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シナリオ詳細

小さな海と眠り姫のオルカたち

完了

参加者 : 18 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鳥の囀りに導かれながら、新緑の影に覆われた幅の広い石段を上がる。百踏んだところで、ふいに視界が開けた。柔らかな稜線を描く二つの山を借景として、前景に大きな池が広がっている。いや、池ではない。広い敷地の中に作られた人工の海だ。
「いやはや、金持ちはやることが違うね」
 風が吹き、爽やかさを欠いた潮の匂いが『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)の鼻を満たした。少し臭う。三日おきにネオ・フロンティアから運んできた海水を継ぎ足しているらしいが、さすがにそれで水が綺麗になるわけではないようだ。
(「だからオレが呼ばれたわけだが……」)
 庭園の小道を抜けて、熟した苺色の屋根をかぶった洋館へ向かった。木造二階建てで、壁は白塗りだ。コロニアル風というらしい。どこの世界の建築用語かは失念した。
 玄関で出てきたメイドに用件を告げ、中に入れてもらった。ゆったりと回る大きなファンの下を通り、長い廊下を抜けていく。
 依頼主の商人とは来客用の居間で会った。難病を患っているという孫娘も一緒だ。彼女は可動式ベッドの中で、大好きなオルカのぬいぐるみを抱いて今日も眠っていた。ちなみにオルカの左目はブルーダイヤだ。右目は閉じられている。
「ようこそ。この前はどうも」
 依頼主は前回、クルールが請け負い、ローレットが解決した仕事について、通り一遍の気持ちのこもらない礼を言ってからソファーを勧めてきた。
 長居するつもりはないので、こちらからさっさと本題を切り出す。
「ご依頼は人工海水プールの清掃でしたね? 一日で終えて欲しいということでしたが」
「ああ、そのことなんだがね……急で悪いんだが、ちょっと仕事の内容を増やして欲しいんだ。頼めるかな?」
 依頼主はいかにも申し訳なさそうな顔を繕った。
 こちらとしても仕事が増える分には文句はない。きちんと金を払ってもらえればだが。
「清掃中にオルカたちの世話もしてほしいのだよ。いや、頼んでいた業者が急にいなくなってね」
 追加の内容よりも業者の失踪のほうが気になったが、あえて口にはしなかった。金にならない他人のトラブルにまで首を突っ込んでいたら、体がいくつあっても足りない。
 愛想よく、いいですよ、と微笑んで仕事の話を続ける。
 話はすぐに終わった。イレギュラーズたちにとっては、夏の走りにちょうどいい、息抜きになるだろう。
 クルールは愛想笑いを顔にぴったりと張りつかせたまま腰を上げた。ガラス張りのテーブル越しに依頼主と握手を交わす。
「あ、そうだ。君、レッドダイヤなるものを知っているかね?」


「だから、なんであのオヤジは依頼の説明をぴーちゃんに丸投げして出て行くんでしょうね!?」
 ローレット競技場の管理運営責任者であるダンプPが、玉子のように丸いボディーを揺らしながらダンダンと床を踏み鳴らす。あんまり激しいものだから、殻の継ぎ目が薄く浮いて、中身がちらりと覗き見えた。
 ちなみにダンプPがいうオヤジとはクルールのことだ。
 そんなことはどうでもいいから早く説明しろ。集まったイレギュラーズたちに求められて、ダンプPはようやく落ち着きを取り戻した。
「みなさまにお願いするのは、とあるお金持ちのお家のプール掃除と、その間、可愛いかわいいオルカちゃんたちの体が乾かないように、こまめに水をかけて体調管理してあげること。アーンド、オルカちゃんたちの歯磨きでございます」
 ん、と首をかしげる者たちがちらほら。
 現場は幻想国内にある、とある商人の家だ。幻想国は領土に海岸を含むが、商人の家は内陸にある。オルカは海の生物ではなかったか?
「なんでも病気で臥せっている孫娘さんのために、お庭に海水プールを作ったとか。孫娘……アリスってお名前なんですけど、アリスちゃんはオルカが大好きで、見たい時にすぐ見られて、触れたい時にすぐ触れられるようにしてあげたかったそうでございます」
 はあ、と溜息がイレギュラーズたちの口から零れ落ちる。呆れかえって、あるいは羨ましがって。いずれにせよ、これから向かう家はとんでもなく大きくて広いことが解った。
「ちなみにですが、オルカはいま何頭いるのか分らないそうです。捕獲され次第、次から次へと買い足しているかららしんですね。ふふ」
 ふふ、じゃねえよ。誰かが突っ込みを入れる。
 オルカの頭数が解らなければ、プール清掃と合わせて仕事の割り振りができない。
「あ、それは大丈夫みたいですよ。あのオヤ……クルールさんも知り合いをかき集めているようですから、人手が足りないなんてことはありません。みなさんは好きなことをやってください。それではお願いいたします」
 ガタガタとイスが引かれる音に混じり、仕事をとってきたクルールはどこへ行ったんだ、という声が上がった。
「そんなのぴーちゃんの知ったこちゃねぇ、でございます!!」
 また怒りだした……。

GMコメント

●依頼内容
(1)人工海水プールの清掃
(2)オルカの体調管理、および歯磨き
(3)冷たい飲み物の配布など、みんなの体調管理。
(4)その他

●書式
宜しくご協力くださいませ。
 1行目……同行者、グループの場合はグループ名
 2行目……何をするか。上記の依頼内容から選んでください。
 3行目……自由記入。

●日時と場所
・朝から夕方まで。
 夏はまだだというのに暑いです。塩分と水分はきちんと取りましょう。
・とある商人の私邸。幻想国の辺境にあるためか、所有する土地はとても広いです。
 なにせ人工の海が作れて、オルカが飼えるぐらいですから。
 ヨットを人工の海に浮かべて遊ぶこともあるそうですよ。
 ちなみに日蔭はほぼありません。
・人工海水プールの底は平らではありません。
 海底を模して、岩や石が置かれています。
 三日おきに運ばれてくる海水の中に貝や海藻などが混じっているらしく、壁や岩に付着しています。
・歯磨きの道具やら、バケツにモップ等など。必要なものはすべて用意されています。
・商人の家の中は一階のみ解放されています。
 キッチンもおトイレもシャワーも使いたい放題です。
 キッチン脇の食糧庫には、幻想国で手に入る食材のほとんどが揃っています。
 もちろん使用可です。
※二階へは上がれません。立ち入り禁止です。
※日中、依頼主の商人はいません。家人は二階に引きこもっています。

●オルカ
ごくふつうのオルカです。
芸が仕込まれているらしく、口をひらけと命令すると素直に口を開けてくれます。
最初は二頭、つがいでかっていたそうです。
今年はベビーラッシュで確認されただけで三頭の子オルカがいるそうです。
なんだかんだいって十頭以上いるのは間違いないでしょう。
正確な数は、海水を抜くまで判りません。
清掃中、オルカたちはピーチと名付けられている浅瀬で待機させられます。
お腹はなんとか水に浸っていますが、背中は直射日光をガンガン浴びることになります。
適度に水をかけてあげないと、すぐに弱って死んでしまいます。

宜しければご参加ください。
お待ちしております。

  • 小さな海と眠り姫のオルカたち完了
  • GM名そうすけ
  • 種別イベント
  • 難易度VERYEASY
  • 冒険終了日時2019年06月06日 22時10分
  • 参加人数18/∞人
  • 相談8日
  • 参加費50RC

参加者 : 18 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(18人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
リリー・シャルラハ(p3p000955)
自在の名手
リカ・サキュバス(p3p001254)
瘴気の王
Q.U.U.A.(p3p001425)
ちょう人きゅーあちゃん
モニカ(p3p001903)
吸血鬼の残り滓
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
白 薔薇(p3p005503)
純潔
黒 薔薇(p3p005504)
永遠
紅 薔薇(p3p005505)
情熱
エル・ウッドランド(p3p006713)
閃きの料理人
橘花 芽衣(p3p007119)
鈍き鋼拳
ティティ(p3p007155)
青白慈色の半魚人
グランツァー・ガリル(p3p007172)
大地賛歌
九条 雪(p3p007182)
特異運命座標
マナみ(p3p007192)
月の国の魔法使い
カルト・セラピー(p3p007194)
氷輪童熊
ディーナ(p3p007198)
賦活砲台

リプレイ


「あち~。なんでこんなに暑いんだ」
 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)は岩をひっくり返した。逃げるカニを見つけ、素早くつかみ取る。すぐに水を張ったバケツの中へ入れた。
 バケツの中は小さな生き物でいっぱいだ。終わったら、海に帰してやろう。
 『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)はデッキブラシの柄に顎を乗せて眩いた。
「そりゃ夏だからな」
 MKB――メカ子ロリババアも主人に同調して笑い鳴く。
「うへぇ。メカでも子ロリババアって変な声なんだな」
 一悟は顔をしかめた。近くの作業員たちも驚いてあたりを見回している。
 それにしても広い。プールの清掃は数時間前に始まったのだが、まだ半分以上も終わっていない。
 ハロルドは濡れて体に張りついた青いタンクトップの裾を持ち上げた。首を伝い落ちる汗を拭う。
 屋敷の二階へ目を向けた。依頼主の孫娘は、あの窓のそばで眠っているのだろうか。
(「病で家から出られない娘、か。……あいつも病弱で神殿から出られなかったからな」)
 腰に携えた聖剣が夏の走りの風を受けて揺れる。わずかに重みを増したような気がした。
 ――ああ、リーゼロット。
 まつげ先で小さな汗の玉が光る。
「……歌うか」
 聖歌でこの小さな海を汚しているすべてのものを祓い清めよう。
 神のもとにゴミを送っていいのかだって?
 知るか。


「皆さまはお暑い中での作業でしょうから……そうですわ、フルーツポンチを作りましょう」
 『純潔』白 薔薇(p3p005503)は妹たちに一声かけて、テラコッタ色のタイルの上を軽やかに歩き、濃淡二色のウェッジウッドブルーで内装されたキッチンの奥へ向かった。
 戸棚を開いて中を覗く。ラムネがあった。
(「ふふふ、2人ともラムネは好きでしたわね……。きっと張り切るでしょうから、2人にもご褒美も用意しなくてはいけませんわね♪」)
 白薔薇は編み籠の中にラムネの瓶を入れた。
「ふぅ……白薔薇姉様も本当にもの好きだわ……。こんなボランティアのような活動に参加したいだなんて……」
 『永遠』黒 薔薇(p3p005504)はすくりと笑った。姉がこの依頼を受けた理由なら察しがついている。海を見たことがない、大好きな末妹のためだ。
「紅薔薇、貴女の好きなフルーツを好きなだけ持ってきて頂戴?」
「はーい」
 『情熱』紅 薔薇(p3p005505)がリンゴをたくさん抱え持ってきた。
「私が好きなフルーツをたくさん持ってきたの! 紅はぁ、いちごにリンゴ……みかんにぶどう……う~ん、何でも好き!」
「ふふふ。じゃあ、リンゴの皮をむきましょう。手を切らないように気をつけてね?」
 黒薔薇がむく皮が、螺旋を描きながらするすると床へ伸びていく。
 紅薔薇はきゅっと口を結ぶと、慎重にナイフの刃をリンゴにあてた。
「……姉様。海に行ってもいい!?」
「これを作り終えたらね」
 そんな妹たちを微笑ましく思いながら、白薔薇は台にラムネの瓶を置いた。
 ガラス玉の栓を瓶の中に落とし込む。妹たちがわっと声をあげた。
「あなたたちが大好きなラムネを入れて完成♪ さあ、黒薔薇ちゃん、紅薔薇ちゃん、皆さまにお配りして差し上げて♪」
「海に行くついでに、これを皆に配ればいいんだね! あ、私も飲んでいい?」
「もちろんですわ」
「お~い、皆ぁ! 姉様特製のフルーツポンチだよぉ!」
 初夏の日差しの下、ラムネの海で泳ぐカラフルなフルーツたち。ガラスボウルを手にした紅薔薇を、白薔薇と黒薔薇は笑顔で送り出した。


 風が吹いて雲のベールが飛ばされた。太陽が強烈な光を射しはじめ、芝に落ちる自分の影が一段と濃くなる。
 『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)はビーチに戻るところだった。手に下げたバケツの中には水とエサが入っている。
(「それにしても……人の手で海を作るなど、大変手がかかっているのですね」)
 シルフォイデアはしばしの間、掃除をする人々を眺めた。
「さあ、お仕事しましよう」
 義姉の体を洗った時のことを思い出しつつ、オルカたちに要望を聞く。
「かゆいところとかありませんか?」
 一頭のオルカが尾ヒレを上げた。
 近づくと口の中から、わーっという声が聞こえてきた。
「おくち、あけてー」、と謎の声。
 水を含ませた海綿で頭撫でてやると、オルカが口を開いた。
 『小さな騎兵』リトル・リリー(p3p000955)が、ひゅーんと飛び出して来た。
「とじちゃダメ」
 メッと叱るリリーに、オルカは目を細めて笑う。悪意はない。すっかりリリーと仲良くなったからこそやったイタズラだ。
「はい、またおくちあけて。はみがきのつづきをするよ」
 こんどは終わるまで口を開けたままにしてくれた。
「ん、おくちあけつづけてえらいえらい。じゃあ、おさかなたべようね」
 リリーはシルフォイデアから魚をもらって、ピンク色の舌の上に乗せてやった。
 乾いたオルカの黒い背に、ざばーっと水がかけられる。
「そーれ、順番ですよー」
 『雨宿りの』雨宮 利香(p3p001254)が淡々と水をかけていく。
「まだ夏は始まったばかりってのに暑いですね……去年の今頃も同じような事言ってたかもしれませんが」
 去年の夏をどう過ごしたか、まったく記憶がない。利香はこの世界に渡ってくる前のことを何一つ覚えていなかった。
 だから……。
 利香は左手にペンを、右手にノートを持った。ハミガキされるオルカを描く。絵から線を伸ばし、知ったことや感じたことをすべて書いて記録した。
「こいつらはビーム撃ったりしないですよね……? ごく普通の生き物見たい……です?」
 『ちょう人きゅーあちゃん』Q.U.U.A.(p3p001425)が、胸をポンと叩く。
「だいじょうぶだよ(´▽`)! みんなおぎょうぎよくて、みんなかっこいい(>ヮ<)!」
 Q.U.U.A.は空になったバケツをひっくり返した。台にして立ち、指で輪っかを目に当てて見渡す。
「ピピピ、はっけーん(`・ω・´)。よーし、あついところからクールダウンしていくよ!」
 空のバケツを玉乗りして、熱中症にかかったオルカの元へ急行する。
 Q.U.U.A.はオルカの背に水をたくさんかけてやった。ぷしゅーと高く吹きあがった潮が日差しを乱反射する。
「ザ・きゅーあちゃんショーだよ! どうだ(>ヮ<)!」
 みごとな虹の出来上がり。


「なにがあったのでしょうか?」
 『イカダ漂流チート第二の刺客』エル・ウッドランド(p3p006713)は牛乳瓶を手に窓によった。外を見る。
 オルカの上にかかる虹を、額に汗を浮かべた人々が見上げていた。
「まあ、素敵。私も頑張らなきゃ」
 台に戻って、リンゴとバナナをこま切れにした。牛乳と氷と一緒にミキサーにかける。ミックスジュースを作るのだ。
 しかし、さすがはお金持ち。家に練達製品があるとか。電力は……何か魔法を使っているのかも。
 できたものを裏ごしする。残りカスはギフトで干からびたジャムパンに変えた。これは自分への御褒美だ。
 ミックスジュースをポットに入れて、さあ行こう。
「ジュース、作りました! 飲みませんか?」


(「異世界に召喚されて最初の仕事がこれか……」)
 虹を見上げながら、マナみ(p3p007192)は愚痴った。視線を手に落とし、バケツ運びでできたマメを睨む。この世界にはゴムホースもないのか、と。
「愚痴ってもしょうがないから働くけどさ」
 マナみはデッキブラシの先にバケツ引っ掛け、飛びながら体調不良のオルカがいないか調べた。
 弱った子オルカの背に水をかけながら、ふと、聞いてみる。
「こんなところにいて嫌じゃないの? 海に帰りたくならない?」
 子イルカが不思議そうにマナみを見上げる。
 ああ、そうだった。この子はこのプールで生まれた、海を知らない子だった。でも……。隣のオルカの目が冷ややかなのはなぜ?
 ミックスジュース飲みませんか、という声が後ろで聞こえた。
 気のせいだろう、きっと。
 持ってきたオーシャン・ジェラートは後のお楽しみにして、ミックスジュースで一休みしよう。
「愚かにも人間の我欲に囚われた哀れな海洋生物(オルカ)共め、一日だけオレが面倒見てやる」
 マナみに代わり『青白慈色の半魚人』ティティ(p3p007155)が、オルカたちに水をかける。
「精々干からびて飢えてオレの餌にならないよう気をつけることダ」
 憎まれ口もギフト――ブルー・スプリングによって好意的に受け止められていた。肌に直接手を当て、体温を確認しながら水を与える姿勢もオルカたちに受けがいい。
(「驚いた。こんな小さな体で……」)
 気がつくと、真横に小さな妖精が歯ブラシを持って浮かんでいた。体の割にでかい声で、口を開けて、とオルカに頼んでいる。が、バケツは空だ。水がない。
「仕方ナイ。運び屋にでもなるカ」
 ぶっきらぼうに呟いて、ティティは水を汲みに戻った。
 『銀剣』ディーナ(p3p007198)は岩塩をひと齧りした。水筒を傾け、ほどよく冷えた軟水で渇きを癒す。
(「それにしても、初仕事がオルカの世話になるとは思ってもみなかったわね……」)
 同じことを思った仲間がすぐ後ろでミックスジュースとフルーツポンチを楽しんでいることを、ディーナは知るよしもない。
 気持ちを切り替え、バケツの水に大きな歯ブラシを突っ込んだ。麦わら帽子を被り直す。
「気分が悪い子は尾ヒレをあげて知らせちょうだい」
 オルカたちに声をかけながら、遠くを眺め――。
 ディーナは目を瞬いた。陽炎で揺らめく向こう岸に、左目を青く光らせたオルカを見たような気がしたのだ。
(「消え……た?」)
 オルカに水をせがまれ我に返る。ディーナはそれっきり、向こう岸を見ることはなかった。


「飲み物はこちらにありますよー……って、モニカ大丈夫?」
 『特異運命座標』九条 雪(p3p007182)はあわてて『吸血鬼の残り滓』モニカ(p3p001903)の腕を取った。がんばって、と声をかけながら木陰へ向かう。
 ――掃除とか出来ないけど、飲み物配るくらいなら。
 麦わら帽子にサングラス。完全武装で飲み物を配り始めたモニカだったが、夏の日差しは強すぎたようだ。
 モニカは雪に膝枕をしてもらいながら、木蔭で仲間たちが忙しく働く様を眺めた。視界が薄れ、頭痛がする。エネルギーを補給しなくては。
「雪ー喉渇いたーお腹すいたー食べさせてー」
「う、……わ、わかったよ……はい、あーん」
 もう一口、さらに一口。
 雪は、モニカに甘いなぁ、と思う。思っていても甘やかしてしまう。だって、頼られると嬉しいし……。
 でも、ずっと休んではいられない。
「立てる?」
「まだ駄目、もう少し休憩させて…」
「もー、しょうがないな……もう少しだけだよ?」
 太ももにモニカの頬の柔らかさと熱さを感じながら、青さを増した午後の空を見上げた。


 太陽は木々の後へ没し去ろうとしていた。今は金色の光を一筋残すばかり。
 『土繰れ』グランツァー・ガリル(p3p007172)はそっと息を吹きあげた。伸ばした腰を拳で叩く。
 朝からずっと下を向きっぱなしで、岩や石の隙間の細かいところをハンドブラシで丹念に洗った。その甲斐あって、沈んでゆく太陽の下で海の水を残す浜辺がきらきらと銀箔の反射を上げている。
「誰ぞ遊ぶ姿があれば、誰ぞ楽しむ姿を思い浮かべれば、こういう裏方ーなお仕事は頑張れるものですよお」
 実際、作業が終わった場所は人工の海とは思えないほど良い雰囲気に仕上がっている。
 陽が落ちかかっても、『鈍色の要塞』橘花 芽衣(p3p007119)はまだまだ元気だった。
 長時間の労働にもへこたれることなく、デッキブラシを縦横無尽に操って巨石のコケをこすり落としていく。
「そこのきみ!」
「きみじゃないよ。ワタシは芽衣だよ!」
 『プリズムベア』カルト・セラピー(p3p007194)は虹色のクマぬいたちと顔を見合わせた。
「ごめんだし。あー、芽衣。そのおっきな岩をちょっともちあげてくれだし。お願いするんよ」
 芽衣は快諾すると、巨岩を持ち上げた。
「よーし、クマども準備はオーケー?」
 おー、とクマぬいたちがブラシを掲げる。
「あの岩の下や砂に溜まった汚れを片っぱしから掃除するし!」
 とつげきー!!
 一斉に走り出したクマぬいたちに紛れてグランツァーも駆ける。もちろん、号令を発したカルトもバケツとザルを持って走る。
「濾過をどうしよんか知らんけど、海流が無ければ水の対流も無く、滞った水と食べカスなんかの汚れは岩の隙間、砂の中に溜まるばかりよな」
「綺麗に磨けばこそ、海が透き通ったときに岩たちが彩る自然な感じの雰囲気が良いと思うんですよお」
 カルトがザルで汚れを漉した砂を岩の下へ戻し、グランツァーが水をかけた。
「はい、おしまい」
 芽衣が巨岩をそっと降ろす。
 灰色の夕暮に包まれた人工の海底に海水が流れ込む。


 戻らない依頼主に代わって、どこからともなく現れたクルールがイレギュラーズたちの労をねぎらった。
 屋敷のシャワーを借りてさっぱり汗を流してから岐路につく。
 ハロルドは屋敷を振り返った。
「どうした?」と一悟。
「二階の窓に……いや、なんでもない。帰ろう」
 
 夜風に白いカーテンが揺れる。
 窓の奥、片目のオルカがイレギュラーズたちを見送っていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございます。
皆さんのおかげで人工海水プールはすっかりきれいになりました。
オルカたちも大変喜んでいましたよ。
お疲れさまでした。

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