PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<R>キメラ青年と知られざる戦場

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『知られざる戦場』
 幻想と鉄帝の間で続く南北戦争は、豊かな領土拡大を求めるゼシュテル鉄帝国と豊かな利権を守るレガド・イルシオン幻想王国との間でおこる武力的外交関係によって引き起こされていた。
 戦争が国外交渉の一手段であるとするならば、交渉ごとにおいて百戦錬磨の幻想はその回避法や停滞方法にも長け、結果として戦争は血の流れない形だけの戦争状態があちこちで継続されていた。
 だがそんな静けさが破られたのはつい最近。通称『ジーニアスゲイム』によって鉄帝軍は将軍ザーバのもと大規模南下作戦を決行。これに対応すべく前線アーベントローと領地に王国軍が派兵され、熾烈な戦いが引き起こされた。
 だがそんな戦いも今や過去。
 資源に限りのある鉄帝は既に兵を引き、人員の無意味な摩耗をよしとしない王国軍もとっくに兵を引き上げ荒野は風がふくばかり………………で、あるかに思えた。

「殺せ! 一人も通すな!」
「蹴散らせ、このエリアを確保すれば我が軍の優勢なるぞ!」
 鉄帝軍の兵士たちは迫撃砲を放ち、幻想軍は剣と杖をもって馬を走らせる。
 爆発に巻き込まれ落馬する兵士。
 銃撃が降り注ぎ兵士が血まみれになってデスダンスを踊った。
 一方で馬で突撃した兵士は敵兵を槍で貫き、天高く振り上げて叫んだ。
「将軍の仇だ! 目に物みせてくれる!」
 ここは『知られざる戦場』。
 何ヶ月にもわたり情報の断絶が行なわれ、両軍は互いに一進一退の攻防をいつまでもいつまでも繰り返していた。
 不思議と両軍の物資はつきること無く継続的に投入され続け、人員は何も知らされぬまま派兵され訳も分からず突撃していく。
 死が死を呼び、それでも止まらず戦場は泥沼化の限りを尽くしていた。
 結果として周辺の村々は壊滅。鉄帝幻想双方が資源と人員をいたずらに食いつぶしていた。
 なぜこの戦争が終わらないのか。なぜ物資や人員が補給され続けているのか。
 誰も何も分からないまま、『R』の文字が刻印された兵器箱を今日も開ける。

●死を金で買う方法
「『R財団(アール・ファウンデーション)』を知っていますか」
 ビジネススーツに身を包んだ情報屋の男が、眼鏡を指で押してそう述べた。
「兵器メーカーのアールインダストリが中心となった財団で、他組織への資金や物資で支援し、当人の目的を達成させるという活動をしています。
 ランプの魔神でない以上、目的は必ずある。多くはより利益を回収するためのビジネスですが、中に数件……『世界人口の適正化』を目的とした事業が存在しています。
 そのひとつがこれ――『知られざる戦場』計画です」
 R財団は鉄帝と幻想両軍に物資と資金を提供し続け、継続的に人員を泥沼化した戦地に送り込み死なせ続けるという計画を進めていた。それが『知られざる戦場』計画である。
 勿論、両軍の将軍や一部の兵士は計画や意図に気づき、戦争をやめるように訴えたが、そうした者が現われるたびに『黒いキメラの青年』が現われ当人を抹殺してしまうという。
 気づいた外部の者が物資供給を止めることも計画したが、同じく『黒いキメラの青年』に襲撃を受け失敗。
「この『黒いキメラの青年』はR財団の強力なエージェントであると見られています。
 調べたところ、名は――」
 情報屋は赤いペンで名が走り書きされた白黒写真をテーブルに滑らせた。
「イペタム」
 その名と顔を見て、テーブルについていたイレギュラーズのひとり――チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)は目を見開いた。
「あいつが……?」
「依頼主からのオーダーは、このエージェントを戦場から排除することです。
 次回物資補給の護衛として彼が配置されているはずですので、そこへ襲撃をかけてください。
 よろしくお願いします」

●『こんな世界壊してやる』
 揺れるジープ馬車の中で、黒いキメラの少年イペタムは座席につき、じっと足下を見つめていた。
 子犬が彼の足にすりよっては、小さく声をあげている。イペタムは子犬の頭を撫でて、ビスケットのかけらをやった。
「きたぞ、イペタム。仕事だ」
 運転席から声。
 イペタムは『ああ』とだけ返事をして、ジープ後部の幕を開いた。
 馬をかり幻想の兵が接近してくる。物資補給を止めるために攻撃を仕掛けてきたのだろう。
 イペタムの目に、暗い影がおちた。
 幻想の国で見た貧富の差と偏見。足蹴にされる子供や燃える教会。
「こっちの世界もクソッタレだらけじゃねえか……」
 イペタムはジープから飛ぶと、悪魔のような翼を広げて飛翔した。
 マジックライフルを装備した幻想兵士たちの射撃を、バレルロール回避と槍のような尻尾による打撃でしのぐと、毒の爪を振りかざした。
「ぶっ壊してやりたいぜ!」
 イペタムの爪が、兵士の喉をかききっていく。

GMコメント

■■■オーダー■■■
 R財団のエージェント『イペタム』を撃退することが、今回のオーダーです。
 相手は不利になれば撤退するものと思われます。
 捕縛を狙う場合は全滅させる必要があり、難易度が跳ね上がるため推奨しません。

 物資を護衛しているR財団の馬車を直接襲撃する作戦になっています。
 荒野の戦場でお互い馬車を止め、戦闘に入ることになるでしょう。

■■■エネミーデータ■■■
・イペタム
 迫害や肉親の死を経験したことで「こんな世界壊してやる」という思想に目覚め、魔獣のキメラとなったウォーカーです。
 特に人間(PC種族全般を指す)を嫌悪しており、中でもチャロロに対しては特別な憎悪を持ちます。この世界に召喚されていることを知らないこともあり、もし接触したならば優先的に狙われると思われます。詳しい関係性はチャロロ氏本人から聞いてみてください。
 飛行能力、高い回避・防御能力。猛毒BSを用いたダメージが特徴です。
※チャロロ・コレシピ・アシタ (p3p000188)の関係者キャラクターです

・Rエージェント×10
 R財団から派遣された兵隊。
 マジックライフルや魔法剣など、魔術チップを用いた練達製の武器で武装しています。
 統率はとれていないが個々の戦闘経験は多いらしく奇策が通じづらいようです。

 武装は統一されておらず、ヒーラーやアタッカーなど役割分担がなされています。
 ヒーラーから倒せれば楽ですがそれは相手も同様なので、しっかりと連携を組んでくるでしょう。
 PC側の持ち味を活かし、連携を高め、しっかりと準備をして挑みましょう。

  • <R>キメラ青年と知られざる戦場完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月23日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
ルナール・グリムゲルデ(p3p002562)
片翼の守護者
シラス(p3p004421)
超える者
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
津久見・弥恵(p3p005208)
薔薇の舞踏
藤堂 夕(p3p006645)
小さな太陽
レミア・イーリアス(p3p007219)
墓守のラミアー

リプレイ

●終わらない戦争と知られざる戦場
 森を走り抜ける箱馬車。
 その御者席でハンチング帽を被り直す『小さな太陽』藤堂 夕(p3p006645)。
 情報によれば、これから襲撃する予定の馬車はこの森を抜け、『知られざる戦場』の幻想側拠点へと物資を運び入れる予定であるらしい。
 先回りをして馬車をとめ、物資の供給を絶つのが今回の狙いだ。
 もちろんこの一回だけでなく、この先何度も物資供給を差し止めて戦場を枯渇させるのが真の狙いであり、その最大の邪魔になっている『イペタム』とそのエージェントチームを撃破するのが最大のポイントとなる。
「つまりは責任重大、ってわけですね」
「終わったはずの事が続いてるっていうのが俺からすれば碌でもないわけだが……」
 『紅獣』ルナール・グルナディエ(p3p002562)が馬車の中で深くため息をついた。
 人類を減らしたいなら、大きく分けて三つの方法があるという。
 ひとつは破壊力の大きすぎる爆弾をばらまくこと。
 次に感染力の強すぎる病をばらまくこと。
 だが最も効果的なのは、お互いにずっと殺し合わせ続けることらしい。
 憎しみの連鎖は歯止めがきかず、供給され続ける物資によって人は死に続ける。戦場にも戦争にも価値がないと気づいていても、戦うことをやめられなくなるのだ。
 その裏で糸を引き、絶えず物資を送り続けているのが……。
「アール・ファウンデーションってかあ?
 幻想を玩具みてえに使いやがってよう。
 お代はきっちり頂くぜ、テメーらの血で贖えってんだ」
 馬車の中で悪態をつく『閃翼』シラス(p3p004421)。
 『墓守のラミアー』レミア・イーリアス(p3p007219)が蛇の尻尾をゆったりと動かして唸った。
「世界の管理なんて……傲慢ね……。でも、私は……嫌いじゃないわよ……。
 自ら間引きだなんて……殊勝じゃない………ふふふ、ふふふふ……」
 あやしく笑うレミアにあえてリアクションを返さず、『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は目を閉じた。
「リッチモンドの影を追って、チャロロさんのお知り合いと遭遇とは……人はどこで繋がっているか、分からないものですね」
 そう言ってから、『魔動機仕掛けの好奇心』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)へと視線を移した。
「知り合い……っていうのかな。何度か戦ったことがあるだけなんだ、オイラも」
 そうは言いつつも、どこか放っておけないという顔でうつむくチャロロ。
「イペタム……きみがどうしてこんなことしてるのかオイラはまだ知らないけど……」
 そこまで呟いて、チャロロは口を閉ざした。
 彼の開いた資料の写真を、『矛盾一体』ナーガ(p3p000225)が横から覗き込む。
「きめら? 『せんせー』がよくつくってたなあ!
 ドーブツさんをまぜるんだっけ? ……ムズかしいことはわかんないや」
 アイしてあげればいいんだよね! といつものように無邪気な笑顔で斧を撫でた。
 ぱたん、と資料を閉じる『銀月の舞姫』津久見・弥恵(p3p005208)。
「こんな世界……ええ、理不尽で残酷でつまらない世界です。
 でも、嫌いになる理由にはなりませんね。
 血と汗と泥に塗れてままならなくても胸を張って歩いて行きたいですから」
 馬車の御者席から合図が来た。
 『ぶつかるぞ』という合図である。
 弥恵は車内のバーを握りしめ、強く目を見開いた。
「そういう世界を照らしてこその月の舞です」
 ローレットの馬車が、R財団の馬車へと横から衝突した。

●Rの使者
 森中の激突。
 木々の間から滑るように現われたローレットの箱馬車は、物資運搬中のR財団馬車を無理矢理横転させ、自信もまた派手に樹幹へぶつかった。
 しかし衝突をそもそも予定していたシラスたちは衝突前に馬車から離脱。
 シラスは土の上を転がって体勢を整えたチャロロの背を、ばしんと強かに叩いた。
「アイツは任したぜ! チャロロ!」
「……うん!」
 シラスの打ち込んだ魔力がチャロロの装甲を増加させ、より強固な炎を燃え上がらせた。
「へえ……お前か、『赤いの』」
 倒れた馬車の扉が蹴り飛ばされる。
 吹き飛んだ扉が木にぶつかってひしゃげ、馬車の中からは魔物のごとき足が伸びた。
 毒々しい爪、翼、そして角。
 シルエットだけですら人間と疑うようなその姿は、間違いない。
「イペタム……」
「またオレの邪魔をするんだな。人間なんかとつるみやがって。てめぇもオレと同じのくせによ……!」
「まって、イペタム話を――」
 手を翳すチャロロに、イペタムは発砲された弾丸の如く突撃した。
 チャロロの身体を掴み、後ろの木をへし折りながらかっさらっていく。
「チャロロ様!」
 振り返る弥恵――が、瞬発的にその場から跳躍。
 スピンジャンプをかけて飛来するライフル弾を回避した。
「あのキメラ野郎、また先走りやがった」
「文句を言うな、実績が全てだぜ」
 馬車から首をごきりと鳴らして降りてくるエージェントたち。
 彼らは新田と似たような高級背広を身に纏っているが、あれだけの事故にもかかわらずさしたるダメージを負った様子も、そしてスーツが傷ついた様子もなかった。
 それだけ防御力の高いスーツだということだろう。
「先に、こちらの相手をする必要がありそうですね」
 舞う準備を素早く整える弥恵。
 シラスはそれに合わせるように、フィンガースナップで意識のリズムを破壊する音を打ち込んだ。
 一方バレエダンスの要領で片足回転を繰り返す弥恵。
 その美しい振る舞いに、スーツのRエージェントたちは深く興味をそそられたようだ。
 腰に下げた柄だけの剣をとり、魔法の刃を展開する。
「こっちよ……さあ……私のもとへ……」
 それに乗じて、レミアも馬車からエージェントが広く展開するより早く『ファシネイション』の誘惑魔法をしかけていった。
 怪しく光るレミアの目に、スキンヘッドのエージェントが強く意識を向ける。
「キメラ野郎は勝手にやるだろう。こっちはこっちで済ませようぜ」
「チッ、めんどくせえ」
 エージェントたちが弥恵を中心に襲いかかっていく。
「これは……なかなか心強い布陣ですねえ」
 夕は自分の安全が守られたことに一旦安堵し、頬をぱちんと叩いて気合いを入れ直した。
「それじゃあ早速、『戦争反対アタック(うるせえせんしゃぶつけんぞ)』です!」
 夕は両手を高く掲げると戦車を空中に召喚。そのままエージェントたちへと投げつけた。
「ぐう……!」
 後から飛び出してきたエージェントが鋼の拳を握りしめ、飛来する戦車を思い切り殴りつけた。
 拉げ、爆発する戦車。
 黒い爆煙の中を突き抜けて、足をナイフに改造したエージェントが鋭い跳び蹴りを繰り出してきた。
「あはっ……!」
 跳び蹴りをまるで避けもせず、自らの手で受け止めたナーガ。
 手は恐ろしく切り裂かれたが、まるでそれが良いことであるかのように笑い、そして相手の足をナイフごと掴み取って強引に振り回した。
 ジャイアントスイングによって木に叩き付けられる女エージェント。
「油断するなよ。奴らローレットだ。手慣れてるぞ」
 バーボンを瓶のままラッパ飲みし、エージェントがマジックライフルを乱射してくる。
「ルナール様、うしろへ」
 寛治は傘を広げて弾幕を防御すると、傘の持ち手に展開したトリガーをひいて内蔵サブマシンガンを乱射。
 彼の後ろに身を隠していたルナールはすらりと『幻刃・蒼碧』を抜き、タイミングをあわせてエージェントへと突撃した。
 繰り出される『フェアウェルレター』を、エージェントはライフルのボディで受け止める。
「チャロロ様が心配です。ここを任せても?」
「やれやれ、仕方ないな……」
 ルナールは肩をすくめ、『早く行け』のサインを出した。

●事情と理由と引けないワケ
 森の中を駆け抜ける真っ赤な炎。
 それを追いかける黒い閃光が、ジグザグに木々を切り裂いていく。
「止まれよ『赤いの』!」
 繰り出された毒々しい爪がチャロロの顔面へ迫る。
 装甲で強化された腕を翳してはねのけると、自らの炎を拳に宿して叩き付けた。
 魔獣の拳に闇のオーラを纏わせて対抗するイペタム。
 衝突した拳と拳。
 にらみ合う瞳と瞳。
「随分弱くなったよなあ、『赤いの』!」
「お互いさまだよ。けどオイラだって、ここにきてから鍛えなおしてたんだ!」
 呼び出した剣が真っ赤に輝き、イペタムへと叩き付けられる。
「なんでこんなことするんだ、イペタム!」
「お前に分かるかよ、オレの見てきたものが!」
「ああ、わからないよ。
 でも壊す以外の選択肢だってきっとあるはずだ。
 いつかは変わっていけるって……この世界も、元いた世界も!」
「あのクソッタレな世界がなんだって……!?」
 イペタムの尻尾が巧みに動き、チャロロの脇腹に突き刺さる。猛毒が流し込まれ、チャロロはがくりと膝を突いた。
「人間なんてみんなクソだ。あっちの世界もこっちの世界も、みんなクソだ!
 お前もそう思うだろう!? なあ『赤いの』ォ!」

 一方、弥恵は巨漢のエージェントが繰り出す鋼の拳を踊るように回避していた。
 手で受け、回転で受け流し、相手の背後に回り込む。
 まったく手応えのないパンチに消化不良をおこしたエージェントは顔に怒りの表情を浮かべ、さらなるパンチを叩き込もうとエネルギーをため込む――が、その隙に弥恵は『急の段・月華繚乱』を仕掛けた。
 彼女の動きが、振りまく香りが、エージェントの動きを著しく弱らせていく。
 レミアはさらなる『ファシネイション』を仕掛け、スティムアウトパックを注射していたエージェントを誘引。
 恐ろしい殺人術によってエージェントの肉体を破壊し始めた。
「女どもに気を取られるな。構えば構うほど損だぞ!」
 ライフルを鋭く構えたエージェントが夕に狙いをつけて連射。
「きゃわ!?」
 直撃をくらった夕はもんどりうって転倒し、傷口を押さえて木の裏へと転がり込んだ。
「ごめんなさい当たっちゃいました」
「気にすんな。流れはこっちに来てる」
 シラスはピンと金色のコインを親指で跳ね上げると、その様子に一瞬気を取られたエージェントのもとへ素早く接近。親指による突きで喉を的確に破壊した。
「ぐ……お……!」
 喉を押さえ、呼吸困難に陥ったエージェントは仲間に合図をして撤退を始めた。
「摩耗が酷いな、これはこのままやるしかない、っと」
 その一方でルナールが相手の後ろに回り込み、エージェントの身体を背中から剣で貫いた。
 引き抜いて蹴り出す。
 本来なら糸の切れた人形のように倒れて動かなくなるはずだが、エージェントたちは顔をしかめた程度で済ませ、よろよろと後退していった。
「まってね。いまアイしてあげるからね!」
 追いかけるように飛びかかるナーガ。
 しかし横から飛びかかった女エージェントが剣の足で腕を貫き強制的に動きをとめると、もう一方の足でナーガの顔面を蹴りつけた。
 血を吹きのけぞるナーガ……だが。
「いっぱい、アイしあえるね」
 腕を貫いた剣を斧でたたき折り、バランスを崩したエージェントに追撃にスタンピングを仕掛けた。
「クソッ、上司にどやされる」
 エージェントの一人が煙幕弾を放り投げ、牽制のライフル射撃をばらまいた。
 強制的に押しのけられたナーガの下から女エージェントを回収し、エージェントたちは煙に紛れて逃げていく。
「随分と用意がいいな……」
「ま、でかい兵器メーカーがバックについてるくらいだしな」
「チャロロさんたちが心配です。行きましょう!」
 夕は痛む傷口を手で押さえながら、チャロロや寛治たちを追って走り始めた。

