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シナリオ詳細

<クレール・ドゥ・リュヌ>硝子細工の僥倖
<クレール・ドゥ・リュヌ>硝子細工の僥倖

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「パパ! ねぇ、このドレスはどう?」
 淡い栗色の髪の、妙齢の女性が楽しそうに純白のドレスに身を包み、くるりと回って見せる。
 お似合いですよ、と店の女性が褒めれば、そうかしら、と破顔した。
 少し離れた場所で、新郎である優しそうな男性と、背の高い美丈夫が並んで苦く微笑んでいる。
「女性、というのは、なんというか、微笑ましいですね」
「……すまないね。娘は、昔からおてんばで」
 どうやら美丈夫は、女性の父親らしい。
 困った様子で微笑む娘婿に、ゆったりと頭を垂れて謝罪すると、娘婿が慌てた。
「やめてください、お義父さん!」
「しかし……」
「いいんですよ! それに、彼女があんなに嬉しそうなのは、私もすごく嬉しいんです。前まで彼女は、時折寂しそうでしたから……。でも、貴方が帰って来てくれて、彼女は屈託なく笑えるようになったんです。貴方に花嫁姿を見せるのが、楽しみだって」
 傍から見れば、仲の良い家族連れにしか見えない3人だ。
 理想的な家族と言って良い。

 どこからどうみても、これから幸せになる、そう思える光景だった。

 ――それが、本当は、硝子細工で出来た、儚い僥倖だったとしても。


「集まったな。感謝するのだよ」
 『蛍火』ソルト・ラブクラフト(p3n000022)は、己の長い髪をかき上げながら、やや気だるげに言った。
 ソルトは人ならざるものゆえに元より顔色は悪いが、普段よりも更に青白い肌に見えるのは、現状が少しばかり切迫しているからだろう。
「……ああ、すまないのだよ。我は、最近少し本調子ではなくてな。何、体調が悪いのではない。少しばかり、親近感のようなものが、な」
 珍しく言葉尻を濁しながらも、ソルトが依頼内容を伝える。
 その言葉に、此処に居る面子は、そういえばソルトはアンデッドの類だと言う話を思い出していた。
 それは、すなわち最近起きている事件が関係しているのだろう、と。
 とはいえ、他の世界の住人であるソルトは、同じ存在ではないのだが。
 ソルトは、ため息とともに口を開く。
「汝たちの中で、既に知っている者、そう言った依頼に出ている者もいるかもしれないが、最近、天義首都フォン・ルーベルグを中心に、狂気に侵された者による事件が多発し始めているのだよ。フォン・ルーベルグ市民は、非常に規律正しい人間が多いので、今のこの状態はおかしいと言って良い」
 ソルトは、この状態を、かつての<嘘吐きサーカス>が居た頃のメフ・メフィートでの事件を思わせるものだ、と続ける。
「レオンの旦那が、ざんげに確認したところ、<滅びのアーク>の急激な高まりもあの時を思い出させると言っていたそうだ。だから、『原罪の呼び声(クリミナル・オファー)』が強く生じて、フォン・ルーベルグがおかしくなっているのは間違いないのだよ」
 そこでソルトは言葉を止め、少しばかり困った様子で目じりを下げた。
「……ただ、サーカスの時のように、人々を大々的に先導しているわけではないし、明確にこう、とは言い難いのも事実だ」
 確信がないのかと貴方が尋ねると、ソルトは、嫌と首を左右に振った。
「レオンの旦那の予想では、だ。立て続けに起きた二つの事件が無関係とは考えにくく、フォン・ルーベルグの異常性の連続性から考えて、戻ってきた誰かが『アンテナ』なのではないか、と言う話だ。レオンの旦那も魔種の能力を知っているわけではないから、憶測だとは言っていたがな。だが、旦那の感は良く当たるからな」
 実質、今までの事件もレオンが明確に読みを外したことはないだろう、とソルトは言う。
「悪趣味な話なのだよ。自分と一切関係のないその他大勢と、自分にとっての大切な存在。どちらが心を動かされるかなど、幼き子供ですら分かる話だ。……そして、調査で判明している現実も、彼らにとっては何より酷な内容だろうな。『黄泉返り』は、大抵は敵対的、悪意的ではないのだよ。生前の記憶や記録、或いは時に人間性や知性を残しているように見える。そのうえで、彼らが操り人形になっているというのであれば……愛する人を狂わせると言う業を、彼らは死してなお、やらされるのだよ」
 彼らが生前、どんな存在だったのかなど、第三者である者たちは想像するしかないが、彼らがもし、家族として、友人として、もしくは恋人として、かつての居場所に戻っているのであれば、その魂に対する冒涜である。
「ただ、ローレットが対応していたのは僥倖だった。もし、ローレットがこの件に関わるのが遅れて居たら、おそらくは水面下に潜んでいた爆弾は、今とは比べようもなかっただろう」
 そう言いながら、ソルトは、いつもは不敵に微笑んでいる顔をすっと冷たく引き締め、周囲を見渡し、メンバーへと紙を配った。
「今、此処にいるメンバーには、とある『人形』を壊してもらいたい」
 ソルトは、あえて人形という言葉を使う。
「男の名前は、アリオスと言う。外見は、30歳程度。銀の髪の、端整な顔立ちの男だ。7年前、アリオスは外部からの依頼でモンスターを退治しに遠征し、そこで命を落としている」
 死体は帰ってこなかった、と続ける。
「当時、彼には11歳の娘が居た。名前はステラ。それが、今回の、庇護者だ。母親は病で亡くなっていて、父親に良く懐いていた。だから、遠征前は泣いて離れなかったらしい。現在、18歳になった彼女は、結婚し家庭を持つことになり、本日より三日後に、その結婚式がある。かつて、死体が見つからなかった事もあって、ステラは父親が生きていたと思っているのだろう。周囲に、父が式に出てくれると嬉しそうに話していたそうだ」
 生き別れた父が帰ってきた、それは彼女にとって何よりも嬉しい事だったろう。
「ステラは、今はまだ正気だが、このまま彼から離れなければ、時期にどうなってもおかしくはない。……彼女には酷だが、今ここで離れさせるべきなのだよ」
 父親であるアリオスは、死んでいる、それは変わらない現実なのだから。
「アリオスは穏やかな性格の様だが、汝たちが仕掛ければ、おそらくは向かってくるはずだ。中々、腕の立つ冒険者だったアリオスは、双剣と弓を使う。本来の力であれば、汝たちが負けることは無いだろうが、ステラも場合によっては援護する可能性がある。さすが冒険者の娘だな。接近戦は苦手らしいが、遠くから術を放ったり、回復を行えるようだ。それに、父親を庇いかねないからな、そのあたりは注意してほしい」
 出来れば、無傷でステラは保護したい、と付け加え、ソルトは大きく息を吐いた。
「辛いことを、汝たちに頼む我を許してほしい。だが、汝たちでなければ、奴らの陰謀を阻止するのは困難なのだ。死は誰にも訪れ、そして誰も死を覆すことなど出来はしない。すでに、彼はアリオスではないんだ。……頼んだぞ」

