シナリオ詳細
賊抜けセンターへようこそ ~いま、抜けに行きます~
オープニング
●賊対令
「幻想のある地域にて、盗賊に対する条令が施行されたことを知っていますか。
盗賊山賊海賊等における暴力行為対策条令。略して『賊対令』。
砂蠍をたかが盗賊と侮ったせいで田舎町をみすみす占領させあわや国家崩壊の危機を招いたことを、この土地を納める貴族であるブロス氏は重くとってこの条令を制定、布告されました。
その一環として設立されたのがここ『盗賊団離脱者相談所』」
粗末な木造小屋に縦書きで記された看板を、長い髪で顔を隠した女がノックで示した。
「通称『賊抜けセンター』です」
まるで船幽霊のごとく暗い雰囲気を漂わせる女性。長い前髪で顔を隠し全身真っ黒な服を着た彼女は賊抜けセンター唯一の担当事務官『コエン』と名乗った。
所長にあたる男は眼鏡をかけた気弱そうな男で、八人入るには狭すぎる事務所の端で小さなデスクから立ち上がった。
所長自ら湯飲みで茶を出して回り、かりかりと頭をかく。
「人員と事務所の外観から察してると思うけどね、ここはなんというか……左遷の部署なんだね。
わかるでしょ? 盗賊が自らやめたいなんて言いに来ることはそうそうないし、実際言われた所でブロス氏のコネクションから職業斡旋をする程度のことしかできない。
一度抜けた所で昔の仲間が職場に押しかけて結局は元の仕事に戻ってしまうなんてこともザラだ。実績なんてでるわけない。けど置かないことには格好がつかない。そんな部署だk――」
「皆さんに来て貰ったのはこの男、エンドレという方を賊抜けさせるためです」
愛想笑いを浮かべる所長を押しのけて、事務官であるコエンは数枚の書類をテーブルに広げた。
その一枚をつまみ、掲げてみせる。
「彼は盗賊団ミズトラファミリーに所属するスリの常習犯でしたが、腕を怪我して以来組織への上納金が払えず追い詰められていました」
乱暴に顔写真つきの資料を机に滑らせ、また別の書類を翳す。契約書だ。
「盗賊団のボスであるドン・ミズトラがこの書類にサインすることで、ボスはエンドレ氏は族抜けを認めたことになり、はれて我々貴族管理組織の保護観察下に入りカタギになることができます」
「いやでもねえ、そんなの認めるわけないk――」
木製のトレーを抱えて話に入ろうとした所長を軽く突き飛ばして自分の椅子に座らせると、コエンは垂れた前髪の間から目をぎらりとのぞかせて振り返った。
「方法は簡単です。彼らを叩きのめし、無防備にし、私の持っているカードを取引材料にして契約を結ばせます。
皆さんは……そのための戦力です」
●ミズトラファミリー
「盗賊団ミズトラファミリーは強盗やスリなどを中心に行なうシーフ組織で、幻想西部における指定盗賊団幻想木船組の二次団体(セカンド)にあたります」
コエンはロールしていた地図を広げ、デスクのいたみを気にせずピンを突き立てていく。
「場所はここ。多くの私兵に守られていますが、武力をもってこれを突破します」
「さて、と。そろそろ僕の出番かな」
そばで待機していたショウ(p3n000005)が集めてきた情報メモをマップの上に並べていった。
ここからはコエンとショウの説明を複合したものである。
ミズトラファミリーのアジトは高い塀に囲まれた赤煉瓦の屋敷で、常に屋敷の周りにはカラスによるファミリアー監視が巡回している。
正面ゲートに見張りはないが、これを解錠または直接的破壊によって突破し、アジトへ突入をかけるのだ。
この段階で私兵たちが次々にアジト屋内から飛び出してくるだろうが、これを全て撃滅する。
予想される戦力は刀、拳銃、棍棒などだ。
