PandoraPartyProject

シナリオ詳細

亡きエリーゼのための破滅
亡きエリーゼのための破滅

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あのさぁ、
「騙してたの」って?
浮気じゃないよ。
だって君と僕とじゃあ全然、釣り合わないし。
期待させちゃったならゴメンね。でも、付き合ってるつもりはなかったんだ。
そう、遊びだったよ。
ちょっと考えたらわかることだと思うけど……。わざわざ言う必要あったのかな?
「あの人は誰か」って?
紹介するね。
あの人はぼくの恋人。
とっても由緒正しい家柄の女性で、すっごくお金持ちだよ。

ねぇ、どうしたの?
泣かれるのはちょっとうっとおしいな。
あのね。
死ぬならさ……誰にも見えないところでやってよ。

●主人のいない部屋
「エリーゼ……」
 湿っぽい日だった。
 風が窓を叩いている。
 部屋から出てこない娘を心配した父親は、娘の部屋をノックした。
 返事はなかった。
 泣いているのだろう、と思った。
 昨日は一晩中、ずっと泣いていたようだったから。
「なあ、エリーゼ。サンディープ君のことは残念だったよ。
彼はとても誠実そうに見えたし、お前たちは、とてもうまくやっているように思えた。あれほど……仲が良かっただろうに、急にお前以外との女性との婚約を発表するだなんて、なんてひどい男だろうな」
 やはり、返事はなかった。
「エリーゼ。もう、あんな男のことは忘れなさい。
いいかい? あの男のためにお前が持ち出した母さんの宝石も、お前が犯した過ちも、すべて忘れることにするから。……何。金はいくらでも稼げる。お前だって、いつか良い人が見つかるさ」
 父親は、辛抱強く娘が出てくるのを待った。だが、返事はなかった。
「なあ、エリーゼ。いつまでそうしているつもりなんだ。昨日から何も食べていないじゃあないか。せめて食事くらい……部屋に入るぞ」
 扉には鍵がかかっていた。鍵を差し込んで、ひねる。
 父親は、悲鳴を上げた。
 最愛の娘は、机に突っ伏して動かなくなっていたのだから。
「誰か! 誰か! 医者を!」
 机の上には、一枚の遺書。これまでの過ちを悔い、許しを願う内容だった。
 
●白いものを黒だというための依頼
「やあ」
『黒猫の』ショウ(p3n000005)はひらりとイレギュラーズたちの前に降り立った。
「今回の依頼は、あまり平和なものとはいかないみたいだね。なんたって、依頼人の要望は、言ってしまえば……”濡れ衣”さ」
 ショウはぐるりとイレギュラーズたちを見渡した。
「幻想のとある有力商人のご令嬢であるアントワール・エリーゼ嬢は……幻想の下級貴族、サンディープ氏と交際していた。
 けれど、そのサンディープは、エリーゼ嬢のことなど忘れたかの如く、中堅貴族のご令嬢と婚約発表をしたんだ。
 それを受けて、エリーゼ嬢は自ら命を絶った、ということさ。
 もっとも、これはまだ公にはなっていない話だけどね。彼女は病気で臥せっている、ことになっているらしい……。表向きはね。
 依頼主はエリーゼ嬢の父親さ。……娘を死に至らしめた男が、何のお咎めもなしに、のうのうと生きているのが許せない。
 依頼内容は……この男に破滅を、というものだ」
 サンディープにエリーゼの死の責任があることは明らかだ。だがしかし、それを咎めることはできないのだ。正規の手段では……。

GMコメント

お久しぶりでございます! 布川です。
しばらくぶりのシナリオがこれってどうなんだろう!?
悪属性でございます!

