で挨拶した時、あれだけ必死に慕ってる人の為にお願いしてる姿見たら気になるよね。どんな人なのかな」
 一応名前を知って置きたいだけで深い意味はないと言うエルの傍ら、ノアルカイムはフレイに乗る形で話を広げようとする。
 ニウルは僅かに目を泳がせ言い淀んだが、すぐにぱっと視線を戻した。
「私がお慕いする貴婦人様は、『レスキターダ・デッシエルタ』ってお名前で……何だか外の貴族様みたいですよね。
 それにすごくきれいな人です。金髪で、幻想種ですけど……何だか同じ人じゃない気がしちゃうような――」
「(重要項目CHECK済)そうか美人か。ようしお前ら! 特に鎌妖精は迅速に手掛かりを見つけて早々に魔獣をガッツリ殺して回るぞ!!」
「フレイ君わかりやすい」
 ガハハハ! とテンションが急上昇する様子のフレイにノアルカイムはこういう人が逆に安心できるよね。と一笑み。
(あれ……金髪の、ハーモニア?)
「仕事を終えた後でその方にお会いする事は出来るのでしょうか、少々……気になりますから」
「えっと、それはレスキターダさんに聞いてみないと……」

 ニウル達のそんな一幕を後方から見る一方で、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は『絵本の外の大冒険』アルメリア・イーグルトン(p3p006810)の寄せて来た本の一頁に『斜陽』ルチア・アフラニア(p3p006865)と共に目を落としていた。
 深緑に関する、広く知られる範囲の図鑑。その一節に今回彼等が間引きする魔獣について触れられていた。
「うーん、本でちらっと読んだことはあるけど薄気味悪いわ。こんなのが森の中にびっしりあるの?」
「なに、この……肉塊? 命名者が何を思ってこれにエッグなんて付けたのか、私にはさっぱりよね」
「なんでその魔獣はレスキターダさんの家を襲うんだろうね?」
 "深緑を『迷宮』たらしめんとする豊穣の役目を持つ"と記される内容にルチアは「豊穣の女神に謝って来なさいよ……」と顔を顰めた。
 いずれにせよ、密度の高い深緑の森において性質不明な存在は多い。
 首を傾げるのはそれはそれ。アレクシアは困ってる人がいるなら助けないとね、と一人頷いたのだった。

