シナリオ詳細
失踪ハーモニアを助け出せ!
オープニング
●行方不明者からの手紙
元来ハーモニアは自然を好み共に過ごすことを良しとする種族であることから、例外的な者を除いて、多くの者は生まれ育った深緑に留まり他国へと渡る者は少ない。
また深緑という国自体が、他国との交流を進んで行わないということもあるだろう。混沌における一大種族でありながら、物珍しさを感じさせることもある。
そういった他種族とは違う神秘性と、物珍しさというステータスに価値を持つ者が存在するのは否定しようがない。有名かどうかはさておき、ハーモニアの特徴である長い耳を愛好する者の存在や、その長い耳を幸運のお守りとして売りさばく連中だ。
ハーモニアに対する価値を知る者からすれば、ハーモニアという存在だけでそれはお宝となり、所有欲などを刺激されることとなる。
それは結果として――人道的に認められる物ではないが――ハーモニアという種族を略取する者達を生み出すこととなる。奴隷商人などの存在だ。
深緑の中心地ファルカウ周辺が迷宮森林ということもあるだろう。年端もいかない少年少女のハーモニアは迷子となったあげくそうした商人に捕まることも少なくない。また、深緑国外に憧れるような若いハーモニアも、そうした悪に拐かされ失踪することが少なくなかった。毎年報告される行方不明者の数が、それを証明していると言えよう。
ファルカウ低層、中心に程近い町エリオスでもその例に漏れず、自警団は緩慢に増えていく行方不明者に頭を悩ませていた。
そんな時だ、その手紙が届いたのは。
町に住むカールトン夫妻宛に届いた手紙には、行方不明になった娘ネネの名前と共に、今現在幻想に住まう貴族の屋敷で働いているという事が書かれていた。
「手紙には、生活に不自由はないけれど、外には出れず軟禁状態だと書かれていたのです。もう一度大樹ファルカウを見たいとも。
もう五年は会っていないのです。生きているのなら我が子をこの手で抱きしめてあげたいのです。どうか、娘を助けてくださいませんか……!」
母の懇願を聞き、自警団の者達は答えに窮する。
盗賊団や奴隷商人の元からの連絡ならばいくらでもやりようがあっただろう。だが、幻想貴族ともなればそれは国際問題に発展しかねない問題である。
また真実、娘の手紙が事実ならば問題だが、軟禁状態と言いながら手紙を出せる状況は、かなりの自由を保障されているようにも思えた。で、あればまずは手紙の真贋を確かめることが先決とも言えた。
そうとなれば、調査と共に内部の状況を確かめることの出来る人材を選出しなければならない。場合によっては即、娘を連れ出すことも必要だろう。
国際問題を回避しつつ、そうした調査潜入救助ミッションを高度に行える人材と言えば――
●
「以上が今回の依頼のあらましね。
そしてオーダーは幻想貴族サワージ・ヤーコンの所有する屋敷の調査になるわ。潜入の必要もあるでしょうし、万が一奴隷のように囚われていたり、その場にいるハーモニアから救助の要請があれば連れ出すことにもなるでしょう」
すでに目的地が何処にあるのか調べ上げていたのだろう。『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)はそう説明すると依頼書を手渡した。
「リリィさんが調べ上げてくれたお話ですと、サワージ邸にはメイド姿のハーモニアが少なくとも六名はいると言うことです。
恐らくその中には手紙を受け取ったカールトン夫妻の娘さんネネちゃんもいるはずです」
横で話を聞いていた『星翡翠』ラーシア・フェリル(p3n000012)がそう口添えする。リリィは頷いて、屋敷の見取り図を開いた。
「働いている子達は皆不自由なく生活しているようね。ただしそれが本人の望んだ形かは不明よ。逃げ場もなく仕方なし……と考えるのが自然じゃないかしら」
「屋敷にはメイド達を見張るように多くの警備兵もいるようです。侵入すれば気づかれることにもなりますし、戦闘は避けられないと思います」
「警備兵の相手をしながら、メイドの子達に話を聞いて、場合によっては救出。ちょっと重たい依頼になるけれど調査結果によっては多くのハーモニアを救うことが出来るかもしれないわ」
それに――と、リリィは言葉を続ける。
「サワージは奴隷商人と繋がってるって噂もあるの。メイドにして養っているようにも見えるけれど……事実はどうなのか、少し怪しいわね」
とにもかくにも屋敷へと乗り込んで調査の必要があると言うわけだ。
「今回は私も手伝わせて頂きますね。ハーモニアとして絶対に解決したいです!」
意気込むラーシアにイレギュラーズは頷き返し、手にした依頼書へと目を落とす。
さて、どうするか。
手順を思案しながら、渇いた喉を潤すようにグラスを呷った。
- 失踪ハーモニアを助け出せ!完了
- GM名澤見夜行
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2019年06月13日 22時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●調査潜入また調査
失踪したハーモニアをメイドとして働かせているというサワージ・ヤーコンという名の幻想貴族。
その調査、そしてメイドの救出を行うこととなったイレギュラーズは、いくつかの作戦を立ててこれに臨んだ。
「どのような依頼であってもまずは情報が必要だろう」
そう言って救出対象であるネネ・カールトンの人相や、カールトン夫妻の名前(ミリエという)、そして家族と分かる思い出の品を入手したのは『わるいおおかみさん』グリムペイン・ダカタール(p3p002887)だ。
ダカタールは救出対象のネネや、サワージの情報も精査する。ネネに関しては評判の良いメイドという話ばかりだ。すこしそそっかしい面もあるようだが。そして、サワージは表向きは目立たない幻想貴族という印象だが、やはり不自然な雇用がいくつか見られた。
奴隷商人との繋がりの噂もある。そうした所からハーモニアを買い付けて自身の屋敷で囲っている――その可能性は十分にあった。
「でもサワージを悪と断じるには早計じゃないかしら――」
奴隷商人からハーモニアを買い取り、その境遇から救い出している。そう捉えるのは『学級委員の方』藤野 蛍(p3p003861)だ。なるほど、確かに軟禁に近い状態とはいえ、手紙が出せるような自由がある。奴隷商人との繋がりが噂される程度で、サワージ自体には他に表だった悪い噂はない。
「善意の行い……いや、なくないですかこれ」
いやいや、と手をパタパタする『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)。そう善意の行いであるというのならわざわざメイドにして働かせる必要はなく深緑へと返せばよいし、なんだったらこの貴族自身が深緑へ移住すればよいわけだ。
なんにしても裏があるように思えるし、真相を確かめる必要があるだろう。
「と、言うわけで、おばさんとラーシアちゃんで潜入調査と行きましょうか~」
「先に屋敷に侵入すれば手引きも楽でしょうからね。がんばりましょう」
ハーモニアである『夢色観光旅行』レスト・リゾート(p3p003959)とラーシア・フェリルは潜入調査班だ。
「ファミリアーを介してこちらも様子を伺いますね。うまく連絡を取り合いましょう」
『星守』エストレーリャ=セルバ(p3p007114)はウィッチクラフトの使い手だ。同じくファミリアーを扱えるレストとの連携が期待できる。
レストとラーシアは屋敷へと向かい「旅の途中で路金が尽きてしまって……ここで働かせて貰えないでしょうか……?」と嘘の理由を話した。警備兵から連絡が行きしばらく待つと小太りの執事のような男が現れて、
「そういうことなら良いでしょう。立派な耳もあるようですしね」
と、意味深げに言い二人を屋敷の中に招き入れた。
そうして二人の潜入捜査、そして二人を守り、脱出を支援するためのイレギュラーズの活動が始まった。
●警備排除
夜のこと。
屋敷の裏手を飛ぶのはギフトによってその身体を小さくした『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319)だ。
二階の隅の窓を小さくノックすると、静かに窓が開いた。身体を滑り込ませる。窓を開けたのはメイド姿のレストだ。
「んふふ~、いらっしゃい」
「警備は手薄のようだな。上手く事が運んでいるということかな?」
サイズの言葉にレストがOKサインをだして答える。
先んじて進入していたレストとラーシアは、ファミリアーを使って『疾風蒼嵐』シャルレィス・スクァリオ(p3p000332)より受け取った睡眠薬を使い警備兵を眠らせることに成功した。
全員を――というわけにはいかなかったが、少なくとも休憩中であった半数近い警備兵が眠りについたようだった。
「まだ調べ切れてない部屋があるの~。鍵が掛かってるし巡回もよく来るから近づけなくて~」
「ならそっちは俺が向かってみよう。メイドさんたちの方はよろしく頼む」
「お願いね~」
二人は別れてそれぞれの役割を果たすために動き出した。
一方外では――
「……本当に大丈夫なの? やっぱり隠れて奇襲した方が……」
シャルレィスの心配を『レディの味方』サンディ・カルタ(p3p000438)は手のひらを振って大丈夫だと答える。
そうして屋敷の門を確認し、警備兵が一人なのを確認すると、何食わぬ顔で近づいていく。
「よっ……調子はどうだい?」
「…………」
鋭い目つきでサンディを確認するも警備兵は騒ぎ立てなかった。
実の所、サンディは事前にこの警備兵を買収しており、屋敷への侵入と警備ルートの手順を提供することを約束していた。
「サワージの噂は気になっている。が、真相がわからぬ以上手を貸せるのはここまでだ」
「十分さ。あとは騒ぎが起きても出来るだけ傍観しておいて欲しいもんだね」
「それは約束出来んな」
フン、と鼻を鳴らしながら、サンディから報酬の品を受け取る。そして静かに門が開いた。サンディは合図を出して中に入っていく。
訝しげに見ながらシャルレィスがサンディを問い詰める。
「……何を渡したの?」
「さて、なんだろうねぇ」
くく、と笑って屋敷へと侵入していった。
屋敷の外ではダカタール、蛍、珠緒、エストレーリャが周囲の罠を解除しながら巡回に現れる警備兵の相手をしていた。
「フハッ!! こういう格好も久々だ!」
覆面を付けて笑うダカタール。倒した警備兵の意識が失われているのを確認すると拘束して茂みに隠した。
「ゆりかさん、しっかり縛って置いてね。
しかし、思った以上に手薄ね……それはそれで楽できて良いけれど」
「潜入組の薬が良く効いているのかもしれませんね。とはいえ、詰め所の異変に気づかれれば途端にピンチかもしれませんが」
珠緒はよく戦況確認している。今の所理想通りの展開であるのは間違いないが、中にいる者達が脱出するまでは油断はできない。
「中はいまメイドさん達を集めたところのようですね。サイズさんの方の手が足らなそうなので、僕のファミリアーはそっちへ向かわせます」
中との連携を密にするエストレーリャはそう言ってファミリアーを動かしていった。
「さて、もうしばらくは巡回退治ね」
蛍はそう言葉を漏らして、闇の中に視線を向けていった。
屋敷の中をシャルレィスとサンディが慎重に進んでいた。
警備の多くが眠っているとはいえ、巡回はまだ残っている。
眼帯とマスクを装備したシャルレィスが鋭く視線を向ければ、階段を降りてくる警備兵の影が見えた。
(任せて――)
サンディに合図して後退させる。
警備兵の視界端、調度品の影に隠れるように屈み込むハーモニアのメイドの幻影を作り出した。
「……どうした?」
警備兵が声を上げてメイドの確認に向かう。その背後は隙だらけだ。
「……おい、平気か?」
「――おかげさまでっ! ごめんね!」
疾風が駆け抜けて、鞘に収まった蒼嵐が警備兵を強かに打ち付ける。無抵抗のままに奇襲を受けた警備兵は意識を失い昏倒した。
「お見事」
「任せてって言ったのに」
小首を傾げるサンディに頬を膨らませて見せるシャルレィス。攻撃の直前、サンディの巻き起こした暴風がシャルレィスを後押しし、警備兵を怯ませた。この見事な連携によって、高いレベルにある警備兵を瞬殺することが出来たのだ。
「さて……と、あとどれくらいいるものかな……っと、屋敷内で動いているのはあと三人か」
「纏まって動いてないだけマシ、かな。詰め所に戻られる前に片付けたいね」
詰め所のドアをテーブルで塞いだこともあって、詰め所に戻られれば侵入がバレるというものだ。
そうなるまえに片付けたいと、二人は行動を開始した。
●六人のメイド
「それで、何のお話ですか……?」
その部屋に、都合八人のハーモニアメイドが集まっていた。
レスト、ラーシアを除く六名がこの屋敷で囲われている失踪少女達である。
「まぁ今日の仕事は終わっているから、たまにはこういう親睦会も良いんじゃないかしら?」
年長に見える背の高いメイド(ルシアと言う)が言った。
それに対して背の低いつり目のメイド(レナと言う)が訝しげにイレギュラーズを見て口を挟む。
「そういう感じじゃないみたいよ? レストおばさんとラーシアが何か言いたげだもの」
「えっと、それでどんな話なのでしょうか?」
もう一度そう尋ねたのは、カールトン夫妻の娘ネネだ。
「実はね~――……」
レストとラーシアが状況の説明をメイド達に行う。
ネネの手紙が元でこの屋敷に調査が入ったこと、そして救助の話だ。
その話に驚いたのはネネだ。
「えぇ!? そんな大事になってるんですかぁぁ!?
私、ちゃんと生活出来てるし、外出に許可が必要でめんどくさいけど、近くは森があって過ごしやすいよって書いて置いたんですけどぉ……」
「あら~?」
「えっと、ファルカウをもう一度みたい……みたいな切実な話は……?」
レストとラーシアが首を傾げて尋ねると、ネネは頭を抱えて言った。
「それも、森があるならファルカウも欲しいなぁって希望を書いただけで……そのうち許可がでたら帰省もできるってことなのに~!
お母さん早とちりだからなぁ……」
「これは色々と誤解があったのかしら~?」
レストの言葉に苦笑するルシア。
「確かに私達のほとんどは深緑から連れ去られて来たハーモニアです。でもサワージ様はそんな私達を見つけると奴隷商人から買って、こうして不自由ない生活を与えてくれているのです」
「まーなーんか怪しいけどね、あの人。ちょっとあたし達を見る目が怖い者。そのくせあまり近寄らないし」
「レナ、そう言うこと言ってはダメよ」
ルシアがレナに注意する。
「それじゃ、どうしようかしら~? おばさん達は皆を救出するように言われてるんだけど~。
特にネネちゃんはお母様が心配されてるから一緒に来てもらうのが良いのだけれど~」
レストの言葉に「うーん」と頭を悩ますメイド達。
反応を見る限り、嫌々働かせられているという訳ではないようだ。しかし、奴隷商人から買い付けていたというのは事実であるという。
サワージの本質が悪であり、何かを企んでいるのであればこの場に残るのは危険だが……。
考えていると部屋の扉を開けてサイズが入ってきた。
「おっと、難しい顔を並べてどうしたんだ?」
レストはサイズに事情を説明すると、「なるほど」とサイズは一つ頷き手にした日記といくつかの資料をテーブルの上に置いた。
鍵の閉まっていた部屋の中から見つけたサワージの日記と、そして取引帳簿だ。
「奴隷商人との取引履歴も帳簿に残されていたが、同時に取引した奴隷商人の情報を憲兵に流して潰すようなこともしていたようだ。
なるほど、表面だけ見ればそう悪い奴ではなさそうだ。けれど、ハーモニアだけに救いの手を差し伸べる独善的なやり方にも見える。それに――」
と、サイズは目を細める。
「サワージは自らの欲望のままに君達を買ったんだよ。救い出す意図はあるだろう、だが、ただ救うだけであれば深緑に返せばいい。メイドと言う仕事を与えてこの地に留まらせた理由は、サワージの根源的欲望からに過ぎないわけだ」
「それはどういう……?」ルシアが尋ねる。
そこにエストレーリャの操る小動物(ファミリアー)がやってきて、日記のページを開いた。
指さされた箇所には、おぞましくもあほくさいダダ漏れの欲望が記されていた。
「○月×日。今日はルシアちゃんというハーモニアをゲットした! 長身でスラッとしている身体がとても素晴らしい。他の子(ハーモニア)に比べてちょっと耳が短いのがキュート。う~ん一日中耳を引っ張って遊びたい。そうだ今度耳かきをしてあげよう。長耳をじっくりと観察するチャンスだ。ぐふふ、楽しみだ――」
読みながら「ひえっ」と眉根を寄せるルシア。続けてレナが自分のことが書かれている記述を見つける。
「△月□日。今日は世紀の大発見をした。なんとレナちゃんの耳元にほくろがあったのだ! なんてえろえろなのだろうか。これを見つけたの偶然廊下でぶつかって、ナイスラッキースケベな状況におかれたからなのだが、発育してない胸があたったことよりその長い耳元のほくろに全ての神経が集中した。そのあと全力で蹴り飛ばされてボロボロにされたが悔いはない。怒りながら走って逃げたレナちゃんはナイスツンツンだと思う。ツンデレへとクラスチェンジを求む――」
「あのクソおやじぃ……」
怒りの炎を湛えてレナが鋭い視線を日記に叩きつけた。
その他にもメイド達の姿を赤裸々に曝くような日記が続いている。主に耳のことばかりだが。
メイド達は恥ずかしがるように耳を押さえ、なんて情けないものかと瞳を伏せた。
「まあ、そういうわけで、悪い奴ではないかもしれないが、女性としての危機意識はもったほうが良いだろう。
この内容を見るに、直接なにかしようって根性はなさそうだけどな」
「うぅ……まさかサワージ様がこんなド変態だったなんて……幻滅です」
「いやいや、あの目みればなんかヤバイ奴だってわかるでしょ。近づいてこないから無害ではあるけれど」
肩を落とすネネに呆れたようにレナが言う。
「それじゃどうするか決めて貰おうかしら~」
レストに促されてメイド達は考え込む。長く暮らしてきた生活を手放す、というのは中々に難しいものなのかもしれない。
だが、そう悠長に構えてる時間はないようだった。
(……警備兵が気づいたようです)
エストレーリャがファミリアーを通してそう知らせる。
そこにサンディとシャルレィスが駆け込んできた。幾度かの戦闘の後が散見される。
「悪ぃ遅れた。と、警備兵の連中が起き出して結構マズイぜ」
「話は済んだかな? 逃げるにしても結構大変かも……!」
二人に急かされて、メイド達は自分達の進むべき場所を考えた。そして――
「私とルシアさん、それにアレナさんとノートリエさんの四人は深緑に帰ります!」
ネネがそうイレギュラーズに伝える。
「あたしとミューティは家族も帰るべき場所もないからね。
ここでの生活もそう悪いものじゃないし、あたし達はここに残るわ。警備の人達をごまかす必要もあるだろうし」
レナは「別にサワージの為じゃないんだからねっ」とツンと首を振りながら付け加える。
「よし、決まったら脱出だね。たぶん入口から出るのは難しいだろうから――」
シャルレィスの誘導で二階の窓からの脱出が決行される。
そうして屋敷内のイレギュラーズは警備の目を交い潜り、用意した馬車の元へと急いだ。
潜入組が脱出する頃――
「どんどん増えてきたね……!」
警備兵を迎え撃ちながらダカタールが苦しそうに息を吐いた。連続行動を繰り返すダカタールの火力は十分なものだったが、体力的にはかなりきついところだ。
眠っていた警備兵が目覚めだし、潜入が露呈し始めたところで外で待機していた四人は囮役として陽動を買って出た。
「中には伝えているはずですから、すぐに脱出するとは思います。けれど――」
エストレーリャが言葉を漏らしながらロベリアの花で窒息を狙う。声を封じられた警備兵が苦悶のままに呼び笛を口から離した。
「ちょっと四人で相手するには多いわね……珠緒さん?」
蛍が珠緒へと判断を仰ぐ。珠緒は一つ頷いて、撤退の指示をだした。
「無理はせず、引きましょう。
これだけ引きつければ、脱出の時間も十分にあるはずです」
「オーケー、殿は私が! 撤退よ!」
蛍の上げた声に従って、四人は後退を始める。
殿についた蛍と珠緒が強固に護りを固めることで、そう大きな被害はでずに屋敷から離脱することができた。
同時に、屋敷内のイレギュラーズもまた、用意した馬車とHMKLBを使って脱出に成功するのだった――
●大樹の下で
「お母さん~!!」
「嗚呼……! ネネ……!」
後日、深緑はファルカウ内の町エリオスでカールトン親子が再会した。
屋敷内ではなんだかんだと余裕を見せていたネネだが、やはり五年という月日は重く、久々に再会した母の姿を見て涙ながらに抱きつき甘えるのだった。
他のメイド達も思いは同様だろう。
久々に仰ぐ大樹ファルカウに目を細め、顔を綻ばせた。
「そういえばルシアさんは屋敷に戻るの?」
シャルレィスの問いかけにルシアはコクリと首を縦に振った。
「やり方はともかくサワージ様はハーモニアにはそう悪い人ではないと思いますので。
……それに、仕事量に対してお給金がとっても良いのですよ、あの仕事」
と現金に笑う。蛍はうん、と一つ頷き言った。
「まあ周囲の森もハーモニアには良い環境でしょうしね」
サワージを人身売買の罪で訴えることも可能だったが、ルシアを始めあの屋敷に戻ることを希望する者も少なからずいる。少なくともサワージの買い付けたハーモニアは一人として不幸な目にはあっていないと言える。貴族を訴えることの難しさや政治的な問題を考慮すれば、サワージの処分をイレギュラーズが判断するのは難しいと言えよう。
「事情が露呈した以上、これ以上メイドを増やすようなことはないと思いますが……」
珠緒の心配にルシアが「ふふふ」と笑った。
「サワージ様でしたら、やりかねませんね」
どれだけハーモニアが好きなのか。
呆れるイレギュラーズを、大樹が優しく見つめていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
依頼お疲れ様でした!
MVPは総合判断でサンディさんに贈ります。
メイドになったレストさんには称号が贈られます。
素敵なプレイングをありがとうございました!
GMコメント
こんにちは。澤見夜行(さわみ・やこう)です。
悪そうな貴族が失踪したハーモニアをメイドにしてるらしいです。
うらやまけしからん……ではなく、真相を確かめましょう。
●依頼達成条件
屋敷に潜入し、ネネと会話し救出する。
■オプション
メイド全員と話して、場合によっては救出する。
屋敷を全て調査する。
●情報確度
このシナリオの情報精度はBです。
情報は全て信頼出来ますが、情報にない出来事も起きるかも知れません。
●サワージ・ヤーコンの屋敷について
幻想東部、中心地から少し離れた郊外の森の中にある屋敷です。
三階建ての屋敷で、各階に五つ部屋があります。
二階、三階はそれぞれ客間と使用人室で、働いていると思われるメイド六人は三階に自室があるようです。
一階には客間が二室の他、大きな広間と、厨房、そして警備兵の詰め所があります。
広い屋敷のため、集団での行動が可能です。
階段は屋敷中央にあり、そこから一階から三階までを行き来できます。
●警備兵について
数は二十人。
屋敷の外を警備する五名と、詰め所に待機する十五名です。
時間ごとにローテーションで警備を行っているようです。
戦闘能力は耐久値高めでそこそこ強く、一対一でもそう簡単にイレギュラーズに負けたりはしないでしょう。
●メイドについて
屋敷で働いている(働かされている?)メイド達。確認出来てる数は六人。
全員長い耳を隠さずメイド服を着ているので見れば直ぐわかるでしょう。
名前がわかっているのは、カールトン夫妻の娘、ネネのみ。
ネネはオレンジの肩まで掛かる髪で、体格的には十七歳の少女くらいです。
十二歳の頃、迷宮森林に木の実を取りに向かって以来行方不明となりました。
●戦闘地域について
屋敷内での戦闘になります。
広い屋敷のため戦闘行動は自由にできるでしょう。
調度品などの障害物はありますが、防御には使えないでしょう。
そのほか、有用そうなスキルやアイテムには色々なボーナスがつきます。
皆様の素晴らしいプレイングをお待ちしています。
宜しくお願いいたします。
Tweet