シナリオ詳細
【イレクロ】真白な君を追いかけて
オープニング
●深緑迷宮
深緑南部の小さな村フェルク。
この村では今、ある奇病が蔓延していた。
それは全身の皮膚が硬化していく病。石化にも似たその病に蝕まれれば、やがて生きたまま動けなくなってしまう。
どうしてこの病が発生したのか、その発生源も不明なまま村の多くの民が皮膚の硬化に恐れ、嘆いた。
村に訪れた学者と医者は、この病の対処法を懸命に探した。
そして、古い文献に類似する症例を見つけたのだった。
「ストルク病……そしてそれを改善するフォーミの花。だが、これは――」
改善に必要な花はある迷宮の最奥に咲いていると言う。
『深緑迷宮』。迷宮森林の中に存在するその迷宮は入り組んだ木の根の迷宮で、最奥まで辿り着くのは至難だ。
どうしたものか――考えている大人達に声をあげたものがいた。少年だ。
「ボクが行く。
その花、見たことがあるんだ。迷い込んだ迷宮のその先で――」
少年の名はオータ。
以前、深緑迷宮に迷い込み救助された少年である。
オータにはある想いがあった。
深緑迷宮に迷い込んだあの日、出会った真白な女の子。
怖いはずの迷宮で、でもあの子を追うことに夢中になって――辿り着いたその先で大きな樹の根の”上に”沢山の花――フォーミの花が咲いていた。
女の子はそこで木の中に吸い込まれるように消えてしまったけれど――
(もう一度、あの場所にいけば彼女に会える……そんな気がして)
大人達はしかし、子供一人行かせるわけにはいかないと考えて、そして一つの答えを出した。
●
「なるほど。深緑迷宮に潜って最奥に咲くという花を見つければいいんだね。
樹木に支配された迷宮か、ワクワクするね」
ローレットに舞い込んだ依頼を前に『観光客』アト・サイン(p3p001394)が笑みを浮かべる。
「奇病は現在進行形で広がってるし、早いところそのフォーミの花というのをとってこないといけないわね。
確か見たことある少年が同行するんだっけ? そうなると少年の護衛も必要か」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の確認に『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)が頷く。
「なんでも一度最奥と思われる場所までは辿り着いているみたいだけど、道順は覚えてないみたいだね」
「なら、探索は必要になりそうだねぇ。
それに少年が見たと言う女の子。木の中に消えたという話だけれど……さて、その正体はなんだろうねぇ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が愉快そうに言うと、『慈愛の英雄』霜凍 沙雪(p3p007209)がぼそりと言う。
「幽霊?」
「ひえ、夏だからってそう言うのはいらないですよ」
「アンタ、死体観賞が趣味なのに幽霊はだめなのかい」
物部・ねねこ(p3p007217)が大げさに反応するのを見て、『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)がくく、と笑う。
「何にしても、準備はしっかりとね。まあそっちの二人には余計なことだったか」
すでに準備を始めているアトとイーリンを流し見ながら『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は口の端を吊り上げた。
こうして八人は奇病を止める為、深緑は『深緑迷宮』へと向かうのだった。
●
黄昏に染まる迷宮を、真白な少女が駆ける。
油や、砂。泥が跳ねても真白のまま変わらずに。
少女は誰かを待つように、今も迷宮内を駆け続けるのだった。
- 【イレクロ】真白な君を追いかけて完了
- GM名澤見夜行
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2019年08月17日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●自然の迷宮
フェルクの村を襲う奇病。
その治療薬として有効と思われるフォーミの花を手に入れる為、依頼を受けたイレギュラーズはフェルクの村へとやってきた。
「君が同行するという少年か。今回はよろしく頼むよ」
「は、はい! お願いします!」
オータと名乗った少年はやや緊張の面持ちでイレギュラーズと挨拶を交わす。『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)は「なに、そう緊張する必要はないさ」と気さくにオータの肩を叩いた。
「準備が出来たらすぐに向かおうか。
フォーミの花が咲いているという深緑迷宮へ。少年案内を頼めるかい?」
「うん、こっちだよ」
『観光客』アト・サイン(p3p001394)に促されて、オータはイレギュラーズを先導して歩き出した。
向かうは深緑迷宮。自然によって作られた深き森だ。
村を出て、迷宮森林へと足を踏み入れる。
深い森の中をまるでいつもの散歩道のように進むオータは、実にハーモニアらしかった。
「なんだかすでに迷宮にいるかのようですね」
「まあ迷宮森林なんて言うくらいだしね。
まだマッピングは必要ないでしょうけど、いつでもチェック出来るように準備しておいて頂戴」
物部・ねねこ(p3p007217)にそう言って『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が愛用の白紙本『知識の砦』をねねこに渡す。
「これは便利ですね……」
「大事に使ってよ。装丁するのも結構大変なのだから」
会話をしながら進んでいく。
森は一層と繁り深まりを増していく。
深緑とはよく言ったもので、目に映り込む光彩は鮮やかな緑から濃く深い緑へと変わっていく。
案内や目印もなければ、きっと出口がわからなくなってしまうに違いなかった。
「みて、あそこが入口だよ」
先頭を歩くオータが指さす。
深い森の先、茨がトンネルのように輪を描き誘い込むように迷い人を魅了する。
「なるほど……”入口”、ネ」
実はもう迷宮の中にいたんじゃないかと錯覚してた『チアフルファイター』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)が苦笑する。
「それじゃここからは注意して進もうか。
オータ、君もここからは”慎重”に頼むよ」
アトに釘を刺されこくりと頷いたオータ。
その胸中ではいつかみたあの真白な少女のことを想う。
彼女に、また出会えるだろうか? 会って――そして何を伝えれば良いのだろう?
