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シナリオ詳細

暑いぞ! そうだ、狼を狩ろう!

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「暑くなってきましたね……」
 氷が浮かぶグラスから、ストローでずずっと飲み込んだ『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)は染み渡るような心地よい冷たさにほうと息を吐く。
「姫様。少しよろしいでしょうか」
 ぼう、と積もった書類の束から視線を逸らしながら部屋の中に視線をさまよわせていると、不意にそんな声がした。
「どうぞ~」
 随分と間延びしてリラックスした様子の声は、相手が誰か分かっているからだろうか。
「では、失礼いたします」
「クラウスさん、こんにちは。傭兵参謀自らいらっしゃるほどの事件が起きたんです?」
 言いつつ、割と自堕落な所を見せている辺り、そんなことはないと察しているようだ。
「それほど大きな案件と言うほどでもないのでしょうが、そろそろ片付けておいた方がいいかと」
 きょとんと首を傾げるテレーゼにクラウスと呼ばれた眼帯の男は手を組んで言う。
「先の激戦で討ちそびれ、領内に散り散りに逃亡した魔物がいくつかおります。これらを討伐したいなと」
「あー……たしかに、そうですね。これまでは傭兵団の皆さんにお任せしてたんですよね」
「ええ、ですが、少々仕事が多くなりつつあります。正直な話、人員も足りません。我々傭兵の数を増やすのも難しいでしょう」
「まぁ、正直今の人数が限界だと思ってます。それで、どうするというのでしょう?」
「はい。ローレットの方々は色々とお仕事がある様子。
 せっかくですから、彼らに頼むのはいかがでしょう?
 我々は仕事の負担が減り、ローレットは活躍の場が増え、姫様は治安維持ができる。
 全員に利益があるかと」
「たしかに! ではせっかくですし、さっそく一つお願いしましょうか!
 近くに魔物と買いましたっけ?」
「でしたら――」
 テレーゼが目を輝かせて言えば、クラウスが少し考えてから言う。


「こんばんは、初めましての方々もおられるようですね。テレーゼ・フォン・ブラウベルクと申します。ぜひ、魔物退治をお願いしたいと思いまして」
 ローレットに訪れた君達は、依頼人だというゆらりと三つ編みを揺らして少女に微笑みかけられた。
「幻想の南部に炎を帯びた魔物が出没していて……これを討伐してほしいのです。
 炎狼と呼ばれる、毛並みが炎で出来た狼っぽい魔物なんです。群れで生きる奴らです」
 そう言って、テレーゼは君達の方へ資料となる羊皮紙を差し出した。
「この子達が生息しているのは、焼け落ちた森になります。
 元々は綺麗な森だったのですが、今は見る影もありません。見晴らしはいいと思います。
 人の行くような場所ではないので、これまでは優先度が低かった形ですね」
 そこまで言って、テレーゼは少しばかり沈痛な面持ちを見せる。
「ただ、今回、皆さんにお願いするにあたって、先に密偵をお願いしたのですが、どうにもその中の一匹が異様に成長をしてしまったらしく、これは皆さんに至急、討伐をお願いしたいなと」
 そう言われながら、資料を見れば、わざわざ一枚を使って別の資料が用意された炎狼を見る。
「なにとぞ、よろしくお願いします。ただ……くれぐれも、無理だけはなさらぬよう、お願いしますね? 皆さんが傷つくのはあまり見たくないので」
 テレーゼはそう締めくくると、ポンと手を叩いて、微笑みを浮かべた。

GMコメント

さて、今晩は皆さま、春野紅葉でございます。

ではではさっそく。

●オーダー
炎狼を討伐する

●敵戦力
<大炎狼>
 一際デカイ一匹です。割と強いです。群のボスに当たります。
 ただし、この個体が潰れたとしても他の個体には何の影響もないと思われます。

大炎陣 神自域 威力中 【火炎】【業火】
紅蓮爪 神近扇 威力中 【火炎】【業火】
焔突撃 神遠貫 威力大 【万能】【炎獄】
咆哮  神特レ レンジ2以内の味方の命中、回避を上昇

