PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>堕落した村で愛を啄む

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 そこは小さな町であった。
 そこは閉ざされていた。
 そこは、模範的であった。
 そこは――小さな悲劇を切り捨てた。
 そこは、小さな愛を“殺した”のだ。
「あほくさ……」
 寂れた教会の礼拝堂。
 横に長い独特な形状の椅子の一つ、左列の最前。
 青年と思しき影が呟いた。
 声はどこかけだるげで――その態度は傲岸不遜というにあまりある。
「こんなものか、こんなものが――」
「兄さま? そうおっしゃらないで。
 あの方がおっしゃっていたでしょう? かわりは山ほどあるわ。
 もっともっともっともっと――私達で貰いましょう? もらえなかった全てを」
 青年と思しき影に応えたのは少女。
 青年と同じ濡れ羽色の髪に、青玉を思わせる瞳を宿す。
 しかし、醸し出す雰囲気はどこまでも色っぽく。
「あぁ、そうだな。ああ、そうだ。その通り……さあ、キスをしようか、レア」
「えぇ、たっぷり――遊びましょう。他の人達と同じように」
 二人は嗤う。
 よく似た顔立ちを愉悦に歪ませて、この世でこれ以上に愛する者がないと言わんばかりの思慕を乗せて。
 教会の外――嬌声が、狂奔が、絶望の声が鳴る。
 教会の鐘の音を冒涜し、神を愚弄するように。

 外から声が聞こえる。
 床に散乱するのは無数の毛髪と夥しい流血。
「なんで? なんで、なんで! なんで私はこんなにも醜いの!? せっかく彼が帰ってきてくれたのに! ああ、なんで! なんで!」
 女が鏡に映る自らを見て狂ったように顔をかきむしる。
 血が爪を赤く染め、それまで年齢に比べて遥かに若作りの――端正と言える方であった顔は、彼女の言う通り醜く削れて――それでも手を止めずに何度も何度も繰り返して、やがて事切れる。
 そこへ、男が入ってきた。
 男は“普段からそうしていたように”ただいまと女に声をかける。
 女が答えようはずもなく――しかし、男はそれを気にする風もなく、そのまま歩いて奥へと消えていく。


「天義の首都フォン・ルーベルグを中心に狂気に侵された人による事件が多発しているって話は知ってるね?」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)が君達に語り掛ける。
 ことはネメシス。基本的に模範的で規範的、規律に正しい天義らしい天義の人々であるフォン・ルーベルグ市民は滅多な事ではそんな事態を引き起こさない。
「レオンが言うには、黄泉返りとこの事件が無関係というのは考えにくい。連続性から考えて戻ってきた誰かが『アンテナ』なんだろうってね。
 自分にとって全く関わりの無い赤の他人と、自分にとって大切な誰か――より感情を揺さぶるのがどちらかなんて、魔種がどうこう以前に分かり切ってるだろう?」
 ――そして、事ここに置いて救いようがないのは彼ら『黄泉返り』が別段敵対的、悪意的じゃなく、生前の記憶や記録、或いは時に人間性や知性を残していると推測されている事だ。
 もしも『黄泉返り』が操り人形だとすれば――彼らは、“そうだと分かっているのに”大切な誰かを狂気に落とさなくてはならないのだ。
「ローレットが対応していてマジで良かった。してなかったら水面下に潜んでた爆弾は今の比じゃなかったぜ――とも言っていた。……前置きが長くなったね。今日の依頼の話をしようか」
 ショウはゆらりとその尻尾をゆらりとさせて。
 フォン・ルーベルグの少し南に行ったところにある寂れた町で、暴動事件が起きた。
 暴動は町にある小さな教会にいたシスターと関係者を嬲り殺してその後、口に出すのも悍ましい宴を始めた。
 ある者は隣の人妻を犯し、ある者は買える商品を盗み、ある者は食べきれない量の食品を喰らい続け、ある者は美を磨くと言って綺麗な知人を殺す。
「まるで天義の正義を意図的に冒涜しているようだ」
 そこまで大体的になれば、聖騎士団だって動く――はずだった。
「今回の依頼には、魔種がいる。君達の仕事は“魔種から町を解放すること”と、元凶の黄泉返りの討伐だよ」
 君達の様子に気付いたショウは、その理由を察してもう一度尻尾を揺らめかせた。
「この町を出身にする聖騎士が言っていた。この魔種はあの町が得た罪――かつて愛し合っていた実の兄妹なんだ。二人で一つ。いくら君達でも一気に二人ともを殺すのは難しいと思う」
 そう言って手渡された資料には、濡れ羽色の髪と青玉色の瞳をした兄妹が仲睦まじく寄り添う絵が添えられていた。
 

