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シナリオ詳細

カルーア乳牛とモルトバード
カルーア乳牛とモルトバード

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ムーンデイズライトにて
 オレンジの淡く照る店内に、穏やかなジャズピアノが流れている。
 香しいカクテルの香りと肉の焼ける音が混じり、新田 寛治 (p3p005073)は人差し指でゆっくりとネクタイをゆるめた。
 彼の方には白い縁。魔術式プロジェクタ投射機によってスクリーンに映し出されたパワポ資料の角である。
「この資料にあるとおり、ムーンデイズライトのユーザーは季節メニューを好み、そして新たなるメニューに喜ぶという傾向を見せています。
 また当店の『気軽に立ち寄れる安全地帯』という側面から夜に利用する客も多く、『一般の酒場よりも安全』『トラブルを相談しやすい』『社長が巨乳で縁起がいい』といった理由から個人武力の低い男女の需要が大半を占めているようです。
 よって、ライトな大衆向け、それも大人を対象としたアルコール系の季節新商品を限定導入することを提案します」
「メェ……」
 シェイカーをふっていたムー・シュルフ (p3p006473)が頷くようにして動きを緩めた。
「……感触として……呑みやすくて軽い酒と……強くて高級感のある酒が……好まれていますメェ……例えば、これですメェ……」
 シェイカーを開いてグラスに注ぎ込んだのはみんな大好きカルーアミルク。
 グラスを手に取ったマカライト・ヴェンデッタ・カロメロス (p3p002007)が一口つけてから振り返った。
「カルーアミルク。コーヒーリキュールであるカルーアをミルクでわったカクテル、だったな。コーヒー豆とサトウキビの蒸留酒……俺の世界にもあった」
 念のために述べておくと、『壊れないバベル』の影響で言語がネイティブに翻訳されているだけであって、マカライトがもといた世界にメキシコカルーアがあったかはわからない。その辺はムーや新田たちの知るところでは無いのだ。
 さておき。
「けどこの世界じゃあ、それはカルーアミルクと呼ばれる偽物、とすら言われてるらしいね」
 カルーア瓶を手にとって、カウンターに寄りかかる伏見 行人 (p3p000858)。
 『知っているのか』という目でちらりと視線を送るムーに、行人はシニカルに笑って見せた。
「前に見たことがある。夏のメキシ高原だったかな。現地の猟師が牛から乳を搾り出し、それを呑んで酔っ払うというものさ。
 いい景色だったんでね。暫く俺もご一緒させてもらったんだが……あれは美味い酒だった。あの牛の名前はたしか……」
「カルーア乳牛」
 テーブルの端に腰掛け、足を組む熟女。
 胸の谷間を大胆に晒し白い象牙のキセルを加えた彼女こそ当店ムーンデイズライトのオーナー、通称乳牛婦人である。
「幻想南方貴族エトワール十二家門に属し、商業グループ百衣乳業の代表取締役であるあなたには常識だったかしら」
 どこかからかうように笑い、同じグラスを掲げるコルヴェット・エスメラルダ (p3p007206)。
「いいと思うわ。美味しくて呑みやすいお酒は人気が出そうだもの。けどそうね……私はもっと強くて情熱的なお酒が欲しいわ」
「それなら俺に心当たりがある」
 からんと氷の入った深いウィスキーグラスを手に取り、亘理 義弘 (p3p000398)はその中身を一息で飲み干した。
「ハイランド渓谷の北へ護衛の仕事に出た時のことだ。空をウィスキーの瓶が編隊を組んで飛んでいやがった。キャラバンの奴が言うには、モルトカムイという名前の精霊らしい」
 ちょうどあのくらいの大きさだ、といってモルトウイスキーの700ml瓶を指さした。
「奴らは夏になると麦を蒸留させるために山を移動すると言い伝えられていて、その見本として身体に大麦の酒を溜めている。そしてこれが……えらく美味い」
「どゆこと? とって飲んだの?」
 椅子のうえにあぐらをかいて前後にぐらんぐらんしていたソア (p3p007025)が、身を乗り出すようにして尋ねてきた。
「ああ。だが強すぎる衝撃を加えれば硝子状の身体が破壊されて中身が零れちまう。優しく網で捕まえなきゃあいけねえ」
 ソアはふーんと言ってカウンターを背もたれにするようにのけぞった。
「お酒のことはちょっとよくわかんないんだけど、それって食べ物に合うの? ステーキとか」
「ああ、あうな。とくに……牛にあう」
「牛!」
 きらりとソアの目にお肉マークが浮かんだ。
「いいねいいね! 牛さんは大好き! 新メニューを加えるならさ、その、カルーア乳牛? のお肉も使おうよ! きっと美味しいよ!」
「そうねぇ、確かにあの牛は美味しいかも……」
 アーリア・スピリッツ (p3p004400)は唇に指をあて、かつて味わった酒と肉を思い出した。
「絞りたてのカルーアミルク。幻のウィスキー。それにビーフ……夏に売り出す素敵なメニューになりそうだわぁ」
 アーリアは自分に用意されたカルーアミルクを飲み干すと、髪をコーヒーミルクのグラデーションカラーにして振り返った。
 細く煙をはく乳牛婦人。
「決まりね。夏の新メニューに向けて試食会をしましょう。
 そのためには一定量のカルーア乳牛のミルクと肉。そしてモルトカムイが必要よ。
 ……とってこれるかしら?」
「勿論」
 空にしたグラスを掲げ、ぺろりと唇をなめるアーリア。
「そのためのローレット、でしょぉ?」

GMコメント

 ご用命ありがとうございます。黒筆墨汁でございます。
 このたびの依頼主は幻想南方貴族エトワール十二家門がひとつ乳牛婦人。
 依頼内容はバーの新メニューに向けた試食会の準備。
 具体的には以下の三つを調達する依頼となります。

・カルーア乳牛のミルク
・カルーア牛の肉
・モルトカムイ

 全て、回っていては素材が古くなってしまうので、得意そうな分野ごとにチームを三つにわけて挑みましょう。
 獲得にあたって必要な作業がそれぞれ異なりますので、別々に解説していきます。

■カルーア乳牛のミルク
 メキシ高原のカルーア乳牛は野生に生息しており、現地人がたまに酒をわけてもらいに行くことがあります。
 現地人の話によれば、メキシ高原を離れるとカルーア乳牛は元気をなくしてしまい乳を出さなくなるらしく、この場所で絞ったものだけが正しいカルーアミルクになるそうです。
 乳をわけて貰う方法も確立されていて、今回はそれをまねることになるでしょう。
 まずカルーア乳牛は美味しい甘味をリラックスした状態で食べることでミルクを作り、その手伝いをしてくれた人間にはミルクを分け与えてくれるといいます。
 ですので大事なことは美味しい甘味料理を作ること。リラックスしたラグジュアリーを提供することです。
 カルーア乳牛(雌牛)はとても穏やかな性格なので、戦闘よりもこうした環境作りが得意な方に向いているでしょう。

■カルーア牛の肉
 メキシ高原の雌牛は美味しいミルクを出しますが、その一方で雄牛は美味しい肉になることで有名です。
 カルーア牛は雌と雄が遠く離れた別々の場所で過ごす習性があり、雄牛は高原の中でも標高が高く岩がむき出しになっている場所でよく暮らしています。
 これはメキシ高原の岩場を通ってやってくる外敵から雌牛たちを守るためと言われており、雄牛は雌牛と違ってとても獰猛で侵入者を見ると突進や牛ビームをつかって攻撃を仕掛けてきます。
 最低一頭倒して持ち帰ればOKです。沢山殺して取り過ぎないようにしましょう。雌牛が外敵に晒され激減してしまうととてもよくないのです。
 (逆に、雄牛を適度に狩ることは繁殖しすぎて餌の草が無くなってしまうことを防ぐ効果があり環境的にも良いこととされています)
 戦闘が得意な方。ないしは戦闘なら考えなくて楽だぜという方はこちらが適しているでしょう。

■モルトカムイ
 酒の精霊であるモルトカムイはウィスキー瓶の姿をしており、その姿から想像できるように酒好きに対してとても優しいと言われています。
 現地人はこのモルトカムイを手に入れるためにまず賑やかな酒盛りをし、酒を心から楽しむそうです。
 モルトカムイはもっと美味しい酒を造るために酒を楽しむ人をできるだけ近くで観察しようとすると言われており、このやり方がもっとも有効なのだそうです。
 手が届くほど近くまでやってきたら用意しておいた虫取り網をつかってモルトカムイを2~3本手に入れましょう。
 精霊の気持ちがわかる人や、お酒を心から楽しめそうな人にぴったりの役割です。

■試食会
 それぞれの素材を手に入れたら早速『ムーンデイズライト』へ戻って試食会をしましょう。
 美味しいお酒と肉料理があなたをまっています!

  • カルーア乳牛とモルトバード完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2019年07月27日 22時05分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談8日
  • 参加費---RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
義に篤く
伏見 行人(p3p000858)
北辰の道標
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
かくて我、此処に在り
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ムー・シュルフ(p3p006473)
味覚の探求者
ソア(p3p007025)
雷精
コルヴェット・エスメラルダ(p3p007206)
愛死の魔女

リプレイ

●酒を飲む前の酒を
 ピアノ奏者は去り、静かになった夜のムーンデイズライト。
 乳牛夫人はレコードプレイヤーのスイッチを入れ、ゆっくりと音量ねじをひねった。
 しっとりとした黒人女性シンガーのジャズが店内に流れていく。
 フロアに客はなく、店はカフェとしてもバーとしても営業を終了し、物販スペースと常駐の警備スタッフのみが機能していた。
 この時間帯はたまに、オーナーやスタッフたちの憩いに利用されることがある。
 メキシ高原の地図を胸ポケットに入れウィスキーのグラスを手に取る『義に篤く』亘理 義弘(p3p000398)。
 氷の沈むうっすらと色づいたウィスキーの水面に、義弘はわずかに目を細めた。
「仕事の後の酒は格別、だからな」
「同感です。それが良い酒であるなら、尚のこと」
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は彼の横に座り、『新田P』と書かれたウィスキーボトルの蓋を開いた。
 『四季響』とラベルに書かれたブレンドウィスキーである。
 けっして高いものではないが、だからこそ今飲むのだった。
「達成するだけなら簡単な課題ですが、最後に笑うためには最大の成果を挙げなければなりません」
 良い酒を飲むということは、高い金を払うのと同義ではない。
 受け取る側の姿勢もまた、重要なのだ。
「俺はそれほど酒に詳しくもなじみ深くも無いつもりだが……社会と切り離せないほど大事なものだというのは分かる」
 『かくて我、此処に在り』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)の前に、氷の入ったグラスが置かれ、黙って新田のボトルが注がれた。
 微笑以下の笑みを浮かべ、グラスを手に取るマカライト。
「良い肴を」
「よい仕事を」
「佳い酒を」
 三人は同時にグラスを小さく掲げ、そして口をつけた。

 青白いグラスにチェリーがのったどこかサイケデリックなカクテルを、『愛死の魔女』コルヴェット・エスメラルダ(p3p007206)はうっとりと見つめていた。
「本物のカルーアミルクに、精霊モルトカムイ……世界には神秘的なお酒があるものね」
「その通り。世界は驚きと美しいものに満ちているよ」
 グラスの向こう側、『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)は空になったグラスを前にして、ブラインド越しの窓をぼうっと見つめていた。
「出発は、明日の朝だったわよね」
 テーブルに両肘をつき、顎を乗せるようにぺたんとつっぷすコルヴェット。
「……今夜は?」
「幻想の星でもみようかな。坂をのぼった先に宿をとったんだ」
「そう……」
 目を瞑るコルヴェット。行人は小さく笑い、グラスの縁に指をのせた。

「……かつて口にした美味をまた口にできるなんて、私はなんと幸運なのですメェ……。
 ……その為にもカルーア乳牛が満足する絶品の甘味を作りますメェ……」
 暫くシェイカーをふっていた『バーテンダー』ムー・シュルフ(p3p006473)は一転して客席につき、実験的なカクテルの試飲をしていた。
 彼にとって幸せな時間を提供すること、そして守ることを目的としたムーンデイズライトは支援するべきプランである。
 幻の食材探しも心躍るが、それが人々に提供されることを思うと、ムーの心に暖かいものがぽっと宿るようだった。
「ねえねえ、カルーア牛ってどんな味なのかな。牛狩ったことある? 牛はね、ビビッやるといいよ、ドーンてなってモーってなるから!」
 椅子をぜんごにがっこんがっこんしながらテンションをあげる『トラージャーハンター』ソア(p3p007025)。
「ふふー。ボク、獣狩りは得意だぞ。任せて任せて」
「お酒と宴……じゃなかった、試食会のためにこれだけの仲間が集まってくれるなんて、素敵だわぁ」
 『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)はグラスの中身を派手に飲み干すと、力強くテーブルにグラスを置いた。
 そして、注目を浴びるように立ち上がる。
「打ち上げ……もとい、試食会とお気に入りのこのお店の繁栄のために!
 飲んだくれが一肌脱ぎましょー!」
 そして、服の胸元にてをかけて――。

