PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<薄明>地上に灯った憤怒の火

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


●月灯り
 幻想(レガド・イルシオン)の片田舎に小さな温泉宿があった。
 木造の三階建ての建物、一階には露天風呂が男女それぞれひとつずつあるだけ。
 けれども、鄙びた雰囲気が味わいがあると、密かに人気の温泉宿だった。
 旅商人の護衛をローレットの依頼で受けたイレギュラーズたちは仕事の帰りにそこに寄った。
 一階で湯に浸かって旅の疲れを落としてから、三階に上がって茣蓙の引かれた一室で涼む。
 この後二階で夕食になるが、その間に三階は女性陣の寝床に、宴がすすめば二階の隅に男性陣の寝床が作られる。
「いい宿でしょう」
 にんまりと笑うのは依頼人のゴードガー。ひげもじゃの逞しい男はすでに酒が入っているらしく、その顔は赤い。
「この、ニホン酒って奴が最高でして」
 どこかの世界の製法を真似たらしい酒はこの宿のふもとの村で作っているのだと言う。
「皆様のお陰で、ずいぶん遠くまで安全に旅することが出来ました。これはお礼です、一泊のんびりしていってください」
 商売がうまくいったのか、ご機嫌のゴードガーはそう言ってから「もちろん、謝礼金は別に払いますよ」と笑った。
「御夕飯ができましたよ」
 宿の女将が声をかける。
 この小さな宿は女将のノーマと料理人の老人トロイ、手伝いの少女チエリーの三人だけで切り盛りしている。今日はイレギュラーズたちの貸切状態だ。
「残りのお荷物は後で運びますね」
 入浴中に客の荷物を運んでいたチエリーは額の汗を拭うと、二階へと案内した。
 ノーマ、トロイ、チエリー全員で並べるどこか温かみの感じられる料理に一通り舌鼓を打つ。
 のんびりとしたひと時……。
 だが、それは唐突に破られた。


●赤い眼
 地上の灯りが少ないせいか、濃い夜空に散った見事な星空がくっきり見えた。
 代わりに地上には墨をぶちまけたような濃い闇に包まれていたのだが、────ぽつ、ぽつとそこに赤や黄色の光が灯った。
 それに気付いたのは、やはり歴戦のイレギュラーズたちだった。
 不審な気配に気付いてはっと外を見やれば、そこには大量の小さな光。
 それが何か理解したゴードガーが叫んだ。
「ま、魔物があんなに……!?」
 宿は魔物に囲まれていた。
 ガシャン、と大きな音が三階からする。
 二階の窓から身を乗り出してそれを見上げた女将はあっと一瞬言葉を失った。
 月灯りに照らされて、三階には巨大な蜘蛛の影がくっきりと浮かび上がっていたからだ。
「か、階段が!」
 ゴードガーが叫んだ。
「あっ、にもつ……」
 チェリーが咄嗟に運びきれなかった荷物に飛びつく。だが、残念ながらそこには鎧などしかなかった。剣などは三階に運び込んでしまった後だったのだ。
 三階への階段は粘着質な糸で厳重に封鎖された。
 大気の淀みに気付いたトロイが、窓の外を視て怯えて叫んだ。
「赤と黄……あれは憤怒の色だ! わしら全員殺されるぞ!」
 跳ねるもの、飛ぶもの、走るもの、大小様々な魔物たちが宿を囲み、うちで疼く狂暴な怒りのままに建物へ体当たりを始めた。


GMコメント

3Fに武器を取られた状態で、2Fスタートです(必須)
風呂上がりに持っていてもおかしくないアイテムを一つ持つことが出来ます
服装はパジャマのような軽装ですが、2ターン消費して着替えることも可能です※これは当シナリオのみのターン数です