GMコメント

さて、そういうわけで? 天義で勃発した暴動事件の奴です。やばやばのやばというやつです。

●オーダー
 黄泉返りの討伐及び魔種を町から撤退させる。


 市街地戦になります。
 魔種が待ち受ける教会は町の一番奥になります。

●敵対勢力

・黄泉返り
 理髪店の主人であった男性であろうとのこと。
 理髪店は町の外れにあり、教会への道からだいぶ離れています。
 また、どうやら随分と暴力的になっている様子です。

・暴徒×20
雑魚です。通常攻撃でも特に手間をかけずに倒せるでしょう。

・魔種ルイ&レア
 高いHP、防技、抵抗、反応、神攻を持つタンク型の兄と、混乱、狂気、魅了、恍惚のBSを使う妹により構成された2人で初めて最高の能力を発揮できるタイプ。
 互いに互いを心底愛している様子。
 どうやら現時点でもうほとんどこの町に対する興味が失せているようですが……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>堕落した村で愛を啄む完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2019年05月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ナーガ(p3p000225)
『アイ』する決別
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
七鳥・天十里(p3p001668)
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ミルヴィ=カーソン(p3p005047)
剣閃飛鳥
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹

リプレイ


 町の中に入ってすぐに感じられたのは、異質なまでにどんよりとした空気感であった。
「嫌な事件よね本当、死んだ人が帰ってきただけで君が悪いのに、それが周りを狂わせる。それが本当に、生き返った誰かだなんて思ってないけれど」
 あまり気乗りしないようにも見える『トキシック・スパイクス』アクア・サンシャイン(p3p000041)は呟きながら、そよ風に運ばれてきた袋を拾い上げた。店名とマークを見るに、何かの飲食店の物だろうか。
「かつて愛し合っていた実の兄妹である二体の魔種……か
 あの町が得た罪と言っている辺り、『天義』の価値観の被害者なのでしょう。でも……」
 銀色の挑発を靡かせる『青き戦士』アルテミア・フィルティス(p3p001981)は静かに町の奥へと視線を向けた。
「ええ、町が生んだ罪、確かに、血の繋がった兄妹が愛し合うなど、この国では許されないでしょう。ですが、今ここで行われているのは死者を冒涜する遊戯です!
 事情があれど、目の前の非道を見逃すことはできません!」
 アルテミアの言葉に頷くようにして『朝を呼ぶ剱』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174) は少しばかり深呼吸する。
(「愛を啄む」だなんて、やっぱりヒトはアイされるべきカワイソウなソンザイだね……。
 ……ナーちゃんのママとパパにそっくりだね!)
 大戦斧を担ぎながら、『アイ』に思いをはせる『矛盾一体』ナーガ(p3p000225)は結論立てて頷いた。
 愛に関して各々が考える中、 『隠名の妖精鎌』サイズ(p3p000319)はもまた想う。
(うーーん…………なんというか、人間と妖精の禁断の恋の破滅の果てに生まれた俺からしたらなんだかシンパシーを感じる)
 感じたらいけないとは分かっていても、種族間における禁忌に比べればはるかにマシであろうと。
(全く、僕は勧善懲悪が好きなんだけどな
 放置出来ないから倒すけど、あー、すっきりしないなあ)
 勧善懲悪とは言い切れぬ依頼に『ガンスリンガー』七鳥・天十里(p3p001668)は少しばかり気乗りしない様子。
「帰ってきた人が大事な人達を引きずり込む……こんな事をやらせるなんて……許さない!」
「死んだ人が生き返るのって迷惑ですよね。それが周りを狂気を振りまくのなら尚更」
 現状に対して憤りを見せる『寄り添う風』ミルヴィ=カーソン(p3p005047)の発言に対して、そう言って同意したのは『闇妹』木津田・由奈(p3p006406)だ。
 珍しくお兄ちゃんと関係なさそうに見え――
「と言うかですね…下手したら『お兄ちゃん』に危害が及ぶような事件は私が見逃せません
人の形をしていようが邪魔者は消せばいいんですよ」
 ごめん。そんなことなかった。
 いつもの由奈ちゃんだった。というかむしろ、多分な同族嫌悪が入ってそうだった。