人数にして20人ほどだが、彼らは戦闘経験の浅い窃盗専門のチームだ。九人程度でも充分に撃滅が可能だろう。
「ちょっとまった、九人?」
話を途中で遮り、ショウがコエンへと振り返った。
「はい。私も行きます。ドン・ミズトラにサインさせる役目がありますので」
長い前髪の間からショウをぎろりと見やるコエン。
ショウは目を一度ぐるりとやってから説明を続けた。
さて、説明を続けよう。
屋内へと突入し、暫く進めばようやくと言った具合で用心棒たちが出てくるはずだ。
彼らはドン・ミズトラを襲撃から守るための戦力であり、それぞれ何かしらの戦闘技能に優れた用心棒たちだ。
人数は8人。頭数ではこちらが勝るので、うまく役割分担をしながら敵の多くを押さえ込み、人数差を利用しつつ撃滅を狙おう。
「用心棒を倒しきることができれば、あとは私の仕事です。
皆さんはドン・ミズトラが逃げ出さないようにだけ注意してください」
恐らく逃げることなどできないと思いますが。と、コエンは平坦なトーンで言った。
「繰り返して確認します。ローレットの皆さん。
あなた方への依頼はミズトラファミリー襲撃への追加戦力。
依頼人はこの所長です」
親指で肩越しに所長を指さし、『えっ僕?』と背筋を伸ばした所長を無視して机に手をついた。
「このチャンスを逃せば奴らはアジトを引き払って雲隠れしてしまうでしょう。
くれぐれも、よろしくお願いします」
- 賊抜けセンターへようこそ ~いま、抜けに行きます~完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月16日 21時55分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●賊抜けセンターへようこそ
木造小屋。それらしい看板と貴族の紋章が刻まれて居なければ貧しいファーマーの住居か納屋だと思われていそうな場所に、『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)はとっくりと腰を据えていた。
いまにもへし折れそうなパイプ椅子とやや傾いたテーブル。
そのくせ妙に整った湯飲みに安い茶がいれられ、蛍たちの前へと並べられていく。
ちなみに並べているのは賊抜けセンターの所長である。眼鏡をかけた気の弱そうな男だった。
「悪人更生の援助なんて立派なお仕事じゃない。そういうの、嫌いじゃないわ。ボクも気持ちよくお手伝いできそう!」
所長にお礼を言って意気揚々と湯飲みに手をつける蛍。
隣では『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)も冷たい麦茶(らしきもの)をぐびぐびやっていた。
「お貴族様のお考えになることはさっぱりやし、所長サンが言うように今の賊抜けセンターに意味が無いとしてもや……そういう部署があるって周知されることは大事やと思うよ。多分なぁ」
「ねー。けど広告費って、高いんだよ」
半笑いでそんなことをいう所長。形だけ存在している部署ならではの、人生を諦めた空気が漂っていた。
が、その一方。
長い前髪で顔を隠した黒服の事務官コエンは、木刀を特殊な油布で丁寧に磨いていた。
美術品やスポーツ用品としての手入れではない。返り血がはねても弱らないように。折れたりまがったりしないように。といった実践的な武器として手入れをしていた。
髪の間から見えるギラギラとした目つきやろくに寝ていないであろう目の隈が、何か執念を思わせる。
「ハハッ。コエン、オメー自分の意思で所長の下についてんのか?
