シナリオ詳細
叫べ! 幻想闘技応援団!
オープニング
●応援! それは魂のブースター!
剣がぶつかる金属音。
汗を散らし、鎧甲の闘士は叫びをあげる。
小さなバックラーで流すように受け、滑り込むようにナイフを繰り出す相手の闘士。
眼前に迫る刃。
見開いた闘士の目には敗北の色がよぎる。
その時――!
「負けるな!」
空を穿つような叫びがあった。
闘士たちを、彼らの立つフィールドを、フィールドを囲むすり鉢状の観客席を、さらには天空にもとどろくかというほどの声で、ロングコートの男は叫んだ。
尾の長いバンダナを巻いた犬獣種。栗色の毛皮が逆立つほどに気合いをわかせ、両手を腰の後ろにつけた。
「一発逆転エールッ!」
途端、彼の周りに控えていた楽団が一斉に演奏を始めた。
空をにらむようにラッパを吹く管楽器隊。
モンスターすら殴り殺せそうな体躯で大太鼓を連打する鉄騎種の巨漢。
彼らの音楽とコールが一体となり、会場の空気を飲み込んでいく。
それはただ一人のため、今会場の中心で戦う闘士の応援歌だ!
「――ッ!」
目の奥にかつてあった敗北の色はもはやない。
心に火がつき、燃え上がり、闘士はドラゴンのごとく叫んでナイフを回避。
振り込んだ剣が恐ろしいまでのクリティカルヒットをたたき出し、相手の闘士を打ち払った。
あまりの衝撃に宙を舞い、一回転して落ちる。
もはや起き上がる力も無いとみて、審判が赤い旗を掲げた。
大歓声。
拍手。
投げ込まれる無数のコイン。
闘士は剣と盾を振りかざし、観客たちに咆哮をあげて見せた。
「――やあ、こんな所で合うなんて奇遇だね。それとも、依頼の話を聞きに来たのかな?」
未だやまぬ歓声の中、『黒猫の』ショウ(p3n000005)は薄く笑って振り返った。
手には揚げ菓子と果実のソーダ水が握られている。
ここは幻想北部に作られた闘技場だ。
鉄帝(ゼシュテル鉄帝国)の流れをくんで作られたここは、登録された闘士たちがぶつかり合うさまを楽しむ娯楽施設である。
だが内側で行なわれているのはただの戦いごっこなどではない。
戦闘の結果が政治を左右する、小貴族たちの代理戦争の場でもあるのだ。
「依頼内容はもう聞いてるよね、あの『ブラックホエールズ』の応援団、もしくは闘士の募集依頼さ。経緯までは……話したかな?」
●ブラックホエールズの窮地
闘士チーム『ブラックホエールズ』はこの辺りでは知られた闘士チームだ。
近々新たに開拓された坑道の利権を巡って『ゲドウバッツ』と試合を行なうことになっていた。
しかし……。
「リーダーが刺されただと!?」
尾の長いバンダナを巻いたロングコートの犬獣種が慌てて立ち上がった。
背には堂々と『応援団長』の文字が刺繍され、バンダナには闘魂の文字が刻まれている。
背を丸めた亀の海種が震える声で言った。
「深い毒のナイフじゃ。治療を受けておるが、試合に出られる状態じゃあない。それだけじゃあないわい。主力闘士の殆どが毒を盛られたり脅しをかけられたりで試合に出られん」
「くそっ、ゲドウバッツめ……!」
犬獣種の団長はテーブルを拳で叩いた。
それまで呑んでいたお茶ががたんと倒れ、中身が流れ出ていく。
「こうなったら弱い闘士をぶつけるしかない」
「しかし……」
「大丈夫だ! 俺たちがいる!」
鉄騎種の巨漢や幻想種の吹奏者たちがこくりと頷いた。
「闘技場の応援はただの応援じゃねえ。魂をひとつにして闘士に注ぎ込めば、その実力は何倍にもふくれあがる!
闇討ちなんかで勝とうとする卑怯なチームだ、まっすぐな闘士や応援なんてできないはず。俺たちはこのまっすぐな心で勝つんだ!」
おう! と、心を一つにする応援団。
だが次の瞬間、鉄騎種の巨漢が胸を押さえて崩れ落ちた。
「どうした!? ぐ……!」
よろめく団長。
ふと見ると、お茶を運んでいた喫茶店のスタッフがニヤリと笑っていた。
「おーおーこわいわあ、そんな応援で負けてもうたら大恥や。応援団サンにも寝てて貰うで。マ、応援ごときでなにが変わるとも思えへんけどな。ケケケッ……」
スタッフは……潜入していたゲドウバッツのメンバーは笑いながら出て行く。
歪む視界の中、団長は歯噛みした。
「まだやれる。まだやれる筈だ……俺たちは……」
●知られざる闘士たち
あるとき、鉄帝(ゼシュテル鉄帝国)の大闘技場に未登録にもかかわらず飛び入り参加を果たした者たちがいたという。
そんな彼らならば――。
「どこにも所属していない闘士、そしてまっすぐな心をもった応援団が作れる筈。
彼らはそう考えたらしいよ」
ショウは観客席から応援団の様子を見ていた。
団長の犬獣種は無理を押したせいか意識を失い仲間に運ばれている。それは楽団たちも同じだ。
エキシビジョンに出てきた闘士たちは決して強いとは言いがたい。
闘士と応援団が、必要だ。
「もしこの依頼を受けるなら、皆の所に行っておいでよ。そろそろ集まる頃だろうからさ」
ショウは闘技場そばにあるレストランのチケットを取り出して、ウィンクをした。
- 叫べ! 幻想闘技応援団!完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年02月22日 21時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●応援団の心意気
持ち手のついた紙箱を身体の前にさげるように両手で持ち、歩く女がいる。
黒布の長いワンピース。スカートを殆ど隠すかのごとき白いエプロンドレス。布の白さがくすむことも、紙箱が傾くこともない。ただ衣のこすれる音がするのみである。
女――『 』ヘルモルト・ミーヌス(p3p000167)はあるテーブルの前に立ち止まり、紙箱を置いた。
「あんた、いつもすまねえな。今日はなんだい」
テーブルについていたのは犬獣種の男だ。闘士チーム『ブラックホエールズ』の応援団長である。
ヘルモルトは『いいえ』と首を振って、紙箱を開けて見せた。まだ暖かいスコーンとホイップクリームがのぞき、ふわりと甘い香りが漂った。
ヘルモルトはブラックホエールズやその応援団と交流を持って数日になるが、その間こまめに差し入れを続けた結果随分と仲良くなったようだ。
もとより家事や料理の上手な者が頻繁に世話をやきにくれば、体育会系の者たちがころっといかないわけがなかった。
さておき。
今日はヘルモルトに限らず助っ人イレギュラーズが全員集合していた。
場所は闘技場に併設されたハンバーグレストラン『ハーマンディック』。
どこか妖艶に口元をぬぐい、ナプキンをおく『麗しの黒兎』ノワ・リェーヴル(p3p001798)。
「さて、今回はエンターテイナーとして皆を湧かせようじゃないか! 諸君、ご機嫌はいかがかな?」
今日のために沢山の仕掛けをしてきたらしいノワは、打ち合わせをしていた楽団の皆へと振り返る。
中性的な顔立ちは楽団でも人気があったようで、皆ノワに好意的だ。
ギフト能力やノワ本人の気質も相まって格段にパワーアップした応援団のパフォーマンスを見せられるだろうと、皆わくわくした顔をしている。
楽団の中には『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)もしっかり混ざっている。
白い狼耳をぴこぴことやって、フォーク片手に気合いも十分だ。
「動けない応援団さんの代わりに、ミミ達が頑張っちゃうのです」
「頼んだぜ、あんたたちだけが頼りなんだ」
団長や他の応援団たちに、ミミはこくこくと頷いて返した。
そんなミミに、応援団長のハチマキをすっと差し出す犬獣種。
それを受け取り額に巻いてみせると、団員たちはワッと盛り上がった。
その熱気が伝わってくるのだろう。紫月・灰人(p3p001126)も思わず拳を握りしめ、立ち上がって見せた。
「っしゃあ、任せとけ!! 男子高校生の全力応援で気合い入れてやんぜ!!! 声出しだけなら負けねーぞ!」
「がんばれダンシコーコーセー!」
「たのむぞダンシコーコーセー!」
意味はさておき響きと空気は伝わったようだ。
ハンバーグレストランは熱気に包まれ、団員の誰もが今にも飛び出していきそうなぐつぐつとした空気になっていた。
その一方、『ニーマンズ』イース・ライブスシェード(p3p001388)は怪我をして交代せざるをえなくなった闘士たちと一緒にテーブルを囲んでいた。
イースは『助っ人魔法剣士』の立場をとるためにいつもと違う風情で振る舞っている。相手もそれを分かった上で付き合っているようだ。
「おや、緊張してるのかな?」
「き、緊張なんてしてへんし!」
背筋を伸ばしてつんと顔を上げてみせる『ルージュ・アルダンの勇気』クー=リトルリトル(p3p000927)。
とはいえ、大勢に注目される舞台に出る緊張は隠せていないようだ。
貝や真珠のような髪飾りがしゃらしゃらと揺れている。
フォークを置く『千法万狩雪宗』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)とリジア(p3p002864)。
「旨いハンバーグで、英気は養った。後は、ぶちのめすだけだな?」
「代価も貰った以上……ちゃんと、やる……」
リジアには闘技場の娯楽としての側面がよく理解できなかったようだが、それでも知ろうとする、ないしはなじもうとする気持ちがあったようだ。
本来出るはずだった闘士と話し合っていくつか派手な立ち回りを計画しているようだった。
対して汰磨羈は自分のスタイルを貫く方向でいくことにしたようで、独自の武器と動き方を練習している様子だ。
自分の個性を活かした戦い方は、きっとよいパフォーマンスにもなるだろう。
観客たちにウケれば空気が味方になる。それは勝敗に大きく左右する『場』の力となるだろう。少なくとも、今回戦う相手に対しては……。
「汚い手段で勝とうとする連中だ。くれぐれも気をつけてくれ」
クーは、イースは、汰磨羈は、リジアは、それぞれのスタイルでしかし同時に頷いた。
試合時刻を知らせるアナウンスがレストランに流れる。
●場を制する者
世界征服という言葉になじみはあろうか?
ある者が世界征服は人類の半数を征することであると言い、その第一歩は眼前の一人を征することであるとした。
ヘルモルトは長く細く息を吸い、まくし立てるように語り始めた。
「リーダーや団長不在に心細いかもしれません。助っ人に不安を抱く人も多いでしょう」
一息をついて、眼前の皆を見回す。
楽器をたずさえた楽団が、仲間たちが、それを囲むファンやそうでない観客たち。
彼らがヘルモルトの言葉を待ち、緊張を高めていく。
「貴方達はただ導かれ、見守るだけの存在ですか。貴方達は今まで見て来たはずです。自分達の声が、勝利を掴ませた瞬間を。奇跡を引き寄せた瞬間を」
思い返させるように区切り、手を翳して空を握る。
「今回はそれを自分達だけで成し遂げたいと思いませんか?」
さあ、とでも言うようにステージへと向き直る。
待ってましたとばかりに灰人が手を組み、コールを待つ。
ノワは指揮棒を手に静止した。
皆の視線が一度、ミミへと集まる。
ミミは眉をきりりとあげると、はじめの合図を声にして放った。
会場の空気が、目に見えるほどに変わってゆく。
「旅人であり侍。その手に持つ両刃の剣を以て魅せる武芸は如何様な物なのか――猫侍 仙狸厄狩 汰磨羈!」
華やかな音楽にのって現われる汰磨羈。
相手側は片目にキズをおった女だ。まがまがしい仮面をずいっとずらして顔に被ると、汰磨羈を仮面の穴からにらんだ。
「見たことないヤツだ。人数あわせかな? めんどくちゃいからさっさと殺しちゃおー」
大きな刀を抜き、早速斬りかかってくる仮面の女。
瞬間、応援団たちからパッと花吹雪が生まれた。
舞い散るイミテーションの花弁を背景に、敵の斬撃を打ち払う汰磨羈。
武器の両端から伸びた光の刃が丸太をも切り裂きそうな斬撃を払い、流れるように仮面の先へと突きつけたのだ。
「ほぅ、なるほど。卑怯な手に頼るだけの事はあるな」
「はぁ? こいつ――!」
ムキになって斬りかかる女。汰磨羈を侮り、重い斬撃を浴びせていればなんとでもなろうという姿勢は崩すにたやすい。
フェイントで胴打ちをわざと小さく空振りし、てこの原理で振りを大きくした逆側の刃で斬りつける。
灰人の応援とノワの演奏が激しさを増し、乗じるように汰磨羈の動きもさえを増していく。
相手はぐるぐると翻弄され、汰磨羈の動きひとつひとつを目で追うのに必死になっていた。
大ぶりな攻撃を素早くかわし、挑発するかのように相手を小さく斬りつけていく。
仮面を跳ね上げられ、怒りを露わにした女は汰磨羈めがけて大上段の面打ちを仕掛けてきた。
「頃合いかな。そろそろ、決めさせて貰おうか」
力強いノワたちの演奏に合わせて繰り出した汰磨羈の斬撃が相手の刀を破壊し、刀身が途中から折れて回転しながら飛んでいく。
天へと突きつけた汰磨羈の指。
演奏が最大の激しさをもった途端、会場の誰もが勝負の行方を確信した。
「天網恢恢、疎にして漏らさず。――報いを受けろ!」
華麗なラッシュが女を切り裂き、最後に汰磨羈は見栄をきって瞑目した。
「戦士としては三下だ。出直してこい」
女は崩れ落ち、審判は大きく旗を振った。
ブラックホエールズ……汰磨羈の勝利を示す旗である。
順調に勝ち星をとったブラックホエールズ。
第二試合を前に、ヘルモルトはドレスパックのさがったハンガーを手に現われた。パックには綺麗な文字で『ミミ団長へ』と書かれている。
「えっ、ミミにですか? 団長専用の服があったなんて知らなかったのですよ! ヘルモルトさんありがとうござ――!」
パックをはいで、ミミはぴしりと固まった。
おへその出そうな丈の短いシャツ。
膝をあらわにできそうなミニスカート。
更に銀のトレーに乗せて差し出されたのは、淡いピンク色のポンポンだった。
それを横から覗き込んだ灰人とノワ。
「チアガールだな」
「そうだね」
「団長さんの服ではなくて――!?」
はわわわわと震え出すミミに有無を言わさぬ勢いでどこでもお着替えセット(大きい輪っかとカーテンがつながったやつ)を取り出してくるヘルモルト。ここまで無言なのが余計に圧を強めていた。
と、そこで試合開始のブザーが鳴り響く。
ミミは助かったとばかりに振り返り、はじめの合図を出した。
「幻想的な技に魅せられれば、気づけば彼女に夢中になっている!? 深海の踊り子――クー=リトルリトル!」
何者が現われるのかと舞台を注視する観客たちが、わっと驚きに声を上げた。
なぜならステージが端から徐々に幻影に塗り替えられ、海底で揺れる珊瑚や海藻、小魚たちの色鮮やかな風景へと変じていくからだ。
ここぞとばかりにコールをかける灰人。ノワは幻想的な音楽を奏で始め、風船仕掛けの紙魚を空に向けて大量に飛ばし始めた。
彼らの二重の演出は会場の空気をわしづかみにし、相手選手への意識をもそいでいく。
会場中の多くがクーの活躍を願うようになった。
一方。ゲドウバッツサイドから現われたのは同じく炎の幻影を操る少年だった。全身真っ赤に染めたローブ姿。だがまるで無垢な子供のように観客席へ振り返ると、わざとらしく叫んだ。
「戦いなんてくだらない! どうして人と争う姿を楽しもうとするんや! こんなことを喜んでやるなんて、絶対に許せん! 俺は相手を殺さずに勝って見せる!」
と言いながら、くぅるりとクーへ向き直る。彼女にしか聞こえない声で言った。
「俺があんたの武器を撃つから、無力化されたフリして降参してくれ。どうせ金で雇われたんやろ。倍額払うから負けてくれへん?」
「……」
少年の本質が少しだけ分かった。
相手を悪者にしてのし上がり、勝てば英雄負ければ被害者という嫌らしい立ち回りをする奴だ。
「騙されんな!」
表情から察した灰人がとてつもなく大きな声で割り込んだ。
「そいつはラクして勝ちたいだけだ! このステージにまであがってきたなら、戦う以外になんもねえだろ!」
灰人の純粋な気持ちは会場の観客たちに伝わった。ギフト能力以前に、裏表のなさそうな灰人による叫びが皆の心をうったのだ。
周りの気分を悪くして勝ちに行く作戦が潰されたことで、真っ赤な少年は舌打ちした。
「クソが、黙って殺されてろや。死を悼んでもうワンランク株上げられたとこやのに」
対してクーは『ふふん』と勝ち誇ったように顎を上げた。
気づけば周囲の幻影が押し込まれ、炎の幻は海底の幻に書き換えられていた。
「ふふ、うちの庭へようこそ。楽しい夢の始まりやんな?」
少年は炎の魔術を唱え、クーめがけて大量に打ち込んでくる。
主張とは真逆の、相手を焼き殺すための凶悪な魔術だ。
対してクーは美しい真珠の指輪を眼前に翳し、自らの魔術を発動。
幻が波のように相手の炎を消し飛ばし、少年をさらって会場の端まで吹き飛ばす。
おそろしく強烈に決まった。
クーは自分でも驚くほどの出力をもって、少年を圧倒したのだ。
波がひくように幻影を引き下げ、背を向けるクー。
観客たちは拍手を送り、クーの名を口々に叫んでいる。
「応援されたんって初めてやけど、なんや胸がじんわり温いねぇ」
間髪入れずに第三試合。
会場の熱が冷めぬまま、チアガール衣装のミミはポンポンを振り上げた。
服単体で見たときほど派手でなく、むしろ可愛い系のコスチュームだ。
素朴な雰囲気があるミミにはそれがとてもよく似合った。
「あれは誰だ? 影か? 人か? その速さはまさに疾風怒涛――イース・ライブスシェード!」
ノワが風のようなアップテンポの音楽を奏で始め、どこからか風が吹きすさぶようなびゅうびゅうという音が鳴る。
雰囲気に似合うような振る舞いをしながら現われたイースはマントを翻し、レイピアを水平に翳す。
対するは、舌にピアスをあけた青髪の男だった。
「テメェが相手か。逃げないでよ? 俺様のぶっ殺し記録が止まっちゃうからさ」
対するイースは冷静そのもので、相手の男を変わらぬ視線で見つめている。
『卑怯な手段を許容しないわけでもないが、それを闘技娯楽に持ち込むのは些か無粋ではないかね』
そんな視線だ。だが一言も口に出すこと無く、観客へと語りかける。
「さあ皆々様、息をも吐かせぬ、華麗なる技をご覧あれ!」
無視されたのがえらく気に障ったのか、男はナイフを抜いて斬りかかってくる。
灰人の応援とノワの演奏がテンポを増し、応じるようにイースの足さばきが冴え渡っていく。
風のように、いや風を追い越すようにして立ち回り、相手のナイフを次々にかわしていく。
本来ならイースの身体から出るはずの無い動きだ。完璧な演技によって『華麗に戦う魔法剣士』として振る舞っているイースの精神と、ノワの演奏と、ミミや灰人たちの必死な応援とが合わさってイースになにかが降りたように見えた。
「クソッ、なんでだ! なんで当たんないんだよ!」
素早く繰り出されるナイフ。
吹きすさぶ風にどれだけ腕を振り回しても当てることはおろか止めることなどかなわない。
イースは今まさに、風そのものとなっていた。
ノワがここぞとばかりにトリックを使って応援席に風を巻き起こす。
「おっと」
ヘルモルトが表情も変えずにスカートを押さえた。
あっと呟いて停止する男。
その横を疾風の如く駆け抜けるイース。
イースの剣が鋭く走り、振り切ったころには男は白目をむいて崩れ落ちていた。
煮え立つ会場の熱。
「可憐なその姿はまさに地上に舞い降りた天使。ならば仇なす輩を砕くその技は天罰か!? ――リジア!」
ノワの出したカンペ通りに声をはるミミ。
最後の試合とあって皆気合い十分だ。
ヘルモルトも灰人も応援に熱を入れるなか、ノワが楽団を率いて炎のように激しい音楽を演奏し始めた。
一方でリジアはゆっくりと舞台中央へと歩いて行く。
対するは黒衣に黒髪の女。『堕天使(ルシファー)』の異名を持つ敵のリーダーだ。
「天使とかいう割に羽根もないみたいだな」
「…………」
リジアはまるで表情を変えずに、背筋をスッと伸ばす。それだけで彼女の背後に二対四枚の翼が現われた。光の翼である。
ふわりと浮き上がるリジア。
対する堕天使の翼はただの飾りであるようで、飛び上がるリジアを忌々しげににらんでいる。
「下りてこい! 我より高く飛ぶことは揺るさん!」
剣を抜いて飛びかかる堕天使。
しかしリジアは顎を小さく上げただけで――堕天使を吹き飛ばしてしまった。
光の翼が見えない衝撃をうみ、撥ね飛ばしたのだ。
ごろごろと転がり、懐から隠し銃を取り出す堕天使。リジアめがけて乱射するが、リジアはその場からほとんど動くこと無く弾丸を空中で止めていく。
威力を失った弾がぽろぽろと落ちていくのを、リジアは視界の端でとらえた。
まるで圧倒的だ。会場の空気も、そしてリジアを後押しする音楽も。
堕天使は感情を露わにして斬りかかるが、リジアはそれを迎え撃った。
具体的には、腕を翳して左から右へと一文字に払った。
一瞬遅れ、衝撃。
地面が爆発したのかと思うほどの衝撃に包まれ、堕天使は吹き飛んだ。
応援席でも見た目だけの爆発演出がおこり、観客たちの息を呑ませる。
舞い上がる砂煙。
それがはれた後に残ったのは、ぐったりと倒れた堕天使。それを涼しげに見下ろすリジアだった。
一秒の静寂。
その後、会場の皆が立ち上がった。
拍手喝采。声援に囲まれて、リジアは深く息を吸った。
――かくして、ブラックホエールズは闘技試合での勝利を収め、裏で行なわれたであろうスポンサーたちによる政治ゲームにも決着がついた。
そしてこの日、闘技場を訪れた観客たちの胸には確かに刻み込まれたことだろう。
応援団と闘士たちの、あの姿が。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
おかえりなさいませ、イレギュラーズの皆様。
いつもと違うバトルはいかがでしたか? 皆様の個性がいつも以上に爆発した、素晴らしい舞台になりましたね!
今回闘士として戦った皆様も、応援団としてパフォーマンスを披露した皆様も、とっても素敵でした!
闘士の皆様の日常風景や武力を使わないトラブルシューティング――はたまた応援団の皆様が直接戦うバトルアクションなんかも、ついつい描いてみたくなってしまうほどでした。
それではその機会まで――またのお越しを、心よりお待ち申し上げております!
くわえて、応援に沢山の工夫をなさったノワさんにはMVPをお送りします!
GMコメント
いらっしゃいませ、プレイヤーの皆様。
こちらはちょっぴり変わり種。闘技場の『闘士』と『応援団』を募集する依頼でございます。
戦うのが好き、得意、宿命という方。誰かの応援や歌や楽器演奏が得意、もしくは団をまとめる統率力やカリスマに自信ありという方はいらっしゃいますでしょうか?
でしたらぜひぜひ、お勧めですよ。
依頼書とレストランのチケットを受け取ったなら、どうぞお席へ。
【今回の相談会場】
ハンバーグレストラン『ハーマンディック』。
シェフが目の前で牛肉ハンバーグをじゅうじゅう焼くレストランです。
手作りバターと焼きたてパン、果実のジュースもお勧めです。
ハンバーグには大根おろしや卵焼き、ネギやナスやベーコンといったトッピングを乗せることができます。
チケットは頂いておりますので、お好きなトッピングと飲み物を注文してお席へどうぞ。
(※当依頼では巡り会った仲間と街角感覚のロールプレイをはさんでの依頼相談をお楽しみ頂けます。互いのPCの癖や性格も把握しやすくなりますので、ぜひぜひお楽しみくださいませ)
【依頼内容】
『闘士もしくは応援団の臨時登板』。
PCたちは闘技場の闘士か応援団のどちらかとなり、チーム『ブラックホエールズ』を勝利に導きましょう。
参加されるPCさんによっては戦うのが得意な方や応援が得意な方、ないしはどちらかをやってみたいと言う方がいらっしゃるはずです。人数比は偏っても大丈夫ですので、お好きな方をお選びくださいませ。
【闘士】
相手の闘士と1体1の戦闘を行ないます。
フィールドは丸い壁に囲まれた平地。地面は土です。
ルールはただ一つ『相手を倒した方が勝ち』です。
ただし外部からの回復や攻撃の一切は禁じられています。
できるのは応援のみです。が、この応援が重要な鍵となります。
タイマンバトルですので、そういうの得意だぜと言う方はトライしてみるのもよいでしょう。
試合は闘士全員が1試合ずつ戦い、期間中の勝利数を全チームで競っています。
そのため今回それぞれの勝敗にかかわらず、闘士は全員1試合ずつ行なうことになるでしょう。
【応援団】
自チームの闘士を応援します。
チームによってその形式は様々で、歌うチームや踊るチーム、花火を上げたり楽器演奏をしたりと……全般的にパフォーマンスによるものが大きいようです。
この応援団の応援パワー(プレイングにかける情熱やPCさんの技術の総合点)に応じて自チームの闘士に判定ボーナスが加わります。
小さい所だと命中回避+5。
すごいところだとクリティカル+99。
応援ひとつで形成をひっくり返すことだってできるかもしれません。
試合時にはPCたちに加えて一般応援団がついています。なので人を導いたりまとめたりする能力も効果を出すでしょう。
【アドリブ度】
ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。
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