シナリオ詳細
森の集落で始まる侵食
オープニング
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深緑、アルティオ=エルム。
混沌の大陸西部に広がる大樹ファルカウを中心とした迷宮大森林。
この地には、多数の幻想種達の集落がある。
彼らは基本的に他国とは交流を積極的には持たず、穏やかに生活している。
だが、そんな集落の一つに魔の手が伸びていた。
巨大な鳥に乗って、集落へと降り立った幻想種と思しき男。
……いや、そいつはすでに狂気の影響で反転し、完全な魔種へとなり果ててしまっていた。
「…………っ」
「あ、あなた、一体……!」
魔種の登場に、住民達は驚きと戸惑いを見せる。
「なに、この理不尽な世界に復讐をと思ってね」
穏やかな者も多い幻想種だが、その男からはそうした雰囲気を一切感じさせない。
――『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』。
魔種となった男は自らそれを放ち、この幻想種の集落民を全て堕としてしまおうとしている。
「集落に何の怨みが……っ!」
「下手な真似はするな。こいつらをけしかけるぞ」
集落民達が魔種の男を捕えようとすると、男の影から獣のような複数の瞳が煌めく。
「普段通りに生活していればいい。そのうち、皆、大いなる狂気に堕ちていくだろうからな」
それに、集落民は黙り込む。危害がないなら、黙って生活するしかない。
そして、男は連れの少女に視線を落として。
「おい、お前の出番だ」
それは、髪の左側に止めたリボンが目を引く13,4歳くらいの茶髪のショートヘア少女。
「分かっているだろうが、もし拒否すればおまえの姉の命は……」
「……わかってるよ」
少女は言われるがままに、ギフトを発動する。
すると、それまで魔種の来訪に戸惑いを見せていた人々の様子が一変して。
「ああ、ハンネスが戻ってきた」
「お帰り、無事で良かったわ」
先ほどまでと一転、笑顔すら見せる人々。まるで、魔種の到来が喜ばしいことであるかのように……。
「そうだ、それでいい……」
満足げに微笑む魔種の男。
対して、ギフトを使った少女は腕につけたミサンガを見つめ、髪留めのリボンに手をやって。
「ユーリエお姉ちゃん……」
表情を沈ませながら、彼女は小さく姉の名を呟くのである。
●
幻想、ローレット。
依頼を探すイレギュラーズ達へと、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が声をかける。
「深緑のとある集落に、魔種が現れるのを確認しました」
彼女はイレギュラーズとなってから微弱なれども予知の力を得ており、今回の事態を予見したという。
本当に魔種が現れたのであれば、『原罪の呼び声』の影響が集落民に及ぼす影響は計り知れない。新たな魔種が現れる前になんとかせねばならない。
今回、アクアベルは、現場となる深緑の集落で情報収集を行ってほしいと依頼を持ち掛ける。
「どうやら、現れた魔種は住民達に普段通りに暮らすように言っているようですが……」
だが、そこで不自然な点があるとアクアベルは語る。
魔種の来訪時と、魔種の監視下に置かれた時とで、住民達の様子があまりに違いすぎるのだ。
最初は魔種に怯えていたはずの人々が、なぜか魔種の到来を喜んでいるかのような。そんな雰囲気をアクアベルは感じ取ったという。
「魔種の連れていた少女に、何かあるのだと思います」
この少女、どうやら旅人らしい。
魔種に何か弱みを握られた彼女はおそらくギフトを使い、集落民になにか暗示のようなものをかけているのではと推測される。
魔種を討伐したくとも、現状はほとんどがアクアベルの予知だけが頼りという状況だ。
だからこそ、まずは情報収集へと当たりたい。
「調査しておきたい点は大きく4つですね」
まず、集落民、幻想種達の無事の確認。
集落長と会って会話をしておきたいが、彼らは現状、危機感を感じていないと思われる。
ローレットの意向、彼らを魔種から救い出すことを事前に伝えておくかどうかはケースバイケースなので、共通認識としておきたい。
続いて、集落の地形の確認。これはある程度街の雰囲気を感じながら歩くことで達成ができる。人々の様子など、直接会話を試みてもよいだろう。
「魔種も直接、確認しておきたいですね」
この魔種となった青年も幻想種の特徴を持つ。
そして、予知では住民達が彼を知っているような素振りを見せた者もいたという。それだけに、住民と魔種の関係もできる範囲で探っておきたい。
交戦は禁物だが、できるだけ戦いは避ける形で魔種の能力も把握できれば、後々の戦いに役立つと思われる。
「あと、魔種が連れていたという少女についてですね」
旅人であり、イレギュラーズらしき彼女のギフトは、住民達の思考を上書きするような能力を持っていると思われる。
そして、どこかその風貌はユーリエ・シュトラール(p3p001160)に似ており、彼女の関係者ではないかと思わせるが……。
一通り、アクアベルは話を終えて。
調査対象は多いが、出来る限り魔種との接触を避けつつ、その影響について情報が欲しいとのこと。
情報が纏まれば、改めて魔種の討伐の為に依頼をしたいそうだ。
「その為にも、できる限り多くの情報を。皆様の活動に期待しております」
そうして、彼女は説明を締めくくったのだった。
- 森の集落で始まる侵食完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月31日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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ローレットで依頼を受けたイレギュラーズ達は、深緑のとある集落を目指して移動していく。
「魔種の青年に、ユーリエに似た少女か……」
「少女もそうだが、村人も心配だ」
浮世離れした樹精、『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)の言葉に、天義出身の騎士、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が応じる。
穏便に、出来るだけ多くの情報を集めて次に繋げたいという考えが一致するポテトとリゲルの2人は、実の夫婦である。
「……魔種の目的が見えないけど、そのままにはしておけないね」
長い銀髪に蒼い瞳を持つ『青の十六夜』メルナ(p3p002292)もまた、集落民と旅人の少女の為、多くの情報収集をと意気込んでいた。
色々と気がかりな点はあるが、まずはやはり魔種だろう。
「魔種かぁ。アウローラちゃんも反転する可能性があるから注意しないと」
こちらも精霊だが、練達出身の電子の精霊、『電子の海の精霊』アウローラ=エレットローネ(p3p007207)。
彼女は無理やり従わされている旅人を助けてあげたいと、この依頼に参戦している。
そして、もう1つ。
「ユーリエさんに似た人と集落の方々の安否が心配ですね……」
金髪碧眼と尖った耳の幻想種、『フェアリィフレンド』エリーナ(p3p005250)が言っているように、柔和な笑みを浮かべる長い茶髪の少女、『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)に似た旅人の少女というのが別の気がかりな点だ。
「私に似ている少女がもし、妹なら……。私の命と引き換えにでも助ける!」
ユーリエは強い意気込みを見せるが、それを実行するには、あまりにも情報が少ない。
その少女がユーリエにそっくりなだけである可能性は否めないし、倒すべき魔種についても『ハンネス』という名前と思われるくらいの情報しか現状ないのだ。
「もどかしいですが、今は情報収集を優先しましょう」
この場はエリーナが言うように、次に繋げる為にはより多くの情報を集める他ない。
「さて、魔種が旅人を連れ、日常の狂気を売るのが商売かしら」
通称司書こと、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)がそらんじるように呟く。
「ならば、その品物を見せてもらいましょう」
仲間についていくイーリンは、最後にこう告げた。
――神がそれを望まれる。
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集落へと近づいていくイレギュラーズ一行だが、今回はローレット所属のイレギュラーズという素性を隠して集落へと入ることにしていた。
何せ、堂々と入れば、それだけで魔種に目をつけられてしまう。それだけは避けたい。
「今回は調査メインだし……」
仲間達が準備を整える間、ポテトは集落を遠くから見て地形を確認する。
具体的には、集落長の家と思われる家や広場。川などの要所のチェックだ。
その際、ポテトは精霊に頼み、自分達がいる方向からは見えない地形などを調べてもらう。
相方のリゲルは超視力や透視を活かし、外見で集落民……幻想種達が無事であるかどうかを確認する。
「見たところ、魔種や旅人らしき者の姿は見つからないね」
できれば、リゲルはもっと近づいて確認したいという。
「今回調査すべき点は5つね」
ポテトは簡単にこう纏める。
まずは、遠くから見た地形。続いて、近づいてから地形の詳細確認。
その際、集落民……幻想種達の無事と合わせて住民達と接触、魔種との関係を探る。
最後に、魔種が連れている旅人について。
「……以上の順で、確認していきたいな」
この場で取り仕切る形となるのは、唯一幻想種であるエリーナだ。
「いい、今から言うことを認識願うわ」
一隊はエリーナがラサ傭兵団を雇ったことにし、事件解決の為に彼女の友人から集落の存在を聞き、やってきたことにする。
その目的は、幻想種の子供が誘拐される事件が発生し、同様の事件が起こっていないか巡回している……というものだ。
ちなみに、そういった類の事件は過去、実際に起こっており、アウローラがその依頼に参加している。
「うんうん、了解だよ!」
頷くだけにもオーバーアクションな金髪釣り目の少女、『ツンデレ魔女』ミラーカ・マギノ(p3p005124)が同意を示す。
あくまで、エリーナ護衛のラサ傭兵団。
できるだけそれらしく見せようとするメルナは『赤犬兵装』を着用しており、少しは傭兵っぽく見えるはずだと胸を張る。
中でも、大幅な変装が必要となっていたのは、旅人の少女に似ているとされたユーリエだ。
女傭兵感を出すべく、制服一式を使う彼女はボロの赤いマントを纏い、赤い布で左目を隠す。
さらに、ユーリエはギフトによって、吸血鬼化する。
茶色の髪は銀色となり、毛先がほんのり赤くなっていく。彼女はその髪をポニーテールに纏めて、別人になりすます。
なお、ユーリエはポテトと共に行動するようだ。
「何かあれば、私が護るからな」
そう主張してくれるだけに、ユーリエも離れないようにと意識する。
他、数名は変装と共に偽名も使う。
リゲルはエリーナの友人、かつラサの傭兵『ミゲル』に。アウローラは傭兵団の曲芸師『アウラ』と名乗って司書ことイーリンと行動する。
そのイーリンはラサの商人として随伴し、仲間達の得た情報は全て、所持する本『知識の砦』に記入する構えだ。
●
問題の集落へと入っていくラサ傭兵団に扮したイレギュラーズ一行。
メンバー達は散開しながらも、集落民へと接触していくことになる。
「少しよろしいですか?」
ユーリエが声をかけ、人心掌握術を使ってリラックスしながらも会話を試みる。
現状、肌の黒い人を見かけることはないが、それが魔種の可能性もあると踏み、そういった人から話しかけられないようユーリエは注意していた。
同伴するポテトは物珍しそうに、周囲を見回していて。
「すみません。新しい場所は何があるのかワクワクしてしまって、つい」
実際は、感情探知で自分達に敵意を向けてくる人がいないかを確認する。また、後を考えて逃げ道や待ち伏せしやすい場所のチェックも怠らない。
「この近辺で、子供エルフが誘拐されていると耳にしています。被害はありませんか?」
リゲルも友好的に住民と接し、名目上の質問を投げかけつつ集落長への挨拶も提言する。
会話の合間に、リゲルは集落を確認していくのを忘れない。
その途中、彼は透視でとある家に、茶髪の少女の姿を発見していた。
少し離れた場所で、メルナは直接あるいて地形を確認する。
その上で、メルナは『演技』しつつ、名目である事件の調査を進める体で事情聴取していて。
「……ええ、何か異変があったら教えてほしくて」
保守的な者の多い幻想種の集落で、大きな変化は珍しい。
この集落で子供達の失踪はなかったようだが、ハンネスなる者が帰還したのが一番のニュースなのだとか。
「それって、どんな人?」
メルナが興味を持つと、住民達は快く教えてくれる。
なんでも、数年ぶりに集落に帰って来た青年なのだとか。
「あれ? でも、なんでかしら。嬉しいことのはずなのに……」
微妙な違和感を抱く集落民に、メルナはさらにその居場所、同伴者について尋ねる。
(……うまくやらなくちゃ。お兄ちゃんならこれくらい、やってみせる筈だから)
いつものように、メルナは兄ならどう動くか考え、聞き込みを続けていく。
イーリンは近場の人に集落長から営業許可をもらえるよう頼む間に、『紫苑の魔眼・紫雨』を使って死者の霊魂に尋ねる。
「そう、やはり来たのね?」
魔種が到着したとき、住民達は皆恐れを抱いていたこと。そして、同伴の少女の力で、住民はなぜか雰囲気を一転させたことをイーリンは把握する。
さすがに、どんな力を使ったかまでは霊魂達も知る術はなかったようだが。
そのイーリンと同伴するアウローラは、子供達に囲まれていた。
「この前も子供が狙われる事があったから、この集落でも起きてないか調査しに来たんだよー」
子供達と波長が合うのか、アウローラはドリームシアターの幻影を動かして興味を引きつつ、幻想種の子供が狙われた事件についての調査に来たと告げる。
異形朋友のスキルもあり、好意的にアウローラはコミュニケーションをとっていく。
「黒い肌のお兄ちゃんが帰って来たことかな?」
「なんか、女の人連れてた」
やはり、変わったことと言えば、ここでもハンネスなる人物の帰還だ。
そこで、アウローラは同伴の少女に着目して。
「ん、幻想種の子供じゃないよね?」
「ううん、旅人さんだって」
むしろ、そちらを聞きたいところだが、名目上、幻想種の少女の事件解決にやってきている状況。
下手に突っ込むと危険と判断し、アウローラもそれ以上の質問を止めた。
その頃、イーリンも簡易ではあるが、営業許可を取って品物を広げていた。集落長とは改めてこの後、会う予定だ。
「さぁさぁ、ご覧あれ。今日は海洋のお弁当、デザートに真夏に最適な氷菓子は如何」
愛猫を模したメカカレッジに広告をくわえさせ、自らのそばに控えさせつつ、イーリンは商売を始める。
「煙草にチョコ、蜂蜜や紅茶葉は……、あら失礼、これは私物」
茶目っ気も出しつつ、イーリンは商人としての立場で客の反応にも気を配る。
やはり気になるのは、ハンネスという名前。
「『ハンネス』とは誰のこと?」
客は快く教えてくれるが、この集落の元住民であることは覚えているものの。それ以外がいまいち要領を得ない。
「変ね。楽しく過ごしたような記憶はあるのだけれど、なぜかおぼろげで……」
イーリンはさらさらとメモを取りつつ、嗜好品を集落民へと手渡して。
「良ければ、おすそ分けしてあげて」
そうして、礼を告げつつ移動する人々を見て、イーリンはそのルートを把握していく。
なお、彼女は最後までメカカレッジを広告塔として放つのは避けていたようだ。
イーリンも行っていたが、情報を聞くことができるのは人だけとは限らない。
「……この集落出身なのは間違いないのですね」
エリーナは道中の植物からハンネスや旅人の少女について情報収集する。
「…………?」
その最中、エリーナは色黒な幻想種の男性の視線を感じて立ち止まる。その男性はすぐにその場から去っていった。
「戻ってきた時、魔種となっていた男性がハンネスで間違いないのだな」
ポテトも合間に宙を見上げ、村にいる精霊から話を聞いていた。
最も突っ込んだ形で偵察を行っていたのはミラーカだろう。
ミラーカはウィッチクラフトで猫を使い魔とし、魔種の拠点と思しき場所の偵察を行う。
現状使っているのは、男性の実家らしいが……。
建物の影に何かが潜んでおり、それがこちらをじっと見ているのに、ミラーカは気づく。
男性が不在だからこそ潜入して少女と接触したいが、明らかに影から見つめる何かが威嚇してきている。
「下手に接触すると、騒ぎになっちゃうね」
ミラーカは何事もなかったかのように、引き返すことにしたのだった。
●
集落長と会うことになり、メンバーは一度集まる。
「ざっくりだけど、周辺はこんな感じみたいだ」
ポテトはリゲルの情報と合わせ、簡単な集落の地図を皆に見せた。
また、誰が聞いても、魔種以外の大きな異変がないことから、集落民は狂気に晒されてはいるものの、皆無事だと思われる。
そして、魔種の男性ハンネスがこの地の出身であり、彼の実家に旅人の少女らしき姿があることもメンバー達は確認していた。
ただ、少女の名前を、集落民が誰も知らないことは気になるところだ。
「…………」
逸る気持ちを抑え、ユーリエは仲間と共に集落長へと挨拶に向かう。
あくまで、一行はエリーナとその護衛として集落を訪れている。
この為、集落長へはエリーナがメインとなって話す。
「突然、押しかけて申し訳ございません」
エリーナは上目遣いと人心掌握術を合わせて相手に好感度を抱かせつつ、話を聞き出しやすくする。
他の集落民同様、彼女は知人からこの集落について聞いて訪れたことを話す。
さらに、幻想種の子供誘拐事件について語り、傭兵団を率いて巡回していることを説明。
「最近、深緑でも雑務が増えておりまして。『この辺りは何事もなく』?」
さらに、イーリンがそれとなくスキル「腹芸」を使って、大きな変化がないかと尋ねる。
「皆、生き生きとしていますね。良い事があったのでしょうか?」
「ハンネスの奴が戻って来おったのが最近喜ばしいことであったのですが……、何かが引っかかってましての」
リゲルは合いの手を入れると、白髪と白い髭を湛えた集落長は自分で話していたことに違和感を覚えたようで。
リーディングを行うユーリエは、それが嘘でないことを確認し、皆に頷く。
「恋人や婚約者でも連れてきたの?」
「旅人の少女を連れてきおったのですじゃ」
その言葉に、メルナが興味を示す。
「……それが、あやつもきちんと説明せぬままでですのう」
つまり、魔種の青年は戻ってきて、表立った行動をとっていないということだろうか。
「ご挨拶に伺わせて頂きたいのですが」
リゲルの申し出もあり、長は腰を上げてハンネスの実家へと案内してくれるようだった。
生憎と、件のハンネスは不在だった。
どうやら彼の両親はすでに他界しているらしく、戻ってきてから旅人の少女とこの家にいるのだとか。
「はい……?」
中から顔を出したのは、1人の少女。
「エミーリエ……」
後方で、明らかにユーリエが誰にも聞こえないほどの小声で反応を示す。2年経っているが、妹を見間違えるはずもない、と。
「驚かず静かに、声を出さずに」
ミラーカは集落長が驚く様子を気にも留めずに、ハイテレパスで少女と会話を試みる。
『単刀直入に聞くわ。貴女ユーリエの知り合い?』
『……お姉ちゃんを知っているのですか!?』
それまで沈んでいた表情の少女に、明らかに笑顔が浮かぶ。
気を良くし、ミラーカはさらに尋ねる。
『何故、魔種に手を貸しているの?』
『何かあれば、お姉ちゃんを殺す……と』
そこで、一行の視線がユーリエ当人に集まる。
彼女が魔種に狙われているようには、見えないのだが……。
「何かあれば言ってくださいね。何でも相談に乗りますよ」
ユーリエは、元の世界で妹と接していた時と同じように、変わらない声色で告げる。
それで、エミーリエが姉と察したのかは分からないが、小さく「はい」と答えを返した。
「おい、俺の家で何をしている!」
そこに戻ってきた色黒な幻想種の男。
「おお、ハンネス。この方々が……」
「集落内で、あれこれ嗅ぎ回りやがって……!」
集落長の言葉すら耳に入れず、そいつは自らの影から多数の黒い狼を呼び寄せる。
ミラーカが何とかごまかそうと、話題を振ろうとするのだが……。
「見聞を広めて、故郷の役立つなんて立派ね」
