PandoraPartyProject

シナリオ詳細

その手を繋いで木立を渡って

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ちびマンドラゴラの行進
「ぴぃ!」
「ぴぃ!」
 てくてく。てくてくと。小さな人型の何かが、深緑の森林地帯を歩く。
 まるで、人の身体と手足のようにも見える、30cmほどの植物の根。ディフォルメされた目がくりりとあたりを見回し、ぴぃぴぃと鳴き声をあげた。
 俗に「ちびマンドラゴラ」と呼ばれるその植物たちは、若木のころに地よりはい出し、ある程度の距離を進んだのちに再び地に潜り、その後はごく普通の植物として過ごす、と言う変わった特性を持つ。今はまさに、ちびマンドラゴラの旅立ちの時期で、ここ、深緑(ファルカウ)に存在するとある森林地帯では、その様がよく見られていた。
 が――。突如、がさがさと草木をかき分け何かが走る音が聞こえるや、叢より飛び出してきた巨大なトカゲが、ちびマンドラゴラをばくり、と咥えてしまった。ぴぃ、と悲鳴を上げるも、トカゲ――『草喰い』と呼ばれる獰猛なそれに、ばくりと飲み込まれてしまう。
 ちびマンドラゴラたちは、慌てて四方八方へと散り始めるが、もはや遅かった。この年、異常繁殖した無数の『草喰い』たちが、ちびマンドラゴラたちを次々と飲み込み、瞬く間にすべてを平らげてしまうのであった。

●ちびマンドラゴラの巣立ちの手伝い
「っちゅう事で、皆さんには、このちびマンドラゴラの『渡り』の護衛をお願いしたいのですよ」
 と、『小さな守銭奴』ファーリナ(p3n000013)は、深緑の森の入り口で、そう告げた。
 本来ならば、食うも食われるも自然の摂理。不干渉を貫くべきなのだが、今回ばかりは些か事情が異なる。ちびマンドラゴラたちの天敵である『草喰い』たちは、今年はどうにも大量に繁殖してしまい、すべてのちびマンドラゴラたちを食べかねない勢いであるというのだ。
 ――と、なれば、多少なりとも手を差し伸べてやりたくなるのが人情と言う物。それに、少しばかりの繁殖の手伝いと言うのも、悪い事ではあるまい。
「今から、皆さんにはちびマンドラゴラたちが、地面から抜け出すポイントまで行ってもらいます。大体到着するころには、ちびマンドラゴラたちも地面から抜け始める事でしょう。そのまま、ちびマンドラゴラたちと一緒に、深緑の森を移動。ちびマンドラゴラたちが再び地に潜ったのを確認したら、お仕事終了です」
 『渡り』は大体、半日ほど、今からだと大体夕日があたりを照らすころに終了するという。障害となるのは、森の地形と、『草喰い』の襲撃だろう。いつ襲ってくるかはわからないため、充分警戒してほしい。
 なお、ちびマンドラゴラは警戒心がないので、イレギュラーズ達が近づいても特に気にせず行進を続けるという。というか、ある程度は――向こうに意思があるかは聞いてみないとわからないが――友好的であるともいえる。
「まぁ、初夏のちょっとしたお散歩だと思ってくださいな。じゃあ、しっかり働いて、がっぽり儲けましょう!」
 と、ファーリナはイレギュラーズ達を送り出した。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 今回は、深緑の森を渡るちびマンドラゴラたちの護衛のお仕事です。

●成功条件
 ちびマンドラゴラたちの『渡り』を成功させる

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●状況
 深緑の森林地帯に生息する、『ちびマンドラゴラ』の『渡り』に同行し、森の中を共に移動。ちびマンドラゴラの渡りを成功させてください。
 ちびマンドラゴラは、イレギュラーズ達には友好的で、もし会話可能なスキルを持っているのならば、ある程度は言う事もきいてくれます(本当にある程度は、です)。
 依頼の開始は午前中からで、半日をかけて行進、夕暮れ頃に目的地に到着する流れです。
 森の地図などは用意されているため、よほどのことがない限り、迷う事はありません。
 道中は、森の地形などが障害となり、また、ちびマンドラゴラの捕食を狙う『草喰い』と言うオオトカゲの襲撃も予測されています。気を抜かず……しかし奇妙な隣人との散歩を楽しむ気持ちでご参加ください。