●世は事も無し
 ―――暫くして。
「……こんなに賑やかな森の中を歩くのは初めて……」
 緑だけじゃないのが『迷宮森林』なのだと、ニウルはファルカウの使者から教わった事がある。
 それは森の民たる彼等幻想種にとって自然で当たり前なのかもしれないが、その一端を直に見られる機会は若き少女にとって得難い物だろう。
 アレクシアを始めとした幻想種の性質を活かして探索している者達から都度散る、微かな光の残滓は精霊か。或いは植物との対話の際に贈られた言葉の類か。
 いずれにせよ。一塊となっての探索はそれなりにデメリットがあるものだが、自然と対話する彼女達の存在は一定の成果を挙げられるだろう。
 その証拠に。
「この辺りは薄暗いねー、話しかけても反応が眠そうな子が多いし」
「……サイズさんは私達の事が見えてるんでしょうか」
「周辺さえ見えてれば大丈夫じゃない? 目星を付けられさえすればボクらがある程度位置を絞れるしさ」
 上空から周辺を見下ろしているであろう仲間の様子にエルが不安になった頃、フィールが心配ないさと手を振った。
 何かあればサイズは直ぐに降りて来て報告する手筈になっていた。
「暗いのが怖いならニウル含め女共は俺様にくっついてもいいぞ! ガハハ!」
「戦闘になったら十歩後ろで見守ってるね!」
「じゃあ私はアレクシアの後ろに隠れてようかしら……」
「あ、あの……っ」
 ニウルがアレクシアの手の中から燐光が飛び出していくのを見上げていると、後ろから手持ち無沙汰になったフレイが襲撃する。
 肩を組まれてひええ、となっている少女。ちょっと事案ぽい気もしたがニウルの年齢はそもそも如何程だろうと思い至ったノアルカイムは傍目に小首を傾げて完結する。
「安心しろ、魔物なんぞ俺がガツーンパパっとぶっ飛ばしてやる」
「は、はぃぃ……」
(ちょっかい出すの好きだなぁフレイ君)
 とはいえ何やかんやでこの位置取りは依頼人の安全確保という面では最適解なのでは。
 木陰から一行を見守っていたバブルテングダケがそう思った時、頭上の木々の天幕を破ってサイズが降下して来た。
 報せの鬨である。
「見つけた。と言っても痕跡だろうけど……南西の方で歪な形になった樹木が大きくなってるのが連なってるのが見えた」
「植物の異常発達かしら」
「行ってみよう!」
 ────
 ───
 ─
 蠢く肉塊、全体から生えた肉の蔓。
 痕跡を辿る内、彼等が辿り着いたのは本で見聞きするより遥かに勝る醜悪な貌を持った怪物だった。
 これらの通過した痕に満ちた甘ったるい臭気や異常繁殖した植物達にたかる悪霊や精霊の類はどれほどか。
 アレクシア達が探索中に見せた煌びやかさに比べ一変したその様に、アルメリアは感嘆の声を漏らした。
「やっぱり自分の目で見ると迷宮森林も印象変わってくるわね。そうこなくっちゃ」
「ストーム、お前が死んでも帰って寝るまでは覚えといてやるから安心して刺し違えてこい」
「死なないし。って言うか、変に目立って触手に絡まれたりしないでよね。面倒臭いから」
 盛大にナントな人間砲弾を所望するフレイに憎まれ口を返すフィール。というものの、少しだけ心苦しい物があるのは確かではある。
 増殖した植物群の奥から「みんなー!」という声、ノアルカイムの物だ。
「ノアルカイムさんが戻って来ました……!」
「――ニウル、戦い終わるまではしっかり離れといてよ?」
「はい! 皆さんお気をつけてっ」
 フィールに促されて即座に戦域離脱を図るニウル。続いてアレクシアとアルメリアが側面から迂回しに、入れ替わりに滑り込んで来たノアルカイムに追随する形でルチアが動く。
 ノアルカイムの役目は引き付け。彼女が囮になるという事にモヤッとしつつ、今にも飛び出そうとしていたフレイが漸く彼女をフィールの方へ流しながら前へ踏み出した。
「はー、今度から囮はフレイ君に頼もう。あれおっかないや」
「おう。こっからは一瞬でカタつけてやる」
 ザザァ、と彼等の元へ重い空気が流れ込む。
 ノアルカイムを追う様にして密林の奥から姿を現した怪物の姿、それはまるで名が体を表すかの様。
「……こっちを先に倒す手筈にしていたのは、正解かもしれないな」
 肩に担いだ己が分身たる大鎌をサイズは握り締め。陰から身を躍らせる。
 超振動する白い枯れ木。輪郭も体格も全てがブレて朧げ。直視しているだけで発狂しかねない重圧を感じる。
「―――ッ!!」
 故にしろきもの。迷宮の卵と呼ばれる魔獣の周囲をただ彷徨う一柱を、サイズが揮う大鎌が焔纏い横薙ぎに切り裂いた。
 千切れ飛ぶ細長い物体は、しかしサイズが正体を見る前に虚空へ。一瞬で消失してしまう。
 後続のしろきものがサイズを横切る。その歩み、既に怪魔の矛先はノアルカイムからその後ろに控えるルチアへと向いている様だった。
「死ね!!!!!!!」
 当然そこへ行かせる筈も無い。割り込んだフレイの飛び蹴りがしろきものを頭から叩き伏せ、地に埋めた。数瞬遅れて生じる地響きが渾身の一撃の破壊力を物語る。
「枯れ木みてぇな感触だなコイツ」
「……フレイ、耳」
「あん?」
 不意に掛けられた言葉に、フレイは自身の耳元へ指を這わせた。嫌な滑りを帯びた鮮血が赤く濡らす。
 たった一瞬。それだけでしろきものが放った何らかの攻撃の影響を受けたらしい。
「あー、こんぐらい何でもねぇだろ。回復頼んだわルチア」
「その剛胆さには感心するけれどあなたが頼んでる相手はバブルテングダケよそれ」

 腐った木の根を潜り、窪んだ盆地へ近付いて行くアレクシア達は眼下で蠢いているラビリンスエッグに意識を集中させる。
 地中から溢れ出ている『何か』を啜る異形。
 蠢く肉塊に感覚器官があるのかは定かではない。アルメリアもラビリンスエッグについて知る事は少ないが――少なくとも遠距離にいる餌(魔力)を感知する程度の能力がある。
「癒やしの力を攻撃に使うのも変な気分だけど……さあ、相手になるよ!」
「燃焼はともかく、治癒に弱いって不思議ね。逆に傷つくのか、動きが鈍るのか……どんな反応するかしら」

 ――――ッッッ!!!

 彼女達が描くのは普段自らに、または味方へ向ける筈の癒しの奇跡である。
 アレクシア達が一斉に癒しの力を解き放ちラビリンスエッグを白黄の花弁が包み込んだ瞬間。声無き咆哮と肉の蔓が辺りを襲う。
「ふッ……!」
 連続して轟く銃撃音。千切れ飛ぶ触手が分泌液を撒き散らすが、それらはエルの側を濡らすばかりで届かない。
 彼女の前にはアルメリア……が盾にしている、アレクシアが幾重にも展開した花の結界が触手を、悪しき汚染物質を阻んでいたのだ。
「効いてるね、もういちど行くよ!」
「ええ……!」
 飛来する光弾。花開く治癒魔術が続けて肉塊を打つ。
「随分暴れているね……これは!」
 そこへ、後から追い付いて来たサイズ達前衛が合流する。木々を打つ触手を咄嗟に切断するサイズの傍ら、蹴り弾いた事でブーツに粘液が纏わりついた事でフレイが半ギレで叫ぶ。
「きったねぇ! お前らこれ斬り飛ばせ!」
「もうやってる!」
 瞬く間に木々が砕かれ倒れ行く惨状を広げる最中もウインドカッターで応じるフィールは、視界の奥で赤い風船がいつの間にか膨れ上がっている事に気付く。
 否。それは癒しの力を受けて膨張したラビリンスエッグの体。
 イヤな予感がして、アレクシアの陰に隠れたアルメリアは思わず叫んだ。
「あれ爆発するんじゃないの!?」
「爆発するの……? あ、エル君がマグナム弾装填してるけど止めた方が良いかn――

 アレクシアが小首を傾げた直後にマズルフラッシュが一つ。
 数秒後、遂にアルメリアが危惧した通りその場に赤々とした飛沫飛び散る暴風が吹き荒れるのだった。


●健やかに育ち賜え
 戦闘中、実は人目の及ばぬ場所で怯えていたりしたニウルも今は背後から立ち込める甘ったるい臭気が気になって仕方がなかった。
「聞かないで」
「は、はい」
 目に見えてグロッキーな様子のルチアに少女はただ頷く事しか出来ないのが歯痒い。
 何があったかアルメリアが見解を示すなら、恐らくはラビリンスエッグの特性による物だろうという事だ。
 現に、今こうしてニウルが移動しているのは活性化し過ぎて腐ってしまった植物達を儚んでいる精霊達に話を聞いて魔獣の元へ向かっているからだった。
「それにしても、しろきものやラビリンスエッグ……その、見た目が……凄かったね……普通の生き物じゃないのかな?」
「そうね。あの魔獣達、植物を異常発達させる以外にも何か役目があるのかも。恍惚のバッドステータスにする汚液も何かの作用が過剰に働いているせいとか」
「そうするとしろきものは何なのかさっぱりわからないわね。
 何にしても害獣も良い所……弱点を衝いた方が有利なのはいいけれど気分は最悪だわ」
「いやーうん……何処かに水辺でもあるといいね」
 頭を布で拭き取っているルチアから目を逸らす。
 真っ赤に染まったを哀れに思いつつ、ちょっぴり自分は現場に駆けつけるのが遅れて良かったかもしれないとノアルカイムは思ってしまった。