GMコメント

ましゅまろさんです。
久々ですが、よろしくお願いします。

今回は、父親である『人形』の破壊が目的となります。

アリオスは、冒険者だったため実力はある方です。
双剣と弓を器用に使い分けながら、戦います。

アリオスは穏やかな性格ではありますが、皆さんが戦意を見せれば、全力で歯向かってくると予想されます。

●現場
はずれにある教会付近が舞台になります。
式の最中に乱入する事もできますし、客が集まる前に会う事も出来ますが、どんなに急いでも早朝にしか、現地にはつけません。
また、娘はどんな状態でも、かつて父親を失った不安と、父親への執着心から、絶対に近くに居る為、撒くことは不可能です。
狂ってこそいませんが、父親を守る行動はとりますので、ご注意ください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
 柔軟な対応を取らないと、悲しい結末になる可能性はゼロではありません。

  • <クレール・ドゥ・リュヌ>硝子細工の僥倖完了
  • GM名ましゅまろさん
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2019年05月28日 21時25分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
夜乃 幻(p3p000824)
『幻狼』夢幻の奇術師
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ヘリオトロープの黄昏
イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
無影拳
マリス・テラ(p3p002737)
Schwert-elf
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
カンナ(p3p006830)
彷徨人
白嶺 絆楔(p3p007126)
白樺のかすがひ

