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シナリオ詳細

<冥刻のエクリプス>ランチタイムの終わり

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●無秩序の扇動者
 偉大なる大国家、天義は今、混乱のただなかに在った。
 黄泉がえりに端を発する一連の事件。探偵サントノーレとイレギュラーズ達の果敢なる調査の果てに、その首謀者たる魔種『ベアトリーチェ』の存在をつかみ取ることができた。
 だが、喜んでばかりもいられなかった。ベアトリーチェは麾下の部隊に命じ、今まさに首都を目指し、進軍を開始したのだ。
 水際での防衛戦――そうなるはずであった戦いは、天義がその内にため込んだ毒により、あらぬ方向へと転がり込んだ。
 月光人形事件による住民たちへの影響は、イレギュラーズ達の活躍により最小限にとどめられたものの、自らが権力を握ることを狙い国家の転覆を目論む獅子身中の虫、王宮執政官エルベルトとアストリア枢機卿は、これ幸いと行動を開始。
 かくして多方面の戦いに、天義の騎士たち、そしてイレギュラーズ達は対処せざるを得なくなっていたのである。
 そして、ここ。
 天義首都、フォン・ルーベルグへと向かう途上にて、天義聖騎士たちと、エルベルト派騎士たちの衝突が発生していた。
 エルベルト派の目論見は、首都内への入場と、アストリア枢機卿への援軍派兵であろう。だが、それをみすみす逃すわけにはいかない。
 一進一退の攻防――いや、士気の高い、天義聖騎士たちが有利であろう。このままいけば、せん滅は可能――そう言う状況の時であった。
「いやいやいやいや~~~おっつかれちゃ~ん」
 ぱん、ぱん、ぱん、と、間の抜けた拍手の音が、戦場へと鳴り響いていた。
 だらしのない格好をした男である。
 着崩した、と言えば聞こえはいいが、その様を見たとあるイレギュラーズによれば、『正式な着方を知らず崩した、見るに耐えないもの。一言でいえば、ダサい』という様相だ。
「なんだ……何者だ……!?」
 双方の騎士たちから、誰何の声が上がる。だが、男を見るだけで脳裏をチリチリと焼く、衝動にも似た何か――胸の裡より湧き上がる、制御不能な欲望の存在が、この男を尋常ならざる存在であるのだと、騎士たちの誰もが理解していた。
 そして、知る者がいれば、それが『原罪の呼び声』の影響であり、目の前の男が『魔種』であることに気づいただろう。
「何者って聞かれりゃぁよォ~~~単に飯食いに来ただけの男さ! ま、飯を食うにも段取りっつうのがあっからよ! 今は下準備だぜ。こういうふうになぁ~~~~~!」
 と、男が手を振りかざすと、突如として空間が爆発した。巻き起こる炎と爆風は、天義聖騎士たちを薙ぎ払い、肉を焼き、絶命させる。
「味方……なのか……?」
 エルベルト派の騎士たちが声をあげるのへ、男――魔種は笑った。
「そう思ってくれてもいいぜぇ? ま、俺は好きにやるだけだがね。ガラじゃぁねぇんだけどよぉ、上司に言われりゃぁ仕事せざるを得ねぇよなぁ~~~~~! 俺も中間管理職だからよぉ~~~~~! こうなると楽しみは……」
 がさり、と肩にかけたカバンを叩いた。
 中には、魔法瓶になみなみとつがれた紅茶と、チーズ、ハム、レタス、トマトのサンドウィッチが、入っているのだ。
「ランチタイムだけだぜ! せいぜいよく啼いて、飯を美味くしてくれよなッ!」
 魔種『アッティ』は、ゲラゲラと笑った。

