PandoraPartyProject

シナリオ詳細

繰り返す今際の際で

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●その指輪は毒の糸巻き
 幻想貴族という地位は、長く醸成された国家としての形態、そしてそれぞれの領地における運営、という状況を通して当人達やその家系に深く深く、固定概念という根を下ろした。
 すなわち、『領内において自分達こそが神の代行者』なのだ、という意思。思い上がり、と言い換えてもいい。
 無論、時間により醸成され、築き上げられた地位はたとえカビが生えていようと彼らの誇りだ。
 どんな行いをしても剥奪されぬ地位、糾弾されぬ絶対者としての振る舞い、王と神にさえ牙を剥かなければ許されるという思い上がり。
 それらはときに、地獄と見紛う遊興すらも是とさせるのである。
「……そういった面々が未だに『貴族』という立場にあることは、同じ立場として私も恥だと考えている。軍人として我々が守った国民を、彼らに無為にもてあそばれるのはなおのこと許されざる話だ」
 わかるね? とイレギュラーズと机を隔てて向かい合った男性――『宵歩』 リノ・ガルシア (p3p000675)のパトロンである幻想貴族、ヴェルナー・ルントシュテットは強い口調で問いかけてきた。
 元軍人の幻想貴族。永らく受け継いできた名代としてではなく、成り上がりの色が強い彼は同じ貴族でも、その地位にあぐらをかく者達を良しとしない。
 ともすればそれらを失脚させようとすら考えている。『私のあしながおじさま』と冗談めかして語るリノにとってはその志はともかくとして、利害が一致する相手だったらしい。
「それで、本題だが……とある貴族の男がいる。名前はシュトレン。女好きのする顔と好色家としての一面を持つ男だ。当然だがいい噂は一切ない。彼が、最近妻を娶ったという」
 だが、妻の姿は婚儀の日を最後に見られていないという。そしてその後、奇妙な噂が立つようになった、とも。
「婚儀から一週間ほど経ってから今まで、私が掴んでいる範囲内で5回。彼の妻が住んでいるという離れに名の通った冒険者や騎士出身の者が招き入れられたと聞いている。いずれも、事前に妻の側から招待を受けた……と漏らしているそうだが、真偽は不明だ」
 そして誰一人戻ってきていない。『よくある話』だ。姿の見えぬ貴族の妻からの誘い、消える者達。ヴェルナーは独自に調査を進めた末、ひとつの事実に辿り着いたのだという。
「恐らくシュトレンの妻は命を落としている『状態』だ。そして、今なら助けられる」
 何を言っているんだ? と訝るイレギュラーズに対し、彼はシュトレンの妻から送られたであろう招待状を机に差し出す。
「シュトレンが婚儀の際に妻に与えた指輪は悪意ある魔道具、『終焉劇場』である可能性が濃厚だ。仕掛けを知らねば助からぬ。知っていても強い意思がなければ無事では済まぬのだがね」
 つまり、こうだ。イレギュラーズをシュトレンの妻のもとへと送り込み彼女を救出。もって彼の蛮行を詳らかにし、失脚を狙うということだ。
 ヴェルナーは一拍おいて、魔道具と現状について説明を始めた。

●『終焉劇場』
 結婚指輪型のそれは、装着者の記憶をベースとして発動する。そして、装着者が不幸な人生、死と隣り合わせの日々を送ってきた者であればそれだけ鮮明に記憶を再現し、装着者を深い昏倒状態へと誘う。
 恐ろしいのは、この状況下では装着者は仮死状態に入り、しかし飲食を要さずしてギリギリの状態で生かし続けられるということ。
 装着者と同じ密閉空間へと足を踏み入れた者は、その記憶に取り込まれ、『その時死んでいたら』のIF事象に巻き込まれる。――結果として『装着者の記憶』が死んだ時、身代わりとして命を奪われるのだという。
 もう理解頂けただろう。『終焉劇場』は、そうして奪った命を装着者と折半することで己の力を蓄え、装着者を生かし続けるのである。
 シュトレンが妻を娶った理由もそれだ。『出来るだけ不幸な女』を厳選し、降って湧いた幸福をして真意をさとられぬように振る舞い、結果として陥れた。
 彼女の名義で呼び寄せた救出者達が命を落とし、別邸で朽ちていくのを彼は喜んでいるのだという。……腐っている、なにもかも。
 『終焉劇場』を破壊する為には、一度に取り込まれた者達がすべて脱出を果たさねばならない。
 ――それは『幻影』でありながら『虚像』ではない。運命の修正力があれど、破壊を為すには戦わねばならぬのだ。