リプレイ


 事前に参列客へと扮した『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)と、『無影拳』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377) は、新郎とコンタクトを取っていた。
 式の前に突入する案もあったのだが、吟味を重ねた結果、式の後に対峙する事になったのもあり、こういった説得が考えられたのだ。
 二人は何とかステラの意識を逸らすことに成功し、現在は新郎と3人でじっくりと話をしていた。
 幸いにも蘇りの件は、一般市民である新郎も知っており、二人の話に新郎はそれほど不信感を抱くこともなく耳を傾けてくれた。
「アリオスは何歳に見える? 18歳のムスメが居るように見えるかい?」
「……それは、僕も思っていました。若々しい方はいますが、お義父さんはどう見ても30歳に届くか届かないかです。二人は兄弟と言ってもおかしくはないくらいですから」
 死んだ時から変わっていない容姿。
 やはり、周囲からは浮いて見えているのは間違いはない。
「……私も娘が一人いる。自分のせいで娘に危害が及ぶとなれば……やり切れない、止めて欲しい、と同じ親としてそう思う。君には辛い事をさせるかもしれないが……どうか、力を貸してもらえないだろうか」
 アクセルの言葉に、新郎は酷く辛そうな顔をした。
 頭を下げるその姿に、新郎は首を静かに頷いた。
「僕に出来る事であれば……」
 アクセスは参列客やステラを離すことを提案したが、新郎はそれは厳しいと答える。
「犠牲者を出したくないのは僕もですが、貴方が言うように、もしステラが狂気に落ちているのであれば、その行為で彼女が逆上しかねません。ステラはこの式を楽しみにしていましたから、参列客が居ないと言うのは……難しいですね」
 機嫌を損ねるくらいなら良いが、それで逆に混乱を起こす場合もある。
 アクセルとイグナートは、その言葉に苦い思いを抱きながらも、「不審に思われない程度に誘導はする」との新郎の言葉に、あえて式を通常通りに終わらせることを決めた。



 鳴り響く鐘の音から始まり、楽しそうな笑い声が教会に響き渡ったのは、先刻の事だった。
 美しい新婦と、優しそうな新郎の晴れ姿。
 そして幼い頃に消息を絶っていた新婦の父による祝辞は、会場をよりいっそう盛り上げた。
 このまま、一緒に生きていけるなら感動的な話だろう。

 だが、それは決してありえぬ未来だ。
 アリオスは既に、死者に過ぎないのだから。

 イレギュラーズたちは、結婚式が恙なく終わったこの時を、任務遂行の時間とした。
 各々思うところはある。
「ミミはパパどころか、両親の顔すら知らないです。親を喪う哀しみも、よくはわからないですね。……だからでしょうか? 彼女にちっとも感情移入なんてできません、が、それでも、何でしょうね。神様、あの人に親を喪う辛さなんて、二度も与えずには済まなかった物でしょうか」
 『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)の声は僅かな寂しさを伴っていた。
 ミミのギフトの力でも、答が返ってくる事はなかった。
「わたくしには家族がおりませんので、縁の道理は解せませぬ。
然し、ステラ様がアリオス様を父としてお慕いする気持ちは理解致します。
だからこそ、わたくしはお二方の縁を断たねばなりません」
 『白樺のかすがひ』白嶺 絆楔(p3p007126) もまた、家族と言うものを知らなかった。
 人ではない彼女にとって、家族と言う存在は不思議なものではあるが、誰かを愛しく大切に思う心は理解できる。
 正しき理へと戻す事もまた、必要なのだ。
 『彷徨人』カンナ(p3p006830) は、冷静に、幸せを謳歌していた親子へと意識を向けた。
 気の毒ではある。
 しかし、この状況を見逃すことなどあり得はしない。
 式が終わり、参列客が外へと出てくるのを見て、『Schwert-elf』マリス・テラ(p3p002737) は歩を進める。
 本来であれば中でもう少し談話がある筈だったが、事前の情報で新郎が上手く客だけを外へ誘導するとアクセルたちから聞いていた為、全員が冷静に対処をしていた。
「狂気の元は絶つもの……仕方のない結末」
『サーカスの二の舞は面倒くせぇしな』
 テラが穏やかでぽつぽつと話し、それにマリスがやや粗野に言った。
 性格こそ反対だが、まさに今目的は寸分違わぬ同じものだ。


 キラリと、式場から漏れた反射した光を合図として、イレギュラーズは中へと突入した。
『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)が、教会内部から外へ出て行く参列客たちへと声を張り上げた。
「ローレットです! ここに魔種が潜んでいます! 直ちに教会から逃げてください!」
 その言葉に、僅かに教会内に残っていた参列客が困惑した様子で、幻を見た。
 しかし、幻が追い立てる為に、夢幻泡影を教会の天井に当てて、威嚇すると、皆はっとした様子で入り口から外へと逃げだした。
「早く逃げて下さい!」
「式を邪魔してごめんなさいね。……この教会に魔種が逃げ込んだって情報があったの。危ないから、順に外に避難して頂戴」
 外界に被害を及ばせないよう、教会の扉を閉めながら、 『調香師』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)もまた参列客へと語り掛けた。
「あとは任せて」
 ここは今から辛い戦場になる。


