PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<bc'Swl>CATLUTONNY

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●過飢にあり、未暴たる
 見慣れた町並み。
 見慣れた人並み。
 いつもの風景。いつもの帰り道。
 しかし、それが不意に全く別のものに感じることはないだろうか。
 例えば路地裏へと続く、普段なら選ぶことのない道が視界に入った時。
 建物と建物の間にある細い道は、一体どこの繋がっているのだろう、と。
 最初は、そういう好奇心だった。
 代わり映えのしない街がなんだか別の顔を見せたような気がして、そうして足を踏み入れたのだ。
 ひとのざわめきが遠い。こんなにも晴れているのに、どこか薄暗く感じてしまうのは、壁に囲まれた閉塞感からくるものだろうか。
 何度目かの曲がり角。これ以上は、もう道を覚えていられる気はしなかった。
 引き返そう。そう考えて体を反転させようとした、その時だ。
「――――ッ」
 奥の方に、何かの気配を感じた。
 人ではない。その様な息遣いではない。何か得体のしれないものが、物陰からじっとこちらを見つめている。
 恐ろしくて一歩引いた、その時だ。
 それは素早く物陰から自分の前へと飛び出した。
「ひっ――――――あれ、猫ちゃん?」
 猫だった。子猫。いや、正しくはそうではない。尾が二本あり、ところどころ爬虫類のような鱗が見える。普通の猫とは言えないだろう。
 どうしたものかと首をひねっていると。
 ぐきゅるるるるるるるるる。
「……お腹、空いてるの?」
 恐る恐る、買い物袋からふかし芋を取り出した。自分のおやつに買ってきたものだが、目の前で飢えている子猫がいるのに放っておくのも寝覚めが悪い。
 差し出すと、飛びつき、転がすようにして運ぶと、にゃあとひとつ鳴いてみせた。
 途端。
 猫が猫が猫が殺到して現れて奥から奥からどんどんどんどん猫が猫が集まってちょっとずつ芋をふーふーしながらちっちゃくちぎってもぐもぐごっくん。
 そして一斉にこちらを向いて、鳴くわけでもなく、催促するでもなく。
 ぐきゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるる。
 大きく腹を鳴らしていた。
「あら、まあ……こんなにたくさんは、どうしたらいいのかしら?」

●過食にあり、凶暴たる
「まあ完全に企画としては、もぐもぐ、失敗だよね。敵対種として、ごくごく、作りたいっていうのに、もぐもぐもぐ、成長後に凶暴に、ごっくん、なるなんてさ、おかわり!!」
 その少女はイレギュラーズ達を前にして、ナイフとフォークを一切休めることなく説明を行っていた。食べながら話すというか、ほぼ食べるほうがメインなせいで、いまいち概要が伝わってこない。
 少女の名はレター・ノート。時折、ギルドに仕事を持ってくる依頼人である。
 彼女の説明はだいたい食事をしながらになるが、本当に食事をしながら話すせいでいまいち核心に迫れないというか、こら、おかわりを運んできたウェイトレスに事前に次を頼んでおくんじゃない。
 で、今回は何を倒すって?
「ああいや、そうじゃないんだよ。彼らは最初から詰んでいるような調整はされていなくてね。まだ人を襲ったりはしない。お願いしたいのは、彼らの保護だ」
 レターが言うには、それらは鱗と二本目の尾を持つ猫の群れだという。生まれたばかりで幼く、非常に大きな飢餓感に苛まれているが、ちゃんとした食事と愛情を持って接すれば問題なく成長するのだという。
「彼らは飢えでは絶対に死なない。だが飢えを解消しなければ凶暴に育ち、イナゴも逃げ出すような食い尽くす集団になってしまう。それを止めてほしいんだよ。せっかく生まれたんだから、どうせなら幸せになって欲しいだろう?」
 それには同感だが、どうしてそんなことを知っているのだろう。
「まあそりゃあ、同族のよしみってやつかな。ああ、飼う必要はない。とにかく一度満腹にしてあげて、あとは遊んであげてよ。いいだろ、子猫の群れを世話する仕事」
 それもまあ、同感だ。聞きたいことはあるけれど。
「あ、そうそう。今回は僕も同行するぜ。いやあ、イレギュラーズの作るご飯。興味があるね! お、きたきた、いっただきまーす!!」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
お腹をすかせた猫型モンスターの群れが出現しました。
彼らは凄くお腹をすかせており、また愛情に飢えています。
これで死に至る種族ではないのですが、そのまま成長すると何でも食べ尽くす凶悪な集団になってしまいます。
彼らに食事を与え、一緒に遊んであげることで友好的な関係を築いてください。