●アッティ討伐作戦
「来てくれて助かる。早速ですまないが、状況を説明しよう」
 と、天義の騎士は、イレギュラーズ達へと告げた。その焦燥した様子から、戦局はあまりよろしくないことが感じ取れる。
「我々は、フォン・ルーベルグ途上でエルベルト派と思わしき集団の迎撃を行っていたのだが、その戦場に、突如魔種……例のアッティと名乗る男が現れ、奴はこちらへと攻撃を開始した」
 もしも、かつてアッティの起こした事件にかかわったイレギュラーズが居るならば、目の前の騎士もまた、あの時の事件で指揮をとっていた男であることに気づいたかもしれない。
「私もかつてあの男と対峙した……いや、これは嘘だな。私達は暴徒どもの相手をしただけだからな……だが、これは復讐戦だ」
 アッティの起こした事件で、騎士たちはもちろん、住民たちにも少なくない犠牲が出ている。
「もちろん、我々では魔種の足元にも及ぶまい。だから、露払いは我々が行う。その隙に奴の所まで進攻し、アッティを討ち取ってほしい」
 そう言って、天義の騎士は頭を下げた。
「一番の危険を押し付けることになる……情けないことは承知だが、天義の為、神の為、正義の為、お願いしたい」
 その言葉にイレギュラーズ達がどう思ったか。それは定かではないが、ここにいる以上、やるべきことは同じだ。
 アッティを、討ち取る。
 そしてイレギュラーズ達は、作戦を開始した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 天義聖騎士たちとエルベルト派騎士たちとの戦闘中、魔種が乱入しました。
 このままでは、状況はさらに混とんと化し、聖騎士たちの敗北は免れません。
 速やかに、魔種を撃退してください。

●成功条件
 『無秩序の扇動者』アッティの撃退

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 また、純種には『原罪の呼び声』の影響を受け、反転する危険性があります。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●状況
 魔種アッティは、天義聖騎士たちとエルベルト派騎士たちとの戦闘に乱入しました。
 現在は、エルベルト派騎士たちに味方するような行動をとっています。
 皆さんには、天義聖騎士たちの援護を受けながら敵陣を突破。
 魔種アッティに接近、討伐をお願いします。
 地形、天候、光量などのペナルティは一切なく、アッティへの接近は労せず行えるものとします。

●エネミー
 『無秩序の扇動者』アッティ ×1
  特徴
   かつて一般人を扇動し、暴徒化させ、その様を見ながら昼飯を食べていた魔種。
   性質は『強欲』。暴食ではなく、あくまで『最高の飯を食う』という強欲により動くため、『強欲』。
   原罪の呼び声も、そう言った『強い欲望』に影響される。
   使用スキルは現状不明。ただし、広範囲を狙う炎や爆発を用いた神秘属性のスキルを使用すると目される。
   また、以下のスキルを持つ。
    原罪の呼び声『強欲』:パッシヴ。次の二つの能力を持つ。
     1.強欲の呼び声に応えた純種を反転させる。
     2.アッティの行動開始時に自動的に発生する。
       全てのイレギュラーズはBS抵抗値補正+or-XXXで特殊抵抗判定を行う。
       判定に失敗したイレギュラーズに『騎士たちの話によれば、燃えるような痛み』のBSを与える。

 エルベルト派騎士 ×4
  特徴
   エルベルト派に属する騎士たちです。現状では、アッティの近くに4名おり、守るような動きを見せています。
   弱兵ですが、少しばかり原罪の呼び声に中てられているため、油断はできません。
   物近単の攻撃を行ってきます。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • <冥刻のエクリプス>ランチタイムの終わり完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年07月10日 23時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エンヴィ=グレノール(p3p000051)
サメちゃんの好物
クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
アーサー・G・オーウェン(p3p004213)
暁の鎧
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
黒・白(p3p005407)
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