●ステージ(夜八時くらい)
小さな古びた宿(三階建て、木造)
四方を大きな松のような木々に囲まれている(松の高さは建物より高い)
外:竹の柵で区切られた温泉二つ、庭園、小さな厨房等がある建物
1F:受付、狭いロビーと更衣室、東向きの入り口(鍵がかかっている)
2F:宴会場、兼、大部屋
3F:休憩所、兼、大部屋
※各階ともに南向きの大きな窓があり、2階・3階は窓が全開(1Fは掃きだし窓)
※各部屋共に床から天井までの高さは3メートル
※2―3階の階段は完全に塞がれていて開かない(炎無効)
※武器は3階の窓近くにある

●敵
それぞれ知性はあるのですが、怒り狂い手が付けられない状態です
保身を考えず襲い掛かって来ます
野放しにすると付近の住民に被害が出るでしょう

・大喰らい大蜘蛛(3F、全長2.5m、3F全面を占拠)×1匹
2ターンに一回糸を吐き、命中してしまうと1ターン動けなくなる
斧のような手足で3回攻撃(糸を吐くも1回に含まれる)
3Fで暴れている
本来は脅威のジャンプ力があるのだが、窓を割って三階に飛び込んだために、手足だけを動かしている

・大食い蜘蛛(1F、牛サイズ)×5匹
攻撃は大蜘蛛と同じだが威力は低め
時間が経つと壁を伝って二階以上に出現する

・血吸い蝙蝠(2F3F、窓の外※窓を開けておくと入ってくる)×10匹
噛みつきに成功すると(1D100)のHPを吸血

・岩狼(1F~2F)
ジャンプ力のある岩のようは肌をした狼
何度も窓にぶつかってきて、3ターンで窓を割る
素早く、牙と爪が武器

●NPC
※全員戦闘能力はありません
・商人ゴードガー:ひげもじゃの気のいい中年の商人
・女将ノーマ:四十代のふくよかできびきびした女性
・料理人老人トロイ:六十代の背筋のぴんとした白髪の老人
・手伝いの少女チエリー:15歳赤毛の元気な少女

  • <薄明>地上に灯った憤怒の火完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月30日 23時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ユーリエ・シュトラール(p3p001160)
優愛の吸血種
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)
幻灯グレイ
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
グレン・ロジャース(p3p005709)
理想の求心者
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)
必殺の上目遣い系観光客

リプレイ


●その夜
「はぁ~……いいお湯でしたね!」
 温泉をのんびりと楽しんだ『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)は団扇を手に火照った頬を緩める。
「ええ、簡単な依頼で温泉付き、たまにはラッキーな事もあるわね」
「はい! それにセンパイと一緒に温泉旅行!」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に向けて『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が笑顔を向ける。
「お仕事の疲れも吹っ飛んじゃいますよ!」
 微笑むユーリエを先頭に三人は宴会場へと足を踏み入れた。
「待ってたよー」
 円らな瞳を輝かせ手を振るのは『幸福を知った者』アリア・テリア(p3p007129)だ。卓にはすでに料理が並び、『必殺の上目遣い系観光客』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)も幸せそうに手をつけている。
「先に一杯やってますよ」
 依頼人のゴードガーが徳利を掲げて見せれば、ちびちびと呑んでいた『幻灯グレイ』クローネ・グラウヴォルケ(p3p002573)も満足げに盃を揺らす。
「……うん……スッキリとした味わい……ふふふ、ニホンの鬼が好物というのも理解出来ます……確かにこれはいいものッスよ……」
 満足気な女性陣を笑顔で眺めながら食事を楽しむ『紅蓮の盾』グレン・ロジャース(p3p005709)と『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)。
「幸せそうな女性の笑顔は場が華やぐな」
 グレンの気障な台詞も、既に済ませた依頼での彼の誠実な人柄を知っている女性陣たちはくすぐったそうに流すだけだ。
 ゆったりとしたひととき……そこに、それは起こった。

「えっ、魔物……そんな……武器はっ」
 魔物の群れを見て、反射的に上階を見上げたユーリエの目が大きく見開かれた。そこに崩れ塞がれた階段がある。
「不幸だわ!」
「ボクの……ボクの幸せのひと時であるご飯タイムをじゃまするとは……。魔物ども許すまじ……。皆を傷つけるわけにもいかないし。全力で倒させてもらうからね!」
 イーリンとラナーダが声を上げた。
「せっかくセンパイと一緒……だと思ったのに何これー!」
 不満げな声をあげるミルヴィ。
 窓から三階の様子を見ていたイグナートが苦笑した。
「知ってた知ってた。オレたちにオダヤカな休息なんてある訳ないんだよなぁ」
「ちくせう、どうして折角のお休みがこんなことに……。こうなったらさっさと終わらせて仕切り直さないとっ!」
 嵌めた疾風の指輪を確かめた後、テリアが冷静に女将に宿のスタッフについて尋ねる。
「……アレは余興というにも、酒の肴というにも質が悪い……続きはまた後で……」
 そう言って、クローネは向日葵を模ったブローチ「Dawnflower」を撫でた。
 手持ちの武器が無いのだ。
「持てたのはブローチ位ですか……心情的には心強いんですけどね」
 酔っていたはずのクローネの顔はすでに凛とした戦士のそれに変わっていた。
「皆様を守るために……今こそ立ち上がらなければ!」
 ユーリエの右手首に巻かれたエモーションチェーンが勇気を表わす緑色に輝いた。
「こうなったらすぐに片付けて休暇よ! 『神がそれを望まれる』!」
 イーリンの指に嵌った指輪「紫苑の紋章」から流星の一片たる火が生まれた。
「鎧を着る時間貰うぜ! 一般人は二階に頼む、厄介なのは一階にひきつける!」
 グレンは荷物に駆け寄ると素早く魔鎧に手を伸ばした。


●外壁の戦い
「武器は上だな」
「私たちで取ってくるわ。そっちはお願いよ」
 イグナートの言葉にイーリン、クローネも動く。
 状況確認の間にミルヴィが仲間たちを引き留めて、暁の響宴と我ら特異運命座標をかける。
「センパイ、これを!」
 荷物から引き抜いたそれをイーリンへ手渡すとミルヴィはきっぱりと宣言した。
「『こっちはなんとかするから任せた!』」
 彼女がギフト『1日契約』を使ったのに気付いたイーリンは頷く。
「この子を預けるッス」
 ひょいっとふたりの間、ミルヴィの足元に自分のファミリアを滑り込ませるクローネ。彼女は媒介にした、い草の座布団にしがみつくとふわりと浮く。
「さっき超視力で視たら、幸い、荷物は窓近くだったッス。……っ」
「来たな!」
 樹に飛び移ったイグナートがクローネに襲い掛かって来たコウモリを豪鬼喝で払いのけた。
「しかしなんだろう? 尋常な様子じゃあないね。オオカミにクモにコウモリなんて群れだなんてこともないだろうに」
 同じく他の樹へと移動したイーリンはモンスター知識やエネミースキャンを駆使して敵を分析する。
「このモンスターたちはこの付近で生息確認されている種なのよね。群れは珍しいけど、亜種ではないし、今、確認できるのはどれもかなり『怒っている』」
 イーリンはそこで岩狼を注視した。
「あれも、本来の性質を逸脱するくらい『怒っている』」
 飛び掛かる狼を紫苑の魔眼・紅蒼いなし、浮上するクローネのバックアップをイーリンとイグナートが担う。
 一方、浮遊するクローネは指が三階の窓に届きそうになる度にコウモリ達がぶつかってくるのに辟易していた。
「あと少しなんですがね……ぶっ!」
 イグナートの援護をすり抜けたコウモリがぶつかり、クローネはふらつく。第二波を覚悟しながらも更に浮遊を続けるクローネ。高く跳ねた狼の牙がそれを襲う。
「!」
 犬のような鳴き声をあげて岩狼は弾かれて行く先を変えた。イーリンだ。
「届いたッス!」
 壊れた窓枠に指をかけて部屋に飛び込むとクローネはイーリンから借り受けた「紫苑の君の御伽噺」からワイヤーを三本引っ張り出す。
「これを!」
 ワイヤーを掴んだイグナートは丸めた布の塊を三階へと放り投げた。それは宿のタオルケットだ。端を縛って袋状になったそれを受け取ったクローネは即座にそこへ全員の武器を詰め込む。
 岩狼を撃ち落としていたイーリンはワイヤーを掴む。そして、外壁に捕まって窓の桟に足をかけ、見上げた瞬間、ヒュッと息を飲んだ。
 大荷物をワイヤーにくくりつけるクローネの頭上に大蜘蛛の脚が見えた。
「クローネ!」
 イーリンはギフト「インスピレーション」を駆使して叫んだ。
「屈んで!」
 投げたのはミルヴィが手渡した小瓶だった。蜘蛛の脚に当たって大きな音を立てて弾けると調香で作った柑橘系の香りがぶわりと広がる。一般的な蜘蛛が嫌う香りが果たして魔物に効くかは賭けであったが、それに勝つ。反射的に大蜘蛛の脚を引かせることに成功した。
「イグナートさん! イーリンさん!」
「ああ!」
 ワイヤーに括りつけた大荷物が三階から放り出される。
 身を乗り出したイグナートとワイヤーに身体を括りつけたイーリンが勢いのついたそれを受け止める。
 出遅れたイーリンだったが不運は起こらず、武器は無事イレギュラーズたちの元へと戻って来た。
「受け取ったよ」
「了解、戻りますよ」
 イグナートの返答にクローネも飛び降りながらミルヴィの元へ居るであろうファミリアへ窓の開錠を頼んだ。