 新郎は、イグナートの事前の打ち合わせで、イグナートに吹き飛ばされて、気絶したふりをしている。
(下手に動かれると厄介だからな、すまない)
 心の中でイグナートが詫びる。
 前衛に立ったミミがアリオスを牽制するように向き合うと同時、カンナがステラへと対峙する。
「貴方たち、なんなの!?」
「突然のご無礼失礼。あの者は狂気を撒き散らします故――避難を」
「……っ、パパには何もさせないわ!」
 カンナの言葉を最後まで聞く前に、ステラが忌々し気に遠術で攻撃をしかけてくる。
「……ま、聞かないでしょうね」
 予想はしていたが、やはりステラから見ればイレギュラーズは殺し屋みたいな存在なのだろう。
「ステラ!」
 慌てて、助けに入ろうとするアリオスを、ミミの悪漢撃退ボムが炸裂し止める。
 一瞬の隙をついて、幻の夢幻泡影が動きを止めるために放たれ、アリオスの動きが一瞬止まった。
「ルーシー! 切り裂きなさい!」
 ジルーシャの声と共に、風の刃がアリオスを襲う。
「くっ……!」
「パパ!」
 駆け寄ろうとするステラを、カンナが許さない。
「花嫁の父親を蘇らせるなんて、気が効いてますね、とでも言うと思ってました?」
 流麗な眼差しでアリオスを見て、幻が冷淡に言った。
「わ、たしは……!」
 アリオスは戸惑いながらも、その器から殺気を放っている。
 器に植え付けられた防衛本能が、穏やかな性格さえも凌駕し、自身に牙を向くものへと攻撃をしかける。
「巻き込まれない様に、ウマク避けてくれ!」
 イグナートがアリオスの攻撃を受け流しながら、己の渾身の力を集中させた右腕で、強烈な一撃を叩きこんだ。
 同時、テラが魔術と格闘を織り交ぜた一撃を繰り出し、意表を突かれたアリオスは後ろへと大きく吹き飛ばされた。
 カンナによって誘導されたステラと、アリオスの間にはかなり距離が出来ている。
「私の役目は貴方の抑えです」
 忌々しそうに睨むステラを、冷静にいなしながら、カンナは周囲への警戒も忘れない。
 立ち上がったアリオスは、ステラとカンナの様子を見て、瞬時に弓をつがえ放った。
 それに気づいた絆楔が、衝術で弓を吹き飛ばした。
「ステラ様には近づけさせません。……結果、たとえステラ様から恨まれたとしても、これから起こる最悪な未来を、ステラ様に見せる事は許しません」 
 今は、ステラに危害を加えないアリオスも、いつかはステラを害する存在と化すのだ。
 そんな姿を見せるわけにはいかない。
「貴方も見せたくない筈」
 毒を生み出した絆楔は、そう呟きアリオスへと向かって行く。
 ミミのボムが炸裂し、イグナートの格闘をアリオスが寸でのところでかわしながら、弓を連射する。
 数の上では、イレギュラーズが上だったが、アリオスの殺気は異常ともいえるほどだった。
 外見上は穏やかなのだ。
 むしろ、戸惑いこそ見えるその表情は、本当は戦いたくないのではないかと思わせるものだ。
「人形だから、抗えない」
『はっ! 胸糞悪い話だなぁ?』
 テラとマリスは、やや不快そうに言った。
 ステラが懸命にアリオスへと手を伸ばすが、カンナの威嚇術の前には成すすべもなかった。
 元よりステラは、戦闘員ではないのだから仕方がない。
 がむしゃらに戦うアリオスの一撃は、意外にも重く、イレギュラーズたちを傷つける。
 しかし、今回のメンバーは回復にも厚く、傷は順調に塞がっていた。
 反対に、ステラはアリオスへと近づく事が出来ず、結果アリオスは一人で戦っているようなものだった。
 そうなれば、徐々に押されていくのは明白だ。
「アンタはそれでいいの? このまま、ステラにも周りにも狂気を振り撒いて……それで“父親”のアンタは幸せなの?」
 負けが濃厚になりながらも、弓を器用に連射するアリオスの攻撃を器用にかわしながら、ジルージャが言った。
 ストラディバリウスから奏でられる旋律と共に、風精シルフのルーシーが生み出した空気の刃がアリオスへと放たれる。
 アリオスがどんなに止めたいと思っても、思い通りに動かないのは明白だったが、それでもその言葉は僅かながらも彼の動きに影響を与えている。
「子は親を離れるもの、役目を終えた親はそれを見守るのみでございます」
 絆楔の毒撃がアリオスの動きを鈍らせる。
「門出に立ち会えた事、貴方が戻れぬ身であることをステラ様に伝えられた事。それで十分ではありませんか」
 傷つき、膝をついたアリオスへ絆楔が語り掛ける。
「パパ!」