<炎狼>×15
 普通の狼程度のサイズ感です。普通です。

炎爪 神至単 威力小 【火炎】
炎牙 神至単 威力小 【業火】
炎弾 神遠単 威力小 【火炎】【業火】

<共通項>
回避、反応、EXAがずば抜けて高く、神攻、HPが並、抵抗、防技は低めです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • 暑いぞ! そうだ、狼を狩ろう!完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年06月04日 21時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
祝呪反魂
ヨハン=レーム(p3p001117)
おチビの理解者
シラス(p3p004421)
超える者
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
オールド(p3p006823)
幼き機獣
グランツァー・ガリル(p3p007172)
大地賛歌

リプレイ


「暑いのは嫌いだ。奴らのせいで気温上がってるンじゃねぇか?」
 目を細めて『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)はウィッチクラフトで五感共有する鴉で敵陣の様子を眺めながら、不快そうに外套で汗をぬぐった。
(暑ぃ……これから夏だってのにこんなの放っておけるかよ!)
 汗を流す『閃翼』シラス(p3p004421)はこれから戦う敵の事を考えて心の中で叫ぶ。
(心頭滅却すれば火もまた涼し、とは言いますが、単に麻痺してませんかと思う今日この頃)
 じりじりと照りつける太陽を見上げて『要救護者』桜咲 珠緒(p3p004426)は小さくため息を吐いた。
(炎狼が増えたから暑いのか、暑いから炎狼が増えたのか。
 どうあれ、討伐が済めば、多少は涼しくなるのでしょうか)
 パタパタと手うちわで扇いで、もう一つ息を吐く。
 さすがに、これを倒すだけでは気温をどうこうできないかもしれないが、倒したら何となく涼しく感じるかもしれない。
(幻想種として……いや、俺個人として見過ごせそうにないな)
 黒衣の軍師服でフード目深に被る男――ルフト=Y=アルゼンタム(p3p004511)は尋常じゃない顔色の悪さを見せないようにぐぃっとフードを目深に直す。
「さてと狼狩りか。張り切るのはいいが…水分補給はしっかりと、熱中症に気をつけろよな」
 そういう 『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)は、水分補給用の水稲から水をコップに分けて差し出していく。
(狼、生きてる。けど、オールド、たちにとって、狼、いると、困る。だから、倒す。)
 ウィップソード状のしっぽをゆらゆらと動かしながら『幼き機獣』オールド(p3p006823)はぎゅっと手を握る。
(食べるため、違う。けど、生きるため、だから。頑張る!がぅ!)
 やる気いっぱいのオールドの隣にいる『土繰れ』グランツァー・ガリル(p3p007172)はイレギュラーズとしては初陣であった。
(ちょっと荷が重い場に来てしまったかもしれないですねえ。それでも、皆様の足を引っ張らないように頑張らないとですよう
 森や大地が燃え行くのを黙ってみてる、というのもあまり気持ちのいいものじゃないですからねえ)
 母なる大地を尊ぶ「大地信仰」の信奉者たる彼は、燃える大地へ思いをはせる。
(炎狼……恨みはないが魔物は魔物、俺はただ戦うのみだ……。せめて苦しまぬよう)
 そんな一方で、淡々とした様子で『寂滅の剣』ヨハン=レーム(p3p001117)は白き大剣を握っていた。
 見れば既に炎狼らが思い思いに動く場所に近い。
 とっくの昔に燃え尽きた大地で、彼らは酷くひっそりと生息している。
 ――けれど、それが今だけである確証は万に一つとしてないのだ。


 ――バチバチバチッ
 膨大な雷エネルギーがヨハンの身体から迸る。
 戦場に雷鳴が轟き、その音に気づいた炎狼達が俄かに立ち上がる。
 大炎狼の咆哮が、戦場をつんざいた。
 それに呼応するように遠吠えした獣たちが、イレギュラーズの方へと疾走する。
 距離を詰めた数匹が次々にヨハンへと飛びかかり、炎を纏う爪牙で切り裂いていく。
 しかし、高度な防御技術で築かれた死角なき方陣は炎狼達の攻撃の一切を意に介することなく、静かにその場にあり続ける。
 シラスはこちらへ向かってくる多数の炎狼達とすれ違うようにして大炎狼へと至近すると、パンッと手を叩く。
「いよう、この俺が遊んでやるぜ犬ッコロ!」
 不吉な手拍子に大炎狼が目を数度またたかせ、雄たけびを上げた。
 遠吠えが響く。
 大炎狼が爪で薙ぎ払う。その時にはすでに、シラスの意識は超集中の領域に到達していた。
 ひどく遅く感じる爪の動きを見据えながら、超高速の演算が走る。
 最低限、最小限の動きで、シラスは静かにその薙ぎ払いを受け止め――流す。
 ジュッと微かに皮膚を焼いた痛みさえも、既に不要だと排除する。
「我、罪を裁く者なり」
 レイチェルは静かに呟いた。
 右半身に刻まれた鮮烈たる緋の魔術式が緋色の輝きを見せ、沸き立つ。
 静かに大地へと侵食した鮮烈たる赤が一斉にイレギュラーズ達の方へ走りこんでくる炎狼達の一部の足元に死血の海を顕現させると、刹那。
 幾つもの血槍が狼たちへと奔る。数匹が尋常じゃない回避能力を見せ躱す一方で数匹が貫かれていく。
 珠緒は神霊の加護を自らの奥底に留めて己を聖域と化すと、静かに狼から間合いを取りつつ、彼らの注意を引く二人のどちらへも自らの治療術が届く位置へと動き出す。
「互いに自然に生きる身。言葉は不要だろう。強者に狩られ糧となれ」
 珠緒に対応するように動いたルフトは静かに手を敵に向けてかざす。すると、そこにぽっかりと穴が開き、無数のゲイボルク・ロベリアが中から姿を現わした。
 無数のソレを炎狼の集団へと走らせると、射線上にいる全ての炎狼を貫く魔槍が、一直線上に血の彩りを大地に加えていく。
(単独行動は控えて連携を意識…なんてめんどくさすぎるけど、これも依頼成功のためだ。
 一緒に頑張ろうじゃないか。)
 ペッカートが魔性惨華を複数の炎狼がまとまる場所に向けて投げると、呪符から不可避の雹が降り注ぐ。
 広域に降り注ぐ雹が炎狼を貫けば、当たり切らなかった雹が蒸気を上げてじゅうと音を立てる。
「ったく、熱すぎんだろ。犬っころが」
 若干のけだるげさを含み、異界の悪魔は炎狼にじっとりと目を向けた。
「ガゥ! オールド、オオカミ、倒す!」
 オールドは走り込むと一匹の狼にローズラヴァーを振るう。バシバシと多段に打ち込まれた鞭に怯んだ炎狼が声を上げる。
「それでは、行きますよぉ」
 グランツァーがソーサラーワンドを掲げると、その先端から魔力のオーラが現れ、一匹の炎狼を捕縛して締めあげる。
 炎狼の数は多い。それでも強力な範囲攻撃により、その数は比較的短時間に減っていると言っていい。
 ヨハンの名乗り口上に気をとられた数匹の炎狼は、至近して彼に爪牙を突き立てる。
「どんなに惨めであろうとーー俺は」
 一度は折れ、故郷に帰ることを選択した少年は、複数の爪牙のうち、致命傷たりうるものを霊樹の加護深き大剣で捌き、それ以外は受け止めていく。
 ヨハンが自らの力で耐え忍ぶのは、高火力を有するルフトとレイチェルによる砲撃を最大限に活かすためだった。
 その当の本人、ルフトは、燃え盛る炎狼の死体を見やり、己が精神力を燃やしながら、空間に穴を開けて無数の紫槍を打ち出した。
 これは自らの定めた最後の一撃。連続する紫槍が、更なる複数の炎狼を穿ちーーそれの瞬間、彼の双眸が空色の輝きを増した。
 ルフトへと近づく炎狼へ、ペッカートは呪符を向けた。再び放たれた無数の雹が、炎狼を切り刻み、凍て付かせていく。
 それを躱した数匹が、その矛先をペッカートへと切り替えて突撃してきた。
 珠緒はヨハンとグランツァーの消火活動から一旦視線を変え、炎狼の爪牙を受けた仲間達へと癒しの力を込めた歌を紡ぐ。
 明朗かつ穏やかなその歌は、多数の傷を受けるイレギュラーズに神聖なる福音をもたらしていく。
 大炎狼と一人相対するシラスは、都合3度目となる超集中を始めた。
 大炎狼の猛攻は一人で捌ききるにはあまりある。それでも、猫騙しを用いて得た機を逃すことはない。
 伸びてくる炎を纏う爪とすれ違うように走り抜け、懐に潜り込むとともに、岩を割り、鉄を裂くほどに練り上げた魔力を纏う足で刈るように薙ぎ払う。
 込められた格闘術式が大炎狼の肉体を蝕んでいく。 
 レイチェルは自らにすがりつかんとする炎狼から既に標的を大炎狼に改めていた。
 他のイレギュラーズなぞ眼中に入れず、目の前の敵に集中する大炎狼が、シラスへめがけて突撃を仕掛けんとする瞬間、レイチェルの血を媒介とした憎悪の焔が鞭となって駆け抜ける。
 しなりながら走った鞭は、大きく開かれた大炎狼の口を縛り上げ、無理やり閉じさせた。