GMコメント

 そんなわけで関係者依頼です。よろしくおねがいします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●達成条件
 『終焉劇場』の破壊

●終焉劇場
 指輪型の魔道具(アーティファクト)。
 同意を経て装着した者を昏倒状態にし、過去の不幸な出来事を拡大解釈し、『もしもそこで死んでいたら』のビジョンを多重的に見せ続けるというもの。
 製作者はどうやら、旅人の持ち込んだお伽噺をベースに作ったのではという疑惑が強い。
 装着者を救うには、同じ密閉空間(部屋など)に入った際に送り込まれる世界において『IFの死』を打破し、現実へと戻ってくる必要がある。同時に突入した者が全員戻らなければ破壊できない。
(幻影内で重傷を負った場合、イレギュラーズは運命の強制力で強制排出される。無事な者がいれば破壊可能)

●シュトレン卿の妻
 生まれは平凡な町娘であるが、様々な不幸を経験している。
・生まれて間もない頃に両親が貴族の馬車に轢かれ即死(本人は奇跡的に無事であった)
・その後引き取られた親戚が騎士を相手に粗相を働いたという言いがかりで斬り伏せられている
・その際、彼女もそれを手引きしたと謂れなき疑惑をうけて拷問にかけられている
 ……それを除いても多数あるが、兎角不幸な娘である。
 基本的には上記3つの記憶に対しイレギュラーズは対処することになる(各人1案件まで。複数対処不可)。その際、後述の『終焉の遣い』を撃破する必要あり。

●終焉の遣い
 影絵のような姿をして、両手剣を所持している。
 基本的には近距離までの攻撃を行うが、稀に超遠対応の突きを放つ。
 基本性能は低いが耐久とEXAだけ高め。
 他の幻影(上記での騎士や馬車)は大して脅威ではないが、彼らは警戒する必要がある。

●つまりどうすればいいの?
 シュトレン邸別邸(妻が囚われている場所)に招待状をもって赴き、扉を閉めた時点で状況開始。
 任意で上記3つのどれかの記憶において『死亡』を回避し、終焉の遣いを撃破し現実へと戻り。
 最終的に『終焉劇場』を破壊で成功となります。
 失脚までの道筋はヴェルナーが勝手にやってくれます。

 割と心情混じり戦闘みたいなノリです。
 よければぜひ。

  • 繰り返す今際の際で完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月24日 21時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)
穢翼の死神
リノ・ガルシア(p3p000675)
宵歩
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
風巻・威降(p3p004719)
気は心、優しさは風
村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運
ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)
必殺の上目遣い系観光客