物好きだな、そんでイイ女だ。ローレットにも遊びに来いよ」
「私は」
ぶん、と木刀を振るコエン。
その射程よりギリギリ外に立ったフレイ・カミイ(p3p001369)は、ポケットに手を入れたままにやりと笑った。
「盗賊をなくす仕事がありますので」
「仕事でやってるって目じゃねえぜ」
親でも殺されたか? 珍しくもねえはなしだ。
とまでは、言うものでもあるまい。
割と他人事でも無い『夜闘ノ拳星』シラス(p3p004421)にとっては尚のことである。
「しかし……スリ一人を足抜けさせるためにアジトを襲撃って、イカれてんな」
「やっぱりそう思うよね? とめてくれる?」
「俺が。冗談だろ」
所長に半笑いで言われて、シラスはぱたぱたと手を振った。
「第一、所属してる盗賊団がそいつのせいで叩きのめされたなんて話になればどこのシマでもシノギができなくなるし、確実な話なんじゃねえの?」
盗賊稼業にどっぷり浸かると、一度抜けようとしてもすぐに元に戻ってしまう。身体に染みついた技術や思想が元のレールへ戻そうとするらしい。
それを無理矢理破壊してカタギに『ならざるをえない』状態にするのが、あのコエンという女のやり口のようだ。
「この分だと交渉のカードとやらもだいぶえげつないんだろうな」
「交渉はテーブルについてから、という言葉がありますね」
『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)はぶんぶんとシャドウボクシングの構えをとると、『戦争は交渉の一手段』と呟きながら拳を突き出した。
「叩きのめして認めさせるというのは、道義的にどうなのでしょう……と思いましたが、お相手はそも『そういうことをしてくる方々』でした。善し悪しは別にして」
「クハハハ! たとえ文句があろうと貴族の庇護に背いた身。自力で立てなければ倒れ伏すのみということかな。ふふ、あくどいなあ……」
『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)が他人事のように笑う。実際、他人事ではあるが。
地球現代日本のように民主主義や法律、そして公平な裁判制度が幻想という王国で同じように適用されることはまあない。特に幻想は貴族主義の側面が強く、裁判官は貴族の意向に従うしルールも貴族が定める場合が多い。そんな貴族が『この土地から盗賊をなくそう』などと言い始めたのだから、庇護など受けようがない。貴族の力というのはこういう所で如実に働くものだ。
「つまり、ようするに……カチコミということになるのでしょうか」
書類をさらさらと書き付けて、『月の女神の誓い』ディアナ・リゼ・セレスティア(p3p007163)が『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)へとボードごと手渡した。
内容をぱらぱらと確認してディアナに返すハロルド。
「まあな。今回は頼りにさせてもらうぞ、セレスティア」
「こちらこそ」
穏やかに笑うディアナ。
ハロルドは腕組みをして、そして深く息をついた。
「盗賊団とやらも災難だな。全員失業したら仲良く賊抜けセンターの世話になれ」
●ドン・ミズトラの盗賊団
高い塀に囲まれた屋敷に、三羽ほどのカラスが巡回している。
こちらを見ている様子からファミリアーで使役されていると推察して身構えるハロルドに、コエンが木刀を翳して止めた。
「無駄です。既にこちらに気づいています。大事なリソースをたかがカラスに消費する理由はありません。それよりも」
木刀が示す大きな門。
両開きの木造門扉は近づく者を威圧するかのように鬼の彫刻が施されていたが――。
ハロルドは片手サイズのハンマーでぽんぽんと自分の手を叩きつつ、ズボンのポケットに手を入れて歩くシラスへと視線をやった。はたと振り向くシラス。
「え、俺?」
「いよう、クソ野郎共! 賊抜けセンターだコラァ!」
門扉が派手に蹴破られ、庭に予め飛び出していた盗賊団の子分たちをにらみ付けた。
「おうコラ。何抜けだからしらねえがここがドン・ミズトラの屋敷だってわかってんのか?」
「五体満足で帰れると思うなよ?」
「おーこわ」
ある意味『なれっこ』のシラスである。