 アリオスから流れる血に、ステラが悲鳴をあげて駆け寄ろうとするのを、カンナが阻む。
「許されぬ生なのですよ、これは」
「邪魔しないで! ああ、あんなに血がっ!」
 カンナな言葉を煩わしそうに、ステラがぎこちない衝術を放つが、カンナは軽やかに回避した。
 その上でステラの行動を完封した。
「君は既に死者だ。死んだ人間は決して生き返らない。君の行動が、今ステラを狂わせている」
 傷を負ったミミの手当てをしながら、アクセルが語り掛ける。
 その言葉に、苦しそうな表情を浮かべたのはアリオスだった。
(パパ、と明るい声で抱き着いてくれたあの日々を忘れた事などなかった。記憶も想いも、此処にあるのに。それでもこの器は止まることは無い。たとえ、それが愛する者を不幸にすると分かっていても)
 動かない身体を、アリオスは奮い立たせるようにして立ち上がる。
 ミミが聖印を硬く握りしめながらも、再びアリオスを抑えるべく前線へと飛び出した。
 幻が、再びアリオスの足を狙い、夢幻泡影を放つと、今度はアリオスは避ける事が出来なかった。
 重ねられたダメージは、アリオスの身体を壊して行く。
 ステラは懸命に手を伸ばすが、もはやたとえ彼女がたどり着いたとしても、この戦局を覆すことが不可能な事は、誰でもわかるくらいに明白だった。
「せめて、ステラに苦しむ姿を見せないように、喉元に喰らいつかせて、一撃で」
 ジルーシャは、己のブラックドッグであるリドルへと告げる。
「もう、アンタも眠りたいはずよ、アリオス」
 悩む相手に寄り添い、その人にあった香りを生み出す調香師であるジルーシャには、アリオスが僅かに動揺したのを見逃さない。
 ふらつく身体で懸命にブラックドッグを振り払おうと暴れるアリオスだったが、イグナートの一撃で後ろへと大きく吹っ飛んだ。
 いつしか、周囲は静まり返っていた。
 もはや、アリオスにこの場に立ち続ける力はない。
「離して!」
 ついにカンナによって捕縛されたステラが、振り払おうと力を込めるが、カンナを手伝ったテラとマリスの協力によって動けない状態になっている。
「貴方は幸せになってもいい。だけどあの方と一緒であってはならない」
 カンナがそう語り掛けると、よりいっそう暴れようとするステラだが、それでもアリオスへはたどり着く事は叶わない。
「アリオスが、望まないことぐらい解るはず」
 ぽつ、とテラが言うと、ステラが綺麗な髪を振り乱す。
「貴方に何が分かるの! やっと帰ってきたのよ。これから、ずっと一緒なの……見逃してよ……っ。いいじゃない、一人くらい。だって、貴方たちが来なかったら暴れなかったんでしょう?」
 その言葉に、テラがゆるりと首を左右へと振った。
「結婚後すぐに殺される人形を見れば、貴方は父親を二度殺されたと思うのでしょうね。その気持ちは如何ばかりか……。ですが、例え悪だと思われようと虚実の父親など悪夢にすぎないのです。現実を見なさい」
 幻は厳しく言った。
 目の前の人形は父親ではないのだと。
「ミミには親はいませんが、孤児院の弟や妹がいます。あの子たちを喪ったら、ミミも悲しいですし、大切な人が傷つくのは辛いと思います。でも、こんな風に、アリオスさんはなりたかったと思いますか?」
 アリオスを牽制しながらも、ミミがすっとアリオスを示した。
「大切な人を狂わせるなんて事、させちゃいけない」
 ジルーシャが続けて言った。
 ステラは、昔を思い出しながら、瞳を潤ませた。
 穏やかで優しかった父。
 依頼でも人を傷つけるのは嫌だな、と悲しそうに言っていた。
「今があり得ないことぐらい……アリオス本人には解るはず」
 テラの言葉に、絆楔も頷く。
「残酷ですが、私たちが来なくても、アリオスさんはいずれ誰かを傷つけていたでしょう。もしかすると、ステラ様。貴方でさえも」
 絆楔の言葉に、ステラははっとした様子でアリオスを見つめた。
「父親の立場から言わせてもらう。私はあまり饒舌ではないが、もしも私がアリオスだったのならば、きっと止めてほしいと思っただろう。……だが、可能ならば娘の手を汚させたくないとも思う」
 アクセルの、穏やだが重い声音。
「嫌な言い方ですが、私たちがいて良かったと思いますよ」
 カンナの言葉は、ステラへか、それともアリオスへか。
 可愛らしい顔に似合わず、淡々とした声は不思議な響きがあった。
 互いに見つめ合う、親子。
 長い沈黙の後、アリオスが小さく掠れた声で呟いた。