●目標
下級貴族サンディープの破滅。
具体的には、縁談を破断にするか、もしくはそれ以上の……破滅があればよいかと思われます。

●状況
幻想の下級貴族サンディープは、成り上がり商人の娘、アントワール・エリーゼと恋仲にあったが、エリーゼを捨てて別の女性と婚約を結んだ。
そのため、エリーゼは絶望し、自死を選んだ。

・サンディープ
若く野心家の下級貴族。下級ではあるが、長く続いてはいる。
血筋は良い。

自己顕示欲が強い。
結構な遊び人として知られており、家柄、財産について自分が利がありそうとみればすぐに飛びつく俗物である。
非常にプライドが高く、音楽・絵画に投資を惜しまない姿勢を見せるが、物を見る目は三流。
軽薄で口ばかりの男。
パーティーに目がなく、日夜有力者や芸術家を招いて邸宅でパーティーを行っている。
エリーゼとは財産目当てで付き合っていたが、中堅貴族との縁談が持ち上がり、あっさり捨てた。
婚約はしたが、正式な発表は3日後。パーティーを開いて盛大に行うということである。

(PL情報ー調査で分かる情報)
表向きはうまくごまかしているが、サンディープ家は、投資の失敗から多額の借金を背負っており、家計は明るくはない。
帳簿は執事が管理しており、サンディープ家の邸宅にある。

・エリーゼ
商人の娘。サンディープを深く愛していたが、裏切られ死を選ぶ。
世間知らずで、恋に盲目だった面があり、サンディープに母親の形見の宝石を渡したりしていた。

遺書には自らの行いを父親に詫びる文面が綴られていた。

・サンディープの婚約者(名前:シオネ)
 幻想の中堅貴族のご令嬢。
 サンディープが遊び人であることは理解しているが、家のためならばとある程度割り切っている節がある。
 こちらは権力こそあるが成り上がりであり、サンディープ家の血筋が欲しい。
 この結婚により、サンディープはシオネの家から大きな資金援助を受けることになるだろう……。

●補足
・エリーゼの死はまだ世間には伏せられており、家族と一部のエリーゼの家の使用人のみが知っている。
・エリーゼの遺書はサンディープに触れておらず、これだけでは告発してもダメージは少ないと思われる。
・サンディープは、冷血漢だ。エリーゼが自死したことを聞いても大したショックは受けない。「気の毒だね」というだけだろう。
・シオネは、サンディープほど悪い人間でもないので、エリーゼのことを聞くと、多少の同情を見せるだろう。ただしそれだけ(自分の事情だけ)で婚約を破棄することはない。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

  • 亡きエリーゼのための破滅完了
  • GM名布川
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月30日 22時10分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)
性的倒錯快楽主義者
ユーディット・ランデル(p3p002695)
虚白の焔
十六女 綾女(p3p003203)
毎夜の蝶
ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)
ゲーム上手
梯・芒(p3p004532)
実験的殺人者
ジェック(p3p004755)
ガスマスクガール
君影・姫百合(p3p007232)
鈴蘭の花

リプレイ

●語られえぬ復讐譚
「何としても娘の為に復讐か、気持ちは解るよ」
 依頼人が目尻をぬぐう一瞬。『イルミナティ』ラルフ・ザン・ネセサリー(p3p004095)の赤茶の瞳は、人知れず深謀を覗き込むような色を見せた。
(私ならそいつの縁全てを我が手で滅殺するがね……)
「熱い血潮をもち、猛き肉をもつ人間として生まれたとしても、心まではそうはいかないのですね」
『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)はステッキを押し抱いた。
「サンディープ様はまるで絶対零度の氷のような血をもち、空蝉の殻のようで御座います」
「つくづく、どこまでもからっぽねぇ」
 黒マントで体を覆い隠した『性的倒錯快楽主義者』ニエル・ラピュリゼル(p3p002443)は目を細める。
「現世は、まるで巡り巡るメリーゴーランド。己の行いは全て己に帰るのです。サンディープ様も、そして僕自身も」
 幻の言葉はまるで歌を紡ぐようだ。
「クズ男もそれに騙される女もどんな世界にも居るものなのだね。まあ、芒さんは元の世界では活字や映像で見たことがある位だったけど」
『実験的殺人者』梯・芒(p3p004532)は畳んだ紙片をくるくると回す。
「移動とか、隠蔽とか、色々と忙しかったからねぇ。混沌では”許可証”が簡単に手に入るから余暇にこういった事に関わる時間も取れるわけだね」
「オッ、良いネ、ソレ」
『ガスマスクガール』ジェック(p3p004755)は愉快そうな笑い声をもらした。
「だよね? 先輩。じゃあ、頑張ってクズ男が破滅する処を見ようかな」
「……ヒトって、いや恋愛感情とは面倒なものですね」
『鈴蘭の花』君影・姫百合(p3p007232)は首を横に振った。温和そうな外見とは相反して、ひとたび口を開けば、その大人しそうな佇まいからは想像もできない言葉が飛び出す。
「善良な者が屑のカモにされるのは一つの真理……」
『毎夜の蝶』十六女 綾女(p3p003203)はふうとため息をついた。
「まあ、初心な娘が色恋に騙されるのを見るのは気分のいいものではないわ。色をもって復讐のお手伝いと行きましょうか」

「それじゃあ、ねえ、どう攻める?」
 綾女が小首をかしげる。
「自殺、というのは簡単なように思えて、意外に難しいものだ。服毒自殺は「毒」の分量を間違えれば苦しむ羽目になる」
 ニエルは医者であり、医学に精通している。
「解剖、ですか。隠された闇を詳らかにする手練手管も、必要でございましょうね……」
「自傷自殺は人体理解に、思い切り、そして「適切な道具」が必要になる。そしてその条件を揃えようとすると……必ず物が必要になってくる」
「うんうん!」
 芒は実感を伴い、嬉しそうに頷いた。
「つまり、モノの流れをたどれば……「元凶」、見つかりそうじゃない?」
「イイネ、ソレ。見つけたらアトでチョウダイ」
「期待していて」
「では、私たちはまず相手をさぐって、正面から行きましょうか」
『虚白の焔』ユーディット・ランデル(p3p002695)は完璧な所作で一礼をした。
「女好き、なのよね?」
 綾女は幼い見た目にそぐわぬ妖艶な表情を浮かべる。
「虚実には虚実でお応えいたしましょう」
 幻の手のひらから現れたカードが宝石に姿を変える。
「なるほどな」
 ラルフは満足そうに頷いた。
「じゃあ、芒さんはジェック先輩と向こうのアキレス腱である帳簿の入手を目指すんだよ」
「オーライ」
「それで、侵入していざというときは……」
「モシ、”失敗”したら……」
 二人は顔を見合わせ、肩をすくめる。
「マア」
「仕方ないよね」
 多少強引な手段であっても……。

●隠された毒
「詳しい死因を調べたい。もしかするならば、しっぽをつかめるかもしれない」
 そう言って、父親を説得したニエルは、血に塗れた手術バッグから道具を取り出す。
 エリーゼは年若い女性だ。……素人の服毒死。やはり、かなり苦しんだ形跡がある。
(……)
 痛覚を遮断してしまえば、これほどは苦しまなかっただろうか?
 とりとめのない考えをひとまず脇に置き、ニエルは調査を開始する。
 血液を採取し、薬品と混ぜ合わせる。
 ……珍しい毒だ。
 手に入れるのが難しいわけではないが、少なくとも、ぱっと思いついて手に入るようなものではない。
 誰かの入れ知恵があったのだろう。

「ねえ、邪魔だからさ」
「キミだって分かるだろう? 最後のプレゼントだよ」
 それは、毒の小瓶。

 確かに自殺だ。
 けれど、すべてが闇に葬られるなどということはない。

●破滅への足音
「連日宴を催して、相当羽振りの良い御方なのですね……?」
 幻想貴族の令嬢であったユーディットは、社交界にも伝手がある。サンディープの状況を調べ上げ、婚約者の名前を突き止める。
 シオネ邸訪問の手はずも整えた。
「お会いできて光栄です、ユーディット様」
 シオネ邸に招かれたユーディットは、しばし主と歓談を交わす。和やかな時間が続いたあと、シオネは切り出した。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
「風の噂に、貴女の婚約の話を耳にしまして。……失礼ながら、あまり良い噂を聞かぬ御方のようですが」
 ユーディットは意味ありげに目を伏せ、手に持ったティーカップを置いた。
「サンディープ様ですか……」
「財産目当てに女性に近づいては、手ひどく捨てていると聞きました。それだけではなく、贋作売り等の非合法行為に手を染めているとか……」
「あまり良くない噂のある方とは承知の上ですが……こちらとしても利益になるというのであれば、という意向です。しかし、贋作、というのは初耳ですね」
「本意でない婚姻なれど、せめて不幸は背負わぬように、という御節介です。……愉快ではない話でしたね」
 それから、しばらくとりとめのない話を交わす。
 ユーディットは、ふと、かつての自分を思い出した。幻想貴族であった、自分の姿を……。

●闖入者
「客人ですか?」
 ユーディットが去って数刻。
 シオネ邸に訪問者の気配があった。
 戸口に立っていたのは姫百合だ。
「依頼で来ました。大事な話があるのですが」
「少々お待ちください。お約束は……」
 不意に。
 あたりに、閃光がほとばしった。
 聖光。それは、不意打ちの攻撃だった。
「いったいなにが……」
 使用人の一人に、姫百合が微笑む。
 体が楽になった。
 癒しの力が、傷を癒している。
「お分かりかと思いますが。敵対はすれど穏便に行きたいのです。これは、さる高貴なお方の……」
 姫百合は言葉に裏側に潜むものの意向をにじませる。姫百合には、敵対してなお、言葉に耳を傾けてしまうような雰囲気がある。
「まあ、ありていに言ってしまえば、あのお方に恋心を抱いてる豪商貴族がいましてね? さて、どちらを選ぶでしょうか。今、あのお方は何かと入用なのですよ。もちろん、証拠なんて残りませんがね、エリーゼさんの様に」
 その名前を聞いて、使用人は凍り付く。
 この騒動の間に、いくつかのものが屋敷からなくなっていた。
 表向き、よくある物盗りの犯行として処理されたこの一件は、明らかな「警告」だった。

 首尾よく仕事を終えた二人は、次なるターゲットの屋敷へと進んでいた。
「ここがサンディープの屋敷だね」
 芒は侍女を装い、屋敷に近づいた。スケッチでもするかのように指を伸ばし、距離を測る。人数は、さして多くはない。
「フウン、これがドク……」
 そこへ、ジェックが合流する。小さな小瓶を空に透かした。
「ユーディットの言ってたトオリ、おカネがないみたいダネ。召使いのカズも控えめダ」
「ねえ、あそこ、何か隠してるみたい」
 二人は顔を突き合わせて子どもが悪だくみするように笑う。

●一夜の夢
「サンディープ様は大富豪のシオネ様と婚約なさるとか。今のうちに皆様とお付き合いしたく」
 ラルフと幻の2人は、町の美術商にアルパレストの紹介状を手に美術商を回っていた。
 形ばかり派手なパーティー。むせかえるような香水の匂い。
 サンディープと接見したラルフは荷をほどく。
 一流の絵画。サンディープは品物を一瞥した後、鑑定書をしきりに眺めている。……。どうやら、話に聞いた通り、美術品を見る目はないようだ。
「本物と思うだろう?」
 ラルフは声を潜める。
「実はこれは贋作なのさ」
「なんだって?」
 明らかに本物だ。鑑定書も、ジャン=バティスト・シュナーベルのお墨付き。
「貴公が実は不味い状況なのは知っている。話せないだろうか?」
「……場所を変えよう」
 私室に通され、密談と相成った。
「勿論聡明な貴公である事だ、手は打っているのだろう。しかし何処かに借りを作れば利用されてしまう、ある程度は自身の力を示さねば舐められるのは面白く無かろう、貴族社会とはそういう物だからね」
「そこが痛いところでね……」
 ラルフの言葉は図星をついている。
 こちらの状況にずいぶんと詳しいようだ。だからこそ話を聞くべきだと思ったのだが。
「今までも陰口の一つも言われたろう、所詮歴史だけ、血筋だけの家と。今まで誰も君という存在を評価しなかった、これはチャンスなのだ」
 ラルフの言葉に、サンディープの胸に燃えるような怒りを思い出した。
「これから他の縁で成り上がったとしてもまた言われるだろう、ああ成り上がりに取り入っただけか、と。君の才覚を世の凡愚共に示したいとは思わんか?」
「……」
「私は優れた者が好きだからね、是非君に協力させて欲しい」
「どうやって?」
「彼女は優れた奇術師にして人を惑わす術に長けている」
 幻は、付き人としてそこに立っていたはずではある。しかし、どこからともなく現れたようにも思われた。
「僕がとある高貴な血筋の方に芸術がわかる方に買い取って頂きたいと譲り受けた宝石がこちらになります」
 幻が差し出したのは、それは見事な宝石だ。
「サンディープ様は芸術に造詣が深く、理解のある友人も多いと聞きます。こちらが8、そちらが2で競売をさせて頂けないでしょうか」
 かなりの値打ちものに見える。だが、飛びついてはいけない。買い叩いてやろう、と心を決めた。
「それは暴利というものだろう。第一、そんなどこのものともしれないものは……」
「でしたら……」

●葛藤と花の香り
 自分が手を汚すのは危ない橋を渡ることになる。
 パーティーの間、サンディープは取引について考え込んでいた。不意に、グラスを持った女性とぶつかった。
「きゃっ……」
「おっと」
「すみません、大丈夫?」
 サンディープはとっさにぶつかってきた相手を値踏みする。上質のドレスに高価な装飾品。……どうやら貴族ではなさそうだが、金はありそうだ。それに何よりも……美しい。
 匂い立つような魅力を放っている。
 しばらく相手を観察して、サンディープは判断した。利用価値があると。
 相手も、悪いようには思っていないようだ。
「名前は?」
 問いには答えず、綾女はしなだれかかってきた。
 控えめで、男を立てるような様子が気に入った。
 綾女は話を聞くのが上手い。べらべらしゃべる女性よりも、こういった女性の方が都合がよかった。
「ねぇ、申し訳ないけれど少し疲れてきてしまったわ。どこかゆっくりできる所はないかしら……二人きりで、ね」
 喉が鳴った。悪い気はしない。
 二人は部屋に消えていった。
 傅く少女。
 それは、蕩けるような一夜だった。どうせ、一夜の夢と思えば、自然と口も軽くなる。
「美術品に詳しいのね」
 いつの間にか、そんなことを漏らしていたのだろうか。
「私の方でもなんとかできる」
 ささやき声は甘かった。
 相手の表情は、暗闇で見えない。

●手練手管
 その夜。
 二つの影が、サンディープ邸に忍び込んでいた。
「この窓、鍵かかってるな」
「オッケー」
 ジェックのスナイパーズ・ワンの一撃は、音を殺して闇夜に響く。
 表だって警告の意味があったシオネ邸での騒動はラクではあったが、こちらの計略は、しばらくは穏便に、だ。
 万が一バレたら……。その時はその時。
 客人として招かれたラルフ、幻からの情報を統合し、綾女の教えた「とっておき」をもとに道を決める。
 ジェックの合図を頼りに、芒は使用人の隣を抜けた。裏手の見張りは、すでに気絶させられている。
「あったあった」
 大きな金を動かすなら、帳簿は必須だ。
 厳重な一角。見張りをしていて、ここが怪しいと分かっていた。綾女が入手したカギを使い、芒は金庫から帳簿を取り出す。
 そして、代わりにモノを残していく。
「全く、悪いことを考える人もいるものだね」
「プレゼント、喜んでくれるとイイネ」
 毒の小瓶を金庫の中へと入れる。

 その時だった。
 足音がした。……人の気配だ。使用人が扉を開いて、辺りを見渡す。
 二人は完璧に息をひそめて、扉の影に潜んだ。
 目と目で合図する。
 こっちは足を。
 じゃあ、頭。
 ……。
 緊張に反して、何事も起こらなかった。使用人は見回りの続きをするようだ。
「命拾いシタね」
「ちぇー」
 仕事を終えた二人は夜に紛れて消えてゆく。

●全てが壊れる時
 失われた帳簿。
 現場に残された香り。
 痕跡。
 気が気ではなかった。誰も信じられない。
 シオネも、何やら裏で動いているようだった。
 しかし、今日は婚約発表の日である。それが済めば、いかようにも事は動かせるはずだ。
「さあ、この価値のある美しい宝石は本日の目玉商品でございます! まずは……100万ゴールドから!」
 サンディープ邸には、景気の良い声が響き渡っていた。
 サンディープは冷や汗をかきながらも、まだ己の立場を疑ってはいなかった。
 そうだ。自分は今。人生の絶頂にいるのである……。

 サンディープ邸で行われている競売に、ラルフと幻は立ち寄っていた。
「ずいぶんと騒がしいですね」
「この後、婚約を発表なされるとか。その前に、サンディープの顔を一度見ておきたいと思いまして」
 幻はふと首をかしげる。
「この絵画、今はかの大貴族の方の所有のはず……?」
「……」
 シオネの表情に、驚きは見られなかった。疑いが確信に変わった、というところだろう。
「実は……」
 ラルフが、次々とサンディープの素行を並べ立ててゆく。
「やはり、そうなのですね」
「では、この話はなかったことに?」
「ええ」
「賢明ですね」
 もしもそうでなければ、死体が一つ増えていた。

 婚約破棄を知らず、サンディープは声を張り上げていた。
 一桁。二桁。
 宝石の値段は、次々に吊り上がってゆく。
 熱狂。
 飛沫の夢が肥大していく。
 そのときだった。
「おや、これはまさか贋作!?」
 ラルフが声をあげる。
 目玉商品だった宝石は、一瞬にしてちっぽけなカードへと戻る。
 それからは、蜂の巣をついたような騒ぎになった。
 金を返せと騒ぐもの、すべて贋作だったのかと詰め寄るもの。もみくちゃにされながら、涼しい顔をしたラルフを目にしたサンディープはラルフを睨みつけた。
 今、発覚するのはまずいのだ。どうしようもない破滅だった。
「貴様……! 話が違うじゃないか!」
「ああ、私は凡愚は嫌いだよ、お前の様なね」
 ラルフは冷たく言い放った。
 破滅が、そこに口を開けていた。
「覚えていろよ、お前たちを必ず……」
 取り押さえられたサンディープは、不意に青ざめる。
 甘い香り。
 かつての婚約者に贈った、あの甘い花束の香り。
 芒とぶつかったとき、確かにその香りがした。
「たとえね。直接手を下さずとも。それを教唆したのであれば。それはそれは、とてもとても罪深いことなのよぉ」
 ニエルが笑った。

 芒がすれ違いざまに盛ったのは、白百合の血液。
 恐ろしい幸福感が、現実との境目をあいまいにしてゆく。
 大丈夫だ。
 意味もなく、根拠もなく、サンディープはそう思った。
 これは、悪い夢なのだから……。

 もう二度と、この男が貴族社会に戻ってくることはないだろう。

●後始末
 事件も下火になり、徐々に警備の手が緩んだころのことだ。
 シオネ邸に、再び侵入者の姿があった。
「怖い顔しないでください。悪いのはサンディープなのですから。あぁ、未来を潰した私たちも悪役ですかね?」
 姫百合は、ものを盗みに来たわけではない。戻しに来たのだ。
「全てはあなた方の掌の上、ですか……」
 シオネは複雑そうな表情をしていた。サンディープの失墜に、ぎりぎりで巻き込まれることを免れた。それはたしかにイレギュラーズたちの活躍によるものだ。
「ああ。そうだ、ついでに一つ。あなたが贈られていたというこれ、貰って行ってもいいですか?」
 姫百合が掲げたのは、宝石だった。
「曰くつきなんですよね。代金、いります?」
「いえ。たぶん、私のものではないものですわ」
「そう?」
 姫百合はふわりと微笑み、立ち去って行った。

 かくして、サンディープの野望は打ち砕かれ、正義の鉄槌は下された。イレギュラーズたちの活躍は、表向きには知られることはない。
 エリーゼの部屋に戻された宝石が、窓辺できらきらと光り輝いている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

後味の悪い「結末」も、イレギュラーズたちの活躍で、いくらかはすっきりしたものになったと思います。
サンディープは転落し、もう二度と表社会に出てくることはないでしょう。
依頼人は、彼の破滅に慰めを得たようです。
暗躍、お疲れ様でした!
機会がありましたら、また冒険いたしましょう。

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