●屋内
「この宿の人は全員ここに居るよね?」
「配膳で、ええ」
 頷く女将の返事にほっとしてテリアは彼らを守りやすい位置へと誘導した。
 ユーリエは岩狼の唸り声に耳をすませながら肌身離さず持っている右手首のチェーンに触れる。武器は無いがこれがあるのは心強い。
(パジャマは防御面で不安ですが……)
 グレンたちへ振り向く。
「先に下へ行きます!」
「悪い、すぐに向かうぜ!」
 防具を身に着けるグレンへ頷き、ユーリエは飛び降りるように一階へと降りて行った。
「ボクも行くから安心してっ!」
 ラナーダがグッとパジャマの裾をまくり上げると、変身バンクが始まってバンッとファルカウ・ローブの術衣姿となる。
「ヒーローは羨ましいな。──頼む!」
 茶化しながらも自らはしっかりと籠手を着けるグレン。焦ってはいけないのだ。
「蜘蛛、何か柑橘系の……」
 ラナーダが夕餉の膳に目を走らせるのと同時に室内に柑橘系の香りが広がった。
「もー! これセンパイとおそろで作ったのにー!」
 ミルヴィが口を尖らせながら香水を振りまく。
「オレンジ?」
 すん、と匂いを嗅いでバリケードを作るテリアが呟いた。
「柑橘系は蜘蛛避けの力があるのサ。少しは効果あるかもと思って」
 香水なんだけどと独り言ちるミルヴィ。だが、そのお人よしな所を『先輩』も解っているだろう。
「女将さん、頼りになる皆もいるけど何かあったら叫ぶんだよ」
 同じことを考えていたテリアは少し安心して、階下へと姿を消した。

 一階へ滑り降りたユーリエとテリアがまずしたことは窓や戸口の確認だった。突撃する岩狼のタイミングに合わせてユーリエは窓を開けた。
 体当たりするつもりだったであろう狼はそのまま室内へ入り込み、床の上で滑りながら着地する。
「招待したけど行かせるつもりはないですよ」
 闇の霧がじわりと広がり、岩狼たちを飲み込む。霧によって付与された怒りは獣たちの眼をユーリエへと向けさせる。床を蹴った狼が次々に襲い掛かる。
「うぐっ……グレンさんが来るまでは耐えてみせます」
 エモーションチェーンの加護はあるが、パジャマ姿の彼女は防御力が心もとない。裂かれた服の下で赤い染みが広がる。
「こっちも忘れてないよね!」
 テリアのショウ・ザ・インパクトが狼の身体を弾く。
「さっさと終わらせて仕切り直さないとっ!」
 だが、そのテリアの肩を踵を返した狼が噛みつく。
「ふあっ!」
(避け損ねた!)
 顔を歪めるテリアだが、それでも構わずにディスペアー・ブルーを歌う。そして、魅了された獣を盾に立ち回り、ショウ・ザ・インパクトを放つ。体勢を崩した一匹の後にまた別の狼が跳ねる。
 ガチャリと血のような赤黒い鎖が狼を絡めとったのが見えた。ユーリエのVBCだ。
 反撃を警戒して、残った狼たちはぐるぐると部屋の隅を歩き回り始めた。
 緊張感が高まったその時。
 ついに甲高い音と共に掃きだし窓が叩き割られた。
 モンスターたちが一気に雪崩れ込む。
「──っ!」
「遅れて失礼! 武器はねえが『盾』ならここにいるぜ」
 火花が散った。
 窓から飛び込んだ新たな狼の牙が籠手を着けたグレンの左腕を噛む。
「文字通りの盾役、張らせて貰うぜ! 『武器』のほうは任せた!」
 テリアとユーリエが頷き合う。
 硬直した空気が動いた。
 装備を纏ったグレンは自己回復を施しながら二人を庇って立ち回る。
 グレンに守りを任せたテリアは攻撃、二階を狙う敵にフロストチェインで押し止める。
 ユーリエは後退して鎧に手を伸ばした。
「出来る限りここで止めるぜ!」
 グレンが叫んだ。

「任せた!」
 装備を整えたグレンがバリケードを越えて階下へと駆けて行く。
 やがて階下で窓の壊れる音がした。
 カサ、と一階を抜けて来たらしい蜘蛛が駆け上って来た。
「踊り子は早着替えもできなきゃやってらんないのサ!」
 敵の侵入が来るまでに装備を整えたミルヴィは、糸を避け、二階へと侵入して来た魔物たちへ六方昌の眼差しを向けた。バリケードを乗り越え魔性の魅力に憑かれたモンスターたちに傷つけられながらも、女将たちをその背に守る。彼女たちの近くに撒いた香水が、この怒れる魔物の気を少しでも反らしてくれれば──そう願う。
 バリケードを作り終えたラナーダがミルヴィをメガ・ヒールで癒しながら援護をするが、武器が無い状態ではどうしても後手に回り、ふたりは唇を噛んだ。
 クローネのファミリアが動いたのはその時だ。
「ラナーダ!」
 窓へ駆けだすミルヴィと入れ替わるように前に出たラナーダがインフェルノを放った。
 ミルヴィは窓に取り付くと両手で大きくそれを開いた。
 毒の霧が蜘蛛を払う。クローネの生者の死牢だ。
「ミルヴィおまたせ! 現状説明お願い!」
「センパイ!」
 イーリンの声にミルヴィが叫ぶ。
 開いた窓から次々に飛び込む三つの影と荷物が一つ。


●夜明け
 防具を纏ったユーリエはグレンと背中を預け合いながら敵をいなす。回復をしながら、しかし、敵の多さと攻撃力の無さから徐々に押され始めていた。
 だが、戦況は大きく変わる。
 階上で大きく踏み込む音、続けて混戦した戦場に着地したのはイグナートだ。
「ソウビを! キョウリョクして行くよ」
 飛燕天舞で襲い掛かる蜘蛛を蹴り飛ばし、グレンたちを守るように立つ。
 グレンは受け取った武具を構えた。
「盾さえ取り戻せばこっちのものってな。本領発揮させてもらうぜ!」
 武器を取り戻したイレギュラーズたちの反撃に魔物たちはその数を減らしていった。
 一階を攻めるモンスターが途切れ始めるとテリアは防具を取りに後退した。すると、クローネと目が合った。同じことを考えていた。やがて一階から登って来た傷だらけのイグナートもそこへ加わる。
「お先にだよ」
 装備を整えたテリアがするりと外壁に手をかけるとクローネも続く。
 そう、まだ三階に大物が居るのだ。