 シフォリィは不知火を閃かせる。
 峰打ちの一撃が今にも女性に襲い掛かろうとしていた男の鳩尾を綺麗に撃ち込めば、どさりと崩れ落ちた。
 そんなシフォリィに背後から伸し掛かろうとしていた男をアルテミアは横合いから鞘に納めた雷切(偽)を顎に打ち込むと、脳震盪を起こした男がそのまま崩れ落ちた。
「ありがとうございます」
「良いのよ。数が多いしね」
 言葉を交わすアルテミアとシフォリィはそのまま剣を閃かせて、互いの頬すれすれに剣を走らせ――互いの背後、うめき声がした。
「お願い、死なないでね」
 アクアは向かってきた暴徒に対してそう告げると、そのままそいつを蹴り飛ばした。
「すぐにアイしてあげるから!」
 ナーガはそう言うと、硬く握った拳を振り下ろす。
 ただの殴打だが、彼女の膂力をもってすれば一般人など軽くのしてしまう。
 それでも手加減をして、ある程度以上のアイを贈らず、けれども近づいてきた者を叩きつける。
 しかし、そんな戦い方をしながら、彼女は多くの破壊をもたらしていない。
 自らを浄化の鎧で包み込んだサイズは静かに地面に石突き部分を叩きつける。
 妖精の血が進み、数人の暴徒達が組み合う場所で陣を形成する。
 陣が鮮やかな赤に染まった直後、業炎を纏った血の鎌が顕現し、暴徒達を切り刻む。
「悪いケド大人しくしといてネ、なるべく血を流すの嫌だから……」
 六方昌の魔眼に魅入られた数人が縛り付けられたように動きを止める。 そのうちの一人に、黎明剣イシュラークを峰打ちし、少しだけ息を吐いた。
 由奈は滅茶苦茶に暴れていた。やたら滅多にぐっちゃぐちゃに。
 いっそ、騒ぐ前に殺す、といった具合に手早く済ませるつもりらしい。
 その割には騒がしくならないのは、他のイレギュラーズと同じだ。

 何人かの暴徒を沈めながら、イレギュラーズは中心地のひとつ、理髪店へとたどり着いていた。
 持ち前のハイセンスで理髪店の中に聞き耳を立てていた天十里は後ろにいるイレギュラーズに目配らせした後、頷きあう。
 天十里は屋根を見上げてあまり音が出なさそうな箇所を観察すると、ぴょんと跳ねた。
 そのまま、最高度でもう一度ーー二段ジャンプで屋根の上に着地すると銃に弾丸を込め、下の仲間に頷いてみせる。
 天十里の反応を見たミルヴィは、そっと扉をノックした。反応はない。
 ドアノブを回せば、鍵はかけられていなかった。
 開いてすぐに鼻をつくのは、腐敗と鉄の臭い。
 シャンプーか何かの、微かな残り香が混じって強烈な刺激臭に変わっている。
 眉をひそめながら店内を見渡せば、すぐに乾いた黒の中に沈む女が見えた。
「すいませーん」
 取り敢えず、声を出す。すると、店の奥の方から一人の男が姿を見せた。
 男は無言のまま、鏡の前にある椅子を引いて、着座を進めるような仕草をした。
「言葉を話せない、というのとは違うみたいだな……どっちかというと、決まった動きを繰り返してるみたいだ」
 サイズが小声で言えば、他の者も頷いた。
 厄介なことに黄泉返りの生前の思考との差は割と千差万別なところがある。
 こいつはその中でも特に思考が制限されているようだった。
 あるいはーー元々、極度に無口な頑固親父だったのかも知れないが。
「この町で起きていることを分かっていますか?」
 シフォリィの問いかけにも応じなーーいと思った時、小さく男が頷いた。
「ごめんね、悪いケド、あなたがいるとこの町の状況は悪化しちゃうから」
「殺してくれ……速く」
 重い口を開いて、男は静かに言うと、そのまま胸を開いて応じる様子を見せる。
 それに応じる形で、ナーガが拳を握って男に走り寄る。
 その瞬間だった。
 男の目が光を失い、太ももにつけていたホルダーから鋏を取り出し、ナーガ目掛けて突き出した。
 ほんの一瞬の出来事だったが、ナーガはそれを受けながらやや後退する。
 『自我』とは異なる行動をしたその男は、そのままハサミを強く握ると、イレギュラーズへ交戦の意図を見せる。
 バダンと蹴破って、天十里は裏口から現れる。男がその衝撃に振り返ると同時、手に持つ鋏に向けて弾丸をぶちまける。
 銃弾は男の手を貫き、鋏はくるくると回って床にからりと落ちた。
 ミルヴィは男に向けて駆け抜けると、イシュラークを振り抜いた。
 それを男は一般人とは思えぬ動きでかすり傷にとどめ、まだ数本、太腿のホルダーに収めている鋏から一本を抜いて閃かせた。
 瞳に目掛けて飛んできた鋏を、ミルヴィは熟練の動きで舞うように避ける。
 アルテミアはそれに次ぐようにして男の前へおどり出ると、鞘から抜いた不知火に青白色の魔力を纏わせ一閃した。
 それを鋏で合わせようとした男はたまらず斬り刻まれ、痛みからか叫びながら、アルテミアへ突っ込もうとしてーー逆に合わされた愚直なまでに真っ直ぐなシフォリィの一太刀を受けて声ならぬ悲鳴をあげた。
 アクアは仲間達が理髪店の中で戦いを始めたのを感じながら、振り返る。
 そこから見える、まだ元気に暴徒をやってる町人達を相手に、拳で、足で応戦していく。
(私の体術とすら言えぬ攻撃なら、死なずに済むかもしれない)
 そんな彼女の思いは通じるだろうか。
 たった今、急所を蹴り飛ばされて倒れた男に関しては、どうやら悶絶しているだけのようだが。
(あまり手間をかけて魔種に気づかれるわけにもいかないですよね)
 その様子を見ていた由奈は思案すると、黄泉返りに向けて霊樹の大剣で華麗な一撃を見まい、サイズが妖精の魔力を乗せた鎌で薙ぎ払った。
 それに加えて、ナーガが雷霆を纏ったボーくんを振り抜けば、男の体は泥のようになって溶けていった。
 泥に変わる男の顔が、どことなくホッとしたように見えた。


「はん、静かになったと思ったら、なんかやってんじゃねえか」
 初めに反応したのはハイセンスを擁していた天十里だ。
 扉をバンッと叩くように開いて、声の方を――向かいの屋根の上を見た。
 気だるげに屋根の上に腰を掛ける男と、そんな男の肩に両手を置いて見下ろす女。
 やや上からその声を聞いた瞬間――あるいは、それを感じた刹那。
 アクアは全身の毛が総毛立つような感覚を覚えた。
 かつての世界で、幾度も感じてきた感覚に似ている。
 切り落としても切り落としても再生してきた植物共にも似た、絶対に相いれない――倒せなければ生き抜くことさえできない。そんな、不倶戴天の敵。
「よぉ、雑草ども。元気見てぇだな?」
 濡れ羽色の髪が屋根の上で風に揺れている。青玉を思わせる瞳を宿す双眸が、冷徹にイレギュラーズが侵入している理髪店を見下ろしていた。
 声こそはけだるげなのに、屋根の上に座ってこちらを睥睨する所作の一つ一つは傲岸不遜。
「魔種――ッ!!」
 シフォリィが構えを取るよりも前、気だるげな声で魔種が笑った。
「悪いがこの町から退いてくれないか? 新婚のお二人さん。すぐに退いてくれるなら戦わなくてすむが……お二人とも大事な相方を危険な目に少しでも会わせたくないだろう?」
 サイズは魔種の方を見上げながら、少しだけ前に進み出て告げる。
 穏便に帰ってくれるのなら、それが一番いい。
 それはここにいるイレギュラーズのほぼ共通の意見だった。
 あまり持久戦に長けたイレギュラーズは多くないのだ。
「ええ、そうですね。
 暴れまわっていた人達はみんな私達と一緒になってくれそうでしたけど……。
 どうせ終わりみたいですから」
 もう一人の魔種が、笑みを浮かべながら言った。

