シナリオ詳細
死んだというのは聞かないが
オープニング
●消息を探して我々が向かったのは
鉄帝は、力を重んじる国家である。力を求めるためなら命だって――基本的には惜しいが、賭ける価値あり、とまで考えている連中が大多数である。
とはいえそこまで命を無駄にしたり、犬死にを果たす者は多くはない。死ぬほどひどい怪我、なら日常茶飯事であろうが。
昨日まで競い合っていた友人が今日は鍛錬の旅に出て、そのまま消息知れずになる、なんてことも。無いとは言えないだろう。
そんなわけで、鉄帝の下町で男が1人消息を断った。名はクロイツェンと言うらしい。
情報屋から詳しくは現地で、と伝えられたイレギュラーズ一行は、酒場で依頼人、クロイツェンの親友を名乗るバネットという男に会うことになっていた。
――のだが。いつになってもバネットは現れない。昼間から待って半日。すっかり日が暮れたあたりで、酒場の店主が気遣わしげに問いかけてくる。
「バネットの知り合いか」、と。曖昧に返事を返した彼らに、店主はやれやれといった様子で口を開いた。
「クロイツェン、って男がいる。そいつは最近、首都から少し離れた集落で割の良い鍛錬ができるって噂を聞いて出て行っちまったんだ。連絡を欠かさないまめな男だったんだが、あいつは一週間、10日経っても音沙汰なしときた。バネットはそいつが心配になって探ってたようだが……ローレット? だかどこだかに連絡付けた直後に、『クロイツェンを追いかける』って言って出て行っちまった。依頼した連中を待ちゃいいのになあ……」
すいません、その依頼された相手は我々です。
そう言いづらい状態になった一同に、店主は地図を渡して「探してきてくれ」と頭を下げた。捉え方によっては二重に依頼を受ける格好だ。
店主からの報酬はさほど期待できないだろうが、放って置くわけにもいかない。イレギュラーズは、地図に従って郊外の集落跡へと向かうのだった。
●モラルは消し飛んだ
その頃。
鉄帝首都から少し離れた集落跡……その中心部で、蒸気をあげながら猛烈に稼働する影があった。巨大機械、古代の遺産というやつだろうか?
そこから吐き出されるのは、数種類の顔をした、様々な姿の自動機械。オールドワンを模した者から、頭だけついた歪な機械まで様々だ。
一様に破壊的な外見、威圧的な雰囲気を隠しもしない。
そして、その機械ユニットの中心部に、数名の人々が取り込まれているのが見えるだろうか?
イレギュラーズが見れば、うち1人が依頼人・バネットであることを見て取れるだろう。
強くなれる、まあ間違いではない……『彼の顔をした別のモノが』、であるが。
- 死んだというのは聞かないが完了
- GM名ふみの
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年06月20日 21時35分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「鉄の人形……蒸気の遺跡……。あぁ、ここは本当に違う世界なのね…………」
『墓守のラミアー』レミア・イーリアス(p3p007219)は、物陰から見た相手――蒸気を吐き出す巨大機械と、そこから生み出される人形達の姿にどこかうんざりとした表情を見せた。
機械文明との付き合いが乏しい世界の住人にとって、鉄帝のありようというのはなかなかどうして、理解し難いものがある。
「鉄帝は、機械が多くて、少し息苦しいですね」
『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)は混沌の住人であるが、彼もまた機械文明とは疎遠の立場にあった者。深緑とは明らかに毛色の違う、相容れないこの国の空気はさぞ息苦しかろう。……当然、彼がその程度のことで退く心持ちでないことは明らかなのだが。
「おー、へんてこ機械! 人取り込んでそっくりキカイ人形作るのか?」
「あそこで捕まっている方、間違いない依頼人の方ね……」
『原始力』リナリナ(p3p006258)は機械の異様さに興味が尽きぬ様子であった。細かい理屈はレミア同様、理解し得ぬだろうが……今は敵であることだけわかれば良い。機械を凝視した『灼鉄の聖女』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は、手持ちの人相書きと生体保存シェルに繋がれた人物とを見比べ、それが依頼人であることを察した。というか、ここにいることは間違いなかったのだが、あんまりにもあんまりな帰結ではある。
「仲間想いなのは良いことだけれど、大人しく待っていて欲しかったですわー……」
「仕方ないですよ、そういうものなので。……とはいっても彼らも国の礎です。返してもらわなければ」
ヴァレーリヤのぼやきに応じた『特異運命座標』オリーブ・ローレル(p3p004352)は、巨大機械に厳しい視線を向ける。故郷たる鉄帝をことさら大事に思う彼にとって、国家の礎たる人々の窮地は無視できぬものであった。飾り気のない長剣を構え、今にも飛び出していきそうな危うさを秘めた彼の『若さ』は、或いは危うさすら感じられる。
「鉄帝の民は力、特に個人の武力を愛好するとはいえ……これが認められてしまうのは何か違うわね」
「お国柄、というのでしょうか、この猪突猛進っぷりはー」
『ひとりの吸血鬼』アリシア・アンジェ・ネイリヴォーム(p3p000669)と『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は、依頼者の短絡さ加減に呆れを覚えつつ、しかし助けることには前向きだった。力こそ全て、その方針はともかくとして仲間に対して己の危険を顧みない態度は無謀であれど快いものだ。
「強くなりたくても、これじゃ、ただの、かりもの……」
『迷子の雪娘』霜凍 沙雪(p3p007209)は己を鼓舞しつつも、ぽろりと不安を零す。戦闘経験は多少なりあるが、それとこれとは話が別だ。
……力を求めるのは彼女も同じ。現状を憂う心もまた然り。だが、巨大機械が生みだす『力』と彼女の望む『力』では天地の差がある。現状を維持するためのものか、或いは今を打開するためのものか。
「リナリナ、やることわかる! 取り込まれた人救出! へんてこ機械破壊! ダイジョーブ、リナリナ任せる!!」
リナリナは『掘り出し物』を構えると、巨大機械の前に躍り出る。多数の機械人形達がその動きを邪魔しようとするが、呼応して動き出したイレギュラーズを無視できるわけもない。
野生児特有の、後先考えずに動く初動の早さが状況に味方した。
……そして彼女は、空を飛ぶ。
●
リナリナが派手に宙を舞う傍ら、アリシアは堂々と正面から歩を進め、名乗り口上を上げることで近場の機械人形達の気をそらす。
引きつけられ、動きの乱れた機械人形達は、続けざまに叩き込まれる猛攻をまともに受け止めることを強いられる。無論、ユゥリアリアの歌声であれば相当に遠くまで届くのだから、実質機械人形すべてが、であるが。
「単純一途なのは、この国だと機械も一緒なのかしらー?」
「一途というか、正直なのは否定できないですけど……!」
オリーブは戦鬼暴風陣でもって中央から突撃し、次々と機械人形を切り裂いていく。彼とて鉄帝の者だ。少なからず好戦的だったり熱心な気性があるだけに、ユゥリアリアの言葉は否定できない。冷静な部分は、戦いで見せるしかない。
「まだまだ余裕がありそうですね! なら、これはどうでしょうか?」
エストレーリャがロベリアの花を放ち、オリーブが傷つけた機械人形へ追撃を叩き込む。多少は頑丈で正直攻撃の通りはよろしくないが……それでも、2体ほどを行動不能に陥れ、3体程度が浅からぬ傷を負っていた。
健気にも自己修復を図ろうとする個体、修理に回ろうとする個体もいるが、回り込むように動いたレミアの血に斬り裂かれ、敢え無く動きを止めた。それでも、相打ち覚悟で放たれた一撃は、しっかりとレミアの胴へと達している。
「レミア、貴女大丈夫ですの!?」
「大丈夫……よ、ただ……」
ヴァレーリヤの切迫した問いかけに、レミアはしかし呆れるほどにゆっくりとした動きで刃を引き抜き、投げ捨てる。痛みのあまり、とかそういう次元ではなく。単純に、自分が攻撃を受けた、通ったという事実に向き合えないでいるかのようだ。
「ここまで……弱くなって……いたのね。忌々しいわ……」
その答えに安堵するいとま無く、機械人形達は次々と襲いかかってくる。
アリシアは群がってくる相手を軽くいなしつつ、隙を見て大毒霧を放つ。威力は劇的なものではないが、毒を受けた機械人形達は見るからに動きを鈍らせ、判断力が低下しているように見受けられた。
……アリシアに敵意を向けていなかった個体とて似たようなものだ。ヴァレーリヤに特段の警戒を払わなかった時点で、彼らの敵を見る目というのは錆びついていたとみえる。
「『主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え』……貴方達を憐れむ余裕はありませんわね!」
なんとも物騒な言葉と厳かな聖句のコントラストを添え、ヴァレーリヤはメイスを振り上げて炎と共に振り下ろす。倒すに躊躇のいらない相手。撃破することに罪悪感の伴わぬ相手。ああ、なんと幸運な巡り合わせであろうか。
「みんなのおかげでマシンあーむに手が届くゾっ! 攻撃っ!」
機械人形達は、イレギュラーズの活躍もあって順当に数を減らし、リナリナへと向けられる戦力は皆無になっていた。それでも、リナリナの剣はマシンアームに触れる距離ではない……なかったはずだ。彼女の気合をこめた声に合わせ、刃が振り下ろされたのに合わせ。あらぬ場所でマシンアームが破砕したのだ。本当に、本人以外には何が起きているのかさえ不明瞭だ。彼女らしい猪突猛進ぶりが、思わぬ戦果をもたらしたのだ。
「じゃま。あっち、いって……!」
他方、残っている機械人形達は手近な相手へと向かっていく。沙雪は距離を取るべく1体を衝術で吹き飛ばし、緊張で乱れる呼吸を整えつつ後ずさる。
逃避のための後退ではない。次の一撃に繋ぐため、有利な距離へと動いたのだ。恐らくは彼女の思考を埋めるのは、群がる敵意の波に対する純然たる恐怖であろう。だが、敵意を撒く機械人形の顔は、依頼人の顔であり、救助対象の顔である。
(たたかえる、たすけなきゃ……逃げ、ない)
思考を整理する間にも、新たな機械人形は生まれてくる。足を止めている暇はない。深呼吸をひとつして、彼女は前を向き――。
「どっせえーーい!!!」
「俺の同胞を、返せぇぇぇーっ!」
目の当たりにしたのは、フルスイングで機械人形を叩き壊し、いきおい、マシンアームをぶち壊したヴァレーリヤと。
生体保存シェルに長剣を突き刺したオリーブの、常ならぬ激情が篭った声と勢いであった。
●
「お二方、装置の動きに注意して! 救出するならシェルの徹底的な破壊を!」
アリシアは毒で動きが鈍った機械人形を叩き壊しつつ、ヴァレーリヤとオリーブへ声をかける。ヴァレーリヤは機械人形の掃討に力を尽くしているが、さりとて巨大機械の捕獲対象を考えれば彼女らに安全圏はないと思えた。
「この人達は、絶対に返してもらう! それまでは油断しない! ……です!」
オリーブは感情的になる余り、口調が砕けていたのを自覚し、慌てて訂正する。だが、手元というか鍛えた技術は正直極まりなく、次々と叩き込む攻撃は確実に生体保存シェルを破壊していく。
マシンアームは? 当然、彼を確認したからか喜び勇んで群がりそうなものであったが……一向にその気配はない。
「こっちは僕達が引き受けます! 思いっきりやっちゃってください!」
「おー、リナリナに任せろ! 連携大事だナ!」
機械人形が激減したタイミングに合わせてエストレーリャが前進し、リナリナと連携してマシンアームを各個撃破していったのである。無論、数が数だけに楽な話ではないが……2人だけではない。
「元の世界なら、多腕の5本や6本気にもならないというのに……本当に忌々しいわ」
レミアもまた、はじめての実戦とは思えぬほどに果敢に戦い、戦果を挙げていたのである。元の世界での生き方が闘争に傾いていたというのも、大きいのだろうか?
「人形も大分減りましたけどー、イケイケで戦っている割に手強いのが困り物です、ねー……」
ユゥリアリアは深呼吸をひとつして、短刃を持ち上げる。彼女とて経験は重ねた。仲間の治療も十分に回っている。それでも、体が思い通りに動かないのは――魔力を猛烈な勢いで消耗してなお、己の攻撃を防ぎ、庇いあいに走った機械人形の知恵に翻弄されたからだろう。
それすらも気に留めずに破壊の限りを尽くす仲間が異常なのだ。彼女は十分に対処している。――一瞬だけ空いた意識の間隙に滑り込むように、機械人形の動きがおかしくなる。母体となっていたオールドワンが救出されたのか? わからないが、このままでは避けられそうにない。
「ガオォォォ~~~!!」
直後、彼女から機械人形を引き剥がしたのはリナリナの咆哮だった。……咆哮? 然り、咆哮(リナリナ基準)である。気抜けしそうな音に反して、破壊力と衝撃力はかなりのものだったらしく、火球となった機械人形の破壊力が、ユゥリアリアの身を打つことはなかった。
「1人、2人……! 霜凍さん!」
「だい、じょうぶ……まかせて……」
オリーブが3つ目の生体保存シェルに刃を突き立て、沙雪が救出された者達を引きずっていく。巨大機械が自爆を試みる前に、シェルを叩き壊し、救出を終え、後退する。そうでなくても、この機械は破壊する。
古代文明の忘れ形見が今の鉄帝に食らいつき、傷つける。オリーブにはそれが許せない。過去の物が自分達の今を食いつぶしていいワケがない。自然と、力が籠もることも仕方あるまい。
「まだまだ壊したりませんかしら! なら、こうして差し上げますわ!」
ヴァレーリヤは、新たに生み出された機械人形もろともメイスで串刺しにし、生成装置に炎をくべる。
「味は不味いと思うけど、あの機械、遠慮なく食べていいよ! やっちゃえ!」
次いで、エストレーリャが喚んだ妖精は彼の牙となって生成装置を引きちぎり、雄叫びを挙げた。
「そのシェルもボロボロね……もらうわよ!」
アリシアは紅姫を構えて突進し、ヴァルキリーレイヴによって最後のシェルを叩き壊す。直後、中央ユニット部分が赤光を放ち始め、状況が切迫していることを伝えてくる。
……間違いない。自爆の兆候だ。
「ああ、こんな爆発も耐えられないなんて――」
「それ、どころじゃ……ない……!」
レミアが憎々しげに巨大機械を睨みつけるのを、沙雪が慌てて引っ張っていく。レミアの過去が恐ろしく気になるところだが、それは今回知るべき話ではない。
たっぷり数十秒のアラートが鳴り響いてから、巨大機械はそのサイズ感にふさわしい爆発を遂げる。周囲を襲った衝撃と熱は、辛うじてイレギュラーズの背を僅かに叩くのみで終わる。何とか、依頼人と救助対象を助け出した、というわけだ。
「おー、黒いちゃん発見! どこが黒いんだ?」
リナリナは、依頼書で見たクロイツェンを思い出し、彼の顔をぺちぺちと叩く。意識を失っていた彼は、幸運にもその行為で意識を取り戻す。
「そうか、俺はあの機械に捕まったのか。じゃあ君達は、ローレットの?」
「そして自分は、この国の者です。ひとまず、助かってよかった」
オリーブは気遣わしげに依頼人の手をとるが、背後に控えている仲間達はそれだけで済ませるつもりはない、という風情。当然といえば当然なのだが。
「言いたいことは一杯ありますけど、まずは酒場で一杯奢って貰って、それからですわよ!」
有無を言わさぬヴァレーリヤの口調に、クロイツェン……と捕獲されていた面々は、ただただ頷くしかないのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
個別戦力はさておき、防御技術をブチ抜く破壊力の猛攻は流石といった感じでした。
範囲攻撃多いな、単体攻撃も馬鹿になんないな、え、初依頼……うん……?
とかなんとか色々ありましたけど、概ねグッドだったと思います。そして鉄帝民に負けず劣らず勢い旺盛な内容で私は満足なので、ご満足いただければ幸いです。
MVPは戦闘面も熱量も十分感じられた貴方へ。
依頼を達成させる動機はとても大事ですね。
GMコメント
強くなりたい……(空耳)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●達成条件
中央ユニットの破壊(機械人形の全滅は必須ではない)
●中央ユニット
古代遺跡から這い出たのか、集落で隠れていたのか詳細は不明。
巨大な円筒を二重に重ね、節足類のような機械アームを数十本ほど取り付けた外見をしている。
クロイツェン、バネット、その他鉄帝の民(オールドワンのみ)をユニット内の生体保存シェルに繋ぎ、彼らを模して機械人形を生み出し続けている。
基本的に生体ユニットの製造がメインだが、危機的状況が近付けばかなり強力な自爆攻撃(至域)を行う。できれば人質を救出してから集中攻撃を仕掛けたほうがいいだろう。
部位としてはメインユニット、生成装置、生体保存シェル×5、マシンアーム×12。
生成装置のダメージ状況に合わせて、機械人形は毎ターン1~5体増える。
●機械人形(初期20)
中央ユニットから生み出された人形達。5人の顔を貼り付けたユニットが4体ずつ、20体存在する。
攻撃のバリエーションは中遠をメインに攻撃してくる個体、至近~近の攻撃主体、エネルギー供給(H/A回復)などが存在する。防技やや高め。
生体保存シェルから人質を救出すると、対応した機械人形は全て動作を停止する。3ターン後自爆する。
基本的にHPを消耗させる系統のBSを集中して使用する。
●戦場
集落跡。機械人形が結構壊しているため見晴らしがよくなっている。
逆にいうと、隠れて不意打ちとか先制は難しい。
細かく考えずにジャンジャンバリバリでもいい感じです。
宜しくおねがいします。
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