 一方で、サイズは上空から森を見下ろしている際にある一点に表情を曇らせた。
「休みながらの移動。帰還方法は確立してる、下のみんなが優秀だから見つからない事は無いだろうけど……」
 サイズは翅を瞬かせて面を上げる。
 早朝の出立のつもりだったが、既に陽は傾き始め。この進行速度では日が暮れる頃に間に合うか、否かだろうか。
 ────
 ───
 ─
 夕方を迎えた。
 迷宮森林の内部は視界が多少なりとも悪くなっているように感じ始める頃合いである。
 イレギュラーズ達はこの日、三度目の戦闘が始まったばかりだった。
「なんか! 日が暮れて来ちゃったね、そろそろ急いだ方が良い感じかな!」
 木の枝と幹とをマジックロープで繋げ、次いで弾く様にノアルカイムが木の枝を振り子の様に発射する。
【ギィィィィィィァァァアアアアアアアア!!!!!!】
「ッ~~……!!」
 ブオンと風を切る音。叩き潰される刹那にしろきものが放った金切り声に、近付かれてしまったエルが膝を着く。
「くっ、これ以上の探索は帰還が難しくなるだけじゃなくてみんなが危険になる……これで少なくともノルマは達成になる、油断せず仕留めよう……!」
「クソ団子が、女共に手ぇ出してんじゃねえ! さっさと死ね!!」
 エルのカバーに入るサイズが交互に連撃する事でしろきものを撃破。しかし彼等が向かう先の川辺で触手を振るうラビリンスエッグが暴れていた。
 三体目の魔獣ともなれば、しろきものとは違い対策の打ちようもある。ノアルカイムやルチア達含め、余裕の無さそうな者を順にフレイが駆け回り肉の蔓を弾いて行く。
「はぁ……はぁ……! 怪我人はいないわね! あーもう、あの白いのに振り回された気分だわ」
「森に住まう者ならもう少し、神聖な一面も見せてほしい所ね──トドメ、行くわよ」
 柔らかな癒しの力を何度も行使するのはともかく、それなりにひきつけねば『離れては離れた相手に向かう』を繰り返すしろきものが取る変則的行動に振り回されている感が否めない事にアルメリアが毒吐く。
 ルチアもそれには同意なようで。森に女神がいるならばこの魔獣は滅されるべきだとも怒りを籠めて癒しの光を集中させた。
 ラビリンスエッグは絶えず怯まないで向かって来るアレクシアによって膨張の一途を辿りつつある。
 そこへ、フィールの放つ光刃が瞬く間に連続して肉塊を切り刻み、立て続けにノアルカイムが縛り付けたマジックロープが巨体を何重にも巻き付いた。
「破裂するの、もう少し上手くやれないかなって思ってたからね。こうすればいいんじゃないかな!」
 手繰り寄せる様に魔力で編まれた縄をノアルカイムが操ると、ロープが肉塊をギチギチに拘束する。
 そこへ、アルメリア達の癒しの波動が叩き付けられた。

 ───バシャァアッ!!

 切り刻まれ、駄目押しに縛り付けられていたラビリンスエッグの巨体が弾ける。
 しかし今度は爆散する事無く。穴の開いた水袋のような静けさを伴ってその場に悪しき汚液を垂れ流すに留まるのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

「───まあ。とても大変な想いをされたのですね。
 ごめんなさい、私のお願いを聞いて貰ったばかりに皆さんに苦労をさせてしまいました。
 今宵は私のお屋敷でどうぞお寛ぎになって……どうかその疲れた御体をお安めになって下さいな」

 ……夜。あなた達は窓辺の向こうへ招かれる。
 その奥に在ったのは、深緑に相応しくない洋館の類が休息に訪れたあなたを癒してくれました。




 依頼成功。
 お疲れ様でした、長々とお待たせしてしまい申し訳ございませんでした……

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