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シナリオ詳細

ヤーコブの悪夢
ヤーコブの悪夢

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●許されざる採掘者
 鉱山労働者の朝は早い。日の出と共に鳴く雄鶏の声で起き、黒ムギの固いパンをミルクスープに浸しながら胃に押し込み、そのままヘルメットやらターバンやら被って、ついでにつるはし担いでそのまま坑道へ突入だ。カナリアを入れた籠をぶら下げ、燃え盛る松明を台座に乗せながら、男達は階段を下りていく。後は外が暗くなるまでひたすらつるはしを振るって岩を殴り続けるだけの仕事だ。何も出なければごくわずかな給金しかもらえないが、銀さえ掘り当てればその分け前に与かれる。辛い仕事ではあるが、リターンは大きかった。
 のだが、今日は様子がおかしかった。普段はひよひよと鳴いているだけのカナリアが、今日はやたらと籠の中で跳ね回り、甲高い鳴き声で喚き続けている。空気が悪くなってもカナリアは黙り込むだけである。違う異変が起きていた。
「なあ、これ今日はマズくねえか? 鳥がおかしいぜ」
「つったってなぁ……」
 カナリアの具合が悪いからと言って帰ってきても、鉱山主は首を縦には振らないだろう。ここは労働者の悲しみである。先へと進むしかなかった。
 ランプを掲げて、中へと足を踏み入れる。その時、坑道の奥で小石が砕けるような音が響いた。鉱夫達は眼を瞬かせ、振り返って周囲を見渡す。
「なあ、今……」
「おいおい、盗掘者か? 勘弁してくれよ……」
 つるはしを担ぎ直し、一人が勇んで坑道を進む。しかし次の瞬間、真っ青になった男が慌ただしく駆け戻ってきた。
「ムカデ! 鉱山ムカデだ!」
 その言葉を聞いた瞬間、鉱夫達は震え上がった。松明を放り出し、回れ右して慌てて逃げ出す。その背後では、僅かな炎が、うっすらと巨大なムカデの姿を照らす。
 黒い目がぎらりと光り、強靭な顎が岩壁を噛み砕いていた。

●鉱山を解放せよ
「今回鉱山ムカデに占拠されてしまった銀山は、採掘量が多いのです。このまま鉱山を潰されてしまうと、銀の流通が滞って大変な事になってしまうのですよ」
 鉱夫用のヘルメットを被り、『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は依頼書を読み上げた。背中の羽根がぱたぱたと揺れた。
「鉱山所有の貴族さんはもっと大変な事になってしまうのです。なので、皆さんには一刻も早くこの鉱山ムカデを退治して、状況を解決してほしいのです」
 つるはしを取り上げ、ユリーカは勢いよく振り上げてみせる。コルクボードに留められたムカデのイラストがぴらりと翻った。
「とはいっても、坑道はムカデ達のホームグラウンドなのです。油断していたら背中から噛み付かれちゃうので注意してくださいね!」

「夏で蒸し蒸ししてると思いますが、どうか熱にやられないように、それにも気を付けてください!」

GMコメント

●目標
 銀鉱山に蔓延った鉱山ムカデを討伐する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 銀鉱山。坑道には松明を掛けるための台座が等間隔に用意されていますが、休業状態の現在は真っ暗です。
 材木によって坑道は補強されていますが、だからと言って無為に岩壁を攻撃する事はオススメしません。
 坑道の終点は浅層、中層、深層の3つに分岐しており、それぞれに大ムカデが侵入しています。

●敵
鉱山ムカデ×3
 鉱物を喰らうことで成長する大ムカデ。鉱山持ちの天敵です。
 坑道を天地無用で駆け巡り、鋭い牙で噛み付いて来ます。貴重な鉱物を食べられてしまうだけでなく、放置するほど落盤の危険性が増すため、迅速な討伐が求められています。
 本能で活動しており、意思疎通は困難です。