 三階は無残に崩れ落ちていた。
 鎮座する大蜘蛛は現れたイレギュラーズたちに気付くと身体を向け、自由に動くようになった巨大な足を振り回した。
 薄れたしまった香りにはもう何の効果もないのか、縦横無尽に襲い掛かる蜘蛛の脚。
 撃ち落とされるクローネ。弾き飛ばされながらも放ったテリアのフロストチェインがその脚を白く染める。
 ガツと──星を宿した盾が弾く。
「やれやれ、呆れるほどのデカさだな」
 仲間を護るようにシリウスを掲げたグレンが立っていた。
 夜が終わろうとしていた。
 白み始めた空を背にして武器を携えた仲間たちが次々に三階へ現れた。
「コイツでサイゴだ」
 吐き付ける蜘蛛糸を避けたイグナートが飛燕天舞を放つ。怯んだ所に追い立てるようにクロ―ネの放ったスケフィントンの娘がその身体の自由を奪う。
 三度の攻撃を耐え、弾き、受けながらイレギュラーズたちはじりじりと大蜘蛛を追い立てていくイレギュラーズたち。
「余興はそろそろ終わりよ……」
 最後にクローネのソウルストライクが蜘蛛の身体を撃ち抜いた。
 朝日の煌めきが差し込んで、荒れた戦場と戦士たちの姿が露になった。
 汚れてよれよれの姿は温泉宿でくつろいでいた面影はない。
 ラナーダが足先で崩れた木片を軽く蹴った。
「後片づけが必要だよね……。しっかり頑張るから何卒! 何卒ご飯だけはお恵みください!」
 ──ぐううう。
 誰ともわからぬ腹の虫が鳴いて、ようやく小さな笑いが起こった。


●ゆらぎ
「お疲れ様」
 綺麗に入れ替えられた湯の中でイーリンが少しはねてしまった後輩の髪をさっと梳いた。
「センパイ、香水……」
「とても助かったわ? また作ってくれるのを楽しみにしてる」
 沈んでいたミルヴィの顔がぱっと明るくなった。
 嵐のような夜が明け、昼が過ぎた。
 握り飯を掻き込みながら宿の簡単な補修を手伝ったイレギュラーズたちは宿で改めて女将からのもてなしを受けていた。さすがに補修を行ってもすぐに営業できる状態ではないが、休業前の最後の客への女将たちのできるだけの心を込めたもてなしだった。
 仕切り直しだと半壊した三階に膳を並べてのんびり箸を動かすイレギュラーズたち。天井の崩れたそこは広々としていて、不謹慎ながら風情のある景色に感じた。
「ボクの至福のご飯タイム!」
「美味しいお食事でお仕事の疲れなんて消えちゃいますね!」
 茶わん蒸しに舌鼓を打つラナーダと、川魚の天ぷらと炊き込みご飯を頬張ったユーリエが破顔する。
「……さて、今度こそ一献傾けましょうか……酒の肴……」
 酒を味わいながら、クローネは塀の外に退かされた大蜘蛛の残骸をチラリと見やる。
「……流石に無いか……」
「珍味もいいがもっと美味しいものがおすすめだぜ」
 新しいつまみをいくつか乗せた盆を持ってグレンが現われる。
「──いい宿だよね。また来よう」
 盆から器をひとつ取ったイグナートが目を細めて笑った。
 ふとテリアが呟いた。
「あれ……だけどなんでこんな急で宿を襲ったんだろう? 何かに操られているとかそんな感じなのかなあ?」
 疑問の答えは長閑に戻った宿には答えは見つからなかった。
 だが、痕跡こそ見つけることはできなかったが、その晩の憤怒の景色は彼らの胸にはっきりと刻まれた。



成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

遅くなってしまい、申し訳ございません。
武器無しの戦闘、防具無しの戦闘は思ったよりダメージが大きかったですが、皆様の役割分担によりスムーズに解決することができました。
ご参加ありがとうございます。

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