【キャラクターデータ】
■キャトラトニー
・尾が二本あり、ところどころに爬虫類のような鱗が生えた子猫の群れ。
・毛並みは様々で、統一性がありません。
・知性が高く、熱いものは冷まして食べたり、話せませんが、言葉を理解しているような節があります。
・非常に強力な飢えに悩まされており、また愛情に飢えています。このまま成長するとあらゆる生物を襲う危険なモンスターになってしまう恐れがあります。
・一度満腹感を覚えさせ、友好的な関係を築くことでその心配はなくなります。
・数十匹はいます。
・以下の能力を持つ。

《≒飢餓感》
強力な飢えに悩まされており、時間経過で群れの数が増えていく。
一度満腹感を覚えると、この能力は消滅する。

■レター・ノート
・依頼人。黒髪の少女。
・とても良く食べます。

【シチュエーションデータ】
・街の裏路地にある広場。
・昼間。

  • <bc'Swl>CATLUTONNY完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2019年08月16日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)
蒼銀一閃
ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
同一奇譚
河津 下呂左衛門(p3p001569)
武者ガエル
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ネーヴェ(p3p007199)
星に想いを

リプレイ

●ケイオスヒーローズアンドブラインドキャタピラー①
 これらの活動は、仕事というよりも趣味の範囲に含まれる。実際の業務といえばそれこそ非常に暴力的で多種族の意向などまるでお構いなしであるものだ。正直を言えばそんなものにはとっくのとうに飽き飽きしているのだけれど、嗚呼ごめん、仕事の話じゃなかったね。そう、つまりは僕がどうしてこのような活動をしているのかだ。

「味という観念を身に着けてもぐもぐ、食事という必須行為にもぐもぐもぐ、楽しみを加えた点が生物進化の最高価値だよねもぐもぐ」
 レター・ノートという少女に先導されるまま、普段は通らぬような道を進んでく。
 その間も彼女はテイクアウトした串焼きを咀嚼しながら会話を続けていた。
「ふう、至福。さ、もう一本もう一本」
「この子らも失敗作なのか。レター、そう言う君は成功だと言うのか」
 食べ続けるレターに『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)は疑問を投げる。
「僕はまだ、もぐもぐ、判定前なんだよねえがぶり。もうじき大きなもぐもぐもぐもぐもぐ」
 答えの後半がまるで聞き取れなくて、思わず頭を抱えた。
「……私は君の欠点に気づいたよ。食べる口と喋る口、別々でも良かったと思うぞ。すごく聞き取りづらい!」
「きゃ……キャトラトニー。ちょっと言いづらいが、慣れれば大丈夫かな」
 下を噛みそうな名前であるので、『フランスパン・テロリスト』上谷・零(p3p000277)は口の中で何度かそれを反芻していた。
「お腹の減りは、心の余裕が無くなる。成長してそんな生物になるのも分からなくはない……」
 食わず呑まず、あわや飢え死に。そういう体験なら、零もこちらの世界に来てすぐに味わわされた。その苦しみは痛い程によくわかる。
「可愛いにゃんこさんをお腹を空かせたまま放ってなんておけないよね!」
 猫好きの血が騒ぐのか、『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)は非常に張り切っていた。
 持ち込んだ自前の猫じゃらしを握りしめ。素振りにも余念がない。
 子猫がいっぱいいるらしい。いっぱいいいっぱいいるらしい。どこの天国だそれ。
「いっぱい食べて、いっぱい遊ぼう! 普通のにゃんこさんとは違うみたいだけど、そんなの関係ないもんね!」
「飢餓に苦しむ愛らしい存在よ。我等『物語』の手を掴み、齧り給え。此処に存在する肉壁は再生するものだ。渇く事すらも赦されない」
 なんか言ってることがとっても不安だが、『果ての絶壁』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)にも猫を愛でる感情はあるようだ。
 ある意味献身的、なんだろう。たぶん。
 でも、あの、あんまり人間に近い味にしないでね? 野生動物に人の味覚えさせちゃだめだからね?
「うぅむ。レター殿の食いっぷり、見事なものでござるな」
 唸っているとレターは新しい串焼きを一本寄越してくるが、『武者ガエル』河津 下呂左衛門(p3p001569)はそれを丁重に断った。
「見ているだけで胸焼けを起こしそうでござった。美味い酒は人生の潤いでござるが、歳を取ると色々と気になるのでござるよ」
 最近ぽっこりしてきた自分のお腹を見下ろす下呂左衛門。去年の海では引き締まっていたのに……。
「これは、俺達が以前戦ったやつの仲間……というか、幼体……なのか?」
 それは疑問というよりも独り言に近いものであったが、『彼岸に根差す』赤羽・大地(p3p004151)に答える声があった。レターである。
「仲間というと語弊があもぐもぐもぐ。幼体というのはもぐもぐ間違いないね」
 その返しに、思わずぎょっとする。
 どうして知ってるんだ?
 その言葉を口にする前に、彼女はまた新しい串焼きに夢中になり始めていた。
「お腹を空かせた猫さん達のためにご飯を用意してあげなきゃっ!」
 子猫が飢えていると聴いて黙っていられようか。『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)もまた、いつも以上に張り切っていた。
「それにしても変わった猫さんだなぁ、なんていう種類なんだろう?」
 鱗が生えた猫というのは聴いたことがない。そもそも、哺乳類に鱗って生えるんだったか。そのあたり、混沌では些細なことかもしれないが。
「うーん、細かい事はいいか、可愛いし」
「猫様……猫様? でしょうか」
 薄汚れた道を行く中、途中で見つけた猫を一匹、ネーヴェ(p3p007199)が拾い上げた。
 子猫であるのだが、確かにところどころ鱗が生えている。尾が二本あるのも、非常に特徴的だ。
 これが件の猫、キャトラトニーなのだろう。
 ぐきゅるるるるるる。
 聞こえてくる大音量。腹の虫シャウト。全力で空腹を主張する。
「皆様と一緒に、ご飯をあげて、たくさん、可愛がりましょう……!」
 その声に反応したのか。
 わらわらと。わらわらとわらわらとわらわらとわらわらと。猫が出てくる。どんどん出てくる。奥の方まで本当にいっぱいいる。
 それらが一斉にこちらを見上げると、お腹からビッグコーラスを奏で上げた。
 ぐきゅるるるるるるるるるるる。