・攻撃方法
→背面噛み……天井や壁を這い回って背後へ回り込み、噛み付いて攻撃します。【毒】状態を受けます。
→薙ぎ払い……胴体を振り回して攻撃します。狭いことも相俟って回避が難しいです。

●TIPS
 あんまり大勢で攻撃を仕掛けても、狭くて身動きがとりにくくなるだけだ。

  • ヤーコブの悪夢完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月31日 21時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
五行絶影
グリムペイン・ダカタール(p3p002887)
わるいおおかみさん
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
桜咲 珠緒(p3p004426)
吐血の方
ルチア・アフラニア(p3p006865)
斜陽
彼岸会 無量(p3p007169)
アウローラ=エレットローネ(p3p007207)
電子の海の精霊

リプレイ

●洞の百足
 2匹の蝙蝠が、翼膜を広げて洞窟の中を忙しなく飛んでいく。片やルチア・アフラニア(p3p006865)の、片や藤野 蛍(p3p003861)の使役する蝙蝠である。甲高く鳴き叫び、反響定位を駆使しながら、蝙蝠は狭い坑道を迷わず突き進んでいく。
「銀の流通は世界経済に影響を与える……ボクの世界でも、大航海時代に何かあったって習ったような……」
 つまりこれは、小さな事件と見えて、失敗すればそれなりに大きな影響を幻想地域内にもたらしかねないというわけだ。そう結論付けた蛍は、張り切って蝙蝠を飛ばそうとする。
「さあ、暗視や超聴力を共有して必ず見つけ出すわ、よ……」
 しかしふと、蛍は考える。ムカデといえば、その特徴は全身にわらわら生えた脚。その足がもぞもぞ動き回って這い回るのだ。この世界にも適応した蛍だが、今も昔も虫には慣れない。思わず彼女は身震いした。桜咲 珠緒(p3p004426)はそんな親友をちらりと見遣る。
「大丈夫ですか?」
「うん、何とか。珠緒さんは……結構楽しそうね?」
 ランタンに照らされた珠緒の瞳はどこかキラキラしていた。振り返った彼女はこくりと頷く。
「だってこんな機会、滅多にないですよ? 銀鉱山の坑道の、一番奥まで行くなんて」
 珠緒は『すずきさん』と『こじまさん』に照明を持たせ、その明かりの下で地図書きに勤しんでいた。すっかり探索作業を満喫している。蛍は頬を引きつらせながら、何とか相槌を打つ。
「それは……確かに。ボクのいた世界では銀山跡地が観光地になっていたけど……生きてる鉱山じゃなかったし」
 言って、任務に対するモチベーションを取り戻そうとする蛍。しかし珠緒は、そんな彼女の目の前へ小さくうねるムカデを突き出した。
「ひやあああっ!」
「あ……大丈夫ですか? 一応ムカデの姿、確認しておいてもらおうと思って……」
「う、うん。大丈夫。大丈夫よ珠緒さん。だから、そのムカデはどこかにやって」
 首筋に鳥肌を立てた蛍。彼女を一瞥して、ルチアは呆れ気味に外套をひらひらさせた。
「そんなサイズのムカデに怯えていたら、鉱山の奥にいる奴を見るとひっくり返っちゃうかもしれないわね」
 ルチアは既に、蝙蝠の超音波で大ムカデの姿を捉えていた。坑道の壁に張り付きながら蠢いている。その身体はただのムカデの100倍は大きい。