 ――けれど、その言葉を額面通りに受け取るイレギュラーズはどこにもいない。
 何せ、最初に声を発した方が気だるげなまま、その手に光球を浮かべているのだ。
「あぁ、俺も今は気分がいい。帰らせてもらうわ」
 ――なんて言った直後、手に浮かんでいた光球が爆ぜた。
 小型に分裂したそれが、イレギュラーズを含む広域に向けてぶち込まれていく。
 「なにが、帰らせてもらう、だ! 妹の前で泣かせてあげるから!」
 なんとか光弾を避けた天十里は反撃とばかりに引き金を引いた。
 暗く輝く心の光が宿った弾丸は、男の魔種――ルイの身体に炸裂する寸前、ボゥと浮かんだ光の層によってやや威力を下げられていく。あくまで気だるげに、ゆるりと立ち上がる。
「はは、いいんじゃねぇかぁ? 雑草がさざめく音も心地いいもんだ」
 注意はあまり引けていない気がする。
 その様子を見とめ、アルテミアは一気に跳んだ。
 身体を翻し、流麗に舞うが如き剣閃を、ルイは光で作り出した剣で防いでいく。
「貴方達も『天義』の価値観の被害者なのでしょうけど、魔種である以上は無視できないわ」
「被害者、ねぇ……!」
 切り結んだ一瞬に交わした言葉に、ルイが冷徹に見下ろす。
 サイズが血の色をした鎌を振るうたびに濃厚になっていく妖精の血が力を開放される。
 軽やかな足取りで屋根の上に跳んだサイズはそのままルイの身体に鎖を叩きつける。
 ずるりと力を引きずり出されるような感覚の果て――鎖が奔り、ルイに巻き付いた。
「――くだらねえ。所詮はてめえら雑草の話だろう。俺達は別に被害者だなんて思ったこたぁねえ。まぁ、あの頃はあの頃で背徳感があって良かったがよ」
 気だるげな風貌を、不遜にゆがめて、男が切り結んでいるアルテミアの腹部に足を添えたかと思うと、ビュンという音と共にアルテミアの身体が後方へとすっ飛んだ。
 建物の壁に叩きつけられ、アルテミアが浅く声を上げる。
 サイズはそれによってできたわずかな隙を見て自らの鎌に魔力をこめると、綺麗に斬り上げる。
 そこそこいい辺りをしたはずだったが、素の生命力が高いのか、ケロリとした表情で振り返ってくる。
「ちくちくとよぉ、雑魚共が」
 舌打ちと共にルイがサイズに手を伸ばす。その手がサイズに触れる寸前、天十里はルイに跳び膝蹴りを叩きこんだ。
 そのまま、ルイの身体がゆるりと動いて屋根から落ちていく。続けて、再び銃弾に心の光を宿し――引き金を引く。光の輝きが再びルイを包み込んでいった。
 地面へと叩きつけられたルイがだるそうに立ち上がった所へ、アルテミアが走り込む。
 雷切(偽)と不知火、二本の刀に蒼炎の奔流を思わせる膨大な魔力が集束していく。懐に潜り込めば、そのまま剣をクロスさせるようにして切り結ぶ。
 直後――魔力が爆ぜ、小手先の防御を断ち割って、ルイの身体に大きな傷を齎した。その反動を受けて、アルテミアの腕が微かに震える。
 反撃の拳を、今度は受けてはなるものかとくるりと身体を回して何とか躱す。 

 己の生命力を媒介として繰り出した儀式的舞踏と演奏を奏でたミルヴィはそのままレアへと接近していく。
「まぁ、どうしましょうか。
 雑草とはいえ、方々にそのように向かってこられては。
 ほしくなってしまいますよ?」 
 口元に指を添えて、レアが微笑んでいる。
「……アタシはあんま強くないケド、皆を強くすることがアタシの意地なの!
 悪いケド、アンタは好きにはさせない!」
 刀身から溢れた光に包み込まれたミルヴィの剣撃をレアが体捌きで躱していく。
「事情あれど、目の前の非道を見逃すことはできません。ですが、退くのであればそれで終わりといたしましょう」
 シフォリィの言葉に、レアは緩やかに笑い、直後にシフォリィの立っている場所から黒炎が上がった。
 精神を揺さぶるような紅蓮の焔に対して、シフォリィはその抵抗力を以って汚染を潜り抜け、真っすぐに敵を見据える。
「まぁ、まぁ、素敵! ほしい、ほしいです!」
 目を見開いたレアが益々シフォリィに近づいていく。シフォリィは近づいてきたレアに裏拳を叩きこむ。
 ゆるりとした動きにより、華奢な手から繰り出された裏拳が、猛烈な威力となってレアの腹部に襲い掛かる。
 それに続けるようにして動いたのはナーガである。ボーくんを軽く背負うようにして接近したナーガは、全身の力を雷撃に変えてその穂先に集中させる。
 命を容易く狩り落とすような雷撃を伴う一撃が振り下ろされる。
 がっつり削り落としたはずの一撃に対して、レアはぞくりとする笑みを浮かべていた。
「いったあぁぁ! あぁ。でも、せっかくどっかの雑魚から貰った割ときれいな衣装だったのに」
 愉悦に笑みを浮かべたレアは、そう言って笑うと、焼き切れた衣服の一部をつまんでつまらなさそうにため息を吐いた。
「フフフ、私、貴女と会ってみたかったのです。だって、私と貴女『同じ』ですもの」
 不気味に笑みを浮かべるのは由奈だ。
「この世の誰よりも『お兄ちゃん』が大好き……妹なら当然の感情よ。
 まあ、私は血の繋がりはないけど」
 由奈はそのまま近づくと、霊樹の大剣で華麗な一撃を叩きこむ。微かな血が、レアの肩に滲む。
「ただ、一言言いかしら? 貴方達、魔種にならなければ結ばれない……とでも思ってたのかしら?
 フフフ……いえ、狂気頼りの愛ってそれは『妹』として残念だなって思ったのよ」
「何言ってるの? 兄であるなら妹を愛するなんて当たり前でしょう。
 私が何するまでもなく、あのルイは私を愛してるわ。いいえ、私は全ての愛を手に入れる。 
 だって、私は『妹』ですもの。『妹』は全てから愛を受けるものよ。それとも貴女は……」
 妹同士、俗にいう煽り合いが始まっていた。由奈はそれを受けてピクリと反応する。
 それでも、レアの視線が由奈に向いていることを考えると、どうやら効果はあるらしい。
 アクアは完全に意識を由奈に持って行かれているレアを見ながら、魔力を練り上げる。
 練り上げられた魔力は槍となって形成されていく。
 イノセント・ディフェンスと名付けられたソレは、攻撃は最大の防御という言葉から出来た純粋魔力による攻撃魔法である。
 静かな輝きを称えた魔力の槍が、風を切って走りぬけレアの肩を打ち抜いた。
「私の愛を――聞いてくださいな」
 その瞬間、その足元から黒炎が円を描くようにして燃え広がっていく。
 炎はイレギュラーズを包み込んだ。精神耐性を有するイレギュラーズで構成されていることで精神攻撃こそ無効にはできたが、それでも炎の威力そのものは高く、イレギュラーズの生命力を削っていく。
「くぁっ……」
 ミルヴィは痛みに目を見開いて自分の身体にイシュラークが突き立っていることに気付いた。
「あぁ、ちゃんと聞いてくださる人がいるのですね」
 レアの顔に笑みが浮かんでいた。
 凄絶な笑みが単純な喜びのソレではないことは明白だった。
「わずらわしい声で騒がないで」
 由奈はレアの身体に思いっきり体当たりをかますと、そのまま霊樹の大剣を心臓めがけて突き立てんと差し向ける。
 レアはそれを微かに動いて躱し、肩口を大きく切り裂かれた。
「貴女のお兄さんがどんな人なのか存じ上げませんけど、今は少し邪魔ですね……
 そちらの騎士様も」
 そんな言葉の直後、黒炎が爆ぜた。
 至近していた由奈とシフォリィは爆風に煽られてすっ飛ばされた。
 それに続けるように、レアは視線を巡らせ、ナーガを見る。どことなく意識が別に彷徨ったような様子を見せるナーガの方へ、手を伸ばす。
「貴女は勇ましくて愛おしいです。ぜひ、欲しいのです」
 微笑みを浮かべた次の瞬間――黒炎がナーガの足元から爆ぜた。
 そのままがくりと足を落としたかと思えば、パンドラの加護が開き、ナーガに奇跡を呼ぶ。
 アイを与えんと、ナーガはボーくんを握り、そのまま大きく振りぬき、強靭な雷撃が再びレアを切り裂いた。
 やや後退したレアは、嬉しそうに笑みを浮かべた。
 欲しい。そう思っているのが手に取るようにわかる、笑み。
「なんとぞくぞくしてしまいますね」
 ミルヴィは嬉しそうに笑むレアの視線を誘導するようにして動きながら、六方昌の魔眼により意識の隙に入りこみ、絡みつくようにしてレアの精神を縛り上げる。
「あぁ、やっぱり貴女も愛おしい、欲しいです」
 じゅるりと、レアが舌なめずりして、下から上までなめるように視線を巡らせる。
 そんな大きな隙を見せられたところで、アクアは魔力を練り上げ、槍を投射した。
 空を切る槍に気付いたレアはそちらに向けて手をかざす。
 何をするかと思えば、魔種は自らの指を犠牲にそのまま腕の皮を削ぎながらそれを受け流す。
 シフォリィは再度至近すると、手甲による裏拳を叩きこむ。
 その一撃は、レアの鳩尾を大きく穿つ。ぐにゃりとレアの身体が『く』に曲がった。
 強かに打ち据えた一撃に手ごたえを感じるもつかの間。
 シフォリィは、嬉しそうに笑う声を聴いた。
「貴女も私を愛してくださるのですか?」
 底知れぬ生命力にゾッとしながらも、間合いを取らざるを得なかった。