●ケイオスヒーローズアンドスケイルキャッツ①
 一種の反抗期さ。勝手に生んでおいて、勝手なことを言う。そんな親には向かいたい時期は誰にだってあっただろう? これもその類のものなんだよ。それはともかくとして、こんな可愛い猫がお腹を空かせて彷徨っているんだぜ。助けてあげたくなるものじゃないか。駆除をしなくて済むのなら、その方が双方にとっていいことさ。

「いやあ、これはちょっとギリギリだったかなあ。増えすぎてしまったね」
 道の奥、見えなくなるまでいっぱいの猫。流石にこの数はレターも想定していなかったのか。串焼きをしまい、一匹を抱き上げた。
「ごめんねえ、後回しになっていたよ」
 そして、イレギュラーズの方を振り向いて言う。
「それじゃあお願いするぜイレギュラーズ。僕の同胞を、お腹いっぱいにしてやってくれよ」
 なんとも、重労働になりそうだ。

●ケイオスヒーローズアンドスケイルキャッツ②
 中にはどうしようもないやつもいる。悪いやつって意味じゃない。デザインの問題なんだ。食うほど飢える。際限なく飢える。食うことでしか痛みを和らげられない。食わなければ呼吸できない。そういう風に作られたら、早期に処分してやるのがいい。君たちにとってじゃない。彼らのためにだ。

「いいねえ、網を持ち込んで現場調理かい。焼き上がりが待ち遠しいよ!」
 ラダの用意したバーベキューセットに、レターはご満悦のようだ。
「一応、肉屋で美味しい焼き方は聞いてきたよ」
 食事を振る舞う仕事に参加したのだから、切って焼いただけとは言われたくない。誰かの為に調理をするという経験には乏しいが、最大限の前準備はしてきたつもりだ。
 猫の群れがじーっとこちらを見上げて待っているのがわかる。出来上がりを期待しているのだろう。そこに混じってしゃがんだレターもじっと見上げてくる。
 どれほど食べるのだろう。持ち込んだ肉は足りるだろうか。
「いずれも大食い揃い、製作者? とやらは燃費をもう少し考えるべきだ」
 期待の視線を受けながら、ラダはふと思う。聴いても良いのか少し悩んだが、この娘が口に何も入れていないタイミングは珍しい。
「折角生まれたのなら幸せに、か。ではレター、君は幸せかい?」
「いやあ、そいつはちょいと難しい」
 何とも曖昧な表情をしていた。