「ムカデかミミズか知らないけれど、よくもまあこんなに大きく育って……。確かにこれなら、依頼が来るのも納得ね。依頼が終わる前に落盤して生き埋め、なんてことにならないといいのだけれど」
 無節操にムカデが坑道に噛り付くお陰で、洞窟の奥は壁面がガタガタになってしまっていた。仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、二又の尻尾を揺らして唸った。
「それがよりにもよって銀鉱山に出るとはな。銀は銀貨になるだけではない。聖別される事によって、混沌を狩る為の武具としても活用されているのだ。つまり奴は私達にとっても商売敵というわけだな」
 2振りの脇差しを抜き放つ。彼女の陰から飛び出した黒猫が、そっと汰磨羈の肩に飛び乗った。珠のような目を光らせ、猫は背後をじっと見つめる。
「武具の値が上がると暮らしに響く。鉱山が駄目にされる前に殲滅するぞ」
「ふむ……ミイラが出てきたり、大岩トラップで走り回ったりマグマの噴出があったりする余興が無いのは残念だが……」
 舞い戻ってきた蝙蝠について先頭を歩きながら、グリムペイン・ダカタール(p3p002887)は小さく溜め息をつく。今にも天井が崩れてきそうな劣悪な環境の鉱山も少なくない中で、丸太組みとはいえしっかり補強されたこの鉱山はかなりまともだ。スリルも何もあったものではない。物語を求めるグリムペインにとっては退屈な戦場だ。
「岩が落ちてくるような、鉱山では、仕事にならないだろう」
 エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は昏い金髪をくるりとひねくれさせる。常に無表情、言葉にも抑揚が無い彼女だが、それなりに呆れていた。グリムペインはからからと笑いつつ、燃え盛る松明を壁の台座に挿し込んでいく。
「わかっているとも。これはちょっとした冗談というものさ。ただ暗い洞窟を下って仕事をするばかりでは退屈で仕方が無いだろう?」
「うんうんー。アイドル道を行くアウローラちゃんとしても、退屈は一番の敵だからねー」
 アウローラ=エレットローネ(p3p007207)は何度も頷く。元気にいつも楽しくが、彼女のモットーだ。左手に持ったライトを振りながら、洞窟の彼方をうっすら照らす。
「さー、鉱石をこれ以上食べられても困っちゃうし、ここはしっかりと倒しておかないとねー。アウローラちゃんもがんばるよー!」
 イレギュラーズは坑道奥へと少しずつ近づいていく。その度に、岩を削り取るがりがりという音が大きくなってくる。その音を聴きながら、彼岸会 無量(p3p007169)は相も変わらず口端に笑みをこぼしていた。腰に差した刀の鯉口を切り、柄頭に揺れる錫杖の金環をそっと撫でた。
「鉱物を食すとあれば、やはり外殻は堅いのでしょうね」
 彼女にとって、獲物を切る事こそが無上の喜び。その道のりが困難であればあるほど、切り捨てた瞬間の喜びはいや増すのだ。
「楽しみですね……」
 無量がふわりと呟いた時、不意にエクスマリアが足を止めた。巨大な砲身を真横に構え、彼女はふわりと金色の毛を膨らませた。かさりかさりと、足音が洞窟の音から響いている。
「……近づいて、きている」
 刹那、坑道を捩じるように突き進み、ムカデが一匹奥から突っ込んできた。紅玉の如く輝く眼が、イレギュラーズをじっと捉えていた。
(やはり、速いな……)
 天井に張り付いたまま駆け抜けるムカデ。ぐんにゃりと上半分だけぶら下げて、鋭い牙で珠緒に襲い掛かった。蛍はランタンを『ゆりかさん』に押し付け、保護結界を広げながらムカデの前に立ちはだかった。
「通さないわよ!」
 彼女は声を張り上げ、精一杯にムカデを威嚇する。僅かに怯んだムカデは、再び天井に張り付いた。エクスマリアは膝をついて砲口を持ち上げると、ムカデの一節に巨大な魔弾を一発叩き込んだ。脚を縮こまらせ、ムカデはじっと耐え忍ぶ。その後に押し寄せる追撃もその身で受け止めながら、そのまま天井と壁を這い回り、今度は隊列の前方へと回り込んでいく。
「……天地無用、方向も自由自在……」
 エクスマリアは呟く。まだムカデは2匹も隠れているという。観察は怠っていない。汰磨羈も順手に持った双剣を構え、軽く腰を落とす。ムカデは棘の生えた尻尾を持ち上げると、坑道を擦るように振り回して来た。汰磨羈は咄嗟に飛び出し、敵の胴体をその身で受け止める。
「この仙狸厄狩汰磨羈を取れると思ったら大間違いだぞ」
 言霊に魔力を込めて放つ。眼を一層ぎらつかせたムカデは、牙を広げて汰磨羈へと襲い掛かった。汰磨羈は両手の剣を突き出し、牙を無理矢理受け止める。
「よし、お前を燃やして松明代わりにしよう。そうしよう」
 汰磨羈は呟き、牙に無理矢理刃を擦りつける。火花が散り、剣が激しく燃え盛った。そのまま刃を叩きつけると、ムカデの頭部が赤熱していく。辺りをぼんやりと照らしながら、ムカデは暴れた。
「奏でるは魔法の重ね唄! いやでも全力で聞かせちゃうよー!」
 仲間達の真ん中に立ち、アウローラはマイクを口元に宛がう。そのまま高らかに歌うと、声は坑道にいくつも反響し、魔力の込められた音波は折り重なるようにムカデへと襲い掛かった。その固い甲殻を震わせ、毒や炎を染み渡らせていく。
「そのまま潰れちゃえー!」
 アウローラは握りしめた右の拳を振り上げる。地面から生えた土塊の拳が、天井に張り付くムカデの背中に直撃した。甲殻に罅が入り、タールのような体液が染み出す。その隙に、無量は懐へと踏み込んでいく。
「まずは一太刀……」
 頭上に刀を振り被り、力任せに袈裟切りを叩き込む。甲殻が拉げ、ムカデの身体が真っ二つに千切れた。上半身も下半身も丸くなり、ムカデはその場にごろりと転がる。
「……これでとどめ」
 エクスマリアは砲身を直にムカデの頭に押し当て、緋色に輝くエネルギーを叩きつけた。光が弾け、ムカデの頭は首と別れて吹っ飛んでいく。坑道の中で何度も跳ね返り、頭だけになったムカデはその場で牙だけをひくりひくりと動かしていた。
「よし……まずは1体だな。毒を受けた者は集まりたまえ。他のムカデと戦う前に、一旦態勢を整えるとしよう」
グリムペインが仲間達を手招きする。その手にぶら下げた小さな鐘を鳴らし、その音で仲間達の軽い病を癒し始めた。ルチアも治癒魔法を仲間達へ放ち、蛍をちらりと見遣る。
「下の様子はどう? ムカデは見つけられたかしら?」
「ええ。大きいのが1匹いたわ。音の聞こえる感じだと、随分乱暴に坑道を掘り進めているみたいよ」
「となると……少し急いだ方が良さそうですね。手遅れになってはいけません」
 珠緒と蛍は頷き合う。グリムペインはそんな2人の肩を叩きつつ、再び先頭に立って歩き始めた。
「では案内してくれたまえ。兵は拙速を貴ぶぞ!」

 坑道を下り、一行は中層へ辿り着く。蝙蝠の耳やどこかから響く鈍い音を頼りに、光の届かぬ坑道の中をひたすら歩いた。そうして10分程経った頃、ようやくイレギュラーズは食事に夢中なムカデの姿を捉える。
「さて、序破急でいうなら急の段階だな」
 グリムペインは呟く。その僅かな振動を聞きつけたのか、頭をもたげたムカデはグリムペインへと向き直る。
「ゲコゲコと、肉と共に迎え入れ、心臓咥えた蛙の強迫。受けたまえ」
 彼は胸いっぱいに息を吸い込み、扁平な笛細工を吹き鳴らす。蛙の声が辺り一面に鳴り響く。その音はムカデの甲殻をもびりりと震わせ。眼をぎらつかせたムカデはいきなり地面を張ってグリムペインへ噛み付こうとする。
「真正面から噛み付いて来るとは。随分とお怒りのようだな!」
 彼は豪放に笑いつつ、真正面から噛み付きを受け止める。そのままムカデの頭に右手を押し付け、炎をその身に走らせる。甲殻の燃える、妙な匂いが辺りに立ち込めた。
「カエルの合唱もいいけど、あなたはアウローラちゃんの歌に聞き惚れて!」
 グリムペインとエクスマリアの間を抜けて、アウローラはムカデの真正面で杖を振り回す。柄頭に埋め込まれた宝石に向かって、彼女は澄んだ歌声を吹き込んでいく。辺りを照らす松明の光が、一本の鎖と化して敵へ飛び出した。鎖はぐるぐると巻いてムカデの身体を縛り上げ、エネルギーを吸収していく。
 しかし、その歌を聞いていたのはムカデ1匹だけではなかった。ずるずると鈍い音が響き渡ったかと思うと、ムカデがもう1匹、地の底から這い上がってきた。牙を開いて威嚇しながら、それは長い胴体を振り回してイレギュラーズに叩きつける。ただでさえ狭い空間。気付いたところで、挟み込まれては躱す余地など無い。
「くっ……」
 岩肌に叩きつけられたルチアは、胸に宿した混沌の力を活性化させ、どうにか立ち上がって癒しの光を周囲へ放つ。仲間達の痣や切り傷を、一瞬にして癒していった。
「みんな、大丈夫かしら」
「ええどうにか。多少の深手は負ってしまいましたが」
 頭を振りながら無量は立ち上がる。その眼を見開くと、刀を中段に構えてムカデをじっと睨みつけた。節と節の継ぎ目の一つに、鋭い線が刻まれる。
「獲物が自ら腹を差し出して来る。死地に踏み出してこそ好機在り」
 無量は言い放つと、再び後ろ半身を振り被ったムカデへ踏み込んでいく。ムカデの腹に刻まれた、糸のような線をなぞるかのように刀を振り下ろした。一つの狙いも狂わず、刃は甲殻の隙間へ吸い込まれ、中の繊維を断ち切った。ムカデの身体はあらぬ方向へ折れ曲がり、タールのような体液を溢れさせながら地面に転がった。その身に降り注ぐ体液の奔流を浴びて、無量は顔に貼り付けた笑みをこっそり深めた。
 身体の半分を千切られても、ムカデは残った半分だけで暴れ続けようとする。牙を広げて襲い掛かってきたムカデを、蛍は正面から受け止めた。彼女の背中に守られながら、珠緒もまた蛍の柔肌に刻み付けられる生傷を一つ一つ癒していく。
「さっきの攻撃……大丈夫だったかしら?」
 その間にも、蛍は親友に尋ねる。珠緒はくすりと微笑み、小さく頷いた。
「はい。蛍さんが庇ってくれましたから、深手ではありませんよ。蛍さんの方こそ」
「ボクは大丈夫よ。珠緒さんが後ろから傷を回復させてくれるって信じてるもの」
 2人が強い絆でムカデ2体を押し留めている間に、エクスマリアが砲門を担いで洞窟の奥へと踏み込む。そのまま身を翻すと、砲身へ魔力を込めていく。
(警戒していた通りだが……1体で来ようと2体で来ようと、やることには、変わりない)
「……伏せよ」
 エクスマリアは淡々と呟きながら砲弾を放った。放たれた弾丸は白い輝きを帯びる。目の前の胴体を撃ち抜いたかと思うと、そのまま弾丸は飛び抜け、上半身だけのムカデをさらに半分にしてしまった。
 節を一つ撃ち抜かれ、ぐらりとよろめくムカデ。仲間達の回復を一通り終えたルチアは、その手の十字架をムカデへ突き出す。
「おいたはそろそろおしまいよ」
 言い放つと、十字架から放った光をムカデへ浴びせる。怯んだところへ、無量がムカデへ組み付いた。
「節を断った程度で死なないというのなら……」
 彼女は大太刀をムカデの甲殻に刻まれた穴へ捻じ込むと、力任せに降り抜いた。魔力を帯びて脆くなった甲殻は、いとも簡単に引き裂かれる。
 体液を撒き散らしながら、ムカデはその場に転がる。それでもしばらく蠢いていたが、やがて体液が流れきり、坑道の中ですっかり干からびてしまうのだった。

●商魂は逞しく
 巨大なムカデを片付け、鉱山を後にするイレギュラーズ。鉱夫も鉱山の持ち主たる貴族も、入り口を取り囲んで彼らを待ち構えていた。
「おい! 鉱山ムカデはどうなった? 無事に対峙してくれたかよ?」
 一人の男が目の前に飛び出し尋ねる。アウローラは満面の笑みで応えた。
「もちろん! 3匹もいたけど、全部みんなで退治したからね! ほら!」
 アウローラが振り返ると、無量が右手に縄を握りしめ、何かをずるずると引きずっている。男達が縄の先を辿ると、ぐるぐるに縛り上げられた鉱山ムカデの頭がそこにあった。身体にこびり付いたムカデの体液を拭いもせず、無量は口端に浮かべた笑みを深くする。
「この通りですよ。いかにも巨大で斬り応えがあり、私はとても満足です」
 空虚な瞳と口元の笑み。どこか鬼気迫る彼女の表情と地面に転がりぴくりともしないムカデの頭を見比べて、思わず周囲の人間達はどよめく。
 蛍と珠緒も、縄を巻いた首を一つ、2人がかりで持ち上げていた。
「蛍さん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ……こうしてぶら下げとくだけなら、ただの岩の塊に見えない事もないから……」
 明るい所に引っ張り出してみると、鉱山ムカデの甲殻は、黒々しているばかりでなく、野ざらしの岩のようなごつごつとした雰囲気があった。何より、討伐の証明に首を持って帰ると言い出したのは、他ならぬ珠緒だ。彼女の考えとあっては、蛍も無碍には出来なかった。
「これで、坑道関係者の生活と世界の経済、どちらも守れたかしら……?」
 最後にもう一つ、黒一点のグリムペインが首を依頼主達の前に投げ出す。
「この通り。我々は確かに鉱山に蔓延るムカデを討伐した。この物語に尾ひれが付き、やがては地中の宝物を腹に抱く邪悪な竜を討伐した物語が完成するわけだな! フハハッ!」
「そうなるかはさておき、助かったぞ。一時はどうなる事かと思ったが、これはむしろ僥倖だったかもしれんな」
 貴族の男は笑みを浮かべる。エクスマリアは髪の毛をくるりと捻じれさせた。
「僥倖とは……どういう、意味だ?」
 彼女が尋ねると、貴族は小さな笑みを浮かべた。
「鉱山ムカデが食べて取り込んだ貴金属は、その身を包む甲殻に析出するのだ。つまり、ムカデそのものが小さな鉱脈となるわけだな。鉱山を喰い尽くされ、落盤されれば一貫の終わりだが、倒す事さえできれば、操業できなかった期間も含めて、まとめて損失を取り戻すことが出来るという寸法なのだよ」
「ふむ……そういう、ものか」
「これはこれは。鉱山掘りとは逞しい人種のようだな」
 汰磨羈はふっと笑みを浮かべた。筋骨隆々の逞しい男達が丸太を担ぎ、早速鉱山へとぞろぞろ入っていく。汰磨羈にとっても眼福であった。尻尾もゆらゆら揺れている。
 ルチアも汰磨羈の隣でそんな鉱夫達を見送っていた。
「まあ、張り切り過ぎて事故を起こさないように気をつけなさいよ。ムカデが暴れて坑道の補強も緩んでるみたいだから」
「了解しているとも。せっかく君達に厄介者を退治してもらったのに、こちらの不手際で洞窟を崩してしまっては元も子もないからな。細心の注意を払わせる事にする」



 かくして、銀鉱山で繰り広げられた事件は幕を閉じたのである。

 おわり

成否

成功

MVP

藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方

状態異常

なし

あとがき

この度はご参加ありがとうございました。
平穏無事に解決となりました。またムカデが出る可能性はありますが、それまではまた盛んに採掘作業が続けられることでしょう。

では、またご縁がありましたら。

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