リプレイ

●ランチタイムの始まり
 天義首都、フォン・ルーベルグへと向かう途上。天義聖騎士たちと、エルベルト派騎士たちの、この時、幾たび目かの衝突が発生していた。
 情勢は、拮抗――いや、天義騎士たちが不利か。というのも、突如現れた炎使いの魔種――『無秩序の扇動者』アッティによるエルベルト派への加勢が、拮抗していた天秤を傾けたのである。
 しかし、天義側も、黙って蹂躙されるわけにはいかない。
 不確定の切り札――特異運命座標によるアッティ討伐作戦を立案、実行に移したのだ。
「頼むぞ! 行け! 走れ!」
 剣戟と怒号の中、騎士隊長による叫びが、イレギュラーズ達へと届く。
「任せろ! 終わったら、美味い飯でも食いに行こうぜ!」
 『烈鋼』アーサー・G・オーウェン(p3p004213)の言葉は届いたか。いずれにせよ、騎士隊長の姿も戦禍の中に埋もれた。今は安否を心配するより、速やかに敵陣を駆け抜け、アッティへと接敵するのみだ。
 イレギュラーズ達の途を開けるために、騎士たちは力を振り絞り、敵陣を押し返し続けた。かろうじて開いた道を、イレギュラーズはひた走る。悲鳴。剣戟。けぶる血の臭い。地獄のような戦場のただなかで、『ふわふわな嫉妬心』エンヴィ=グレノール(p3p000051)は呟く。
「こんなひどい所でも……あの魔種にとっては、美味しいご飯を食べる場所、なのね……」
 痛ましい想いを抱きながら、エンヴィは言う。悲鳴と血の臭いが魔種にとっての食事のスパイスであるのならば、今はまさに「飯が美味い」状況なのだろう。
「ランチを美味しく食べたいという気持ちはわからなくはないけれど……美味しく食べられる環境が、猫と一緒に、のんびり過ごすと言うものなら良かったのに……」
 ちらり、と向けられる視線を、『ほのあかり』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は受け取っていた。
「そうですね。食事は落ち着いた場所で……。うちの教会は常に猫が動き回っていますので、落ち着いてるとは言い難いかもですが……」
 苦笑しつつ、返す。戦場には不似合いな雑談であったかもしれないが、そのような他愛のない会話でもしなければ、アッティへの不快感に、心を塗りつぶされそうでもあった。
「見つけた……! あいつだな!?」
 黒・白(p3p005407)が叫ぶ。果たしてイレギュラーズの前方には、にやにやと笑いながらこちらを見据える、だらしないスーツ姿の男の姿があった。
「間違いない……アッティだ!」
 ソア(p3p007025)の瞳に、闘志がみなぎる。あの時は、逃した。今度は逃さない。
「……あっお~~~~、すっげえなぁオイ。鴨が葱を背負って、ってのはどっかの世界の言葉らしいけどよぉ~~~~~鶏が食われに来るのは初めて見たぜぇ?」
「言われると思ったわ」
 ケタケタと笑う男――魔種、アッティへと、うんざりとした視線を向けるのは『慈愛のペール・ホワイト』トリーネ=セイントバード(p3p000957)だ。
「残念だけれど、私は料理される側じゃないわ。むしろ逆。今、聖鳥としてここに来たのよ」
 へぇ、とアッティは声をあげる。そのまま値踏みするようにイレギュラーズ達を見やれば、
「前に見た顔もいるなぁ~~~~特に見覚えがあるのも……。そこのスーツの兄さんとかさぁ……いいスーツ着てるよなぁ~~~~!」
「私としても、貴方は良いスーツを着ていると思いますよ」
 スーツの男……『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は肩をすくめて見せた。
「しかし……着こなし方で全てが台無しですが。ようやく、貴方にスーツの着方をお教えする事ができますね。死に装束は整えて差し上げますよ」
「言ってくれるぜジェントルメン! このスーツも汚れて来たからよぉ~~~~! お前さんのスーツは貰って帰ることにするぜ!」
「変わらず強欲、手前勝手なようで何よりだよ、アッティ」
 くすり、と笑うは悪魔――『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)は言う。
「ああ、別に私を知らなくても構わない。ようやく君を味わうことができる」
 ひひひ、とアッティは笑った。
「居たなぁ……お前さんみたいな、悪魔が」
「覚えていただけていたなら重畳。此度は前回よりも小規模な午餐会のようだけど、あくまで重要なのは、美味しい食事と素敵なムードだ」
「分かってるじゃねぇか、デビル!」
 アッティが笑う。途端、その背より噴き出す爆炎は、さながら一対の炎の翼のようにも見えた。焔の悪魔が号令をかければ、4人のエルベルト派騎士たちが刃を構え、イレギュラーズ達を見据える。
「さぁ、始めようか! ランチタイムだ! お前らいい音楽を奏でて、俺の腹を膨らませてくれよぉ!?」
 殺意は焔となって、イレギュラーズ達へと襲い掛かる!
 かくして、多くのモノの命運をかけた一戦が、ここに始まった。

●前菜
「ハハハーッ! まずは脳髄、ぶん殴られろや!」
 アッティの言葉と共にイレギュラーズの脳裏に灼熱のごとく沸き起こる衝動。それは、強欲の声。欲しい、欲しい、欲しい! 悍ましくピュアな衝動が駆け巡ると同時に、その熱情がそのまま物理的な熱を持ったかのように、皮膚を激しく焼きただらせる。
 間髪を入れず、アッティの焔が横なぎにイレギュラーズ達を襲った。呼吸をすれば灰を焼くであろう程の熱量に、一瞬、イレギュラーズ達も足を止める。
「やはり……火炎ですね」
 しかして涼しい顔で答えるは、寛治である。元より炎使いと目される相手、この程度の対策は心得ている。
「相手の呼び声はこちらの動きを阻害するほどでは御座いません……トリーネ様、予定通りに!」
「任せなさいっ!」
 寛治の言葉に、トリーネがバタバタと翼をはためかせて応える。確認した寛治は距離をとると、懐から自走式の爆弾を取り出し、走らせた。手にした時計のスイッチを押せば、無線誘導のそれは騎士たちへと向けて突撃、足元で爆発を起こす。
「なんだ、こいつは……!?」
 騎士たちが慌てふためく。
「オイオイオイ、ビビるんじゃねぇよぉ~~~」
 呆れたようなアッティに、鋭い視線が突き刺さる。それは比喩ではない。魔力を持った視線は、時に物理的な痛みすら引き起こすのだ。
「さぁ、食事の時間だよ。お相手は、私だ」
 間髪入れず飛び込む魔眼の主――マルベート。その手にはディナーナイフめいた魔槍『煌命を簒うグランクトー』、そして同様にディナーナイフ様の魔槍、『穢命を綴るグランフルシェット』。二振りの槍を構えたマルベートが、ナイフを振るい、そしてフォークで突き刺す。
「ハハハハッ! そっちはディナータイムか! いいねぇ~~、付き合って、飯にしてやるよ!」
 振りぬかれる魔槍の斬撃を、アッティは焔を噴出して受け止め、弾き返す! アッティをマルベートに任せ、残るイレギュラーズ達は騎士たちの対策へと当たった。
「アッティの呼び声なんて、私の声で吹き飛ばせるわ! 怯えないで、こけー! こけーっ!」
 トリーネの聖なる鳴き声が、肌を焼く焔の痛みを吹き飛ばす。聖鳥の声は、悪魔の呼び声などかき消すほどの力を持つのだ。
「邪魔するなよ! それでも邪魔するなら、お前たちはッ!」
 白が叫び、『『同胞』黒 』がうごめく。黒より放たれた遠術式が騎士の一体を打ち据えるが、鎧をひしゃげさせてなお立ち上がる。
「立つなって言ったんだ! そのまま魔種に味方する悪を行うなら。お前等は世界の敵なんだぞ!」
「くそっ! 俺たちにも後がねぇんだよ!」
 白の説得に、騎士たちは悲痛な叫びをあげる。負け戦の将に仕えたが故の失策か。あるいは正常な判断力すら、呼び声の浸食により失われているのかもしれない。騎士たちはその剣を振り上げ、イレギュラーズ達へと迫る。
「だったらせめて、このまま寝てるんだっ!」
 騎士からの斬撃を回避して、ソアが殴り掛かる。ストレートの一撃から、流れるように回し蹴りへ。吹き飛ばされた騎士が、ぐぅ、と息を吐いて意識を手放す。死んだか、生きているか。確認する余裕はない。
「それでもなお立ち上がってくるのなら……すみませんが、加減はできかねます」
 クラリーチェの放つ『黒の囀り』、その呪いが騎士を捉える。みぃつけた。ささやく声が、騎士の鎧を、言葉を、中を溶かしてこの世より連れ去る。
「妬ましいわ……すごく、悲しいくらいに……!」
 手にした銃、『フォトン・イレイサー』より放たれるは、束ねられし死者の怨念。エンヴィは呟く。銃弾は騎士の腕を貫いた。悲鳴を上げながらも、しかし騎士はその動きを止めることは無い。二射。貫いた衝撃で、騎士は後方へと倒れ込んだ。そのまま動かなくなる。
「馬鹿野郎が……生きてりゃやり直せんだろうが……!」
 受けしものを跪かせる王の威風を放ち、アーサーは騎士へと言葉を投げかける。威風を受け、たまらずその身を震わせる騎士。だがその騎士とアーサーの合間に、焔が着弾した。同時、爆風が周囲を飲み込み、騎士の姿を吹き飛ばした。アーサーは着弾と同時にその場を飛びずさり、深い傷は免れている。
「あっお~~~~、なんだ、デコイにもなりゃしねぇのかよぉ~~~」
 うんざりするような様子のアッティ。味方もろとも、アーサーを撃つつもりだったのだ! だがアーサーは怒りも静かに、アッティを見据えた。
「なんだよなんだよ、そっちもこう、キレるかと思ったのになぁ~~? 仲間をなんだと思ってるんだ! みたいな!」
「やると思ってたよ」
 アーサーが構えなおす。
「お前は屑だ。その点では信頼してる」
 続けたのは、白である。その表情に、やはり静かな怒りをにじませている。
「アッハハハハハーッ!」
 アッティがパシパシと手を叩いて見せる。
「なんか随分と嫌われたなぁ~~~~一緒に飯を食うには仲いい方がいいのにな! まぁいいや! これでお互い、すっきり綺麗になったしよぉ。第二ラウンドと行くかい!」
「貴方と食事をとる趣味は、私達にはありませんよ」
 クラリーチェが答える。
「むしろ! 貴方のランチタイムは、ここで終わるのだわ!」
 トリーネが翼をバタバタとはためかせて、叫ぶ。
「……妬ましい」
 静かな怒りを込めて、エンヴィが声をあげる。その言葉が、額面通りの意味ではないことを、仲間たちは知っている。
「やるよ、皆。あんな奴、許しちゃいけないんだ」
 ソアが声をあげた。仲間達は頷く。
「粗野な男に、マナーと言う物を教えてあげましょう」
 寛治が言う。
「ふふ、まずはテーブルマナーからだね」
 両手の食器を構えなおし、マルベートは薄く笑う。
 かくて、決戦の幕は上がった。

●主菜
 爆発が周囲を薙ぎ払う。焔が地を嘗め尽くし、砂地がガラス化するような爆炎の中を、イレギュラーズ達は突っ切った。
「礼節が人を作る。それは魔種とて同じですよ」
 『長傘』の石突で地を叩き、土くれを投げ飛ばした寛治が、続けざまにその傘から銃撃を行った。
「ハハハハッ! そっちの手癖は悪そうじゃぁねぇか!」
 巻き起こる火炎。けん制の土くれが飲み込まれ、返す手でアッティは銃弾をはじいてのける。その焔を切り裂いて飛来するは、一匹の悪魔。
「さぁ、素敵なランチタイムを始めようか。中座なんてらしくないことはしないでおくれよ?」
 飛び込んできた悪魔はナイフ/フォークを切り裂き/突き刺し、獲物を捕らえ、咀嚼せんと襲い掛かる。アッティは徒手空拳でナイフを受け止めると、フォークを始点にマルベートを投げ飛ばして見せる。
「ふふ、活きがいいね!」
 笑いながら空中で態勢を整え、着地するマルベート。
「ご飯はもっと穏やかに食べるべきよ! 貴方が喜ぶ光景はもう見せないわ!」
 足元に召喚したひよこと共に、こけこけ、ぴよぴよと癒しの歌を歌い上げるトリーネ。その歌を背に、白は黒の力を借り、死霊の怨念を束ねた矢を作り上げる。
「お前をぶちのめせるなら……この痛みだって気持ち良い位だぜッ!」
 呼び声により肌が焼かれる感触を抱きながら、解き放つ怨念の矢がアッティを狙う。一射、二射、三射。次々と放たれるそれを、アッティは飛びずさって回避。
「背中がお留守ッ!」
 その隙をついて背後から飛び込むソア。
「知ってーーる、よっ!」
 げひゃひゃ、と笑いながらアッティは、背中より焔の翼を噴出させ、ソアを吹き飛ばさんと試みる。ソアは数秒、耐える。が、その焔の翼が、ふと掻き消える。
「その翼、封じさせてもらうのです」
 声の主は、クラリーチェである。封印の術式がアッティへと突き刺さり、焔の翼は消滅してのけた。
「熱かったぞっ!」
 フリーになったソアが、全身のばねを使った回し蹴りを叩き込む。直撃。ぎっ、と悲鳴を上げたアッティが短距離、吹き飛ばされ、どうにか態勢を整えて着地。
「さあ、ご馳走さまをするんだ! お前は許さないからな!」
「まだ食ってないんだよなぁ~~~~!」
 怒りとともに放たれる火球が周囲に着弾。ソアは飛びずさってそれを回避。
「テメェの顔面ぶん殴る! ぶん殴って、地獄行きだ!」
 その意思が物理的な力になる。パイルバンカーへと意思を乗せ、アッティへと叩きつける。瞬間的にアッティが張った魔術障壁ごと、杭打機はアッティに、その杭を叩きつけた!
「んがっ!」
 衝撃に、アッティが悲鳴を上げる。激しく地に叩きつけられ、スーツのあちこちに傷が生じた。慌てて飛びあがるアッティへ、続くエンヴィが、
「あなたがやけつくような痛み……私にだってできるのよ」
 放つ『嫉妬の銃弾』。体勢を整えきれぬアッティの、左腕を貫いた。
「うおっ……畜生! 熱ぃ!!」
 たまらず顔をしかめるアッティ。苦し紛れに放つ爆風がイレギュラーズ達へと襲い掛かるが、しかしでたらめに放たれたそれが、イレギュラーズ達に直撃するはずもない。
「好機です!」
 寛治が叫び、撃ち放つ銃弾が、アッティの肩を貫いた。
「では、スーツの着方を教えて差し上げましょう。死に装束で、ね」
「ハハッ、マァジかよ……!」
 傘の石突より硝煙たなびかせていう寛治の言葉に、アッティは引きつった笑みを浮かべた。
「それじゃあ、頂こうか」
 マルベートがナイフを振りかざし、その身体を薙いで見せる。間髪入れず、フォークを突き刺した。柄を支点に持ち上げ、強かに地へと叩きつける。
「あ、あっあ~~~~待て待て待て! ストップ!」
 いひひ、と笑いながら、アッティはバタバタと手を振る。
「何よ、今更謝りたいなんて……」
 トリーネが声をあげるのを、アッティは制した。
「そうじゃねぇよ! いや、俺は死ぬわ。間違いねぇ。アンタらも、俺を許さねぇだろ!? まぁ、そりゃしゃあねぇわ。俺は死ぬ。でもさぁ~~~~」
 と、アッティは愛おし気に、ボロボロになったカバンから、一つの包みを取り出した。あれほど激しい戦闘の最中にあって、奇跡的に無傷だったその包みをはがすと、中から現れたのは、サンドイッチだ。
「最期にヨォ~~~喰わせてくれよ! 自分の断末魔を聞きながら食べるサンドイッチってさぁ~~~~どんな味がすんのかな? 思わねぇか? 俺は思うねっ!」
 はぁ、と恍惚とした表情で、アッティはサンドイッチを見つめる。
「何せ一生で一度しか経験できないランチタイムだからよぉ~~~~喰ったら死ぬわ! だから……ハハハッ! 頂き……」
 ぱさり、と。
 包みが、地に落ちた。
 それは、『『同胞』白』の手。
 無念の内に散ったもの達の手が。
 その食事を、取り上げたのだ。
「……ちょっとは自分の事を顧みなよ。満足して逝けるわけがないだろ?」
 白が言う。
「ひ……ハハ、ハハハッ! アハハハハハハハッ!」
 アッティが笑う。笑う。笑う。狂ったように。
「畜生が――――!」
 その手に巻き起こる、焔! 爆発せんばかりのそれを振り上げたアッティ、その顔面に、ソアの拳が叩き込まれた。
「一発で済むと思うなよ……今まで、お前が傷つけてきた人たちの分っ!」
 殴。打。殴。打。殴。殴。殴、殴、殴、殴殴殴殴殴殴――!
 拳が、拳が、叩き込まれる。
 一撃一撃、多くのモノの怨みを込めて、ソアの拳が叩き込まれる。
「これでッ! ごちそうさまだッ!」
 とどめに叩き込まれた拳が、アッティを強かに殴り飛ばした。ぼろ雑巾のように吹き飛ばされたアッティが、宙を、地を滑り、その肢体を投げ出す。
「ふむ。死に装束を整えて差し上げたかったのですが……」
 寛治は頭を振って見せた。
「これでは、それも難しいですね」
 将を失ったエルベルト派騎士たちが浮足立った。そのまま、悲鳴を上げながら逃走していく。
「おや、お仲間は退散のようだね」
 その様子に、マルベートは肩をすくめる。
「何とか……この場所を、守ることができましたね」
 クラリーチェが、ほっと胸をなでおろした。
 後方からは、天義騎士たちの歓声と、鬨の声が響いている。
「皆、お疲れ様。妬ましいくらいに、素敵な活躍だったわ」
 エンヴィが微笑む。
「さて……じゃあ、俺たちもランチタイムと行くか。皆でな」
 アーサーが声をあげる。仲間達は頷いた。
 後ろを振り返れば、騎士隊長をはじめとする騎士たちが、こちらへとやって来るのが見える。
 共に戦場を駆け抜けた騎士たちだ。この後、共に休息するのもいいだろう。
 そんなことを考えつつ――。
 今は勝利の余韻に浸る、イレギュラーズ達であった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様の活躍により、天義の防衛線は守られました。
 また、先の戦いで犠牲になった人たちの無念も、きっと晴れたはずです。

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