PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Pyrophobia
Pyrophobia

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●祀りの妨害者
 何の変哲もない、田舎の村。由緒だけは正しくて、代々一領主の支配下にあった。そんな村だから、長年続く伝統のお祭りはいくつもある。例えば、今日行われようとしている『火祀り』だ。村の広場に丸太を組んで、火にくべて煙を天へと上げるのである。暑くなる夏に備えた、慈雨を祈るための祭りだ。
「さあ、薪に火をくべよう」
 村長は朗々と声を張り上げる。今日の為に用意した最高級の白パンをバスケットに積み重ねて、鉄の大鍋でたっぷり煮込んだシチューがくつくつと煮えている。誰もが今日という火を心待ちにしていた。祭服を着た少女が、燃え盛る松明を掲げ、油の塗り込まれた組み木に火を灯した。組み木全体へ一気に燃え広がり、ごうごうと音を立てて燃え盛る。星の輝く夜空が濃紺に輝いた。

 その瞬間である。遥か彼方から獣の絶叫が轟いた。村人達は不安げな顔で立ち上がる。村の四方から、次々に咆哮が響き渡ったかと思うと、柵を突き破って4体の巨大な熊が姿を見せた。目を血走らせて、一斉に突っ込んで来る。
 悲鳴を上げて逃げ惑う人々。鍋をひっくり返し、白パンをぶっ飛ばしながら駆け抜け、熊の群れは一斉に燃え盛る炎に組み付いた。拳を何度も叩きつけ、焚火をバラバラに崩していく。土に塗れさせて火を消し去ると、熊は吼えながらまた夜闇の中へと消えてしまった。

 燻る煙、地面に散らばる食べ物を見つめ、人々は茫然と立ち尽くしていた。

●祀りの防衛を!
「……と、クマさんのせいでその村はお祭りが出来ない状態になっているのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、井桁形に積み上げた積み木を拳で突き崩す。
「情報によると、混沌の影響を受けたクマさんは炎を見るなりものすごく怒ってしまうそうです。でも炎を消したら、むしろ普段のクマよりも大人しくなって帰っていくとか……」
 祀りを遂げられないとどんな影響があるかわからない。何度も再開しようとしたらしいが、クマはその度現れて、あっという間に焚火をぶち壊して帰っていくらしい。獣は炎を恐れるというが、全くあてにならない話だ。
「そこで皆さんに依頼が舞い込んできたのです。お祭りをしなければ勿論解決するのですが、お祭りをしなければ雨が降らなくて大変な事になってしまうかもしれない……そのことを村の人達は恐れています。その心配を解消してあげる必要があるのですよね」
 ユリーカはガッツポーズを作った。
「クマさんはきっと全力で来ると思います。張り切って取り組んでくださいね!」

GMコメント

●目標
 祀りの火が消される前に化けグマを討伐する。
 以下の規定数を討伐した時点で終了となります。

●情報制度
 このシナリオの情報制度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 夜間。村を背にした草原で戦闘を行います。細部を見通すには少々暗いかもしれません。
 街道の通った平地で、武器を振り回すのに支障はないでしょう。
 空は晴れており、星空が綺麗です。

●敵
・狂い熊×4
 人間サイズ~人間の2倍まで様々なサイズの熊がいます。
 その膂力は脅威です。生半可な守りではあっという間に地へねじ伏せられることでしょう。
 混沌に脅かされた事で我を失っており、意思疎通は難しいでしょう。
 火に対して、狂気的な敵愾心を持っている様子。

→攻撃方法
 噛み砕く…命中した場合、【流血】となる。
 引っ掻く…命中した場合、【崩れ】となる。
 突進…単純攻撃。

→出現
 村の四方から出現。最初は夜闇に紛れて視認は難しい。

  • Pyrophobia完了
  • GM名影絵 企鵝
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月06日 22時10分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
果ての絶壁
アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)
黒陽炎
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ヘリオトロープの黄昏
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
五行絶影
藤野 蛍(p3p003861)
学級委員の方
桜咲 珠緒(p3p004426)
要救護者
ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

リプレイ

●熊の剛腕
 じりじりと日差しが強さを増す日中。炎堂 焔(p3p004727)は村人と共に街の広場で巨大な焚き木を組んでいた。
「助かるよ。この丸太を何度も組むの、楽じゃないんだ」
「だと思うよ。これだけの焚火を作ったら、随分と高くまで煙が登りそうだね」
 元の身分は炎の巫女、焔は興味深そうに丸太を見つめる。
「どこかの国の人の話だと、この煙が高く高く上がる事で雨雲が出来て、初夏により多くの雨が降り注ぐようになるのだとか」
「ふーん……」
 一方、ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)は村の南と西を取り囲むように広がる森を見つめていた。その背後では式神が薪や火種の荷下ろしを続けている。作戦の準備が着々と進んでいた。
「ふむ……」
 風にそよぐ草木が、近頃の情景を彼に伝える。熊の咆哮が、微かに耳に響いた。
(怒るとなると、火で嫌な思いでもしたか?)
 地図に襲撃ルートを書き込みながら、彼は物憂げに眉を寄せる。
「どうしたの。随分と悩ましい顔だけれど」
 そこへやってきたアンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)が彼の顔を覗き込む。ルフトは丸太を組む村人達をちらりと見遣った。
「いや、この火祀りと熊の襲撃に因果があるなら厄介な事だと思ってな」
「でも、このお祭りは何十年もの間つつがなく行われてきたとこの村の者達は話しているわ。今になって熊が暴れている原因は、もっと別のところにあるんじゃないかしら」
 アンナは腕組みをする。村の囲いの外でも、藤野 蛍(p3p003861)が薪を井桁型に組んでいた。
「別のところ?」
「ええ。……ジルーシャさんが懸念していましたわ。最近――」

 陽が西の彼方に沈む頃、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は紫の空を見つめて物思いに耽っていた。背後では祭事の祝詞が既に始まっている。
「火を怖がるならともかく、自分から向かってくるなんて。やっぱり“普通じゃない”のよね」
 近頃、奇病に侵された動物の出現が散発していた。症状は違えど、いずれも“何か”に酷い拒否反応を示している。今回にしてもそうだ。
「……ひょっとしたら、あの熊たちにも、何かに噛まれた傷跡があるかしら」
 ジルーシャの呟きを、桜咲 珠緒(p3p004426)は眼を閉ざしたまま聞いていた。
「少なくとも、社会において祭事とは大きな役割を持つものです。権威や政治だけでなく、苦労の多い日々での、人々の癒しであったりします」
 その祭事の為に傷ついてきた珠緒であったが、感傷に浸る事もなく、ただ前向きな意志の下で得物を手に取る。
「これ以上は長くなりますが……要は、この祭りは邪魔させたくないという事ですね」
「それには同意するわ。まずは迎え撃ちましょ」
 ジルーシャが古びたバイオリンを弾き奏でると、宙にちりちりと火花が舞い、炎の身体を持つ精霊が姿を現す。暗闇に包まれた草原を、ぼんやりと照らした。その背後では、それよりさらに大きな炎がごうと燃え盛る。祭事の炎が灯された。
 煌々と橙の炎が輝き、森の彼方まで光が照る時、森の中から唸り声が響き出す。珠緒は暗視ゴーグルをかけ、松明に火を灯して右手に掲げる。
「開戦の狼煙が上がった。……というところでしょうか」
 草原に一陣の風が吹くが如くざわめく。しかし、珠緒の暗視ゴーグルは、夜闇に紛れて走る一頭の巨大な熊の姿を捉えていた。炎の精霊はふわりと浮かび、熊の目の前に炎をぱちりと瞬かせる。
「よし、まずは合流ね!」
 咆哮と共に押し寄せた熊を引き付けながら、二人は西を目指して走り出した。その視線の先では、既にオラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)と仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が熊と衝突していた。
「狂った獣が炎を破壊する。奇妙とは言い難い現実だ。我々人間も異物を発見したならば悉くを『否定』せねば成らない」
 およそ人間とは言い難い真っ黒くろすけが立て板に水を流すように話す。その間にも熊が一瞬で間合いを詰め込み、その膂力で彼をぶん殴った。彼を形作る闇がぶっ飛ぶが、その傷口から次々溢れ出して元の形を取り戻す。その生命力は伊達ではない。
「我ら『物語』の中で炎とは冗長で在り、忌々しい最終頁の先の筆だ。兎も角、此れは依頼で在る。火を守る。肉壁は常の如く立ち塞がるのみ」
「随分と回りくどい事を言っているが、要するに盾として振舞ってくれるというわけだな」
 汰磨羈は自らの松明に火を灯す。熊は早速汰磨羈へと突っ込んできた。
「飛んで火に入る春の熊。……うむ、色々と間違っているな」
 彼女は松明を翳したまま素早く後退する。振り下ろされた爪が、彼女の髪先を僅かに掠めた。二又の尻尾を揺らし、彼女は態勢を整える。
「一度物語の舞台に上がったならば、勝手気ままな振る舞いは看過できない。役者として舞台で存分に踊れ」
 女のような声を響かせ、再びオラボナが熊の間に割り込んで来る。全体重を乗せた突進が直撃するが、オラボナは何とかその場に踏みとどまった。汰磨羈が投げて寄越した松明を受け取り、踊るように彼は熊を挑発する。無尽蔵の生命力で、彼はそれを正面から受け止め続けた。
 その隙に、汰磨羈は柵の外に構えた薪の束に辿り着いた。妖刀を振り抜き、闘気を火焔に変えて薪に火を灯す。油の沁み込んだ薪は一気に燃え上がり、白煙を空へ棚引かせながら橙の光を放つ。
「さあ、ここからが本番だな」
 ジルーシャ達も火を囲むようにやってくる。妖刀を八相に構え、少女は涎を垂らす熊二頭を睨みつけた。

 森からは遠く離れるはずの東側からも、熊は回り込んで押し寄せていた。松明を掲げた蛍は、一歩一歩後退りしながら熊の突撃を迎え撃つ。
「炎を消すと異常に大人しくなるのも変よね。賢者タイムとかいうのじゃあるまいし……なんて言ってる場合じゃない!」
 熊は咆哮と共に、丸太のように太い腕を振り下ろして来る。蛍は慌てて飛び退いた。
「少なくとも今は全力みたいだね!」
 焔は蛍と熊の間に割り込み、槍の穂先に灯した炎を熊の目の前で振るう。じりじりとした熱に燻られ、熊は唸って焔に正面から突っ込んだ。直撃を喰らった焔は、宙でくるりと一回転、よろめきながらも両足で着地した。
「危ない危ない……とりあえず、そのままこっちにおいでよ!」
 焔は槍を振り抜き、草原に炎の道を一筋灯す。熊は前屈みになって低く唸ると、ずんずん足を踏み鳴らしながら一直線に押し寄せてくる。蛍は身を翻し、出来上がった道を遡るように駆け抜けた。ばたばたと走り回る二体の少女型ロボットが、蛍が組んだ焚火に炎を灯そうとしている。
「熊との戦いなんて正気じゃないと思うけど……」
 遂に火が灯った。蛍はその焔を背に身を翻し、ローブを翻して戦闘態勢を取った。
「困ってる人がいたら助けるのは委員長として当たり前、よね」
 蛍の背後では、アンナとルフトが熊の攻撃を受け流しつつ焚火へ後退を続けていた。
「こんなに良い星空だというのに火に夢中なんて。ダンスのお誘いくらい、してもらいたいものだわ」
 振り下ろされる爪を左腕の盾で受け止める。身を翻して巨体を脇へと往なしつつ、アンナは後退りを続ける。ルフトはその背後で暗闇の中を跳び、宙から敵の状況を窺っていた。
「熊は完全にこっちを見ているか……」
 熊はアンナや蛍を押しのけ、その背後の焚火を消そうと足掻いている。ルフトは宙で身を捻ると、一気に空を蹴って熊の背後へと突っ込む。紫の槍を構えると、熊の背後から鋭く穂先を振り抜いた。穂先に宿った暗闇が熊へと乗り移り、その目元を覆い隠す。熊は呻くと、闇雲にその腕を振り回した。
「頼むぞツキ。熊の動向に逐一気を配れ」
 眼を閉ざした式神は、頷きその両手を広げた。

●火の力
 炎を前にして、熊は轟々と咆哮を発する。力任せにその腕を振り回し、炎もイレギュラーズもまとめて薙ぎ倒そうとしてくる。その爪先が汰磨羈へと伸びるが、オラボナは素早く間へ割って入った。巨大な盾を呼び起こし、その爪を真正面から受け止める。爪は深々突き刺さるが、オラボナはその笑みを崩そうとしない。
「さあ、雁首揃えてやって来たなら、共にやられ役らしく踊って貰おう」
 オラボナは指をぱちりと鳴らすと、足元に小さな椅子を呼び出す。それを見た汰磨羈は、刀を構えたまま急いで後退りする。
「諸兄、一旦下がれ」
 彼女の言葉に合わせ、ジルーシャ達も距離を取る。オラボナが椅子の上に腰を下ろすと、椅子は不意に高速回転を始めた。名状しがたい形状の何かが、次々に熊の身体を切り裂いていく。
「めっちゃ回ります。回ります。ぐるぐる……」
 バカバカしい見た目だが、鼻先を裂かれた熊は怯んだ。怯んだが、転げたオラボナは地面に手を付いて呻く。
「おええ」
「何をしてるんですか……」
 オラボナの隙を突こうとした熊の正面に、珠緒が素早く割って入った。タクトを突き出し、その一撃を受け止める。鈍い一撃を受けて足下がおぼつかなくなるが、彼女は何とか倒れず踏み止まった。
「対策は練ってきましたが、それでもこの膂力は脅威ですね……」
 珠緒はタクトを振ると、肩口に受けた傷を癒していく。ジルーシャはその背後で、小さな土塊人形を次々作り出していた。
「力自慢なら、その力を上手く振るえなくしてしまうのが一番ね」
 ジルーシャが熊を指差すと、仮初の命を得た人形が次々熊に飛び掛かっていく。熊は吼えながら人形を次々掌で吹き飛ばしていく。しかしその隙に、ふわりと浮かんだウンディーネが熊二頭を見下ろす位置につけていた。
「さあ、ディーちゃん。その歌声を心往くまで聞かせてやりなさいな」
 こくりと頷き、彼女は氷海のように冷たい歌声を響かせる。熊は精霊を見上げ、炎を睨み、いよいよ狂ったように吠えた。
 熊が惑っている隙に、汰磨羈は素早くその背後に回り込んだ。
「さて、この熊を燃やしたらどうなるのだろうな。同士討ちでもしてくれるかな?」
 妖刀を構えると、汰磨羈は敵の背後に向かって素早く走り込んだ。刃を構え、その首筋目掛けて燃え盛る刃を振り抜く。しかし、分厚い毛皮はその表面が僅かに焦げただけで、熊を火達磨とするには至らない。
「……そう簡単にはいかないか。だが、燃えるまで何度でも繰り返すだけさ」

 一方、南方では熊が意気盛んにその巨体を躍らせていた。アンナは壁を呼び出して熊の攻撃を受け止めるが、ただの人間なら一撃で首が吹き飛ぶような熊の一撃を何度も受け止めてはいられない。全身に襲い掛かる衝撃に耐えかね、彼女は意識を飛ばしかけた。
「う……」
 よろめくアンナ。彼女は深紅の宝石が嵌まった指輪をそっと撫で、溢れる混沌の力でその意識を無理矢理繋ぎ止めた。蛍は慌ててアンナにその右手を翳す。
「だ、大丈夫!?」
「……何とかね。パンドラに頼る羽目になってしまったけれど……まだ立てるわ」
 蛍の癒しの力でその傷を塞ぎ、両足で踏ん張り直すと、アンナは漆黒の布を振り乱しながら目の前の敵へと踏み込んだ。布の影から金色の光を宿した剣を目まぐるしい速さで繰り出す。毛皮の薄い熊の頭が、次々に切り裂かれて血が滲む。少女の逆襲を受けて、熊は咄嗟に顔を庇う。
「そこだ」
 ルフトは熊の正面に降り立つと、複雑なステップを踏んで敵を惑わせつつ、その首筋に槍の穂先を突き立てる。穂先に込めた魔力との併せ技。熊はぐらりと仰け反った。
「さあ、そこだよっ!」
 焔はその隙を見逃さない。髪の毛の先に炎を灯して、短槍を振り回しながら熊の懐へ飛び込む。その戦意を炎に変えて、焔は熊の顎を槍の穂先で突き上げた。よろめく熊の目の前にしがみつくと、彼女はそっと熊の鼻先に手を翳す。
「こんなこともしちゃうよ?」
 言うなり、焔は熊の毛皮に火を灯した。彼女に与えられたギフトの力。何をも焼き尽くせぬ炎を生み出す。大道芸並みの、ほんの少し人に暖を与えるくらいの力。
 しかし、炎を『病的』に恐れる熊にとってはクリティカルだった。熊は吼えると、いきなり炎のついた熊に突進してその爪を叩きつける。鋭い爪が、燃える熊の毛皮を抉り取った。鮮血が溢れ、燃える熊はよろめく。呻き、闇雲に振り回した腕は傍に居た焔にも、目の前の熊にも直撃した。焔はまたしても宙を舞う。パンドラを使いながら、何とか焔はその場に踏みとどまった。
「いたたたたっ! ……ちょっとやりすぎたかな……?」
 蛍は尻餅をついたホムラの側に駆け寄り、彼女の浅黒い柔肌に刻まれた爪痕を塞いでいく。既に熊はルフトとアンナに翻弄され、満身創痍の状態になっていた。
「でもわかったわ。少しかわいそうだけど……この同士討ちはかなり有効かも」
 蛍は手の甲に刻まれた呪印に手を翳す。戦況と作戦を僅かな単語に乗せて、彼女は大切な親友へと飛ばした。

 炎、熊。そんな単純な二文字だけでも、親友の言わんとする事は珠緒に伝わった。今まさに、同じ事が珠緒の前で繰り広げられていたからだ。
「同胞であっても見境無しですか。……これは確かに異常かもしれませんね」
 ジルーシャの使役するサラマンダーの一撃、汰磨羈が目にも止まらぬ速さで振り抜いた陽炎の一閃が、熊の毛皮に火を灯す。二体は狂ったように吠え、唸りながら火のついた毛皮を互いに削ぎ落し合っていた。
「哀れ狂気の怪物。描き手すらも予想だにせぬ炎の呪いによって自ら傷つけ合い滅びゆく」
 全く憐れむような雰囲気の無いオラボナは、軽快に熊の周囲を歩き回りながら、何処からともなく取り出した毒々しい色合いのケーキを片方の熊に叩きつけた。熊は怒りを加速させ、いよいよ殺意に溢れた一撃を熊に叩きつける。よろめく熊を見渡し、汰磨羈は妖刀を肩に担いだ。
「やれやれ。ここまで上手くいくとはな。ジルーシャよ。御主は左のを頼む」
「わかったわ。手を下すのはアタシじゃないけどね」
 バイオリンを変調させると、暗い闇の中から、何処からともなく黒い妖精が飛び出してきた。鋭い黒剣を構え、滑るように熊へと襲い掛かる。その背中を追って、汰磨羈ももう一匹の頭上目掛けて跳び上がった。
 二振りの刃が閃く。口蓋を貫かれ、脳天を砕かれた二頭の熊は、そのまま白目を剥いて草原に倒れ込んだ。

 蛍達の戦線も、既にイレギュラーズ達の優勢に傾いていた。既に熊はよろめき、今にも勝手に倒れそうだ。
「祭りを邪魔し、ついでに私をよろめかせた代償は……熊肉の提供でどうかしら?」
 アンナは悠々と熊の正面へ踏み込む。細身の剣を鋭く構え、熊の眼を目掛けて鋭く突いた。纏う毛皮が鎧のように固くとも、眼の組織までは変わらない。眼窩の薄い骨をも砕いて、刃は熊の頭を貫いた。その背後から、ルフトも素早く切り込む。柄を長く握り直して、槍を頭上たかだか振り被る。
「今回の仕事は火祀りを守る事。気の毒だが……これで終わりだ」
 脳天目掛けた単純そのものの一撃。奇をてらわないが故に、その一撃は寸分の乱れもなく熊の脳天を打ち砕く。
 事切れた熊は、次々に倒れ込んだ。蛍が近づき、じっと熊の様子を覗き込む。頭を砕かれては、強靭な熊も二度と動けなかった。
「熊は討伐完了。……任務達成、かな」
 振り返ると、祀りの火は今まさに空高くに燃え盛っているところだった。

●夜空へ輝く燈火
 任務が終われば、ひとまずは自由時間である。数時間経っても盛んに燃え続ける火を見つめながら、焔は広場に腰を下ろしていた。
「皆さんのお陰で、今年も無事に雨が降りそうです」
「そしたらまた美味しい小麦が出来て、このお祭りで美味しい御馳走が食べられるんだね」
 スープに漬けたパンを、焔は口に頬張る。白パンは無くなってしまったから、用意されたのは黒パンにただのスープである。でも人々の表情は明るかった。
 蛍と珠緒も、仲良く並んで火を見つめていた。
「お疲れ様。さっきの状況はかくかくしかじかだったけど、伝わってた?」
「ええ。蛍さんのイメージなら、しっかりと」
 珠緒はそっとスープを啜り、火の周りでのんびりと踊る村人たちを見つめる。
「このお祭りが守れてよかったです。ただの迷信にしろ、科学的根拠があるにしろ、人のよりどころというものは大切ですから」
「うん。……お疲れさま、珠緒さん」
 蛍は微笑むと、そっと彼女の肩を撫でた。

 一方、アンナとルフト、汰磨羈にジルーシャは熊の亡骸四体を取り囲んでいた。
「いっそ熊肉のスープに……と出来ない理由があるのでしたわね」
「ええ。……アタシの経験上、多分どこかに……ああ、やっぱり」
 鋏で剛毛を刈り取りながら、ジルーシャは熊の首筋に、小さな噛み跡を見つけた。ルフトは彼の上からその傷をじっと覗き込む。
「古い傷だな。……何かに噛まれたか」
「ええ。何か病気みたいなものにかかって、こんな風になっているんじゃないかって、そういう話を色々な人としたわ」
 汰磨羈は顔を顰める。
「確かに病気だとすれば、そんな肉を人に喰わせるわけにはいかんな。……というか、それと触れ合った私達の身も大丈夫だろうか」
「アタシ達は簡単な治療で治るから大丈夫よ。人に感染った例を聞かないから、その時どうなるかはちょっと心配だけど……」



「かくして炎を恐れる熊の事件は幕を閉じた。これからもきっと、火祀りは恙なく行われていくのだろう……」
 どこともない場所に立ち、仲間達を見つめたオラボナはぽつりと呟くのだった。



 おわり

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
熊に火をつけるっていうのは想定してなかった……確かにこれは効果的でしたね。素晴らしかったと思います。

ではまた、何かの機会にお会いしましょう。

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