複雑な思いは思春期の少年には理解しがたく難解だ。
けれどその答えは、きっともう一度出会えれば解る気がして。
「行こう」
アトに促されて、オータそしてイレギュラーズは茨のトンネルを潜って行く。
小柄な者であれば素通りできるトンネルも、レイヴンや『闇之雲』武器商人(p3p001107)には以外と厄介だ。
「トゲがチクチク、着物(コート)に引っかけないようにしないとね」
トゲを避けながら、狭くなる入口を抜けると――鮮やかな大森林が視界に飛び込んでくる。
「これは……なんだかすごいねぇ」
『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)が驚いた様に声をあげる。
それもそのはずで、トンネルを潜る前に見ていた森林と距離的にはそう変わっていないにもかかわらず、トンネルを抜けた先は、明らかにそれまでの迷宮森林とは異なっていた。
「植生が違う……? この一帯だけ異質な環境ってコト?」
ミルヴィの疑問に、思考するイーリンが呟く。
「或いは、迷宮森林に生まれた”迷宮”としての特性かしら。
何にしてもここが深緑迷宮で間違いなさそうね」
「では、ここからは決めた通りの班分けで進もうとしようか」
レイヴンの言葉に、『慈愛の英雄』霜凍 沙雪(p3p007209)が頷く。
班分けはこうだ。
一班にアト、レイヴン、武器商人、ミルヴィ。
二班にイーリン、天十里、ねねこ、沙雪の四名。
オータは一般が受け持ち共に行動する。
「周囲を見ると、樹の根に茨が絡みついて壁のようになっていますね。茨に覆われた先へは行けない、ということでしょうか」
ねねこの洞察にオータが頷く。
「探索したわけじゃないけれど、出入り口はこことフォーミの花が咲いてる場所の二箇所だけなんだ。
迷路のようになってるけど行き止まりは樹の根と茨でわかるようになっているよ」
「なるほど、まさに迷宮探索と言った感じだね。階層があれば尚良かったが、それは高望みしすぎか」
アトのぼやきにレイヴンが「くくっ」と笑う。
「イーリンやアトと依頼に入るときは大体この手のダンジョンが絡むよね。頼もしいけどさ」
「狙ってるわけじゃない……わよね?」
「どうかな?」
イーリンの確認にアトが肩を竦めた。
「それじゃ進んで見ましょうか。
とりあえず入口を書き込んで置きましょう」
「マッピングのコツはアバウトに、要所を抑えることよ」
知識の扉を開いたねねこに、イーリンがそう声を掛ける。
「ええっと、それじゃ四角く仕切られた場所に茨のトンネルと黄色の竹のような植物が高く生えている……と」
「まずはこっちの茨がない道を真っ直ぐ、そうすると赤い大きな花があったはず……」
オータが記憶を辿りながら目印を思い出していく。
深緑迷宮の探索が、始まった。
●彼女は何を伝えたいのか
深い緑の世界に、色鮮やかに、奇々怪々な植物が立ち並ぶ。
異界に迷い込んだかのような不思議な植生の展覧会は、歩みを進めるイレギュラーズの目を、一度たりとも遊ばせたりはしなかった。
同時に、魔獣達の息遣いは確かな気配としてイレギュラーズの皮膚を粟立たせ、自分達が彼等の領域に足を踏み入れていることを自覚させた。
迷ったときの気持ちを思いだしたのか、オータも不安げに周囲を見渡す。
ミルヴィの振りかけた獣よけの香水がオータの鼻先を擽る。胸にわだかまるこの思いは――記憶にこびり付いて離れない”彼女”のことを考えていて――
「一旦、休憩にしましょうか。
結構歩いて来たし、状況確認の意味も込めてね」
いくつかの分岐を探索し、何度かの魔獣の戦闘を終えたところで、イーリンがそう決定した。
手頃な木の根に腰掛け足を伸ばす。
夏の強い陽射しもこれだけ深い森となればそう届くものではない。僅かな木漏れ日は幻想的な光の線を描き出して、薄暗い森の明度を調整していた。
「焦ってる? あまり余裕がないみたいかな?」
休憩に入っても辺りをキョロキョロと見回すオータに、天十里が声を掛ける。
「焦りすぎたり慌てたりしていい事はないな。
気持ちは前向き笑顔は忘れずに、ってね。その方がきっといいからね」
「う、うん。気をつけます」
注意を促されて、やや縮こまるオータに、精霊疎通を試みていた武器商人が言葉を投げかける。
「どうしてまた、新緑迷宮の奥を目指すんだぃ。
花を見た事があるからってうろ覚えなのだろう? 件の娘に一目惚れでもしたかぃ?」
「えっ! ち、違うよ……そんなんじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「あの時見たあの子の、どこか悲しそうな……申し訳なさそうな顔が気になって……なにか言いたいことがあるんじゃないかって、そう思ったんだ」
「彼女は何を伝えたい、か。
件の娘が、言葉を持たない精霊や霊魂の類いであれば、最奥へと誘う理由は果たして……おっと、樹精が答えてくれたよ。
奥には確かに何かがいるようだねぇ。どうも反応から見て樹精仲間とは認識されていないようだけれど。さてさて、なにがいるのやら」
ヒヒヒと笑った武器商人は対価の蜂蜜を樹精に与えながら、最奥に待つ物を想像する。迷宮の奥、宝たるフォーミの花へと誘うはどのような存在なのか。
「まあ考えても答えは見つかるわけでもなし、今は休憩休憩。
沙雪、これ冷やしてくれる?」
「あ、私も。沙雪さん、良ければ飲み物冷たくして貰っても良いです?
動き回ったので冷たい物が飲みたい気分なのですよ」
ミルヴィが道中集めた木の実を沙雪に渡しギフトで冷やして貰う。ねねこも合わせて沙雪に飲み物を冷やして貰った。
「ありがと。
これにヨーグルトと蜂蜜を加えれば……『迷宮のジュエリーフルーツ雪纏い』の出来上がり!
凍った果実にヨーグルトかけると脂肪分がふわりと凍ってハチミツも宝石みたいに輝くの」
「わあ、綺麗だね」
天十里が声を上げる。イーリンも「素敵じゃない」と顔を綻ばせた。
「ほら、ねねこもそんな書き込んでないで一緒に食べましょう。
マッピングの方はあとで見てあげるから」
「はい、お願いします……思った以上に書くこと多くて難しいです……」
そんな会話を聞きながら、アトもまた手にしたペンで何やら書き込んでいる。気づいたねねこが何を書いているのか尋ねると、アトは「日誌さ」と笑う。
「これは僕たちがこの世界を生き、あらゆる場所を踏破してきたという轍。
体験は記憶に、そして記憶は記録として記されていく。
題するならば、そうだな……特異運命点年代記――イレギュラーズ・クロニクル、ってとこかな?」
「いつか振り返って読むときに楽しめるものになるといいわね」
ジュエリーフルーツを頬張りながら言うイーリンにアトは、
「なあに、失敗した話だったとしてもその時には笑い話さ」
と、言って日誌を閉じた。
「フォーミの花と言うのはどういった花だったか覚えているのかい?」
レイヴンの問いかけにオータは少し首を捻って、
「赤色の花なんだ。百合の花に似ていたようにも思えるけど、花びらに斑点がついてるんだ」
と、答えるが今ひとつ記憶はハッキリしないようでもあった。
そんな風に談笑しながらイレギュラーズ達は休憩を取り、十分に休んだところで探索を再開する。
真白な少女が現れたのは、そのすぐ後だった――
●真白を追いかけて
休憩のあと、いくつかの分岐点を越えてワイルドウルフの群れに遭遇した際に、それは現れた。
純白真白な少女が、まるで魔獣などいないかのように走り抜けていく。
「待って――!」
それを見つけたオータが、脇目も振らず追いかけ始める。
「レイヴン!」「わかっている――!」
すぐさまレイヴンが黒翼を羽ばたかせ、機動力を活かして追いかける。
「こっちも急いでかたづけるよっ!」
ワイルドウルフは六体。強敵ではないが数が多い。
ミルヴィが舞うと共に魔性の瞳を向ける。ワイルドウルフ達の注意が引きつけられた。
「おっとカーソンの方へのお触りは厳禁だよ」
ミルヴィへと襲い来るワイルドウルフの群れ。それを武器商人がその身を盾にして塞ぎミルヴィを守る。
「デート以外で二人で並ぶのは初めてじゃない?」
「そうかもね――! フォローよろしく!」
ワイルドウルフの死角に回り込むように立体機動で飛び回る天十里が銃を切り替えてファニングショットを放つ。一瞬でシリンダー内の弾丸を撃ち尽くす精密な六連射がワイルドウルフ達を射貫いていく。
同時、イーリンが手に持つ紅い依代の剣に魔力を規格限界まで注ぎ込む。限界まで流し込まれた魔力は行き場を無くし炸裂する。