ハンドポケットのまま相手の腹を蹴りつけ、流れるように走った拳で相手の顎を斜めに外した。
「おご――」
「おら、死にたい奴からかかってこいよォ!」
聖剣を抜き、あふれた光を自らに纏うハロルド。
「死ねオラァ!」
刀を抜いた盗賊がハロルドに斬りかかるが、大上段から振り下ろすまでの間に素早く振り込まれた剣で刀が弾き上げられ、返す刀が盗賊の首でぴたりと止まった。
「言ったよな。『死にたい奴から』だ」
聖なる光によって切れ味を鋭くした刃を首に据えたまま、勢いよく相手の腹を蹴り飛ばすハロルド。
「セレスティア、あんまり前に出るなよ。リソースは後のために温存しておけ」
「お言葉に甘えさせていただきますね。ハロルド様」
ディアナはハロルドの後ろからライトヒールを飛ばすだけにとどめ、おっとりと笑いながらハロルドがあげる血しぶきから離れていた。
「挨拶は済んだかね? クハハッ、『子山羊達、お母さんが返ってきたよ』――!」
ダカタールは絵本を手にしたまま独特な笑い声をあげ、拳銃を乱射してくる盗賊たちに手を翳した。
あちこちから生成された魔力の縄が盗賊の腕や首に巻き付き、混乱した盗賊がすぐ近くの味方へ発砲しはじめた。
「柱時計の裏に隠れるかね。狼に呑まれるぞ」
盗賊団のアジトといえど殆どは普段からスリや詐欺で稼いでいるような者たちである。いわゆる非戦闘員。砂蠍事件の際も雑兵として消費されていたクチである。
戦闘では彼らにかなわないと察したものの、だからといって逃げ出せば組織に指を折られかねない。
木材を削った簡易棍棒を掴んだ盗賊が勢いよく突撃し、ダカタールへと殴りかかっていく。
「おっと」
脇から滑り込み、盗賊の腹に拳を入れるフレイ。
「わらわらと来やがったな。体慣らしに付き合ってくれよ」
相手の取り落とした棍棒を掴むと、勢いよくそばの盗賊へと叩き付けた。
反撃に繰り出される棍棒を二度三度受けはしたものの、血の混じったつばを吐き捨てて相手の後頭部を掴み取る。
「安心しろよ。俺は器用な真似が出来ねえからよ」
倉の壁に盗賊の顔面を叩き付け、フレイはくるりと振り返った。
「てめぇら、こんなことしてタダですむと思ってんのか!」
「君たちこそ、盗賊なんて続けていたら身を滅ぼすわよ!」
屋敷から刀や銃を持って次々に飛び出してくる盗賊たちに、蛍が堂々と手のひらを突き出してSTOPを命じた。
止まれと言われて止まる盗賊はそういない。蛍の場合はなおさらなところがあった。
刀を振りかざした盗賊たちが数人まとめて飛びかかり、蛍へと斬りかかる。
「いつもこうなるんだから……」
蛍はややげんなりした表情をしたものの、そうなることが分かっていたかのように教科書のページを分解。中華鍋のような曲面状の盾に変えると刀を全て受け止めた。
「改心しなさいとまでは言わないけど……これで少しは懲りなさい!」
ページを再び分解。薙刀の形状に変えると刀をはじき返した盗賊たちをいっぺんに薙ぎ払った。
「そらっ」
薙ぎ払われた盗賊にブーケから『狡兎三蹴』が浴びせかけられた。
血の呪いにおかされて燃え上がった盗賊を鋭い前蹴りで突き飛ばす。
「用心棒サンらが出てくる前に型ぁ付けとかんと」
「お手伝いするのです」
珠緒がずしずしと前へ出て、自らの腕を切って流した血で手の甲に印を描いた。
「桜咲も拳で語る試みをしようかと思います」
かかってきなさい。と呟く珠緒に盗賊たちが拳銃での射撃を浴びせてくる。
対する珠緒は血のように赤く輝く拳を振り込み、まるで墨汁を振り払ったかのように赤い衝撃を散らした。
否。衝撃ではない。珠緒の血そのものが広がって銃弾を撃墜しているのだ。
「なんやそら。おたくどんな血ぃしとるん」
「あなたがいいます? それ?」
珠緒とブーケはそれぞれの血を吹き上げて盗賊たちに浴びせかけ、燃え上がって倒れるさまを観察した。
「桜咲サン……」
「これは桜咲のせいじゃないのです」
といったようなことをしていると。
「おうおう、随分と好き勝手暴れてくれてるじゃあねえか」
屋敷の奥から和服を着た男が現われた。
50台はとうにすぎただろうか。スキンヘッドに皺の寄った眉間。いかにもコワモテであった。
「盗賊団ミズトラファミリーのボス、ミズトラさん」
コエンが懐から離脱証明書を取り出し、高く掲げた。