リプレイ

●『招待客』たち
 幻想貴族という生き物は、殊更に『娯楽』を好む。
 娯楽が娯楽たり得る為には、彼らのコントロール下にあり、かつその中で想定外、変化があることを求められる。
 他人の不幸を切り取って楽しむシュトレンの様な者にとっては、『変化』は来訪者達が入れ替わり訪れること、『想定外』は招待状を手に現れた者達が、元の持ち主とは別の面々であることを指す。
 ……そういう意味では、今回の娯楽は非常に彼好みの変化であった。それが誰の手引きであるかなど、誘い込んだ側には気にもならない。どちらにしろ死ぬ相手の身元を気遣うような神経が、幻想貴族にあろうものか。
「何も聞こえねえ、感じねえ……相当参ってるんだろうな、ひでぇもんだ」
 『抗う者』サンディ・カルタ(p3p000438)は別邸へ向かう道すがら、人助けセンサーを頼りに救出対象の女性の『声』を拾えぬか試したものの、それらしいものを拾い上げる事はできなかった。それだけ憔悴しているのか、はたまた意思が深くに沈んでいるのか。いずれにせよ、そこまで追い込んだ貴族、そして用いられた呪具の凄惨さを推し量るに余りある。
「私からすれば、陥れる側も救いたいと願う側も幻想貴族の欲望の結果だがな。利用できるならそれに越したことはない」
 『静謐なる射手』ラダ・ジグリ(p3p000271)のドライな語り口は、ともすれば非情ととられかねぬものだ。だが、そうは言っても拾い上げられる命があるならそれに乗るのも一興だろう。利用できるものは利用する。ラサの者としては平均的な、合理性のみを突き詰めた思考であることは間違いない。……彼女は事前に、伝手を辿って被害女性の過去を調べようと努めた。が、如何に深く関わる伝手を持とうと、取るに足らないいち市民の事故記録など限られている。犯人が貴族所有の馬車であった――『そういう事情』で隠蔽された痕跡だけは明らかだった。
「まったく、うちのおじさまも中々面倒な仕事もってきてくれるものねェ」
 『宵歩』リノ・ガルシア(p3p000675)は依頼人である幻想貴族・ヴェルナーと以前から懇意にしている。利害関係のみで繋がるドライな間柄だが、だからこそこうも厄介な依頼を押し付けてくるし、その分のサポートも抜かり無いのが痛し痒し、といったところだ。尤も、潜入と後始末の道筋をつけ、『突っ込んでかき回す(ハック・アンド・スラッシュ)』だけを要求する態度はなかなかの食わせ者でもある。
「くだらないな。人をもてあそぶためだけに手間をかけて……結婚までして……」
「他人の不幸は蜜の味というけれど……俺は幸せな姿を見る方が好きだなぁ」
 『今日から観光客』ラナーダ・ラ・ニーニア(p3p007205)と『悲劇を断つ冴え』風巻・威降(p3p004719)、共に下手人であるシュトレン卿への不満を口にしつつ歩みを進める。不幸な姿を楽しむ為だけに手の込んだ準備をし、その人間を餌に新たな犠牲者を引っ張り込む。そんな些事に手を惜しまないのは、今までの成功体験がどれほど陰惨だったのか、の証明とも言えようか。何れにせよ、そんな思想を肯定できる者などこの場には居ないのだが。
「さしずめ、死の永久機関もどきとでも言うべきか。その様は寄生虫が如しだな」
 『五行絶影』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は終焉劇場(そんなもの)を確実に破壊する、という意思を明確に示し、剣呑な表情を崩さない。厄を狩る者にとってみれば、この上ない厄もの案件。下衆の書いた安い脚本など、引き裂くのに理由を必要とはしないのである。
「生き延びた、という【幸運】を否定する道具なんて……ワタシに喧嘩を売ってるとしか思いませんねぇ……?」
 『不運な幸運』村昌 美弥妃(p3p005148)にとってみれば、被害者の生い立ちは彼女のそれとどこか似ているようにも思えた。極めて不幸ながら、身の安全を担保する一握りの幸運。それすらも簒奪する仕掛けというのは、人の生き方を明確に否定する行為に他ならない。そんなやり方が許される筈がない。許されるものか。自分のこれまでを否定されたような錯覚は、彼女にとってもいい気分はしなかった。
「随分とまあ悪趣味な貴族も居るんだね」
『どの世界でも貴族は権力を行使し己以外は糧にする輩も多いだろう』
 『穢翼の死神』ティア・マヤ・ラグレン(p3p000593)は己の裡の神様と対話を交えつつ、目の前に見えてきた扉、その別邸の全容を視界に収めた。女性一人を囲っておくには十分すぎる大きさだ。幻想貴族の多様性を知る彼女にとっても、今回の相手は明らかに許せぬ相手だとわかる。……神様の側からすれば、善きにつけ悪しきにつけ、貴族など十把一絡げなのかもしれないが。
 ともあれ、一同は内部から漂う不穏な感覚を覚えながらも扉を引き開ける。
 目の前に飛び込んできたのは、奥のベッドに雑に横たえられたうら若き――少女と呼んで差し支えないほどの夫人の姿と。
 四周の壁に数珠繋ぎにされ、首を支点に宙吊りにされた干乾びた遺体群だ。何れも屈強だったのだろう、重装備を纏っていた痕跡があるが、一部の者は体が耐えきれなかったのだろう、体の一部が鎧ごと床に転がってすらいる。
「助けて、って言える状況じゃねえよな……」
「細かい事を考えるだけ、無駄だね。助け出した後は、ここの主人はきっちり締め上げて貰わないと割にあわないね」
 サンディが呆然と呟くと、ラナーダは顔をしかめつつ同意を返す。少女の方へと歩みを進めるのと、背後で扉が閉まるのとはほぼ同時に。
 全員が事前情報から割り出した過去を意識すると。僅かな目眩の後、自分達が霧雨に包まれた街路に立っていることに気付いたのだった。

●墨色の幻影
 空間の色調は全体的に墨を流したような褐色。歩く人々に生気は感じられず、さながら版画を動かしているようなぎこちなさが残る。……だが、一同には守るべき対象がはっきりと見て取れた。あからさますぎるほどに、子連れの親子だけが鮮やかな色を纏っていたのだから。
「可愛らしいお子さんね、お名前はなんていうのかしら」
「可愛い赤ちゃんデスぅ、見てもいいデスかぁ?」
 リノと美弥妃は、嬰児を抱えた夫婦――件の女性と両親だろう――に近付くと、左右から友好的な笑みを見せ、母親の警戒心をほぐそうとする。同時に、それとなく馬車の接近に対処できるように警戒を緩めず、両親が巻き込まれぬように立ち回るのは抜かりない。
「え、ええ、構わないわ……名前はね、ラフィっていうのよ」
「……おい……」
 母親の側は、嬰児に柔らかい笑みを向けつつそう告げる。父親の側はといえば、彼女ほど2人を信頼していないようで、軽々に名を教えた妻の態度に不満げだ。
「アラ、気に障ったならゴメンナサイ。……でも本当に可愛いわ。お二人にそっくりだわ、きっと美人に育つでしょうねェ」
 リノは警戒する夫の意向を汲みながら、しかし側を離れることがないまま、嬰児をサラリと褒めていく。親という人種は、子供を嫌っている者などほぼいない。いかに表面上で取り繕っても、父親が気を悪くしていないのは明らかだった。
「幸せそうですね。あのまま、あの2人が育ててあげられれば……彼女の人生も変わったんでしょうか」
「どうかな。少なくとも『お客さん』は規定通りかそれ以上に酷い未来を提供したいらしいが」
 威降の、どこか残念そうな独白に、しかし汰磨羈は素っ気なく返す。関心がない、というよりは、考えても詮無いことだという意思が見て取れようか。
 どちらにせよこの魔道具は『幻想を見せる』ものだ。未来を変えることはできないのだ。
『記憶の追体験に死の恐怖を追加する、か。回りくどいことをする』
「強い感情を原動力にしてるのなら、効率的だけどね。凄く趣味が悪いけど」
 神様の不満げな声に、ティアは淡々と返す。悪趣味な貴族が好みそうな、とびきり悪趣味な趣向だ。無論、それをぶち壊せばとびきり面白い戯曲(ショウ)が見られそうではあるが……深々と考えている余裕は、ひとまず、無くなったようだ。
「あの馬車……大きいね? 乗り合い馬車なのかな?」
 ラナーダは遠くから迫る馬車が、明らかに貴族の私用だとか大層な護衛を付けたものではないことに気付くだろう。『馬車=貴族』というステレオタイプではなく、それ自体の脅威は大質量と制御を失ったランダム性にある、ということも。
「馬をなんとかできれば避けられねえか……?」
「接近する前に破壊する。シンプル且つ強引だが、それが一番効果的だろう!」
 サンディは、御者が放り出され絶命したのを見て馬を制御できないかと考えた。それも回答の一つだったろうが……汰磨羈はもう少し、シンプルにことを進める気のようだ。
 『陽虔』と『陰劉』、『両義律界』の2振りを擦り合わせて放出された無極の斬撃は、横一閃に薙ぎ払われ、2対4輪の車輪と、馬の足を切断する。慣性と質量のまま滑り込んできた馬車を前に、彼女は残心の姿勢のまま微塵も動かない。恐怖か、諦観か?
「いや……流石に止まんねェだろ!」
 否、仲間の介入を信じてこそか。サンディが馬車の横合いに入ると、マントの影から衝術を放ち、建物の壁に馬車を叩き付けんとする。急激に方向を変え、右に左にと揺さぶられたそれは馬車としての形を保てず、壁面に激突する前に自壊し、破片を飛び散らせた。中の人々は? 当然ながら、一連の衝撃で命はあるまい。幻影だけにどこか存在感は乏しいが、彼らもまた犠牲者というわけか。
「あんなものに巻き込まれれば、生きていられるのが不思議なくらいだが……彼女は本当に幸運だったのだな」
 ラダはSchadenfreudeを構え、馬車の残骸から湧き出す存在を睨みつける。
 終焉の遣いは、自らの獲物を掠め取られることを望まない。むしろ貴様らが獲物であると、明確な敵意とともにイレギュラーズへ剣を突きつけた。
「悪趣味デスねぇ、相手の幸運を否定したいっていう強い意思を感じマスぅ」
 美弥妃はリノとともに両親の前に立ち、都合4体の遣いを視界に収める。
 互いに、状況を見守るなどという殊勝な考えは持っていない。真っ先に敵の間合いへと踏み込んだ威降は、一切の躊躇もなく妖刀を振り抜いた。

●しあわせの鐘
 威降の業の冴えには、一分の隙もなかった。終焉の遣いは、深々と刀傷を残した筈だ。だが、相手は全く気にした風もなく騎士剣を振るってくる。真正直な斬撃から、手首を返しての斬り上げ。一瞬で2連の斬撃は、それぞれがさして精度が高くなくとも、狙いへ向けて追いすがる。
「くっ……! 見ると聞くとでは違いますね、やっぱり!」
「それでも、攻撃し続ければ倒れる筈。全員で、できることをやればいい……よね?」
 威降の動揺に対し、ラナーダは一切の躊躇なく魔弾を打ち込む。怨念満ちたるそれは瞬く間に遣いの影のような肉体を侵食し、動きを鈍らせる。
『幻影の使い魔とはいえ一端に耐えるようだな。油断はするなよ』
「分かってるよ、こんな道具の、更に手下に好きにさせるなんて冗談じゃない」
 ティアは2人が対応している個体とは別の相手を押さえ込み、勢いのまま剣魔双撃を放つ。驚異的な威力を持つそれをもってしても、一撃のもとに倒すまでは至らない……相当な手傷を与えたのは確かだが。
「ギ……」
「おっと、そっちは行き止まりだぜ。何故なら俺が通さないからだ!」
 3体目。両手剣を構え、直突きを放とうとした個体の喉元にカードが突き刺さる。自らの体力を殺意に変換したそれは、「切り札」の名に相応しい禍々しさを以てその動きを制限する。ふらりと動きを弱めた個体は、他の連中と同時にラダが放った弾丸の驟雨を受け、動きがさらに鈍る。耐久力はかなりのものだが、さりとて両手剣の脅威はさしたるものではない、か。
「――派手なものに気を取られるのは分かるが、注意力が足りなさすぎではないか?」
 汰磨羈は、フリーだった終焉の遣いの背後に忍び寄り、鋭い動きで掌打を叩き込む。直後、結界がそれを囲い込み、破壊の限りを尽くす。殃咎餮棺と彼女が呼ぶ、太極の業のひとつである。ラダの放った弾丸に加え、極めて精度の高い結界術式の猛攻。そんなものを受けて立っていられる道理はなく。その個体は、結界の中で姿を消した。
「貴様の様な存在を、完膚なきまでに滅ぼす。それこそが厄狩――私の、存在意義だ」
 その惨状に目を向けた他の個体に対し、汰磨羈は凄絶に笑ってみせた。
「な、何……!?」
「大丈夫デスよぉ、あれは単なる雑音デスぅ」
「ええ、私達に任せておけば大丈夫よ」
 母親の怯える様子に、美弥妃とリノは口々に安心させようと声をかける。リノは警戒を解かぬまま、美弥妃は仲間達の被害の程度を確認しつつ抜け目なく治療を施していく。体力が無駄に多い相手だけに、長期戦となることは避けられぬが……それでもイレギュラーズの被害は、想定されている中で最も少ないものだったといっていいだろう。
『キャハハハハッ! 趣味の悪ィオモチャが壊されるのはゾクゾクするぜェ!』
『貴様もただの道具に過ぎんだろうに、よく喋るな……』
 イレギュラーズ有利の状況を見て取ったか、偽物の狂気劇場が思い出したように笑い声を上げる。ティアの神様は呆れたように口を出すが、諦めの色も濃い。……所詮道具だ。対話を試みるだけ無駄と考えているのだろう。
「お前らで打ち止めなのは分かってんだ、出し惜しみはしねえぜ!」
 サンディはエネミーサーチを活用することで、周囲に新手の遣いが現れないことを確認済みだ。故に、自滅的とすら言える猛攻も難なく行える。そして、このテの相手にはそれが覿面に効くことも、彼走っていたのだ。
「――首を差し出せ」
 威降は最後に残された個体に断頭を叩き込む。弱っていたとはいえ、的確に一瞬で、肉体の継ぎ目すら分からぬ相手の首を落とすのは並の技倆ではありえない。彼の鍛錬のほどが読み取れよう。
「あ、あの――」
「大丈夫デスよぉ、その子は強く生きマスからぁ」
 母親が感謝の言葉を告げるより早く、イレギュラーズは現実世界への引力に導かれる。美弥妃の言葉は、母親にとって救いになっただろうか?
 その場から消える直前、ラダは一言だけ……彼女に問うた。

「狂気劇場と関係あったりするのかな……まあいいや、とりあえずぶっ壊そう」
『ギャハハハハ、こんなガラクタと一緒にしないでくれよォ! 俺はもうちょっとスマートにやるぜ? なあ?』
 現実に戻ってきたティアは、『終焉劇場』を手に取り、呟く。それにすかさず狂気劇場が反応するのは流石というべきか。その言葉を信じるなら無関係だが、それこそ道具の戯言だ。
 そのまま指輪はあっさりと砕かれ……少女は目覚めを迎える。
「嫌な男に掴まっちゃったのねェ、ご愁傷さま」
 目覚めに笑顔で覗き込んだリノに、少女……ラフィはきょとんとしたような顔で首をかしげる。それから、自らをかき抱くようにして後ずさり、怯えた目で訴えかけてくる。己の不幸、その程を。
 だが、一同が自らをひどく気遣うような表情を見せていることを知れば、彼女も自然と表情を和らげるだろう。なにしろ、最後に彼女に残された記憶は、無惨な両親の死などではなく。
「両親からの伝言だ。『幸せは逃げないから、ゆっくり歩きなさい』、だそうだ」
 ラダが幻影世界からの伝言をラフィに伝え。
「ワタシも不幸ばっかりだったんデスよぉ。でも、同じくらい運良くここまで生きてるんデスぅ。こんな不幸を何回も生き延びてきたワタシたちほど、幸運な人はいないのではないデスかねぇ?」
 美弥妃がおどけた調子で、己の言葉を続ける。……もしかしたら、ラフィにとって最も印象的だったのは――。

 後日、ローレットに寄せられた話だが。
 ラフィはヴェルナーの家で小間使いとして日々を過ごしており。シュトレン卿は、失脚にこそ至らずともその悪評をさらに広げ、貴族としての地位を大きく落とすであろう……そんな顛末であった。
 それと。
 『まだまだやることはあるからよろしく』、と彼からの伝言があったことも添えておこうか。

成否

成功

MVP

村昌 美弥妃(p3p005148)
不運な幸運

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。シュトレン卿の妻ことラフィは救出完了、卿も大幅に勢力を減じたことでしょう(多分、そこにヴェルナーが食い込むことになります)。
 MVPは全体的な流れへの寄与もありますが、心情や境遇面、言葉選びでストライクをとっていった貴女に。
 全体的に質の高いプレイングだったと思います。ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM