シナリオ詳細
<冥刻のエクリプス>勇気の証明
オープニング
●差し伸べる手のぬくもりは
『黄泉帰り』事件を皮切りに、ネメシスは混乱の渦中に叩き落とされた。
『強欲』ベアトリーチェ・ラ・レーテ、魔種枢機卿アストリア、アストリアに内応した執政官エルベルト。
内外に混乱を呼び起こす敵勢力は多く、イレギュラーズが全てに対応して回る状況は混乱と狂気に塗れた聖都に於いて大きな活力を生み出していた。
「現状の混乱について、恐らく私よりも皆さんの方がご存知かと思います。少なくとも内外の混乱は極まっており、市街地にまで散発的な戦闘が起きています。このまま戦闘が続けば、ほぼ間違いなく無辜の市民に大きな被害が見込まれるでしょう」
『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は、細かい説明を省き状況の説明を始める。戦闘が始まっている最中、そう時間は割けぬという判断だろう。彼女の眼鏡から投射された先には、天義の幾つかの教区と避難ポイントが示されている。
「皆さんはそれぞれの場所を回ってもらい、負傷者のトリアージと可能であれば治療活動をメインに動いて頂くことになります。もっとも状況が逼迫しているのはここ、『首都北側第33教区』……以前、黄泉帰りの一件で教会を焼き討ちにした場所です。あのときの判断は間違いではないと考えますが、だからこそ助けねばならない、と考えます」
痛い腹を探るような口ぶりだ。……実のところ、『皆殺し』を口にしたのは(名前こそ出さずにいたが)彼女なのだから、責任感があっても仕方ないだろう。
トリアージを行い、助かるなら癒やし、或いは消火や救助を行う。
戦闘の傷跡が残る場所を追いかけるように救出を進める……膿を切除し、その跡を縫い合わせるように。彼らの心と体に傷跡を極力残さぬように、立ち回ることがイレギュラーズには求められていた。
「該当教区のアニーチェ神父は信頼のおける人間です。彼の助けも借りて、全力で事にあたって下さい。出来ることを躊躇せず、選択肢を捨てないでください。貴方達が希望の旗印です」
随分と感傷的なことを言うな、とイレギュラーズは思った。
……厳しい視線の奥に強い憂いが見え隠れするのを、一部の者達は見逃さなかった。
●救われるのに『資格』は要るか?
その頃、話に挙がったアニーチェ神父は。
「こちらへ避難を、早く! 現状は長くは続きません、全員で団結し、助け合いましょう!」
教区の人間を纏め、相互助力を促し、そして自ら率先して治療と救助にあたっていた。燃え上がる家を見捨てる決断をし、焼け出された人に慈悲の笑みを向け、ひたすらに神の僕たろうとする。
彼の努力と決意は本物だ。黄泉帰りの絶望を経たことで、人間的な器も大きくなったとするなら……なるほど、怪我の功名ともいえよう。
だがそれも……彼のことばではないが長続きはすまい。
人間1人に出来ることに限界はある。だからこそ、この状況に『勇者』が必要なのだ。
- <冥刻のエクリプス>勇気の証明完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年07月08日 22時51分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●流転する歯車
アニーチェ神父は人々を集めて回り、動けぬ者を動ける者に運ばせ、相互に協力することでなんとか教会跡地へと避難を急がせていた。
その間にも燃え上がる家、響く悲鳴、崩れゆく建物に動きを阻まれ、ときに切り捨てる選択すらも余儀なくされる。苦渋の決断だ、仕方ない、大を取り小を切り捨てる……凡人である彼にはそれしかできなかった。
だからか? そんな正義に背く決断を下した彼への戒めであったのか?
彼を先頭に避難しようとした面々の前に降り注いだ瓦礫は、一同を直撃し生き埋めにする……そう、思われた。
「おお、神よ……我らに過ちがありましょうか……?」
絶望に天を仰いだ神父と人々はしかし次の瞬間、信じがたいものを目の当たりにする。降り注ぐ瓦礫が吹き飛び、氷の鎖が一際大きい瓦礫を絡め取って燃え上がる建物へ叩きつけ、冷気を以て建物の炎を消す有様を。
「カミサマが何を考えてるかなんて知らねえ。でもアンタらは死なねえ!」
「霜凍沙雪、参上……!」
『天義の希望』グレン・ロジャース(p3p005709)が海洋製の大盾で、『迷子の雪娘』霜凍 沙雪(p3p007209)がフロストチェインにより、瓦礫を弾き飛ばしたのだ。
『愛の吸血鬼』ユーリエ・シュトラール(p3p001160)が彼らに貸し与えた馬車によりいち早く現場に辿り着き、なんとか瓦礫を退けたというわけだ。
「俺達の仲間が教会の敷地を借りて救助に回る。だから安心して身を預けてくれ」
グレンの笑みには、強い誓いの意思が垣間見えた。危機的状況、先が一切見通せぬ闇の最中にあって彼の笑顔はいかほどの効果があっただろうか?
「グレンさん、私、消火しなきゃいけないから……。おねがい」
「ああ、沙雪も無理すんなよ! 必ず戻ってくるからな!」
沙雪は地面に転がす建物の破片に触れて回り、グレンにそれを預け、負傷者に渡すようにと伝えた。彼女のギフトは、ともすれば通常の生物に害を与えるほどのものだが、こういう時は極めて有効に作用する。……限度を設けられないため、使い所を間違えれば凍傷すら作るが、Ⅱ度熱傷程度までなら十分に有効だ。
「ありがとうございます、その……貴方達は」
「話は後だ、一気に運ぶぜ……掴まってな!」
神父が何事か口にする前に、グレンは救助者を運び終え、馬達の手綱を掴んでいた。果敢な声と指示を受けて走り出した馬車は、一路教会跡地……外縁部の居住区へと駆けていく。
瓦礫舞う混乱に残された沙雪は1人、正面からそれに対峙する。
「……てぇぇぇぇいっ!」
と、そこに突如として上空から飛来する影ひとつ。『エアーコンバット』ティスル ティル(p3p006151)が、対竜ライフルの銃床……というか砲の手元を盾にして建物に突っ込み、火元を叩き壊したのだ。無謀、と呼ぶのも馬鹿馬鹿しいほどの蛮行は、しかし沙雪の負担を和らげる。
「後は任せるね! 私は他の皆を助けにいくから!」
「う……うん! おねがい……!」
両者は短く言葉をかわすと、ティスルは空へ、沙雪は瓦礫に意識を向け、決意の表情を露わにする。今は長々と語る暇はない。互いに出来ることをやるだけだ。
『ティスルさん、東の方が少し危ないのです。お願いします』
再び飛び上がったティスルの脳裏に響いたのは、『こげねこ』クーア・ミューゼル(p3p003529)の思念会話。ティスルが預かった鼠を通して、彼女に意思を伝えんとしているのだ。一方通行の意思疎通だが、無いよりは何倍もマシだ。
ティスルは、自身も空から状況を俯瞰しつつ、同様に空を飛ぶクーアから情報を受け取り、より危険な場所を探していた。あちらもこちらも、地獄の釜をそのまま地上にぶちまけたような有様だ。
焦ったり、嘆いている暇はない。炎に根源的な興味を抱くクーアとて、見ていて快い状況ではない。全力で止めるべく、飛び回り、或いは仲間のもとへ駆けつけながら消火を急ぐ。今もどこかで助けを求める、誰かのために。
「困った時はお互い様、そういうものよね~」
「ええ、私にも貴族の務めがあります。……起きたことを嘆く前に、一人でも助けなければ」
『レストおばさん』レスト・リゾート(p3p003959)がギフトにより得た情報を通じ、『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)は彼女と協力して救助へとあたっていた。無論、空を往くクーアとティスル達の情報も適宜共有しつつ、だ。
俯瞰的視点で状況を把握出来る者、情報共有を行える者が居ることは、刻一刻と変化する戦場において非常に効率的である。
……そう、戦場だ。一同の目的が戦闘ではないとしても、誰かを助けるという『目的』と崩れゆく家や炎という取り除くべき『障害』があれば、それは戦いである、と定義できるだろう。
「レストさん、あの建物の中に人がいます……もう少しで崩れるかも……!」
コーデリアは視界の端に映った建物を指差し、叫ぶ。人並み外れた視力と聴力は、建物の崩壊の兆候と残された者の声を正しく聞き分け、状況を理解したのだ。咄嗟に伸ばした手は保護結界を生み出し、周囲一体の破壊を阻止できる。射程圏ギリギリからの魔弾による狙撃よりは、ずっと有用だ。
「コーデリアちゃん、ありがとうね~。後はおばさんに任せてね~?」
短く感謝の言葉を告げると、レストは真っ直ぐに瓦礫へと駆けていき、子供の頭上で撓る梁に傘を突き出す。生み出された衝撃波は梁を根本からへし折り、あらぬ方向へと飛んでいく。結界内であっても、指向された破壊は十分に作用するのだ。レストはそのまま炎をものともせず、子供を抱きかかえて通りへと身を躍らせる……華麗な足取りは、非日常を上塗りする奇跡のようでもある。
コーデリアは、馬車を繰る修道女に手を振って指示し、子供の救助に向かわせる。馬車が救護所に到着するまで、護衛しなければならない。これから起きうる、全ての不幸から守るために。
●救命戦線
「神父様、こちらに手術道具やそれに準じた道具や薬は残ってらっしゃいますか!?」
「あ、ああ、上等なものではないが……君は」