●必殺章切り替えの術


「ついたわぁー!」
 服を脱ぎ捨てたのんだくれことアーリアが、澄み渡る高原の風を浴びながらばんざいをした。
 かったばかりの水着とうっかりついた日焼け後。
 日差しの強いメキシ高原にはむしろぴったりな衣装といえるだろう。
 それでも若干の恥じらいなのかTPOなのか下はダメージ加工されたジーンズホットパンツだった。余計なんか……なんか……ほら、ね? ピンが欲しくならない? 私は欲しい。
「モー」
 カルーア乳牛はそんなアーリアを遠巻きに見つめ、『こいつ何しに来たんだろう』って様子でまわりをうろうろしはじめた。
 手を上げ、ぐーぱーしてみせるアーリア。
「はぁい、今日は貴女に美味しいミルクを頂きたくてやってきたの。とはいえ勿論タダでとは言わないから……」
 ちらりと見ると、ムーがエアポンプを使ってビニールマットを膨らませていた。
 できあがったマットの上に座り指先でちょいちょいと手招きするアーリア。
「その分……気持ちよくさせてあげるわぁ」
 そこの前のおまえ! ちがう! ズボンははいていろ!
 ここから始まるのはただの搾乳シーンである。
 ……だからちがう! はいていろ!
「……おくつろぎ頂くために、スイーツを用意しましたメェ……」
 ムーがクーラーボックスから取り出したのは果実のムースを半冷凍したさせたものだった。
 『あらムースをくださるの』って顔で寄ってきたカルーア乳牛の前で、ムーはボトルから注いだ牛乳を氷と塩でしゃかしゃか冷やしはじめ、つくりたてのアイスクリームをいくつかの皿へと盛りつけていった。
 更に真空パックしたローストナッツのクラッシュを高い位置からぱらぱらとかけ、ムースを加えてナチュラル状態のミルクアイスと並べていく。
 飴細工を専用のスティックを使ってしゅるしゅると作り上げ最後に小鍋で熱を通しなおしたプリザーブフルーツ(砂糖煮。つまりつぶつぶジャム)をあわせれば……。
「……特製、『秘密のアイス』の完成ですメェ……」
「「ンモー!」」
 カルーア乳牛たちがムーに群がるように集まり、スイーツを堪能し始める。
 その一方で気持ちよくなるローションを手にとろとろかけたアーリアが横たわるカルーア乳牛の足腰を優しくマッサージしはじめた。
「たぁーくさん頂戴ね、牛ちゃぁん?」
「ンモォォォォォォォォ!!」
 はいここ百合。

 ところ変わってハイランド渓谷。
 光さす谷に流れる川。その側面開かれた道を馬車はゆっくりと進んでいく。
 苔むした岩とそれが削れる緑の香り。高い位置にしげる気の間からゴッドレイがちっては水面をはねていた。
 そのずっと向こうに、あの影が見える。
 遠い空をわたるウィスキー瓶を見上げ、行人はどこか夢心地に目を細めた。
「こんな風景が見られるから、旅はやめられないよね……」
 からからと谷をゆく四頭引きの馬車が足を止め、車内からコルヴェットが顔を出す。
「ここがハイランド渓谷?」
「そう。正確にはその南方だよ。見てごらん」
 行人が指をさすと、小さな滝……というより細い水が岩の隙間を流れ落ちてできた小さな湖が見えた。
 滝にそって光がさしたことで水面はやや緑がかった色をもち、人の腰ほどの深さにあるであろう水底が透けて見えていた。
 雄大な岩。生きている水。光。モルトカムイを呼ぶ宴を開くには丁度いい光景ではなかろうか。
「それに、ここは精霊の気配が濃いんだ。わかるかい?」
「…………」
 そのへんの町中と比べ、山中のそれも景色の良い場所には精霊が集まりやすいという話がある。コルヴェットが軽く手を翳してみただけで、山に住む空気の精霊たちが幼い子供のように指の間をすり抜けて遊びはじめた。
 彼らの知能は小魚程度しかないためこうして遊ぶか逃げるかのどちらかだが、ここまで濃厚なら成人男性と同等の会話ができるほどアイデンティティをもった精霊が現われても不思議じゃない。
「お酒を愛する人を好む精霊が立ち寄るほどだもの、ね」
 ふっと微笑むコルヴェット。
「私はね、実を言うとそんなに沢山飲める訳ではないの。
 しかも私は死霊術師。こんな日光の下で飲むなんて真っ平……て、少し前までは思っていたの」
 馬車から降りて振り返ると、アタッシュケースを抱えた新田が一足遅れて馬車を降りた。
「いい空気……ねえ、新田さん。お酒は用意してあるんでしょ?」
「無論です」
 アジアンな絨毯ロールを広げ、アタッシュケースからワインの瓶を取りだしていく。
 それらをざるに入れ、湖に浸していく。
 こうすることで天然の冷却効果をもたせるのだ。
「今回の趣向は、『安酒で大いに呑む』です。新歓コンパで吐くまで呑んだ日へ還るかのごとく、皆で楽しみましょう」
 そうして、酒盛りが始まった。
 澄んだ空気と水の音。今にも精霊が語りかけてきそうな風景の中で、グラスに注いだワインを乾杯する。
「青空の下で胡坐をかいて、高歌放吟しながら大酒を喰らう……いやあ、学生時代に戻ったみたいですね。そちらはいかがですか?」
「私には似つかわしくない、陽の気に満ちた場所。でもね。気持ちいいのよ。それが不思議と……」
 やがて、彼らにひかれたかのようにモルトカムイが水辺へおり、興味深そうにこちらの周りをうろうろと飛び始めた。
「やあ、モルトカムイ」
 呑んでいるグラスを小さく掲げる行人。
「君たちの思いに、俺は出来る限り応えようと思う。だから。君たちの歴史を、俺達にくれないか」
 良い酒造りを助け、楽しい酒盛りを観察しようとする精霊モルトカムイの願い。それは語られずとも皆知っていた。
 そしてそれを実践できたからこそ、掲げた行人やコルヴェットたちの手にモルトカムイがとまったのだった。
「あなたも飲ませて。ね? アーリアに良いお土産、もっていってあげたいの」
 手の甲にとまったモルトカムイの注ぎ口に口づけをして、コルヴェットは新田へと目配せをした。
「ハァイッ! 精霊のイイトコ見ッてみッたいッ! あそれ――!」
 ネクタイを額に巻いた新田が山の精霊に手拍子をかましていた。
 山の精霊はといえばワインの瓶を直でラッパ飲みして顔を真っ赤にしていた。
 精霊疎通ナシで会話が出来るレベルの、結構レアな精霊である。というか会話が通じなくても大丈夫そうなコミュニケーション能力だった。
『ウマイ! もう一本!』
「イエエエエエエエエエエ!!!!」
 宵越しの記憶はもたぬとばかりにはしゃぎまわる新田のアタッシュケースに、モルトカムイがそそくさと入っていった。

「うわあなんだあれ! 牛!? 牛なのか!?」
 いっぽうメキシ高原の岩場。
 草が少なくごろごろとした岩肌がむき出しになったエリアに無数の雄牛がくつろいでいたが、ソアたちがやってきた途端全員が一斉に立ち上がり、そして両手をクロスしてこっちに向けた。
 いま画面の前の皆は頭が混乱したと思うけど、角バリバリのバッファローみたいなデカい牛が二本足で立って『ジュワッ』て腕を十字に構えたさまをどうか想像するチャレンジをしてほしい。
 しかもそれが十頭単位でいて、全員こっちをむいてるさまをである。
「間違いねえ、あれは俺たちを警戒してんだな」
 『どういうことなの』って顔してるソアの横で、義弘がぷちんとシャツの胸元ボタンを外した。
 同じく腕まくりをし、斧槍を手に取るマカライト。
「群れの雌牛を守るのが雄牛の役割だものな。こうして群れで警戒するのは当然の…………まて、まさかあの姿勢からビームを出すのか?」
「俺からすれば一番想像しやすいビーム発射姿勢だけどな」
「ってことは……」
 脳内で木魚を三回鳴らすソア。チーンと脳内で音がした途端、カルーア牛たちは一斉に牛ビームを発射してきた。
「わーーーーーーーーー!!!!」
 ダッシュで逃げるソア。
 邪神骸装の魔力によって防御しながらウェボロスをどこからともなく取り出すマカライト。
「大勢を相手にするのは不利だ。一人だけ誘い出そう」
 マカライトがウェボロスを投げつけると、カルーア牛の一頭がそれをバッて腕ではたき落とし、マカライトめがけて走り出した。
 地面をぼよーんとはねたウェボロスがなんか言いたげにこっちを見てくるが無視するしかねえ。
「こいつは任せろ」
 他の牛たちがついてこないように後退しながら、義弘は突撃してくるカルーア牛へと反転。角によるタックルを両手で掴むようにして受け止めた。
「ぐっ……!」
 受け止めきれない衝撃に足を踏ん張ると、岩場を靴底がざりざりと音と立てて滑っていく。
「闘牛士のまねごとをせずに済んだのはありがてぇが……一頭だけでもなかなか重労働だぜ」
「手伝うよっ! 虎ビーム!」
 ソアは腕をL字に構えるとばちばちした雷を発射した。
 カルーア牛を追おう電撃。
 一方で充分に距離をとったマカライトが腰から抜いた拳銃をカルーア牛の足を狙って打ち始めた。
 がくり体勢が傾いた時がチャンスだ。
「今だ!」
「うおお……!」
 義弘は渾身の力でバックドロップを繰り出し、岩場に叩き付けることでカルーア牛を倒した。
「よし、こいつを運んで……」
「いそいでいそいで! 他のうしきてる!」
 ソアがハリーハリーのジェスチャーでカルーア牛を抱えると、マカライトは拳銃で牽制射撃を仕掛けながら無数の牛ビームと打ち合った。
「じゃあ行くか、収束牛ビームなんてされたらマズイし」

●絶品の試食会
 八人が力を合わせて方々から取り寄せた酒と食材たち。
 義弘はじゅうじゅうと鉄板の上で音を立てるステーキにフォークを立てた。
「牛といえばやっぱりステーキは外せねぇな」
 ややレアに焼き上げたステーキを口に含むとぎっしりとした歯ごたえとは裏腹にほどよく肉が噛み切れ、内側からあふれた肉のうまみが身体の隅々までしみるかの如く口内に広がった。
 油に嫌みは無くさっぱりとなじみ、飲み込む頃には肉と一体になったかのような錯覚を覚える。
「さっぱりした肉だぜ。わさびや塩もいいと思ったが……このままでも断然いける」
「ではそれを、あえてモルトカムイでフランベしてみるのはどうかな」
 行人が出してきたステーキ肉はほんのりと香るウィスキーの風味とペッパーの香り。そして何より芳醇な肉の香りがたちのぼっていた。
 口にすればその深みは凄まじく、肉の吸収力か酒の浸透力か柔らかくなった肉の内側からいくらでも深い風味がわき出てくる。
「……デザートには、こちらをどうぞですメェ……」
 そう言ってムーが出してきたのは『秘密のアイス』。
 それもカルーア乳牛からとったミルクから作ったアイスクリームで、これ自体が含む深い甘みがナッツによって引き立っていた。
「うまーーーーー!!」
 ソアは目に星を浮かべて見開いた。
「うぃすきーってほとんど意識したことなかったのに、こうして飲むとすごーい。あの、あれが、あれがすごーい!」
 語彙がほとんど出てこなくてひたすら身体を動かしてはしゃぐソアである。
「ああ。これぞ贅沢なり……だ」
 マカライトも同じような気持ちなのか、『本物のカルーア』を傾けてうっとりとした目をしていた。
 モルトカムイをクラッシュアイスのミストで呑んでいたアーリアが、隣で同じように呑んでいたコルヴェットの肘をこずいた。
「そういえばこーちゃん、両手に男性従えて飲んでたのねぇ。どっちもフリーだったと思うわよぉ?」
「何言ってるのよアーリア。今回のは別に男探しのためじゃないんだから。それより……」
「ええ。ご用意していますよ」
 寛治はモルトカムイを氷で冷やしたものに炭酸水を割り入れ、そっとやさしくひとまぜして差し出した。
「精霊のハイボールでございます」

 こうして、ムーンデイズライトには夏の新メニューが追加された。
 人々の食と喜び、そして安全が、守られたのである。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 それではまた、次の夜にお会いしましょう。

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