●エネミーデータ
 『草喰い』 総数不明
  特徴
   全長1mほどのオオトカゲです。数が多く、
  不定期に、複数回襲撃を仕掛けてくることが予期されています。
   基本的には、至近~近距離をカバーする、物理属性攻撃を仕掛けてきます。
  攻撃には、『猛毒』や『痺れ』を付与するものがあります。
   なお、草喰いたちは、ちびマンドラゴラを捕食することを最優先に行動します。
  くれぐれも、ちびマンドラゴラへと接触させないようにしてください。

●NPC
 ちびマンドラゴラ ×20
  特徴
   渡りを行う奇妙な植物です。
   植物と会話できるスキルなどがあれば、ある程度の意思疎通と指示は可能です。
   戦闘能力はありません。戦闘中、草喰いと隣接した場合、
  ターン終了時に食べられてしまいます。
   全滅してしまった場合、シナリオは失敗となります。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

  • その手を繋いで木立を渡って完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年07月07日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵
エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)
特異運命座標
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
エストレーリャ=セルバ(p3p007114)
賦活
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル

リプレイ

●たびだち
 深緑は、森の奥。
 木漏れ日照らす大地の上で、手のひらほどのサイズの草が、いくつも風に揺れている。
 ふと、その中の一つが、風とは無関係に、もぞもぞと揺れだした。ほどなくして、それは自ら地より抜けた。厳密にいえば、草の根が、土をかき分けて、地面から這い出てきたのだ。
 それは、全長にして30cmほどのサイズの、草の根であった。人型のように見えるそれは、ディフォルメされたような黒い眼をくりくりと動かし、あたりを見回す。俗に『ちびマンドラゴラ』と呼ばれる植物だ。
 這い出してきたのは一匹ではない。あたりから次々と地より抜けだし、その総数は20体。ぴぃ、ぴぃと鳴き声をあげ、ぱたぱたと自らの身体についた土を払う。
 はい出たちびマンドラゴラたちの目的は、ここより離れた地に自らの足で移動し、繁殖範囲を広げる、『渡り』と呼ばれる行為だ。
「や、やっぱりかわいい……!」
 と、声が上がった。ちびマンドラゴラが首をかしげつつ声の方へと視線をやれば、そこにいたのは声の主である『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)以下、8名のイレギュラーズ達だ。
 蛍はこほん、と一つ咳払い。
「こ、このおちびちゃん達が、今回の護衛対象ね!」
 気を取り直すように、声をあげる。言葉の意味が解らないのか、ちびマンドラゴラたちはぴぃ、と鳴いて小首をかしげる。
「まぁまぁ、まずは挨拶から、でございましょう?」
 と、『特異運命座標』エリザベス=桔梗院=ラブクラフト(p3p001774)は微笑んで、そのままゆっくりと地に座り込むと、三つ指をついて、ちび達へ向けて頭を下げた。