「お前もそう思うだろう!? なあ『赤いの』ォ!」
 イペタムの拳がチャロロの顔面へ迫ろうとした、その瞬間。
 銃声によってイペタムは吹き飛ばされた。
 否、寛治がステッキ傘から放った特殊弾頭が命中し、激しい衝撃によって飛ばされたのだ。
 翼を広げ、姿勢を整えるイペタム。
 寛治は傘をライフルのように構え、まるでマシーンのような正確さでイペタムの額に狙いを定めたまま機敏にチャロロのそばへと寄った。
 無事を確認し、それ以上は何も言わない。言う必要がないと分かるからだ。
 その代わりに、チャロロはゆっくりと立ち上がり、手を翳した。
「世界も人も変われるんだ、イペタム。
 オイラだって理不尽なものをこの世界で沢山見てきた。
 ひどいことだって、した……。
 それでもオイラは、守る側でありたいんだ」
「『赤いの』、てめぇはいつまで……」
「じゃあ、こういうのはどうですか?」
 包帯でぐるぐる巻きにした腕を庇いながら、夕が仲間たちと共に現われた。
「イペタムさん、チャロロさんと一緒にローレットで働いてみませんか?」
「…………」
 イペタムの表情に、明らかな迷いが見えた。
 しかしそれを意図的に覆い隠すような憎しみが、表情を埋めた。
「てめぇらは分かってない。こんな世界、ぶっ壊した方がいいんだ。
 周りを見てみろ。いつまでも戦争を続けてる国。貧乏人から搾取する貴族。戦うことしか考えない略奪者。引きこもって何もしない連中。金で誰にでもなつく傭兵。海賊を飼ってる政治家。宗教狂いの魔女狩りども。自己中なマッドサイエンティストたち。どいつもこいつもクソッタレだ。
 こいつらが半分でも減れば、少しは考えも変わるんじゃないのか!?」
「そう――言われたのですか? 『R』に」
 傘の銃口を向けたまま、寛治は冷静に述べた。
「……クソッ!」
 イペタムは悔しげに歯噛みすると、ポケットから取り出した煙幕弾を地面に叩き付けた。

●『絵図を書く者』
 食事をしそびれたと言った様子で、倒れた馬車の上に腰掛けるレミア。
「何処の世界も戦争やら争いは尽きないもんか、やれやれ……」
 ルナールが取り出した煙草をくわえ……た途端、素早くジッポライターをこすったシラスがルナールの煙草に火をつけてやった。
 カチンと蓋を閉じるはずみで回転させ、手の甲に乗せるシラス。
「奴らなんだったんだ? 倒したと思ったら手早く逃げていくし……装備も良かった。R財団(アール・ファウンデーション)ってのはそんなに金と技術があるのかよ」
「んー……?」
 ナーガは『ぜんぜんわかんない』という顔で首を傾げ、腰掛けた馬車の上で足をぶらぶらとさせている。
 一方でチャロロは倒れた馬車の中を探っていた。
 重要そうな物資は殆ど出てこなかったが、その中に……。
「みんな、これを見て」
 差し出されたのは小さなメモ。弥恵が受け取って凝視してみると、短いワードが走り書きされていた。
「特徴的な字ですねえ……む……む……むぎ、ん?」
 どうやら破られた紙の半分であったようで、もう半分を持って寛治が現われた。
 二つの紙をあわせてみる夕と弥恵。
「「『ムギンのように』」」
 寛治が、眼鏡を外し眉間を揉んだ。
「それが……次なるヒント、ということですか」
「ヒント? この計画はイペタムが進めてたものじゃないの?」
 チャロロの言葉に、寛治は小さく首を振った。
「見たところ、彼は純粋な少年でした。戦争を意図的に長引かせる計画を練り実行できるようなタイプじゃあない。つまり、この『知られざる戦場』には計画者が居るのです。ジーニアスゲイムを再び引き起こそうとするような、何者かが……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 ――活躍により『知られざる戦場』の手がかりを掴みました!

PAGETOPPAGEBOTTOM