「この書類にサインした瞬間から、あなたの組織に属していたエンドレ氏とあなたは全くの無関係となります。サインを」
「舐めてんのか」
「ボスがンなことするわけねえだろ」
「お飾り役人どもが。とっとと帰れ」
ミズトラを庇うようにどしどしと身を乗り出してくる用心棒たち。
「帰らないと言ったら?」
「ぶっ殺す!!」
用心棒のひとりが目を見開いて飛びかかる。
「ぜひそうしてください。くだらない話し合いなどせずに済みます」
コエンが前髪の間からぎろりと用心棒をにらんだ。
●速攻制圧
ここから見せたイレギュラーズたちの動き……もといシラスやハロルドたちの動きは見事だった。
一時的に能力を引き上げたハロルドが聖なる光を纏ってハンマーを投擲。
恐ろしいまでの精度で用心棒の顔面にめりこむハンマー。
「て、てめぇ……!」
我を忘れた用心棒は血相を変えてハロルドへと殴りかかった。
この手の引きつけに応じて得することはそうそうない。他の用心棒たちがハロルドに攻撃を集中させようとした所で、シラスがパチンと強かに手拍子を打った。
意識のリズムに割り込むかのような音に思考をリセットされ、どこかふわふわした気持ちのままシラスへと殴りかかる用心棒。
各個撃破作戦において最も重要とされるのが敵戦力の分散である。ただ適当に散らすのではなく、援護をしようと思っても出来ない状態を作り上げる、いわゆる『詰ませ方』が重要だと言われている。
そうした状況において、シラスやハロルドのように真の意味で『抑え』ができる人材はきわめて貴重であり、敵戦力をこの時点で二人分封殺したことになる。
「テメーの相手はこのシラス様だぜ、諦めな!」
「シラス……? 『あの』シラスか。いつから役人の手先になりやがった!」
繰り出される拳をひらりとかわし、カウンターで拳を入れるシラス。
「誰の手先にもなってねーよ。俺は」
一方。顔に『ハ』の字を焼き印された用心棒が刀を大上段に振り上げてハロルドめがけて飛びかかっていた。
それを逆手に握った刀で受け止め、ハロルドは凶悪に笑う。
「さあて、テメェは俺を楽しませてくれるんだろうなぁ!?」
至近距離で聖剣を押しつけ、聖なる光を放射。
直撃をうけた用心棒は吹き飛び、屋敷の壁を破壊して畳部屋へと転がり込んだ。
屋内へと逃げこんでいたミズトラが後じさりするのを、ブーケがわざと追い詰めるように責め立てた。
「俺やって逃げ回りたいの我慢してアンタのマークしとるんやさかい、ちょーおっと付き合ってぇな」
「チッ……!」
ブーケの言葉はミズトラに向けたもの、と見せかけて実際にはすぐそばについていた用心棒に向けていた。
短い棍棒を両手に持ち、顔面めがけて殴りかかってくる用心棒。
ブーケはハンドポケットのまま屈んで打撃を回避し、相手の足をはらうように蹴り込んだ。
跳躍によって回避し、さらなる打撃を打ち込もうとしてくる用心棒。
そのそばでは木造の廊下をずかずかと土足で進むダカタールが、下がりながら二丁拳銃を連射してくる用心棒と戦っていた。
「どれ、その腕を一本か二本もいでみようか。盗賊を続けたくなくなるんじゃあないか? ふふ」
銃撃をかいくぐり、盗賊の腕を握りしめるダカタール。びくびくと暴走した腕が鈍い金色に変わり、焦った盗賊は至近距離からダカタールをめちゃくちゃに銃撃した。
屋敷の中は既に戦場と化していた。
身を低くして逃げ惑うミズトラと、それを追いかけるふりをして用心棒を一人ずつ個別に引き受けていく蛍たちという構図により屋敷のあちこちで個別の戦闘が行なわれ始めたのだ。
「その立派な武器も、持ち手がそれじゃ宝の持ち腐れよね!」
「煽ってんのかい姉ちゃん」
用心棒の男が刀をすらりと抜き、蛍へと構える。
一方の蛍は教科書のページを接続して剣に変え、両手でしっかりと握った。
八畳一間の和室で、互いの中心を軸にしてゆっくりとすり足で廻る用心棒と蛍。
先に動いたのは用心棒の方だった。鋭く繰り出した上段斬りを、蛍は翳した剣で受け止める。
あまった衝撃が背後の襖を破壊した。
襖を挟んだ先にあるもう一つの和室では、珠緒と大柄な男が対峙し、ばちばちにお互いを殴り合っていた。
顔面を打つ珠緒の拳。顔面を打つ用心棒の拳。
「ごふっ」
