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シナリオ詳細

赤い手紙の都市伝説 うらみ郵便局

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ライオット・スタークと『うらみ郵便局』
 幻想の石畳。
 美しい王都の大通りを暴れ牛の如く駆け抜ける男がいた。
 鋼のボクサー。郷田 貴道。
 彼の手には一枚の手紙。
 目には、焦りと友情。
「あいつ、ライオット……一人で行きやがった!」

 事の起こりは約一週間前。
 街角の衛兵さんことライオット・スタークがいつものように街角でおこる珍妙な騒ぎの後片付けをした後、料理がまずいことで有名な酒場で貴道と飲み交わしていた時のことだ。
「『赤い手紙の都市伝説』? そいつの出所を探ればいいのか?」
 一冊の資料ファイルを手渡され、郷田 貴道は顔をしかめた。
 一方で、ハンサムな兵隊ライオットはエールジョッキを手に頷いて見せた。
「ローレットの子から依頼を受けてね。
 なんでも、呪い屋による悪質なデモンストレーションがあったらしい」
 遡ること数ヶ月前。
 ちまたで『赤い手紙の都市伝説』というものが出回った。
 なんでも一週間後に死ぬという予告の手紙が来た者は、必ず何者かに予告通り殺されるというものだ。
 だがライオットの話の通りそれは呪い屋(殺し屋の呪術版)によるデモンストレーションで、噂を広めることで宣伝にしようという考えであった。
「なんでも、ローレットの子を勝手に好きになって勝手に嫌って、逆恨みに呪いを放った末に迎撃されたらしい」
「HAHA! 救えない話だ!」
「まあ、こういう話は貴族に持って行っても無視されることが多いからな。俺の所に回ってきたってわけだ」
 肩をすくめるライオット。
 貴族は頻繁に暗殺者を使い、そのネットワークにずっぽりとはまっている。それゆえ暗殺家業に関する通報は無視されるか対応したふりだけをされるか、どのみち有効に働かないことがある。
 そういうアレコレを嫌がって貴族勤めを辞めたのが、このライオット・スタークという男である。
「うちの自警団でも探してるんだが、いかんせんアンダーグラウンドの話だからな。俺たちには専門外なんだ。ローレットなら顔ぶれも豊かだし、探しやすい奴もいるんじゃないか?」
「そうだな……ミーの知り合いにもそういう奴はごろごろいるが」
 振り返る。ここの酒場の常連客にはローレットメンバーも多いが、その中でも特にアンダーグラウンド色の強い者が多かった。
「分かった。うちの情報屋にも声をかけてみよう」
「そいつは頼もしい」
 貴道とライオットは爽やかにジョッキを打ち合わせた。

 それから暫く経ってから。
「例の所在が分かったよ。『うらみ郵便局』っていう呪い屋だ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が資料を広げて話を始めた。
「『ダイイングメッセンジャー』っていう召喚体を専門に扱う術師で、これを時限発動させる手口に定評があったらしい」
 あった。つまり過去形である。
「今は評価されてないのか?」
「手口の分かった呪い屋なんて、タネの知れた手品師だよ。対策されて終わりさ。
 だから今頃は周辺人物をもろとも巻き込んで盛大な自爆でも謀ってるころじゃないかな」
「やれやれ、だな……」
 肩をすくめる貴道。
「その自爆っていうのは、止めなくていいのか?」
「それなんだけどね」

●緊急出動
 そして、現在に戻る。
「誰かいるか! ミーと一緒に来てくれ! 討伐と……救出の依頼だ!」
 酒場の扉が外れんばかりに開いて、貴道が叫んだ。
「『うらみ郵便局』という呪い屋がいる。奴は廃業のショックから辺りの地域を巻き込んで呪術による自爆を敢行するつもりらしい。
 俺たちはそこまでの情報を突き止めたが……ライオットの奴が一人で乗り込んでいっちまった。このままじゃアイツが危ない!」

 『うらみ郵便局』はスラム街にある小さな隠れ事務所だ。
 ライオットはそこへ乗り込み呪い屋を検挙するつもりらしいが……。
 呪い屋は『ダイイングメッセンジャー』という剣士風の召喚存在を無数に配置している。
 そんな場所に一人で乗り込めばライオットとてひとたまりもないだろう。
「巻き込み自爆をされれば何も知らない町の住民たちが被害にあう。
 それを阻止するために急いだんだろうが……とにかく時間が無い、一緒に来てくれ!」

GMコメント

■■■オーダー■■■
・ライオットを助け出す
・呪い屋を倒す

■■■あらすじ■■■
 元々の依頼主であるライオットは街角で起こる騒ぎの収拾や幻想各地でおこるトラブルに対する自警団の運営などを行なうよき衛兵さんです。
 (ここでいう衛兵は警備員の意味をさします)
 彼の依頼で呪い屋『うらみ郵便局』の実態を探り当てたローレットでしたが、『うらみ郵便局』が廃業のショックから周辺住民を巻き込み自爆を謀ろうとしていることがわかりました。
 この事実を知った依頼人ライオットは制止を振り切り単独で自爆の阻止へ向かってしまいました。
 放っておけばライオットは『うらみ郵便局』の仕掛けた召喚体たちによって危険な状態に陥るでしょう。
 急いで後を追いライオットを助け出し、そして共に呪い屋を倒しましょう。

■■■パート構成■■■
 このシナリオは『突入』と『決着』の二パートに分かれています。

●突入パート
 昼のスラム街。『うらみ郵便局』へ続く道には転々と召喚トラップが仕掛けられており、近づいた人間に『ダイイングメッセンジャー』という怪物が襲いかかります。
 ライオットはこのポイントまでさしかかり、今現在戦闘を行なっている所です。
 状況は不利。現場に駆けつけ彼を助け、そして共に突入を再開しましょう。
 昼でも薄暗い裏路地のような場所を駆け抜けることになると思います。
 その際あちこちから新規に出現する『ダイイングメッセンジャー』の奇襲に対応することになるでしょう。

・『ダイイングメッセンジャー』
 うらみ郵便局が放つ召喚呪術です。
 対象の死角等に突如として現われ奇襲を仕掛けるというもので、事前の察知は不可能です。
 必ずそばに現われ、必ず奇襲攻撃をしかけるという特徴を持ちます。
 『超反射神経』をもつ場合、自身を対象とした場合だけ反射的に対応できるものとします。そうでない場合はあえて初撃を受けるつもりで対応プレイングを書いてみてください。
 見た目は赤い服を着た剣士のようで、高い機動力と反応速度を持ちます。
 攻撃方法は【移】属性をもち、どれだけ離れても必ず追いついて斬りつけるというものです。この斬撃には【出血】がついています。
 この個体は攻撃力は高いですが防御やHPが低く、活動時間が2ターンしかないという特徴をもちます。
 ひたすら耐えるかカウンターで攻撃を仕掛けて倒すかをしてみてください。

●決着パート
 『うらみ郵便局』へと到達し、事務所内に飛び込んで決着をつけます。
 このとき、呪い屋は『ダイイングメッセンジャー』を8体召喚します。
 これまで現われる『ダイイングメッセンジャー』と同じ個体ですが、こちらの活動時間は10ターンまで引き延ばされ、HPと防御力が強化されています。
 呪い屋は主に【呪殺】系の攻撃を行ないます。『ダイイングメッセンジャー』の【出血】との連携に注意してください。

 戦闘エリアはあまり広くない室内に限られます。
 攻撃レンジを中~至距離に限定するか、レンジ補正覚悟で遠距離射撃を叩き込むかになるでしょう。

【アドリブ度】
 ロールプレイをよりお楽しみいただくため、リプレイにはキャラクターのアドリブ描写を用いることがございます。
 プレイングやステータスシートに『アドリブ歓迎』『アドリブなし』といった形でお書きくだされば、度合いに応じて対応いたします。ぜひぜひご利用くださいませ。

  • 赤い手紙の都市伝説 うらみ郵便局完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月10日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ルウ・ジャガーノート(p3p000937)
暴風
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
アレックス=E=フォルカス(p3p002810)
天罰
フィーゼ・クロイツ(p3p004320)
穿天の魔槍姫
ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)
不良聖女
舞音・どら(p3p006257)
聖どら

リプレイ

●裏道を行け
 ギルド・ローレットが特別視される最大の理由はパンドラ収集能力にあるが、その下に連なる様々な理由の中に清濁混合の多様性がある。
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)が常連にしている酒場の面々が、まさにそれであった。
「やれやれ。まさかおれが衛兵野郎を助ける羽目になるたあねえ……ま、郷田の頼みとあっちゃあ仕方ねえ。サクッと片付けてやろうじゃねえか」
「こっちも知り合いの知り合いが殺されるのを黙って見過ごすほど冷たくはないんでね。ここは協力させて貰うぜ!」
 グドルフと並んで走る『暴猛たる巨牛』ルウ・ジャガーノート(p3p000937)。
 筋骨隆々の肉体が芸術的なまでに躍動し、炎のごとき長い赤髪が風に舞い上がった。
「そういうこった。友人(貴道)の友人が死んだとあっちゃあ夜呑む酒がまずくなるってーもんだ。それに、ヤツのやり方も気にくわないからねぇ」
 くわえ煙草のまま走る『鉄拳聖女』ヨランダ・ゴールドバーグ(p3p004918)。
 開いた拳を小指から順にこきこきと鳴らすと、しっかりと拳を握り込む。
 彼女たちは事件の前日端に少なからず絡んだ、ローレットのアウトロー勢である。
 表のルートでは手に入らない情報を集め、『うらみ郵便局』の存在を突き止めるに至った面々であった。
 そしてその橋渡し役となったのが、『拳闘者』郷田 貴道(p3p000401)。
 今まさに友の窮地に走る、『人間のまま枠を超えた人間』である。
「『うらみ郵便局』……呪い屋だったか、傍迷惑なファッキンシットめ。職より先に人生から廃業させてやるぜ!」
 HAHAHA! とアメリカンな笑みを獰猛に浮かべ、貴道たちは加速する。
 幻想の薄暗い裏通りを、落ちた空き缶を蹴り払って。

 多様性という意味では世界でも群を抜いて異質な組織、ローレット。
 ボクサーにバンディットにハンターに破戒尼僧という荒くれ者もいれば、『平原の穴掘り人』ニーニア・リーカー(p3p002058)のような可憐で素朴な郵便屋さんも同列に存在している。
 だからこそ入る情報があり、だからこそ巡る縁がある。
 今回の依頼人は『街角の衛兵』ことライオット・スタークだが、その衛兵に通報したのは他ならぬニーニアであった。
「あのとき送られてきた『赤い手紙』の正体がついに掴めたんだよね。
 人に不幸を届けるなんて許さないよ。
 郵便屋さんは人の想いを届けるお仕事なんだから――!」
 翼を広げ路地のずっと先を目視確認するニーニア。
 実に見覚えのある召喚存在『ダイイングメッセンジャー』の集団が赤い服の傭兵を襲っている様子を確認し、仲間たちにハンドサインを送った。
 サインを受け取り、頷く『黒曜魔弓の魔人』フィーゼ・クロイツ(p3p004320)。
「黒幕が分かったからって、一人で乗り込むなんて無謀な衛兵もいたものね」
 フィーゼは以前の事件から『ダイイングメッセンジャー』の異常性や厄介さを知っていた。自動追尾する召喚物が大量に発生するというこの状況。普通なら単独で乗り込んだりはしないが……。
「そういう馬鹿やる奴は嫌いじゃないわよ。猶更、助けに行かないとね」
 手柄への欲や、憎しみや怒りでなく、純粋な正義と善意で成された無謀であるならば……。
「ふうん、なるほど? おもしろいことになってるみたいだね」
 周りの様子から事情をそこはかとなく察した『聖どら』舞音・どら(p3p006257)は、黒い猫耳をぴこんと動かして笑った。
 楽しそうな事情に首を突っ込むおもしろさと、(主に貴道から)受けた依頼を完遂しようという真面目さと、良き隣人の命を助けようという善意と……それらを全部ひっくるめた『おもしろきこと』のために、どらはしっぽを立てた。
「討伐目標は『うらみ郵便局』っていう呪い屋でいいんだよね? それも廃業したての」
「……勝手にフラれた逆恨みに、廃業した八つ当たりか……そうい自分勝手な奴は大嫌いなんだ。私一人で充分だ」
 表情を険しくする『星竜の稽古仲間』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)。
 意志を持つ槍を手に取ると、目の中に契約の紋章を浮かび上がらせた。
「……無事には済まさん」
 こうしてここに、『うらみ郵便局』へのケリをつけるべく八人のイレギュラーズチームが結成されたのであった。

●召喚トラップとライオット・スターク
 赤い服を着た剣士が現われ、顔面めがけて剣を繰り出してくる。
 ライオットはギリギリのところで突きをかわし、逆手に持った短剣で次の攻撃を打ち払い、膝のホルダーから抜いたダガーを肩越しに投擲。背後から迫る剣士『ダイイングメッセンジャー』へと命中させた。
 が、それでも止まらぬダイイングメッセンジャーの突きがライオットへと迫る。
「しまっ――」
 回転し飛来する斧。
 ダイイングメッセンジャーの腕がばっさりと切断され、木造の壁に突き刺さる。只管に無骨な斧だ。
 そこへ、猛烈な勢いで飛びかかったグドルフが山賊刀を振りかざした。
 大上段から打ち込まれた斬撃がダイイングメッセンジャーを袈裟斬りに切断し、ライオットをギラリと見た。
「あんたは……『山賊』のグドルフ!」
 『山賊』を二つ名としてつけるとき、それは特別な意味を持つ。
 ローレットにおける彼の特異性であり、幻想における知名度そのものであった。
「何しに来たんだ、こんなところに」
「決まってんだろう?」
 聖なる拳がダイイングメッセンジャーの顔面をへこませ、豪快に殴り飛ばしていくヨランダ。
 左右から現われた新たなダイイングメッセンジャーの斬撃を素手で掴み取り、脇腹への蹴りと頭を鷲づかみにしての叩き付けで振り払う。
 ばっさりと斬られた筈の手は、聖なる光でみるみるうちに傷がふさがれていった。
「『友人の友人』を助けに来たんだよ」
「友人……貴道か!?」
「イエス!」
 壁に打ち付けられたダイイングメッセンジャーの顔面に、屈強な拳がめり込んだ。
 めりこんだどころか背後の壁を突き抜け、肘まで埋まった腕を引き抜いて親指を立ててみせる。
「アイ、アム!」
「なぜついてきたんだ。依頼したのは調査までの筈だぞ」
「水臭いぜライオット。ミーとフレンズがあんな半端で手を引くとでも?」
「ライオットさんも、いつも町を守ってくれてる衛兵なんだよね?
 そんな良い人、一人に任せちゃいけないもんね!」
 空から舞い降りたニーニアが革手袋からエネルギーレターを射出。
 全方位に向けて回転するように乱射した。
「君は確か……」
「僕らも無関係ってわけじゃないんだし、一緒に事件を終わらせようね!」
「話はまとまったか」
 ルウが魔刀を担ぎ、ダイイングメッセンジャーたちの中へと自ら飛び込んだ。
「こいつは昨晩の酒をまずくした分」
 豪快な斬撃がダイイングメッセンジャーを上下真っ二つに切断する。
「こいつは闇市からお前の手紙が出てきた悲しみの分」
 巨体から繰り出される前蹴りがダイイングメッセンジャーを突き飛ばしトタン壁を突き破っていく。
「そしてこいつは闇市でスッた俺の悲しみの分だ!」
 ダイイングメッセンジャーの首を掴んで振り回し、豪快に投げ飛ばすルウ。
 民家の壁に突き刺さったダイイングメッセンジャーを見ながら、アレックスは小さく首を振った。
「……七割がた私怨だな」
「ムカついた敵は殴る。それが俺のルールだ」
「……まあ、いい」
 アレックスは目的地まで走りながら、進行方向上のダイイングメッセンジャーに対して青白くスパークを起こす槍を突き立て、そのまま突き進んだ。
 二人ほどを串刺しにし、壁にピン留めする。
「……鬱陶しいものだな……木偶ごときが私の道を塞ぐな」
 ピン留めされた隙をつくように、スラム街のトタン屋根から飛び降りてきたどらが太い血管を切断。
 手の甲から伸びた獣めいたクローがはしり、ダイイングメッセンジャーたちの血を吹き上げていく。
「ライオットも皆も、無茶はダメだよ?」
 さあ行こう。そう言ってどらは勢いよく駆けだした。
 目指すは『うらみ郵便局』。
 道を阻むように飛び出してきたダイイングメッセンジャーへ、フィーゼが魔力で形成した黒い槍を豪快に投擲した。
 肉体を槍が貫き、まるで破裂する水風船のごとく散らしていく。
「元凶をきっちり仕留めて、終わらせるわよ。迷惑な逆恨み男は、きっちり処理しておかないとね」

●うらみ郵便局
 スラム街を疾走する黒い影。
 どらはクローを交差させると、死角から左右同時に現われたダイイングメッセンジャーの攻撃を斜めのスピンジャンプと打撃によって受け流した。
 よけきれなかった斬撃がシャツを切り裂き血を噴き出させるが、それで止まるようなどらではない。ぺろりと唇を舐めると前方の家屋めがけて跳躍した。
 追いつきてきたライオットが貴道とルウたちに呼びかける。
「あれが『うらみ郵便局』だ。どうする」
「ノックでもするか?」
「賛成だ。『ノック』してやろう」
 ルウと貴道はアイコンタクトをとって頷きあうと、二人同時に家屋にショルダータックルを仕掛けた。
 二人と跳躍したどらによるキックが加わり、三人がかりのパワーによって壁は崩壊。彼らは家屋の内側へと強行突入した。
「お、おまえ! なんて所から入ってくるんだ!」
 赤い羽根ペンを手に机から立ち上がるぼろけたローブの男。
 間違いないだろう。彼が『うらみ郵便局』の呪い屋だ。
 前髪を手ぐしでぐいっとなで上げる貴道。
「ミーは正義の味方って訳じゃないが……ミーのライフワークに割り込んで来たのはユーの方だからな」
「……っ!」
 召喚物のトラップをかいくぐってきたのだ。今更話し合いということもなかろう。
 呪い屋はペンを空中に走らせると八体のダイイングメッセンジャーをいっぺんに呼び出した。
 壁や天井や床、あちこちに刻み込まれた血の魔方陣から特別に強化されたダイイングメッセンジャーが現われ、一斉に剣を抜く。
 びりびりとした威圧感にかつての記憶をよみがえらせるニーニア。
「おっと……これは……」
 八人がかりでも翻弄されかけた召喚体が一度にこれほど召喚されるとは、である。
「う、う、う、おまえ! おまえから殺してやる!」
 ダイイングメッセンジャーたちの剣が一斉にニーニアへ集中する――が。
 真横から飛び込んだグドルフの斧がダイイングメッセンジャーへと強引に叩き込まれた。
「ちっ、ハタ迷惑な野郎だぜ。死ぬなら一人で死にやがれ!」
 標的を変えたダイイングメッセンジャーの剣を山賊刀をぶつけることで止め、強く歯を食いしばる。
 その一方ではルウとどらが同時に別のダイイングメッセンジャーへと襲いかかっていた。
 鋭く繰り出された突きを腕で受け、貫通した刀身を筋肉の硬直で強引に止めるルウ。
 その状態からダイイングメッセンジャーの顔面を連続で殴りまくった。
 横をすり抜けるように切り裂くどら。
「ねえねえ邪魔されてどんな気持ち? ほら語っちゃおうよーどうせ僕達に潰されるんだしー」
「黙れ!」
 呪い屋の放つ呪術がどらたちに襲いかかる。
 間に割り込み、拳に聖なる光を燃え上がらせるヨランダ。
「自分じゃ手を下せない卑怯者が――!」
 ぶつけられた呪いの力を真っ向から殴りつけると、黒い火花に変えて破砕した。
 煙草を咥えたまま大きく煙を吸い込むと、左右非対称に笑って煙を吐いた。
「気に入らないから一発本気で殴らせて貰いたいモンだねぇ」
「近づくな……!」
 羽根ペンを突き出す呪い屋。
 ダイイングメッセンジャーたちが並んでガードを固めるが、対抗するようにアレックスとフィーゼが並んでいた。
 手を翳し、魔力を練り上げ槍の形に変えるフィーゼ。
「貴方があの悪趣味な手紙を送り主かしら? ラブレターにしては品が無さすぎるわよ。あれじゃ、送られた相手が気味悪がって嫌うのは当然ね」
 魔弓・黒翼月姫に槍をつがえると、ダイイングメッセンジャーたちへと発射した。
「……その顔、綺麗なままでは死なせんよ」
 アレックスもまた魔力を練り上ると槍を巨大な剣のようなエネルギーで包んで投擲。
 合わさった二つの槍が螺旋状に絡み合い、ダイイングメッセンジャーたちへと直撃。そのまま貫いて呪い屋へと襲いかかった。
 ペンを翳して魔術障壁を作り出す呪い屋。
 壁際まで吹き飛ばされたものの、ギリギリで踏ん張り槍を打ち払った。
「僕は悪くない! 僕は悪くない! 社会が僕を認めないから……!」
「ライオット……」
 拳を握り直し、貴道はライオットへと目配せした。
 ライオットはため息をつき、腰の栄養ドリンクをライオットとニーニアへと放り投げる。
 瓶をキャッチし、親指だけで蓋をひらいて飲み干す貴道。
 空の瓶を地面に叩き付けて割ると、獰猛な獣のように笑った。
「ユーはこの手のマザーファッカーは大嫌いだろう? 早く仕留めないと燃えカスにしちまうぜ?」
「参ったな、皆やる気を出しすぎだ……」
 こきりと首を鳴らし、剣を構えるライオット。
 不利を悟って窓から逃げようとした呪い屋へ、ニーニアが凄まじい鋭さで『赤い手紙』を投擲した。
 回転し壁に突き刺さる封筒。
 眼前数センチの距離でそれを見せられ、呪い屋は思わず足を止めた。
「返すよ。都市伝説は、あくまで都市伝説ままにしなくちゃ」
「ぼ、僕は――」
「うるせえ」
 貴道は瞬間移動のごときスピードで呪い屋へ詰め寄った。
 ボクシングは大地と肉体と大気の全てを使った打撃のスポーツだ。ゆえにフットワークを重要視する。腰を低く地面を素早く斜めに蹴り続けるようにしてジグザグに接近した貴道の動きを、並の人間は肉眼でとらえることすら難しかっただろう。
 強いて気づけるのは腹に焼きごてのように燃える拳を食らった瞬間と、猛烈なアッパーカットが顎を砕いた瞬間。
 そして素早く飛びかかりライオットが縄をかけたその後であった。
 あまりの破壊力に壁を突き破り、路上に倒れた呪い屋。彼の両手に縄をかけ、ライオットは貴道たちへ振り返った。
「あー、いってェ。全身ズタボロだぜ。呪い屋ァ、おめえのせいだぞ。たっぷり落とし前付けて貰うからな」
 おびえすくむ呪い屋。顎が壊れたせいでまともな言葉が出てこなかったようだが、ライオットが苦笑して彼を立ち上がらせた。
「勿論だ。ちゃんと収容してちゃんと罪を償わせる。まあ……また貴族の手は借りれないんだろうけどな」

 こうして、『街角の衛兵さん』によってスラム街の悪人は逮捕され、民間刑務所へと収容されることになった。
 これにて一件落着。
 今夜もまた、酒場でグラスが交わされることだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete!
 『赤い手紙の都市伝説』――完

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