『灼鉄の聖女』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は神父が戻るなり、乞うような、切実な口調で問いかける。切迫した声に気圧された神父は、この日までに確保していたなけなしの救護物資の用意を修道女や助祭に指示。すでに、ありあわせとはいえ救護所の体制が整えられている事実には驚きを隠せない。
「お話は後で。今は連れてきて下さった方々の治療を優先します」
深々と頭を下げたユーリエの姿に、神父は全てを悟ったように頷き返す。己と一回り以上違うであろう少女が、危機的状況を目の当たりにして心折れずに向き合っている。
ここでたじろぐことは許されようか? 否だ。少しだけ長く生きた者として、彼女達の行動は全力で支えねばならない。
「悪いが、俺はもう行くぜ。神父様も無理すんなよ!」
グレンは護衛に回った馬車から全員を下ろすと、再び手綱を握る。馬車を操り、時に護衛として窮地を切り開く。その姿に躊躇や動揺は欠片も見られない。
「血が止まっていたり傷が浅い方はあちらの方へ、無事な方は負傷の酷い方をこちらに運んで頂けますか? 瓦礫や木の破片が刺さっていたり埋まっている方は急いで!」
ヴァレーリヤの声に、続々と馬車から降りてくる人々が動き出す。全体的に多いのは火傷か。程度の酷い者は多少なり奇跡やユーリエのポーションに頼らざるを得ないが、傷が浅い者、浅いながらも異物が刺さったり埋まったりしている者がいれば簡易な外科手術が必要となろう。
そうでなくとも、周囲の人々が心から助けを求める様が彼女には届くのだ。視界に入らぬ遠くでも、助けを求める声がする。
彼女の性格からすれば、それは計り知れぬ重圧であろう。だが、ここから動くわけにはいかない。
「大丈夫です、落ち着いて。今何が必要なのか、何が辛いのかを思い浮かべて下さい。それだけで十分です」
傍らでは、ショックのあまり口を開けない夫人に対し、ユーリエが語りかけている。優しく、静かに。……助けを求める人々の前でたじろぐなど、ヴァレーリヤには出来ない。してはいけない。だからこそ。
『あらあら、大丈夫かしら~? おばさんに出来る事があったら教えて頂戴ね~?』
――今この時は、仲間に頼らねば。
鳥を通して訴えかけるレストに、ヴァレーリヤは静かに口を開いた。
「何人、とりのこされてるか、わからない……。でも、ひとつの、命は、無限大の、明日、だから」
沙雪は炎の中に飛び込み、衝術で瓦礫を吹き飛ばしながら一直線に救助者へと向かう。
ぐいと引き上げた相手に肩を貸すと、力強く一歩前へ。朱に彩られた道へフロストチェインを伸ばし、ささやかながら消火を進めた。
己自身が冷気の塊のようなもの、救助対象だって、下手をすれば凍傷で済むかもわからない。
だからこそ、掴むのは衣類にとどめ。己は敢えて、炎の激しい場所を行く。一つの命にかかずらうことは愚かであろう。だが、大局のためと嘯いて目の前の命を見捨てることはより愚かだ。
ギフトの範疇を超えて全身を炙る炎を前に、切れそうな意識の糸を繋いで、一歩。
深呼吸をした彼女は空を見上げる……いつか母と再開した時に、笑って話せる日にするために、彼女は運命すらも味方につけた。
「ここからなら、近道を作った方が楽かもね! ……待ってて!」
ティスルは先立って救出した子どもたちを背に、崩落しつつある建物へと『フェニックス』を向け、魔弾を連続して叩き込む。崩れ、破片すらも凍らせながら周囲に散らされた家屋は一本の道を作り出し、以て教会跡地への近道を作り出す。
年長者の少女が頭を下げ、駆けていくのを見送った彼女は、少し離れた場所で閃いた光を視界に収めた。……クーアの閃光弾、『試製・漁火』。火に投げ込むことを目的としたそれによる破壊消火は、その目立ち方で近寄らせまいと思わせる意味でも十分に機能していたといえるだろう。
「この景色に魅せられている間にこの国全部が焼け落ちるのは、ノーサンキューなのです!」
瓦礫の中に飛び込み、駆け抜け、破壊する。より燃え上がる光景を夢想する彼女であったが、それは今見たいものではない。
幸いにして、懸念しているような暴徒が居ないことは喜ぶべきか。それでも、戦いが終わるまでは混乱は続く。火の手も上がろう。――ああ、これが国の未来を左右するような事態でさえなければよかったものを!
「は~い、もう大丈夫よ~。ぜ~んぶ、おばさんに任せて~」
他方、レストはヴァレーリヤや他の仲間から聞き出した情報を基に、フォローしきれない場所へと駆けつけ、負傷や火傷の酷い者へと癒やしを向け、時に優しく声をかけることで周囲の安心感を勝ち取っていく。常ならば戦場での大号令、人々の心を救う段に於いては、慈愛の言葉。彼女なりの立ち回りは、どうやら十二分に効果があったらしい。
「レストさん、大丈夫ですか?」
「おばさんは大丈夫よぉ~。コーデリアちゃんも、大丈夫かしらぁ?」
馬車を従えて戻ってきたコーデリアに、レストは気遣わしげな視線を向ける。重傷には遠く至らぬものの、装束にところどころ焦げ跡を残し、煤を擦り付けた頬などはいかにもといった趣で、普段の彼女よりも凄絶さが際立っている。
「はい。……私を治療するなら、皆さんをお願いします。建物の崩落はこちらで止めますので」
それでも、彼女はレストと、救助された人々に笑顔を見せることを忘れない。窮地において『そうである』と喧伝するのは下々の民の役目。貴族たる彼女は、危地でこそなんでもないことのように笑み、人々に安心を授けねばならぬのだ。
「……この方のご家族を呼んで下さい。埋葬の準備を」
ヴァレーリヤは到着時点でほぼ助かる余地がなかった者の傷を縫い合わせ、瞼を下ろす。亡骸を可能な限り修繕してのけた手管は素晴らしいものだ。相手が救えなかった、その事実は忸怩とした感情を呼び起こす。
だが、誰が彼女を責められようか。教会跡地へと至る前に、形すら残らなかった者に比べれば幸運なたぐいである。
そして、彼女は気付いていないが。教会跡地に集められた人々の数、イレギュラーズが救った者達の総数は今や、その場に留め置くことが難しくなってすらいる。
「あとは私が受け持ちましょう。皆さんは、可能であれば他の地に慈悲を与えて下さりませんか」
神父は、頼ることを心苦しい、とでも言いたげに彼女へと告げる。
自分はここから動けない。ならば託さねば。そう言っているように。
「それでは、人探しなどはお任せします……くれぐれも、燃えている場所へ近付いてまで救助されたりしないようにお願いしますね」
ユーリエは彼の言葉を受け入れ、即席の伝言板を指さし、事後対応を引き継いでいく。
レストによる情報伝達を以て集まったイレギュラーズは、馬車と共に次の場所へ、また次の場所へと向かっていく。
英雄は、勇者はここにあり。天義の人々へと、明日への希望を託して。
成否
大成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。
情報伝達とか鉢合わせになったり、とか。その辺は確かに課題だったと思います。
そういう意味では、今回の皆さんはかなりアドバンテージが大きかったように思います。
っていうか熱い想いとか最の高でした。皆一番、ってな感じでもってけ大成功。
GMコメント
戦うことだけが役割ではないはずです。ふみのです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●達成条件
天義内の救助、トリアージ、治療、及び防災活動全般
(リプレイでピックアップされるのは『首都北側第33教区』ですが、全体的にカバーしています)
●神父アニーチェ・ブラン
拙作『砂上の楼閣』に登場。参照不要。『黄泉帰りを匿ったら教会ごとイレギュラーズによる焼き討ちに遭って死ねなかった人』です。
その時の無念やら何やらで闇落ちしそうだったのが、見事に光の方に歩み続けた天義としてはめっちゃすげー人格者。
該当地域での案内役になります。遭遇時すでにいろいろ限界なので助けてあげて下さい。
●聖都市街地の現状
あっちこっちでドンドンバチバチやっているので火事は起きるわけが人多いわ要救助者たくさんだわ、です。
トリアージを行い、要治療者を治療し、火災は……消火というか破壊消火を試みたほうが早いです。絶対。
炎に取り残された人を体を張って救出したり、瓦礫をはねのけたりすることもあるので、完全に無傷で切り抜けられる依頼ではありません。パンドラ使用を推奨します。
その他、『思いついた事はすべてやってください』。それだけやらないと、危機的状況は救えません。
当然、心のケアのために目立つのも……有りじゃないかと思います。
それでは皆さん、英雄になろうぜ!
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