 屋台を引いてきた零が作るのは、クリームシチューだ。
「普段はお金の都合で作れやしねぇが、今回は特別だ」
 なんせギルドの経緯で処理される。スポンサー万歳。ないないなどはいたしません。でも味見するくらいは許してください。
 野菜も肉もたっぷり入ったボリューム満点のそれを皿に分け、入れたそばから差し出していった。
「熱いだろうから冷まして食えよ。フランスパンに浸して食うのも有りかな?」
 群がる猫、猫、猫。その勢いは確かに肉食獣のそれを思わせたが、群れで料理を取り合うこともなく、均等に平等に食べていく。
「レターも食うのか?」
「おうともさ」
 サムズアップで答える依頼人。ていうかもう食べ始めている。
「……というか同族ってどーゆう事だ? なんか似た特性でも持ってたりするのか?」
「もぐもぐもぐ。そうだねえ、僕たちは何時だって飢えてもぐもぐ。それより、ほら」
 上手く聞き取れない中、レターが一匹の猫をつまんで差し出してくる。
 思わず受け取るとそいつは零の肩まで移動して、頬をぺろりと舐めた。

「暑いしスイカとかも食べるかな?」
 切り分けたそいつをシャルレィス差し出すと、キャトラトニーが群がり、あっという間に平らげていく。
 しゃくしゃくしゃくしゃく。にゃっ。
 食べた。まだある? そういう動き。
 切って、分けて。できあがった料理を猫まで運んでいくと。
 しゃくしゃくしゃくしゃく。にゃっ。
 食べてはこちらを見上げ、おとなしく待つ子猫たち。
 それを続ける内、お腹がいっぱいになった個体から、待ちの姿勢を外れていく。
 シャルレィスはそれらに向けて猫じゃらしを振り、キャトラトニーは見事な猫パンチを見せつけていた。
「……ところでこの子たちについて、レターさんは色々知ってるみたいだったけど」
 猫じゃらしを振りながら、レターに声をかける。猫と遊ぶのも良いが、気になっていたことだ。
「あ、食べながらでも良いんだけど、企画とか調整とか……同族ってどういう事? 他にもこんな風に困ってる子がいるの?」
「同族は同族さ。困っちゃあいるが、ちょっと難しい質問だね。こんな風に、なんとか生かせられるタイプはほとんど居ないから」

 自分を切り分けて、食させる。
 とある世界では国民的ヒーローも躊躇なくやっているので、その行為自体に問題はない。ないのだと思おう。疑問を感じてはだめだ。正気を保てなくなるぞ。
 それでもまあ、デフォルメされていないオラボナが切り分けられ、煮込まれ、炒められ、パンに挟まれて出てくるのだから、なんていうか、そう。どう表現しよう。えっと、そう。素敵。素敵。
「可愛らしい仔猫よ。我等『物語』を咀嚼して存分に成長し給え。肉の合間に水分摂取を忘れるなよ。喉に詰まらせたら危険なのだ。我武者羅に。無我夢中に溺れるのは恐ろしいと理解せよ。賢い賢い仔猫達よ」
 なんか発言がいつもより凄くわかりやすい。ていうかめっちゃ優しい。母性あふれるオラボナ。オカンオラボナ。混ぜ合わせてオカラボナン。
「美味しいねえ。美味しいねえ」
 猫と一緒に生オラボナをぱくつきながら、依頼人が感想を述べる。自分で書いてて生って意味がわからなくなってきた。
「君たちはとっても美味しいけれど、これは格別だなあ。あ、おかわりお願いします!」
 ……なんだって?

「こっちに来てからは、何故かよく犬猫の類に追いかけられるのでござるよなぁ」
 いざ依頼と意気込んではいたものの、猫に対する危機意識は根強く、下呂左衛門は少々おっかなびっくりな姿勢を見せていた。まあ、カエルだし……。
「しかし、これは真剣勝負。それは相手が動物であろうと変わりはすまい。精神を集中し、心の眼を研ぎ澄まし、一瞬の攻防に全てを懸ける。剣の道は全てに通ずるのでござるよ」
 これは猫にご飯あげて可愛がるお仕事です。
 しかし下呂左衛門は真面目である。猫を可愛がる仕事なら、全力で猫を受け入れ、また受け入れられ、愛で尽くさねばならぬのだ。
 猫に気に入られねばならぬ。猫に好かれねばならぬ。その為に技を持ち、猫を愛でることに特化するのだ。
「ね、猫ちゃあん……触らせてくれるでござるか……?」
 考え抜いたアラフォーの限界がこれであった。
 まとわりつくねこ、ねこ、ねこ。もふもふを感じる。めっちゃもふもふを感じる。
「これを機に、犬猫に対する苦手意識を少しでも克服したいところでござる。あるいは更なるトラウマか」

 大地の膝の上に座った個体にミルクでふやかしパンを与えると、そいつは口に咥えたままそこを退いて、他の個体がまた膝に登ってくる。
 キャトラトニーは群れでひとつの生物なのだそうだ。多頭の生物は複数の脳を持つが一匹の個体であるのと同じように、キャトラトニーは無数の子猫で一匹の生物なのだという。
「特性のあるうちは、だけどね。無害になってしまえば、見た目以外はそこらの猫とそんなに変わらないよ」
 依頼人はそう言う。おいこら、猫が食べる分までとろうとしてるんじゃない。
「……彼らも猫じゃらしとかは好きなんだろうか?」
 一匹を抱き上げてみると、そいつはこちらを目を合わせてにゃあと鳴いた。
 下ろして、目の前で振ってみる。ふりふり。キャトラトニーもそれに合わせて猫パンチをお見舞いする。たしたし。
 ふりふり、たしたし。ふりふり、たしたし。
 しばらく夢中になっていると、我に返ったときには大地の周りに猫だかりが出来ていた。ふりふり、たしたし。
「……一匹だけでも、連れて帰ったり出来ないだろうか?」

 やはり外見だけでなく、中身も普通の猫とは少々異なるものだと焔は実感していた。
 普通の猫はネギ類を食べることが出来ない。意外なことだが、乳製品のたぐいもあまり得意ではないらしい。
 しかし、キャトラトニーは『ふれんちとーすと』や『ぴざとーすと』も美味しそうに食べていた。
 初めて作った料理だったが、喜んでくれたのなら調理者冥利に尽きるというものだ。これを気に、誰かに振る舞うことを覚えても良いかもしれない。
 群れもそろそろお腹が膨れてきたのか、怒涛の勢いであった彼らの食事も、多少のペースダウンを見せていた。
 それに伴い、猫と戯れる時間の方が増えていく。
「今日は猫さん用のブラシを持ってきたんだ、綺麗にしてあげるよー」
 鱗を擦られるのは嫌がるかもと思ったが、そんなことはないらしい。初めてのブラシ体験に、どの個体も目を細めて堪能している。
「なでなでもふもふ、ついでにむぎゅーっと、よし!」
 ひとなつこく、聞き分けが良い。何匹かに一匹は、礼のつもりかこちらをじっとみて、にゃあと鳴いた。
「ほら、次の子もおいでー」

 そろそろだろうという思いとともに、ネーヴェは内心で胸をなでおろしていた。
 あれだけ居た猫の群れ。その殆どが満腹となり、食事をねだる個体は数えられるほどになっていた。
 視界いっぱいの猫をを見たときには、果たして持ち込んだ食材で足りるのだろうかとひやひやしたものだ。しかし蓋を開けてみれば、少々余るくらいであり、安堵の気持ちで小さくため息をついていた。
 猫に苺をやりながら、今か今かとその時を待つ。そわそわしているのを実感する。せっかく用意したのだ。自分もあれを、ぜひともやってみたいのだ。
「この度は、わたくし、これをちゃんと持ってきました……!」
 かばんから取り出したるはねこじゃらし。猫と遊ぶのだ。これを使わねばならぬのだ。
 ためしにふりふり。猫パンチたしったしっ。そのままネーヴェがしゃがんだところを背中からかけあがり、個体の一匹が肩の上にたどり着いた。
 まるくなる。肩の上でまるまって、にゃーごという。
 動いたら落ちるのではないか。そんな懸念から、ネーヴェはしばらくの間、身動きひとつ取れなかった。

●ケイオスヒーローズアンドブラインドキャタピラー②
 もう少しでこれも終わる。そうしたら、仕事に戻らなきゃね。

「え、連れ帰りたい? うん、いいんじゃない?」
 レター・ノートの回答は、ひどくあっけらかんとしたものだった。
「どの道もう、驚異はないし。群れでもない。尻尾が多くて、鱗があって、何でもよく食べる、それだけの猫さ」
 だから、連れ帰っても構わないと彼女は言う。
「いいよねえほんと。うん、ありがとね」
 そう言うと、レターは出された料理の最後の一口を平らげてみせた。

 了。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

苦手な食べ物はありません。

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