「ラサの傭兵団がそんなに旅人を連れているものか」
すでに、こちらの素性はある程度割れてしまっているらしい。
「皆、早く逃げて!」
「時間切れね」
危機を察したアウローラが叫び、イーリンもこれ以上の活動は難しいと判断する。
狼をけしかけられ、さすがに演技するのも限界だとイレギュラーズ達は悟る。
この場を急いで離れるメンバー達は、集落出口を目指すのだった。
●
魔種ハンネスは戦う素振りを見せないが、腰に鞭を携帯しているのをリゲルは見逃さない。
それだけでも、今後の戦う上で戦略を立てられそうだ。
「必ず助けに来る! だから、お前も信じて待っていてくれ!」
「お姉さんは俺達が守る! 君も生きることを一番に考えてくれ!」
鋭い爪を薙ぎ払ってくる影の狼を抑える間、ポテト、リゲルがエミーリエに告げるが、ハンネスがすぐさま彼女を家の奥へと押しやってしまう。
危害を与える様子はないと判断し、アウローラやイーリンもスキルを使わずその場から離れる。ユーリエも妹を残したまま去らねばならぬと、断腸の思いでこの場を後にしていく。
エリーナが意志の力を衝撃波として撃ち出すが、それをメルナが制して。
「下手に戦うと、村に被害が出ちゃうもんね……!」
「バレバレなら、演技はいらないわね……!」
メルナの言葉を受け、ミラーカも傭兵を装うのをやめてから離脱していく。
できるだけ狼とは交戦せず、彼女達はダッシュしてこの場から退避する。
別段、集落民がイレギュラーズ達の逃亡阻止に動く様子はない。
「追っ手は狼のみ……か」
リゲルはポテトと共に殿を請け負いつつ、狼の食らいつきやタックルを防ぎつつ集落を後にしていった。
「皆、怪我はない?」
影狼を完全に撒いたところで、アウローラが尋ねる。
最悪の場合も想定していたこともあって、皆大事には至っていないようだ。
「……結局、魔種の狙いは分からなかったわね」
情報を整理していたイーリンが呟く。
わざわざ、自分の故郷に戻ったハンネスがなぜ同郷の者達を魔種へと堕とそうとしているのか。
それを不明点としながらも、今回分かったことを纏めつつ、イレギュラーズ達はひとまず幻想のローレットへと戻ることにしたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは種族特徴もあって、皆を先導したあなたへ。
早くて3回、遅くて4回くらいのシリーズになる予定です。
1月1回くらいのペースで運営予定ですので、
よろしければ、お付き合いくださいませ。
今回はご参加、ありがとうございました!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。なちゅいです。
関係者依頼ですが、どなたでもご参加いただけます。
魔種が現れた新緑の集落の解放に当たりたいところですが、不自然な点が多い上に情報が少なく、迂闊に動けぬ状況です。
できる限り、多くの情報を集めていただきたく願います。
●目的、状況
深緑、魔種が現れた幻想種の村へと視察に向かい、以下、全ての達成を願います。
・集落民、幻想種達の無事の確認。
集落長と接触し、情報収集。
・集落の地形の確認。
・現われたという魔種の確認。
集落長からも聞くことは可能ですが、直接視認などすると情報精度が上がります。
・魔種が連れた旅人の確認。
どうやら、ユーリエさんの関係者と思われますが……。
●敵
〇魔種……詳細不明
見た目は幻想種、銀髪に肌が褐色の青年。
それ以上の情報は不明です。
手は出さぬよう願います。
ノーマル依頼ですが、交戦の場合、ハード相当に判定いたします。
〇旅人……詳細不明
魔種が連れてきた少女。
ユーリエさんに似ているようです。
集落の住民に何らかのギフトを使ったものと思われます。
〇不明
その他、状況によっては交戦の可能性があります。
こちらは交戦があってもノーマル相当に判定いたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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