その推力はイーリンの突撃力へと変換され、紅き疾風となって一瞬のうちにワイルドウルフを間合いの内に収めれば、魔力によって増大した質量を伴う斬撃を放つ。
「武器商人、ちょっと派手にいくぞ」
イーリンの放った斬撃による紫の燐光が迸るその火中へ、アトが銃を向ける。放つは自己複製の魔法が過充填された弾丸だ。発射の度に強烈な火花がアトの手を焼くが、気にせず乱射する。武器商人をも巻き込む一撃だが、この程度で武器商人が倒れないことも承知の上だ。
強純な熱を伴う弾丸がワイルドウルフ達を貫き、流血に塗れさせていく。
「支援はおまかせください!」
ねねこは周りをよく見ながら、地形を利用し立ち回る。支援を得意とするねねこは、その特性を活かして仲間達を癒やし、守っていく。
沙雪もまた、自身の特性を活かして攻撃する。氷結を伴う破壊のルーン『H・ハガル』は不可避の雹となって、ワイルドウルフ達を打ち据えていった。
イレギュラーズがワイルドウルフ達と戦っている最中、真白な少女を追いかけるオータと、それを追いかけるレイヴンは、太い樹の根のアーチを上り、更に奥へと向かっていく。
「オータ、待つんだ!」
「でも、追いかけないと……!」
オータに追いついたレイヴンがオータを引き留める。振りほどこうとするが、オータの力ではレイヴンには敵わない。
「わかっている。
だから、まずは落ち着いて、追いかけてくる仲間にわかるようにしないとな」
そういってレイヴンはアトから受け取っていた赤いロープを取り出す。それを木々に括り付け、目印とする。
「さあ、見失わないように慎重に追いかけよう。魔獣がでないとも限らないしな」
「う、うん!」
そうして、オータとレイヴンは奥へ奥へと駆けていく真白な少女を追いかけ出す。
(実体はある……が、匂いや音が伴わない。やはり精霊の類いか……?)
レイヴンは走り往く真白な少女から目を離さず思考する。
なぜ奇病が蔓延したのか、その治療として使えるフォーミの花へと誘う少女、その少女の浮かべる悲哀の表情。
全ての答えは、この深緑の迷宮の最奥で待っていた。
●贖罪の花
真白の少女を追いかけ続ける。
途中魔獣達を倒した仲間達とも合流し、そしてついにイレギュラーズ達はその場所へ辿り着いた。
「樹の根のトンネルだ」
「覚えてる……すごく真っ暗なこのトンネルを抜けたら、あの花が咲いている場所についたんだ」
オータの言葉に、イレギュラーズは顔を見合わせ、そして――
「いこう」
きっと消えた少女も待っているはずだと、イレギュラーズは樹の根のトンネルへと進んだ。
光が、消える。
真っ暗なトンネルは恐怖心を煽り、自らの進む方向を見失わせる。
「恐れないで、貴方の望みを。叶えるために私達が居る」
勇気を振り絞り、オータは奥へ、奥へと進んでいく。
そして、進む先から光が溢れ――
「あれが、フォーミの花――」
鮮やかな赤が、巨大な大樹の根に咲き誇る。
飛び込んできた幻想的な光景に思わず目を見張り、ため息が零れた。
「綺麗だわ……」
「みんなで頑張ったから綺麗だよネ……嬉しい」
手を繋ぐイーリンとミルヴィ。その視線が、花からその中央に立つ真白へと向けられる。
「アレが噂の、か」
「邪悪さはなさそうだねぇ。樹精にも近い気もするけれど、よっぽど高位にも思えるよ」
アトと武器商人が油断なく少女を観察する。
なるほど、確かに魔物の類いではなさそうだ。グリムアザースの可能性は十分にある。
で、あれば対話もできそうなものだが――
「――――」
言葉を知らないのだろうか。意思を伝えることのできない少女は、やはり申し訳ないような悲しい表情を浮かべて、そして大樹の方へと後退していく。
「待って!」
オータが飛び出す。
少女の動きは、あの日見たときと同じ。このまま消えてしまう前に、なにか伝えたいことがあったはずだ。
「ボクは……ううん、君はどうして、そんな悲しそうにしているの? ボクに出来ることなら、やってみせる――だから」
どうか悲しい顔をしないで。
オータは辿々しくも、初めて見たとき感じたあの思いを思い出し、少女に言葉を伝える。
「霊魂……ではないようですね。死体があるというわけでもなさそうです」
ねねこの言葉に、イーリンが閃く。
大樹の根がこの迷宮を作り出し、核となっている。その大樹へと導く少女は、であればやはりこの迷宮を司る精霊か。
ならばと武器商人が精霊疎通を試みる。
「さぁ聞かせてごらん。君の意思を、思いを――」
『――――あ……ああ、聞こえますか――――』
少女の言葉が、確かに聞こえる。
そして意思の疎通が図れると、少女は静かに語り出した。
古来より、この深緑迷宮の核となっていた大樹。その樹精として根付いていた少女、彼女には役目があった。
それは、数百年に一度訪れる、深緑迷宮の受粉活動。周囲にバラ撒かれる花粉は、周囲に住まう人々に異変をもたらす。その時、人々を救うために贖罪の花を渡すこと。
受粉活動が始まる時期、近くに迷い込んだオータに花を任せようとしたが、精霊として未熟だった少女は言葉を伝えることができず、花を渡すことができなかった。
蔓延したストルク病の現状を予期して、少女はただただ申し訳ないと感じていた。
「それじゃボクがこの花を持ち帰ればいいんだね!」
やっと少女の思いを理解することができたと、オータは喜ぶ。こくり、と少女が頷いた。
「ふふ、よかったね」
笑顔でオータの肩を叩く天十里に、オータは照れくさく笑った。
「では、花を持ち帰るとしようか。花粉を浴びるとまずいのであれば、ワタシ達も治療薬をもらったほうがいいかもしれないね」
「ええ、余分に持ち帰って作って貰いましょう」
そうしてイレギュラーズは荷物一杯にフォーミの花を集め、帰り支度を始めた。
別れの時。
オータは少女に声を掛ける。
「ありがとう。ボクをここまで誘ってくれて」
「――――」
「……今は言葉がわからないけれど、きっと意思の疎通ができるようになってみせるよ。
だから、また会ってくれるかな?」
その問いかけに、少女は僅かに目を見開いて――
「――」
コクリと、微笑み頷いた。
――真白な少女が駆け巡る。
深緑迷宮は、いつかまた訪れる再会を、静かに待ち続けるのだった――
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした。
MVPはオータをしっかりと守ったミルヴィさんに贈られます。
リクエストいただきありがとうございました。
またのご依頼お待ちしています!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
シナリクありがとうございました。
深緑迷宮を踏破して奇病の特効薬となる花を手に入れましょう。
●依頼達成条件
フォーミの花を手に入れる。
■オプション
少女と少年の邂逅。
●情報確度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は起きません。
●探索について
迷宮内は樹の根が入り組んで迷路のようになっています。
闇雲に進んでも最奥まではたどり着けないでしょう。
マッピングをするなり、手分けをするなり、先へと進む方法を考える必要があるでしょう。
●魔獣達
迷宮内には魔獣達が棲息しています。
特に注意すべきは好戦的なジャイアントアナコンダとワイルドウルフでしょう。
アナコンダは単体で襲いかかってきますが、ワイルドウルフは四匹以上の群れで襲ってきます。
最奥へ進むには回避できない戦いもあるでしょう。しっかりと準備をしてください。
●オータ少年について
探索に同行します。
記憶は朧気ですが、迷宮内の目印となりそうなものはいくつか覚えています。
最奥へ向かう指針を教えてくれるはずです。
ただし、迷宮内を駆ける女の子を見つけると一人追いかけて走って行ってしまいます。
彼等を見失うと最奥へと辿り着くのは難しいかもしれません。対策を考える必要があるでしょう。
●真白な女の子について
迷宮内を駆ける真白な女の子。
迷宮内に足を踏み入れた者を誘うように現れては駆けて消えて行きます。
その正体は、果たして幽霊か、はたまた精霊か。
出会ったチャンスを逃さず彼女を追いかけましょう。
●戦闘地域について
木々の多い場所での戦闘となります。
戦闘行動に支障はありません。樹木を利用して立ち回ることが可能でしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
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