PandoraPartyProject

シナリオ詳細

月光の丘・幽光の燈火

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●消え入る吐息は果てず
 ラサ傭兵商会連合が中立域として定める其処は、砂漠の大地として知られている。
 混沌の外なる世界から招かれた者達はこの砂漠を如何に多くの商人、傭兵達が闊歩しているか、想像が難しいかもしれない。
 だが逆に彼等が足を運ばぬ場所が何処かと問われれば、ラサの性質から見て『人のいなさそうな所』を選ぶに違いない。
 彼等は文明に寄り添う者がその殆どを占めるが故に。
 だから、これは偶然だったのだ――酷く運の悪い事だとは思うが。

「ひぃっ……! ひぃぃぃ……ッ!! たた、たすけっ……ッ」
 怯えに怯え。後退る青年はとある商会に属する会計士である。
 元はただの休暇欲しさに大陸の北端の調査について来ただけだったし。話に飛びついたらしい、商会の抱える傭兵団から"慣らし"として若い傭兵が分隊規模で参加する事からも、安全性が確保されていた旅だったのもある。
 だから、これは偶然にしても酷い。何かの因果を踏み抜くには余りにも突然の遭遇だった。
【――ハ……ァ……――――……ッゼ、ハ……ァッ…………】
 物言わぬ中に啜り聴こえる、吐息。
 それは怯え切った青年の出すしゃがれた悲鳴とは違い、生気を辛うじて繋いでいる類の呼気だった。
 錆び付いた鎧は軋み、手にした長剣は地面を都度擦れて刃を痛めている。
「おねがいぃじっ、ま゛ずぅううう……ッ!! こ、ごろざないでぇ……!!」
【……ハァ……ハッ、ぁ……――ック……】
 風前の灯火も同然の風貌。
 しかし会計士の青年は錆びた鎧騎士の一挙一動を目に焼き付けるように凝視したまま、恐怖する。
 自身を除いた商会メンバーが六名。武装した傭兵十八名、全員。
 二十四も人の命が、死に損ないの鎧騎士によって散らされていたのだから。
 錆びた鎧、朽ちかけた剣、揺れる手足。合わせて八体分。
 どれをとって見ても放って置けば息絶えるであろうその姿は亡霊の類。だが実体を以て現世の者に危害を加える様はどう見ても生者のそれだった。
 青年の命乞いする姿を鎧騎士はじっと見つめたまま歩き寄る。暴風を伴って揮われるその刃が一閃すれば、たちまち青年を周囲の大地を染める赤黒いシミに仲間入りさせるだろう。
「もっ、もうここには近付かないッ!! 戻って来ないからっ! お願いです赦して許してゆるしてェェぇえ……!!」
【――――は、ァ……ハァァ……】
 至近距離。
 バイザーが下りたままの鎧兜の隙間からは依然として虫の息とも思える消え入りそうな呼気が続いている。
 鉄と錆びの香りを漂わせた刃が青年の首元に添えられて、鎧騎士の歩みが静かに停止した。
「ひ……ぃ……」
 青年は涙と共に眼前の鎧騎士の肩口から向こうの景色を覗き見る。
 ラサの最北端、海岸が広がっている筈の景色は無く。七体の鎧騎士が立ち並ぶ奥に佇んでいる丘が月明かりを背にして阻んでいる為だ。
 どうしてこうなったのだろう。砂漠の地に生まれ落ちてから一度でいいから『絶望の青』の一片を見てみたかっただけなのに。
 どうしてそれを見る事も許されずに、自分は命を落とさねばならなかったのだろう。
「―――」
【ハ……ァ……は、ァ……――】
 思考を遮るかのように響き渡る呼気が、まるで青年の物と重なる様だった。
 恐怖に震え続けた青年はやがてその意識を手放し、その場に身を放り出してしまうのだった。

●朽ちかけた騎士
 ラサ傭兵商会連合が首都、ネフェルストの一画でイレギュラーズと依頼人は顔を合わせていた。
「……これで以上だ。君達に依頼するのは騎士達(コイツら)を完膚なきまでに破壊する事、
 あとは……俺の団員の亡骸、アクセサリーだけでもいい。全員分を持ち帰って来てくれ」
 筋肉質な体躯を露出しながらも鉄仮面に素顔を隠す大男は、つい先ほどまで話をしていた十八名の傭兵達を束ねていた傭兵団の団長補佐の立場にある人物だ。
 イレギュラーズは『幸運にも見逃された青年の話』を思い出す。
 件の青年が見たという話がどこまで真実かは置いておくにしても、もう少し情報が欲しい。
「その青年に会う事は?」
「クライアントの坊やに会うのは自由だが……逃げ帰って来た時はまだ話せたんだ、人死を見過ぎたんだろうな。気が触れた様で、今じゃまともに会話も出来そうにねえ」
 憐みを帯びた声音で語る彼は、恐らくは死んで逝った仲間の事も想い憂いているのかもしれない。
 青年を守るにせよ、見捨てるにせよ、傭兵達は自らの生存を優先する選択肢を選ぶ間もなかったのだから。
 そんな事を思うイレギュラーズの視線に気付いたのか、傭兵団の男は弁解するように肩を竦めて言った。
「……何だか自分の所の事ばっか見てる連中だと思われちまいそうだがよ。
 実際失った物はデケェのよ、悪いがな。だが……アンタらの言いたい事も尤もだ。そうだよな、俺としたことが……
 死体が残ってるかどうか確証は無い、だがもし探せるようなら商会の連中の遺品も回収してやってくれ」

 深々と頭を下げる彼の言葉に、イレギュラーズは静かに頷いた。

GMコメント

 ちくわストレートです、よろしくお願いします。
 今回は割とストレートな近接戦に……なる筈です。

 以下情報。

●依頼成功条件
 鎧騎士の破壊
 傭兵達の遺品を回収する

●情報精度B
 依頼人の情報に嘘はありませんが、同時に不明な情報があります。
 不測の事態に備えて下さい。

●ロケーション
 戦場は砂漠を抜けた崖沿いにある、月を背にした丘の周辺。平地。
 丘の麓には大勢の亡骸と共に武装や道具、野営及び食糧等の積み荷がそのままにされています。
 中には依頼人達以外の骸もあるようです。
▼【逃走しようとした傭兵の一人が丘へ向かって行った際に露見した情報】
 このフィールドでの特殊条件として、北側に位置する丘へ『麓から10Mずつ丘の上へ接近すると敵全体が活性化する』という特性があります。

●錆びた鎧(8騎)
 見かけこそ大柄の騎士。それもその風体は明らかに死にかけ、朽ちる寸前。
 しかし、錆びた鎧も磨り減った長剣もブレブレな動き全てに反して強靭・強力・鋭敏です。
 ラサの砂漠を抜けた北端の海岸付近に佇む丘に近付いた時点で鎧騎士が一体『最も丘に接近した者の傍に現れる』性質を有しており、
 不可視の暴風を伴って切り刻み、動く者全てを破壊しに来ます。それなりに強いです。
 これらの正体は不明ですが八体の姿が確認されており。丘に接近すればするほど反応と機動力、命中が上昇します。

●傭兵団の亡骸
 18人分の遺品を持ち帰る事もオーダーされています。
 依頼主である傭兵団【箔白の覆面槍男】のメンバーはいずれもその素顔を仮面に隠していたようです。

●生還した青年
 現在はラサのとある医療所で治療を受けています。
 精神的なショックが原因で殆ど口を聞けなくなっていますが、彼曰く「目を覚ましたらあの騎士がいなくなっていたので逃げて来た」とのことです。

 以上。

 その他、スキルや作戦による工夫・アドリブ等皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
 猛暑ですのでプレイングを書く際には部屋を涼しくして冷たい水分を摂りながらゆっくりと落ち着いて書いていきましょう。

  • 月光の丘・幽光の燈火完了
  • GM名ちくわブレード(休止中)
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年08月18日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
リゲル=アークライト(p3p000442)
白獅子剛剣
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
フレイ・カミイ(p3p001369)
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

リプレイ


 丘の向こうから照らす月明りは妖しく、蒼白の色に満ちていた。
 昏く、光の世界に在らぬ者。それが例え修羅に落ちた者だろうとも、彼の月光は見下ろすモノ全てに輝きを魅せる。
「月を背に丘に佇む朽ちた騎士とは絵になる風景にござるが……人を襲う害である以上は見過ごしてはおけぬ、か」
 丘へ、一歩。
 或いは爪先が触れただけかもしれないし、実は二歩踏み込んでいたのかも知れない。境界線など在りはしないのだから当然なのだが――
【ハ……ァ……ア、ァァ……】
 応じる様に。丘の上に立ち並んでいた錆びた鎧の騎士達の内、一騎がフラリと前へ出る。
 その動きは半ば傾いていて不安定。ともすれば倒れ伏せて鎧がバラバラに散らばってしまいそうな印象を『鴉羽演舞』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は感じた。
 言葉に応える事は無く、しかし目に映る敵の情報全てが偽りだと理解していても。
 ――直後に自身の首筋へ一直線に薙がれた刃が、真実を語っていても。
 
●忘却の痕
 ラサ、首都ネフェルスト。
 バザールが並ぶとある区画では風が吹く毎に『人の臭い』が些か強まる。人脂の香りではなく、個々が有する気のようなものという意味で。
 重要なのは商売人にせよ傭兵稼業にせよ、嗅ぎ分ける能力なのだ。
 そんな中、フレイ・カミイ(p3p001369)の姿に豪奢な装いに身を包んだ初老の男がまさに臭いを嗅ぎ取った。
 男は手を叩いて拍手する。
「お会いできて光栄だローレットの方。貴方が知りたいのは調査隊のメンバー、そして件の騎士どもで宜しいかな」
「美人がいたかどうか、だぜ。これが一番重要だ」
 はっはっは、とフレイの言葉に商人が笑う。
「では手短に済ませましょうかな。まず生還したパウロ君以外にあの調査隊にはいずれも若く優秀な六名の内、二人は女性……若く美しい生娘だったと記憶しています。
 しかし……例の騎士については【箔白の覆面槍男】の見解と同様。正体に心当たりは無いですなぁ」
「今までに被害は無かったのかよ? それに何だって依頼主(こいつら)は自分達だって戦える筈なのに着いてこない?
 まさか怖いだの、死んだ仲間の亡骸を見たくないだのなんて理由じゃねえだろう」
「"我々が被害を受けた事は無かった"のは勿論、我が商会の傭兵団が同行せぬ理由も正当。
 あの事件で喪われたのは商会にとっても大事な人材、それが十を越える人数を喪えば今後に響くのは当然。
 ラサに限らず、如何に自らの足場が固いか問われる世です……特異を有していない者を死地へ往かせる事でまた失う物がある事をご理解頂きたい」
 商人は最後にそう締めくくると、フレイと目を合わせた。
 居心地が悪い。そう彼は感じてその場を速やかに後にした。
 ────
 ───
 ─
 鉄柵に囲われた小さな集落の前に馬車は停車する。
「地図を見た限りでは北の海岸の前にある村は最後になる。ここから距離がある、休息は長めに取りたい」
「ああ、こっちもまた村の人に話を聞いて回ってくる。愛無もゆっくり休んでくれ」
「何かあれば報告する」
 『ラブ&ピース』恋屍・愛無(p3p007296)が馬車から降りて行く『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)と『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)の二人を見送る。
「じゃあ二手に分かれよう、俺は村の奥から聞き込みをするよ」
「ああ」
 集落の規模は家屋が十一棟程度。柵の向こうに農具が置かれた納屋を見たリゲルがそちらへ近付いて行く一方、ラダは柵に沿った端の角で休んでいる村人の方へ向かう。
「こんな辺鄙な所に珍しい。なんだいアンタ」
「とある商会の仕事でこの辺りの地質を調査しながら『良い話』を聞き回ってる」
「……首都の商人か」
 紫煙を揺らすフードを纏う男にラダが声をかけると、曇った反応。老人かと思ったが声音からして若い。
「この先、北の海岸に面した丘を知っているか。あの辺りで鎧兜の騎士格好をした者を見たと他の村で聞いた」
「騎士ィ? 国を間違えてんじゃないのか……いや。そもそもあそこにゃ大昔から漁村がある」
「確かにこの熱砂の国で騎士とはな……まて、漁村があるのか」
 丘の事を知っているかのような男の様子にラダは訝し気に訊ねた。
 すると男はフードを脱いだ。
「……幻想種。移民だったのか」
「そうだよ。何十年前だったか昔は近くに他の村があったんだ。
 その頃、ネフェルストの大商人の娘を連れ去った精霊種が逃げ込んだとか何とか……とにかく騒ぎが起きた事がある。
 結局二人は見つからずじまい。もしかすっと北の海岸にある漁村に逃げたんじゃないかって、集落に来る行商の奴が噂してたのさ」
 長耳をヒクンと揺らす男はフードを再び被り直して。
「後は知らないな、村でもこの話知ってるのが数人はいる。漁村の連中とは交流してないが……今頃どうしてるのやら」
「そうか──情報、感謝する」
 ラダは踵を返してその場を後にする。
 北の果ての丘。鎧兜の騎士達。かつて在った漁村。
「これがどう繋がるのか……」
 どこの誰かを知る者は殆どいない。或いは時の流れと共に失われたのかもしれない。
 それとも、とラダは思案を巡らせる。
「……忘れ去られるのが望みだろうか」
 それが、誰の意図なのかは置いて。

●生者ならぬ者
 ─現在─
 月光を纏いし刃が薙いだ瞬間、鴉羽が飛沫を上げる。
(……ッ、間一髪)
 咲耶が『領域』へ踏み込んだ直後に振るわれた刃が、彼女の薄皮を切り裂いたのと同時。反射的に刃の軌道に合わせ体躯を反らしながら装束で刀身を絡め取った事で神業めいた回避を成し遂げる。
 天と地が逆転した視界の奥。丘の上に並び立つ鎧騎士達の動きは未だ無い。身を翻し、着地する咲耶の背後で打ち鳴らされる地響き。
 後方で控えていた仲間、突如砲弾の如く踏み込んで来たリゲルの紺碧の衣が空気を叩く。
 月光と銀光が衝突したのも一瞬。遅れて爆ぜる冷気伴う衝撃が強かに、大柄な体躯を数歩後退させる。
 初撃を受けた咲耶が居た位置より半歩前に出ている事に気付くリゲル。見上げた先は依然、視界端に動きは無い。
「───よし。皆! 他の亡霊達は動かない、作戦通り各個撃破する!」
「まだるっこしくてムズムズしてた所だ。一匹ずつ倒せばおしまいってなら分かり易くていいじゃねえか!」
 リゲルが言い終えるより、再起して躍り掛かって来た鎧騎士へカウンターを決めたフレイが、その場に更なる衝撃を鳴らす。
 ズンッ!! と重く低い音が、錆びた鉄塊を地面へめり込ませる。立て続けの重い一撃を受けた鎧が崩れかかるが、逆にそれ以上破損する気配が無い。
「堅ぇな……じゃあ崩してから殺す」
【……ゼ……はっ……】
 隙だらけ。しかし、一挙に振り抜いた拳を鎧騎士へ叩き付けたフレイが逆に火花散らし弾かれる。防ぐ素振りが無かったにも拘らず、錆びた大剣が彼の拳を打ち払ったのだ。
 呆気に取られたフレイに月光が伸びるかに思えた刹那に飛来する、悪意を収束せし魔弾砲撃が鎧騎士を粉塵の彼方へ吹き飛ばす。
 折れ飛んだ大剣が地面に突き立つ。
「丘に近づくものを、無差別に襲う騎士、か。
 なんと言ったか、触らぬ神に……という言葉も、何処かの世界に、あるそう、だが」
 魔力によって形成されていた砲筒が拳銃へと収縮するのを『夢終わらせる者』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は見届け、背部で揺れる金髪が微かに捻れる。
 隣に立つ『『知識』の魔剣』シグ・ローデッド(p3p000483)は敵の様子を観察しながらエクスマリアの髪の動きにチラと視線を向け。
「この動きは、何かを守っている、と言うのが常だが……ラダやリゲルが調べた限りでは、それも的を射ているか」
「この丘に彼らが執着する『何か』があるのは確かなんだろう」
 踏み出し。だがどうでもいいと、愛無は冷徹に粉塵の奥を見据える。
 例え彼等がこの熱砂の地を切り拓いた偉大な先達だったとしても、かつては己が友だったとしても。今は、ただの障害なれば。
「──金の重みが命の重み。疾く殲滅する」

 土煙に僅かな揺らぎが生じる。
 前衛に手心を加えた気は全く無い。そして後方のエクスマリアも同義、だというのに粉塵の向こうから跳躍して来た錆色の騎士は健在なまま。
「何……!」
 上方からの袈裟掛け。軌道を読み切ったリゲルの視界から突如騎士の姿が消え失せ、直後に懐へ踏み込んだ状態で姿を現す。銀剣による防御が間に合わぬと悟るや否や身を勢いよく捻り、外套の下に隠していた右腰の妖刀を跳ね上げた。
 凡そ剣戟とは思えぬ破砕音を響かせ、砕かれた刀の鞘を散らしてリゲルが後方へ吹き飛ばされる。
「新手。恐らくは、先の騎士をエクスマリアが撃破した事で出張って来たか」
 吹き荒れる暴風。咲耶が咄嗟に抜いた忍刀と錆びた大剣が打ち合う側面から、燕尾はためかせ愛無が軽槍を騎士へ叩き込む。突き立てた槍を軸にしなる鞭の如く、各部急所を狙い打撃を浴びせ蹴り上げる。
「踊りなさい──」
 微笑を浮かべ、輪を描くように美脚の先端を滑らせ。『嫣然の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)が月下に舞う。
 閃く。怯む騎士の前に飛来した四基の煌びやかなビットが不規則な軌道を描き、月光を浴びたそれは日輪の様相を呈して襲い掛かる。
 激しい攻勢、一瞬で複数火花が瞬いた後に背面から騎士が薙ぎ倒される。が……沈黙せず、鞠の様に跳び起きる。
【……ぁ……はァ、ぜぇ……──】
 潮風も聴こえぬ静寂の合間、鎧兜の中から苦しそうな呼気が響いていた。
 場に張り詰めた空気が漂う──
 丘を背にする錆びた騎士は感情を持たない。中身は無く。その虚ろな伽藍洞に響いている思考は『イカセナイ』という単語のみ。
 これは、咲耶が丘へ近付く前にそれぞれが分析を試みた結果解っている事。
(生者ではない……が、亡霊にしては些か多芸に過ぎる)
 ラダやフレイ、リゲルが持ち込んだ話は目の前の怪異なる騎士を裏付ける物となるか。シグは思案を巡らせ、その眼を瞬きさせる。
 黄金の瞳は真紅へ変わり──シグが睨んだ瞬間、虚空より顕現する黒い剣が幾重にも連なり伸びて騎士を包囲して呪いに蝕む。

 ─── ギュィ……ッン!!
 拘束された騎士が呪術の類に侵された時。騎士の胸元に大きく風穴が空いた。
 数瞬遅れ、赤々とした粒子が虚空へ霧散する。
「敵影、残り六」
 大口径のアンティークライフルから排出された薬莢が砂に埋もれる最中。岩場に着けていた二脚銃架を畳みながらラダの声だけが静かに残る。
 ──次の瞬間、騎士達が動き出す。

● "月光" ―Lunatic Knight―
 この丘には一体何があるのか。朽ちかけの騎士がこうまで守る物が、何処にあるのか。生き残った青年はなぜ死地に在って生き延びたのか。
 疑問は幾らでもある。ただ、今は目の前で死せる騎士達を弔わねばならないという思いが弥恵にはあった。
「月を彩る華の舞、死せる騎士に贈る戦乙女のトーテンタンツ、存分にご堪能ください!」
【ハ……ァ……は、ァ……――】
 丘の上で静観していた騎士達は、二体目の騎士の破壊と同時に動き出していた。
 数は依然六体。いずれの個体もその実力は均一であり強力、そしていずれも厄介なのが足並みを中々に揃えている点である。
「恋屍殿! リゲル殿! 前線はこのまま維持するとして、前に出過ぎぬよう!」
「好都合だ。僕等を狙い、敵方から飛び込んで来てるのだから」
 月下に翔け上がり舞い踊る天爛の乙女。弥恵が咲耶達前衛を飛び越え、輝輝出でる飛翔体を供にして眼下の騎士達を魅了する。その隙を衝き、銀剣が光輝を放つ。
 瞬間、月光を浴びた錆びた一騎の剣が妖しく光をリゲルと対を成す様に放ち。左右から振り抜かれた刃を愛無が受け止め火花が散る。
 愛無の視界に、暴風によって生み出された砂塵を纏う騎士の姿が映る。
「この地に仇為すモノ。それがこの地を象徴するかの如く熱砂を纏うか――」
 石突を蹴り上げ、ガリリと火花が散るのも無視して愛無は右側面の大剣と己が身体の合間に槍を移す。当然一方の刃が彼の片腕を切り裂き鮮血が噴き出す……が、直後に愛無は騎士の腕を絡め取るように懐へと引き寄せてから突き飛ばした。
「――いざ……!!」
 その瞬間。リゲルが揮う銀剣から迸る眩い銀閃と、錆色の騎士が放った砂塵の刃が衝突した。
【……ッ!?】
「さっさとくたばれ、死に損ない」
 吹き荒れる衝撃波の渦を突き破る暴虐的な魔力が降す黄金の奔流。
 遠方から放たれた、エクスマリアが神威を砕く一撃が暴風纏いし騎士を打ち貫いて四散させる。愛無に突き飛ばされリゲルの銀剣に巻き込まれた間抜けに振り下ろされる、フレイの(苛立ちを乗せた)全力本気の拳が更なる金属片を月下に撒き散らしたのだった。
「今のは美人の分だ……って、さっきの眩しいやつのせいで弥恵の舞いが見えねえじゃねえかリゲル! 女共は無事か?」
「ええっ、こんな乱戦時にそれ言うか!? あと前見ろよ!」
「目の前の敵はぶっ殺す。後ろの美女の舞いも目に焼き付ける、これでパーフェクトだろ」
「余裕あるでござるな……しからば!」
 足並みを揃えるべく後退して来たフレイとリゲルの言い合いを他所に、咲耶は己が相対する騎士と向き直る。
 気が付けば暴風が吹き荒れ、咲耶を切り裂かんばかりに鋭い一閃が幾重にも交差した。時折大振りになる一撃を躱しながら、咲耶は騎士の鎧兜を懐から蹴り上げて視界を上へ。同時、後方のシグが行使する魔方陣が彼等の頭上に展開する。
 赤き眼が紅電と共に鎧を覆い、壮絶な放電現象のような作用をもたらしながら崩れ落ちた所を咲耶が掌底気味に打ち上げて仰け反らせ、全身の重さを乗せた兜割りさながらの踵落としで沈めた。

 パリンッ。

(―――今の音は、なんだ)
 壁役兼前線を抑えていた騎士を屠ったばかりのエクスマリアが、戦場のどこかで鳴った破砕音に気付いた。
 その時。月光照らす丘へ無数の鉛玉が降り注ぐ――リゲル達前衛が騎士達から距離を取ったのを見計らったラダによって連射された超威力の狙撃弾である。
【っあ、ガ……はぁ―――ッ―ッッ!!?】
 一騎逃れても束の間。超技巧に照準を絞られた大口径の銃弾は丘の土砂を抉り、錆びた鎧を粉々に打ち砕いて地に薙ぎ倒していく。
 霧散する赤き粒子。
「はァッ!!」
 シグが放ったマジックロープが敵を拘束した所へリゲルが上段から斬り伏せる。破砕音、砕けた鎧が修復する前に弥恵の狂熱的な舞踏が呪殺を紡ぎ、その場に縫い止められた騎士を愛無が突き倒す。
 今度は、全員に聴こえる程の音で何かが割れ落ちた気がした。
 誰かが顔を上げる。そこには、蒼く光を放っていた丘の背に浮かぶ月が"欠けている"姿が映し出されていたのだ。
【――――】
「執念か、意地か。丘の向こうに何も見えない筈だ……そうまでして、守りたい物があったか」
 スコープ越しに鎧の中から微かに垣間見た視線が合う。撃ち抜かれた騎士が倒れるまで、嫌に長く感じられた。
 残った他の騎士が丘まで後退しようと駆け出した所を一瞬で捉えられ、その足を止めに行く愛無や咲耶達には為す術も無く。一分も間もない後に最後の一機が消滅した。

 それが合図である。北の果てに聳える丘を照らしていた月明りは突如消え失せ、辺り一帯を『本物の夜』が覆い尽くした。
「月そのものが隠蔽の術だったのか。北の果て、なるほど……混沌特有の物かと思っていたがね」
「それは占星術か、何か、だろうか」
「さて、この先に術者が居ればその話も聞けるだろうが」
「……そうか」
 首を振るシグを見て、エクスマリアはそれまで忙しなく動いていた金髪がゆっくりと降りた。
 彼女を始めとしたイレギュラーズは気づいていた。最早、この丘の向こうに人の気配など在りはしないのだと。



「傭兵と、隊商の者たち、だったな。未練、無念は募るだろうが、せめて仲間の手で、弔って貰うと、いい」
 最終的に馬車の一台が積み荷だけで一杯になってしまった。
 シグと愛無の二人を筆頭に丘の周辺を探索した彼等は、傭兵達と商会関係者の遺体を見つける事が出来たのだ。
 死体は多い。恐らくは何も知らぬ旅人も騎士達に葬られたのだ――彼等もイレギュラーズはせめてもの弔いにと地に埋めてやるのだった。
 丘の麓に遺品等で並べ建てられた墓標の前で黙祷を捧ぐ、咲耶とリゲル達の姿。
「さらば、強き魂を持った武士よ。せめてしがらみを捨て心安らかに眠るがよい」
「どうか、安らかな眠りを」
 結局の所、理由は知れない。
 咲耶とてシグと共に丘の向こうに何があるか見たつもりだ。だが結局、そこに遺されていたのは朽ちた村落だけだったのだ。
 それが何を意味するのかは、今この場では分からない。
 それを探るも、謎として解くも。各々次第だった。

「にしても何であいつら動き出したんだ? そういう魔物か?」
「魔物。確かにそうとも言えるかもしれない、だがあれは魔性の気に当てられた者にしては多芸だった」
「んじゃ、何だったんだ」
「……あの月の魔術。あれがもしこの十数年維持されていたのだとすれば、私にはその根源にこそ秘密があるのだと思うがね」
 シグは夜空を見上げて、呟くように言う。
「自らの過去を怠惰に隠す様に、悪意を籠めて置かれた土産物だとするなら……」


成否

大成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ……あなた達が首都へ戻った時、そこには傭兵達の家族や友人が集まっていた。
 当然。そこには商人の家族も。
 彼等は待ち望んでいたのだ、この砂に覆われた国で精一杯生きて来た者達の帰還の時を。
 あなたは、そっと……あるいは持ち前の率直さで彼等と向き合い、そして死した者達の品を手渡した。
 あなたたちの元には誰も残らない。涙を見た事で思うモノはあったかもしれない。
 けれど、その場には誰も。戻らぬ人を待つ人々はいなくなっていたのだった。

 …【大成功】…

お疲れ様でしたイレギュラーズの皆様。依頼は大成功を収めました。
全体的に皆様それぞれが足並みを揃え、それでいて味方を互いに把握し合いながら依頼の遂行とその背景にあるものを探る姿は見事でした。
結果、重い負傷者無く依頼の要である討伐を完遂し遺品を全て見つけるに至りました。

素敵なプレイング、ご参加ありがとうございました。
またの機会をお待ちしております。

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