 戦いが始まってから少しの時間が経った。
 ずきりと、痛みが走る。シラスは一瞬だけ動きを止めた。
 大炎狼が小さく唸り、爪でシラスを薙ぎ払わんと腕を向け――
「大丈夫か?」
 ――しかしその猛威は、彼に到達しなかった。
 ヨハンは後ろに隠したシラスへ問いかける。
 炎狼の処理は既に全て終わらせた。残りはこいつ一匹だ。
「あぁ」
 炎への耐性を有している以上、危険なのは大炎狼の攻撃一つ一つが有する威力のみ。
 それもまた、楽観視できるものではなかったが、暴れに暴れるその威力が自分一人にだけ被害をもたらすという意味で、シラスの存在は大いに意味があった。
 背後で珠緒がシラスへ賦活の力をもたらしていくのを感じながら、ヨハンは防ぎ切った大炎狼を見る。
 こちらを巨体で睥睨する大炎狼に、少年は静かに剣を構えた。ボウと霊樹の加護を有した大剣が輝きを見せる。
「悪いが、負けられない」
 そんな小さな言葉を残して、ヨハンは霊樹の大剣をそのまま振り抜いた。光の斬撃は十字の軌跡を描き、大炎狼へと叩き込まれた。
『ォォオオォ』
 大炎狼が痛みからか叫ぶ。
 それを受けて、次に動いたのは、傷を回復させたシラスだった。
 若干、戦闘に向かぬ体勢から、急速な動きを見せると、大炎狼の懐へ入り込み、全身のバネを使って跳ぶ。握った拳が、大炎狼の顎を撃ち抜けば、術式が大炎狼を蝕んでいく。
「へっこいつは効くだろう?」
 叫ぶ大炎狼にそう告げ、ちらりと味方の方に視線を向ける。
 その時、炎が大炎狼へと走り抜けた。
 炎は存在するとも知れぬ『神』の呪いを伴い、大炎狼に刻まれた数多の能力を更に強固に刻みつける――同時に、その身に強烈な一撃となって焼き付けていく。
「俺の得意な魔術も炎――てめぇの炎に掻き消される気はねぇ」
 髪の間から見える金銀妖眼が大炎狼と交わった。
 ルフトは大炎狼の視線が向いていないことをみとめると、走り出した。
 身体をかがめ、大炎狼の懐に入り込むと、ダンッと強く足を踏みしめ、跳ぶ。
 魔力を乗せた紫槍は、真っすぐに大炎狼の心臓辺りを刺し貫いた。
 じんわりと、大炎狼の血が、その毛を濡らす。
 ペッカートは目を閉じていた。
 大炎狼が放つ炎にあてられた影が揺らめく。 
 ――否。大炎狼の焔に合わせて蠢くのは、カモフラージュだった。
 ペッカート自身の意思で操られる影は、密かに大炎狼の足元に伸びていくと、無数の刃となって脚部を強烈に引き裂いていく。
 オールドの鞭が引き裂かれた大炎狼の脚部に複数の一撃を打ち込んだ。
 さらに続くようにして、グランツァーがもう片方の足へマジックロープを走らせた。
『グォォォォォォオオオオオオ!!!!』
 一瞬、大炎狼が今日一番の雄たけびを上げた。
 その瞬間、大炎狼の身体からあふれ出た炎が、ぽつりぽつりと大地へ降り注ぎ――円を描きながら燃え広がっていく。
 ヨハンが珠緒とシラスを庇う中、燃え広がった大炎陣は、イレギュラーズの多くを巻き込んだ。
 それだけでは終わらない。尋常じゃない反応速度で大炎狼はぎらりとイレギュラーズを見据え――全身の炎をより一層掻き立て、走り出した。
 射程圏内のイレギュラーズ全てを踏みつけ、走り抜けたかと思うと、そのままくるりと反転して再び同じ場所を走る。
 パンドラの輝きが戦場に幾つか開いていく。

 それから更に少し経った。
「殴るのは不得手ですが、痛みに耐えるのは……慣れを通り越して無意識で行えますので」
 広域に天使の歌を奏でる珠緒は静かにそう言って、多数の味方を一緒に回復させられる位置に移動しながら回復を繰り返していた。
 時には大炎狼と近距離に近づくことになった時もあるが、自らの再生能力と天使の歌による祝福で充分に賄っていた。
 何よりも、回復手にしては彼女の頑強さはかなりの物だった。
 自分が潰れることは絶対にしないという意地すら感じ取れた。
 もしも、もしも仮に以前の世界での彼女を知る者がこの彼女を見たら、信じられるだろうか。
「もうじきだろうな……いけそうか?」
 シラスはふらつく大炎狼を見上げて声を漏らす。
「つかんだ有利は絶対に手放さんぞ」
 ヨハンが小さくこくりと頷く。
 無傷とはさすがに言えないが、軽傷言っていいだろう。
 雄叫びを上げる大炎狼が腕を振り上げた。
 その動きは、今までより遥かに遅い。単純に疲弊しているのだろう。
 振り下ろされる前足にヨハンは霊樹の大剣を合わせるように振るう。
 ガツンッ――やや重い。けれど、決して押されない重さだった。
「今だ!」
 応じるようにまず動いたのはペッカートだ。
 自らの影を動かして、魔性は再び敵を切り刻む。
「あーちょっとこれは調子に乗りすぎたかもしんね」
 そんな軽口を叩きながら、伸ばした影で、大炎狼の後ろ脚を切り刻む。
 それに続くようにして、走り出したルフトはペッカートの切り刻んだ足をそのまま足場にして空へ。
 くるくると回転しながら、紫槍を叩き込む。
 鮮血が更にルフトのフードに散っていく。
 それに続くのは、シラスだった。
 大きく跳び上がると、ヨハンが抑える前足をそのまま足場にして走り抜け、横顔辺りで大炎狼を思いっきり殴りつけた。
 大炎狼が大きく崩れ、どさりと大地へ横たわる。
 引く唸り声と共に、起き上がろうとする大炎狼に対して――静かにレイチェルは視線を向けていた。
「憤怒、そして復讐の焔こそ我が刃。復讐の果てに燃え尽きるのが我が生なり」
 告げられた呪文と共に、浮かび上がった円陣から紅蓮の焔が溢れ出す。
 自らの血を媒介として、煌々と燃え盛る憎悪の焔が、術式により大きく隙を見せる狼へと食らいつく。
 断末魔の雄叫びが尾を引きながら消えていく。


 戦いを終わらせてから少しの休憩をはさんだイレギュラーズは、まだ戦場にいた。
 提案をしたのはルフトであった。
 精神的過負荷により気を失っていた彼は、目を覚ましてすぐに森の再建に種まきをしたいと言って、それに他のイレギュラーズが合意をした形である。
「ガゥ! 元通りに、なりますように!」
 ぽんぽんと種を植えて軽く土を叩くオールドは、そう言って祈るように手をこすり合わせる。
「環境の復興は必要ですからねぇ」
 グランツァーは自らの信仰もあってノリノリである。
「くれぐれも熱中症にはなるなよ」
 戦闘終了後には疲れて腰を落としていたペッカートも復活してから何やかんやで手伝っている。
「やれやれ、森が元に戻るのに何年かかるんだろうな」
 苗木をしつつ、シラスは少しだけ肩をすくめる。
 その様子をヨハンは静かに見つめていた。
「これで多少は涼しくなるでしょうか」
 首をかしげる珠緒に、さぁなと返すのはレイチェルだ。
 戦いの終わり、焼け落ちた森は、小さな、新しい始まりを見せようとしていた。
 この時期には珍しい、心地よいそよ風が、それを肯定するように吹いていく。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

オールド(p3p006823)[重傷]
幼き機獣
グランツァー・ガリル(p3p007172)[重傷]
大地賛歌

あとがき

倒れないヒーラーって……怖いですね……

なんてことはそれはさておき。
お疲れ様でした。

MVPは回復手であったあなたへ。
多彩な回復方法と頑強さ、すごいです。

それでは、皆様の植えた苗木が、いつか再び彼の地を森へと変えんことを。

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