―眠りたい、と。

 その父の言葉に、ステラは抵抗を止めた。


「せめて、悪くないユメだったことにして終わらせよう。それくらいは出来るさ!」
 イグナートが努めて明るく言った。
「それに、一回目はさようならが言えなかったけれど、今度は言えるだろう?」
 生死不明で遺体も戻ってこなかった父親。
 今度は、見送ることができる。
 目覚めた新郎が、ステラの肩を抱き寄せて頭を撫でながら口を開く。
「苦しませないで上げてください」
 しばし、ステラと父親は黙って互いに見つめ合う。
 これが永遠の別れなのだと、今ステラは実感していた。
「さようなら、パパ」
 それでも、この時間は永遠ではない。
 苦し気な声で言うステラは、新郎の支えでは何とか立っていることが出来るようだった。
 アリオスが攻撃をしないよう、イレギュラーズが監視する中、ジルーシャの命で、リドルが再び狙いをつけて、その首筋を食い破った。
 ゆっくりと、その身体が地面へと倒れこんだ。
 身体が淡く発光し、崩れていく様子をステラが泣き顔で見つめる。
 辛くても、目を閉じてしまえば、もう父の姿を見る事は出来ない事くらい、ステラも分かっていたから。
 光の粒子となって消える寸前、最後の力を振り絞ったのか、アリオスは確かに微笑んだ。
――私はお前の幸せだけを祈っている。どこにいても、永遠に。愛している、これからもずっと。
 最後の言葉は、光と共に空の彼方へと消えた。

 ステラの慟哭が、教会の内部に大きく響く。
 その場に崩れ落ちる様を見て、さすがのイレギュラーズの面々も僅かに身じろいだが。
「あとは彼の仕事」
『まあ第三者の出る幕ではねぇな』
テラとマリスの言葉に、ただ二人を見守る事に決めたのだった。

 泣きはらした後、ステラはきつい眼差しでイレギュラーズを睨みつけた。
 イレギュラーズが悪い訳ではない事は分かっていたが、今のステラには気を奮い立たせる思いが必要だった。
「人形ごっこは楽しかったですか? でも遊びは終わりです。現実を見なさい」
 幻の言葉に、イグナートとジルージャがぎょっとした表情を浮かべた。
 他の面々も互いに顔を見合わせた。
 けれど、幻の次の言葉に、皆も納得した様子で表情を和らげる。
「憎かったらローレットに連絡なさい。いつでも相手しましょう」
 下手な慰めなど不要。
 強い思いは、どんなものでも明日への糧になる。
 優しく慰めるだけが、優しさではない。

 それに、きっとステラは憎しみで狂う事はないだろう。
 隣には、ステラを愛してくれるたった一人の人が居るのだから。
 悲しむステラを、新郎が慰めながら抱きしめるのを見て、面々は確信してた。
 新郎が、父親の分もステラを守るだろう、と。

 それに……。
 アクセルは、教会のステンドグラスへと視線をやりながら思いを馳せる。

――きっと、アリオスも彼女をずっと見守っている。

 砕けてしまった硝子細工も、ステラの心の中では永遠にに残り続ける。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
完全復帰後の初シナリオで少し緊張しましたが、楽しんで貰えていたら幸いです。
ステラは、今度こそ父親にさようならを言えました。
別れは辛いですが、これからは、夫である青年がステラを守っていきます。

本当にありがとうございました!

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