「ふしだらな者ですがどうぞよろしくお願い致します」
「どういう挨拶だ、そりゃ」
 不思議気な表情をする『貪狼斬り』クロバ=ザ=ホロウメア(p3p000145)へエリザベスはふふ、と笑って見せた。ちび達も、おそらく何となくではあろうが、頭を上下に振って返して見せる。その様子を見ていた『幸福を知った者』アリア・テリア(p3p007129)は、
「うぅ、本当にかわいい……ずっと見てたいけど、そう言うわけにもいかないよね」
 と、頭を振る。このままちび達の一挙手一投足を見守っているのもいいが、それでは時間がかかるだろうし、何より依頼を達成することもできない。
「じゃあ、伝えるね。おちびさん達、僕たちは、敵ではないよ」
 『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)が人差し指などを立てつつ、ちび達と意思の疎通を図る。ちび達は、ぷいぷいと鳴き声をあげて、頷いた。
「それで、君たちの旅に僕たちも同行するよ。今は、色々と危ないから。もし何かあったら、珠緒さん……あの桃色のお姉さんの方に行ってね?」
 と、『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)を指して、告げる。
「いいですか、あのお姉さんです。怖いものがやってきても、あのお姉さんの傍にいれば安心ですからね」
 合わせて念を押すように、ハンナ・シャロン(p3p007137)も言い聞かせて見せた。ぷーいぷい、ぴぃ! ちび達が鳴きながら、わちゃわちゃと飛び跳ねる。
「通じているのですか?」
 小首をかしげつつ、桃色のお姉さん、珠緒が尋ねる。
「ううん、一応、頷いてくれてはいるけれど……」
 エストレーリャは苦笑する。
「完全に意思疎通が図れるなら、崩れないバベルの範疇にあるはずだからな」
 『優心の恩寵』ポテト チップ(p3p000294)が告げる。動物と意思疎通を図るようなものだろう。
「とはいえ、完全に分かり合えずとも、ある程度の指示は聞いてくれるはずだ」
 ポテトの言葉に、仲間達は頷く。
「そうですね。ちびマンドラゴラたちは、小動物くらいの賢さはあるはずですから……そうだ、ちびちゃん達、危険を感じたりしたら、抱き上げたり、触ったりするけれど、許してね?」
 ハンナの言葉に、ぴぃ、ぷぃ、と、ちび達は鳴いて、頭を縦に振って見せる。試しにハンナが、ちび達の撫でるように触れてみると、ちび達は抵抗することもなく、なすがままにされた。土から出て来たばかりだからだろう、どこかひんやりとした温度が心地よい。
「大丈夫みたいですね」
 にこり、とハンナが返す。その様子に、幾人かのイレギュラーズ達は、『いいなぁ、自分もなんかタイミング見て触れてみよう』と思った……かもしれない。
「こほん」
 改めて咳ばらいを一つ。蛍が声をあげる。
「それじゃあ、出発しましょうか」
「その前に――お客様でございますね」
 エリザベスが、静かに声をあげた。その目に映るのは、温度を表す様々な色。3体の熱源が、こちらを窺うように、近づいてくるのが見えたのだ。
「『草喰い』だな?」
 クロバが声をあげ、武器を構えた。合わせて仲間たちも戦闘態勢をとる。剣呑な空気を感じ取ったのか、ちび達はぴぃぴぃと慌てふためく様子を見せる。
 エリザベスが答えるより先に、それは現れた。全長にして1mほどの大きなトカゲだった。よだれを垂らしながら、ぐりぐりと動くその眼が捉えるのは、イレギュラーズ達がかばう、ちび達だ。
「ちょうどいい……相手の実力を図るためにも、ちび達の信頼を得るためにも、まずは準備運動と行くか」
 クロバが言う。ちび達の、悲鳴のような鳴き声がこだまする。
「可能な限り、ちびちゃん達は守ります」
 珠緒が強く頷く。何体かのちび達は、珠緒の下へと集まっていたが、それでも全部が全部言う事を聞いてくれたわけではないらしい。あまり、ちび達の誘導はできないかもしれない……それでも、何もしないよりははるかにいい事だったが。
 がぁあ、と声をあげて、草喰いたちが迫る。エリザベスは即座に対応、付近の土くれに魔力を送り込み、疑似生命を創造。
「お通し……いえ、むしろぶぶづけ、でございましょうか?」
 土くれの疑似生命を、草喰いの口に放り込む。衝撃と、そして口中で破裂する土に、草喰いが悲鳴を上げて、目を白黒させる。
「ゆりかさん、珠緒をサポート! おちびちゃん達を傷つけちゃだめよ! そしてあなた達! ちょっとは空気読みなさいよね!」
 放たれる一喝が、草喰いたちを怯ませる。言葉は通じないだろうが、そこは秘められた魔力と勢いのなせる業だ。
「さぁ、こっち、こっちですよ、草食いさん達!」
 自身を囮に、ハンナは草喰いたちの攻撃を引き付ける。一匹の草食いが、その鋭く、不衛生な爪でハンナへと殴り掛かる。とっさに腕で体を庇うハンナ。鋭い傷跡が腕に走り、ずきずきとした痛みとしびれが走る。さらなる爪を振るおうとする草喰いへ、
「餌は確かにここだぞ――ただし、食事にありつきたいなら自分たちが狩られる危険がある、っていうのを理解した方がいいんじゃないか?」
 クロバの『黒刀・夜煌竜一文字』、その黒い刀身が闇夜の星のごとくきらめいて、一閃。ひっくり返って絶命する草喰いへ、一瞬、視線を向けその生死を確認したクロバは、ハンナを庇い、草喰いたちへと向き直ると、
「いったん下がって治療を受けてくれ!」
 草喰いたちをけん制しつつ、ハンナへと告げる。
「お前の相手は、こっちだよ!」
 エストレーリャが振るう茨が、草喰いを強かに打ち付ける。黒薔薇の咲くそれは、物理的な痛みではなく、接触した対象の魔力を食らう痛みを与えるものだ。痛みにたまらず、草喰いはその命を手放した。
 一方、珠緒、ポテトは、ちび達を庇いつつ、仲間の治療にあたっていた。
「すずきさん、こじまさん。ちびちゃん達がはぐれないように、見てあげてくださいね」
「先は長いからな。手早く、でも慎重に行こう」
 ハンナの治療を行いながら、ポテトが言う。
「これで、最後っ!」
 テリアの放つ衝撃波が最後の一匹を仕留め、絶命させた。ひとまずの危機が去ったことを察したちび達が、ぴぃぴぃと鳴きながら飛び跳ねる。
「あはは、ちびちゃん達も喜んでるのかな?」
 微笑むテリアの足元で、ちび達が飛び跳ねる。
「さぁ、ちびちゃん達。珠緒さんの所に行こうね。これから出発するから、離れないようにね?」
 エストレーリャの言葉に、ぷいぷいとちび達が声をあげる。
「さて、じゃあ、『渡り』を始めようか!」
 ポテトが声をあげ、ちび達が鳴き声をあげる。
「……ところで、私といて、ギフトの影響とか、大丈夫だろうか?」
「ぴぃ?」
 小首をかしげるポテトに合わせて、ちび達も小首をかしげて見せた。
 かくしてイレギュラーズ達とちび達の、少し危険な散歩が始まるのであった。

●もりのさんぽ
「キミはこの先が危険な場所だったら教えてね? そしてキミは、おっきなトカゲを見つけたら教えてね?」
 テリアにより、精霊に斥候を頼みつつ、一行は『渡り』の護衛を開始した。ちび達を中心に、近くに珠緒、そして珠緒の持つ少女型ロボットである『すずきさん』と『こじまさん』、蛍の持つ少女型ロボット、『ゆりかさん』がちび達の直掩につき、その周囲をイレギュラーズ達が警護する、という形だ。
 例えるならば、カルガモの親子を扇動する警備員たち……と言った、些か微笑ましい光景に似ている。
「この先、ちょっと流れの急な川があるみたい」
 精霊から、前方の様子を報告されたテリアが言う。
「深さはどれくらいでしょうか?」
 珠緒が尋ねるのへ、
「深くはないみたい。あ、ちびちゃん達にはちょっと深いかもしれない」
「となると、ちび達が渡るには危ない、か」
 ふむ、とポテトが唸る。
「迂回するか?」
 クロバが尋ねるのへ、しかしエリザベスが頭を振った。
「おチビちゃん達、まっすぐ進むつもりのようですよ」
 もとより、本能的に最短距離を進むのが、『渡り』なのだろう。本来は、その過程で何体かが脱落することも織り込み済み。となれば、見守るのが自然の摂理なのだが、それはどうにも、やはり後味が悪い。
「だ、だったら、皆で抱っこして、それで渡ればいいんじゃないかしら?」
 と、蛍が声をあげる。なるほど、チャンスである。
「そうだね。伝えてみるよ」
 微笑んで、エストレーリャがちび達へその旨を伝える。すると、ちび達はぴぃぴぃと鳴きながら、蛍の足元へと移動して、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
「え、え、全員!? それは嬉しいけど……じゃないっ! ちょっと全員は、無理!」
「あはは、焦らなくても大丈夫ですよ?」
 ハンナが苦笑しながら、ちび達に声をかける。しかし、少しの間、蛍はちび達にもみくちゃにされてしまっていた。
 川を渡って、一行は森を進む。途中、何度かの襲撃に見舞われたが、イレギュラーズ達は撃退に成功。ちび達の数を減らすことなく、歩みを進めていた。
 進行先には、再びの川が見えた。しかし、そこは流れの緩やかで、そこも浅い小川のようなものだ。そこに到着すると、ちびマンドラゴラ達はぴぃぴぃと鳴きながら、小川へと駆けだす。
 ちびマンドラゴラ達は小川に、まるでお風呂に入るかのように、その身体を沈めた。
「目的地……ううん、休憩、みたい」
 エストレーリャが声をあげた。空を見て見れば、太陽は頂点をやや先に進んだあたり。イレギュラーズ達としても、休憩するタイミングとして有り難いだろう。
「なるほど。せっかくだ、俺たちも一息つこうか」
 クロバの提案に、仲間たちは賛成した。
「ふふ、こんなこともあろうかと……というのは、エリザベスのセリフになってしまうかな。軽食だが、飲み物と食べ物を用意してあるんだ」
 と、ポテトが言って、サンドイッチなどの詰まった籠を取り出した。
「あら、わたくしの専門、というわけでは御座いませんわ。でも、わたくしもこんなこともあろうかと、食事は用意しておりますの。歩きながら……と思っていましたが、ゆっくりできるのは、僥倖でございますね」
 エリザベスもまた、軽食の類を取り出し、ポテトの用意したシートの上に並べて見せた。
 かくて、小川のせせらぎを聞きながら、ささやかな休息が始まる。小川の方を見れば、ただ水につかっていることに飽きたのか、バシャバシャと泳ぐように動き回るちび達の姿が見える。何体かは、こちらの食事を興味深そうに見つめていた。
「貴方も食べたい? ……って、口がないのよね。どこで鳴いてるのかしら」
 膝の上にちびを乗せながら、蛍が言う。ぴぃ? と鳴いて、ちびが小首をかしげた。
「お茶を飲ませるのも、身体に悪そうですからね」
 珠緒もくすくすと笑って見せた。
「深緑にいたころは、ただ遠くから見ていたり、挨拶をするくらいでしたけれど、こうやって一緒に歩いていると、深緑の森もまた違った風に見えてきますね」
 ハンナが言った。
「そうだね。季節の風物詩……だったけれど、まさか一緒に散歩することになるなんて、思わなかったなぁ」
 エストレーリャは、そう言って笑った。
 当たり前のようにあったことも、外から見て見れば、また違った風に見えてくる。そして、そのような経験ができるイレギュラーズという立場も、悪くはないものだ。そう感じたかもしれない。
「このお散歩も、もうすぐ終わりかぁ……」
 テリアがサンドイッチを齧りながら、言った。あと数時間ほどで、日暮れの時刻になるだろう。そのころには、ちび達は新天地に到着しているはずだった。
「なんだか気が抜けてしまうが……いや、最後まで、しっかりしないとな」
 と、両頬を手で、ぱしっと軽くたたきながら、クロバが言った。
 その様子をみていたちびが、真似するように、じぶんの眼の下あたりを、両手でぱし、と叩いて見せた。

●とうちゃく
「居ります……3……いえ、4」
 エリザベスが声をあげると同時に、4匹の草喰いが姿を現した。同時に、エリザベスが呼び出した電子の幼子が、バールのようなもので思いっきり草食いの内一匹を殴りつける。
「最後まで、誰一人脱落させないんだからっ!」
 声を張り上げ、敵の注意をひく蛍。流石に、声はかすれ、疲労の色が濃い。
「そうです……最後まで、楽しい思い出で終わらせるためにっ!」
 手甲で草食いを殴りつけるハンナ。流石に連続で殴られては、草喰いもたまったものではないだろう。ぐるりと目を白目に、倒れ伏す。
「うおおおっ!」
 気合ともに放たれる、クロバの二振りの刃。二つの黒刀が豪風の如き斬撃を見まい、草喰いを一気に切り刻んだ。
「残り、2匹!」
 草喰いたちは注意をひかれて、蛍、そしてハンナへと襲い掛かる。傷ついた身体に、さらなる傷が刻まれた。だが、この程度で挫けるわけにはいかない。最後まで、ちび達を守り通すんだ。そんな思いが、二人をまだ戦場に立たせる。
「これで、やっつける!」
 エストレーリャの黒薔薇の茨が、草喰いを逆に食らいつくさんと襲い掛かる。魔力を食われた草食いがよろめくのへ、テリアの蒼い衝撃波が突き刺さり、草食いが絶命。
「残り……1匹!」
 テリアが声をあげる。
「了解です……!」
 珠緒が声をあげ、
「もう少しだ、皆!」
 ポテトと共に、回復術式を練り上げ、仲間たちの傷をいやしていく。
「ではこれで……お終いでございます」
 電子の幼子が、大鉈を振るって草喰いにとどめを刺した。と、それが倒れると同時に、ちび達は一斉に、駆けだす。
「……おチビ様?」
 エリザベスが声をあげる。ちび達は、イレギュラーズ達の前方にある、開けたポイントに到着すると、たしたしと地面を、確認するかのように叩き始めた。
 戦闘に集中していて気付かなかったが、そこは程よく木漏れ日の当たる、とても穏やかな場所であった。
「そうか……此処が、目的地なんだね?」
 エストレーリャの問いに、ちび達は、
「ぴぃ」
 と、鳴いた。
 すでに何体かは、ごそごそと地面を掘り始めている。
「立派に育つんだよ!」
 テリアが、ちびの頭に当たる部分を、指で優しく撫でてやる。くすぐったそうに、ちびはぴぴ、と鳴いた。
「……初めて、見ました。これが、渡りの終わりなんですね……」
  ハンナが声をあげる。ちびマンドラゴラ、その渡りに、最初から最後までついて言ったものは、おそらくイレギュラーズ達が初めてだろう。そう言った意味でも、これは貴重な光景であった。
「貴方たち……頑張ったわね」
 蛍が声をあげる。ぴぃぴぃと鳴きながら、ちび達は蛍に手を振った。蛍の気持ちは、ちび達に伝わったのだろう。なんだか泣きそうな気分になった。
「何度もやるべきことではないですが……その特別な時に同行できた事、嬉しく思います」
 珠緒が、言った。渡りの手伝いなど、もう行うことは無いかもしれない。だからこれは、大切な思い出なのだ。
「強く育てよ」
 クロバが言う。解ってる、というように、ちび達はぴぃ、と答えた。
 やがてそのほとんどが、自らを地に埋め、砂をかぶせ始める。そのころには、ちび達が鳴くことは無くなっていた。恐らくは、もう必要のない機能になったのだろう。不思議な生態だが、それも混沌ゆえの可笑しさだろう。
「ここで大きくなるんだな……元気でな」
 ポテトは呟いて、ささやかなギフトを送った。大きく、強く、育つように、そしてきっと、来年に、ちび達の子供たちが、渡りを無事に終わらせることができるように、そんな風に祈って。

 すっかりと静かになった広場を、イレギュラーズ達は後にした。
 その背中に、聞こえるはずのないちび達の鳴き声が聞こえた気がした。
 それはきっと、「ありがとう、またね」と言っているに違いなかった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 皆様のおかげで、ちびマンドラゴラ達の渡りは成功し、
 後のそこには、それは立派な、大きな花が咲いていたとのことです。

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