珠緒は今にも死にそうな(もしくはもう死んでいそうな)量の血を吐いているにもかかわらず、なぜだから元気そうにぴんぴんしていた。
「不気味だぜ。今にも死にそうなくせしてまるで手応えがねえ」
「こうみえて『身体は丈夫』なのです……げふっ」
ミズトラが逃げ込んだ大きなキッチン。
テーブルの下に滑り込むミズトラとは対照的に、ディアナはテーブルと調理台を飛ぶようにわたっていた。
「用心棒さん。こんなのはいかがですか」
ディアナが鼻歌をうたいながら空中に光る指を走らせると、光の中から三十センチ大のクッキー人形がいくつも飛び出し用心棒へと飛びかかっていった。
ぽこぽこと弱い力で殴りつけるクッキー人形……が、突如として爆発。
爆発から逃れた用心棒に、フレイが首を掴んで調理台に押し倒した。
「手伝うぜセレスティア」
フレイはすぐそばに転がっていた包丁を手に取り、高く振り上げた。
「なあ用心棒さんよ。人ってのは耳と鼻をそいでも死なないらしいぜ」
●サイン
「……おいセレスティア、怪我はないか?」
「ハロルド様の方こそお怪我はありませんか?」
ハロルドとディアナが互いを気遣っている間、ブーケやシラス、そして珠緒たちはミズトラを取り囲んでいた。
「何もここの財宝だとかドン・ミズトラはんのお命狙ってるんやないからね。お手紙お届けしたいだけなんよ」
「悪いこと言わねえからさっさとサインしとけ。その内この女(コエン)指とか1本ずつ折り始めるぞ、これマジ」
「人間というものは不便だねえ。組織に属するとこうも自由でいられないのか」
フレイとダカタールがどこか同情的になるのも無理はない。ここまで丸裸にされて『本人の意志によるサイン』を求められているのだから、盗賊よりもたちの悪い恐喝であった。
ミズトラの流した血に親指を押しつけて、それを書類にスタンプさせるコエン。
「確かに。サインを頂戴しました」
そんな様子を見てうんうんと頷く蛍。
「人間って、捨てたものじゃないわよね。
罪を償い、真面目に生き直そうとする人もいれば、そういう人の可能性を信じて手助けする人もいる」
首を傾げるシラス。
「そういう話か?」
「そういう話でしょ」
これにて一件落着ね、と蛍は眼鏡の位置を直した。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
■オーダー
・『賊抜けセンター事務官』コエンの追加戦力
ドン・ミズトラに至るまでの敵の排除。
(護衛任務ではないので、最悪コエンが戦闘不能になっても成功条件が満たされます)
■エネミーとシチュエーション
内容はシンプルな襲撃作戦です。
正面ゲートをやぶって敷地内へ突入。
建物へ続く庭で組員たちを迎撃・殲滅し、建物への突入を果たします。
配置されている用心棒たちを殲滅すれば、成功条件はクリアされます。
一般組員たちは戦闘力が低いため得意分野でガンガンいけますが、用心棒たちはレベルがそれなりに高いのでガチガチに行く必要があります。
具体例を述べるなら、そこそこの命中値による名乗り口上で一般組員を大量に引きつけられても用心棒は一人か二人引きつけるのがやっとになります。
特に用心棒戦では戦術の構築が大事になるので、どういう作戦を立てるかは話し合って置いてください。
・例:用心棒を一人ずつ全員の集中攻撃で確実に撃破していく作戦の場合、同じくこちらの頭数が減っていく恐れがあります。
そこまでしなければいけないほど用心棒単体が脅威になることはないので、ヒーラーや庇う専門のタンクがよほど優れていない限りはハイリスクな作戦になるでしょう。
そうしたメンバーがそろっていない場合は、コエンを含めた八人で用心棒を一人ずつマークし、フリーの一人を使って各個撃破作戦をとるのが妥当になります。
■コエン
今回の味方NPCです。
それなりにレベルが高くそれなりに単身で戦えます。
武器は木刀。格闘剣術の使い手で至近範囲攻撃や防御術に優れています。
■■■アドリブ度■■■
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用ください。
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