「ったく、女ァ! しつこかったなぁ、おい」
 ルイが、アルテミアへと声をかける。
 三対一。それは魔種に対するにはあまりにも人手不足と言えた。
 それでも立ち回れたのは、三人の役割分担がちゃんとできていたからだ。
「銃使い、てめぇもだ。うぜえ。雑草は狩らねえとよ、な」
 そう言って、笑う。傲慢に、獰猛に。
 彼からすれば全てを侮蔑する意味を込めたその単語は、逆に言えばそう漏らさせるだけの圧を見せつけられたといえる。
「カリカリしてるねえ、お兄ちゃん。そんなんで」
 そういう天十里の視線は、ルイから離れない。
「――焼き切れろ」
 ルイの掌が、煌輝に染まる。
 直後、音もなく――いや、音を『置き去りにして』閃光が放たれた。文字通りの光速で走り抜けた光は、天十里と、移動されて直線上に回り込まれたアルテミアを諸共に焼き払う。
 ギリギリの動きで躱しながらも、ジュウっと音を立てて天十里の腹部が焼け、真正面からぶつかったアルテミアにパンドラの箱が開かれる。
 その視線が、今度はサイズの方を向いた。パンドラの加護の再誕は既にしている。
 加護を再び使うことは、まず不可能だ。
 サイズは敵が翳す手を見ながら、ほぼ尽き果てている生命力を振るい立ち上がる。二度目はない。
 そんな時だ。
 膝を屈しかけていたアルテミアは、不知火と雷切(偽)に青白色の魔力を注ぎ込みながら、クラウチングスタートの容量で、全身のバネを跳ね起こして走り抜ける。
「往生際が――」
「この手が届く距離の命は護りたい――ただそれだけよ」
 魔種が明確に見せた苛立ちにそう一言を残しながら、渾身の一太刀を叩きこむ。
 魔種を大きく切り伏せた手応えの直後――反撃の輝きが、視界を覆いつくした。
 天十里はアルテミアの残した隙を見逃さなかった。
「不安と強襲、悪意と憎悪、狂気に光を示せ――夜は訪れない」
 黒く煤けたアンダーバレルリボルバーに籠める最大のチャンスの一撃。
 銃弾が音もなく爆ぜ、魔種の胸元を貫いていく。
 その直後、体勢の立て直しを済ませたサイズは自らの魔力の最後の一滴まで解放させた呪われた血色の鎌を振り上げ、走り抜ける。
 鎌らしく、首を刈り取るその動きが、魔種の腕へと大きな傷を残していった。
「お兄ちゃんが気になるのかしら?」
 由奈はレアの目がこちらから大きく外れたのを見て、挑発も込めて言う。
「ええ、気になるわ……ルイがあんなにキレてるの久しぶりに見るもの。
 あぁ、でも楽しそう……」
 そう、よそ見しながら恍惚としていたレアは、翻って散開しつつ彼女を囲む由奈たちを見渡した。
「似ているのに違う。それがこんなにも不快だなんて」
 その瞬間、レアが由奈の頭をがっつりと掴み――ゴウと腕ごと黒炎へと変えて由奈を包み込んだ。
 強烈な痛みと、異常な感覚が由奈を包み、ほんの一瞬、大切な兄が微笑みかけているのを見た。
「その手を離しテ!」
 そんな誰かの声。気づけば由奈は尻もちをついていた。
「うふふ、踊り子さん、そう盛んに踊ってて大丈夫?」
 黎明剣イシュラークは自らを回復させる加護がある。
 夜明けの輝きに照らされた魔種は、魔より聖へと移り変わりつつある黎明の剣に興味があるようだ。
「ナーちゃんのアイも受け取って!」
 立て直したナーガが、完全な死角から雷霆を打ち下ろす。切り開かれた魔種の肩口が、血と雷霆の彩りを放つ。
「ええ、そうしたいところですね――」
 振り向きざま、レアが黒炎を放ち、ナーガを再び焼いた。
「その子を連れて帰りたいので、皆さんはどいて下さ――」
「させるわけないでしょう!」
 ナーガへ近づくレアの前に立ちふさがったシフォリィが、伸びるレアの腕を真っ向から切り裂いた。
「くぅっ――騎士様はどうしても私の邪魔をするのですね!」
 ぎらつく魔種の殺意を真正面から受け流して、シフォリィは剣を構え続ける。
「あぁ、それとも――騎士様も、私と一緒に来てくださります?」
 レアの両腕が、黒炎に変質した。
 それを喰らうのは不味い。全身が警鐘を鳴らす。
 けれど、それをシフォリィが受けることはなかった。
 シフォリィの肩越し、魔力の奔流が走り抜け、咄嗟にレアが腕でそれを弾いたのだ。
「誰も連れて行かせないわ」
 後ろから聞こえてきたアクアの声に応じるように、シフォリィは再び剣を握り直す。

「ま、これぐらいでいいか。義理ぐらいは果たせただろ」
 最後の最後まで立っていた天十里を横目に、無残に切り刻まれた衣装をつまみ、肩をすくめる。
 完全に視野から天十里を外したルイは掌に光を集めて一直線上を焼き払うレーザーを放った。
 音を置いて走り抜けた閃光はレアの近くにいたイレギュラーズ達を焼き払う。
「もうこれぐらいでいいだろ。帰るぞ」
「えぇ……一人ぐらい貰っていきません?」
「はっ、どうせまた会うだろ。生きてりゃその時やればいい」
「そうですね……じゃあ、そうしましょう。
 次はもっと多くの人々に私を愛してほしいですけれど」
 そのままぴょんと跳んで、屋根の上に跳びあがり間合いを取る。
「ま、待ちなさい」
 死角から攻撃された形のシフォリィを支えながら、ミルヴィは敵を見上げた。
 アクアが放った最後の魔力の槍を鷲掴みにして、ボキリと砕いたルイが、イレギュラーズを満面の侮蔑で睥睨する。
「待たねえよ。そっちも退いてほしかったんだろ? まぁ、俺は今、機嫌がいいからな。
 これぐらいで終わせてやるんだよ。ここまでやってやったら、上も文句言わねえだろ。どーでもいいが」
 嵐のように、二人の魔種が消えていった。

 依頼の目標自体は達成できた。
 戦果もある。
 敵の攻撃は、ほぼ四つだけ。
 その一つ一つの射程も大凡は理解した。
 であれば、きっと。対処の仕方はあるのだから。

成否

成功

MVP

七鳥・天十里(p3p001668)

状態異常

アルテミア・フィルティス(p3p001981)[重傷]
銀青の戦乙女
木津田・由奈(p3p006406)[重傷]
闇妹

あとがき

お疲れ様でしたイレギュラーズ。
スロー&サイレントな感じでした。

状況を鑑みるに、最大限の戦果であろうと思われます。
ゆっくりと休養をしてくださいませ。

本当は皆様に送りたいところですが、今回のMVPは兄との戦いで事実上のタンクとなっていたあなたへ。

早期に倒れていたら損害はこの比ではなかったでしょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM